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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第五話 君たちは、なぜそこに


「ねえねえ、タイシさんとこ、また騒ぎになってたよ」

「ちっさい人たち、おおぜい来てた」

「まあ、タイシさんたちなら、何とかしちゃうよね」


 ここはリザードマンたちが暮らす、リザードマン世界。

 湖畔のリゾートバイトから帰ってきた人たちが、あっちの現状を報告していました。


「ちいさくてしっぽがある人を見たら、やさしくしてあげてね」

「分かった。見かけたら、お魚あげよう!」

「今は、苦労している時期だろうだからな~。やさしくしよう」


 次のシフトに入るリザードマンたちに、引き継ぎをしていますね。

 見た目のマルカジリしそうな怖さとは違って、やさしいやさしい人たちです。


「ぎゃう? ぎゃうぎゃう?」


 そうして引き継ぎをしているリザードマンたちのところへ、海竜ちゃんがやってきました。

 がやがやと集まっているのを見て、気になったみたいですね。


「あ、そうだ。海竜ちゃんも一緒に来る?」

「ぎゃう?」


 そんな海竜ちゃんを見て、次のシフトに入っているリザードマン女子が提案しました。

 いきなりの提案に、海竜ちゃん首を傾げちゃいましたね。


「あのね、タイシさんたち、これから湖に頻繁に顔を出すの」

「ぎゃう!」

「だから、いっぱい遊んで貰えるかも?」

「ぎゃう~! ぎゃうぎゃう~!」


 大志の名前を聞いて、海竜ちゃんめっちゃ反応しました!

 いっぱい遊んで貰えるかもと聞いて、もう大はしゃぎです。

 海竜ちゃん、助けてくれてたくさん遊んでくれた大志のこと、大好きですからね。

 そりゃあ、喜ぶという物です。


 そんな海竜ちゃんを見つめて、一人の大人リザードマンがつぶやきます。


「そういや、この子は一人で鳴いてたんだよな」

「親とはぐれちゃった、のかな?」

「わからんけど、大変だったのは確かだな。当時は、だいぶ弱ってたから」

「ぎゃう?」


 子供海竜が、一人でいるのはほぼありません。

 普通は親と一緒に、のんびり過ごしているはずなのです。


「……よしよし、明日は大志さんに、いっぱい遊んで貰うんだぞ」

「ぎゃう!」


 つぶやいた大人リザードマン、海竜ちゃんをなでなでしてあげます。

 この孤独な海竜の子供、大事に育ててあげないとですね。



 ◇



 村に新たなお客さんが訪れた。

 それは不思議な不思議な人たちで、それなりにちいさなちいさな存在。

 子供エルフのようなちいささで、手足に鱗があり、しっぽもある小人さんたちだ。


「おんせん、さいこうさ~」

「いつでもあったまれるなんて、すてきさ~」

「くつろげるさ~」


 どうやら水陸両用な能力があるらしく、水のあるところが大好き。

 今は、露天風呂にはいってのびのびしている。

 服を着たまま入るのはアレなんだけど、その辺はまた相談しよう。

 今は俺が監督しているので、男女どちらか分からない人たちを裸にするのはちょっとアレなわけだ。


 しかし、こうして観察していると、相当な泳ぎの名手だね。

 しっぽを駆使して、すいすいと広い浴槽を泳いでいる。


「大志さん、この子たちって……温泉が大好きみたいですね」

「体があったまるのが、良いみたいな感じだね」

「ほっかほかです~」


 一緒に監督してくれているユキちゃんとハナちゃんも、ほんわかした顔でしっぽちゃんたちを見ている。

 ちいさな体で、しっぽをふりふりしているのは大変可愛らしい。

 ほんわかするのも、無理はない。


 あと、確かにこの子たちは温泉が大好きみたいだ。

 かなり長湯して、温泉を堪能している。

 この辺、なんで温泉が好きなのか聞いてみるか。

 あと、一緒に食事をしてだいぶ打ち解けたから、くだけた感じで話そう。

 そっちのほうが、しっぽちゃんたちも安心できると思うからね。


「みんな、体をあっためるのって好きなの?」

「だいすきさ~」

「かわをおよぐと、からだがひえるさ~」

「からだをあっためないと、いけないのさ~」


 なるほど、そういうことか。

 話を聞いた限りでは、大河と湖を泳いで移動しているようで。

 長時間水に入っているのなら、体も冷えるというもの。

 お風呂で体を温めないと、体調を崩しちゃうよね。


 ……でも、しっぽちゃんたちの世界に、温泉ってあるのかな?


「君たちのいたところには、暖かい水が出てくる泉って、あった?」

「そんないいもの、ないさ~」

「ここで、はじめてみたさ~」

「うらやましいさ~」


 ……どうやら、温泉みたいなのはなかったらしい。

 お風呂に入っていたという話はあるのだから、自力で沸かしていたのかな?


「お湯を沸かして、温めていたのかな?」

「そうさ~」

「おゆをわかすの、たいへんさ~」

「かあちゃのしごとさ~」


 かあちゃ、つまりお母さんがお湯を沸かしてくれるみたいだね。

 そうやって自力でお湯を沸かして、体を温めていたんだ。

 なかなかどうして、工夫をしているじゃないか。


「そろそろ、あがるさ~」

「じゅうぶん、あったまったさ~」

「ここは、すばらしいさ~」


 ふむふむと感心していると、しっぽちゃんたちお風呂から上がるようだ。

 それじゃあ、休憩場でお水を飲んで貰いましょう!


「みんな、休憩場でお水を用意してあるからね。たくさん飲んでね」

「うれしいさ~!」

「たすかるさ~」

「いたれりつくせりさ~」


 お水があると聞いて、わきゃわきゃと喜ぶしっぽちゃんたち。

 ちいさなおててをあげて、しっぽをぱたぱたさせて。

 もうなんか、ちっちゃかわいい。


「かわいいです~」

「これは何というか、母性をくすぐられますね」


 ハナちゃんもユキちゃんも同じようで、しっぽちゃんたちをにこにこと見ている。

 それじゃあ、休憩場でゆっくりして貰おう。



 ◇



「大志さん、この子たちは今日、どこで寝て貰います?」

「集会場で、雑魚寝って事になるかな?」

「ねぶくろとか、よういするです~」


 休憩場でまったりしている間に、しっぽちゃんたちの寝床について話し合う。

 とはいえ、選択肢はそれほどない。

 ひとまず、集会場で雑魚寝ってことになるね。

 ハナちゃんもお手伝いしてくれるようで、とてもありがたい。


「みんな体が小さいから、全員入っても余裕はあるね」

「そうですね。これなら、大丈夫ですね」


 四十人ちょっとのしっぽちゃんがいるけど、みんな小柄で。

 全員雑魚寝しても、面積はそれほど占有しない。

 小さいことは、こういうときに有利だね。


「これでひとまず、食事、衛生、住居はなんとかなったかな?」

「いずれ、ちゃんとしたお家を作ってあげたいですね」

「きのうえのおうち、たのしそうです~」


 ユキちゃんの言うとおり、いずれ住居も何とかしてあげたい。

 ハナちゃんがキャッキャしているけど、しっぽちゃんたちは木の上のツリーハウスに住んでいたらしいね。

 ということは、そういうお家が良いのかな?

 まあ、この辺は高橋さんが帰ってきてから相談しよう。

 建築なら、高橋さんと……おっちゃんエルフやマッチョさんにお任せだ。


「わきゃ! これ、べんりさ~!」

「わきゃ~? まわすと、みずがでてくるさ~!」

「のみほうだいさ~」


 俺たちが相談している横では、しっぽちゃんたちが蛇口つきポリタンクを囲んで、わきゃわきゃしている。

 蛇口をひねると水が出てくるのが、面白いみたいだ。

 そして、銀色のコップに水を入れている……。


 ――やっぱりこの子たち、金属製の食器を扱うみたいだな。

 金属加工技術を、持っているのかもしれない。

 まだまだ謎の多い、不思議な人たちだね。


 とまあ、しっぽちゃんたちの謎について考えていると――。


「あ、大志さん。そう言えば、ご家族の方に連絡はしました?」


 ――ユキちゃんから、重要なご指摘を頂いてしまった。


「あ! いけね、忘れてた!」

「あや~、でんわしたほうが、いいです~」


 そうだ、ユキちゃんに指摘されて初めて気がついた。

 親父たちに、連絡してない。

 これはいけないね。ハナちゃんの言うとおり、すぐに電話しよう。


「ちょっと電話してくるから、ここで待っててね」

「はい。あの子たちは、私たちが見ています」

「いってらっしゃいです~」


 しっぽちゃんたちは電話を知らないから、ここで電話を使うと変な目で見られてしまう。

 知らなければ、板に向かって独り言を言う危ない人だからね。

 俺だって、変な人に見られたくはないのだよ。


 ということで、建物を出て電話をする。

 さてさて、まずは親父に電話電話っと。


「あしつぼ」


 ――はっ!


 ……なんだか、ここにいてはいけない予感がする。

 場所を変えよう。それが良い――。


「――まあまあタイシさん、ゆっくりしていってください」

「そうとうおつかれのようですから、ほぐさないと」

「あしつぼ」


 ええ……?



 ◇



 癒やされた。特に足つぼ。

 というか、最近は安らぐ香りのアロマとか炊き始めた。

 普通に癒やしの空間になっている辺りが、恐ろしい……。

 ……あれ絶対、ユキちゃんの入れ知恵だよ。

 マッチョなのに、女子力上がっているのではないか?


 ……気にしないようにしよう。考えてはいけない。

 さて、気を取り直して、集会場の別室にこもって電話しよう。

 そこなら、見つからないはず。


 というわけで、集会場へ移動して、別室でこそこそとお電話した。

 親父と爺ちゃんに報告して、現状を報告して。

 ひとまず、予定を繰り上げなくてもいいとは伝えて。

 親父と爺ちゃんは、予定された祭事の日程に合わせて村に帰ってくる。

 どのみちすぐなので、いまさら予定を変えても変えなくても、大して変わらないからね。


 さて、連絡は終わったので、温泉施設の休憩所に戻ろう。

 いそいそと現場を後にして、休憩場へと到着。


「あ、大志さんお帰りなさい」

「タイシおかえりです~」


 部屋に入ると、さっきと変わらぬ風景で一安心だ。

 相変わらずしっぽちゃんたちは、蛇口をひねってわきゃわきゃしている。

 食事もして、温泉にも入って、水もたっぷり飲んで。

 あとは、寝るだけだね。

 今日は集会場で、ゆっくり休んで貰いたい。


「みんな、そろそろお休みしない? 集会場で雑魚寝になっちゃうけど、外で寝るよりマシだよ」

「もんだいないさ~」

「やねがあるだけ、ありがたいさ~」

「みんなで、おやすみするさ~」


 しっぽちゃんたちに声をかけると、わきゃっという感じで応じてくれた。

 雑魚寝は問題ないようで、一安心だ。

 それじゃあ、集会場へ案内しておねむしましょう!


「じゃあ、一緒に行こうね」

「いくさ~」

「ゆっくりねむれるさ~」


 そうして、みんなで歩いて集会場へと向かう。

 俺とハナちゃんとユキちゃんが歩く後ろを、しっぽちゃんたちがてこてこと歩く。

 歩いているときのしっぽが、うねうねと左右にうねっていて可愛いね。

 あのしっぽで、バランスを取っているのだろうか?


 しかし、身長三十センチくらいの小さい子は、よちよちって感じだ。

 見ていて危なっかしい感じはある。


「つかまるさ~」

「わきゃ! かあちゃ、ありがとさ~」


 ……あ、大きい人が、小さい子をしっぽで掴んで持ち上げたぞ。

 小さい子は、胴体にしっぽを巻き付けられて、そのままにこにこ笑顔で運ばれている。

 かあちゃ、って言ってるから、母子(おやこ)なんだろうな。

 子供を掴んで運べるくらい、力があって器用なしっぽなんだ。


 そんな母子の様子を見てほくほくしているうちに、集会所へ到着。

 色々準備しよう。


「じゃあ自分は水をタンクに汲んでくるから、二人は寝袋の用意をお願いしたい」

「わかりました」

「もってくるです~」


 しっぽちゃんたちは、水を飲むのが好きみたいだからね。

 蛇口つきポリタンクを四つ用意して、八十リットルの水を準備してあげよう。

 それくらいあれば、朝まで持つよね。


 そうして三人で協力して準備をして、三十分で避難所完成!

 あとは、ゆっくりおねむして下さいだ。


「これは寝袋といって、中に入って寝るための寝具です」

「わきゃ~。あったかいさ~」

「かあちゃ、いっしょにはいるさ~」

「これはいいさ~、ごくらくさ~」


 一つの寝袋に、三人から四人が入ってわきゃわきゃしている。

 どうやら気に入って貰えたようで、良かった良かった。


「お水もここに用意してありますので、喉が渇いたら飲んで下さい」

「うれしいさ~」

「ほんとに、ありがたいさ~」

「ここは、いいところさ~」


 ぱたぱたしっぽをふりすぎて、寝袋から何名かが飛び出した。

 ……喜んで頂けて、何よりです?


「それじゃあ、自分はこっちの別室で寝ますので、何かあったら言って下さい」

「タイシ~、ハナもいっしょにねていいです?」

「え? ハナちゃんも?」

「あい~」


 別室におふとんを敷いていたら、ハナちゃんが一緒に寝たいと言って来た。

 それじゃあ、今日はハナちゃんと一緒におねむしましょう。


「もちろん良いよ。ほら、こっちおいで」

「わーい! タイシありがとです~」

「あ、じゃあご両親に伝えておきますね」


 ハナちゃんがうきゃきゃっと布団に入ったのを見て、ユキちゃんが伝言役を請け負ってくれた。

 ありがたくお願いしておこう。


「それじゃユキちゃん、伝言お願いできるかな?」

「任せて下さい。それでは、お休みなさい」

「お休み、ユキちゃん」

「おやすみです~」


 手を振って集会場を後にするユキちゃんを見送って、就寝準備完了だ。

 さてさて、しっぽちゃんたちにも、お休みを言っておこう。


「では、みんなお休みなさい」

「おやすみさ~」

「ねるさ~」

「すぴぴ」


 ……もう寝てる子もいるけど、大丈夫だね。

 それじゃあ、俺たちも寝よう。

 別室の布団に入って、朝までぐっすりだ。


「ハナちゃん、おやすみ」

「おやすみです~すぴぴ」


 ハナちゃん、一瞬で寝たね。凄まじい寝付きの良さ。

 俺も無理せず、さっさと寝よ……ZZZ。



 ◇



 ――翌日、さわやかな朝。

 ぱっちり目が覚めて、周囲を確認する。


「あやや~……あやや~……」


 ハナちゃんはまだおねむのようで、あややと寝言を言っている。

 顔は幸せそうだから、良い夢でも見ているのかな?

 では、しっぽちゃんたちはどうだろう?


「すぴ~、すぴ~」

「すやや~」

「すや~」


 しっぽちゃんたちも、ぐっすりおねむだ。

 ……子供のしっぽちゃんは、お母さんにしっぽを巻き付けておねむだ。

 まだまだ、甘えたい年頃なんだろうね。

 みんな起きてくる気配はないけど、疲れていただろうからもっと寝かせてあげよう。


 さて、俺はお仕事しようかな。まずは、何をしよう?


 ……せっかくだから、水タンクを満タンにしてこようか。

 昨日はすぐおねむしたから、そんなに減ってはいないだろうけど。

 では、タンクはっと……ん?


 ――八十リットルもあった水が、空になってる!

 いつの間に全部飲んだの!?



 ◇



 水八十リットル全部飲んじゃった事件はさておき。

 午前中のうちにユキちゃんと町に出て、ジャガイモとバターと醤油をたんまり買ってきた。

 三日分くらいはなんとかなる量なので、これで一息つけるね。

 しっぽちゃんたちはジャガイモも大好物なので、きっと喜んでくれると思う。


 そうして食料を調達したり、寝袋を追加調達したりして昼くらいに村に戻る。

 すると、しっぽちゃんたちが、ぼちぼちと起床し始めていた。


「よくねたさ~」

「かいてきだったさ~」

「つかれ、とれたさ~」


 むににと伸びをするしっぽちゃんたち、すっきりさわやかな表情。

 全員起きてきたら、湖畔リゾートでお魚を食べようかな。


「みんな起きてきたら、またお魚を食べる?」

「わきゃ! たべるさ~!」

「おさかな! おさかなさ~!」

「うれしいさ~!」


 お魚を食べに行こうと提案したら、しっぽちゃんたちわきゃわきゃと喜びのポーズだ。

 それじゃあ、準備はしておこう。


「じゃあ自分は先に行って準備をしているから、あとから来てね」

「わかったさ~」

「たのしみさ~」


 というわけで、ユキちゃんにお願いしておこう。

 しっぽちゃんたちを引率して、湖まで連れてきて貰う役目だね。


「ユキちゃん、この子たちの引率をお願いできるかな?」

「わかりました。みんなが起きてきたら、連れて行きますね」

「助かるよ。よろしくお願いします」


 そうしてしっぽちゃんたちをユキちゃんにお任せして、湖に移動だ。


「ハナちゃん、一緒に湖まで行こうか?」

「あい~! ハナもいっしょにいくです~」

「ばうばう」


 ……ハナちゃん、もうボスオオカミ便をチャーターしてらっしゃる。

 仕事が早い、デキる女の子だ。ハナちゃんすごい!

 でもちょうど良いね。午前中に調達してきた、たくさんのジャガイモがある。

 フクロにいれて、一緒に運んで貰おう。


「これも運んで欲しいのだけど、良いかな?」

「ばうばう」

「へっちゃらっていってるです~」


 ハナちゃんが通訳してくれたけど、へっちゃららしい。

 ということで、お言葉に甘えてジャガイモが入った段ボールをたくさんフクロに入れる。

 これで、準備完了だ。

 では、湖に向かって出発!


「それじゃあ、行こう」

「いくです~!」

「ばう~!」


 ハナちゃんとボスオオカミ、元気にお返事だ。

 そのままボスオオカミがトコトコ歩き出し、洞窟をくぐり、湖まですぐに到着。

 フクロオオカミ便、速くて乗り心地が良くて、積載量もあって。

 おまけに可愛くて、素晴らしい交通手段だね。

 おもわず、首筋をなでなでしちゃうよ。


「ばうばう~」


 ボスオオカミも首筋をなでられて、ご機嫌だね。

 いつもありがと。これからもよろしくね。


 そうして楽しく湖まで移動して、湖畔の休憩場へと顔を出すと――。


「ぎゃう? ぎゃうぎゃう~!」

「あ、海竜ちゃん来てたんだ」

「ぎゃう~」


 海竜ちゃんが、大喜びでぺたぺたとやってきた。

 どうやら、遊びに来たみたいだ。

 遊んで欲しいみたいで、ぺろぺろと顔を舐めてくる。


「かいりゅうちゃん、いっしょにあそぶです?」

「ぎゃう~!」


 ハナちゃんが提案すると、海竜ちゃんテンションMAX。

 こんどはハナちゃんの顔をペロペロ舐め始めた。

 楽しい仲間が加わって、今日も賑やかだね。

 俺もなでなでしておこう。


「ぎゃうぎゃう~」

「ごきげんです~」


 そんなご機嫌海竜ちゃんと一緒に遊びながら、平行してお食事会の準備も進める。

 お魚はもうバイトリザードマンたちが漁をしてくれたようで、たんまりあるね。

 というか、バーベキューセットも準備してあって、やることがほとんどない。

 バイトリザードマンたち、良い仕事するなあ。

 これは、お礼を言っておかないとね。


「みなさん、準備してくれたのですね。大変助かります」

「こういうときは、たすけあいですから!」

「えんりょなく、いってくださいね!」

「ほんとに、ありがとうございます」


 これは、バイト代に色をつけないとね。

 良いお仕事をしてくれたのだから、ちゃんと返礼はしておかないと。


 そうしてほくほくとしていたとき――事件は起こった。


「ミュミュ~!」

「あえ? ネコちゃんです?」


 突然、ネコちゃん便が飛んできたのだ。

 なんだろう? 緊急連絡?


「伝言を確認しよう」

「あい!」

「ミュ!」


 すぐさま、首にぶら下がっているバッグに手を突っ込んでレコーダーを探す。

 ……ん? 入っているのは、デジカメ?


 メッセージ連絡ではなく、どうやら映像付きっぽいな。

 電源を入れて、データを確認してみよう。

 ……一件のデータがあるね。さっそく再生だ。

 再生ボタンを押して――。


『大志さん! 例の追加の人たちが到着しました!』


 ――どうやら、残りの避難民たちが到着したらしい。

 映像にも、しょんぼりしたしっぽちゃんたちが、十人くらい映っている。

 昨日聞いた通りだね。

 ……良かった、無事たどり着けたんだ……。


「ほらハナちゃん、昨日聞いた、残りの人たちが無事到着したよ!」

「やったです~! ひとあんしんです~!」


 ハナちゃんと二人で、避難成功の報せを喜ぶ。

 これでもう、一安心だ。本当に、良かった……。

 それにちょうど良い。今まさに、食事の準備中だ。

 さっそく湖に案内してもらって、お魚とジャガイモをたくさん食べて貰おう!


 じゃあ、こっちに来て貰えるよう返信を……?

 あれ? まだ映像があるぞ? 画面下のシークバーは、まだ三分の一ほどだ。


 ……続きを見てみよう。


『それと、大変です! 来たのはしっぽさんだけではなくて――』


 映像の続きには、そう叫ぶユキちゃんの声が聞こえて。

 画面が左にパンをしたと思ったら。


 ――あり得ない存在が、そこには映っていた。


 ……なんで? どうして?


『がう? がうがう?』

『が~うがう?』


 なんで、大人の海竜が――そこにいるんだ……!?


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