第十四話 お仕事、終了
あの、その辺に落ちていたなんかの紐。素材が見つからず二日たった。
なんというか、また素材なんだ。とにかく素材に悩まされる毎日なんだ。
村中森中探してみたけれど、見つからない。
誰に聞いてもわからない。どこを探しても見つからない。
ほんと、この紐は何だろうか。
村に落ちていたのだから、村にあるはずなのだ。
だけど、見つからない。わけがわからない。
「でも、これと似たようなのを、どっかで見たことあるんだよな……」
「そうなのですか? 私はさっぱりです」
「ハナは、なんかみたことあるです~」
(おそなえもの~)
ユキちゃんは心当たりがないようだけど、ハナちゃんはあるみたいだ。
俺の気のせいじゃない、きっとこの村にあるのだ。あるはずなのだ。
ちなみに、何故か神輿もお悩み会に参加しているけど、主な興味はお供え物のようだ。
「かみさま、おそなえものです~」
(ありがと~)
……神様これ絶対、おやつ目当てだよね。
毎日集会場で大量のおやつを消費していたから、神様も参加したくなったんじゃないかな?
そういえば最近、妖精さんに集中しすぎてあんまり神様をちやほや出来ていない。
もしかして、神様も寂しかったのかも?
……思いっきりちやほやしとこう。
「神様、自分もお供えしますよ。この辺全部お供え物です」
(わーい!)
「あ、私はこちらをお供えします」
(いたれりつくせり~)
「みこしぴっかぴかになったです~」
みんなでちやほやしたら、神輿はぴっかぴか光って神様ご機嫌だ。
やっぱり神様はこうでなくちゃね。放置しちゃってごめんなさいだ。
とまあ神様をちやほやするのと並行して。
今直面している、謎の素材について考えないといけない。
「しかしこれ、どこで見たのかな……」
「むむむ~、どこだったですか~」
(みたことある~)
あるはずなのだけど、思い出せない。
俺とハナちゃん、悶々としながら記憶をたどる。
謎の声も見たことあると言っているだけに、きっとどこかにあるはずなんだよね。
そして一時間後。
「あや~、おもいだせないです~」
ハナちゃんギブアップ。エルフ耳がぐんにゃりとなって、お疲れの様子だ。
「このへんまで、でかかってるです~」
ハナちゃんもどかしいのか、頭を抱えて横にごろごろ転がり始めた。
ごろごろハナちゃんだ。
……なかなかアクロバティックな悩み方だね。
「あえ~、あえ~」
そうしてごろんごろんと集会場を転がり、三週目になろうかというときのこと。
集会場の扉が、ガラガラと開いた。
「あえ? クモさんです?」
「え? あの白いのがクモさんなの?」
「あい~」
そして――もこもこした白いやつが、三つ。
ハナちゃんの言う通り、クモさんたちだね。
耐寒装備クモさんたち、ユキちゃんは初めて見るようだ。
まあ、あのままだったら、クモさんたちとは分からないよね。
「――!」
「……」
「!」
そんなクモさんたち、フードを上げて、前足でぴこぴこと挨拶してきた。
また、キャラメルを貰いに来たんだろうな。
「ふがふが」
「~!」
「~、~」
「……~」
お店番をしていたひいおばあちゃん、にこにことしながらクモさんたちにキャラメルを配っていく。
キャラメルを抱えたクモさんたちは、嬉しいのかぷるっぷるしているね。
ほんわかするひと時だ。
「ああやって、たまにキャラメルを貰いに来るんだよ」
「なるほど、面白いクモさんたちですね」
「なかよしです~」
ユキちゃんに今の出来事を説明すると、納得した感じだ。
クモさんたちがキャラメル好きなのは、ユキちゃんも知っているからね。
もうすっかりクモさんと仲良しになったエルフたちの、ささやかな交流というわけだ。
そうして、キャラメルを貰ってぷるぷると喜ぶクモさんたちを見ていたときのこと。
(およ? これっぽい?)
謎の声が聞こえたかと思ったら、神輿がほよほよとクモさんたちの方に飛んでいった。
……これっぽいとは、なにっぽい?
(これ! これこれ~)
「あえ? これです?」
(これ~)
そしてぷるぷるクモさんたちの上で、くるくる回る神輿。
謎の声はしきりに、「これ」と言っているけど……。
何がこれなんだろ……う?
あれ? そういえばその辺に落ちてたなんかの紐、白かったよね?
でも確実に村にある素材のはずなのに、見つからない。
そもそも、なんで落ちていたのかと。
……ほんでだ、クモさんたちが着ている耐寒装備は……白いよね。
自分の糸を使って、何かを編んでいるところを、俺は見たことがあるわけで。
これ……まさか!
「ちょ! ちょっと君たち良いかな!?」
「?」
「……?」
「~」
慌ててクモさんに駆け寄って、その白いもこもこ服を確かめてみる。
すると――。
「……同じ、だ」
「あえ? おなじです?」
「え? どう言う……あ!」
(これこれ~)
果たしてなんかの白い紐とクモさんの服は――同じだった。
……。
――素材発見、来たー!
神様、ナイスアシスト!
「これ! 確かにこの素材だ!」
(でしょでしょ?)
「あや! ほんとです~!」
「やりましたね! これで何とかなりそうですよ!」
とうとう最後のピースが埋まり、俺たち大はしゃぎ。
神輿も大はしゃぎで、くるくる回る。
いやはや、神様本当にありがとうございますだ。
神輿をわっしょいしちゃうよ!
「いや~、神様がくるくる回ってくれたから、気づけました。本当に凄い神様ですね」
「すごいです~!」
「ありがとうございます! さすが神様!」
(そ、それほどでも~)
みんなに褒められて、わっしょいされたら、神輿てれってれ。可愛い神様だなあ。
今度お礼に、ぬいぐるみでもお供えしようかな?
とまあそれはいずれ実行するとして。
今は、まずしなければならないことがあるね。
「よーし! これで全部揃ったよ。それじゃあ、最後の仕上げと行こうか!」
「そうですね! あと一歩です!」
「ようせいさんたち、なおすです~!」
これでようやく、完成する。
脆化病の治療法が――完成するんだ!
◇
「なおったよ! なおったよ! ちから、もりもりだよ!」
「よかったね! よかったね!」
「きゃい~!」
今、羽根を完全に修復した妖精ちゃんは、元気に大空を飛んいる。
白い粒子をキラキラと輝かせながら、お花畑の上を、気持ちよさそうに。
「ようせいさん、げんきにとんでるです~」
「妖精さんの飛行能力って、高かったんですね」
「おそらく、これがあの子の……本来の力なんだ」
羽根を完全に修復した妖精ちゃんは、華麗なアクロバット飛行を決める。
まるでトンボ並みの飛行能力だ。
この子の本来の飛行能力は、こんなにすごかったんだ。
「ありがと! ありがと! じまんのはね! なおったよ~!」
羽根を完全に補修した妖精ちゃん、嬉しくてしょうが無いようだ。
今度は俺の周りを、ひらひらと飛び回る。
「かわいいはなびら、ありがと~」
そんな妖精ちゃんの羽根には、かわいいサクラの花びらを模した、布が貼ってある。
クモさんに作って貰った、あのシールド効果のある白い布。
それをそのまま貼るのは、味気なかった。
なので――サクラの花びらを模した布にするという遊び心を入れた。
そしたら……妖精ちゃん、大喜びだ。
いたく気に入ったらしく、鏡に自分の羽根を映しては、きゃいきゃいするようになった。
喜んで貰えて、こちらも嬉しい。
かつては、羽根に穴の開いた妖精ちゃんだった、この子は。
羽根を補修して、また穴が開いて、また無理矢理補修して。
そんな困難を乗り越えたこの子は……羽根にサクラの装飾がある、妖精さんになった。
――サクラちゃん、になったのだ。
「ありがと! ありがと!」
「えがったえがった……」
「こんなにげんきになるとか、すてき」
「あれ? おれ、ないてる?」
元気に白い粒子を出しながら、嬉しそうに飛び回るサクラちゃん。
そんなサクラちゃんを、みんな嬉しそうに……見上げた。
いっしょに悩んでくれて、時には解決策を提案してくれたエルフたち。
みんな、嬉しそうだ。このみんなに、はっきりお礼を言わないと。
エルフたちと、妖精さんたちにも。クモさんもだね。
全員の協力なくして、この結果は得られなかった。
俺一人じゃ、無理だった。
「みなさん、今回の出来事は、皆さんの協力なしには解決は無理でした。本当にありがとうございます」
「タイシのおてつだい、できたです~!」
「あんまり、大したことはできなかった気がしますけど」
「だいたいなんとかしてもらったかんじ? かんじ?」
「きゃい?」
ハナちゃんはキャッキャして、ヤナさんは微妙な表情。
妖精さんたちも、何かしたっけ? という顔だ。
今回は解決の糸口は、ほぼエルフたちからネタを貰っている。
直接なんとかできる素材の提供は、妖精さんとクモさんからだ。
これはなかなか、快挙なのではと思う。
「みんなの力を合わせたから、なんとかなったんです。私一人だったら、気づくことも無かったですよ」
「みんな、がんばったです~」
「ちからをあわせたね! あわせたね!」
この辺はまあ理解してもらえたかな?
みんなで一緒に、頭ぷしゅ~ってなりながら悩んだからね。
日々の仕事もあるのに、一緒になって困ってくれた。
この人たちは、仲間を見捨てない人たちだって、実感ができた。
マイスターとかは、黒歴史をバラしてまで協力してくれたからね。
ほんとうに助かった。
みんなで力を合わせて、難題に立ち向かって。
妖精さんの脆化病を克服するという目標――達成だ!
――しかし、まだまだ終わりではない。
まだ、続きはあるんだ。
なぜなら、あと五十人ほど……治療が必要な妖精さんがいる。
この子たちの治療が完了したら――この計画を終了しよう。
村に避難してきた妖精さんたちの、本来の力を――取り戻してもらおう!
さて、みんなはこれも、力を貸してくれるかな?
「ねえハナちゃん、ユキちゃん。治療の必要な子は、まだまだいるよね」
「あい」
「そうですね。沢山いますね」
二人はもう、俺の言いたいことは分かっているようだ。
腕まくりをして、気合を入れている。
「そうだよな、まだたくさんいるじゃん?」
「みんな、なんとかできたら、すてきよね」
「いっちょ、やるべか!」
周りにいたエルフたちも、腕まくりだ。
みんな、やらなければいけないことは……わかっているね。
ありがたい事だ。
「タイシ~」
「大志さん」
ハナちゃんとユキちゃんが、俺の次の言葉を待っている。
それじゃあ、次の行動を始めよう。
「では、残りの人たちも羽根を治すね。みーんな、本来の力を取り戻すんだよ」
「きゃい?」
「きゃいきゃい?」
「きゃい~?」
唐突に言われたからか、羽根の治療が必要な妖精さんたち、きょとんとする。
そう、これで終わりじゃあない。まだ、結果は完全には出ていない。
この子たちを全員治して、元気になってもらって。
それが、今必要なこと。
「たくさんまげるよ! まげちゃうよ!」
「みーんな、げんきになるよ! なるよ!」
「やりましょ~」
イトカワちゃんも、気合の入った顔だ。
救助隊妖精さんたちも、やる気だね。
「わたしもてつだうよ! たくさんこねちゃうよ!」
「そうだね。君にもどしどし、お手伝いしてほしい。頼りにしてるよ」
「きゃい~」
サクラちゃんも、やる気十分だ。今のこの子なら、力を発揮できる。
こうして次々に、羽根を治療した子が増えたなら。
その子が新たな治療チームに加われる。
元気になる子が増えれば増える程、元気に出来る子が増えていく。
さあ、始めよう。
この妖精さんたちの羽根――全部治しましょう!
◇
それから数日後。
みんなで協力して、まだ処置していない妖精さんたちの脆化病を治療して。
それぞれお気に入りの花を模したパッチを、羽根に貼って。
妖精さんたち全員の粒子が――白く輝く粒子、になった。
「ちからがでるね! げんきになったね!」
「とぶのって、こんなにらくだったのね! らくだったのね!」
「おかあさ~ん! いっしょにとぼう! いっしょにとぼう!」
脆化病により力が弱まっていた妖精さんたちは、本来の力を取り戻せた。
ときにはぴこぴこ、気分が乗ってきたらひらひらと、空を飛ぶ。
まるで……重しがとれたかのように、軽やかに。
「やったです~!」
「妖精さんたち、元気になりましたね」
(みんな、よかったね~!)
ハナちゃんとユキちゃんは、そんな妖精さんたちの飛ぶ姿を嬉しそうに見上げる。
花畑の上を、たくさんの妖精さんが飛ぶその光景は……とても幻想的だ。
白い粒子がハナちゃんたちや俺たちに降り注ぎ、光る雪のようで。
……神輿も真似して粒子を出しているんだけど、七色なんだよね。
これ、神様ぱわー漏れちゃってる?
ま、まあ神様だから大丈夫だろう。そうだといいな。
……今度、神輿をメンテナンスしておこう。それが良い。
とまあ神輿のメンテナンスはまた今度にして。
「みんなよかったね! よかったね!」
「おねえちゃんげんきになった! げんきになった~!」
「がんばってこねたかい、あったよ! あったよ!」
「きゃい~」
「きゃい~、きゃい~」
救助隊妖精さんたちも、大喜びで飛び回る。
この子たちは、今回緋緋色金を合成するため、一生懸命こねてくれた。
五十人以上の妖精さんたちを治療するのには、けっこうな量の緋緋色金が必要だった。
そんな大仕事を、この子たちは頑張ってくれた。
救助隊妖精さんたちは、ちゃんと救助活等を遂行できたのだ。
「みんなもありがとう。たくさんこねてもらったおかげで、納得いく結果になったよ」
「どういたしまして~」
「おやくにたてて、なによりだよ! なにより!」
「きゃい~」
お礼を言うと、まんざらでもないご様子。
ご機嫌できゃいきゃいと俺のまわりを飛び始めたね。
もともと元気だった救助隊妖精さんたち、とても嬉しそうだ。
「きゃい~」
サクラちゃんも、俺のまわりをひらひらと飛び始めた。
初めて出会ったとき、羽根に大穴があいてしまったときと比べると、見違えるようだ。
この子は本来、こんなにも――輝いていたのだ。
最初は、この子の羽の穴を何とかするためだった。
誰かのために頑張って、空を飛べなくなってしまって。
あんまりだ、と思った。結果に納得できなかった。
そして納得できる結果にしようとがむしゃらに頑張ってみたら、もっと大きな問題が見つかってしまって。
みんなを巻き込んで、一生懸命考えて。
この結果にたどり着いた。
これなら、納得できる。みんなの力で引き寄せた、この結果なら。
それでは、ここに計画の完了を宣言しよう。
「ではみなさん、これにて『羽根をなんとかするぞ計画』――完了とします。ありがとうございました!」
「「「わー!」」」
みなさん、どっと盛り上がってわーわーぱちぱちと拍手だ。
一か月に近い期間付き合ってくれて、本当にありがとう。
「タイシタイシ~」
「きゃい~」
おや? ハナちゃんとサクラちゃんが、こっちにやってきた。
ハナちゃんはぽてぽて歩いて、妖精ちゃんはひらひら飛んでいるね。
「二人ともどうしたのかな?」
「タイシ~、そうだんがあるです~」
「そうだん! そうだん!」
「相談?」
「あい」
二人して相談に来るとは、なんだろう?
と思っていると、ハナちゃんとサクラちゃん、にぱっと笑顔でこういった。
「タイシ~、ようせいさんたちがげんきになった、おいわいしたいです~!」
「めでたいよ! おいわいしたいよ!」
ハナちゃん両手を広げて、めでたいアピールだ。
サクラちゃんも羽根をキラキラさせて、めでたい感を演出だね。
しかしお祝いか……。
――そりゃもう、やるしかないよね!
「よーし! 盛大にお祝いしちゃおう! またご馳走食べよう!」
「わーい! ごちそうです~!」
「きゃい~!」
こんなめでたいこと、お祝いするしかないよね!
みんなも巻き込んで、わいわい騒ぎましょう!
◇
お祝いをするということで、会場をどこにするか。
やっぱり、暖かいエルフ世界が良いのではという話になった。
湖畔のリゾートか、洞窟近辺にある、なし崩し的にキャンプ場になったあの場所か。
どっちがいいだろうか?
「やっぱり、湖畔かな?」
「イベントとしてはそうですね。ただ、帰り道がちょっと遠いかもですね」
「フクロオオカミ便でも、臨時運行する?」
「それなら、ハナがおねがいしてくるです~」
集会場で、着々と計画が進んでいく。
というか先月も排水事業完了を祝ったので、この辺慣れてきた。
毎月イベントやっている気がするけど、まあ観光地だからね。
それもいいかなと思う。
「場所はそれでいいとして、あとは開催時期も決めないとね」
「大志さんのお爺さんたちは、戻りはいつ頃でしたっけ?」
「あ~、来週かな?」
せっかくのお祝いなのだから、また親父やお袋、それに爺ちゃん婆ちゃんたちも一緒のほうが良い。
この辺も、時期を合わせないとな。
「あとあと、おりょうりどうするです?」
(おそなえもの?)
――神輿が! 神輿がいつの間にか後ろに!
最近神様、フットワーク良いな!
とまあこんな感じで、ちくちくと予定を詰めていた時のこと。
(およ?)
神輿が一瞬、キラっと光った。
そして――。
(――あ、つながった~)
と、謎の声が聞こえた。
……繋がった? 何のことだろう?
「あえ? つながったです?」
(つながった~!)
ハナちゃんが確認したけど、神輿はキャッキャとはしゃぎ始めた。
何だろう、よくわからない。
つながったとの意味について、首をかしげていると。
集会場の扉が、ガラガラと開いて――。
「たいへんたいへん! たいへんだよ!」
「びっくりした! びっくり~!」
「ひらいたよ! ひらいたよ!」
――きゃーきゃーと大慌てな感じで、妖精さんたちが集会場になだれ込んできた。
なにか、起きている?
「みんなどうしたの? 何かあったの?」
「あったよ! あったよ!」
「すごいことおきた! おきた!」
「どうくつ~」
次々に何かあったと訴えてくる妖精さんたちだけど、最後の子……。
サクラちゃんが、言ったこと。
洞窟、といった。
まさか!
「き、君たち。もしかして……洞窟の『門』が――開いたりした?」
妖精さんたちにそう聞くと――。
「そうなの! そうなの!」
「どうくつひらいた! ひらいた!」
「はいいろのおはなばたけ、あったの! あったの!」
――そう言った。
そうか、繋がったんだ。
妖精さんたちの世界の門が――開いたんだ。
(つながった~)
大騒ぎの妖精さんに混じって、神輿がキャッキャとはしゃぐ。
謎の声が言う「つながった」とは、そう言うことだったんだ。
神様、洞窟の変化を……感知していたんだね。
と言う事は、だ。
「タイシ、これってもしかしてです?」
「洞窟の『門』が開いて、ということは、そういうことですよね?」
ハナちゃんとユキちゃんも理解したようで、聞いてきた。
そう、つまり――。
「妖精さんたちが抱えていた、困った事は――これで解決。そういうことだね」
「きゃい?」
「きゃいきゃい?」
妖精さんたち、首を傾げた。
まだ、良く分かってはいないようだ。
今回妖精さんたちが悩まされていた、脆化病を克服した。
そうしたら、洞窟の「門」が開いた。
この子たちはもう、自分の足で歩けるんだ。独立したんだ。
力強く、自分たちの力で――生きて行けるように……なったんだ。
それはすなわち、この村の役割は……終わった、という事。
妖精さんたちは、いつでも自分の世界に、自分の故郷に戻っても……大丈夫、という事。
「あや~……」
「これが……その時、なのですね」
ユキちゃんとハナちゃんも、察してくれた。
まあ、そういう事だ。
この可愛くて楽しい仲間との、お別れの日が――やってくるかもしれない。
これは、そういう事。
◇
妖精さんたちに、大事な話があると言って集まってもらった。
とってもとっても、大事な話だ。
「だいじなはなし? なんだろ? なんだろ?」
「なんだかしずかだね? しずかだね?」
「どしたの~」
……妖精さんたちは相変わらず、きゃいきゃいしている。
まああれだ、とりあえず話さないとね。
妖精さんたちの、今後について。
俺からは、ひとつお願いもあったりする。
「今日みんなを集めたのは、君たちの今後について話そうと思って」
「こんごのこと? なんもかんがえてないよ! ないよ!」
「なりゆきまかせだね! なりゆき!」
「ながされるまま~」
……ゆるい。なんというゆるさ。風任せ感が凄いある。
さすが妖精さんたちだ、なんかもうすごく……ゆるいでござる。
「あ~、あのね。もうみんなは、元の世界に帰っても、十分たくましく生きられるようになったんだ」
「ちからでたからね! どこでもくらせるよ! くらせるよ!」
「すっごーく、そらをとべちゃうね! とべちゃう!」
「かしんは、きんもつ~……」
サクラちゃんやほかの妖精さんたち、もう力がみなぎってしょうがないらしい。
……イトカワちゃんは、なんだか慎重だけど。過信は禁物とか言ってる。
あれだ、色々失敗やらかしているから、いろいろ学習したのかも?
……まあそれはそれとして。
本題に入ろう。
「みんなはもう、元の世界の大空に羽ばたけるんだ。行きたいところに、行けるんだよ」
「ずっといけなかった、となりのおはなばたけ……いきたいな! いきたいな!」
「これがあれば、ひとっとび~」
「ひかるくさ、べんりすぎ! だめになるね!」
妖精さんたち、例の光るシダ植物を取り出して、きゃいっきゃいだ。
そういや、この火を通してないやつを食べると、飛行が楽になるらしいね。
それも併せて、もう障害は何もないわけだ。
「そんなわけで、みんなはあっちの世界に帰って……暮らすこともできるんだ」
「そうだね! そうだね!」
「でも、こっちもいいな! いいな!」
「おうちでのんびり、おひるねしましょ~」
あんまりあっちの世界に帰る気はないのか、のんびりしているね。
それはそれで嬉しい。もっとずっと、この村にいて欲しい。
でも、この子たちには――大事な仕事がある。
俺は、この子たちにその仕事をしてもらうよう……お願いしないと、いけない。
そしてそのお願いはすなわち、この子たちとの別れ、につながる。
「タイシ~……」
「大志さん、どうされます?」
「それはもちろん、お願いするよ。これは……必要なことだから」
話の流れを察したのか、ハナちゃん寂しそうだ。
ユキちゃんは大人なので、冷静に促してくる。
ただ、ユキちゃんも若干元気はないね。
妖精さんたちと過ごす毎日は楽しかっただけに、俺も同じ気持ちだ。
でも、そこで立ち止まってはいけない。
この子たちを送り出して、幸せを増やさなければいけない。
…………。
――では! 妖精さんたちに、お仕事の依頼をしよう!
「みんなに、お願いしたいことがあるんだ。とっても、とっても大事な……お願い」
「おねがい? なになに? ちからになるよ!」
「だいじなおねがい! きになる! きになる!」
「おはなしして! おはなし!」
大事なお願いというと、妖精さんたちが近づいてきた。
お願いを聞く気満々だけど、はたして受けてくれるかどうかは、分からない。
……それじゃあ、お願いだ。
「みんなには自分の世界に帰ってもらって……ほかの子たちの羽根を――治してあげて欲しいんだ」
「きゃい?」
「ほかのこ? ほかのこ?」
「とべないこ、わりといる~」
そう、お願いとはこれのこと。
今回確立した、脆化病の治療法。
それを、あっちの世界に――広めてほしいのだ。
妖精さん世界では、おそらく脆化病にかかった子は……結構存在するはずだ。
力が漏れて、羽根が脆化して。
そして力が弱って、飛べなくなって。
そんな病に苦しむ子が――確実にいる。
そして俺たちは、その治療法を知っている。治すことが出来る。
ならば――治さなくては。これは……使命、なんだ。
しなくてはならない事だと、俺は思うのだ。
「みんなの世界にいる、羽根の治療が必要な子たちを……幸せにしてあげてほしいんだ」
「……わたしたちに、できるかな? できるかな?」
「ふあんかも? ふあんかも?」
妖精さんたちは、不安なようだね。
自分たちが長年悩まされた脆化病を、自分たちで何とかできるのか。
妖精さんたちの世界に、この村は無い。俺もいないし、エルフたちもいない。
そんな中で、自分たちの力だけで出来るか、自信がないんだろう。
そんな自信がない妖精さんたちの羽根が、ちょっと光を失う。
あれだけ苦労したこの脆化病、苦手意識を持っているようだ。
――しかし、そんな流れを吹っ飛ばす、そんな言葉がかけられた。
「みんな! だいじょぶです~。みんななら、できるです~」
「できるかな? できるかな?」
「もんだいないです~! じぶんのちから、しんじるです~」
不安がる妖精さんたちを――ハナちゃんが、励ましたのだ。
みんななら大丈夫だと、自信を持ってほしいと。
俺も同じ気持ちだ。この子たちなら大丈夫、問題は無い。
「大丈夫だよ。みんななら、出来る。困った経験がある、みんなだからこそ――出来るんだ」
俺もハナちゃんに続いて、妖精さんたちを励ます。
脆化病で苦労したこの子たちだからこそ、出来るんだ。
この病気になったことが無い俺たちじゃ、本当の意味では寄り添えない。
苦労した経験のある当事者のみが、真の意味で理解し合える。
「……わたし、やりたいな! やりたいな!」
「こまったひとを、たすけたいな! たすけたいな!」
「なおしてあげたいね! なおしてあげたい!」
「できるだけのことは、しましょ~」
ハナちゃんと俺に励まされたことによって、妖精さんたちも……やる気が出たようだ。
脆化病に苦しむ子たちを、治してあげたい。
そんな思いが、芽生えたようだ。
そう、それでいい。
これは――明確な目標が、芽生えた瞬間だ。
目標があって実行する力があって、実現したいという思いもあって。
そして解決する方法があるなら――かならず実現できる。
「みんな、やってくれるかな? 羽根を治すというお仕事、引き受けてくれるかな?」
「――やるよ! やるよ!」
「はねをなおすよ! なおすよ!」
「みんなのはねを、なおしましょ~!」
――よし! 引き受けてくれた。
これであの世界は大丈夫。きっとこの子たちが、なんとかしてくれる。
妖精世界の脆化病治療、という大仕事。
自分たちの力で解決するという、覚悟をもってもらう事。
これが、妖精さんに俺がしてあげられる……最後の仕事。
その仕事が、今――終わった。
あとは、この子たちを送り出してあげるだけだ。
それでは、妖精さんたちの送別会を――しようじゃあないか。