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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第十一話 祝詞の考察……はそこそこに


 私たちがこの地に迎え入れられて、ずいぶん経ちました。

 行き場を無くしていた私たちは、貴方のおかげで安住の地を得ました。

 我々イリスの民は、ここに感謝を申し上げます。


 ただ、独立できるような、新たな世界も見つけて頂きました。

 我々は、自らの力で切り開く事の出来る、これらの新しい未来へと旅立ちます。

 この素晴らしい機会、無駄にせぬ事を、我々は心に誓います。


 また、新天地には向かわず、一部の民はこの地に残ることになりました。

 姿形が現地の民に似通った者ばかりですので、やがてこの地に溶け込んでいくことでしょう。

 彼らのことも、なにとぞよろしくお願い致します。


 そして、もし旅だった者達が力及ばず、道に迷ってしまったならば。

 再び力をお貸し頂けるようにして頂けたようで、ありがとうございます。

 貴方が言うように、いったん通路が閉じ、再び繋がるその時まで。

 我々は、鋭気を養います。そしてここで得た力は、いずれ大きな気持ちとなって。

 貴方へと、還すことが出来るでしょう。


 最後に。

 私たちが出会って最初にした約束通り、貴方へ名前を贈ります。

 もう消えて無くなってしまった、我々の世界の、そして故郷の名前を。

 願わくば、この名前、この絆。末永く守って頂けると、嬉しいです。

 

 それでは、さようなら。優しい人。

 いずれまた、会う日まで。


 ――――。


 ユキちゃんが読み上げた祝詞っぽいやつは、こんな内容だった。


「何だか、『イリス』っていう世界が丸ごと……消滅したっぽいね」

「あ、あわわわわ……」


 祝詞を読み上げたユキちゃん、あわあわしている。

 というか、思ったよりおおごとな内容だった。

 『イリス』という世界が丸ごと消えて、その避難民をうちが何とかした。

 そんなところなのかな?


 その消えた世界が、地域なのか、国家なのか、惑星なのか。

 それとも恒星系なのか、まさか宇宙なのか。

 ……詳しいことは、分からない。

 ただまあ、とんでもない事が起きたようだ。


「いまいち、物事のスケールがわからんなあ」

「これって、別れの挨拶よね?」

「なんで、わざわざ別世界に送り出したんだろうな?」


 親父、お袋、爺ちゃんがそれぞれ感想を言う。

 三者三様だけど、どの感想も頷ける内容だね。


 特に、爺ちゃんの意見が……なんだか気になった。

 この「貴方」という人は、どうも避難民に自立して欲しかったみたいだ。

 そしてそれは、この世界じゃあダメだったみたいで。

 ……きっとなにか、理由があったんだろうな。


「しかし、名前だけ貰って、それで終わりだったのか?」


 そして高橋さんは、報酬について首を傾げていた。

 名前が欲しいと言い出したのは、「貴方」側らしい。

 正直それで良いのかと思うけど、一体どう言う理由なのだろうか。


「……名前は、大事さね」


 高橋さんの意見については、加茂井さんのお婆ちゃんがぽつりとこぼした。

 確かにそうなんだけど……。

 まあ、無欲だったから、贈り物はそれだけで良かったのか。

 それとも、名前を貰うことが何か他に……意味があったのか。

 正直これだけではわからない。そう言っておくか。


「何で名前が欲しかったのかは、これだと正直分からないね」

「まあ、大志んちがずっと受け継いでいるあたり、大事にはしているみたいだな」

「まあね。当て字にしても、良い名前貰ったなあって思うよ」


 名前についてあまり突っ込む気はなかったのか、高橋さんもあっさりと考察を終了したね。

 ただ高橋さんの言うとおり、ずっと受け継いで来ている。

 大事にしてきた証拠が、ちゃんとここにあるね。

 

「名前は良いとしても、そもそも『貴方』って、一体誰なんでしょうね?」

「初代さんじゃないの?」

「まあ、とんでもない力があったようだから、つじつまは合うけど……」


 お袋が祝詞を送られた主、つまり「貴方」という人物について考察を始めた。

 大勢の異世界人を助けて、さらに別の異世界へと送る。

 こんなことが出来るのは、初代さん以外にはいないと思う。

 この領域を作り、異世界人を迎える仕組みを作った。

 そんなことが出来たのは、初代さんだけだ。


「『門』を繋げて異世界人を助けるようにしたみたいだし、ほぼ間違いないと思うよ」

「そうね……」


 お袋は何かひっかかっているようだけど、否定する材料も無い。

 今のところは、これが限界だろうね。


「そんなやべえ力もった初代さんって、一体何者なんだ?」


 高橋さんがうちの初代さんについて、ヤバイ人扱いしている。

 まあ、俺もそこは同意だけど。

 ただ、初代さんについて一つ分かっていることはあるね。


「一つ言えるのは、遺跡の作りを見るとガテン系だと思う」

「間違いないな」

「そうに違いない」


 親父と爺ちゃん、即答だ。初代さんは、間違いなくガテン系だと思う。


「あんたらが言うなって感じ」

「そうよねえ」

「ですよね」


 そしてお袋と婆ちゃん、さらにユキちゃんまで「お前が言うな」的な意見らしい。

 入守家のガテン系ノリに付き合わされる、外部の人ならではの意見だ。

 みなさん、ほんとうにごめんなさい……。


 とまあ、祭事そっちのけで祝詞について色々語ったけど。

 そろそろ本来の目的に戻したいかなと思う。

 このまま議論していても、他のみなさんは置いてけぼりだからね。


「みんな、そろそろ祭事に戻ろうよ。お供え物をして、祭事を終わらせよう」

(おそなえもの?)


 ああいや、神様のお供え物じゃなくて、うちのご先祖様へのお供え物でして。

 神様へは、この後たっぷりお供えしますから。


「そうね。古代文字の翻訳は、これからいくらでも出来るもの」

「遺跡にある文字も同じ言語ですから、後日詳しく調べましょう」


 お袋とユキちゃんが同意して、ささっと祭事モードへと戻ってくれた。

 あそうそう、後から検証するにしても、神様へはお願いしとかないとね。


「というわけで神様、またいずれ、翻訳をして頂けますでしょうか?」

(よしなに~)

「いいかんじに、してくれるっぽいです~」


 謎の声からすると、どうやらよしなにしてくれるらしい。

 ハナちゃんも神輿を抱えたまま、キャッキャと通訳してくれる。

 二人とも、ありがとうだね。


 それじゃあ話はまとまったところで、祭事を再開だ。


「というわけで、小難しいことはこの辺で。あとはお供え物をして、お花見に入りましょう」

「やっとこです~」


 ハナちゃんお腹をきゅるると鳴らして、ほっとした表情だ。

 いやはや、脱線しまくりでもうしわけない。

 これ以上待たせたらいけないから、きちっとお供えして祭事を終わらせよう。


「それでは祭事の締めくくり、お供え物を供えます」

「こちらをどうぞ」


 ぱっと祭事モードに移って、締めくくりの行事を宣言する。

 ユキちゃんがさっとお供え物を用意して、手渡してくれた。

 お供え物は、大皿に盛られた……素朴だけど多種多様な料理だ。

 懐石料理みたいに多品目の献立で、ちまちま食べるやつだね。

 それと、親父や爺ちゃんと飲み比べして選んだ、何種類かのお酒。

 これが、今回のお供え物全部だ。


「あや~、おいしそうなおりょうりです~」

(おそなえもの~)


 そのお供え物を見て、ハナちゃんじゅるり。

 神輿もくるくるまわってキャッキャしている。

 これはご先祖様専用のお供え物じゃあないから、お花見でも出てくる。

 ちゃんと後で食べられるって事を、教えておこう。


「これはお花見でも出すから、楽しみにしててね」

「わーい!」

(やたー!)


 二人とも、さらにキャッキャと大はしゃぎになった。

 もうちょっとお待ち下さいだ。


 ――さて、それでは祭事の締めくくり、お供え物をしましょう!


「じゃ、ちょっと行ってくるね」

「いってらっしゃいです~」

「行ってらっしゃい」


 ハナちゃんとユキちゃんに見送られて、遺跡に入る。

 そして入り口付近の小部屋に入り、石っぽいやつで出来た台座へと赴く。

 この台座にお供え物を置けば、それで祭事は終了だ。

 ここにも古代文字が描かれているけど、いずれこれも解読しよう。

 今はまず、祭事をこなさないとね。


 ――では、ご先祖様へお供えだ。


「それではご先祖様、お供え物をお受け取り下さい」


 料理を台座において、ご先祖様へと感謝を述べる。

 これで祭事は終了。


 そして次は――お花見だ!

 みんなでぱーっと、騒ごうじゃないか!



 ◇



「というわけで、ようやくお花見です」

「「「わーい!」」」


 遺跡から出て、祭事は終了。次はお花見フェーズへと移行だ。

 気分を出すために、ちょろっと挨拶をしとこう。


「みなさん、この後からは、お花を見ながら思う存分飲んで食べて――騒いで下さい!」

「それはもう、お任せ下さい!」

「のむぞ~!」

「くんせい、たくさんもってきたのだ」


 みんな待ちに待っていたようで、とっても嬉しそうだ。

 ヤナさん、マッチョさん、おっちゃんエルフは、さっそく酒瓶を取り出している。

 ガンガン飲んで下さいだね。


(ごうかな、おりょうり~)


 ……とその前に。まずは、神様にお供えしよう。

 古代言語の翻訳のお礼もあるから、どどんとお供えしないとね!


「では神様、翻訳のお礼も兼ねて、ごちそうたくさんお供えします」

「こちら全部、神様へのお供え物ですよ」

「かみさま、どうぞです~!」

(やたー!)


 テーブルに並べられた、神様用のお供え物であるたくさんのお料理。

 あとは、何本かのお酒だ。


(ごちそうたくさん~!)


 そして早速、お料理の上でくるくる回り、まずはお酒をあぶだくしょん。

 ピカッと光って、大吟醸が一升瓶ごと消える。

 ……いきなりそんな強いお酒から始めて、大丈夫かな?


(きくー!)


 ――ああ! 神輿が墜落した!



 ◇



(ぼちぼちのみます~)

「みこし、ぐんにゃりです~」


 開始直後に神輿泥酔事件はあったものの、花見は問題なく開始だ。

 そう、何も問題は起きていない。わりと平常運転だ。

 とはいえ放っておくわけにはいかないので、酔いが覚めるまで抱えておこう。


(おせわになります~)


 ……やっぱり、子ネコみたいに柔らかくなってるな。


 ――さて、神輿はこれで良いとして。

 俺もどんちゃん騒ぎするまえに、みんなの様子をまず確認しておかないとね。

 ちょろっと巡回しよう。


「それじゃあ自分は、ちょっとみんなを見て回るね」

「ハナもいくです~」

「あ、私もお供します」


 ハナちゃんとユキちゃんも、お手伝いしてくれるようだ。

 三人でのんびり、巡回と行きましょうか。


「二人ともありがとう。じゃあ、行こうか」

「あい~」

「行きましょう」


 まず最初は、しっぽちゃんたちだ。

 不慣れな異世界での、初めてのお祭りだ。勝手が分からないところもあるだろう。

 この辺は気を遣ってあげないとね。

 というわけで、しっぽちゃんの集団の所へと足を運ぶ。


「わきゃ~! たまごがたくさんあるさ~!」

「ごちそうさ~!」

「おみそも、こんなにあるさ~!」

「ねばねばりょうり、たくさんさ~」


 しっぽちゃんたちは、色んな料理や食材を囲んで、わきゃわきゃと大はしゃぎしていた。

 ただ、まだ手をつけてはいない。

 本当に食べて良いのか、様子をうかがっている感があるね。

 そんな必要はないので、遠慮せずにどんどん食べて貰いましょう!


「みんな、遠慮しないで食べてね。たくさんあるから」

「ありがとうさ~」

「どれからたべていいか、まようさ~」

「よりどりみどりさ~」


 しっぽちゃんたちに話しかけると、ぱたぱたとしっぽを振ってこちらを見上げてくる。

 品目が多すぎて、目移りし始めたようだ。

 ……じゃあまずは、素朴に行こう。

 ご飯と味噌汁、それにお漬け物と納豆とかはどうかな?


「この辺の地域では、こんな組み合わせの朝ご飯とかが良くあるよ」


 てきぱきとご飯をよそい、味噌汁と納豆を準備する。

 そこにお漬け物を添えれば、簡単なにっぽんの朝ご飯が出来上がりだ。

 お祭りで出す料理ではないかもしれないけど、別に良いよね。

 美味しければ、それで良いのだ。


「このねばねば豆、こっちでは納豆って言ってるけど、ここに醤油を垂らしてかき混ぜて、このご飯と一緒に食べるんだ」


 さっそく実演してあげよう。

 まずは醤油を納豆に垂らして、良くかき混ぜる。

 ほどよい粘りけが出たところで、一口分をご飯にのせる。


 ……納豆をそのままご飯に全部かけても良いのだけど、俺は一口分ずつご飯にのせる派だ。

 こうすれば、食べていくうちに茶碗の中でご飯と納豆が混ざらないし、茶碗に粘りけもあまり付かない。

 多少手間だけど、わりとこの食べ方が性に合っている。


 とまあ、それはそれとして。

 さっそく一口。


 納豆独特の風味がまず香り、すぐさま醤油の塩気と風味がやってくる。

 噛んでいくうちに、醤油と納豆の持つ旨味がそれぞれを引き立て、素朴だけど力強い味となって口に広がる。

 この力強い味をご飯が受け止め、ご飯の旨味と納豆の旨味、そして醤油の旨味が合わさり、完成する。

 納豆とご飯、これは……目が覚める味、といったら良いのだろうか。

 朝に食べると、しゃきっと目が覚める。そんなはっきりした味だ。


 つぎに味噌汁をすすり、口の中を少々リセットする。

 カナさんお得意の、野菜たっぷり味噌汁だね。

 しゃきしゃき野菜とほくほく野菜が組み合わさっていて、ひと噛みするごとに心地よい食感を楽しめる。

 味噌と出汁の風味、そして野菜の食感と旨味が調和した、お母さんの味。

 ほっとする一時だ。


 そして最後に、お漬け物。今回は柴漬(しばづ)けを選択だ。

 この柴漬けの酸味と塩気は、わずかに残る納豆の風味を消し去ってくれて。

 また次のご飯と納豆のローテーションへと、飽きさせずに移らせてくれる。

 いくらでも食べられちゃう、魔のローテーションだ。


 ――――。


 ……思わず、夢中になって食べてしまった。

 祭事でお腹が空いていたからね。しょうがないよね。


「わ、わきゃ~、おいしそうさ~」

「か、かあちゃ、おなかへったさ~」


 そんな俺の食べっぷりを見て、しっぽちゃんたちが虚ろな目に。

 辛抱たまらないみたいだね。

 というか、我慢しなくて良いのに。


「はいみんな、こんな風にして食べるのがお勧めだよ。ほら、どうぞ」


 せっかくなので、身長三十センチくらいの、ちいさな子の前に配膳してあげる。

 その子は、目をキラキラさせてにっぽんの朝食を見ているね。


「ほら、食べて良いよ」

「わきゃ~! いただきますさ~!」


 ちいさな子は、もう我慢できないといった感じで食べ始める。


「……」


 そっからもう、無言で俺と同じローテーションを開始した。

 どうやら、気に入って頂けたようだね。

 良かった良かった。


「う、うちもたべるさ~!」

「わきゃ~! うちもさ~!」

「わきゃ~、わきゃ~」


 その様子を見ていた他のみんなも、どこからか銀色の食器を取り出してよそい始めた。

 しっぽをぱたぱたふりすぎて、となりの人にパチパチあたっているけど……。

 みんな気にはしていないみたいだ。

 しばらく見守ってあげよう。


「あや~……タイシ、これそんなにおいしいです?」


 そしてハナちゃんも、納豆ご飯に興味を持ったご様子。

 こわごわと、しかし興味深そうな目で納豆を見ているね。

 しかしまあ……この独特な発酵食品、慣れてないとわりとキツい。


 小学校の頃、同じクラスにいた関西人の転校生君も、給食の納豆はキツそうだった。

 まあ、転校生君の分は俺が貰って食べたんだけど。

 おかずが倍になって俺は満足、転校生君も助かる。

 なかなか良き関係だったなあ。


 まあそんな思い出はさておき、ハナちゃんは納豆を食べられるかな?

 でも最初の一口で苦手意識を持ってしまうと……後々に響くよね。

 それで食べられない食材になると困るから、どうしようかな……。


「あや~……」


 お悩み中のハナちゃんだけど、ここは慎重を期する。

 ちょっと思いつかないので、細やかな献立を考えられるユキちゃんに相談だ。


「ユキちゃん、どうしようか?」

「納豆の臭みを消してしまいましょう。こうしてこうして……」


 ぱぱぱっと、ユキちゃんが細工を施す。

 醤油麹(しょうゆこうじ)を小皿に盛って、砂糖少々とみりん、そして顆粒(かりゅう)だしも少々振りかける。

 それらを混ぜ合わせて、甘めのタレをすぐさま作ってしまった。

 出汁が香り、砂糖とみりんで甘めの味付け。そこに醤油麹の風味が加わった、豪華納豆タレの出来上がりだね。


「あとは、刻みネギをちょっと入れて、うずらの卵も入れて……」

「あややや! たまごいれちゃうです!?」

「こうすると、味がまろやかになるの」

「あや~……」


 エルフにとってのごちそうである卵が、キツめの食材に混ぜられてしまって。

 ユキちゃんの細工を、不安そうな目でみるハナちゃんだ。

 でもこれ、納豆には定番だよね。

 美味しくなるのが分かってる俺は、安心して見ていられる。


「納豆の臭みが苦手な場合は、あんまり納豆をかき混ぜない方が良いですね」

「混ぜると、風味が濃くなるからね」


 そうして、数回かき混ぜて完成だ。

 一手間加えた、俺からするとかなり美味しそうなおかずが完成だね。


「ほらハナちゃん、一口どうぞ。はい、あ~ん」

「あ、あや~……」


 スプーンにご飯をすくって、納豆をのせて。

 ユキちゃん、ハナちゃんに食べさせてあげるみたいだね。

 ハナちゃんも、こわごわと口を開いて、ぱくり。

 そのまま、もぎゅもぎゅと口を動かして――。


「……――! あや! いけるです~! これならおいしくたべられるです~!」


 お口に合ったようで、キャッキャとはしゃぎ始めた。

 良かった、ハナちゃんも納豆、食べられたね。

 エルフ耳をぴこぴこさせて、ご機嫌だ。


「はい、じゃあもう一口ね」

「あい~!」


 最初のハードルを越えたので、ハナちゃんためらいなく二口目、三口目。

 ユキちゃんに食べさせて貰って、にっこにこだね。


「わ、わきゃ~……。とんでもなくごうかなやつ、つくってるさ~」

「かあちゃ、あれもたべたいさ~」

「たまごをいれちゃうとか、すごいさ~……」


 そんな、一手間加わった納豆を見て……しっぽちゃんたちは、かなり目が虚ろになっていた。

 納豆ひとつにここまで手間をかけたことは、なかったみたいだね。

 ……ふふふ、もちろんこれも食べて貰いますよ。

 思う存分、ちたまにっぽん人の納豆へのこだわり、味わって貰いましょう!


「みんなも、もちろん食べて良いよ。ほらどうぞ、これなんかもどうかな?」

「わきゃ~!」

「かあちゃ~! すごいのきたさ~!」

「おまつり、さいこうさ~!」


 さてさて、まだお花見は始まったばかり。

 というか桜をまだ楽しんでいないんだけど、まあまずは花より団子だ。

 今はまず、しっぽちゃんたちに色々食べて貰おう。


 ふふふ、まだまだごちそうあるからね。

 時間もたっぷりあるから、慌てず急がず、祭りをお楽しみ下さいだ。


「ちなみにお味噌汁も、ねばねばきのこをいれたものがありますよ。なめこ汁って言います」

「わきゃ~!」

「ねばねば、だいすきさ~!」

「わきゃ~! わきゃ~!」


 あ、ユキちゃんが煽ってる煽ってる。

 納豆が好きなら、ほかのねばねば系も好きなはずだからね。

 というか、こどもしっぽちゃんたちがユキちゃんに登り始めた。


「あ、ちょっとまってね。みんなに配るから」

「わきゃ~! わきゃ~!」

「あ、ああああ」


 ……どうやらユキちゃん、煽りすぎたようだ。

 こどもしっぽちゃんを全身に装備したユキちゃん、ぷるぷるしながら配膳だね。

 頑張って頂きたい。


「あや~……ユキ、たいへんそうです~」

「そだね」


 納豆ご飯をもぐもぐ食べるハナちゃんと一緒に、わたわたするユキちゃんを眺める。

 でもまあ、ユキちゃんの顔はなんだかんだ言って、楽しそうだ。

 しばらくの間、このほのぼのとした光景を楽しもう。


「わきゃ~!」


 こうしてお花見の前半は、しっぽちゃんたちのはしゃぐ声があふれて。

 さい先の良い、出だしとなったのだった。

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