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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第四話 冷たい大河


 ここはとある世界の、とある星。

 大河のほとりでは、ぱしゃぱしゃとのんびり暮らす存在がおりました。

 しかしある日のこと、穏やかだった世界に、異変が起き始めます。

 それは彼らに降りかかる、災難の始まりでした……。



 ◇



 そこはとっても、不思議な世界。

 大きな湖から流れ出す大河、点在する陸地に生い茂る、密林。

 湖や大河にも、木々が生い茂る不思議な場所。

 気候は東南アジアのような温暖さで、豊かな水と豊かな大自然が広がっておりました。


 そんな大自然の中、樹上にちいさいお家が、いくつもあります。

 ツリーハウスで暮らす存在がいるようです。

 それでは、たくさんあるお家のなかから、ひとつのお家をちょっと覗いてみましょう。


「今日は、どうするさ~?」

「湖でお魚とってきて、焼いて食べるさ~」

「それなら、お塩の実もいるさ~?」

「いるさ~」

「ほくほく根っこも、とってくるさ~」


 お家の中には、五人家族の……それなりにちいさなちいさな存在が、住んでおりました。

 身長は子供くらいの大きさで、赤い鱗に覆われたしっぽと手足をもっています。

 でも、男の子か女の子か、良くわかりませんね。中性的な感じです。


 この子たちは、耳が長くて金髪色白。

 ……まるで、エルフの子供のような姿をしていました。

 そんな五人家族は、のんびり今日のお仕事を始めます。


「かあちゃ、うちはお魚とってくるさ~」

「うちはお塩の実さ~」

「それなら、うちはほくほく根っこを、とってくるさ~」


 子供なのでしょうか、身長が三十センチから六十センチの子たちが、お仕事を請け負いました。


「うちはお料理の準備をするさ~」

「うちも手伝うさ~。あと、お湯も沸かしておくさ~」


 小さい子たちが食料の採取をしてくれるようなので、大きい方の二人は、お料理の準備などなどをするようです。

 役割分担が決まったので、それぞれわきゃわきゃと動き始めました。


「いってくるさ~」

「気をつけるさ~」


 そうして樹上のお家から出た、ちいさな三人です。

 しっぽを木に巻き付けて、んしょんしょと下までおりました。


「湖まで行って、それから別れるさ~」

「そうするさ~」

「たくさんとるさ~」


 ちいさな三人、てこてこと歩いて、大河のほとりへ到着。

 羽織っていたポンチョのような服をどこかに「仕舞って」、かぼちゃぱんつのような短パンとヘソ出しTシャツの格好になりました。


「湖まで、いくさ~」

「泳ぐさ~」

「のんびりいくさ~」


 そのまま大河にぱしゃぱしゃと入っていった三人、上流に向かって泳ぎ始めました。

 手足には水かきとヒレがあるので、すいすいと泳いでいきます。

 しっぽを上手く使っていて、結構な速度が出ていますね。

 とっても泳ぎが得意な、かわいらしい人たちです。


「……なんか、水が冷たいさ~?」

「まだ、夜の時期じゃないさ~?」

「こんなの、今まであったさ~?」


 湖に向かって泳ぐ三人、なにやら不思議そうな顔をしています。

 水が冷たいらしいですが、今はさんさんとお天道様が輝く、長い長い昼。

 こんなに水が冷たいのは、今まで無かったことでした。


「そう言う日も、あるかもさ~」

「そうかもさ~」

「気にしても、しょうがないさ~」


 考えても分からないので、とりあえず気にしないことにするみたいですね。

 そのまま三人は、また上流へ向けて泳いでいきました。



 ◇



「着いたさ~」

「食べ物、たくさんとるさ~」

「てわけするさ~」


 十分ほど大河を遡上して、湖に到着。

 三人はさっそく、手分けして食料採取のお仕事を開始します。


「水が冷たいから、今日は釣りにするさ~」


 一人目は、釣り竿をどこからか取り出して、のんびり糸を垂らします。


「塩の実を、とってくるさ~」


 もう一人は、湖に生えている木の方へと泳いでいきました。


「ほくほく根っこ、とってくるさ~」


 最後の一人は、水上にたくさん咲いているお花の方へと泳いでいきます。

 これで全員が仕事を始めたので、しばらく見守ってみましょう。

 まずは、お魚担当の子ですね。


「……おかしいさ~、お魚がぜんぜん釣れないさ~」


 どうも、調子が悪いようです。

 いっこうに動かない浮きを見て、首を傾げていますね。


「普段なら、もうたくさん、お魚釣れているさ~」


 あまりに調子が悪いので、一人目の子は困ってしまいました。

 このままでは、今日の食事はお魚抜きになってしまいます。


「水が冷たいけど、潜ってとるしかないさ~」


 とうとう釣りを諦めて、直接お魚を捕まえることにしました。

 釣竿をしゅぴっとどこかにしまって、今度は(もり)を取り出して。

 そうして銛を手に持ち、ぱしゃぱしゃと湖に入っていき……ぱしゃっと水中へ潜りました。

 がんばって、お魚を捕まえてね。


 では次に、塩の実担当の子を見てみましょう。


「……? なんだか、実が少ないさ~」


 湖の水面に幹や枝を伸ばしている、不思議な樹木。

 そこにたどり着いた子は、首を傾げました。


「いつもなら、もっとたくさんあるはずさ~?」


 どうやら、塩の実が少ないようです。

 ひとつ、ふたつ、みっつ……数えられるほどしか、見つかりません。


「とりあえず、全部はとらないようにするさ~」


 ちょっと心許ないですが、全部はとらないようにしていくつかの塩の実を採取しました。

 どこからか取り出した、蔓を編んで作った入れ物に塩の実を入れて、ぱしゃぱしゃと戻っていきます。

 その顔は、ちょっと不安そうでした……。


 それでは最後に、ほくほくの根っこ担当の子を見てみましょう。


「お花、なんだか元気がないさ~?」


 ……ここでも、なにやら起きているようです。

 水面にたくさん咲いている、蓮のようなお花。

 花びらはちょっとしおれて、大きな葉っぱもしおしおで。

 なんだか、元気がないように見えました。


「……とりあえず、根っこをもらうさ~」


 首を傾げていた根っこ担当の子ですが、ひとまずお仕事開始です。

 ぱしゃっと水に潜って、根っこ採取を始めます。


「……?」


 水中に潜って、根っこがある水深まで行くと……。

 まるくてゴツゴツした実が、そこそこありました。

 見た感じはジャガイモのようで、お花の太い茎の脇から、ぽこぽこと出ています。


 根っこ担当の子は、水中でそのジャガイモみたいなほくほくの実をむしって、何個かをカゴに入れて浮かび上がります。


「……おかしいさ~、ほくほくの根っこ、数が少ないさ~」


 どうやらこれも、数が減っているようです。

 首を傾げてカゴの中を見つめるその目は、不安に揺れていたのでした。



 ◇



「お魚、あんまりとれなかったさ~」

「塩の実も、あんまりなかったさ~」

「根っこも、数が少なかったさ~」


 お仕事を終えた三人は、少ない成果にしょんぼりです。

 なんだか今日は、おかしい事が続きました。


「どうするさ~? お仕事、続けるさ~?」


 お魚担当の子が、残業するかどうか聞いてきました。

 さすがにちょっと、心もとない成果ですからね。


「止めとくさ~。おっきな生き物、現れるさ~」

「それ、ほんとさ~? けっこう前から聞くけど、見たことないさ~」

「見たって人、いるさ~。気を付けるに越したこと、ないさ~」


 しかし、他の子が却下しました。

 どうやら、以前から……怖い生き物が出没する、という噂が流れているようです。

 実際に見た人もいるとのことで、まことしやかに語り継がれる……ちょっと怖い話なのでした。


「……しかたがないさ~、そろそろ戻るさ~」

「水が冷たくて、体が冷えたさ~……」

「今日は、これくらいにするさ~」


 怖い話が出てぷるぷるっと来たのか、残業はあきらめたみたいですね。

 しょんぼり三人組、またぱしゃぱしゃと泳いでお家に戻りました。

 水はなぜかいつもより冷たくて、体も冷え冷え。

 お家に帰って、ゆっくりしましょう。


「ただいまさ~……」

「あら? みんなどうしたのさ~?」


 おうちのある木の所まで行くと、お母さんらしき人が待っていました。

 しょんぼり三人組を見て、首を傾げています。


「お魚、あんまりいなかったさ~」

「塩の実も、そんなになかったさ~」

「ほくほく根っこ、数が減ってたさ~」


 三人は口々に、しょんぼりな成果を報告します。


「あら~、ほんとさ~……」


 お母さんはその成果を見て、いっしょにしょんぼりしちゃいました。


「でも、しょうがないさ~。そういう日も、あるさ~」


 しかしそこは大人、すぐに笑顔になって三人を励まします。

 しょんぼりしていても、何も解決しないですからね。


「みんな、お湯を沸かしておいたさ~、体あっためるさ~」


 奥からもう一人の家族がやってきて、しょんぼり三人組をよしよししました。

 そのまま三人を大河のほとりに連れて行き、とある一角を指さします。


「ここで、体をあっためるさ~」


 大河のほとりには、石で囲んだ……お風呂みたいな構造物がありました。

 ちゃんと隙間が埋めてあって、水が入り込まないようになっていますね。

 水門も付いていて、水の出し入れが出来るようになっています。

 どうやらお湯が沸かされているようで、ほかほか湯気が出ていますね。


「ぬっくぬくさ~」

「ほかほかさ~」

「水が冷たかったから、いっそう気持ちいいさ~」


 さっそくお風呂に飛び込んだ三人は、ほんわかまったり、お風呂を楽しみます。

 今日は水が冷たかったせいもあって、体が冷え切っていました。

 そんなときにこのほかほかお風呂は、たまりませんね。


 しばらくの間、三人組はほかほかお風呂を楽しんだのでした。



 ◇



「体、あったまったさ~」

「綺麗に洗ったさ~」

「おなか減ったさ~」


 お風呂を楽しんだ三人は、ほかほかうっとり顔でお家に戻ります。

 しっぽを木に巻き付けて、んしょんしょと木登り。

 お家からはお料理の良い匂いが漂っているので、木を登る速度も気持ち早めですね。


 そうして、木を登ってお家に到着!

 お家に入ると、待ちに待った食事が用意されておりました。


「わきゃ! 美味しそうさ~!」

「おなか、ペコペコさ~!」

「みんなで、食べるさ~」


 しゅぴぴっと五人は車座になって、お料理を囲みます。

 今日の献立は、とれたてお魚の塩焼き。

 ほくほく根っこを()かして焼いた、ほくほく焼き。

 それと木の実が入った、琥珀色のスープ。


 いつもの献立、いつもの食材。

 ほっとする一時ですね。


「それじゃ、食べるさ~」


 お母さんのかけ声と共に、楽しい楽しいお食事が始まりました。


「お魚、美味しいさ~」

「ほくほく、たまらないさ~」

「汁物、あったまるさ~」

「たんとお食べさ~」

「美味しく出来てるさ~」


 わきゃわきゃ、もぐもぐと平和なお食事風景が広がります。

 みんなしっぽをぱたぱたさせて、美味しいお食事を堪能ですね。

 今日は色々ありましたが、なんとか平和に過ごせたようです。


 しかし、五人ともある一つの点については……言及しませんでした。


 ――食事の量がいつもより少ない、という点については。



 ◇



 それから数日後。

 長い長い昼の時期が終わり、長い長い夜が訪れようとしている時。

 だんだん薄暗くなって来たその時の事です。


 ――破滅の日が、訪れました。


「お魚、全然いないさ~!」

「おかしいさ~! 塩の実が、全部灰色になってるさ~!」

「ほくほく根っこも、灰色になってるさ~!」


 ある日湖に行くと――全てが、灰色になっていたのです!


 どれだけ潜っても、お魚が見つからず。

 塩の実は灰色になって、中身の塩も灰色で。

 大好きなほくほく根っこも、灰色で。


「なんだか、変な匂いもするさ~」

「砂っぽい、匂いさ~?」

「こんなの、初めてさ~……」


 突然訪れた、謎の現象。

 それなりにちいさなちいさな存在たちは、どうして良いのか分かりません。

 あっちにふらふら、こっちにふらふらと右往左往してしまいます。


 そんな三人の所へ、よそのお家の人たちが近づいてきました。

 その人たちは、焦った表情で問いかけます。


「そっちはどうさ~?」

「こっちもダメさ~!」

「あっちでも、騒ぎが起きてるさ~!」

「みんな、困ってるさ~……」


 周囲を見渡すと、他にもキャーキャーと騒いでいる人たちがおりました。

 どこのお家も、食料がとれずに困っているようです。

 湖では、たくさんの、たくさんの悲鳴が……響いたのでした。


 そして、大騒ぎしているみんなは、気づきませんでした。


 ――砂の匂いが、どんどん湖から外へ、広がっていることに。



 ◇



「こんなことが、あったさ~」

「このよのおわりかと、おもったさ~」

「じっさい、おわったさ~……」


 湖畔リゾートに到着して、バイトリザードマンたちにお魚をとって貰って。

 ユキちゃんも自動車教習をキャンセルして、駆けつけてくれた。

 みんなで協力して、お魚を焼いている最中だ。

 その間しっぽちゃんたちから話を聞いたのだけど……。


「……大志さん、灰色になったって、言ってますね」

「タイシ~、これってあれです?」


 話を聞いたユキちゃんとハナちゃん、深刻そうな顔だ。

 多分俺の顔も、同じような表情だろう。

 話を聞いた限りでは、そうなんだろうな。


 ――灰化現象が、恐らく起きたんだ。


「砂の匂い、灰色になる植物……まあ、ほぼ確定だよね」

「あや~……」

「とうとう、起きてしまいましたか……」


 嫌な予感は、当たってしまったかもしれないという事だ。

 まだ彼らしっぽちゃんの出身地は、分かっていない。

 ただ、聞いた感じでは水が豊富な環境だったらしい。


 もしかすると、もしかする……。

 彼らは、あの青い衛星の人たち、かもしれない。


「はなしきくだけで、こええ~」

「はいいろになったとか、ふるえる」

「ふるえがとまらないのだ……」

「こわいよ! こわいよ!」

「きゃー!」


 話を聞いた他のエルフたちや妖精さんたちも、ぷるっぷるのキャーキャー状態だ。

 ばっちりトラウマを刺激されていらっしゃる。


 でも、怖がりながらもしっかりとお魚を焼いたり、お団子をこねたりしてらっしゃる。

 みんな、なんだかんだ言って、たくましくなった。

 とにかく食べること優先だね。


「おさかな、やけてきたさ~」

「わきゃ~……、いいにおいいさ~」

「やっと、おさかな、たべられるさ~」


 灰化ホラーを語ったしっぽちゃんたちは、もうじりじりと焼けるお魚に夢中だ。

 じゅるりとしながら、食べ頃を今か今かと待っている。

 しっぽをぱたぱたさせながら、視線はお魚に釘付けだ。


 ……お腹ペコペコらしいけど、お魚の焼き加減に並々ならぬこだわりを見せている。

 凝り性な感じはするね。


「タイシさんタイシさん、これとかも、よろこぶかも」

「ほくほくねっことかきいたから、いいんじゃないかと」


 おや? バイトリザードマンたち、なにかを持ってきた。

 ……ジャガイモ?


「じゃがバターのしょくざいだけど、つかってくださいな」

「こういうときは、たすけあい!」


 ありがたい。売り物の食材を提供してくれるんだ。

 ここはありがたく、好意に甘えよう。


「みなさんありがとうございます。さっそく()でちゃいましょう」

「じゅんびするね!」

「バターしょうゆも、つけちゃう!」


 いそいそと準備を始める、バイトリザードマンたちだ。

 このお礼、いずれします。


「それ、なにさ~?」

「ほくほくねっこと、よくにてるさ~」

「たべものさ~?」


 準備をしていると、しっぽちゃんたちがジャガイモに興味をしめした。

 どうやら、彼らの知っている食材と似ているらしいね。

 話を聞いた限りだと、俺もジャガイモに似ていると感じていた。

 この食材について説明して、判断して貰おう。


「これはジャガイモといって、植物の(くき)ですね。茹でたり焼いたり蒸かしたりすると、ほっくほくで美味しいです」

「きいたかぎりだと、そっくりさ~」

「おいしそうさ~」

「これも、たべていいさ~?」


 ジャガイモをつんつんしていたしっぽちゃんたち、ぱああっと笑顔になった。

 やっぱり、彼らの言うほくほく根っことそっくりらしい。

 ……ほくほく根っこも茎に出来ていたらしいから、実はそれ……根っこじゃなくて塊茎(かいけい)だとは思う。

 だから、そういう所も似ているんだよね。


「もちろんこれも、食べて良いですよ。お腹いっぱい、食べて下さい」

「うれしいさ~」

「たすかるさ~」


 食べられると分かって、しっぽをぱたぱたさせて喜んでいるね。

 たくさんあるから、遠慮なく食べて下さいだ。

 ……味が似ているかどうかは、まだわからないけどね。


 そうしてジャガイモを茹でたり、お話をしているうちにお魚が焼き上がった。


 ――では、お魚を食べてもらいましょう!


「はいみなさん、お魚が焼けましたので、お腹いっぱい食べて下さい」

「わきゃ~!」

「たべるさ~!」

「おさかな! おさかなさ~!」


 しっぽちゃんたち、わっとお魚を手にとってかじり始める。


「おいしいさ~」

「ひさびさにたべるおさかな、さいこうさ~!」

「いきててよかったさ~!」


 しっぽをぱたぱたさせて、満面の笑顔でお魚を食べていく。

 ちまちまとかじるその姿は、とってもかわいらしい。


「ばうばう」

「ばう~」


 しっぽちゃんたちがお魚を食べ始めたのを見て、フクロオオカミたちもキャベツを食べ始めた。

 ……彼らが食べ始めるのを、待っていてくれたようだ。

 お腹を空かせている横でバクバク食べられたら、そりゃキツいよね。

 こういう気遣いが出来る動物って、凄いな。

 フクロオオカミは、賢くて、優しい動物なんだね。


「ジャガイモ、ゆであがったよ!」

「こっちもどうぞ!」


 そうこうしているうちに、じゃがバターも出来上がった。

 皮が付いたままのほくほくジャガイモにバッテン印の切り込みを入れて、バターを一切れ添えて。

 そこに醤油を垂らした、シンプルかつ至高の一品だ。


「――! おいしそうさ~!」

「こっちもたべていいさ~?」

「たまらないさ~」


 しっぽちゃんたち、じゃがバターの香りにじゅるりと振り向く。

 お目々キラッキラで、きたいのまなざしだ。

 あと、しっぽをぶんぶんと振っている。もの凄く分かりやすい。

 お口に合うかは分からないけど、まずは食べて貰おう。


「ではみなさん、こちらも食べて頂ければと」

「ありがとうさ~!」

「さっそく、たべるさ~」


 しっぽちゃんたち、わきゃわきゃとじゃがバターのお皿を受け取って、ささっと銀色のスプーンを取り出す。

 ……銀色の、スプーン?


 この子たち――金属の食器を使うのか?


「わきゃ~! これはおいしいさ~!」

「ほくほくねっこと、あじがそっくりさ~!」

「なつかしいさ~!」


 スプーンに注目している間に、じゃがバターに舌鼓(したづつみ)を打つしっぽちゃんたち。

 しっぽがぶんぶん振られているので、味は問題ないようだ。


「この、とろけてるやつとくろいしる、たまらないさ~!」

「ほくほくねっこが、こんなにおいしくなってるさ~」

「なみだがでてくるさ~……」


 バターと醤油も問題ないようで、むぐむぐとじゃがバターを食べているね。

 うるうる来ちゃってる子もいるみたいで、みんな夢中でじゃがバターとお魚を食べている。


 そうなのだ。バターと醤油の組み合わせは、えもいわれぬ香味をもたらす。

 とろけるバターが醤油の角を取って、味と香りを引き立てる。

 そこにジャガイモの淡泊かつほっくほくの味が加わると、最強のコラボが実現するのだ。

 ……俺も腹が減ってきた。あとでじゃがバター、一つ貰おう。


 とまあそれは後にして。食材はこれで問題ないようだ。

 彼らの習慣に合った、ほっとする組み合わせのようだね。


「どうやら、食材はこれで良いみたいだね」

「大志さん、ジャガイモの買い出しをしておきますか?」

「一緒に買い出しに行こう」


 とりあえず、しっぽちゃんたちの食事はジャガイモとお魚で何とかなるね。

 あとで買い出しをして、これからに備えよう。


「タイシ~、ハナたちはどうするです?」

「そうだね……みんなには――」


 村には大勢しっぽちゃんたちが避難してきて、食べ物がたくさん必要になって。

 住むところや、着る物も必要だ。

 おまけに、まだ避難しきれていない子もいると聞いている。


 のんびりしていて、ゆるゆるのしっぽちゃんたち。

 この子たちを受け入れて――笑顔になって貰わないとね。


 それじゃあ、しっぽちゃん受け入れ計画――考えましょう!

 彼らが村に溶け込んで、賑やかに盛り上げてくれる未来を想像して。

 みんなで一緒に、頑張ろう!


そして祭事の事を忘れる、大志であった

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