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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第六話 さよなら、我が家


 しっぽちゃんたちが村にやってきた翌日。

 残りのしっぽちゃんたちも無事避難が成功して、村に来ることが出来た。

 しかし、その中に――予想外の来客がいた。


 それは、リザードマン世界にしかいないはずの――大人の海竜だ。


『が~う?』

『がうがう』


 ネコちゃん便で送られてきたデジカメに、はっきりと彼らの姿が映っている。

 なんと言ったらいいのだろう。意味が、分からない。

 これは……話を聞いてみる必要がありそうだ。


『これから湖に向かいますので、そちらでお待ち下さい!』


 デジカメの映像では、そんなユキちゃんの言葉で締めくくられていた。

 みんなが到着したら、詳しいことを聞いてみよう。


「ぎゃう? ぎゃうぎゃう?」


 そしてなぜか、海竜ちゃんがきょろきょろと周りを見渡して、そわそわし始めた。

 デジカメの映像から流れた、同族の鳴き声に反応したのかな?


「ぎゃう~! ぎゃう~!」

「あえ? どうしたです?」

「ぎゃう~!」


 やがて、遠吠えのようにして鳴き始める。

 もうちょっと待っててね。今、同族が来るから。

 多分、遊んでもらえるかもね。



 ◇



「大志さん、お待たせしました!」

「ばう」

「ユキ、きたです~」


 湖の畔で待つついでに魚を焼く準備をしていると、ユキちゃんがフクロオオカミに乗ってやってきた。

 一足先に到着ってところかな?

 ひとまず状況を聞いておこう。


「ユキちゃん、いまどんな状況?」

「しっぽさんたちの一団と海竜さんたちは、ヤナさんが誘導中です。みなさん徒歩なので、もうしばらくかかりますね」


 大人数での移動で、さらに大人海竜もいる。

 さすがにフクロオオカミ便じゃ、厳しかったか。

 徒歩での移動らしいので、もうしばらくかかるな。


「わかった。とりあえず魚は焼き始めておこうか」

「ええ。追加のしっぽさんたち、お腹ペコペコみたいですから」

「おいしくやくです~」


 ――ハナちゃん、もう火起こししている!

 目にもとまらぬ早業!


「おさかな~、おいしくやくですよ~」


 ……こんな時でも、ハナちゃんマイペース。

 そうだね、予想外の事態は起きているけれど、やることはあんまり変わらない。

 当初の目的通り、まずは食事の準備をきっちりしておこう。

 細かいことは、話を聞いてから考えれば良い。


「それじゃ、俺たちもお魚焼こうか」

「え、ええまあ」


 気を取り直して、たくさんのお魚を焼き始める俺たち。

 ジャガイモも、そろそろ茹でておこうかな?


「ぎゃう~! ぎゃう~!」


 そうして食事の準備をしている間も、海竜ちゃんは遠吠えをしていた。


「……大志さん、海竜ちゃんはどうしたのですか?」

「デジカメから聞こえてきた大人海竜の鳴き声を聞いたら、遠吠えを始めたんだ」

「仲間を探しているのですかね?」


 ……初めて海竜ちゃんと出会った時も、遠吠えをしていたな。

 エコーロケーションができる生き物なのに、遠吠えをする意味はちょっと分からない。

 

「正直ちょっと分からないけど、何かを主張しているのは確かだね」

「まだまだ、生態は分かっていないのですね」


 俺とユキちゃんが首をかしげていると、ハナちゃんがくるっとこっちを向いた。


「おーい! おーい! っていってるです?」

「え? それだけ?」

「それだけっぽいです~」


 ……どうやら、ただ単に呼びかけをしているだけのようだ。

 やっぱり、仲間に遊んでほしいのかもね。


「ぎゃう~! ぎゃう?」

「もうすぐやけるですよ~」


 そして海竜ちゃん、焼き魚の匂いも気になるのか……ちらっちらっとこっちを見ながら遠吠えだ。

 ハナちゃんがじりじりと焼いている焼き魚に、だんだんと近づいて行っている。

 遊んでもらいたいし、焼き魚も食べたいし。

 そんな感じなのだろう。


「美味しく焼けたらあげるから、ちょっと待っててね」

「ぎゃう!」


 あ、前ひれをぱたぱたさせて喜び始めた。

 まだまだ子供だから、甘えたい盛りだね。


 そうして食事の準備をして、一行を待っていると――。


「タイシさ~ん! みんなつれてきましたー!」


 ヤナさんが手を振りながら、近づいてくるのが見えた。

 その後ろにはしっぽちゃんと……大人海竜の姿も。


「がう? がうがう?」

「が~う~?」


 大人海竜はこの世界が珍しいのか、きょろきょろしている。


「ぎゃう!? ぎゃうぎゃう~!」


 ――ん? 海竜ちゃんがなんか、凄いビックリした様子だ。


「ぎゃう~!」

「あや! どうしたです!?」


 そして――大人海竜のほうへと凄い速度で向かっていった!

 え? 海竜ちゃん、泣いてる?

 目からぽろぽろと涙をこぼしているぞ?


「がう……がう~!?」

「がうがう!?」


 大人海竜たちも、向かってくる海竜ちゃんを見てびっくりしている


「ぎゃう~!」


 やがて、海竜ちゃんがたどり着いて――。


「ぎゃう~! ぎゃう~!」

「がう! がうがう!」

「が~う~!」


 三頭の海竜たちは、お互いの顔をぺろぺろ舐め合って、じゃれつき始めた。

 海竜ちゃんはもう、涙をぽろぽろこぼしながらじゃれついている。


 ……なんだ? 何が起きているんだ?


 突然の海竜たちの触れ合いに驚いていると、ハナちゃんがぽつりと、つぶやいた。


「あえ? おとうさんと、おかあさん……です?」


 お父さんとお母さん!?

 なんで? どうして?


 ……これは、良く話を聞いてみる必要があるな。

 しっぽちゃんたちが、どうやってここまでたどり着いたのか。

 どうして海竜と出会ったのか。詳しく聞いてみよう。



 ◇



 しっぽちゃんたちの湖が灰化してしまい、食料が失われました。

 みんな大慌てで、どうしようかと相談し合います。


「このままじゃ、やばいさ~」

「あっちの川も、ダメになったさ~」

「どうするさ~……」


 大人のしっぽちゃんたち、困ってしまいます。

 どんどんと食料が採れる地域が、灰化しているのでした。

 今日はあっちの川、今日はこっちの中洲、それじゃあ明日は?

 じわじわ、じわじわと灰化が広がっているのでした。


「あとちょっとで、夜の時期になるさ~?」

「そうなったら、どうにもならなくなるさ~」

「夜が明けても食べ物がないのは、困るさ~」


 みんな口々に、夜の時期を問題視していますね。

 オレンジ色の夕日に照らされるみんなの顔は、かなり不安そうです。


「夜を越せる程の、蓄えができなかったさ~。夜中も、食べ物集めをしなきゃならないさ~……」

「それ、水が冷たくて危ないさ~。船が必要さ~?」

「うちは船がないから、夜の時期に漁をするのは無理さ~」

「そもそも、夜は冬眠する時期さ~。おうちでじっとしていたいさ~……」


 しっぽちゃんたちにとって夜の時期とは、活動停止期間のようですね。

 どうやら、冬眠してしまうようです。この世界では、「夜」が「冬」と同じ意味を持つっぽいですね。

 ずっと夜が続き、気温も水温も下がる時期ですから、冬眠して過ごすのが安全かもしれませんね。

 ただ問題は……今の状態では夜を越すのは困難で、おまけに越せたとしても食料が無いということです。


「……おとなりの湖に、お引越しするさ~?」

「できれば、そうしたいさ~」

「でも、間に合うさ~?」

「……」


 一人のお母さんからお引越しの提案がありました。

 実際問題、今できる事はそれくらいしかありません。


「……大人が泳げば、三回眠るくらいでで着くさ~?」


 三回眠る。昼夜の長いこの世界では、寝て起きたら一日です。

 だいたい三日くらいの距離を、お引越しするみたいですね。


「でも、子供もいるさ~。水が冷たくて、泳がせられないさ~」

「船で行くしかないさ~?」

「船だと遅くなるから、九回はかかるさ~。ギリギリさ~」

「そもそも、うちには船がないさ~……」


 移動手段が問題になっていますが、移動速度に問題のある船くらいしか、選択肢が無いようです。

 ただ、船を持っていないおうちもちらほら……。


 こうして、しっぽちゃんたちの長い長い会議は、続くのでした。


 ――そして会議の結果。


「お引越しの準備、するさ~」

「急ぐさ~!」


 結局のところ、集落まるごとお引越しとなりました。

 もうこの辺では食料がとれないので、住むことが難しくなってしまったからです。

 実際問題として、選択肢はもうありませんでした。


「これでお引越し、できるさ~」

「やっとこさ~」


 そうして次々にお引越しの準備を終えて行きますが……。

 大きな問題がありました。


「ほんとに、先に行って良いさ~?」

「迷惑は、かけられないさ~……。イカダじゃ、ついていけないさ~……」


 船が無いお家は、今から作っても間に合いません。

 しかたなしに、イカダで急場をしのぐことになったのです。

 集落のみんなで力を合わせて、なんとかイカダを用意することまでは、出来たのでした。

 ただ、それはそれで問題がありました。


「イカダじゃ、十五回から十九回も、移動にかかるさ~?」

「でも、これしかないさ~……」


 イカダは船よりさらに遅く、船で移動するより倍近い日数がかかるようです。

 船でもぎりぎりの日数なのに、その倍近くも日数を要してしまったら……。


「みんな、先に行ってほしいさ~。うちらも、後から必ず行くさ~」

「……わかったさ~」


 イカダ組は、船組の先行をお願いしていますね。

 移動速度が違うので、どのみち一緒に移動ができないのです。

 共倒れを避ける為にも、先に行ってほしいとお願いです。

 そのお願いに、船組のしっぽちゃんたちも、涙をのんで受諾するしかなかったのでした……。


 こうして問題はあるものの、お引越しの準備も終えて。

 とうとう、集落から旅立つ事になりました。


「お家、からっぽさ~」

「さみしいさ~……」

「さよならさ~……」


 思い出がたくさん詰まった、暖かかった我が家。

 みんなで楽しく食事をして。

 みんなで身を寄せ合って眠って。

 雨の日も、風の日も、晴れの日も、夜の日も、ずっと過ごした我が家。

 その生まれ育った我が家に……別れを告げます。


「……お家は、また作れば良いさ~」

「ささ、そろそろ行くさ~……」


 お母さんたちも、そう言うものの……やっぱり寂しそう。

 でも、ここで足踏みしていることは、出来ませんでした。

 これから本格的に訪れる、夜の時期。

 夜の時期は、水温がけっこう下がってしまいます。今よりも、もっと。

 そうなってしまえば、どうにもならなくなるからです。


「それじゃ、みんな行くさ~!」


 号令と共に、思い出の我が家を背に……みんなは移動を始めます。

 ぽろぽろ、ぽろぽろと、涙をこぼしながら。

 それでもみんな、冷たい大河へ向かって――歩き出したのでした。



 ◇



 お引越しが始まって、すぐに三つの集団にわかれました。

 一つ目は、泳いで一気にお引越しする組。これは、若い人の世帯が中心です。

 二つ目は、船でそこそこの速度で移動する組。主に大家族で、船をもっている世帯が中心です。

 三つめは、イカダでじりじりと移動する組。船を持っておらず、さらに小さい子供がいる世帯が中心です。


 移動速度が違うこの三つの組は、それぞれが団結して、隣の湖を目指します。


「先に行ってるさ~!」

「むこうで、落ち合うさ~!」


 泳いで行く組と船で行く組が、大河を下って行きました。

 イカダ組は、その姿を見送ります。


「かあちゃ、大丈夫さ~?」

「大丈夫さ~」


 あの五人組家族は、イカダ組。

 お母さんがイカダを押して、じりじりと移動していきます。

 水の抵抗も大きく重量もあるので、どうしても速度は遅くて。

 イカダに乗った子供たち三人は、心配そうにお母さんを見つめます。


「疲れたら、交代するさ~」

「頼んださ~」


 もう一人のお母さんは、イカダの上で子供たちのお世話をしています。

 交代でイカダを押していき、消耗を押さえる作戦ですね。

 よそのお家も同じで、家族や他のお家と協力しながら移動を行います。

 この危険なお引越しは、全員が一丸となって協力し合って、初めて成功する「可能性」が見えてきます。


 こうしてイカダ組の、長い長い旅が始まったのでした。


 そんなイカダ組が移動を始めてから、二回眠って。

 つまり二日が経ったある日、途中の中州で一つの出会いがありました。

 十人ほどが暮らす、ちいさな集落です。


「みんな、どうしたさ~?」

「あっちの方で、何かあったさ~?」


 そしてこの集落、今起きている事態に気づいていませんでした。

 ここまで来る間にあった集落は、全部お引っ越し済みで、がらんどう。

 ですがここは、ちょっと大河からはずれている集落だったため、情報が入ってこなかったようです。


 なんの準備もしていない彼らを見て、みんなはビックリ。

 慌てて、何があったのかを教えました。


「! 大変さ~! うちらも、お引っ越しするさ~!」

「食べ物が減った原因、それさ~!」

「急ぐさ~! もう、夜の時期が来るさ~!」


 教えられた人たちは、もう大慌て!

 急いでお引っ越しの準備を始めます。

 すでに灰化は、すぐそこまで迫ってきていました。


「うちらと一緒に、来るさ~?」


 そんな人たちに、集団のリーダーとなっていたお母さんは、提案しました。

 一緒にお引っ越しをしようと。


「もう、時間がないさ~……先に行っていて欲しいさ~……」

「迷惑、かけられないさ~……」


 しかし、残された時間はあまりありません。

 このまま待たせていたら、共倒れもあります。

 遅れていた中州の人たちは、先に行って欲しいとお願いしました。


「……わかったさ~」


 お母さんも状況は分かっているので、涙をのんで受諾します。


「せめて、この食料は受け取って欲しいさ~」

「ありがたいさ~」

「助かるさ~」


 しかし、そのままさよならでは気持ちが整理出来なかったのか、お母さんはなけなしの食料を分け与えました。

 それに対して、一行のみんなも何も言いません。

 みんな気持ちは、一緒なのでした。


「それじゃあ、先に行ってるさ~!」

「あとから、追いつくさ~!」

「必ず、また会えるさ~!」


 こうして、ちいさな集落の人々と別れ。

 再び、イカダに子供たちを乗せて……冷たい大河を泳ぎ始めるのでした。


 また、途中では別の出会いもありました。


「そっちも、お引っ越しさ~?」

「そうさ~。うちらも一緒に行って、良いさ~?」

「もちろんさ~!」


 お引っ越し途中のイカダを押す一家と出会い、合流して。

 仲間がちょっと、増えました。

 話を聞くところによると、先行している泳ぎ組が色々と警告してまわっているようです。

 急いでお引越ししないと、危ないよ、と。

 灰化が到達する前に、準備したほうが良いよと。


 しかしどこの中州も事情は一緒のようで、やはり船を持たないお家は大変なようです。

 ちらほらと同じ事情の家族と出会い、仲間に加えていくのでした。



 ◇



 移動を始めて六日後。ちょっとまずい事態が起きました。


「あっちの方から、嵐の気配がするさ~!」

「どこかに避難するさ~!」


 大慌てで避難場所を探すイカダ組ですが、なかなか良い中洲が見つかりません。

 ヘタな中洲に避難すると川の水が溢れてきて、流されてしまいます。


「かあちゃ! かあちゃ! あっちにお家が見えるさ~!」

「みんな避難できるくらい、お家があるさ~!」


 あわあわと避難場所を探していると、子供たちがお家を発見したようです。

 曇っていて月明かりも無い中、子供たちはみんな同じ方向を指さします。


「――! ――! ほんとさ~! お家があるさ~!」

「――! 確かにあるさ~。行ってみるさ~!」


 お母さんもすぐに確認して、無事発見したようです。

 嵐は目前ですので、みんなで慌てておうちのある中洲へ上陸しました。


「……誰もいないさ~?」

「この集落も、お引越ししたあとっぽいさ~」


 すぐさま一つのお家へとお邪魔をしましたが、もぬけの殻。

 すでに引っ越しを終えた集落のようです。

 先行組の警告が、効果を発揮しているようですね。


「でも、これで助かったさ~」

「ここで、嵐をやり過ごすさ~」


 辛い旅の中で、ひと時の休息です。

 しっぽちゃんたちは、わきゃわきゃとお家を借りることにしました。


「かあちゃ、一緒に眠るさ~」

「みんなで固まって寝るさ~」

「わきゃ~」


 大好きなお母さんと一緒に、姉妹たちと固まって。

 ゴウゴウと嵐が通り過ぎる中、しっぽちゃんたちはひと時の安息を得たのでした。


 そして嵐をやり過ごした、次の日のこと。

 不思議な出会いが、ありました。


「今日はお月様が綺麗さ~。良いお天気さ~」

「出発の準備をするさ~」


 嵐が過ぎて、出発の準備をしているときの事。

 イカダの準備をしていた子供たちが、川のほとりで変な物を発見しました。


 わさ。わさわさ。


「ねえちゃ、これ何さ~?」

「わからんさ~」

「なんだか、わさわさしてるさ~?」


 三人の子供たちが発見したのは、ソフトボール位の大きさの、わさわさちゃん。

 イカダを水に浮かべていたら、わさわさと川を泳いできたのです。

 そんなわさわさちゃんを、一番下の子が両手で拾い上げて言いました。


「これ、食べられるさ~?」


 ――わさっ!


 わさわさちゃん、食べられそうな雰囲気にちょっとビクっとしました。

 逃げようにも、がっちりつかまれているので、もう逃げられません。


「やめとくさ~。仕舞えないのは、怖いさ~」

「おまけに動いてるさ~」


 わさ~……。


 わさわさちゃん、ほっとひと安心。食べられずに済みそうです。


「でも、これどうするさ~?」

「川に帰すさ~?」

「そうするさ~」


 とりあえずわさわさちゃんは、川に帰すことにしました。

 しかし……。


 わさわさ、わささっ。


「……こっちに戻って来たさ~?」


 何回川に帰しても、わさわさちゃんは三人のもとへと戻ってきてしまいます。

 戻ってきたわさわさちゃんは、そのまま三人の足元で、わさわさ、わさわさ。

 ちょっと下がってみると、またわさわさちゃんが移動してきて、離れません。


「これ、どうするさ~?」

「うちらの後を、ついてきちゃうさ~?」

「不思議な生き物さ~?」


 自分たちの後を、ついてきてしまうわさわさちゃん。三人は扱いに困ってしまいます。

 見たことも無い生き物なので、どうしていいか分かりません。

 そうして困っている時、ふと、一番下の子がわさわさちゃんに声をかけました。


「うちらと一緒に、来たいさ~?」


 そう声をかけた途端――わさわさちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねました!

 どうやら、一緒に行きたいようですね。


「……それっぽいから、一緒に連れてくさ~?」

「そうするさ~」

「変な生き物さ~」


 三人ともわけがわかりませんが、とりあえず一緒に連れていくことにしました。

 わりと仕草がかわいらしいので、情が移っちゃったみたいですね。


「それじゃ、一緒に行くさ~」


 わさ! わささ!

 声をかけられたわさわさちゃんは、なんだか嬉しそうな様子ですね。

 わさわさと近づいてきたと思ったら……一番下の子の服に、ひっついてしまいました。


「うわ~、ひっついたさ~」

「でもこれ、わりと触り心地良いさ~」


 こうして、謎のわさわさちゃんがお引越しの一段に加わりました。

 生き物がいなくなった、灰色の大河。そんな中での不思議な出会い。

 ちょっとほんわかする出来事なのでした。


 ――それと時を同じくして。


 わりと遠く離れた所では――船組がお引越しに成功していました!


「わきゃ~! 無事ついたさ~!」

「助かったさ~!」


 ギリギリの日数でお引越しをした船組のしっぽちゃんたち、喜びの声を上げます。

 緑のしっぽをぱたぱたさせて、旅の成功を噛み締めました。


「わきゃ~! そっちもついたさ~?」

「おたがい、無事だったさ~!」


 先行していた泳ぎ組も無事到着していたようで、船組の到着を出迎えます。

 仲間の無事を喜び、しっぽがぱたぱたしちゃいます。


「あとは、イカダ組が到着するのを待つだけさ~」

「食べ物、集めておくさ~。きっとお腹、空かせてるさ~」


 あとはイカダ組の到着を待つばかり。

 灰化した集落のしっぽちゃんたち、最後の仲間たちのために食糧集めをするようです。

 お腹を空かせてやってくるであろう、仲間のために。

 みんなで協力して、動き出しました。


「準備ができたら、途中まで迎えに行くさ~?」

「それは良いさ~」

「船、貸してもらうさ~」


 食べ物が集められたら、途中まで迎えに行くつもりのようですね。

 船も借りていけば、イカダ組を乗せてあげることもできます。

 残りの仲間のために、みんなでいそいそと準備を始めるのでした。


 ――しかし。


 何時まで経っても、イカダ組が現れることはありませんでした。


 後から追いつくって言ったのに。

 こっちで落ち合おうって言ったのに。

 イカダ組は、その約束を守ることが……できなかったのでした。


 彼らがお引越しを成功させられる確率は、やはり――限りなくゼロ、だったのです。


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