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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二章  活動開始
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第七話 この温泉の効能は

 

 百キロの小麦粉と、簡単に栽培できる野菜の種数種。それと百円均一で買ってきた、世帯分の園芸用品を車に積んで村に向かう。昼前には着くだろう。


 時間的に道が空いていて、一時間も経たずに村に到着した。広場に車を乗り入れると、エルフ達がわいわいと洗濯物を干しているのが遠巻きに見えた。

 お、どこかで洗濯したんだな。彼らも自主的にいろいろ行動しているようだ。彼らも俺が来た事に気づいたようだ。手を振っている。


「タイシ! おはよ~です~」


 車から降りると、ハナちゃんが挨拶しながら、てててっと駆け足でやって来る。


「おはようハナちゃん。元気してた?」

「げんきしてたです~」


 そうやってハナちゃんと朝の挨拶をしている間に、他のエルフ達も集まって来た。


「タイシさん、おはようございます」

「おはようございます」


 ヤナさん始め、エルフ達も挨拶してきた。なんだか皆、みょうに肌がつやつやしている。元気が出てきたということなのだろうか。とりあえず声をかけてみようか。


「お早うございます。皆さん洗濯をされたのですか?」

「ええ、せんたくできそうなみずばがありましたので、みんなであさからせんたくをしたのです。ほんとうは、きのうするよていだったのですが……」


 ヤナさんが、苦笑いと共に言う。

 そうか、そういう衛生環境を整えるのも必要だったな。食料調達のことで頭が一杯だったから、気づかなかった。でも、自分たちで探し当てたのか。それは良いことだ。


「それはそれは。水場は幾つかありますので、あらかじめ教えておけば良かったですね」


 ちょっと考えが足りなかったかな、と俺が思っていると、ヤナさんは頭をブンブン横に振って言った。


「いえいえ、タイシさんは、タイシさんしかできないことを、がんばってやっております。わたしたちにできることは、わたしたちがなんとかしないといけません」


 俺はこの言葉を聞いて、嬉しくなった。俺に頼るだけではなく、自分たちでも何とかしようと努力しているのだ。

 環境を良くしようと行動し始めたという事は、心に余裕が出来てきたのだと思う。食べるためにギリギリの生活をしていた場合、そこまで気を回す余裕は出てこない。

 これは、その段階を脱したということで、喜ぶべきことだ。


 そしてこれは、エルフ達が俺を信用してくれた、という事でもあるんじゃないだろうか。

 また食料を持ってくると言って帰った俺を信じてくれたから、食料探し以外の事に手を伸ばそうと思ったのでは。

 そうだったら嬉しいな。


 まあ何にせよ、彼らは自立しようと動いている。任せられるところは任せてみよう。

 失敗したって、上手くいかなくたって良い。出来るようになるまで、続ければいいだけなのだから。


「それは大変素晴らしいことです。何かわからないことがありましたら、遠慮なく聞いていただければ」

「そのときは、おねがいいたします」


 俺とヤナさんが談笑していると、ハナちゃんがヤナさんのズボンのすそをクイクイと引っ張っている。


「ハナ、どうしたんだい?」

「あのいけのこと、きくですよ」


 あの池? 池ならいくつかあるが、どれの事だろうか。

 

 俺が知っている池のいくつかを考えていると、ヤナさんが思い出した、という顔をして聞いてきた。


「むらよりちょっとしたのあたりにある、おゆがわいているいずみのこと、なにかしってます?」


 お湯が沸いている泉? あ! あの温泉の事かな?


 俺は大昔に掘り当てて以来、ずっと受け継がれてきた温泉の事を思い浮かべた。

 江戸時代位に来た客が、先祖と一緒に掘り当てたと聞いている。それ以降、あの温泉はとても役に立ち、村の重要施設となっている。

 ただし、維持管理が超大変なので、客が来ていない時は程々に管理していて、ついぞ意識の外にあった。一人で草刈りと風呂洗いをすると丸一日潰れる為、考え無いようにしていた、とも言う。


「あ~あれですか。凄いですね。あの温泉、自力で見つけたんですか?」

「ええ、ハナがたんけんをしていてみつけたそうです」

「ハナちゃん凄いね~」


 なでなで。


 思わず撫でてしまった。


「えへへ」


 ハナちゃんが見つけたのか。道の草刈りもしてないしで、あの脇道は普通見つけられないと思う。

 ひとしきり撫でられて満足したハナちゃんが聞いてきた。


「あのいけ、おんせんっていうですか?」


 温泉って言う言葉が無かったのかな? とりあえず疑問に答えてあげよう。


「うん。あれは温泉っていって、温かい泉って意味でそのまんまだよ」

「そのまんまですね」

「わかりやすいです~」


 俺とヤナさんハナちゃんの話に、周囲のエルフ達も興味を持って近づいてきた。


「おんせんっていうのか」

「あれはいいわ~」

「おゆがわいちゃうってふしぎ」


 ほんわかした顔で温泉について語る、エルフさん達。そうか、温泉入ってきたんだな。だから肌がつやつやしているのだろう。


「あの温泉も、そのうち脇道の草刈りや浴槽の掃除をしないとなって思ってたんですよ」


 後回し後回しにしてきて、とうとう忘れてたけどね。

 それを聞いたヤナさん、やっぱり、という顔をした。


「やはり、あのおんせんというやつは、タイシさんがかんりされてたんですね」


 俺が管理してるって、なんとなく察してたんだな。まあこのあたりを管理してるのは俺って話しておいたから、普通の発想である。


「ええ、今は私が管理してます。掘り当てたのは、ずっとずっと昔の祖先ですけどね」

「そうなんですか。すごいですね」

「タイシすごいです~」


 まあ凄いのは俺ではなく、掘り当てたご先祖様と当時の客人だ。こうして、客人が来るたびに村に何かがもたらされ、それが次の客人、またその次の客人の為になっていく。

 受け継いでいきたい歴史だ。


「まあご先祖様達のお蔭です。それで、あの温泉について聞きたい事とは?」

「そうでした。あのおんせん、いったいどうしておゆがわくのですか?」


 どうしてお湯が沸くか。それを聞いてくるという事は、エルフ達の森には温泉が無かったという事かな。聞いてみよう。


「皆さんの住んでいた所には、温泉って無かったのですか?」

「ありませんでしたね。みずがわくいずみはありましたが」

「なかったです~」

「ふがふが」


 どうやら無かったようだ。一番の長老も首を横に振っているので、そうなんだろうな。


「こちらには温泉は割とありふれて居まして、すごく深く掘れば大体どこでも出てきます」

「すごくふかくほる?」


 一千メートルも掘れば、ここいらは大体温泉が出てくる。泉質も温度も様々だが。


「ええ、こちらの地面のすごく深いところは、ものすごく熱くなっているんです」


 いわゆる地熱だ。深く掘れば掘るほど熱くなる。自転と公転による運動エネルギーと、地球内部にある放射性物質の崩壊熱で熱くなると言われている。


「じめんのしたが、あついのですか」

「ふしぎ~」

「そんなことあるんだべか」


 やはりヤナさん他エルフ達は、いまいち理解し難いようだ。こっちの世界でも、地球の内部がどうなっているか分かり始めた段階で、いまだ完全にわかってはいない。

 こっちの人間でも全部わかっていないのに、ましてや異世界の住人に理解できないのも無理はないだろうな。

 そして地熱や温泉が理解できないということは、火山が周囲に無かったという事だ。もしかしたら地震も無かったかもな。

 安定した地盤の上に居たという事なのだから。それはそれで良い環境だと思う。


「ええ。熱いんです。それで泉の元となる地下水がその熱で熱せられて、熱いまま湧き出すんですね。これが温泉です」

「「「へえ~」」」


 簡単にお湯がわき出る仕組みを説明したところで、とりあえずエルフ達もある程度理屈は分かったみたいだ。なぜ地面の深いところが熱いのかは、それほど重要ではない。

 地面の深いところ「は」熱い。それだけわかれば利用する側としては問題ない。


「それで皆さんも温泉に入ったようですのでお判りでしょうが、とっても気持ちいいので温泉大好きな人が多いんですよ。入浴といいます」

「わかるわ~」

「あれはすごい」

「またはいりたい」


 口々に温泉の感想を言うエルフ達。どうやら彼らも、温泉が大好きになったようだ。温泉を掘り当てたご先祖様も当時の客人も、この言葉が聞けたらさぞかし嬉しかっただろうな。

 ついでに温泉の効能も説明しておこう。


「あの温泉は疲労回復や傷にも効きます。あと美肌効果があるとか」


 成分的にはナトリウム炭酸水素塩泉なので、お肌がすべすべになるらしい。なんでも汚れが良く落ちてそう感じるのだとか。


 と、美肌効果があると聞いたとたん、女子エルフさん達がずずいと迫ってきた。


「びはだですと?」

「おはだすべすべ、あれきのせいじゃないのよね?」

「うつくしくなれるのかしら?」

「かおトゥルットゥル?」


 鼻息が荒い。凄い迫力である。

 やはりエルフでも女子は女子、美に対しては関心が高いのだろう。関心が高いというより、必死、という言葉が思い浮ぶが、ここでその言葉を選択してはいけない。俺の勘が、そう告げている。

 

 俺は迫りくる女子エルフさん達の迫力にのけ反りつつ、答えた。


「え、ええ。限度はありますが、お肌はすべすべになりますよ」

「「「キャー!」」」


 俺の返答を聞いた彼女らは大喜びだ。キャーキャー言ってる。踊り出す人も出る始末。

 限度はある、という言葉は耳に入ってくれただろうか……。右から左でないこと祈りたい。


「おんせんって、すばらしいわ~」

「おんせんにはいっただけでびはだとか、すてき」

「きのせいじゃないのね。うふふ、うふふ」

「もっとおはだ、すっべすべにしちゃうわよ~」


 ……まあ、喜んでもらえて何よりです。お袋もかなりお高い化粧水を買ってきて、その値段を見た親父の無体な言葉にキレッキレ、だったことがあったな。

 女子はとかく大変なのだろう。そう思うことにする。


 エルフ女子がひとしきりキャーキャー騒いだところで、話を続けた。話を逸らしたともいう。


「それで、温泉についてほかに聞きたいこと、ありますか?」

「そうでしたそうでした、あのおんせん、にゅうよく? をするいがいにりようほうってありますか?」


 入浴以外の利用法か。たくさんあるのだが、主だったところを教えようかな。


「まず飲んでも大丈夫です」

「のめますか」

「飲んでも美肌にはなりませんが、飲めます」


 エルフ女子に迫られる前に牽制しておく。なにせ必死……いや関心が高いので。


「あとは洗濯もできますし、食器洗いも大丈夫ですよ」

「そうですか。しょうじきみずがつめたくて、たいへんだったのです。それはいいことをききました」

「それはうれしいわ~」

「かわのみず、つめたすぎてこまってたのよ~」


 ヤナさんや奥様方が、嬉しそうに言う。水が冷たいか。今の時期はたしかにそうだ。

 洗い物をするのは大変だったろうな。冷たい水で我慢して洗い物をする、という負担が少しでも減れば、作業も楽になるだろう。


「それと、料理にも使えます。野菜を蒸したり、卵を長時間温泉に付けておくと、温泉卵というものが作れます」

「「「おんせんたまご!」」」


 卵と聞いて、エルフ達が反応する。卵がご馳走である彼らにとって、大好きな温泉と大好きな卵が合わさってできる料理。大変興味が湧くのだろう。


「ええ、白身も黄身もとろとろで、つるんと食べられるゆで卵になるんです」

「なにそれすごそう」

「おんせんとたまごとか、すてき」

「おいしそうです~」


 エルフ達はうっとり顔で、温泉卵を想像している。食べても居ないのに幸せそうだ。それなら、次に機会があったら温泉卵を作ってみようか。

 皆温泉の便利さと気持ちよさに首ったけで、温泉好きに拍車がかかりそうだ。気に入ってもらえて何よりである。


 だが、ここの温泉利用には規則がある。規則と言っても体を洗ってから入ってね、等の一般的なものが多いのだが、ここ独自の規則もある。

 それは、使った人は維持管理に協力してね、という規則だ。


 先にも述べたが、温浴施設というものは維持管理がものすごく大変だ。衛生に直結する施設だけに、不衛生であることが許されない。使った人はお掃除や草刈りもするんだよ、という受益者負担のお願いである。


 ここら辺のルールを説明して、実施してもらおう。自主的に洗濯をしていた彼らだから、衛生管理もできるだろうと思う。

 いまだ温泉卵に思いを馳せているエルフ達に、温泉利用の規則を教えよう。


 何より、施設を清潔に保つというのは、彼らの為になるのだから。


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