第六話 さよなら、我が家
しっぽちゃんたちが村にやってきた翌日。
残りのしっぽちゃんたちも無事避難が成功して、村に来ることが出来た。
しかし、その中に――予想外の来客がいた。
それは、リザードマン世界にしかいないはずの――大人の海竜だ。
『が~う?』
『がうがう』
ネコちゃん便で送られてきたデジカメに、はっきりと彼らの姿が映っている。
なんと言ったらいいのだろう。意味が、分からない。
これは……話を聞いてみる必要がありそうだ。
『これから湖に向かいますので、そちらでお待ち下さい!』
デジカメの映像では、そんなユキちゃんの言葉で締めくくられていた。
みんなが到着したら、詳しいことを聞いてみよう。
「ぎゃう? ぎゃうぎゃう?」
そしてなぜか、海竜ちゃんがきょろきょろと周りを見渡して、そわそわし始めた。
デジカメの映像から流れた、同族の鳴き声に反応したのかな?
「ぎゃう~! ぎゃう~!」
「あえ? どうしたです?」
「ぎゃう~!」
やがて、遠吠えのようにして鳴き始める。
もうちょっと待っててね。今、同族が来るから。
多分、遊んでもらえるかもね。
◇
「大志さん、お待たせしました!」
「ばう」
「ユキ、きたです~」
湖の畔で待つついでに魚を焼く準備をしていると、ユキちゃんがフクロオオカミに乗ってやってきた。
一足先に到着ってところかな?
ひとまず状況を聞いておこう。
「ユキちゃん、いまどんな状況?」
「しっぽさんたちの一団と海竜さんたちは、ヤナさんが誘導中です。みなさん徒歩なので、もうしばらくかかりますね」
大人数での移動で、さらに大人海竜もいる。
さすがにフクロオオカミ便じゃ、厳しかったか。
徒歩での移動らしいので、もうしばらくかかるな。
「わかった。とりあえず魚は焼き始めておこうか」
「ええ。追加のしっぽさんたち、お腹ペコペコみたいですから」
「おいしくやくです~」
――ハナちゃん、もう火起こししている!
目にもとまらぬ早業!
「おさかな~、おいしくやくですよ~」
……こんな時でも、ハナちゃんマイペース。
そうだね、予想外の事態は起きているけれど、やることはあんまり変わらない。
当初の目的通り、まずは食事の準備をきっちりしておこう。
細かいことは、話を聞いてから考えれば良い。
「それじゃ、俺たちもお魚焼こうか」
「え、ええまあ」
気を取り直して、たくさんのお魚を焼き始める俺たち。
ジャガイモも、そろそろ茹でておこうかな?
「ぎゃう~! ぎゃう~!」
そうして食事の準備をしている間も、海竜ちゃんは遠吠えをしていた。
「……大志さん、海竜ちゃんはどうしたのですか?」
「デジカメから聞こえてきた大人海竜の鳴き声を聞いたら、遠吠えを始めたんだ」
「仲間を探しているのですかね?」
……初めて海竜ちゃんと出会った時も、遠吠えをしていたな。
エコーロケーションができる生き物なのに、遠吠えをする意味はちょっと分からない。
「正直ちょっと分からないけど、何かを主張しているのは確かだね」
「まだまだ、生態は分かっていないのですね」
俺とユキちゃんが首をかしげていると、ハナちゃんがくるっとこっちを向いた。
「おーい! おーい! っていってるです?」
「え? それだけ?」
「それだけっぽいです~」
……どうやら、ただ単に呼びかけをしているだけのようだ。
やっぱり、仲間に遊んでほしいのかもね。
「ぎゃう~! ぎゃう?」
「もうすぐやけるですよ~」
そして海竜ちゃん、焼き魚の匂いも気になるのか……ちらっちらっとこっちを見ながら遠吠えだ。
ハナちゃんがじりじりと焼いている焼き魚に、だんだんと近づいて行っている。
遊んでもらいたいし、焼き魚も食べたいし。
そんな感じなのだろう。
「美味しく焼けたらあげるから、ちょっと待っててね」
「ぎゃう!」
あ、前ひれをぱたぱたさせて喜び始めた。
まだまだ子供だから、甘えたい盛りだね。
そうして食事の準備をして、一行を待っていると――。
「タイシさ~ん! みんなつれてきましたー!」
ヤナさんが手を振りながら、近づいてくるのが見えた。
その後ろにはしっぽちゃんと……大人海竜の姿も。
「がう? がうがう?」
「が~う~?」
大人海竜はこの世界が珍しいのか、きょろきょろしている。
「ぎゃう!? ぎゃうぎゃう~!」
――ん? 海竜ちゃんがなんか、凄いビックリした様子だ。
「ぎゃう~!」
「あや! どうしたです!?」
そして――大人海竜のほうへと凄い速度で向かっていった!
え? 海竜ちゃん、泣いてる?
目からぽろぽろと涙をこぼしているぞ?
「がう……がう~!?」
「がうがう!?」
大人海竜たちも、向かってくる海竜ちゃんを見てびっくりしている
「ぎゃう~!」
やがて、海竜ちゃんがたどり着いて――。
「ぎゃう~! ぎゃう~!」
「がう! がうがう!」
「が~う~!」
三頭の海竜たちは、お互いの顔をぺろぺろ舐め合って、じゃれつき始めた。
海竜ちゃんはもう、涙をぽろぽろこぼしながらじゃれついている。
……なんだ? 何が起きているんだ?
突然の海竜たちの触れ合いに驚いていると、ハナちゃんがぽつりと、つぶやいた。
「あえ? おとうさんと、おかあさん……です?」
お父さんとお母さん!?
なんで? どうして?
……これは、良く話を聞いてみる必要があるな。
しっぽちゃんたちが、どうやってここまでたどり着いたのか。
どうして海竜と出会ったのか。詳しく聞いてみよう。
◇
しっぽちゃんたちの湖が灰化してしまい、食料が失われました。
みんな大慌てで、どうしようかと相談し合います。
「このままじゃ、やばいさ~」
「あっちの川も、ダメになったさ~」
「どうするさ~……」
大人のしっぽちゃんたち、困ってしまいます。
どんどんと食料が採れる地域が、灰化しているのでした。
今日はあっちの川、今日はこっちの中洲、それじゃあ明日は?
じわじわ、じわじわと灰化が広がっているのでした。
「あとちょっとで、夜の時期になるさ~?」
「そうなったら、どうにもならなくなるさ~」
「夜が明けても食べ物がないのは、困るさ~」
みんな口々に、夜の時期を問題視していますね。
オレンジ色の夕日に照らされるみんなの顔は、かなり不安そうです。
「夜を越せる程の、蓄えができなかったさ~。夜中も、食べ物集めをしなきゃならないさ~……」
「それ、水が冷たくて危ないさ~。船が必要さ~?」
「うちは船がないから、夜の時期に漁をするのは無理さ~」
「そもそも、夜は冬眠する時期さ~。おうちでじっとしていたいさ~……」
しっぽちゃんたちにとって夜の時期とは、活動停止期間のようですね。
どうやら、冬眠してしまうようです。この世界では、「夜」が「冬」と同じ意味を持つっぽいですね。
ずっと夜が続き、気温も水温も下がる時期ですから、冬眠して過ごすのが安全かもしれませんね。
ただ問題は……今の状態では夜を越すのは困難で、おまけに越せたとしても食料が無いということです。
「……おとなりの湖に、お引越しするさ~?」
「できれば、そうしたいさ~」
「でも、間に合うさ~?」
「……」
一人のお母さんからお引越しの提案がありました。
実際問題、今できる事はそれくらいしかありません。
「……大人が泳げば、三回眠るくらいでで着くさ~?」
三回眠る。昼夜の長いこの世界では、寝て起きたら一日です。
だいたい三日くらいの距離を、お引越しするみたいですね。
「でも、子供もいるさ~。水が冷たくて、泳がせられないさ~」
「船で行くしかないさ~?」
「船だと遅くなるから、九回はかかるさ~。ギリギリさ~」
「そもそも、うちには船がないさ~……」
移動手段が問題になっていますが、移動速度に問題のある船くらいしか、選択肢が無いようです。
ただ、船を持っていないおうちもちらほら……。
こうして、しっぽちゃんたちの長い長い会議は、続くのでした。
――そして会議の結果。
「お引越しの準備、するさ~」
「急ぐさ~!」
結局のところ、集落まるごとお引越しとなりました。
もうこの辺では食料がとれないので、住むことが難しくなってしまったからです。
実際問題として、選択肢はもうありませんでした。
「これでお引越し、できるさ~」
「やっとこさ~」
そうして次々にお引越しの準備を終えて行きますが……。
大きな問題がありました。
「ほんとに、先に行って良いさ~?」
「迷惑は、かけられないさ~……。イカダじゃ、ついていけないさ~……」
船が無いお家は、今から作っても間に合いません。
しかたなしに、イカダで急場をしのぐことになったのです。
集落のみんなで力を合わせて、なんとかイカダを用意することまでは、出来たのでした。
ただ、それはそれで問題がありました。
「イカダじゃ、十五回から十九回も、移動にかかるさ~?」
「でも、これしかないさ~……」
イカダは船よりさらに遅く、船で移動するより倍近い日数がかかるようです。
船でもぎりぎりの日数なのに、その倍近くも日数を要してしまったら……。
「みんな、先に行ってほしいさ~。うちらも、後から必ず行くさ~」
「……わかったさ~」
イカダ組は、船組の先行をお願いしていますね。
移動速度が違うので、どのみち一緒に移動ができないのです。
共倒れを避ける為にも、先に行ってほしいとお願いです。
そのお願いに、船組のしっぽちゃんたちも、涙をのんで受諾するしかなかったのでした……。
こうして問題はあるものの、お引越しの準備も終えて。
とうとう、集落から旅立つ事になりました。
「お家、からっぽさ~」
「さみしいさ~……」
「さよならさ~……」
思い出がたくさん詰まった、暖かかった我が家。
みんなで楽しく食事をして。
みんなで身を寄せ合って眠って。
雨の日も、風の日も、晴れの日も、夜の日も、ずっと過ごした我が家。
その生まれ育った我が家に……別れを告げます。
「……お家は、また作れば良いさ~」
「ささ、そろそろ行くさ~……」
お母さんたちも、そう言うものの……やっぱり寂しそう。
でも、ここで足踏みしていることは、出来ませんでした。
これから本格的に訪れる、夜の時期。
夜の時期は、水温がけっこう下がってしまいます。今よりも、もっと。
そうなってしまえば、どうにもならなくなるからです。
「それじゃ、みんな行くさ~!」
号令と共に、思い出の我が家を背に……みんなは移動を始めます。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、涙をこぼしながら。
それでもみんな、冷たい大河へ向かって――歩き出したのでした。
◇
お引越しが始まって、すぐに三つの集団にわかれました。
一つ目は、泳いで一気にお引越しする組。これは、若い人の世帯が中心です。
二つ目は、船でそこそこの速度で移動する組。主に大家族で、船をもっている世帯が中心です。
三つめは、イカダでじりじりと移動する組。船を持っておらず、さらに小さい子供がいる世帯が中心です。
移動速度が違うこの三つの組は、それぞれが団結して、隣の湖を目指します。
「先に行ってるさ~!」
「むこうで、落ち合うさ~!」
泳いで行く組と船で行く組が、大河を下って行きました。
イカダ組は、その姿を見送ります。
「かあちゃ、大丈夫さ~?」
「大丈夫さ~」
あの五人組家族は、イカダ組。
お母さんがイカダを押して、じりじりと移動していきます。
水の抵抗も大きく重量もあるので、どうしても速度は遅くて。
イカダに乗った子供たち三人は、心配そうにお母さんを見つめます。
「疲れたら、交代するさ~」
「頼んださ~」
もう一人のお母さんは、イカダの上で子供たちのお世話をしています。
交代でイカダを押していき、消耗を押さえる作戦ですね。
よそのお家も同じで、家族や他のお家と協力しながら移動を行います。
この危険なお引越しは、全員が一丸となって協力し合って、初めて成功する「可能性」が見えてきます。
こうしてイカダ組の、長い長い旅が始まったのでした。
そんなイカダ組が移動を始めてから、二回眠って。
つまり二日が経ったある日、途中の中州で一つの出会いがありました。
十人ほどが暮らす、ちいさな集落です。
「みんな、どうしたさ~?」
「あっちの方で、何かあったさ~?」
そしてこの集落、今起きている事態に気づいていませんでした。
ここまで来る間にあった集落は、全部お引っ越し済みで、がらんどう。
ですがここは、ちょっと大河からはずれている集落だったため、情報が入ってこなかったようです。
なんの準備もしていない彼らを見て、みんなはビックリ。
慌てて、何があったのかを教えました。
「! 大変さ~! うちらも、お引っ越しするさ~!」
「食べ物が減った原因、それさ~!」
「急ぐさ~! もう、夜の時期が来るさ~!」
教えられた人たちは、もう大慌て!
急いでお引っ越しの準備を始めます。
すでに灰化は、すぐそこまで迫ってきていました。
「うちらと一緒に、来るさ~?」
そんな人たちに、集団のリーダーとなっていたお母さんは、提案しました。
一緒にお引っ越しをしようと。
「もう、時間がないさ~……先に行っていて欲しいさ~……」
「迷惑、かけられないさ~……」
しかし、残された時間はあまりありません。
このまま待たせていたら、共倒れもあります。
遅れていた中州の人たちは、先に行って欲しいとお願いしました。
「……わかったさ~」
お母さんも状況は分かっているので、涙をのんで受諾します。
「せめて、この食料は受け取って欲しいさ~」
「ありがたいさ~」
「助かるさ~」
しかし、そのままさよならでは気持ちが整理出来なかったのか、お母さんはなけなしの食料を分け与えました。
それに対して、一行のみんなも何も言いません。
みんな気持ちは、一緒なのでした。
「それじゃあ、先に行ってるさ~!」
「あとから、追いつくさ~!」
「必ず、また会えるさ~!」
こうして、ちいさな集落の人々と別れ。
再び、イカダに子供たちを乗せて……冷たい大河を泳ぎ始めるのでした。
また、途中では別の出会いもありました。
「そっちも、お引っ越しさ~?」
「そうさ~。うちらも一緒に行って、良いさ~?」
「もちろんさ~!」
お引っ越し途中のイカダを押す一家と出会い、合流して。
仲間がちょっと、増えました。
話を聞くところによると、先行している泳ぎ組が色々と警告してまわっているようです。
急いでお引越ししないと、危ないよ、と。
灰化が到達する前に、準備したほうが良いよと。
しかしどこの中州も事情は一緒のようで、やはり船を持たないお家は大変なようです。
ちらほらと同じ事情の家族と出会い、仲間に加えていくのでした。
◇
移動を始めて六日後。ちょっとまずい事態が起きました。
「あっちの方から、嵐の気配がするさ~!」
「どこかに避難するさ~!」
大慌てで避難場所を探すイカダ組ですが、なかなか良い中洲が見つかりません。
ヘタな中洲に避難すると川の水が溢れてきて、流されてしまいます。
「かあちゃ! かあちゃ! あっちにお家が見えるさ~!」
「みんな避難できるくらい、お家があるさ~!」
あわあわと避難場所を探していると、子供たちがお家を発見したようです。
曇っていて月明かりも無い中、子供たちはみんな同じ方向を指さします。
「――! ――! ほんとさ~! お家があるさ~!」
「――! 確かにあるさ~。行ってみるさ~!」
お母さんもすぐに確認して、無事発見したようです。
嵐は目前ですので、みんなで慌てておうちのある中洲へ上陸しました。
「……誰もいないさ~?」
「この集落も、お引越ししたあとっぽいさ~」
すぐさま一つのお家へとお邪魔をしましたが、もぬけの殻。
すでに引っ越しを終えた集落のようです。
先行組の警告が、効果を発揮しているようですね。
「でも、これで助かったさ~」
「ここで、嵐をやり過ごすさ~」
辛い旅の中で、ひと時の休息です。
しっぽちゃんたちは、わきゃわきゃとお家を借りることにしました。
「かあちゃ、一緒に眠るさ~」
「みんなで固まって寝るさ~」
「わきゃ~」
大好きなお母さんと一緒に、姉妹たちと固まって。
ゴウゴウと嵐が通り過ぎる中、しっぽちゃんたちはひと時の安息を得たのでした。
そして嵐をやり過ごした、次の日のこと。
不思議な出会いが、ありました。
「今日はお月様が綺麗さ~。良いお天気さ~」
「出発の準備をするさ~」
嵐が過ぎて、出発の準備をしているときの事。
イカダの準備をしていた子供たちが、川のほとりで変な物を発見しました。
わさ。わさわさ。
「ねえちゃ、これ何さ~?」
「わからんさ~」
「なんだか、わさわさしてるさ~?」
三人の子供たちが発見したのは、ソフトボール位の大きさの、わさわさちゃん。
イカダを水に浮かべていたら、わさわさと川を泳いできたのです。
そんなわさわさちゃんを、一番下の子が両手で拾い上げて言いました。
「これ、食べられるさ~?」
――わさっ!
わさわさちゃん、食べられそうな雰囲気にちょっとビクっとしました。
逃げようにも、がっちりつかまれているので、もう逃げられません。
「やめとくさ~。仕舞えないのは、怖いさ~」
「おまけに動いてるさ~」
わさ~……。
わさわさちゃん、ほっとひと安心。食べられずに済みそうです。
「でも、これどうするさ~?」
「川に帰すさ~?」
「そうするさ~」
とりあえずわさわさちゃんは、川に帰すことにしました。
しかし……。
わさわさ、わささっ。
「……こっちに戻って来たさ~?」
何回川に帰しても、わさわさちゃんは三人のもとへと戻ってきてしまいます。
戻ってきたわさわさちゃんは、そのまま三人の足元で、わさわさ、わさわさ。
ちょっと下がってみると、またわさわさちゃんが移動してきて、離れません。
「これ、どうするさ~?」
「うちらの後を、ついてきちゃうさ~?」
「不思議な生き物さ~?」
自分たちの後を、ついてきてしまうわさわさちゃん。三人は扱いに困ってしまいます。
見たことも無い生き物なので、どうしていいか分かりません。
そうして困っている時、ふと、一番下の子がわさわさちゃんに声をかけました。
「うちらと一緒に、来たいさ~?」
そう声をかけた途端――わさわさちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねました!
どうやら、一緒に行きたいようですね。
「……それっぽいから、一緒に連れてくさ~?」
「そうするさ~」
「変な生き物さ~」
三人ともわけがわかりませんが、とりあえず一緒に連れていくことにしました。
わりと仕草がかわいらしいので、情が移っちゃったみたいですね。
「それじゃ、一緒に行くさ~」
わさ! わささ!
声をかけられたわさわさちゃんは、なんだか嬉しそうな様子ですね。
わさわさと近づいてきたと思ったら……一番下の子の服に、ひっついてしまいました。
「うわ~、ひっついたさ~」
「でもこれ、わりと触り心地良いさ~」
こうして、謎のわさわさちゃんがお引越しの一段に加わりました。
生き物がいなくなった、灰色の大河。そんな中での不思議な出会い。
ちょっとほんわかする出来事なのでした。
――それと時を同じくして。
わりと遠く離れた所では――船組がお引越しに成功していました!
「わきゃ~! 無事ついたさ~!」
「助かったさ~!」
ギリギリの日数でお引越しをした船組のしっぽちゃんたち、喜びの声を上げます。
緑のしっぽをぱたぱたさせて、旅の成功を噛み締めました。
「わきゃ~! そっちもついたさ~?」
「おたがい、無事だったさ~!」
先行していた泳ぎ組も無事到着していたようで、船組の到着を出迎えます。
仲間の無事を喜び、しっぽがぱたぱたしちゃいます。
「あとは、イカダ組が到着するのを待つだけさ~」
「食べ物、集めておくさ~。きっとお腹、空かせてるさ~」
あとはイカダ組の到着を待つばかり。
灰化した集落のしっぽちゃんたち、最後の仲間たちのために食糧集めをするようです。
お腹を空かせてやってくるであろう、仲間のために。
みんなで協力して、動き出しました。
「準備ができたら、途中まで迎えに行くさ~?」
「それは良いさ~」
「船、貸してもらうさ~」
食べ物が集められたら、途中まで迎えに行くつもりのようですね。
船も借りていけば、イカダ組を乗せてあげることもできます。
残りの仲間のために、みんなでいそいそと準備を始めるのでした。
――しかし。
何時まで経っても、イカダ組が現れることはありませんでした。
後から追いつくって言ったのに。
こっちで落ち合おうって言ったのに。
イカダ組は、その約束を守ることが……できなかったのでした。
彼らがお引越しを成功させられる確率は、やはり――限りなくゼロ、だったのです。