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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第十六話 贈り物

「タイシ~、このへんでいいです?」

「ハナちゃんありがと、そこで大丈夫だよ」

「あい~」

「一緒につくりましょうね」


 ハナちゃんとユキちゃんが、んしょんしょとかまどを作ってくれている。

 今は送別会の為に、会場を設営している真っ最中だ。


 会場はエルフ世界の、洞窟のそば。神様の排水事業を見学するための場所だったところだ。

 この場所……俺が知らないうちに、なんだかイベント広場になっていた。

 野外でなんかしたいエルフたちが集まって、なんかする場所となっているそうだ。


 そんなわけで、洞窟ら辺キャンプ場に、会場をこさえていく。

 テーブルを置いたり天幕を張るだけだけど。


「みずはもう、ぜんぜんないね! ないね!」

「おはな、はいいろ! はいいろ!」

「なつかしかったね! なつかしかったね!」


 そうして送別会の準備をしていると、妖精さんたちがきゃいきゃいと洞窟から出てきた。

 どうやら、故郷の妖精さんせかいに行っていたらしい。


 ……そういや、妖精さん世界がどうなっているか、確認してなかったな。

 妖精さんたちを送り出す前に、見ておいた方がいいかも。

 ちょっとお願いしてみよう。


「ねえ君たち、自分もちょっとみんなの世界を見てみたいのだけど、良いかな?」

「いいよ! いいよ!」

「いっしょにいこ! いっしょにいこ!」

「ごあんない~」


 まあそんな感じで、妖精さん世界へと見学に向かう。

 案内役は、サクラちゃんとイトカワちゃん。見学者は、俺とハナちゃんとユキちゃん。

 みんなでワイワイと、洞窟を潜り抜けて。あっというまに、妖精さん世界へと到着。

 しかし、そこは――。


「なんだか、くらいです?」

「いまはよるだよ! よるだよ!」


 ――暗かった。完全に夜だね。

 案内役のサクラちゃんは、そんな暗い中を……ちいさな光るチューリップみたいなお花を持って、照らしている。

 妖精ライトだね。懐中電灯みたいにつかえて、便利な花だな。

 俺たちも早速、懐中電灯を使おう。


 リュックから懐中電灯を取り出して、スイッチオン。足元を照らしてみる。

 すると……灰色になったお花畑が、照らし出された。

 沢山、沢山の花が……灰化している。そして、それがずっと、ずっと続いている。

 これほど大規模な花畑が、たった数日でこんな事になってしまったのか。

 灰化現象とは、恐ろしい物だ。何としても、原因を突き止めなくてはいけないな。


「あや~、ハナたちのところと、おんなじです~」

「これは……凄まじいですね。でも、幻想的でもあります」

「これはこれで、きれいかも! きれいかも!」


 暗い夜の世界の中で、一面に広がる灰色の花々。

 それらがライトに照らされて、キラキラと光を反射する。

 確かに、幻想的ではある。モノクロームの美しさが、そこにはあった。


 ……ただ、お花が咲いていればもっと美しかったはずだ。

 これはこれで良いけど、灰化していないほうがもっと良いよね。

 いまさら言ってもどうにもならないけど、ついついそんなことを思ってしまう。


「これも、調べて何とかしたいね」

「そうですね」

「ハナもおてつだいするです~」


 そうしてしばらくの間、みんなで灰化した花畑を見つめたのであった。



 ◇



「あれ? 大志さん、……気のせいでしょうか。体が軽くありません?」

「……言われてみれば、確かに」

「びみょうなかるさです?」

「そうかな? そうかな?」


 ユキちゃんに指摘されて気づいたけど、確かになんか体が軽い。

 前にカヌーで来た時は、カヌーに乗った座位状態だったからわからなかったのかな?

 この世界、一G以下なのかもしれない。

 ……まあちたまでも、場所によって重力は違ったりするけど。

 エルフ世界とはまた違った環境に、改めて驚く。そしてさらに。


「あれはなんです?」

「おつきさまだよ! おつきさま!」

「お月様なの? ……良く見えないけど」

「輪郭は……なんとなくですかね?」


 ハナちゃんが空を指さしたところには、なんだか丸いやつが。

 妖精さんが言うには、お月様らしいけど。

 ……輪郭はぼやっと見えるくらいで、暗くて良くわからない。

 というか、前に来た時も薄暗かったな。

 あのときは余裕がなくて、色々確認している暇はなかったけど。


 ……この世界って、昼間はあるのかな?

 妖精さんに聞いてみようか。


「君たちの所って、明るくはならないの?」

「たま~に、ずっとあかるくなるよ! なるよ!」

「たまに、ずっと明るくなるの?」

「そうだよ! そうだよ!」


 う~ん、不思議な日照パターンだね。ずっと明るくなるとな。

 ここは妖精さん惑星の、極に近い位置なのかな?

 白夜とかそんなかんじ?


 そういえば、妖精さん世界の花や生き物は自発光する存在が多いな。

 夜が長いか多い世界だから、自分で光るようになったのかもしれないな。


 色々興味は尽きないけど、妖精さんたちは帰ってしまう。調査は、後の話になるかな?



 ◇



 送別会の開催準備は順調に進んでいった。

 またまた佐渡から親父たちを呼び寄せ、爺ちゃん婆ちゃんも帰ってきて。

 着々と、送別会参加者が集まる。


 そんな中で、予想外のゲストもやってきた。


「はじめまして! おくすりのおれいにきたの!」

「うちのこがせわになりまして、おれいもうしあげます」


 妖精ちゃんが無理してお薬をこねた、あの出来事。

 そのとき熱を出しちゃった子の一家が、お礼にやってきたのだ。

 もうなんか大家族で、キャッキャとにぎやか。


「ようせいさんたちが、こきょうへたびだつってきいて、しらせなきゃっておもったんですよ」

「そしたら、おれいをいいたいってことになったかな~」

「せっかくなので、いっしょにきたんです」


 あのご家族を連れてきたのは、平原のお三方。

 相変わらず、良い仕事をする人たちだ。感謝感謝だね。


「ようせいさん、ありがとう~!」

「どういたしまして! いたしまして!」

「げんきになって、よかった! よかった!」

「きゃい~」


 当時お薬をこねてくれた、三人の妖精ちゃんたち。

 面と向かってお礼を言われて、きゃいっきゃいだ。

 旅立つこの子たちへの、すてきな選別になったね。


 さて、大家族さんたちを新たなゲストに迎えて、もうすぐ送別会だ。



 ◇



 そして数日後。とうとうその日がやってきた。

 妖精さんたちの旅立ち、別れの日だ。


「村の大事な仲間である妖精さんたちは、今日旅立ちます」

「あや~……」

「さみしいな~」

「ようせいさんたちのおうち、まにあわなくて、すまんかったのだ」


 ハナちゃんはじめ、村のエルフたちは寂しそうだ。俺も寂しい。

 おっちゃんエルフは、妖精さんたち用の家の設計が間に合わなくて、申し訳なさそうな感じだね。

 あとちょっと、のところまで来ているらしいけど……まあ、仕方がない。


「まあ、設計は続けてくれ。きっと役立つから」

「わかりました」

「つづけるのだ」


 高橋さんとしては、設計を続けてもらうようだ。

 まあ、妖精さんたちとは今生の別れというわけでもない。

 高橋さんの言うとおり、きっとそのうち、必要になるだろう。

 それに、この経験は無駄にはならない。人が住む家というものの設計を、学んでいるのだから。


「みんなげんきだしてね! だしてね!」

「またあそびにくるよ! くるよ!」

「そのうちまた、あいましょ~」


 そんなしんみりした空気を、とにかく明るい妖精さんたちが吹き飛ばす。

 きゃいきゃいとにぎやかに、またの再会を約束して。

 そうだね、しんみりした雰囲気はこれでおしまい。

 あとは――にぎやかにいこう!


「はいみなさん! しんみりはこれでお終いにして……笑顔で送ってあげましょう!」

「それがいいね! それが!

「にぎやかにね! にぎやか!」

「にこにこがおで、いきましょ~」


 妖精さんたちもにぎやかなほうが良いようで、きゃいっきゃいと賛同してくれた。


「えがおでおくるです~」

「それが一番ですね」

「というか、またくるから! またくるから!」

「ちょっとのあいだ、おわかれなだけ~」


 別に今生の別れでもないからね。そのうち会えるのだから。

 それじゃあ、にぎやかに送別会を始めましょう!



 ◇



「ようせいさんたち、これをどうぞです~」

「ありがと! ありがと!」

「チョコとイチゴ! ざんしんだね! ざんしんだね!」

「まねしていい? まねしていい?」


 ハナちゃんは、妖精さんたちにお手製のデザートを振舞っている。

 果物やらを、湯煎で溶かしたチョコレートでコーティングするアレだ。

 チョコフォンデュってやつかな?


 ひとくち大に切ってある各種果物を、妖精さんたちはきゃいっきゃいでチョコにつけて食べている。

 気に入ったようで、真似していいか確認しているね。

 でも妖精さんたち、火を使っている場面を見たことないな……。

 真似するの、難しいのでは?


「おくすりありがとう! これはおれいだよ!」

「おいしそうなくだもの! くだもの!」

「たくさんある~」

「これとか、あまいね! あまいね!」


 大家族ちゃんは、お礼に果物を贈っている。

 見たことない果物が多いけど、さっそくかじっているイトカワちゃん曰く、甘くて美味しいようだ。

 ……でも、その銀色のまるでパチンコ玉みたいなやつは、ほんとに食べられるのかな?


「妖精さんたち、旅をするなら良いものあるわよ。甘くて美味しい、保存食よ。はいこれどうぞ」


 おふくろは餞別に、保存の効くお菓子を持ってきたようだ。

 銀色のパックに入っている、ガチのやつだ。二年くらい保存できちゃうやつ。


「あまくておいしいほぞんしょく? ほぞんしょく?」

「どんなあじかな? どんなあじかな?」

「かたくて、かじれないやつ~……」


 妖精さんたちはさっそく、お袋の餞別を抱えてきゃいきゃいしているけど。

 あとイトカワちゃん、封を切らないと食べられないやつだからね、それ。


「俺からはこれだ。おびただしい量のチョコレート。甘いもの好きだって聞いたからな」

「きゃい~!」

「きゃい~、きゃい~」

「おいしいね! あまいね!」


 高橋さんからは大量の業務用チョコレートが贈られた。

 妖精さんたち大喜びで、きゃいきゃいと飛び回る。

 あとイトカワちゃん、旅立つ前にもう大量消費しちゃうの?


「かみさまとくろいこには、おれいをするよ! するよ!」

「みんなでつくったよ! つくったよ!」

「どうかな? どうかな?」


 そして妖精さんたち、神様にお礼の贈り物をしている。

 偉い子たちだね。フクロイヌと神様が助けてくれて、水抜きもしてくれて。

 ちゃんと恩義は感じているね。


「ギニャギニャ」

(すてきなおはな~)


 妖精さんたちからの。贈り物。フクロイヌは沢山の甘い蜜。大喜びで舐めているね。

 神様には、ダイヤをこねて作ったと思われる、ちっちゃなお花。巫女ちゃんにあげていた、あれだ。

 みんなできゃいきゃいと、神輿の屋根に飾り付けてあげている。

 ……神輿の装飾品が増えたな。キラッキラだ。


「タイシさんにも、おれいだよ! おれいだよ!」

「え? 俺?」


 サクラちゃんが、俺にもお礼をくれるようなことを言っている。

 俺が貰っちゃっても、良いのかな?


「あ~タイシさん、だいじょうぶですよ。みんなで、それがいいって、そうだんしたことですので」

「相談ですか?」

「ええ、ようせいさんたちに聞かれまして。それなら、それなら、タイシさんがだいひょうして、受けとるのが良いと」


 俺が代表? ほんとにそれで良いのかな?


「ハナちゃんは大丈夫? 妖精さんのお世話、沢山していたと思うけど」

「だいじょぶです~! タイシがもらうのが、ふさわしいです~!」


 ハナちゃんも、それで良いみたいだ。

 じゃあ、俺が代表しよう。みんなの代表となって、受け取ろう。


「……ありがたき幸せだね。では、私がみんなを代表します」

「お願いします」


 ヤナさんがペコリと頭を下げて、俺もついつい、ペコペコしちゃう。日本人のサガなのだ。


「おくりものは、これだよ! これだよ!」

「がんばってつくったの! つくったの!」

「これも、せいこうしたやつ~」


 そして、サクラちゃんが取り出したるは……(はす)の花を模した……ダイヤの王冠?

 これも、緋緋色金を使った、蔓植物の意匠が施されている。

 直径五センチくらいの大きさで、ちっちゃいけど頭に乗せられなくも無い。


「きずなのあかしだよ! あかしだよ!」

「かんしゃのしるしだよ! しるしだよ!」

「おうさまがみつかったら、おくるの~」


 これも絆の証だそうだけど、王様?

 妖精さん世界にも、そういう権力者の概念って、あるみたいだ。

 俺は王様ってガラじゃあないけど、これは感謝と絆の贈り物だ。

 受け取らないという選択肢はない。


「みんなありがとうね。これは、頭にかぶればいいのかな?」

「のせてあげる! のせてあげる!」

「みんなで、のせましょ~」

「そ~れ!」


 受け取る意思をみせたら、妖精さんたちが協力して……王冠を乗せてくれた。

 ……意外と重量あるな。妖精さんたちの感謝が、ずっしりと来る。

 これは、大事にしないとね。俺とエルフたちと、ちたま側のメンバーと、それと村の動物たちと。

 みんなと妖精さんたちとの、絆の証なのだから。


「タイシ~、にあってるです~」

「大志さん、なんだか威厳があるように見えます」

「おうさま! おうさま!」

「きゃい~きゃい~」


 ハナちゃんとユキちゃん、そして妖精さんたちが祝ってくれた。

 普段着にこの豪華な王冠は合わないと思うけど、まあ雰囲気は良いみたいだ。


「これ、市場価格いくらになんの?」

「小さな国家なら、買えるくらいかしら?」

「とんでもないもん、貰ってんな。明らかにそれ、至宝とかいう奴だぞ」


 そして高橋さん、お袋、親父は……曇りなき澄み切ったまなざしで、妖精王冠を見ているね。

 あげないからね。


「あっはっは! 大志もとうとう『王』になっちまったか!」

「ふ、ふふふ……。大体、そうなっちゃうのよねえ」

「それだけの事は、していると思います」

「あ~にゃ」


 爺ちゃんと婆ちゃんは、もう大笑いだ。

 爺ちゃん婆ちゃんも、シャムちゃんのとこの世界では王様だからね。

 まあ、象徴としてだから縛りは無いみたいだけど。

 お供さんも、あっちこっち放浪する王様のお供なんて、大変だろうけど。

 うちの家族を、お願いしますだね。

 ……シャムちゃんはお供なのかな? なんか違う気もするけど。お供の仕事してないし。


 まあそれはそれとして。

 妖精さんたちのお礼に、言葉を返そう。


「みんなの感謝、受け取ったよ。この絆、大事にするからね」

「だいじにしてね! だいじにしてね!」

「きゃい~」

「きゃい~きゃい~」


 大喜びの妖精さんたち、俺の周りをひらひらぴこぴこと飛び回る。

 羽根から白い粒子が沢山出ていて、俺の周りはキラッキラだ。


「あや~、きれいです~」

「ほんとに、妖精王みたいですね」

「きゃい~」


 ……妖精王か。ガラじゃあないけれど、悪い気はしないな。

 このちいさなちいさな存在たちに慕われるなんて、最高じゃあないか。


 こうしてみんなで飲んで食べて、妖精さんたちに餞別をあげて。

 妖精さんたちから、感謝の贈り物をもらって。

 にぎやかに楽しく送別会は行われていった。


 そして数時間後、宴もたけなわとなって。

 送別会の終わりが――やってきた。

 次は、妖精さんたちを送り出す会だ。


「それじゃあみんな、妖精さん世界に行って、見送ろう」

「あい~」


 みんなで妖精さん世界へ移動して、洞窟前で妖精さんたちと相対する。

 ……大量の餞別を貰ったはずだけど、妖精さんたちなんか身軽。

 あの餞別、どこにしまってるの?


 まあそれは気にしないことにして、旅立ちを祝う挨拶をしよう。


「みんなは、これから自分たちの広い世界に飛び立って……羽根を治すお仕事をすることになるね」

「するよ! するよ!」

「がんばるね! がんばるね!」

「まずは、あっちのおはなばたけに、いきましょ~」


 妖精さんたちはすっかり覚悟ができているようで、もうすでにどこから手をつけるかプランがあるようだ。

 とてもたのもしい。送り出すことに、自信が持てる。


「そのお仕事は大変だから、色々あると思う。なんか色々」

「タイシ、あいまいなかんじです?」

「便利な言葉だよね」

「べんりだね! べんり!」


 ふわっとした感じではなしたら、ハナちゃんからつっこみが。

 どんなことが起こるかはわからないので、まあ色々あるという事で。

 話を続けよう。


「まあ色々あって困ったら、遠慮なく頼って欲しい。いつでも村に来てね」

「まってるです~!」

「お菓子をよういしておくから、みんなあそびにきてね」

「まってるわ~」

(つなげとくよ~)


 困ったら遠慮なく頼って欲しいと言うと、ハナちゃんやヤナさん、それの他のエルフたちも続く。

 みんな同じ気持ちだよね。いつでも、村に遊びに来てほしい。


「わかったよ! またくるよ!」

「すぐにいくね! すぐに!」

「あかるくなったら、きましょうか~」

「あそびにきましょ~」


 妖精さんたちもそれに応えてくれる。またすぐに、来てくれると。

 その言葉を信じて、俺たちは待とう。


 それじゃあ――送り出しますか!

 色々話したいこと、伝えたいことはたくさんあるけど、これくらいにして。

 いってらっしゃいの、言葉を贈ろう!


「それでは妖精さんたち――いってらっしゃい!」

「「「いってらっしゃ~い!」」」


 俺がいってらっしゃいを言うと、エルフたちもちたま側のメンバーも、いってらっしゃいの言葉を贈る。

 それを受けた妖精さんたちは――。


「いってきます! いってきます!」

「またね! またね! いってきます!」

「おしごとがんばるね! おしごと! いってきま~す!」


 きゃいきゃいと、行ってきますを返してくれた。

 そして、手を振りながらひらひらと飛び上がり――。


「あや~! きれいです~!」

「まるで光の雨みたいですね!」

「すっごい綺麗ね! いいもの見られたわ!」

(きれい~)


 ――妖精さんたちは天高く飛び上がり、白い粒子を降らせた。

 それはまるで……流星群。

 妖精世界の夜に、ひとときの昼が、輝きがきらめく。


「うわ~、すげえあかるくなったな~」

「キラキラたくさんとか、すてき~!」

「あれ、おれ……ないてるのか?」


 ちたまメンバーもエルフたちも、妖精さんたちから降り注ぐ数多(あまた)の光に、感動している。

 これは美しい。これは幻想的だ。

 そして、とっても暖かい。

 こんな光景を見られただけでも、頑張ったかいがあったな。


 妖精さんたちは何度も何度も、何度も俺たちの上を旋回して、粒子を降らせて。

 やがて――遠くへ飛んで行った。


「あや~……いっちゃったです……」

「行ってしましましたね」

「さみしくなるわ~」

「あれ? おれ、ないてるのか……?」


 妖精さんが飛び去った後、周囲はまた暗くなって。

 それでもみんなはいつまでも、妖精さんたちが飛んで行った方角を……みつめていた。

 いつまでも。


 ――妖精さんたち、行ってらっしゃい。



 ◇



 ここはとある世界の、とある空。

 ちいさなちいさな存在たちが、楽しそうに飛んでいました。

 その羽根から出る白い光は、キラキラ、キラキラと暗闇を照らします。


「からだがかるいね! かるいね!」

「これがあれば、どこまでもいけるね! いけるね!」

「とぶのが、らくちん~」


 どこかで見たシダ植物のようなものをかじって、ちいさなちいさな存在たちは空を飛んでいます。

 みんなの顔は、笑顔で、明るくて。そして、希望があふれて。


「あっちのおはなばたけ、まだかな? まだかな?」

「とべないこ、たくさんいたよね? いたよね?」

「みんなで、なおしましょ~」


 ちいさなちいさな存在たちは、真っ直ぐ目的地へと向かいます。

 そこに住んでいる、飛べなくなった存在を目指して。


 ちいさなちいさな存在たちが飛んだあとは、白いキラキラが沢山。

 暗闇の世界が照らし出されて、明るくなります。


 キラキラの軌跡がずっと、ずっと伸びていて。

 それはまるで――天の川。

 銀河のような輝きが、地表を照らします。


 そうして地表を照らしながら、ちいさなちいさな存在たちは、飛んで、飛んで、飛んで。

 やがて――。


「みえてきたよ! みえてきたよ!」

「あっちのおはなばたけ、もうすぐだね! もうすぐだね!」

「きゃい~」


 ――とうとう、目的地が見えてきました!

 ちいさなちいさな存在たち、ぐぐっと速度を上げて行きます。

 綺麗な白いキラキラで、空を輝かせながら。


「みんな! いくよ! いくよ!」

「はねをなおすよ! なおすよ!」

「がんばりましょ~!」


 そして、ちいさなちいさな存在たちは――お花畑へと、飛んで行きました。

 そこには、ぽかんとした顔で空を見つめる、仲間たちが。


「……これって、ゆめ? ゆめ?」

「あのこたちが、とんできた? きた?」

「まさか? まさか?」


 お花の服を着ている、ちいさなちいさな存在たち。

 まだ、自分の目が信じられないようです。

 でも、夢ではありません。


 諦めかけていた、逃げ遅れた子たち。

 力が弱っていた、ちいさなちいさな存在たち。

 みんな――無事に帰って来たのです!


「ぶじだたったのね! ぶじだったのね!」

「よかった! よかった~!」

「きゃい~! きゃい~!」


 その日は、お花畑にずっと、ずっと。

 ちいさなちいさな存在たちの、喜びの声が響いて。

 きゃいきゃいと、再会を喜んで。


 お花畑は、ちいさなちいさな存在たちの、喜びの光で明るくなって。

 みんなの羽根が、光り輝いて。

 夜なのに、まるで……昼間のように、明るくなっていたのでした。


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