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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十六章 当たり前すぎて、気づかなかったこと
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第一話 お隣です~


 エルフ世界と妖精さん世界は、同じ宇宙、同じ恒星系に存在していた。

 惑星と衛星という、お隣さんの関係だった。


 まあ、お隣さんと言っても別の星ではある。

 ちたま基準では、アメリカやロシア並みの宇宙開発技術と予算がなければ、行き来することは不可能だ。

 それも着の身着のまま、徒歩五分でというのは不可能である。

 そういう意味では、異世界ではなくとも、到達不可能なはずの別世界とは言える。


 このエルフ惑星と妖精衛星とが行き来出来るようになったのは、偶然か、奇跡か、必然か。

 そのどれかは分からないが、まあとにかく繋がった。

 おかげで、世界がぐっと――広がった!


 惑星を衛星から観測することができるし、衛星を惑星から観測することもできる。

 ……妖精衛星は、裏っかわは撮影できないけど。

 それでも、分かることは多いだろう。全部ではないにせよ。


 とくに、灰化現象について、一つの光が見えてきた。

 全くの異世界同士で起きていた現象では、なかったからだ。

 全くの別世界だったら、本当に悩ましかった。意味が分からなかった。

 だけど、同じ世界で起きていた。


 ……星をまたいで起きた、というのはやっぱり意味不明ではあるけど。

 しかし、同じ世界で起きた同じ現象、ではある。

 であるならば。


 ――何らかの、共通項があるはずだ。


 幸運にも両方の世界に、自由に行き気が出来るようになっている。

 エルフの森と妖精花畑を比較して、その共通項を探っていきたい。

 ただ、妖精さん世界を調査すると、なぜかちたまの人は、曇りなき澄んだまなこになってしまう。

 不思議だなあ。なんでだろうなあ。さっぱり理由が、分からないなあ。


 とまあ、ちたまの人が抱える謎については、謎のままにして。

 とりあえず、この星々に名前をつけよう。


 エルフたちの住む星は――エルフィン。

 妖精さんたちの住む星は――フェアリン。


 そのまんま。特にひねりも無く。分かり易いのが一番だよね!

 というか、ちたまだってひねりゼロだからね。アースとか地球とかちたまとか、まんまなわけで。

 だから、これでいいのだ。


 と言うわけで、ひとまずこの星々を観測していこう。

 きっとなにか、楽しいことが見つかるはず。

 もしかしたら、新たな出会いがあったりして。



 ◇



 小難しい観測やらあれこれは、とりあえず地道に行うとして。

 まずはエルフと妖精さんたちに、お互いが隣人だと言うことを知って貰いたい。

 そんなわけで、天体観測イベントの開催だ!


 まずは、フェアリンからエルフィンを観測する。


「おわ~、あれがおれたちのいたところなんだ~」

「せかいがまるいとか、ふるえる」

「おっこちちゃわないの?」

「あっちに、みんながすんでたの? すんでたの?」

「きゃい~」


 空を見上げたり、望遠鏡で撮影している映像を見たり。

 みなさんキャッキャしたりぷるぷるしたりと、大はしゃぎだね。

 妖精さんたちも、きゃいきゃいとはしゃいでいる。


「ちなみに、ここから観測し続ければ、いずれみなさんの世界の、『見た目』は明らかになります」

「え? 見た目だけですか? 全貌ではなく」

「そうだよ、見た目だけ」


 俺が「見た目は」明らかになると言ったら、ユキちゃん不思議そうな顔で聞いてきた。

 まあ、今回エルフ世界は「衛星」から自身を観測できるようにはなった。

 だけど、結局それは「見える」だけであって。

 衛星から観測しただけじゃ、全貌は分からないんだよね。

 これは実際の写真を交えて、説明しておこう。


「ほらユキちゃん、これが湖畔リゾートの衛星写真だけど……ぶっちゃけ、良くわからないよね?」

「……確かに。洞窟がどこにあるかも、休憩場がどこかも分かりませんね」

「そこはやっぱり、手書きの地図が必要になるんだよ」

「ですね。大きな事はわかるけど、逆に言うと、それしか分からないんですね」

「そういう事」


 エルフ惑星と妖精さん衛星は、なんだかんだで結構距離がある。

 ちたまのすぐ近くを周回する人工衛星でさえも、鮮明な画像撮影は苦労しているわけで。

 ましてやこの妖精さん衛星は、大気がある。

 詳細な地図に出来る程の画像は、取得は出来ないんだよね。

 あとは、実際の所現地に行って確かめないと、そこに何があるのかの詳細は分からない。

 結局のところ、地道に人の目と足でもって調べないと、本当の所はわからないわけだ。


「そんなわけで、カナさんと平原の人たちのお仕事は、まだまだ必要ですね。多分これからもずっと」

「がんばって、ちずをかきますね!」

「まあ、この衛星画像を参考にして、もっと位置関係の精度は高められると思います」

「さっそく、ちずをなおします!」


 カナさんは大興奮で、タブレットの画像を見つめているね。

 これからも、分かりやすい地図作成、お願いしますだ。


「まあ、これ以上の細かい所は、妖精さん世界の『夜』を待つとしましょう」

「たのしみです~」

「そうですね。気長に調べて行きましょう」


 ハナちゃんとユキちゃんは、調査に付き合ってくれるようだ。

 二人とも、ワクワクした表情だ。


 今までは、妖精さん世界の昼が待ち遠しかった。

 妖精さんたちが、遊びに来ることを期待していた。

 でも、今度からは夜も待ち遠しい。

 エルフ世界が、もっと見えるようになるから。


 妖精さんたちの自立により、この世界に来られるようになって。

 エルフと妖精さんたちが、隣人だと分かって。

 衛星から惑星を観測できるようになって。

 色々な事が分かってくるだろう。


 これからが楽しみだ。この広がった可能性、活かして行こう。

 じゃあ次は、エルフィンからフェアリンを観測だね。

 これは暗くなってからだね。


「では、夜になったら妖精さん世界を見てみましょう」

「あい~。のんびりおほしさま、みるです~」

「バーベキューでもしながら、楽しみましょう!」

「おだんごもつくるね! おだんご!」


 ――そして夜になってから、エルフィンのキャンプ場にて観測会を始める。


「あれがわたしたちのおほしさま? おほしさま?」

「キラッキラだね! キラッキラ!」

「わりといいかんじ~」

「きれいにみえてるです~」


 エルフィンは夜なので、フェアリンがよく見える。

 拡大してみてみると、かなり輝いているね。

 これは多分、ダイヤモンドが光を反射しているからだと思われる。

 フェアリンは、なぜだかダイヤモンドが豊富だ。炭素主体の衛星なんだろう。

 ちたまのお月様より数倍明るくて、満月になったらかなり眩しいと思われる。


「あれが、みんながすんでるところなんだな~」

「おとなりさんとか、すてき」

「おとなりさんだね! おとなり!」


 エルフと妖精さんたち、フェアリンを観測してやっぱりキャッキャとはしゃいでいる。

 お互いの星を天体観測して、ぐぐっと親近感が沸いたのかもね。

 みんなでタブレットをのぞき込んで、それはもう楽しそうだ。


 そうして、楽しく天体観測をしていたときのこと。


「あや! タイシタイシ! こっちのほう、ひかってるです~」


 ハナちゃんがタブレットを持って、こっちにやってきた。

 ……何が光っているんだろうか。


「光っているって、何が?」

「こっちの、くらいとこ、なんかひかってるです?」


 そうしてハナちゃんがタブレットを操作して、お月様の暗い部分を拡大する。

 ……なんで、ハナちゃんまで操作覚えてるの?

 俺、操作方法教えてないよ?


 ……まあ、気にしないようにしよう。

 物覚えが良い、賢い子なんだ。


「あ、確かに光ってますね。……ちたまの衛星写真の、夜の部分に似てますね」


 ユキちゃんものぞき込んできたけど、確かにそうだ。

 ちたま衛星写真の、夜の部分とよく似ているね。

 点々と、光っている地域が見て取れる。


 これは――お花畑か?

 うちの村にある妖精花畑も、夜になるとそらもう光る。

 そして超大規模な花畑がフェアリンにはあるっぽいから、多分それなのでは。


「これって、多分だけど……妖精さんたちのお花畑だと思う」

「あや! おはなばたけです!?」

「あ~、それっぽいですね」


 発光体がある程度の密度で存在しているなら、割と良く観測できる。

 日本海のイカ釣り漁船の光すら、人工衛星から見えるからね。

 ちょっと、妖精さんたちにも見て貰おう。


「みんな、この暗いところの光って……多分お花畑の光だよね?」

「それっぽいね! それっぽい!」

「このかたち、みおぼえあるよ! そっちらへんの、おはなばたけだよ!」

「しゅっしんち~」


 妖精さんたち、きゃいっきゃいになってタブレットに群がる。

 どうやら心当たりのある子もいるようで、大はしゃぎだ。

 中には、自分の出身地といって、特定の部分を指さす子も。


 ……あれか、妖精さんたちは空を飛べる。

 だから、空から見た地理、マクロな地形や地域の形を知ることが出来るからかも。

 ちょっと聞いてみよう。


「みんな、自分所の地理とか地形とか、だいたい分かる?」

「わかるよ! わかるよ!」

「よく、あそびにいくの! あそびにいくの!」


 問いかけると、妖精さんたちきゃいっきゃいで答えてくれた。

 やっぱり、空から眺めて自分たちの世界のことは、ある程度知っているようだ。

 この辺、地上を歩くしか無い俺たちとは、感覚が違うんだろうな。


「いっしゅうしたこも、いるんだよ! いるんだよ!」


 そしてサクラちゃん、なんか衝撃的な事を言っておられる。

 ……一周した子も、いるとな?

 それってまさか。


「……ね、ねえ。一周って、お星様を一周したってこと?」

「そうだよ! そうだよ! おともだちで、いっしゅうしたこがいるよ! いるよ!」


 そのまさか。……妖精さんたち、凄いな……。

 持ち前の妖精ぱわーで、星を一周しちゃえるんだ。

 というか、その子は冒険家妖精さんだね。


「大志さん、一周した子がいるのなら、裏っかわの話が聞けるかもですよ?」

「あ、確かにそうだ。ユキちゃんナイス」

「ふふふ」


 ユキちゃんも話を聞いていたらしく、ナイスアドバイスをしてくれた。

 確かに、天体観測じゃフェアリンは裏っかわが見られない。

 潮汐ロックによって、ずっと同じ面を向けているからね。

 でも、冒険家妖精さんから話を聞けたなら、裏っかわの事も分かるかもしれない。

 サクラちゃんに、ちょっとお願いしておこう。


「その、一周した子からお話を聞いてみたいんだけど、伝言とか出来る?」

「むずかしい? むずかしい?」


 ちょっと期待したけど、どうも難しいらしい。


「……難しいんだ」

「おだんごたべに、すぐあそびにいっちゃうの! おだんごたべに!」

「さようで」


 ……冒険家というより、食い道楽のようだ。

 でも、それならいずれ村にやってくるね。間違いない。

 なんたって、村には不思議なお団子があるからね!

 きっと、噂を聞きつけて、そのうちやってくるんじゃ無いかと思う。

 そのときを、楽しみに待とう。


 まあ、食い道楽ちゃんとの邂逅は楽しみにとっておくとして。

 これからも、地道に天体観測を続けていこう。

 公転周期やら自転周期やら、決定するにはちょっと時間がかかる。

 そこら辺の細かい観測、色々やっていきましょう!



 ◇



 また増殖したでござる。


「きゃい~」

「きゃい~きゃい~」

「きゃいきゃい~」

「おおぜいきました~」


 今度はイトカワちゃんが、百人くらい連れてきたでござる。

 どんどん妖精さんが、増殖していくでござるね~。


「ほかのこも、もうすぐくるよ! くるよ!」

「ですよね」

「みんなおだんご、たのしみにしてるの! してるの!」

「ですよね」


 妖精さんが、ずんどこ増えていく。村のお花畑は、もう賑やか大爆発。

 村一番の大勢力となっているでござるね。

 しかも、まだまだ増えるでござるよ。


「すげえことになってんな~」

「ようせいさんたくさんとか、すてき」

「おれのじまんの、ようせいさんおうち、せいさんがまにあわないのだ……」


 村のみんなも、お花畑のキラッキラ具合をみて、キャッキャしているね。

 妖精さんがいなくなって静まり返ったのを知っているから、賑やかになって嬉しいようだ。

 実の所、俺も賑やかになって嬉しい。

 ……おっちゃんエルフは、いきなり仕事が増えてちょっとお疲れだけど。でもまあ、顔は嬉しそうだ。

 おっちゃんが無理しないよう、気にかけておかないとね。


「ほんとに、おおぜいきてますな」

「みどころあるかな~」

「たのしいわね」

「はじめまして! はじめまして!」


 平原のお三方や、他の観光客の方々も、ウッキウキでお花畑を見学だ。

 妖精さん居住区は今や、楽しい楽しい観光名所となった。

 ちょろっと歩き回ると、これがもうほんと楽しい。


 お花の蜜を集める妖精さんや、虫さんと戯れる妖精さん。

 大きなお花の中で、すぴぴとお昼寝する妖精さん。

 訪れた人に、謎のお団子を振る舞う妖精さん。

 森の動物たちと、のんびり遊ぶ妖精さん。


「からだがかるいね! すごいね!」

「すいすいとべちゃうね! すいすい!」

「たのしい~」


 脆化病の予防治療をされた子たちは、楽しそうに空を飛んでる。

 今の所色付き粒子は見えないけど、念のため巫女ちゃんにまた見てもらわないといけないね。

 ある程度の人数が揃ったら、また巫女ちゃんにお願いしよう。


「これがあれば、とおくてもへっちゃら! へっちゃら!」

「からだがかるくなるね! かるくなるね!」

「あじはあんまり、おいしくないけどね! はっぱのあじがするね!」

「おかあさんに、もっていってあげましょ~」


 あと、脆化病の予防措置をまだしていない子でも、火を通していないやつがあれば、長距離を飛べてしまう。

 脆化病じゃないけれど、このシダ植物を目当てに村に来ている子もいるっぽい。


 ……これはあれだね、エルフ観光客だけではなく、妖精観光客も来てくれるかも。

 さらには妖精さん世界とも、交易が出来るかも。

 夢、かなり膨らむ。


「タイシタイシ、なんかおもしろいこと、かんがえたです?」

「楽しそうな顔になってますよ」


 楽しい夢を妄想していたら、顔に出ていたようだ。

 ハナちゃんとユキちゃんが、ワクワクの表情で聞いてきた。

 今考えていたこと、ちょっと話してみよう。


「えっとね、妖精さんたちも観光客になってくれたら……楽しいかもって思ってさ」

「あや! ようせいさんたち、たくさんくるかもです!」

「それは楽しそうですね!」


 二人とも、ノリノリだ。脆化病治療で訪れた今でさえ、こんなに賑やかだ。

 じゃあ、純粋に楽しみに来てくれたなら……もっと楽しいのでは。


 それに、妖精さんたちの脆化病は、完全にゼロには出来なくとも、いずれは限りなくゼロにまで克服できるだろう。

 元気な子が増えれば、他の子を元気にするメンバーに加われる。

 いずれ、この村は治療目的としての地としては、役目を終えるか、主任務ではなくなる。

 そうなったとき、訪れる子がいなくなるのは寂しすぎる。

 そうならないためにも、観光地化や交易拠点化は必要だね。


 であるならば、この妖精さんたちがリピーターになるよう、楽しく過ごしてもらわないとね。

 まず初めは、お団子で歓迎するのが一番かな?


「ほ~ら、みんな、ちたまのすごいお団子だよ。沢山あるよ。マシュマロっていう甘い奴だよ」

「おだんご! おだんご!」

「すごいおだんご? すごいおだんご!」

「きゃい~」


 この村で楽しい思い出を作って、クチコミ広げてね。

 あとは、ゆっくりとお金に関することを教えて行こう。

 そうすれば、妖精さんたちも村でお買い物ができるからね。


 とまあこんな感じで、賑やかにおもてなしをしていたところ。


(にぎやか~)


 楽しそうな雰囲気に釣られて、神輿がほよほよとやって来た。

 今日もご機嫌、ぴかぴか光っているね。


「神様、お供え物がありますよ。こちらのマシュマロ、お召し上がりください」

(わーい!)


 さっそくお供え物をすると、神輿超ご機嫌だ。

 ぴかぴか光りながら、マシュマロを堪能している。


「かみさま? かみさま?」

「おとなえものする? する?」

「おだんご、おそなえしましょ~」


 あ、妖精さんたちがお団子を取り出した。

 それ、どこにしまってたの?

 ……まあ、妖精さんたちもお供えしたいみたいだ。

 なんか、いろんなお団子がどんどん積み上げられていく。


(おだんご、たくさん~)


 うず高く積上げられていくお団子を見て、神輿大はしゃぎ。

 くるくるぴかぴか、今か今かとお供えの瞬間を待っているね。


「わたしもおそなえしよ! しよ!」

「これもどうぞ! どうぞ!」

「あるだけ~」

(およ?)


 あれ? ほかの妖精さんも集まってきて、お団子を積み上げはじめた。

 だんだんヤバい物量になっていくぞ……。


「これもどうぞ! どうぞ!」

(およよ?)

「まだまだあるよ! あるよ!」

(およよよ?)


 ――ああ! 神輿がお団子に埋もれた!



 ◇



 そんな楽しい日々を送りつつ、地味に天体観測は続ける。


「ハナちゃん、今日も一緒にお星様を見ようね」

「あい~! タイシといっしょに、おほしさまみるです~」

「今日は良く晴れていて、天体観測日和ですね」


 エルフィンからフェアリンを観測しようと、ハナちゃんとユキちゃんとで準備をする。

 ハナちゃん大はしゃぎで、おやつをもぐもぐしながら空を見上げているね。

 エルフ耳がぴっこぴこしていて、楽しいのが伝わってくるよ。


 それじゃ今日も楽しく、フェアリンを眺めま――。


「あや~、タイシ、ふたつめもみえるです~」


 ――しょう?


 ん?


 ……ハナちゃん、今なんと?


「ハナちゃん、今……なんて?」

「あえ? ふたつめです~、ふたつめ」


 ハナちゃん、おやつをもぐもぐしながら空を指さす。

 フェアリンとは反対方向、結構低い位置だ。

 どれどれ……あ、なんか天体が見える。

 なんだ? あれ。


「た、大志さん……そう言えば……」


 そして、ユキちゃんがその天体を指さして、ぷるぷるする。

 どうしたの?


「大志さん……。前にハナちゃん、言ってましたよね?」


 ユキちゃんは、じっと、天体を見つめる。

 青い色をした、それを。


 そして――こう続けた。


「ハナちゃんたちの所……お月様が――みっつ、あるって」


 ……はい?

 ま、まさかね。そんなまさか。でも、俺もそんなことを聞いたことがある。

 たしか、神様の排水事業調査のときだ。

 動画にも、ばっちり撮影してあったような……。


 ひとまず、ハナちゃんに聞いてみよう。


「……ハナちゃん、アレってもしかして、お月様?」

「あい~! ふたつめのやつです~!」


 ハナちゃん、こともなげに言う。

 むしろ、訪ねられて嬉しそうにキャッキャしている。可愛いなあ。

 それじゃあ、もひとつ確認だね。


「ちなみに、お月様って三つあるんだっけ?」

「あい~! みっつあるです~」

「あ、あわわわわわ……」


 ハナちゃんまた、こともなげに答える。やっぱりキャッキャしている。

 それと対照的に、ユキちゃんはぷるぷるしている。


 そうだねユキちゃん。

 俺もなんか、ぷるぷるしてきたよ。


 フェアリンを除いた、残りの二つのお月様。

 このお月様に、もし、生命が存在できる環境があったなら。


 ……なんか、嫌な予感しない?

 エルフィンで起きたことが、衛星であるフェアリンにも起きたんだよね?


 もし、残りの二つの衛星にも、生きものが住んでいたら。

 ……なんか、起きてそうじゃない?


 …………。


 ――どうしよう?


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