第十六話 贈り物
「タイシ~、このへんでいいです?」
「ハナちゃんありがと、そこで大丈夫だよ」
「あい~」
「一緒につくりましょうね」
ハナちゃんとユキちゃんが、んしょんしょとかまどを作ってくれている。
今は送別会の為に、会場を設営している真っ最中だ。
会場はエルフ世界の、洞窟のそば。神様の排水事業を見学するための場所だったところだ。
この場所……俺が知らないうちに、なんだかイベント広場になっていた。
野外でなんかしたいエルフたちが集まって、なんかする場所となっているそうだ。
そんなわけで、洞窟ら辺キャンプ場に、会場をこさえていく。
テーブルを置いたり天幕を張るだけだけど。
「みずはもう、ぜんぜんないね! ないね!」
「おはな、はいいろ! はいいろ!」
「なつかしかったね! なつかしかったね!」
そうして送別会の準備をしていると、妖精さんたちがきゃいきゃいと洞窟から出てきた。
どうやら、故郷の妖精さんせかいに行っていたらしい。
……そういや、妖精さん世界がどうなっているか、確認してなかったな。
妖精さんたちを送り出す前に、見ておいた方がいいかも。
ちょっとお願いしてみよう。
「ねえ君たち、自分もちょっとみんなの世界を見てみたいのだけど、良いかな?」
「いいよ! いいよ!」
「いっしょにいこ! いっしょにいこ!」
「ごあんない~」
まあそんな感じで、妖精さん世界へと見学に向かう。
案内役は、サクラちゃんとイトカワちゃん。見学者は、俺とハナちゃんとユキちゃん。
みんなでワイワイと、洞窟を潜り抜けて。あっというまに、妖精さん世界へと到着。
しかし、そこは――。
「なんだか、くらいです?」
「いまはよるだよ! よるだよ!」
――暗かった。完全に夜だね。
案内役のサクラちゃんは、そんな暗い中を……ちいさな光るチューリップみたいなお花を持って、照らしている。
妖精ライトだね。懐中電灯みたいにつかえて、便利な花だな。
俺たちも早速、懐中電灯を使おう。
リュックから懐中電灯を取り出して、スイッチオン。足元を照らしてみる。
すると……灰色になったお花畑が、照らし出された。
沢山、沢山の花が……灰化している。そして、それがずっと、ずっと続いている。
これほど大規模な花畑が、たった数日でこんな事になってしまったのか。
灰化現象とは、恐ろしい物だ。何としても、原因を突き止めなくてはいけないな。
「あや~、ハナたちのところと、おんなじです~」
「これは……凄まじいですね。でも、幻想的でもあります」
「これはこれで、きれいかも! きれいかも!」
暗い夜の世界の中で、一面に広がる灰色の花々。
それらがライトに照らされて、キラキラと光を反射する。
確かに、幻想的ではある。モノクロームの美しさが、そこにはあった。
……ただ、お花が咲いていればもっと美しかったはずだ。
これはこれで良いけど、灰化していないほうがもっと良いよね。
いまさら言ってもどうにもならないけど、ついついそんなことを思ってしまう。
「これも、調べて何とかしたいね」
「そうですね」
「ハナもおてつだいするです~」
そうしてしばらくの間、みんなで灰化した花畑を見つめたのであった。
◇
「あれ? 大志さん、……気のせいでしょうか。体が軽くありません?」
「……言われてみれば、確かに」
「びみょうなかるさです?」
「そうかな? そうかな?」
ユキちゃんに指摘されて気づいたけど、確かになんか体が軽い。
前にカヌーで来た時は、カヌーに乗った座位状態だったからわからなかったのかな?
この世界、一G以下なのかもしれない。
……まあちたまでも、場所によって重力は違ったりするけど。
エルフ世界とはまた違った環境に、改めて驚く。そしてさらに。
「あれはなんです?」
「おつきさまだよ! おつきさま!」
「お月様なの? ……良く見えないけど」
「輪郭は……なんとなくですかね?」
ハナちゃんが空を指さしたところには、なんだか丸いやつが。
妖精さんが言うには、お月様らしいけど。
……輪郭はぼやっと見えるくらいで、暗くて良くわからない。
というか、前に来た時も薄暗かったな。
あのときは余裕がなくて、色々確認している暇はなかったけど。
……この世界って、昼間はあるのかな?
妖精さんに聞いてみようか。
「君たちの所って、明るくはならないの?」
「たま~に、ずっとあかるくなるよ! なるよ!」
「たまに、ずっと明るくなるの?」
「そうだよ! そうだよ!」
う~ん、不思議な日照パターンだね。ずっと明るくなるとな。
ここは妖精さん惑星の、極に近い位置なのかな?
白夜とかそんなかんじ?
そういえば、妖精さん世界の花や生き物は自発光する存在が多いな。
夜が長いか多い世界だから、自分で光るようになったのかもしれないな。
色々興味は尽きないけど、妖精さんたちは帰ってしまう。調査は、後の話になるかな?
◇
送別会の開催準備は順調に進んでいった。
またまた佐渡から親父たちを呼び寄せ、爺ちゃん婆ちゃんも帰ってきて。
着々と、送別会参加者が集まる。
そんな中で、予想外のゲストもやってきた。
「はじめまして! おくすりのおれいにきたの!」
「うちのこがせわになりまして、おれいもうしあげます」
妖精ちゃんが無理してお薬をこねた、あの出来事。
そのとき熱を出しちゃった子の一家が、お礼にやってきたのだ。
もうなんか大家族で、キャッキャとにぎやか。
「ようせいさんたちが、こきょうへたびだつってきいて、しらせなきゃっておもったんですよ」
「そしたら、おれいをいいたいってことになったかな~」
「せっかくなので、いっしょにきたんです」
あのご家族を連れてきたのは、平原のお三方。
相変わらず、良い仕事をする人たちだ。感謝感謝だね。
「ようせいさん、ありがとう~!」
「どういたしまして! いたしまして!」
「げんきになって、よかった! よかった!」
「きゃい~」
当時お薬をこねてくれた、三人の妖精ちゃんたち。
面と向かってお礼を言われて、きゃいっきゃいだ。
旅立つこの子たちへの、すてきな選別になったね。
さて、大家族さんたちを新たなゲストに迎えて、もうすぐ送別会だ。
◇
そして数日後。とうとうその日がやってきた。
妖精さんたちの旅立ち、別れの日だ。
「村の大事な仲間である妖精さんたちは、今日旅立ちます」
「あや~……」
「さみしいな~」
「ようせいさんたちのおうち、まにあわなくて、すまんかったのだ」
ハナちゃんはじめ、村のエルフたちは寂しそうだ。俺も寂しい。
おっちゃんエルフは、妖精さんたち用の家の設計が間に合わなくて、申し訳なさそうな感じだね。
あとちょっと、のところまで来ているらしいけど……まあ、仕方がない。
「まあ、設計は続けてくれ。きっと役立つから」
「わかりました」
「つづけるのだ」
高橋さんとしては、設計を続けてもらうようだ。
まあ、妖精さんたちとは今生の別れというわけでもない。
高橋さんの言うとおり、きっとそのうち、必要になるだろう。
それに、この経験は無駄にはならない。人が住む家というものの設計を、学んでいるのだから。
「みんなげんきだしてね! だしてね!」
「またあそびにくるよ! くるよ!」
「そのうちまた、あいましょ~」
そんなしんみりした空気を、とにかく明るい妖精さんたちが吹き飛ばす。
きゃいきゃいとにぎやかに、またの再会を約束して。
そうだね、しんみりした雰囲気はこれでおしまい。
あとは――にぎやかにいこう!
「はいみなさん! しんみりはこれでお終いにして……笑顔で送ってあげましょう!」
「それがいいね! それが!
「にぎやかにね! にぎやか!」
「にこにこがおで、いきましょ~」
妖精さんたちもにぎやかなほうが良いようで、きゃいっきゃいと賛同してくれた。
「えがおでおくるです~」
「それが一番ですね」
「というか、またくるから! またくるから!」
「ちょっとのあいだ、おわかれなだけ~」
別に今生の別れでもないからね。そのうち会えるのだから。
それじゃあ、にぎやかに送別会を始めましょう!
◇
「ようせいさんたち、これをどうぞです~」
「ありがと! ありがと!」
「チョコとイチゴ! ざんしんだね! ざんしんだね!」
「まねしていい? まねしていい?」
ハナちゃんは、妖精さんたちにお手製のデザートを振舞っている。
果物やらを、湯煎で溶かしたチョコレートでコーティングするアレだ。
チョコフォンデュってやつかな?
ひとくち大に切ってある各種果物を、妖精さんたちはきゃいっきゃいでチョコにつけて食べている。
気に入ったようで、真似していいか確認しているね。
でも妖精さんたち、火を使っている場面を見たことないな……。
真似するの、難しいのでは?
「おくすりありがとう! これはおれいだよ!」
「おいしそうなくだもの! くだもの!」
「たくさんある~」
「これとか、あまいね! あまいね!」
大家族ちゃんは、お礼に果物を贈っている。
見たことない果物が多いけど、さっそくかじっているイトカワちゃん曰く、甘くて美味しいようだ。
……でも、その銀色のまるでパチンコ玉みたいなやつは、ほんとに食べられるのかな?
「妖精さんたち、旅をするなら良いものあるわよ。甘くて美味しい、保存食よ。はいこれどうぞ」
おふくろは餞別に、保存の効くお菓子を持ってきたようだ。
銀色のパックに入っている、ガチのやつだ。二年くらい保存できちゃうやつ。
「あまくておいしいほぞんしょく? ほぞんしょく?」
「どんなあじかな? どんなあじかな?」
「かたくて、かじれないやつ~……」
妖精さんたちはさっそく、お袋の餞別を抱えてきゃいきゃいしているけど。
あとイトカワちゃん、封を切らないと食べられないやつだからね、それ。
「俺からはこれだ。おびただしい量のチョコレート。甘いもの好きだって聞いたからな」
「きゃい~!」
「きゃい~、きゃい~」
「おいしいね! あまいね!」
高橋さんからは大量の業務用チョコレートが贈られた。
妖精さんたち大喜びで、きゃいきゃいと飛び回る。
あとイトカワちゃん、旅立つ前にもう大量消費しちゃうの?
「かみさまとくろいこには、おれいをするよ! するよ!」
「みんなでつくったよ! つくったよ!」
「どうかな? どうかな?」
そして妖精さんたち、神様にお礼の贈り物をしている。
偉い子たちだね。フクロイヌと神様が助けてくれて、水抜きもしてくれて。
ちゃんと恩義は感じているね。
「ギニャギニャ」
(すてきなおはな~)
妖精さんたちからの。贈り物。フクロイヌは沢山の甘い蜜。大喜びで舐めているね。
神様には、ダイヤをこねて作ったと思われる、ちっちゃなお花。巫女ちゃんにあげていた、あれだ。
みんなできゃいきゃいと、神輿の屋根に飾り付けてあげている。
……神輿の装飾品が増えたな。キラッキラだ。
「タイシさんにも、おれいだよ! おれいだよ!」
「え? 俺?」
サクラちゃんが、俺にもお礼をくれるようなことを言っている。
俺が貰っちゃっても、良いのかな?
「あ~タイシさん、だいじょうぶですよ。みんなで、それがいいって、そうだんしたことですので」
「相談ですか?」
「ええ、ようせいさんたちに聞かれまして。それなら、それなら、タイシさんがだいひょうして、受けとるのが良いと」
俺が代表? ほんとにそれで良いのかな?
「ハナちゃんは大丈夫? 妖精さんのお世話、沢山していたと思うけど」
「だいじょぶです~! タイシがもらうのが、ふさわしいです~!」
ハナちゃんも、それで良いみたいだ。
じゃあ、俺が代表しよう。みんなの代表となって、受け取ろう。
「……ありがたき幸せだね。では、私がみんなを代表します」
「お願いします」
ヤナさんがペコリと頭を下げて、俺もついつい、ペコペコしちゃう。日本人のサガなのだ。
「おくりものは、これだよ! これだよ!」
「がんばってつくったの! つくったの!」
「これも、せいこうしたやつ~」
そして、サクラちゃんが取り出したるは……蓮の花を模した……ダイヤの王冠?
これも、緋緋色金を使った、蔓植物の意匠が施されている。
直径五センチくらいの大きさで、ちっちゃいけど頭に乗せられなくも無い。
「きずなのあかしだよ! あかしだよ!」
「かんしゃのしるしだよ! しるしだよ!」
「おうさまがみつかったら、おくるの~」
これも絆の証だそうだけど、王様?
妖精さん世界にも、そういう権力者の概念って、あるみたいだ。
俺は王様ってガラじゃあないけど、これは感謝と絆の贈り物だ。
受け取らないという選択肢はない。
「みんなありがとうね。これは、頭にかぶればいいのかな?」
「のせてあげる! のせてあげる!」
「みんなで、のせましょ~」
「そ~れ!」
受け取る意思をみせたら、妖精さんたちが協力して……王冠を乗せてくれた。
……意外と重量あるな。妖精さんたちの感謝が、ずっしりと来る。
これは、大事にしないとね。俺とエルフたちと、ちたま側のメンバーと、それと村の動物たちと。
みんなと妖精さんたちとの、絆の証なのだから。
「タイシ~、にあってるです~」
「大志さん、なんだか威厳があるように見えます」
「おうさま! おうさま!」
「きゃい~きゃい~」
ハナちゃんとユキちゃん、そして妖精さんたちが祝ってくれた。
普段着にこの豪華な王冠は合わないと思うけど、まあ雰囲気は良いみたいだ。
「これ、市場価格いくらになんの?」
「小さな国家なら、買えるくらいかしら?」
「とんでもないもん、貰ってんな。明らかにそれ、至宝とかいう奴だぞ」
そして高橋さん、お袋、親父は……曇りなき澄み切ったまなざしで、妖精王冠を見ているね。
あげないからね。
「あっはっは! 大志もとうとう『王』になっちまったか!」
「ふ、ふふふ……。大体、そうなっちゃうのよねえ」
「それだけの事は、していると思います」
「あ~にゃ」
爺ちゃんと婆ちゃんは、もう大笑いだ。
爺ちゃん婆ちゃんも、シャムちゃんのとこの世界では王様だからね。
まあ、象徴としてだから縛りは無いみたいだけど。
お供さんも、あっちこっち放浪する王様のお供なんて、大変だろうけど。
うちの家族を、お願いしますだね。
……シャムちゃんはお供なのかな? なんか違う気もするけど。お供の仕事してないし。
まあそれはそれとして。
妖精さんたちのお礼に、言葉を返そう。
「みんなの感謝、受け取ったよ。この絆、大事にするからね」
「だいじにしてね! だいじにしてね!」
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
大喜びの妖精さんたち、俺の周りをひらひらぴこぴこと飛び回る。
羽根から白い粒子が沢山出ていて、俺の周りはキラッキラだ。
「あや~、きれいです~」
「ほんとに、妖精王みたいですね」
「きゃい~」
……妖精王か。ガラじゃあないけれど、悪い気はしないな。
このちいさなちいさな存在たちに慕われるなんて、最高じゃあないか。
こうしてみんなで飲んで食べて、妖精さんたちに餞別をあげて。
妖精さんたちから、感謝の贈り物をもらって。
にぎやかに楽しく送別会は行われていった。
そして数時間後、宴もたけなわとなって。
送別会の終わりが――やってきた。
次は、妖精さんたちを送り出す会だ。
「それじゃあみんな、妖精さん世界に行って、見送ろう」
「あい~」
みんなで妖精さん世界へ移動して、洞窟前で妖精さんたちと相対する。
……大量の餞別を貰ったはずだけど、妖精さんたちなんか身軽。
あの餞別、どこにしまってるの?
まあそれは気にしないことにして、旅立ちを祝う挨拶をしよう。
「みんなは、これから自分たちの広い世界に飛び立って……羽根を治すお仕事をすることになるね」
「するよ! するよ!」
「がんばるね! がんばるね!」
「まずは、あっちのおはなばたけに、いきましょ~」
妖精さんたちはすっかり覚悟ができているようで、もうすでにどこから手をつけるかプランがあるようだ。
とてもたのもしい。送り出すことに、自信が持てる。
「そのお仕事は大変だから、色々あると思う。なんか色々」
「タイシ、あいまいなかんじです?」
「便利な言葉だよね」
「べんりだね! べんり!」
ふわっとした感じではなしたら、ハナちゃんからつっこみが。
どんなことが起こるかはわからないので、まあ色々あるという事で。
話を続けよう。
「まあ色々あって困ったら、遠慮なく頼って欲しい。いつでも村に来てね」
「まってるです~!」
「お菓子をよういしておくから、みんなあそびにきてね」
「まってるわ~」
(つなげとくよ~)
困ったら遠慮なく頼って欲しいと言うと、ハナちゃんやヤナさん、それの他のエルフたちも続く。
みんな同じ気持ちだよね。いつでも、村に遊びに来てほしい。
「わかったよ! またくるよ!」
「すぐにいくね! すぐに!」
「あかるくなったら、きましょうか~」
「あそびにきましょ~」
妖精さんたちもそれに応えてくれる。またすぐに、来てくれると。
その言葉を信じて、俺たちは待とう。
それじゃあ――送り出しますか!
色々話したいこと、伝えたいことはたくさんあるけど、これくらいにして。
いってらっしゃいの、言葉を贈ろう!
「それでは妖精さんたち――いってらっしゃい!」
「「「いってらっしゃ~い!」」」
俺がいってらっしゃいを言うと、エルフたちもちたま側のメンバーも、いってらっしゃいの言葉を贈る。
それを受けた妖精さんたちは――。
「いってきます! いってきます!」
「またね! またね! いってきます!」
「おしごとがんばるね! おしごと! いってきま~す!」
きゃいきゃいと、行ってきますを返してくれた。
そして、手を振りながらひらひらと飛び上がり――。
「あや~! きれいです~!」
「まるで光の雨みたいですね!」
「すっごい綺麗ね! いいもの見られたわ!」
(きれい~)
――妖精さんたちは天高く飛び上がり、白い粒子を降らせた。
それはまるで……流星群。
妖精世界の夜に、ひとときの昼が、輝きがきらめく。
「うわ~、すげえあかるくなったな~」
「キラキラたくさんとか、すてき~!」
「あれ、おれ……ないてるのか?」
ちたまメンバーもエルフたちも、妖精さんたちから降り注ぐ数多の光に、感動している。
これは美しい。これは幻想的だ。
そして、とっても暖かい。
こんな光景を見られただけでも、頑張ったかいがあったな。
妖精さんたちは何度も何度も、何度も俺たちの上を旋回して、粒子を降らせて。
やがて――遠くへ飛んで行った。
「あや~……いっちゃったです……」
「行ってしましましたね」
「さみしくなるわ~」
「あれ? おれ、ないてるのか……?」
妖精さんが飛び去った後、周囲はまた暗くなって。
それでもみんなはいつまでも、妖精さんたちが飛んで行った方角を……みつめていた。
いつまでも。
――妖精さんたち、行ってらっしゃい。
◇
ここはとある世界の、とある空。
ちいさなちいさな存在たちが、楽しそうに飛んでいました。
その羽根から出る白い光は、キラキラ、キラキラと暗闇を照らします。
「からだがかるいね! かるいね!」
「これがあれば、どこまでもいけるね! いけるね!」
「とぶのが、らくちん~」
どこかで見たシダ植物のようなものをかじって、ちいさなちいさな存在たちは空を飛んでいます。
みんなの顔は、笑顔で、明るくて。そして、希望があふれて。
「あっちのおはなばたけ、まだかな? まだかな?」
「とべないこ、たくさんいたよね? いたよね?」
「みんなで、なおしましょ~」
ちいさなちいさな存在たちは、真っ直ぐ目的地へと向かいます。
そこに住んでいる、飛べなくなった存在を目指して。
ちいさなちいさな存在たちが飛んだあとは、白いキラキラが沢山。
暗闇の世界が照らし出されて、明るくなります。
キラキラの軌跡がずっと、ずっと伸びていて。
それはまるで――天の川。
銀河のような輝きが、地表を照らします。
そうして地表を照らしながら、ちいさなちいさな存在たちは、飛んで、飛んで、飛んで。
やがて――。
「みえてきたよ! みえてきたよ!」
「あっちのおはなばたけ、もうすぐだね! もうすぐだね!」
「きゃい~」
――とうとう、目的地が見えてきました!
ちいさなちいさな存在たち、ぐぐっと速度を上げて行きます。
綺麗な白いキラキラで、空を輝かせながら。
「みんな! いくよ! いくよ!」
「はねをなおすよ! なおすよ!」
「がんばりましょ~!」
そして、ちいさなちいさな存在たちは――お花畑へと、飛んで行きました。
そこには、ぽかんとした顔で空を見つめる、仲間たちが。
「……これって、ゆめ? ゆめ?」
「あのこたちが、とんできた? きた?」
「まさか? まさか?」
お花の服を着ている、ちいさなちいさな存在たち。
まだ、自分の目が信じられないようです。
でも、夢ではありません。
諦めかけていた、逃げ遅れた子たち。
力が弱っていた、ちいさなちいさな存在たち。
みんな――無事に帰って来たのです!
「ぶじだたったのね! ぶじだったのね!」
「よかった! よかった~!」
「きゃい~! きゃい~!」
その日は、お花畑にずっと、ずっと。
ちいさなちいさな存在たちの、喜びの声が響いて。
きゃいきゃいと、再会を喜んで。
お花畑は、ちいさなちいさな存在たちの、喜びの光で明るくなって。
みんなの羽根が、光り輝いて。
夜なのに、まるで……昼間のように、明るくなっていたのでした。