第三話 VISITOR
ヤナさんと、集会場で祭事の打ち合わせをしていた時の事。
「あやー!!!!!」
「ぴちー!!!」
なんだ!? ハナちゃんの叫び声が!
……あとなんか、芽ワサビちゃんの叫び声というか、鳴き声も聞こえたような……。
「たいへんなのー! おんせんがー! おんせんがー!」
え!? こんどはナノさんの叫び声が!
……どっちから確認したらいいんだろう?
よし! ヤナさんと手分けしよう!
「ヤナさんすいません、ハナちゃんところの確認お願いできますか! 私は温泉の方を確認します!」
「わかりました! すぐに見てきます!」
ヤナさんがしたたグキっと駆け出して行った。
……足を痛めたな、あれ。
……。
気を取り直して、俺は温泉を確認しよう!
すぐさま走りだして、温泉に向かう。俺は足をくじかないでちゃんと走ったよ。
しかし、その道中――。
「あらららら? あらららら?」
「あれれれ? あれれれ?」
炊事場で、腕グキさんとステキさんがなんか……わたわたしているのを発見した。
白いポリタンクを抱えて、右往左往だ。
あっちでも、何かが起きている?
――いったい、この村はどうしてしまったんだ?
◇
「今日は、良いお天気です~」
さわやかな朝、ハナちゃんはおうちの前でぐににっと伸びをします。
美味しい朝食を食べ終わったので、今日も一日のんびりすごしましょう!
「ハナ、僕は大志さんと、集会場で打ち合わせしてくるね」
「ハナちゃん、なにかあったら、れんらくしてね」
「あい~! 二人とも、いってらっしゃいです~」
お家の玄関で、お仕事に行く大志とヤナさんをお見送り。
ハナちゃんぴこぴこっと手を振ります。
そうして二人の姿が見えなくなったところで、ハナちゃんも行動開始!
「お散歩するです~」
まだちょっと寒いですが、雪もだいぶとけて。
だんだん、春の息吹が聞こえてまいりました。
ハナちゃんのおうちのまわりでも、色んな植物が芽吹き始めています。
「あや! ちっちゃなお花、咲いてるです~」
さっそく、何かみつけたようです。
ハナちゃん、ぽてぽてとお花に近づいて観察を始めました。
咲いているお花は……オオイヌノフグリですね。
青くて小っちゃくて、かわいい春のお花です。
「おっきくなるですよ~」
にこにこと、ハナちゃんはオオイヌノフグリのお花を眺めます。
でもそのお花は、ちっちゃい種類のお花ですよ?
そんなにおっきくはならないですね。
「あや~、こっちには、つくしが生えてるです~」
お隣には、食べられるやつが生えてますね。
ハナちゃんじゅるりとしています。つくしさんぴんち!
もうちょっと大きくなってから、食べましょうね。
「あらハナちゃん、おはようなの」
「おはようです~」
つくしに手を伸ばしたハナちゃんに、声がかけられました。
ナノさんですね。
「これから温泉掃除にいくの。きれいにするの」
「今日、当番ですか~」
「そうなの」
どうやら今日は、ナノさんが温泉掃除の当番みたいですね。
それとあと何名かの人が、お掃除に向かうはずです。
「温泉施設が大きくなったから、さいきんは温泉のお掃除、ちょっと大変なの」
「あや~、タイシに相談したほうがいいかもです~」
「そうするの」
どうやら、温泉掃除が大変らしいですね。
みんなで使う公共施設ですから、維持管理も大変です。
この辺、大志も「温泉掃除は大変」って当初から言っていました。
そろそろ、抜本的な見直しが必要かもしれませんね。
「そろそろいくの」
「温泉のお掃除、ありがとです~」
その後ちょこっと雑談して、ナノさんを見送りました。
「あらハナちゃん、おはよう~」
「ハナちゃんおはよ」
「おはようです~」
ナノさんを見送ったら、次は腕グキさんとステキさんが通りかかりました。
台車にポリタンクを二つのっけて、ガラガラと押していますね。
ポリタンクには蛇口が付いていて、お水を出すのにとっても便利。
大志が村のみんなに作ってあげた、お水を大量に使える便利道具ですね。
このポリタンクのおかげで、各家庭では、お水を便利に使えるようになっているのでした。
「あら? つくしが生えてるのね~」
「あい~、おいしそうです~」
「天ぷらにして、食べようかしら~」
またもやつくしさんぴんち! このままでは、美味しくお料理されてしまいます。
もっと大きくなってから食べると、美味しいですよ。
「お母さん、早く水をくみに行こうよ」
「あら~、そうだったわ~」
つくしの天ぷらは後にして、まずは朝のお仕事をしないといけませんね。
つくしさん、なんとか二度目のぴんちを切り抜けました。
まあ、いずれおいしく食べられるのですけど。
「それじゃハナちゃん、またね」
「お仕事しなきゃね~」
「あい~、お仕事、がんばってです~」
ガラガラと台車を押して、二人は炊事場に向かっていきました。
ハナちゃんお水をくみに行く二人を見送って、ぴこぴこと手を振ります。
今日もみんな、平和にお仕事開始ですね。
「ハナも、そろそろお散歩するです~」
色々寄り道しましたが、ハナちゃんお散歩再開です。
ぽてぽてと歩いて、まずはハナちゃん菜園に向かいました。
そろそろ、去年植えたイチゴが実る時期なのです。
「イチゴ~イチゴ~、あとちょっとです~」
いい感じに色づき始めたイチゴの実を、ハナちゃんうふうふと眺めます。
大志と一緒に育てた、大事な大事なイチゴ。
実りが待ち遠しい、ハナちゃんなのでした。
そうして、うふうふとイチゴを眺めていた時の事。
「ぴち! ぴちー!」
赤い芽ワサビちゃんが、ハナちゃんの所にやってきました。
なにやら、慌てているようですが……。
「あえ? どうしてここまで来ちゃったです?」
「ぴ、ぴち~!」
ワサビちゃんの苦手な太陽光が強くなるこんな時間、それもこんな所まで来た事に、ハナちゃん首を傾げます。
そんなハナちゃんに、赤い芽ワサビちゃん、ぴちぴちと何かを訴えています。
「あえ? ワサビちゃんの畑で、何かあったです?」
「ぴち!」
ハナちゃんがつぶやくと、赤い芽ワサビちゃんは「そうそう!」と言わんばかりにぴょんぴょんしました。
どうやら、それっぽいようです。
「あや~、ちょっと見に行くですか~」
「ぴち~」
ハナちゃん菜園からは近いので、ハナちゃんとりあえず確認することにしました。
ぴちぴちと先導する赤い芽ワサビちゃんの後に続いて、ぽてぽてと歩いて行きました。
そして畑に着いたのですが――特に、何もありませんでした。
「なんもなってないです?」
「ぴち! ぴち~!」
見た感じ特に問題ないようで、ハナちゃん首を傾げました。
でも、赤い芽ワサビちゃんはぷるぷるとふるえます。
「ぴち~!」
「あえ? そっちです?」
赤い芽ワサビちゃんは、土の畑を通り過ぎて……池の方に向かいました。
芽ワサビちゃんたちが過ごしている、あの水耕栽培地ですね。
「そっちですか~」
「ぴち~」
すぐさま後を追うハナちゃんですが、池に到着してみると――。
「……あえ?」
「ぴちー! ぴちー!」
――池に、変なものが生えていたのです。
緑色をした、長さ一メートルくらいの……触手? みたいなもの。
それが三本ほど、水面から顔を出して、うねうね、うねうねとしていたのでした。
「……なんです? これ」
「ぴち! ぴちー!」
この池に生えてしまった、謎の触手。近くで見ようと、ハナちゃんは池に向かいます。
「なんですか~?」
そして、池を覗き込んだ、その時――。
にっこり。
――池の中にいる何かと、目が合います。
その眼は、池の底からじっと、こちらを見つめていました。
「あやー!!!!!」
「ぴちー!!!」
突然の怪奇現象に、ハナちゃんびっくり!
大声を上げてしまいました。
赤い芽ワサビちゃんは、ハナちゃんの声にびっくり!
ワサビちゃんの池に、ハナちゃんと芽ワサビちゃんの声が、響き渡ったのでした……。
◇
「温泉掃除、まだみんな集まってないの」
場所は変わって、村自慢の温泉施設。
どうやら早く来すぎたようで、まだ他の当番の人は来ていませんね。
「準備はしておくの」
しかしナノさん、他の人のために準備をしてくれるようですね。
とっても気が効く、ステキな若奥さんです。
そうしてガチャガチャと掃除道具を準備して、浴場の確認です。
たまに、人が入っているときがありますからね。
「服は置いてないの」
脱衣場を確認したナノさん、服がない事を確認。
ということは、誰も入浴していないはず。
しかし――。
「……? 誰か、入ってるの?」
――ぱしゃぱしゃ、ぱしゃぱしゃと、浴場から音がしているのです。
誰かが、何かが……いるようです。
「確認してみるの」
服は無いけれど、誰かがいる。
ここは女湯なので、とりあえず中を確認してみることにしました。
ガラガラと引き戸を開けて、浴場に入っていくナノさん。
そこで目にしたものは――。
「なの?」
――たくさんの、赤い触手のようなもの。
うねうね、うねうねと、動いていたのでした。
「――変なのがいるのー!」
思わず叫んだナノさん、その声に反応して、触手が「びく」となりました。
そして――何かが、立ち上がりました。
「え? え? なんなの?」
ナノさん、動揺します。
だって、たくさんいるのですから。
にっこり。
ナノさんを、たくさんの何かが……じっと、見つめたのでした。
◇
「今日も良い天気かしら~」
「お水、沢山くんでおこうね」
お次は腕グキさんとステキさん。
お店の準備のために、お水をくみに炊事場へ。
お料理屋さんはお水を沢山使うので、大事な大事なお仕事なのです。
蛇口つきポリタンクにたっぷり水をくんで、今日もお仕事頑張りましょう!
しかし――。
わきゃ! わきゃきゃ!
「あら? 誰かいるわ~」
「ほんとだ。子供たちかな?」
炊事場に行くと、水場では何か賑やかな感じです。
小柄な人影が、わきゃわきゃと動いておりました。
二人はその人影の方へ歩いて行きます。
――そしてすぐに、異変に気づきました。
青くて長いなにかが、うねうね、うねうねと動いているのです。
「あら? しっぽ?」
「しっぽの生えた……子供?」
はて、そんな子供は村におりません。
なにか、様子がおかしいです。
二人はもっと近づいて、見てみることにしました。
すると――。
「ここのお水は、美味しいさ~」
「順番に飲むさ~」
「あっちの方では、体が温まるところもあるらしいさ~」
――そんな話し声が、聞こえてきたのです。
この謎の存在たち、筒から流れ出るお水を、あくあくと飲んでいたのでした。
「あらららら? あらららら?」
「あれれれ? あれれれ?」
予想外の事態に、腕グキさんとステキさん、わけがわからなくなりました。
どうして良いのかもわからず、ポリタンクを抱えて右往左往します。
わりと行列が出来ちゃっているので、お水がくめないのです。
あきらめて、最後尾に並びましょうね。
――こうして、村の一日は始まったのでした。
◇
村で同時多発的に、なんかが起きている。
ひとまず、最寄りの腕グキさんたちの所へと駆けつけてみた。
そしたら――なんかたくさん、いらっさった。
「おっきなひとが、またきたさ~」
「おじゃましてますさ~」
「ここのおみず、おいしいさ~」
「これでおさかながいたら、さいこうさ~」
炊事場には、十人くらいの――それなりにちいさなちいさな存在が、いた。
身長三十センチから、大きい人は百二十センチくらい。
子供のような小柄さで、顔も可愛い。エルフの子供みたいな顔つきをしていた。
そして耳は長くて、これもエルフとよく似ている。
金髪色白、銀髪褐色、黒髪象牙肌。大体この髪と肌の色の人々だ。
みんな表情はゆるゆるで、寝ぼけまなこな表情。
ぼんやりほわほわ、とってもゆるさを感じさせる。
服装は、色とりどりな刺繍がなされた、ポンチョのようなものを羽織っている。
……縄文のような、蛇のような意匠の文様だな。
そこまでであれば、「ゆるい顔をしたエルフの子供」で片づけられた。
だが彼らには――決定的に違う部分があった。
まず初めは――しっぽ。
青っぽい鱗? みたいなもので覆われた、身長と同じくらいの長さの――しっぽがあるのだ。
うねうね、ぱたぱたと動いていて、かなり自在に動かせると思われる。
根元はエメラルドグリーン、それが先端に行くにつれて、だんだん青くなっている。
不思議なしっぽだね。
次に、腕だ。
腕の中ほどから指先までが、やはり青い鱗で覆われて、ひれが付いている。
そして小さな手の、指の間には水かきが見て取れる。
これも、指先に行くにつれて青くグラデーションがかかっているね。
最後に、足。
これも腕と同様で、スネの半分から下、そしてつま先までがグラデーションがかかった青い鱗に覆われていた。
足指の間にも水かきがあって、ヒレのような役割をするのかな?
どうにも、水陸両用な人たち、な感触。
炊事場の水が流れているところで、水飲み待ちをしているようだ。
……この人たち、集会場に集めたほうが良いな。
ちょうどポリタンクを抱えた二人がいるので、水はそこにくんでもらって、集会場で飲んでもらおう。
二つ合わせて四十リットル入るから、まあ足りると思う。
「すみません、お水をタンクにくんで、集会場でこの人たちに飲ませてあげて頂けます?」
「いいわよ~」
「ここでならぶよりは、しゅうかいじょうで、のんびりしてたほうがいいものね」
二人ともそれで良いみたいなので、このしっぽちゃんたちにもお願いしよう。
「みなさん、この入れ物に水をくんで持っていきます。なので、もっとくつろげる場所でお水を飲めますよ」
「それはありがたいさ~」
「ここ、ちょっとさむいさ~」
「おっきないれものだから、みんなでのめるさ~」
しっぽちゃんたちもそれで良いようで、しっぽをぱたぱたさせて喜んだ。
全員の同意が貰えたので、これでいいね。
「それでは、お水をくみますのでしばしお待ちを」
「はーいさ~」
そうしてポリタンクにじゃばじゃば水をくんで、水を大量に確保する。
「おみず、たくさんさ~」
「このいれもの、べんりさ~」
「わっかのついているこれも、べんりさ~」
大量の水が確保されたのを見て、しっぽちゃんたち、わきゃわきゃとはしゃいでいる。
台車も珍しいのか、好奇心いっぱいの目で見ているね。
さて、これで準備が出来たので、集会場に行ってくつろいで――。
「たいへんなのー!」
――おっと、ナノさんの方も見てこないと。
「お二人ともすみません、この方々を、集会場までご案内頂けますか?」
「わかったわ~」
「ささ、みんなこっちにいらっしゃい」
「こっちさ~?」
「いくさ~」
さっそく案内してくれるようで、腕グキさんたちがポリタンクを積んだ台車を押して移動を始めた。
しっぽちゃんたちは、そのあとをてこてこと歩いてついて行く。
こっちに手を振って歩いて行った一行を見送り、ここでのお仕事は終了だ。
それじゃあ、次は温泉だ。
村の入り口でおろおろしているナノさんがいるので、声をかけましょうねと。
「すいません、温泉に何かありました?」
「しらないひとたちが、おんせんにたくさんいるの!」
……知らない人たちが、温泉にたくさん。
特徴を聞いてみよう。大体なんか、予想ついてるけど。
「その人たちの、特徴って分かります?」
「あかいしっぽがあって、ちっちゃいからだなの!」
――ん? 赤いしっぽ?
さっき炊事場にいた人たちは、青かったよな……。
でも、しっぽとちっちゃい体、というのは一致しているな。
色違いの部族、なんだろうか?
とりあえず、そう思っておこう。赤しっぽちゃん、なんだろう。
その赤しっぽちゃんたちは、温泉に行っているようだ。
「実はその人たちの仲間が、炊事場にもいらっしゃいまして。さっき集会場へ案内しました」
「そうなの?」
「ええ。温泉にいる方々にも、声をかけてきます。集会場で待っていて頂ければと」
「わかったの」
ナノさんは集会場に行ってもらうようにして、俺は温泉へ急ごう。
そして温泉へ走って行き、無事到着。
建物の中に入ってみると……。
「あったまったさ~」
「なんもしなくてもあったかいなんて、すばらしいさ~」
「ほかほかさ~」
休憩場に赤しっぽちゃんたちがいて、ほんわかくつろいでいた。
見た感じ、炊事場で出会った青しっぽちゃんたちと、鱗の色が違うだけだね。
よかった、おんなじ種族だよ。
そしてその赤しっぽちゃんたちは、ポンチョみたいなのは着ていなかった。
なんか、カボチャぱんつみたいな短パンと、へそ出しTシャツみたいなかっこうをしている。
温泉で存分に温まったらしく、ほかほかしているね。
さっそく声をかけよう。
「みなさん、温まりましたか?」
「なんか、おっきなひとがきたさ~」
「あったまったさ~」
「おじゃましてるさ~」
声をかけると、みんなこちらを見上げて、しっぽをぱたぱたさせた。
もうなんか……ゆるい。すっごくゆるい。
このしっぽちゃんたちも、集会場に来てもらおう。
「みなさん、ちょっとお話ししたいことがあるので、集会場までいっしょに来てもらえますか?」
「いいさ~」
「しゅうかいじょうって、あったさ?」
「あるらしいさ~」
ほかほかしっぽちゃんたち、ゆるゆると立ち上がって、ゆるゆるとポンチョみたいな服を着はじめた。
さっきの青しっぽちゃんたちと、おんなじポンチョっぽいやつだね。
やっぱりこの子たち、仲間なんだろう。
……でも、その服はどこにしまってたの?
さっきまで、手ぶらだったよね?
……まあ、気にしないようにしよう。
それじゃあ、準備も出来たみたいなので、集会場へ行こう。
「ではみなさん、行きましょう」
「いくさ~」
俺の後を、ゆるい雰囲気のしっぽちゃんたちが、てこてことついてくる。
なんか、子供の引率をしているみたいで、ほんわかするなあ。
とまあこうして休憩場から出て、集会場へ向かおうと歩き出した時のこと。
ズボンのすそが、クイクイと引かれた。
身長六十センチくらいの子が、何か言いたげな顔でこちらを見ている。
どうしたのか聞いてみよう。
「どうしました?」
「とちゅうで、おみずをのんでもいいさ~?」
ああ、のどが渇いたんだね。温泉に入ったのだから、当然だろう。
休憩所にあるポリタンクは、まだ水を補給しておらずからっぽだ。
ちょっと寄り道になるけど、炊事場の水場で水分補給をしてもらおう。
「もちろん良いですよ。たくさん飲んでください」
「うれしいさ~」
「ここのおみず、おいしいさ~」
「おみずがおいしいところは、いいところさ~」
お水が飲めるとあって、みんなわきゃわきゃと喜び始めた。
しっぽをぱたぱたさせていて、可愛いなあ。
それじゃあ、炊事場に水を飲みに行こう。
その後、集会場へご案内だね。
「集会場にもお水は用意してあるので、そこでも沢山飲めますよ」
「たすかるさ~」
「いたれりつくせりさ~」
こうして温泉に現れたしっぽちゃんたちも、無事回収。
あとは、ハナちゃんところだね。
多分そっちも、しっぽちゃんが出没しているのでは?
急いで確認してみよう。
「それでは、ここで待っていて下さいね」
「わかったさ~」
「あ、みんなあつまってるさ~」
先に集会場で待っていた青しっぽちゃんたちを見つけて、赤しっぽちゃんたちもわきゃわきゃと建物へ入って行った。
それじゃあ、ハナちゃんたちの所へ急ごう。
それなりの速度で走って、ハナちゃんの声がした方へ。
少し探して、芽ワサビちゃん池のところ二人を見つけた。
その足元では、赤い芽ワサビちゃんがぴちぴちと飛び跳ねている。
「みなさんお待たせしました。何かありましたか?」
「あや! タイシきたです~!」
「タイシさん、あれをみてください! いけになんか、いるんですよ! いるんですよ!」
「ぴちー!」
駆けつけると、すぐさまハナちゃんたちは池を指さした。
芽ワサビちゃんは葉っぱをぷるぷる震わせて、何かをアピールしている。でも、正直わからない。
あと、ヤナさんなんでか、稲川○二風の喋りになっている。それ、普通に怖い!
……まあ、それはそれとして。
ハナちゃんとヤナさんが指さした先には――緑の、うねうねするなにかが、池から三本生えている。
……色は違えど、明らかにあの子たちのしっぽだね。
水中に潜っているんじゃないか?
「ハナちゃん、あれ多分、新しいお客さんだよ」
「あえ? おきゃくさんです?」
「多分ね。村の他の場所でも、何人か見つかったんだ」
「え? ほかの場所にもあんなのがいるんですか?」
「ぴ、ぴち~……」
多分お客さんだと伝えると、ハナちゃんぽかんとした。
ヤナさんはぷるっぷる。芽ワサビちゃんも、ぷるっぷる。
……まあ、しっぽだけ見たらちょっと怖いかもね。
触手がうねうねしているみたいだから。
「ぴち~、ぴち~……」
芽ワサビちゃんは、とつぜん池というか、じぶんたちのすみかに知らない存在がやってきて、驚いたんだろうな。
……あと、他の芽ワサビちゃんは水底でぷるぷるしている。
しっぽが動くと、ぷるぷるっとして逃げて行く。
今まで池に潜る人なんていなかったから、扱いに困っているのかもね。
このうねうねの正体、教えておこう。
「あれは本体じゃなくて、しっぽなんだ」
「あえ? しっぽです?」
「……そう言われれば、そう見えますね」
「ぴち?」
謎のうねうねの正体がしっぽだと分かると、ハナちゃんきょとんとする。
ヤナさんは、ふむふむという顔になった。
芽ワサビちゃんは……ごめん、正直わからない。葉っぱはぷるぷるしなくなったけど。
まあ、あとは実際に姿を見て貰おう。
本体はちっこくて可愛い子たちだ。声をかけてあげれば、池から出てきてくれるだろう。
その姿とゆるさを見れば、ハナちゃんもヤナさんも、芽ワサビちゃんも安心するんじゃないかな?
では、出てきてもらいましょう!
「そこの池の中のみなさん、ちょっと出てきていただけませんか?」
「……? よんださ~?」
「おじゃましてるさ~」
「このいけ、みずがきれいさ~」
声をかけたら、ぱしゃっと池から上半身が出てきた。
あのへそ出しTシャツ、着たまんまだね。
三人とも、こんにちはだ。
「あやー!!! ひとがでてきたです~!」
「こ、子供……ですか?」
「ぴち~! ぴち~!」
しっぽちゃんが顔を出すと、三人ともびっくり仰天だ。
ハナちゃんは、お目々まんまるでエルフ耳がぴっこーん。
ヤナさんは、ぷるぷるしながら指をさし。
芽ワサビちゃんも、なんだかぷるぷるしている。
まあ、知らなければ驚くよね。
謎のうねうねの正体が、まさかこんなゆるい人だとは思わない。
さて、顔を出してくれたのだから、話を続けよう。
「ちなみに、なんでこの池に潜っていたのですか?」
「おさかな、さがしてたさ~」
「なにかがおよいでたから、おさかなかとおもったさ~」
「でも、おさかなみつからないさ~」
お魚を探していたとな。……芽ワサビちゃんが泳ぐのを見て、お魚と思ったらしい。
でもお魚を探して、どうするんだろう? 食べるのかな?
「お魚を探して、どうするのですか?」
「おなかへったさ~……。おさかな、たべたいさ~……」
あ、やっぱり。
「ここのところ、ぜんぜんたべてないさ~」
「おなかぺこぺこさ~」
「やばいさ~」
なるほど、食べ物を探しているんだね。
しかし、この池は芽ワサビちゃん水耕栽培場であって、お魚はいない。
エルフの森に流れる川にも、お魚はいない。
この辺をいくら探しても、見つけられないはずだ。
この近辺にはお魚はいないことを、教えてあげないとね。
「この辺にお魚はいないですよ」
「――! おわったさ~……」
「ここがさいごの、のぞみだったさ~……」
「さよならさ~……」
――ああ! しっぽちゃんたちが池に沈んでいった!
ショック受け過ぎでしょ……。
◇
――その後、消防団の組織力を使って、みんなで村を捜索した。
そしたら、村のあちこちで色違いのしっぽちゃんが発見された。
青、赤、黄色、緑。いろんな鱗の色があるようだ。
ちなみに、しっぽちゃんたちは警戒心を全然持っていないので、声をかけたらほいほいついてくる。
……お父さん心配だよ。
そうしてなんとか、見つけた子は全員集会場に集めることが出来た。
「みんな、どうしたです? ちょっとげんきないです?」
「おなか、ペコペコさ~……」
「あや! おなかすいてるです?」
「すいてるさ~……」
……しかし、お腹を減らしている様子も見て取れる。
村に散らばっていたのは、食べ物を探すためだったようだ。
彼らはお魚が食べたいと言っているので、何とかしてあげたい。
幸いこの村……というか村の管轄地には、最適の場所がある。
そう、湖畔のリゾートだ。そこなら、お魚が沢山泳いでいる。
というわけで。
湖畔リゾートに連れて行って、しっぽちゃんたちに――お腹いっぱいお魚を食べさせてあげよう!
「みなさん、お魚が沢山いる湖があるので、そこでお魚をとって食べませんか?」
「おさかな! たべられるさ~?」
「そんなみずうみ、あるさ~?」
「おさかな、ひさしぶりさ~!」
しっぽちゃんたち、お目々キラッキラで俺を見上げる。
反対意見は無いようなので、このプランで問題ないみたいだね。
それじゃあフクロオオカミ便を使って、湖畔リゾートに行きましょう!
「それでは、みんなで移動しましょう。準備するので、少々お待ちを」
「わかったさ~」
「たのしみさ~」
「おさかな~、おさかなさ~」
お魚が食べられるとあって、しっぽちゃんたち、わきゃわきゃとはしゃいでいる。
では、準備しましょうかね。
……あ、その前に、これで全員かを確認しないと。
見つけていない子をおいてけぼりにしたら、かわいそうだからね。
「そうそう、こっちに来たのは、これで全員ですか?」
「いまのところは、これでぜんいんさ~」
……今の所は?
どういうことだ? 後からまだまだ、来ちゃうの?
「今の所というと、後から来るのですか?」
「もうしばらくすれば、あとじゅうにんほど、くるさ~」
「その人たちは、まだ移動途中なのですか?」
「そうさ~」
どうやら、これで全員では無いらしい。
まだこちらに来れていない人たちが、いるらしい。
……手伝った方が良いかな?
「自分たちも、手伝った方が良いですか?」
「だいじょうぶさ~、すぐにくるさ~」
「ほんとに大丈夫ですか?」
「うちらも、たすけられたさ~。あんしんして、まかせられるさ~」
「とっても、つよいこさ~。もんだいないさ~」
手伝いはしなくても、問題ないようだ。どうやら凄い人がいるっぽい。
確実な移動手段か、任せても安心の何かがあるっぽい。
自信満々な様子だから、ここはこの子たちのいう事を信用しよう。
「……では、その人たちはまた迎え入れるとして。ひとまずは、お魚を食べに行きましょう」
「おさかな~、たのしみさ~」
「たくさんたべるさ~」
「しおやきが、いいさ~」
かくして、村に新たなお客さんがやってきたのだった。
それなりに、ちいさなちいさな存在。
しっぽがあって、とっても雰囲気のゆるい、かわいい人たち。
お魚を食べがてら、この人たちからお話を聞いてみよう。
一体何が起きたのか、どうやってここまでたどり着いたのか。
きっと、大変だったのだろう。
「タイシ~、オオカミさん、じゅんびできたです~」
「ハナちゃんありがと、助かったよ。頭なでなでしてあげる」
「うふ~」
「後でお礼をするね。何でも言ってね」
「ぐふふ~」
そうこうしているうちに、ハナちゃんがフクロオオカミ便の準備をしてくれた。
とっても助かる。後でお礼をしておこう。
――さて、準備も整ったところで。
それじゃあ、湖畔リゾートでお魚祭りだ。
みんな、おなかいっぱい食べて貰いましょう!