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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第十五話 結果報告

 妖精さんを送り出す前に、やらなければならないことがある。

 巫女ちゃんへの結果報告だ。


「おでかけだね! おでかけ!」

「いろんなおだんご、さがしましょ! さがしましょ!」

「きゃい~」


 というわけで、またもや妖精さんたちを乗せ、巫女ちゃんの住む町まで。


「おでかけです~!」

「村のそとは、ずいぶん雪がとけてますね」

「大志さん、今日はお出かけ日和ですよね。良く晴れていて気持ちいいです」

(にぎやか~)


 例によってハナちゃん、ヤナさん、ユキちゃんと神様も参加して、車内はもう大騒ぎだ。

 今回はもう、切羽詰った理由も無い。

 なのでおもいきり行楽気分で、心にもゆとりがある。

 それでは、巫女ちゃんのところに向かいましょう!



 ◇



 早朝で道が空いている中、真っ直ぐ巫女ちゃんの住む町に直行。

 あの道の駅にバスを停めて、巫女ちゃんたちと落ち合う。


「妖精さんたち、元気になった?」

「それは実際に見て、確認して欲しい」

「わかった!」


 すぐさま、元気よくバスへと乗り込んでいく巫女ちゃんだ。

 護衛君はその後を、音もなくついて行く。

 ただ、その足取りはちょっと……軽やかに見える。

 大勢の妖精さんと触れ合えるなんて、神秘極まる体験だろうからね。

 そりゃ、ワクワクもすると思う。


 そうしてバスへと乗り込んだ二人を追いかけて、俺もバスへと戻る。

 さあ、巫女ちゃん見てくださいだ。元気になった妖精さんたちを。


「妖精さん! おはよう!」

「おはよう! おはよう!」

「またあったね! またあったね!」

「おひさしぶり~」


 巫女ちゃんから挨拶された妖精さんたち、きゃいっきゃいで返答だ。

 白い粒子を撒きながら、巫女ちゃんの周りをぴこぴこと飛ぶ。


「わあ! 妖精さんたち、元気いっぱいになってる! ほんとに治ったんだ!」

「なおったよ! なおったよ!」

「ちから、もりもりだよ! もりもりだよ!」

「ありがとね! ありがとね!」


 元気になった妖精さんたちに囲まれ、巫女ちゃんキャッキャと大はしゃぎだ。

 護衛君も、この時ばかりは嬉しそうな顔になっている。

 俺からも、改めてお礼を言おう。


「君たちのおかげで、みんなを治すことが出来たよ。本当にありがとう」

「力になれてよかったー!」

「君たち……え? 僕もですか?」


 巫女ちゃんと護衛君にお礼を言うと、巫女ちゃんにっこり笑顔だ。

 しかし護衛君は首を傾げているね。まあ、診断の際彼は見守っていただけだ。

 ただ、彼が護衛しているからこそ……巫女ちゃんを、安心して連れ出せているわけで。

 事実として、彼の存在は大きい。


「君や君のご家族が見守っていてくれるから、安心して連れ出せるんだ。君たちがいなければ、あの子は一生……結界の中でしか、暮らせなくなっていた可能性がある」

「なるほど……そういう事ですか」

「そうなってしまえば、こんなに気軽に助けを求められなかった。君は胸を張って良いんだ」

「……僕のしていること、実感がわいてきました」


 護衛君は認められたのが嬉しかったのか、若干はにかんだような顔になった。

 実際問題、巫女ちゃんは結構危うい状態にいた。でも、護衛君の一族が支えてくれることで、何とかなっている。

 これは、誰にでも出来る仕事じゃあない。彼はまだ子供だけど、尊敬すべき人物の一人だ。


「これからも、あの子の事を守ってあげて欲しい」

「誓います」


 これからの事もお願いしたら、即答だ。これは頼もしい。

 巫女ちゃんは、彼がいれば大丈夫だ。


「……二人して、なにひそひそ話してるの? 男のないしょ話しは、だいたい悪だくみってママが言ってたよ?」


 ――おっと、内緒話をしていたら、巫女ちゃんに気づかれた。

 ごまかしておこう。


「お礼をいってはいさよなら、じゃ寂しいから、みんなでどこか遊びに行こうかって話をね」

「宇宙人さん嘘ついてるー! 私このまま、あぶだくしょんされちゃうんだー!」


 ちょっ……あぶだくしょんしないから! ちゃんと家に帰すから!

 というかもう完全に、俺は宇宙人扱いなの!?



 ◇



 巫女ちゃんを護衛君と一緒になだめて、みんなで遊びに出た。

 北信とは違って、こっちのほうはずっと暖かい。

 大きな公園で、妖精さんたちと戯れたり、お菓子屋さんをはしごして、お団子研究をしたり。

 お城を見学したり、その辺のネコちゃんと戯れたりと、楽しく遊ぶ。

 巫女ちゃんは妖精さんといっぱい遊べて、もう満面の笑みだ。


 午前はこうして楽しく時間が過ぎて行き、そろそろお昼。

 みんな、お腹が減る頃合いかな?

 お昼を提案しようじゃあないか。


「みんな、そろそろお昼にしない?」

「わーい! おひるです~」

「そうですね、そろそろおなかがへって来ました」

「きゃい~」


 みんなもお腹が減っていたようで、お昼と言ったらキャッキャとはしゃいでいる。

 さて、じゃあどこで食べようか。


「とは言え、自分はこの辺知らないんだよね。お店とか、良くわからないんだ」

「大志さん、魔女さん情報によるとですね。この辺に美味しいラーメン屋さんが、あるそうですよ」

「美味しいラーメン屋さん?」

「はい」


 魔女さんのお勧めか……じゃあ、そこに行ってみようか。


「じゃあお昼はラーメンで良いかな?」

「ラーメン、たべたいです~!」

「ぜひともぜひとも!」

「それでいいよ! それでいいよ!」

(おそなえもの~)


 ハナちゃんとヤナさん、そして妖精さんたちも賛成と。

 謎の声も嬉しそうだから、大丈夫だよね。

 じゃあ巫女ちゃんと護衛君はどうかな?


「二人もそれで良いかな? もちろんお金はこっちが出すよ」

「私もラーメン大好き!」

「僕もそれでかまいません」


 全員の賛同が得られたので、ラーメン屋さんでお昼に決定だね。

 では、向かいましょう!


「それじゃあラーメン屋さんに行こう。ユキちゃん、案内お願い出来るかな?」

「まかせて下さい」


 というわけで、バスに乗ってラーメン屋さんを目指す。

 しばらく走っていて気づいたけど、町はずれの方に向かっているようだ。

 道が広くて運転しやすいなあ。


「あ、大志さん、お店が見えましたよ。あのお店です」

「え? どこ? それっぽいお店、見当たらないけど」

「ほら、看板が有りますよ。あの場所です」

「ああ、あれか。見つけにくい場所にあるね」


 しばらく走っていると、ユキちゃんのナビにより、お店を発見。

 のぼりも出ていないから分かり辛かったけど、なんとかお店に到着。

 大きな駐車場にバスを停めて、いざ出陣だ。

 ……ただ、お昼なのに、お客さんが全然入っていないようだ。車が全然、停まっていない。

 これ、大丈夫なのかな?


「ユキちゃん、あんまり……流行ってない、みたいだけど」

「……みたいですね。魔女さんが、猛プッシュしていたお店……なんですけど」

「あれ? そういえば北信の魔女さんが、なんでここのお店を知っているのかな?」

「妖精ダイヤを買うために、そこの道路工事のアルバイトをしていたそうです」


 ユキちゃんが指さした先は、確かに真新しい道路があるね。

 しかし魔女さん、ダイヤを買うために道路工事のアルバイトって……。あ、涙が……。

 ま、まあ考えないでおこう。多分それが良い。


「それでお昼休憩のときに、たまたまこのお店を見つけたそうです」

「そうなんだ」

「そうらしいです」


 お店は閑古鳥が鳴いてる感じだけど、魔女さん的にはお勧めか。

 地元民は何か知っているかな?


「二人はこのお店の事、何か知っている?」

「わかんない」

「あ~、半年くらい前に出来た、という情報は押さえています。ただ、それ以外は特に……」


 巫女ちゃんは知らなかったようだけど、護衛君から多少の情報は得られた。

 ……巫女ちゃんを護衛するために、些細な情報も押さえているんだろうな。

 ただ、半年前に出来たという情報以外は、特に仕入れていないようだけど。


 ……あれこれ考えていても、仕方がない。

 ここは魔女さんを信じて、とりあえず入ってみよう。


「そ、それじゃあ入ってみよう。妖精さんたちも、一緒にどうぞ」

「たのしみ! たのしみ!」

「どんなあじかな! どんなあじかな!」

(おそなえもの~)


 気になるところはあるものの、とりあえずお店へ。

 みんなでバスを降りて、お店に向かう。


「ねえ、あのキラキラしたのって、何かしら?」

「フィギュアかな? ……でも、動いてるよね」

「ロボット?」


 おや? 何やら通行人の方々が、ひそひそ話を。

 というか、こっちに来たぞ? なんだろう?


「あの、すいません……それって何ですか?」

「きゃい?」

「空飛んでますよね?」

「きゃいきゃい?」


 ――ああ! 妖精さんたち、例の石付け忘れてる! 例の石!



 ◇



「たのしかったです~」

(にぎやか~)

「だいにんきだったね! だいにんきだったね!」

「ひとがいっぱいだったね! いっぱいだったね!」


 またもやユキちゃんに、ストリートパフォーマーになってもらった。

 妖精マジックショー、的な触れ込みで。

 だって、妖精さんがどこからか木の実を取り出して並べるだけで、マジックになるんだもん。

 ユキちゃんは、その妖精さんを操っているマジシャン役だ。

 まさか妖精さんが本物と知らなければ、そりゃあもう楽しいショーになるわけで。

 そして気づいたら近隣住民が集まってきてしまって、大騒ぎになった。

 日曜お昼の、わりとでかいイベントになっちゃったよ。


「たった一時間で、おひねり二十四万円ちょっと……」


 五百人くらいの人からおひねりを頂いたので、なんかすごい事に。

 かなり儲かってしまったので、ユキちゃんは曇りなき澄んだまなざしになっている。

 ……そのお金は、妖精さんへの餞別に使いましょうね。


 というか人の店の駐車場で、勝手に大騒ぎを起こしてしまった。お店の人には、謝っておかないと。

 それと罪滅ぼしに、沢山注文しないとね。


「そろそろラーメン食べよう。お腹減っちゃったよ」

「そうですね! 私もお腹が空いてしまいました」

「ラーメンです~!」

「おいしいおみせみたいですから、楽しみです」


 まあ気を取り直して、ようやくラーメン屋さんに入店だ。

 ――おお! 店内は綺麗で広い。


「いらっしゃーい!」

「いらっしゃいませー!」


 出迎えてくれた店長さんぽい人は、若い感じの男性だ。二十代前半くらいか?

 隣にいる女性も、若い。

 二人でお店を、切り盛りしているのかな?

 ほかに人は見当たらないから、この人たちに謝っておこう。


「駐車場で騒ぎを起こしてしまって、申し訳ございません」

「いえいえ! あれは凄かったですよ! 良いもの見られました」

「楽しかったですよ」


 ……二人とも、怒ってはいないようだ。というか一緒に見てたっぽい。

 怒られなくて、ほっと一安心だ。でも、お店をほっぽって大丈夫なのかな?


 ……まあいいか。安心したところで、本題に移ろう。

 ラーメン食べないと。


「すみません、団体なのですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。ご案内致します」


 とりあえず六人掛けのテーブル席を、六卓確保する。

 あとは待機している妖精さんたちを、ローテーションさせればいいよね。


「ようやく、お客さんが来てくれた……」

「あなた、団体さんなんて初めてよ」


 ……ラーメン屋さんのお二人、ひそひそ話している。

 どうも夫婦みたいだ。


「ねえ、ここって美味しいの?」

「さあ? でもさっきの大道芸人たちが『美味しい店』とか言ってたぜ。ほらそこにいる」

「じゃあ、大丈夫そうね」


 ……おや? 俺たちの後からぽつぽつと……人が入って来たな。


「せっかく来たんだし、ちょっと寄ってみるか」

「どんな味なのかしらね」

「知らないおみせ~」


 ……あの親子、さっきユキちゃんのパフォーマンスを見てた親子だ。


 こんな感じで、駐車場に集まっていた人たちの何割かが、ラーメン屋さんに来てしまった。


「ねえあなた! 今日はお客さんがいっぱいよ!」

「こんなの初めてだよ! 美味しいラーメン作ろう!」

「ええ!」


 ラーメン屋さんのお二人、なんかすごい嬉しそうだね。

 ……もしかしてこの店、近隣住民に、全然認知されていないのかな?



 ◇



「はいお待ち!」


 ラーメンが来たでござる。

 俺は普通の醤油ラーメンとチャーハンと餃子。中華料理屋さんの基本的なやつだ。

 というか、何故かチャーハンは単品メニューがなかった。セットメニューしかない。

 チャーハンだけ、このお店は何か変な感じがする。


「おいしそうです~」

「ハナちゃん、小皿もあるから、食べ合いっこしようか」

「あい~!」

「ハナ、ぼくのもいっしょに食べようね」

「わーい!」


 単品チャーハンが無い点について、不思議に思っている間にも、次々に注文した料理が運ばれてくる。

 ハナちゃんはこってり背油醤油ラーメン。

 ユキちゃんは信州野菜とえのきたっぷり担担麺。

 ヤナさんは塩ラーメンだ。


 ……この店、メニュー豊富だなあ。

 チェーン店でもないのに、よくこれだけ用意できるな。


(すてき~)


 そして神様には、メガ盛りラーメンをお供えしてみた。

 明らかに普通の人では、食べきれない量である。

 うかつに頼むと悶絶する、危険メニューがそこにあった。


「妖精さんたち、一緒に食べようね!」

「いっしょだね! いっしょだね!」

「ほそながい、おだんご~」

「きゃい~」


 巫女ちゃんと護衛君は、妖精さんたちとラーメンを食べ始めた所だね。

 しかし、妖精さんたちは、麺をお団子と認識している?

 ……製造工程は似ているから、間違ってはいない?


 まあ、妖精さんたちは巫女ちゃんと護衛君が面倒を見てくれている。

 振り回されているとも言うけど、それでも二人は楽しそうだから大丈夫だね。

 じゃあ俺たちも食べよう。


「さっそく自分たちも食べてみよう。頂きます」

「「「いただきまーす」」」


 さてさて、この標準的な醤油ラーメン、食べてみましょう。

 まずはスープから。


 ――主役はカツオと昆布出汁。すぐにわかるよう、アクセントが付いた味付けだ。

 醤油の味と香りが、この出汁をぐっと引き立たせる。

 醤油は引き立て役と風味づけであって、主役は出汁、という信念が伝わってくる。

 しかし醤油だって負けてはいない。角が無く刺激が少なく、包み込むような深みが感じられた。

 そのしっかりした土台の中に、各種野菜の温かみがある旨味が隠れている。

 しかしこれだけでは、あっさりしすぎるずだが、さらに濃厚な旨味があった。

 これは……(チー)油だ。

 スープの表面に浮いているこの鶏油が、あっさり和風スープをラーメンスープへと昇華させているんだ。


 あったかくて、ほっとして、あっさりで。

 でも、必要な旨味は――全てある。そんなスープだった。


 そしてこの素晴らしいスープに、細い縮れ麺が良く合う。

 ややコシが強めの麺は、スープが良く絡み、噛めば噛むほど小麦の味が出てくる。


 トッピングの海苔は厚めになっており、スープをたっぷり吸い込んでいる。

 麺と一緒に食べれば、海苔からじゅわっと熱いスープがしみだして……。たまらない。

 メンマも良い。軽くかみ切れるやわらかメンマで、良いアクセントになっている。


 ナルトは……うずまきが、ちょっと型崩れしているな。……まさかこれ、自家製か?

 明らかに「ぼくは手作りだよ!」と言う雰囲気を漂わせた、このナルトちゃん。

 一口食べてみると――ふわっふわ! まるではんぺんのような触感。

 このはんぺんのようなナルトには、自慢のスープがこれでもかとしみ込んでいる。

 昆布とカツオ出汁に、白身魚の練り物だ。合わない訳がない。

 一体どんな製法で、こんなナルトが作れるのだろうか……。


 驚きばかりのこのラーメンだが、さらに特筆すべきはこのチャーシューだ。

 けっこう分厚いのに、箸でつまむと……とろとろっと、崩れてしまうほど柔らかい。

 このとろけるチャーシューをレンゲですくって、ラーメン、スープと一緒に食べてみると……。

 口の中がとろけるような、そんな、錯覚。

 とろけるチャーシューが麺に絡み、麺も一緒にとろけたように、錯覚してしまう。


 ……このラーメン、完成度が――ヤバい。

 とにかくスープの旨味を主張するように、考え抜かれている。


 じゃあこのギョウザとチャーハンはどうか。

 羽根つき餃子は、焼いてある面はパリパリと、それ以外はもっちもち。

 通常の餃子より、皮が厚い。

 そしてこの皮の厚さが重要だ。中身の餡の美味さを、しっかりと閉じ込めている。

 一口かじると、まるで小籠包のように、肉汁がじゅわわわっと溢れ出す。

 餡はニンニクやや強めだが、細かく刻まれた野菜がたっぷり入っていて歯ごたえが良い。

 どうやら具材にレンコンが入っているようで、シャキシャキとした食感が心地よく、新鮮な驚きを与えてくれる。


 そんな華やかなメニューと違って、チャーハンは……意外にも、淡白な味付けだった。

 これ単体で食べると、おそらく物足りない。

 なんでも中華味にしてしまう、有名な化学調味料は一切入っていないのがわかる。

 ふわふわ卵に、パラパラでもちもちとしたご飯。

 そこに刻みネギとわずかな塩胡椒、たったこれだけの、シンプルなものだ。


 だが、この淡白なチャーハンは……罠だ。

 淡白だからこそ、ギョーザやラーメンとものすごく合う。

 普通のチャーハンでは、もたれてしまう。味がぶつかってしまう。

 でも、このチャーハンならぶつからない。

 そっと、ラーメンやギョウザを引き立ててくれる。

 自己主張せず、引き立て役に徹する。そんな役割なんだ。

 だから、単品メニューが無いんだ。


 ……魔女さんのお勧め、マジだった。こりゃ、他人にお勧めしたくもなる。

 というか、中毒患者が出るラーメンやサイドメニューだね。

 こんなのを食べてしまって、ハナちゃんたちは大丈夫だろうか?

 ラーメンジャンキーに、なってしまわないだろうか?


「……」

「――……」

「……! ……!」

(……)


 みなさん、無言でござる。

 夢中になって、ラーメンを食べている。


 というか、俺たちの他にもいるお客さん、みんな無言。

 みなさん夢中で食べているね。


「ねえあなた、外に行列が……」

「え? なんで? 今までは全然お客さん来なかったのに? なんで?」


 いつの間にか、店は満席。そして外に行列も出来ている。

 ラーメン屋さん夫婦がうろたえているけど、今までお客さん来なかったんだ。

 町はずれだし、車は素通りしちゃうしで、立地が悪かったんだろうと思う。


 そんな時、俺たちが騒ぎを起こしたから、人が集まったと。

 丁度お昼時だったのも、良かったんだろうな。

 俺たちが店に入ったから、ここにラーメン屋があるって、ようやく認知されたんだ。


 今回大勢の地元民がこの店を知ったので、まあこれからは客足は増えるだろうと思う。

 ただ、クチコミだけに頼るのも、ちょっと心もとない。

 こんないいお店なのだから、繁盛してほしいな。


 ……このお店を見るに、道沿い商売ではあたりまえ、という一つの事をやっていない。

 それをやるとやらないとでは、大きく違いがでることが抜け落ちている。

 その辺、教えておけば良いかも。

 そうすれば、いろんな人にこのお店を発見してもらえる可能性がある。


 それじゃあ、さっそく話してみよう。

 ちょっと席を立って、二人の元に行きましょうか。


「すみません、そこなうろたえ中のお二人に……耳寄りな情報がありまして」

「え? 耳よりですか?」

「何でしょう?」


 ……夫婦さんたち、すすすっとやってきた。

 この警戒心の無さ、ちょっと心配。

 どこかの村にいる、耳の長い人たちくらい警戒心無いよ?

 お父さん心配だよ?


 ……まあ、それはそれとして。

 耳寄りな情報というか、道沿い商売の鉄則を教えよう。


「あのですね。こういった道沿いでお店をやるなら、『のぼり』をしこたま立てるのが良いですよ」

「え? のぼり、ですか?」

「あの、よくある旗ですよね?」

「そうです。とにかくのぼりを、立てまくるんです。一つでは駄目で、沢山です。そしてそこに自分の店で売り出したい物を表記するんです」


 ラーメン屋さん夫婦は、きょとんとした顔になった。

 そんなので効果あるの? みたいな顔だ。

 でもこれ、ほんとに効果あるんだよね。あると無いとでは、売り上げが倍違う事もある。


「想像すると、分かると思います。道沿いにあるのに、のぼりが一本も立っていないお店は……入りづらいですよね?」

「あ~……、そう言われれば、そうですね。私も、のぼりが立っていないお店は……避けてしまうかも」

「あなた、そういえば……野菜無人販売所にすら、のぼりがあるのを見たことあるわ」


 二人は、「ハッ」とした顔になった。

 これ、教えてもらわないと、なかなか気づかないんだよね。のぼりの重要性。

 俺は高橋さんと屋台のアルバイトをしたとき、雇い主さんに色々教えて貰ったんだけど。

 それと、まわりが当たり前に立てている物だから、もし自分の所だけ立てていないと……。


「ちなみにですが、のぼりが無いと……『何かのお店跡地』に見えることだってあります」

「うわあ……」

「あなた、うちの店にお客さんが来なかったのって、もしかして……」


 ガラ空きの駐車場で、おまけに道沿いには、のぼりの一本も立っていない。

 想像してみればわかるけど、それってつぶれたお店の状態、そのまんまだよね。

 ラーメン屋さんご夫婦も、これで色々気づけたと思う。


「というわけで、お店をアピールするのぼりを、ガンガン立てましょう。ただし道交法があるので、敷地内に収まるように」

「私たち、ラーメンの事ばかり、考えてました……」

「美味しい物を作るだけじゃ、ダメなのね……」


 二人ともしょんぼりしちゃったけど、まあこれからですよこれから。

 これからも、美味しいラーメンを作ってくださいだ。


「タイシ~、ハナ、おかわりしたいです~」

「あ、私もできれば……」

「大志さん、よろしいですか?」

(おねがいします~)


 おっと、みんなも食べ終わったようだ。そしてお代わりしたいみたい。

 俺もお代わりしたいから、どーんと注文しちゃおう!


「それじゃあ、みんなでお代わりしよう。ハナちゃん、好きな物頼んで良いよ」

「わーい! タイシありがとです~!」

(これがいい~)


 ――神様! テラ盛りラーメンは危険だと思います!

 写真にあるどんぶりのスケールが、なんかおかしい奴ですそれ!


 ――――。


 そんなこんなで、みんなでお代わりもして、楽しい昼食となった。

 むろん、全員食べ過ぎである。たまにはいいよね、こういうのも。

 神様も無事、テラ盛りラーメンを食べきっていたし。

 神様が完食した瞬間は、店内大盛り上がりだった。

 フードファイター神輿、爆誕である。


 ……とまあ色々あったけど、無事お昼を食べ終わり。

 お会計をしてお店を後にする。


「アドバイス、ありがとうございました! 是非とも是非とも、またのお越しをー!」

「今度は、もっとサービスします!」


 お店を出るとき、ラーメン屋さん夫婦が見送ってくれた。

 二人ともにこにこ笑顔だ。

 お会計も、ちょっとおまけして貰っちゃった。


「おいしかったです~!」

「すごいラーメンでしたね!」

「おなかいっぱいだね! いっぱいだね!」

「きゃい~」


 みんな美味しいラーメンを食べられて、ホクホク笑顔だね。

 ハナちゃんとヤナさんは、エルフ耳がそれはもう、でろんと垂れさがっている。

 満足して頂けて、何よりです。


「今度、パパとママに連れてきてもらお」

「あ、じゃあうちも一緒に行って良いかな?」

「いいよー!」


 巫女ちゃんと護衛君も大満足だったようで、今度ご家族で来るみたいだ。

 魔女さん、良いお店を紹介してくれた。感謝感謝だね。


「SNSで連絡来たんだけど、ここのお店が美味しいんだって」

「ほんと~? 聞いたことないお店よ?」

「試しに行ってみようぜ。……うわ、行列出来てんじゃん」


 バスに乗ろうとしたら、三人の若者がお店の方に歩いて行った。噂が広まっているらしいな。

 お店の中を見てみれば、嬉しそうにラーメンを作る旦那さんと、忙しく注文をとる奥さんの姿が見える。

 二人とも、頑張ってね。



 ◇



 楽しくお昼を食べて、楽しく遊んで……夕方になった。

 そろそろ、帰る時間だ。そして、妖精さんたちもまた、近いうちに故郷へと旅立つ。

 巫女ちゃんと妖精さんたちはすっかり仲良くなったけど、これでしばしのお別れだ。


「ううう……妖精さんたち~、がんばってね~……」

「がんばるよ! がんばるよ!」

「みんなのはねを、なおしちゃうよ! なおしちゃうよ!」

「やるきじゅうぶん~」


 妖精さんたちが故郷へ帰るのは、巫女ちゃんに伝えてある。

 もう巫女ちゃん、号泣だ。

 とっても仲良くなった、ちいさなちいさな神秘の存在。

 このお友達とお別れになるのは……寂しいだろうな。

 そんな巫女ちゃんを励ますためか、妖精さんたちが周りをひらひら飛んでいるね。


「おせわになった、おれいだよ! おれいだよ!」

「うけとって! うけとって!」

「せいこうしたやつ~」


 おや? サクラちゃんが何かをどこからか、取り出した。

 あれは……お花の形をしているね。


「おくりものだよ! おくりもの!」

「がんばって、つくりました~」


 きゃいきゃいと差し出したそれを良く見ると……ダイヤをこねて作った、お花のアクセサリだね。

 本体は……妖精サクラの花をモデルにしているようだ。

 そして、模様も凝っている。花の咲いた、蔓っぽい植物の意匠が凝らされている。これは、逸品だ。

 というか、その模様の素材は……緋緋色金、ぽいな。

 こねこねとまげまげを極めし者のみがつくれる、すごい作品だ。


「わあ! 貰っていいの!?」

「いいよ! いいよ! きずなのあかしだよ!!

「なかま~」


 巫女ちゃんはもう大喜びで、キャッキャしているね。

 絆の証、仲間の証。とっても特別な、贈り物だ。


「……大志さん、なんかすごい物貰ってますけど」


 そして巫女ちゃんが貰ったお花のアクセサリを見て、護衛君がぷるぷる震えている。

 彼は凄いな、このアクセサリの価値、初見で分かるんだ。


「普通に市場に出したら、価値が付けられない貴重品だね。一緒に守ってあげて欲しい」

「うわあ……」


 繊細に加工されたダイヤモンドだけで、かなりの大きさと価値がある。

 さらに緋緋色金が埋め込まれているわけで。ちたまの技術じゃ、不可能なわけで。

 価値など付けられないほどの、貴重品だ。

 そんなのも一緒に守るハメになった護衛君は、ぐったりしているけど。

 まあ、頑張ってほしい。俺は子供にも仕事を丸投げする、そんな男なのだよ。


 そうして贈り物を贈られて、お別れの言葉を交わして。

 バスに乗り込んで、出発となった。


「妖精さんたち、また会おうねー!」

「またね! またね!」

「しばしの、おわかれ~」


 バスが発車して、妖精さんたちが手を振って。

 巫女ちゃんは、いつまでも、いつまでも手を振っていた。


 これで、巫女ちゃんへのお別れの挨拶は済ませた。

 次は、村で行う送別会だ。


 盛大に妖精さんたちを、送り出してあげようじゃあないか。


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