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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第十三話 そこにあるもの


 脆化病の原因がある程度判明し、バイパス手術が必要となった。

 では実際それをやるとして、どうしたらいいか。

 またまた、難問が出てきた。


「メスを入れるのは、正直怖い」

「もし失敗したり間違っていたら、取り返しがつきませんからね……」

「よくわからないけど、やばそうです~」

「きゃい?」


 羽根を切開して、問題の箇所を手術する。これは無理だと思う。

 そんな手術したこともないし、それでいいのかもわからない。

 それに妖精さんの羽根は精密かつ、流路は毛細血管のように細い個所もある。

 ちいさすぎて、手術するのが困難でもあった。


 となれば、出来る事は限られる。

 妖精さんの羽根を傷つけずに、かつ精密な流路を形成するという施術が必要になるわけだ。


「やるとしたら、このもれちゃう部分に別の道を作る方法にはなる。それも切開なしに」

「そんな方法、可能ですかね?」

「無いなら見つけるしかない」

「あや~、むつかしそうです~」

「さっぱりわからないね! さっぱり!」


 俺も言っては見たものの、どうやって実現するかはさっぱりだ。

 だけど、妖精さんの羽根を切開するよりずっとマシ。

 やり直しが利くからね。手探りするしかない現段階では、結局それしか手立てが思いつかない。


 というわけでだ、まずは妖精ぱわーを通せる素材を発見しないといけない。


「ひとまず、妖精ぱわーを通せる素材を探してみよう。それが見つかれば、次に進めると思う」

「わかりました」

「ハナもおてつだいするです~」

「わたしもがんばるよ! がんばるよ!」

「わたしも! わたしも!」


 最初の試みを提案すると、みんな協力してくれるといてくれた。

 羽根をなんとか補修した妖精ちゃんもイトカワちゃんも、やるき十分でキラッキラ粒子を出している。


 ……ん? キラキラ粒子?


 ……。


 ――あああ! 妖精ちゃんあんまりキラキラ出さないで!



 ◇



「ちょうしにのりました~」

「はんせいちゅう~」


 羽根をなんとか補修した妖精ちゃんとイトカワちゃんは、見学となりました。てへぺろしてて可愛いね。

 しかし感情が高ぶるとキラキラがでちゃうぽいので、落ち着く香りのお花で心を静めてもらうことに。


「おちつくね! ゆったりだよ!」

「あや~、いいかおりです~」

「これはアロマに良いですね。この香り、抽出してみようかしら?」


 落ち着く香りのお花のおかげで、集会場はまったりした雰囲気。

 なんだか眠くなってきたけど、お仕事をしないとね。

 今回は救助隊妖精のさんたちをお呼びして、妖精ぱわーと親和性のある素材があるか調査だ。


「みんな、協力ありがとうね。お礼はこの高級チョコレートだよ」

「これおいしいね! あまいね!」

「ふかみのある、あじ~」

「おとなのあじだね! おとなのあじ!」

「きゃい~」


 お礼の品をきゃいきゃいとほおばりながら、救助隊妖精さんたち大はしゃぎだ。

 それじゃあ、お菓子を食べたら、いろんな素材をためしてみよう!


 ――――。


 金、銀、銅、鉄、プラチナ、アルミ、そのほか各種合金ではダメだった。

 ダイヤモンド、増幅石、ルビー、アメジストなどの鉱石類もダメ。

 プラスチックや木綿や絹糸もだめ。


 手に入る各種素材をいろいろ案したけど、結果全部ダメだった。


「これもダメか……」

「こっちもダメですね」

「タイシ~、これもダメっぽいです~」


 五人の救助隊妖精さんたちにフル稼働してもらって、色々試したけど、ダメ。

 良い感じの素材は、見つからない。


「まだまだ、だいじょうぶだよ! だいじょうぶだよ!」

「これくらい、へっちゃら~」

「つぎはなにかな? なにかな?」


 ぐったりする俺たちをよそに、救助隊妖精さんたちは元気そのもの。

 脆化病を患っていない子は、こんなに元気なんだ。

 というか、これが本来の妖精さんなんだろうね。


 ……救助隊妖精さんたちには申し訳ないけど、俺たちがヘトヘトだ。

 ここらで少し、休憩しよう。


「みんな、おやつでもつまんで休憩しよう。無理は良くないから」

「それが良いですね」

「おやつです~!」

「きゃい~」


 ユキちゃんもハナちゃんもお疲れのようで、おやつ休憩といったら嬉しそうな顔になった。

 とくにハナちゃんは、もうキャッキャしている。エルフ耳がぴっこぴこだ。

 それでは、お菓子詰め合わせをみんなで食べよう。


「あや! たくさんあるです~」

「たのしみだね! おいしそうだね!」

「きゃい~」


 ざらざらと器にお菓子を流し込んで、おやつ休憩の始まりだ。

 ハナちゃんも妖精さんたちも、目をキラキラさせて山盛りお菓子を見つめる。


「はいみんな、お茶を入れるね。大志さんはどうされます?」

「自分はコーヒーにしとこうかな」

「わかりました」


 集会場には爺ちゃん用のコーヒーがあるので、ちょっと分けてもらおう。

 たまにはコーヒーでも飲みたくなるもので。


「あえ? こーひーってなんです?」

「はつみみ! はつみみ!」

「あまいやつ?」


 にがいやつです。

 ハナちゃんと妖精さんたち、コーヒーという言葉に興味を持ったようだ。

 俺が頼んだものだから、好奇心がわいたのかな?


「みんなには、コーヒーは向かないと思うわ」

「あえ? むかないです?」

「そうそう、とっても苦い飲み物だから、お勧めはしないかな」

「あや! にがいです!?」


 ……ユキちゃんがあらかじめ、苦い飲み物だと念押ししてくれたね。

 砂糖とミルクをドバドバ入れないと、子供にはちょっと……だからね。


「試しに味見してみる? これがコーヒーというにがーい飲み物だけど」


 インスタントコーヒーを淹れて、みんなに見せてみる。


「あや~、まっくろです~……」

「あきらかに、にがそうだね! にがそうだね!」

「きびしい~」


 コーヒーの真っ黒さにハナちゃんたち、ドン引き。

 みんなして、お耳がペタンコだ。

 ブラックは、大人でも好き嫌いあるからね。

 あまいやつもあるから、また機会があったら飲ませてあげよう。


 とまあそんなやり取りの後は、飲み物もそろっていただきますだ。

 みんなで思い思いのお菓子をつまむ。


「あや! このまるいやつ、なかにきのみがはいってるです~」

「ほぞんしょくも、おいしくできるんだ! できるんだ!」

「ふしぎなおだんご~!」


 ハナちゃんと妖精さんたちは、アーモンドチョコレートを食べて大はしゃぎ。

 アーモンドでも、チョコで包むとお互いが引き立てあって甘さ倍増だからね。

 保存食として扱われてきた種とかも、今後は美味しくできるかもだね。


「こっちのおだんご、ざんしんだね! ざんしんだね!」

「まねしましょ! まねしましょ!」

「さっそくこねこね~」


 アーモンドチョコレートに刺激された妖精さんたち、我慢できずにお団子を作り始めた。

 あんまりおいしくないと評判だった、あのタネとかをなんかで包んでいるね。

 そして羽根がキラッキラだ。


「おだんごこねこね~」

「きゃい~」


 羽をなんとか補修した妖精ちゃんと、イトカワちゃんも元気にお団子作りだ。

 そして羽根からキラキラ粒子が出まくっている……。


 ……。


 ――大変だー!



 ◇



「またやっちった」

「ちょうしにのりました~」


 てへぺろする二人の妖精ちゃんだ。なんかパターン入った。

 あれだね、いきなりキラキラ自粛令出したって難しいからね。

 気を付けて見守っていこう。


「これもおいしいです~」

「とろけるあまさだね! とろけるね!」

「かじれないね? へんだね?」


 気を取り直して、またおやつ休憩再開。

 ……イトカワちゃんは、包装してある銀紙を取らずにかじっているけど。

 その外側の奴は、食べ物じゃあないよ?

 というか、包みを取ってあげよう。


「この外側のは包むやつで食べ物じゃないから、取ってあげるね」

「ありがと! ありがと!」

「ほらとれた。さあ召し上がれ」

「いただきます~」


 中身のキャンディーを受け取ったイトカワちゃん、ご機嫌でかじりだす。

 赤い包み紙だから……リンゴ味かな?


「あ、そうそう。包み紙とかはここに置いておいてね。あとでまとめて捨てるから」

「あい~」

「ここだね! ここだね!」

「おいときます~」


 包んである系のお菓子は、ゴミをひとまとめに。

 ユキちゃんが、ハナちゃんや妖精さんたちにお願いしているね。

 俺のもそこに置いとけばいいか。


 さっきのキャンディーの包みを、くしゃくしゃと丸めて、ユキちゃん指定の場所に置く。

 ……そういやこれって、燃えるごみなのかな? それとも資源ごみ?


「……あえ?」


 おや? ハナちゃんが置いてある丸めた包みを見て……首をかしげた。

 エルフ耳がぴこぴこっとして、かわいらしいね。


「あえあえ?」


 ハナちゃんはじっと赤い包み紙を見て、首を右にこてっと、左にこてっと傾ける。

 ……どうしたんだろう?」


「ハナちゃんどうしたの? 何か気になることでも?」

「あや~、なんか、わすれてるきがするです?」


 ハナちゃんはこちらを見て、むむむっという顔になった。

 何かを忘れている?


「むむむ……なんかすごいやつ、あったような……むむむ?」


 むむむむハナちゃん、がんばって何かを思い出そうとしているようだ。

 邪魔せず、集中させてあげよう。


「むむむ? むむむ? むむむぐ?」


 むむむむ状態でもおやつを食べるのは止めない。

 さすがハナちゃんだ。


 そして三十分後。


「――あや! おもいだしたです~!」


 おやつを大量消費しながら、むむむっとなっていたハナちゃん。

 突然エルフ耳をぴこっと立てて、ぽててっと部屋から出て行った。

 どうやら思い出せたようだけど、なにを思い出したんだろう?


 そうして、しばらく待っていると――。


「タイシタイシ~! これ! これためしてないです~!」

「あ、それは確か……」

「きゃい?」


 ハナちゃんが、何かをもってぽててっともどってきた。

 そのちっちゃなお手々が持っていたものは――緋色の、イトカワみたいな形をしたやつ。

 これは――緋緋色金(ヒヒイロカネ)


「あ! 確かにそれ、忘れてた!」

「タイシタイシ~! これ、ためしてみるです~!」

「しっぱいしたやつ~……」


 ハナちゃんがキャッキャと持ってきた緋緋色金。

 イトカワちゃんは失敗作を持ってこられて、ヘコんでいる……。

 まあそれは後でフォローするとして、ユキちゃんに聞いてみよう。


「ユキちゃん、確かこれは……力をいい感じに通してくれるんだっけ?」

「え、ええ。もしかしてこの緋緋色金なら……できるかもしれません!」

「やってみるです~!」


 すっかりその存在を忘れていた、緋緋色金。

 妖精さんたちが作った、増幅石と純金の合金?

 もしかしたら――もしかするかも!



 ◇



「ちから、とおってるかんじがするよ! するよ!」

「いいかんじ! いいかんじ!」

「きゃい~」


 緋緋色金は、妖精さんの力を――通した。

 救助隊妖精さんに細~く加工してもらい、問題の個所に接着して。

 すると、色つき粒子が――減った。


 ――成功だ!


「よーし! これで何とかなるかもしれない!」

「やったです~!」

「やりましたね!」


 わーわーと三人でハイタッチをして、素材発見に大はしゃぎする。

 脆化病克服の、光が見えてきた!


「やったね! やったね!」

「みつかった! みつかった!」

「きゃい~」


 妖精さんたちも、真似してきゃいきゃいとハイタッチをしているね。

 目に見えて効果が出たのだから、当然だ。


 よーし! この緋緋色金という素材を使って――治療法を作り上げるんだ!



 ◇



 緋緋色金といういい感じの素材が見つかり、さあ加工だ! という段になって。

 俺たちでは加工が無理なので、妖精さんにお任せした。


「こんなかんじ? こんなかんじ?」

「きれいなえんを、えがきましょ~」

「できたよ! できた!」


 妖精さんたちに、ちたま便利道具のコンパスをコピーしてもらって。

 サイクロイド曲線の描き方を教えて。

 患部に最適な大きさの、最適なサイクロイド曲線を描いてもらうことに成功だ。

 出だし順調!


 そして、緋緋色金の加工というと……。


「これはむずかしいね! むずかしいね!」

「ぐにゃぐにゃになりました~」

「まげるの、むずかし~」


 こねこねは得意な妖精さんたちだけど、線を曲げるのは難しいらしい。

 患部ごとにサイクロイドの径は変わるので、どうしても職人芸が必要になっちゃうね。

 しかしだ、思わぬ職人芸を持った方がいらしゃったわけで。


「できたよ! できたよ!」


 なんと、イトカワちゃんがきれいに緋緋色金を曲げることができた。

 こねるのは苦手だけど、曲げるのは超得意なイトカワちゃんなのだった。

 イトカワちゃんの、思わぬ特技が明らかになった瞬間だ。

 こねこね職人ではなく、まげまげ職人だったのだ。


「曲げるの上手だね。良い出来だよ」

「きゃい~」


 こねこねで失敗しまくりだったのが、まげまげでは大活躍。

 イトカワちゃん、褒められてきゃいっきゃいだね。


 さて、これで、加工も可能ということが実証された。

 次は――羽根をなんとか補修した妖精ちゃんの、流路設計だ。

 失われた部分については、羽に穴が開いていなかった頃のブロマイドを参考にする。

 その当時の写真を用いて、流路を二値化し当時の姿を再現。

 最初から無かった部分は、反対側の羽根を参考に再現した。

 このパターンを参考に、妖精さんたちに角ばっている箇所を再設計してもらう。


「ここがかくばってるね! まるめとくね!」

「これでどうかな? どうかな?」

「いいかんじ~」


 きゃいきゃいと設計し、きゃいきゃいと緋緋色金をまげて。

 羽をなんとか補修した妖精ちゃんの、羽根補修部品ができました!

 直径二センチほどの、ちいさなちいさな、しかし複雑な部品だ。


 ここまでくるのに、一週間。

 全員で力を合わせて、なんとかここまで来た。


 それでは――手術を始めましょう!


 とはいえ、部品を張り付けるだけなんだけど。

 それも妖精さんたちにお任せだ。俺たちがやると、変なところに貼り付けてしまう。


「くすぐったいね! もぞもぞするよ!」

「じっとしててね! じっとね!」

「はい! つながりました~!」


 精密な作業なので、これも妖精さんたちにお任せ。

 きゃいきゃいと、にぎやかに羽の補修が進んでいく。

 羽を補修中の妖精ちゃんは、くすぐったくてたまらないみたいだけど。

 もうちょっと、我慢してね。


「てがくっついちゃった! くっついちゃった!」

「きゃい?」


 ……イトカワちゃんが、羽根に手をくっつけてしまうという事故も起きたりしたけれど。

 酵素ではがして、またくっつけ手術を再開だ。


 そうして、大騒ぎしながらも手術? をすること二時間。

 部品を接着し、妖精サクラの花びらでカバーをして……手術は終了。

 さっそく、粒子を出してもらうことに。


「どうかな? ちょっとキラキラを出してみて?」

「わかったよ! こうかな? こうかな?」


 羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、がんばってキラキラを出してくれる。

 すると――白い粒子が出てきた!


 ――が、若干色つき粒子もまざっている。


 以前ほど多くはないけど、ほんのちょっとだけ。

 まだ羽根に穴が開いてない子、くらいの量は……漏れていた。


 色つき粒子が、ひらひらと。

 妖精さんの羽根から、キラキラと。

 まだまだ、何かが――足りない。



 ◇



『かっこいい~』


 また雪が降って、メカ好きさんが大喜びで除雪機を使って雪かきをしている。

 半分離脱しながらの雪かきとは、また器用な……。


 そんな寒い中作業してくれるメカ好きさんには申し訳ないけど、こちらはぽかぽか集会場で頭ぷしゅ~っとなっていた。

 どうしてもちょっとだけ妖精ぱわー漏れちゃうなあ問題、まったく解決が出来ずにいたのだ。

 俺とハナちゃんとユキちゃん、そして妖精さんたちと一緒に、解決策を考える。


「うまくいかないもんだな……」

「まだ何か、足りないのでしょうかね……」

「あとちょっとなかんじです~」


 半分成功、半分失敗。そんな結果に、すごいもやもやする俺たちだ。

 ずいぶんマシになったとはいえ、目標まであと一歩、届かない。

 何度も流路を見直し、何度も精度を確認し。

 緋緋色金で作った人工流路は、問題ないと思われた。

 しかし、どうしても漏れる。


 妖精花畑にあるお花の花びらを使うと、ある程度は漏れが防げる所までは分かった。

 羽根を花びらで補修するのは、理にかなった行為だったんだ。

 ただ、それでも完全に防げない。

 なんか、漏れてくる。


 この現象を解明するために、何度も何度も妖精さんの粒子をスロー再生して、問題がないか確認していく。

 だけど、糸口は見つからない。


「あ~、また八方ふさがりか」

「医療というものは、なかなか難しいものですね」

「ようせいさんのキラキラ、すりぬけちゃうです~」

「だいぶましになったけどね! これでもいいよ!」


 羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、これでもいいと言ってくれている。

 でも、あと一歩。もうちょっとなわけで。

 もう一歩だけ、前に進みたい。


 一体、何が足りないんだろう……。


「げんきだしてね! げんき!」

「みんなを、はげましましょ~」


 イトカワちゃんと羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、二人そろってキラキラしながら励ましてくれる。

 ああいや、あんまり粒子を出しちゃうと……。

 でもまあ、励まそうとしてくれるのは、ありがたいね。

 なんだか、やる気が出てくるよ。


「二人ともありがとうね。元気出てきたよ」

「きゃい~」

「きゃい~きゃい~」


 お礼を言うと、二人は喜んでまたキラッキラと粒子を出す。

 あああ、色付き粒子、わりと出てる……。

 またパターンに入ってしまった。


 まあ、嬉しい時にかなり粒子がでちゃうらしいので、仕方ないかもだね。

 羽根が脆化すること自体は防ぐことが出来たので、これくらいは確かに……許容はできなくもない。

 ただ、ここで終わりたくないなあという思いもあるわけで。

 なんとか、ならないかな……糸口、見つからないかな……。


「きゃい~」

「きゃい~きゃい~」


 喜ぶ妖精ちゃんたち二人からでる白い粒子。

 そこにわずかに、色付き粒子が混ざっていて……おや?

 今なんか、粒子が……跳ね返った?


 羽根をいい感じに補修した妖精ちゃんから出た色付き粒子が、イトカワちゃんの羽根にあたって。

 なんか「ぽよん」て感じで跳ね返されたように見えた。

 白い粒子は素通りなのに、色付き粒子だけ、「ぽよん」て。


 色つき粒子、色んな物体をすり抜けちゃうのに。

 妖精さんの羽根だけは……色つき粒子を、跳ね返す?


 ……もうちょっと観察してみよう。粒子をもうすこし、出してもらえば。

 ちやほやしたら、もっと粒子が出るかな?


「二人ともかわいいね~」

「かわいいって! かわいいっって!」

「綺麗な羽根だね~」

「きゃい~!」


 おお、出てきた出てきた。粒子がぶわわっと出てきた。

 さてさて、隣り合った二人の色付き粒子は――ぽよん、と、跳ね返った。


 ――間違いない!


 妖精さんの羽根は、本来なら色付き粒子を通さないんだ! シールドなんだ!

 しかし脆化が起きている箇所は、そのシールド力が弱まる。

 そういう事なのでは、ないだろうか。


 サイクロイドにて流路を保護し、オーバーヒートを防ぐために白い粒子を放出する。

 しかし、色付き粒子も多少は放出されてしまう。

 その多少漏れてしまう色付き粒子は、羽根が漏らさないようシールドしている。

 ということなのでは!


 よーし、あの剥がれちゃった羽根の一部を使って、検証しよう!



 ◇



 検証の結果は――ビンゴ。

 剥がれてしまったあの羽根の一部を使ってみると、見事に色付き粒子が出て来なくなった。

 やった! これで治療法、確立だ!


 ――しかし、特大の問題が一つあった。


「タイシ~、ほかのぶぶんはどうするです?」

「もう、漏れを防ぐ素材は無いですよね?」

「そうなんだよな……」


 そう、剥がれ落ちた羽根の一部では、全然足りないのだ。

 まだまだシールが必要な部分は沢山あれど、塞ぐための素材が……もう無い。

 ほかの子からもらうわけにもいかず、またまた八方ふさがりに。

 この素材問題が解決できれば、治療法確立! なんだけどなあ……。


「色んな布や素材を試してみましたけど、ダメですかね?」

「タイシ、これもだめです?」


 ユキちゃんハナちゃんも一緒に素材探しをしてくれているけど、どれもすり抜けているね。

 色付き粒子は、今この村では……俺と離脱したメカ好きさんしか見えない。

 検証作業もなかなか大変だ。

 まあこの辺はしょうがないとして、なんか良い素材、ないかなあ……。


 そうして、また素材探しに逆戻りとなり、じりじりと検証していた時の事。


「ゆきかきおわった~。たのしかった~」


 雪かきを終えたメカ好きさんが集会場にやって来た。

 そして、あったかいお茶が入ったポットに手を伸ばしている。

 寒い中、お仕事ありがとうございますだね。今度なにかお礼をしよう。


「あえ?」


 しかしハナちゃん、メカ好きさんを見て首を傾げた。

 と思ったら、ぽてぽて歩いていく。


「あえあえ?」

「あり? ハナちゃんどしたの?」


 きょとんとするメカ好きさんにかまわず、ハナちゃんはじいいっと何かを覗き込む。

 ハナちゃんの目線の先は……メカ好きさんの左手、手首の辺り。

 そこには……なんかの白い紐が。

 そして――。


「あやー! タイシこれです~! これつかえるかもです~!」

「うわー!」


 ハナちゃんお耳をぴこっと立てて、メカ好きさんの腕を掴んで引きずってきた。

 なんちゅう力持ち……。


 というか、これが使える? メカ好きさんのこと?


「ハナちゃん、何が使えそうなの?」

「これですこれ! このしろいひもです~!」

「……白い紐?」


 この白い紐が使えるって……あ。

 この紐、メカ好きさんのたましい的なアレを、通さない。

 体に結んでおけば、そこでたましい的なアレがひっかかって離脱を防ぐ。


 メカ好きさんのたましい的なアレは、妖精さんぱわー漏れ粒子を目視できる。

 それは、似たような存在だから、という仮説を勝手に組み立ててある。


 ……たましい的なアレと、妖精さんぱわーが似たような存在なのであれば。

 もしかしてこの素材なら、妖精さんぱわーのわずかな漏出を――シールドできる?


 ……試す価値はあるな! さっそく検証だ!


 ――ということで、メカ好きさんから紐を借りて検証してみる。


『うまくいけばいいな~』

「あやー! ぜんぶでちゃったです~!」


 ……メカ好きさんが完全離脱したので、木工用ボンドで応急処置をば。


 かなりの緊急事態が発生したけど、気を取り直して。

 紐を患部に押し当てて、粒子を出してもらうと――漏れない。

 粒子は白くなっていた。

 これは――成功だ。


「……大丈夫、白くなっているよ」

「やったです~!」

「きゃい~!」


 メカ好きさんの離脱防止用に使っていた、例の紐。

 見事に妖精さん色付き粒子をシールドした。

 これで、脆化病の治療法、確立ができ――。


「それで大志さん、この紐の素材って、何ですか?」

「タイシタイシ~、これなんです?」


 ――た?


 …………あれ?


 この紐、なんの紐なんだろう?

 メカ好きさんの離脱防止にと、色々試した結果……この紐になった。

 そしてこの紐は……その辺に落ちてたやつ。


 ……あれ?


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