第十三話 そこにあるもの
脆化病の原因がある程度判明し、バイパス手術が必要となった。
では実際それをやるとして、どうしたらいいか。
またまた、難問が出てきた。
「メスを入れるのは、正直怖い」
「もし失敗したり間違っていたら、取り返しがつきませんからね……」
「よくわからないけど、やばそうです~」
「きゃい?」
羽根を切開して、問題の箇所を手術する。これは無理だと思う。
そんな手術したこともないし、それでいいのかもわからない。
それに妖精さんの羽根は精密かつ、流路は毛細血管のように細い個所もある。
ちいさすぎて、手術するのが困難でもあった。
となれば、出来る事は限られる。
妖精さんの羽根を傷つけずに、かつ精密な流路を形成するという施術が必要になるわけだ。
「やるとしたら、このもれちゃう部分に別の道を作る方法にはなる。それも切開なしに」
「そんな方法、可能ですかね?」
「無いなら見つけるしかない」
「あや~、むつかしそうです~」
「さっぱりわからないね! さっぱり!」
俺も言っては見たものの、どうやって実現するかはさっぱりだ。
だけど、妖精さんの羽根を切開するよりずっとマシ。
やり直しが利くからね。手探りするしかない現段階では、結局それしか手立てが思いつかない。
というわけでだ、まずは妖精ぱわーを通せる素材を発見しないといけない。
「ひとまず、妖精ぱわーを通せる素材を探してみよう。それが見つかれば、次に進めると思う」
「わかりました」
「ハナもおてつだいするです~」
「わたしもがんばるよ! がんばるよ!」
「わたしも! わたしも!」
最初の試みを提案すると、みんな協力してくれるといてくれた。
羽根をなんとか補修した妖精ちゃんもイトカワちゃんも、やるき十分でキラッキラ粒子を出している。
……ん? キラキラ粒子?
……。
――あああ! 妖精ちゃんあんまりキラキラ出さないで!
◇
「ちょうしにのりました~」
「はんせいちゅう~」
羽根をなんとか補修した妖精ちゃんとイトカワちゃんは、見学となりました。てへぺろしてて可愛いね。
しかし感情が高ぶるとキラキラがでちゃうぽいので、落ち着く香りのお花で心を静めてもらうことに。
「おちつくね! ゆったりだよ!」
「あや~、いいかおりです~」
「これはアロマに良いですね。この香り、抽出してみようかしら?」
落ち着く香りのお花のおかげで、集会場はまったりした雰囲気。
なんだか眠くなってきたけど、お仕事をしないとね。
今回は救助隊妖精のさんたちをお呼びして、妖精ぱわーと親和性のある素材があるか調査だ。
「みんな、協力ありがとうね。お礼はこの高級チョコレートだよ」
「これおいしいね! あまいね!」
「ふかみのある、あじ~」
「おとなのあじだね! おとなのあじ!」
「きゃい~」
お礼の品をきゃいきゃいとほおばりながら、救助隊妖精さんたち大はしゃぎだ。
それじゃあ、お菓子を食べたら、いろんな素材をためしてみよう!
――――。
金、銀、銅、鉄、プラチナ、アルミ、そのほか各種合金ではダメだった。
ダイヤモンド、増幅石、ルビー、アメジストなどの鉱石類もダメ。
プラスチックや木綿や絹糸もだめ。
手に入る各種素材をいろいろ案したけど、結果全部ダメだった。
「これもダメか……」
「こっちもダメですね」
「タイシ~、これもダメっぽいです~」
五人の救助隊妖精さんたちにフル稼働してもらって、色々試したけど、ダメ。
良い感じの素材は、見つからない。
「まだまだ、だいじょうぶだよ! だいじょうぶだよ!」
「これくらい、へっちゃら~」
「つぎはなにかな? なにかな?」
ぐったりする俺たちをよそに、救助隊妖精さんたちは元気そのもの。
脆化病を患っていない子は、こんなに元気なんだ。
というか、これが本来の妖精さんなんだろうね。
……救助隊妖精さんたちには申し訳ないけど、俺たちがヘトヘトだ。
ここらで少し、休憩しよう。
「みんな、おやつでもつまんで休憩しよう。無理は良くないから」
「それが良いですね」
「おやつです~!」
「きゃい~」
ユキちゃんもハナちゃんもお疲れのようで、おやつ休憩といったら嬉しそうな顔になった。
とくにハナちゃんは、もうキャッキャしている。エルフ耳がぴっこぴこだ。
それでは、お菓子詰め合わせをみんなで食べよう。
「あや! たくさんあるです~」
「たのしみだね! おいしそうだね!」
「きゃい~」
ざらざらと器にお菓子を流し込んで、おやつ休憩の始まりだ。
ハナちゃんも妖精さんたちも、目をキラキラさせて山盛りお菓子を見つめる。
「はいみんな、お茶を入れるね。大志さんはどうされます?」
「自分はコーヒーにしとこうかな」
「わかりました」
集会場には爺ちゃん用のコーヒーがあるので、ちょっと分けてもらおう。
たまにはコーヒーでも飲みたくなるもので。
「あえ? こーひーってなんです?」
「はつみみ! はつみみ!」
「あまいやつ?」
にがいやつです。
ハナちゃんと妖精さんたち、コーヒーという言葉に興味を持ったようだ。
俺が頼んだものだから、好奇心がわいたのかな?
「みんなには、コーヒーは向かないと思うわ」
「あえ? むかないです?」
「そうそう、とっても苦い飲み物だから、お勧めはしないかな」
「あや! にがいです!?」
……ユキちゃんがあらかじめ、苦い飲み物だと念押ししてくれたね。
砂糖とミルクをドバドバ入れないと、子供にはちょっと……だからね。
「試しに味見してみる? これがコーヒーというにがーい飲み物だけど」
インスタントコーヒーを淹れて、みんなに見せてみる。
「あや~、まっくろです~……」
「あきらかに、にがそうだね! にがそうだね!」
「きびしい~」
コーヒーの真っ黒さにハナちゃんたち、ドン引き。
みんなして、お耳がペタンコだ。
ブラックは、大人でも好き嫌いあるからね。
あまいやつもあるから、また機会があったら飲ませてあげよう。
とまあそんなやり取りの後は、飲み物もそろっていただきますだ。
みんなで思い思いのお菓子をつまむ。
「あや! このまるいやつ、なかにきのみがはいってるです~」
「ほぞんしょくも、おいしくできるんだ! できるんだ!」
「ふしぎなおだんご~!」
ハナちゃんと妖精さんたちは、アーモンドチョコレートを食べて大はしゃぎ。
アーモンドでも、チョコで包むとお互いが引き立てあって甘さ倍増だからね。
保存食として扱われてきた種とかも、今後は美味しくできるかもだね。
「こっちのおだんご、ざんしんだね! ざんしんだね!」
「まねしましょ! まねしましょ!」
「さっそくこねこね~」
アーモンドチョコレートに刺激された妖精さんたち、我慢できずにお団子を作り始めた。
あんまりおいしくないと評判だった、あのタネとかをなんかで包んでいるね。
そして羽根がキラッキラだ。
「おだんごこねこね~」
「きゃい~」
羽をなんとか補修した妖精ちゃんと、イトカワちゃんも元気にお団子作りだ。
そして羽根からキラキラ粒子が出まくっている……。
……。
――大変だー!
◇
「またやっちった」
「ちょうしにのりました~」
てへぺろする二人の妖精ちゃんだ。なんかパターン入った。
あれだね、いきなりキラキラ自粛令出したって難しいからね。
気を付けて見守っていこう。
「これもおいしいです~」
「とろけるあまさだね! とろけるね!」
「かじれないね? へんだね?」
気を取り直して、またおやつ休憩再開。
……イトカワちゃんは、包装してある銀紙を取らずにかじっているけど。
その外側の奴は、食べ物じゃあないよ?
というか、包みを取ってあげよう。
「この外側のは包むやつで食べ物じゃないから、取ってあげるね」
「ありがと! ありがと!」
「ほらとれた。さあ召し上がれ」
「いただきます~」
中身のキャンディーを受け取ったイトカワちゃん、ご機嫌でかじりだす。
赤い包み紙だから……リンゴ味かな?
「あ、そうそう。包み紙とかはここに置いておいてね。あとでまとめて捨てるから」
「あい~」
「ここだね! ここだね!」
「おいときます~」
包んである系のお菓子は、ゴミをひとまとめに。
ユキちゃんが、ハナちゃんや妖精さんたちにお願いしているね。
俺のもそこに置いとけばいいか。
さっきのキャンディーの包みを、くしゃくしゃと丸めて、ユキちゃん指定の場所に置く。
……そういやこれって、燃えるごみなのかな? それとも資源ごみ?
「……あえ?」
おや? ハナちゃんが置いてある丸めた包みを見て……首をかしげた。
エルフ耳がぴこぴこっとして、かわいらしいね。
「あえあえ?」
ハナちゃんはじっと赤い包み紙を見て、首を右にこてっと、左にこてっと傾ける。
……どうしたんだろう?」
「ハナちゃんどうしたの? 何か気になることでも?」
「あや~、なんか、わすれてるきがするです?」
ハナちゃんはこちらを見て、むむむっという顔になった。
何かを忘れている?
「むむむ……なんかすごいやつ、あったような……むむむ?」
むむむむハナちゃん、がんばって何かを思い出そうとしているようだ。
邪魔せず、集中させてあげよう。
「むむむ? むむむ? むむむぐ?」
むむむむ状態でもおやつを食べるのは止めない。
さすがハナちゃんだ。
そして三十分後。
「――あや! おもいだしたです~!」
おやつを大量消費しながら、むむむっとなっていたハナちゃん。
突然エルフ耳をぴこっと立てて、ぽててっと部屋から出て行った。
どうやら思い出せたようだけど、なにを思い出したんだろう?
そうして、しばらく待っていると――。
「タイシタイシ~! これ! これためしてないです~!」
「あ、それは確か……」
「きゃい?」
ハナちゃんが、何かをもってぽててっともどってきた。
そのちっちゃなお手々が持っていたものは――緋色の、イトカワみたいな形をしたやつ。
これは――緋緋色金!
「あ! 確かにそれ、忘れてた!」
「タイシタイシ~! これ、ためしてみるです~!」
「しっぱいしたやつ~……」
ハナちゃんがキャッキャと持ってきた緋緋色金。
イトカワちゃんは失敗作を持ってこられて、ヘコんでいる……。
まあそれは後でフォローするとして、ユキちゃんに聞いてみよう。
「ユキちゃん、確かこれは……力をいい感じに通してくれるんだっけ?」
「え、ええ。もしかしてこの緋緋色金なら……できるかもしれません!」
「やってみるです~!」
すっかりその存在を忘れていた、緋緋色金。
妖精さんたちが作った、増幅石と純金の合金?
もしかしたら――もしかするかも!
◇
「ちから、とおってるかんじがするよ! するよ!」
「いいかんじ! いいかんじ!」
「きゃい~」
緋緋色金は、妖精さんの力を――通した。
救助隊妖精さんに細~く加工してもらい、問題の個所に接着して。
すると、色つき粒子が――減った。
――成功だ!
「よーし! これで何とかなるかもしれない!」
「やったです~!」
「やりましたね!」
わーわーと三人でハイタッチをして、素材発見に大はしゃぎする。
脆化病克服の、光が見えてきた!
「やったね! やったね!」
「みつかった! みつかった!」
「きゃい~」
妖精さんたちも、真似してきゃいきゃいとハイタッチをしているね。
目に見えて効果が出たのだから、当然だ。
よーし! この緋緋色金という素材を使って――治療法を作り上げるんだ!
◇
緋緋色金といういい感じの素材が見つかり、さあ加工だ! という段になって。
俺たちでは加工が無理なので、妖精さんにお任せした。
「こんなかんじ? こんなかんじ?」
「きれいなえんを、えがきましょ~」
「できたよ! できた!」
妖精さんたちに、ちたま便利道具のコンパスをコピーしてもらって。
サイクロイド曲線の描き方を教えて。
患部に最適な大きさの、最適なサイクロイド曲線を描いてもらうことに成功だ。
出だし順調!
そして、緋緋色金の加工というと……。
「これはむずかしいね! むずかしいね!」
「ぐにゃぐにゃになりました~」
「まげるの、むずかし~」
こねこねは得意な妖精さんたちだけど、線を曲げるのは難しいらしい。
患部ごとにサイクロイドの径は変わるので、どうしても職人芸が必要になっちゃうね。
しかしだ、思わぬ職人芸を持った方がいらしゃったわけで。
「できたよ! できたよ!」
なんと、イトカワちゃんがきれいに緋緋色金を曲げることができた。
こねるのは苦手だけど、曲げるのは超得意なイトカワちゃんなのだった。
イトカワちゃんの、思わぬ特技が明らかになった瞬間だ。
こねこね職人ではなく、まげまげ職人だったのだ。
「曲げるの上手だね。良い出来だよ」
「きゃい~」
こねこねで失敗しまくりだったのが、まげまげでは大活躍。
イトカワちゃん、褒められてきゃいっきゃいだね。
さて、これで、加工も可能ということが実証された。
次は――羽根をなんとか補修した妖精ちゃんの、流路設計だ。
失われた部分については、羽に穴が開いていなかった頃のブロマイドを参考にする。
その当時の写真を用いて、流路を二値化し当時の姿を再現。
最初から無かった部分は、反対側の羽根を参考に再現した。
このパターンを参考に、妖精さんたちに角ばっている箇所を再設計してもらう。
「ここがかくばってるね! まるめとくね!」
「これでどうかな? どうかな?」
「いいかんじ~」
きゃいきゃいと設計し、きゃいきゃいと緋緋色金をまげて。
羽をなんとか補修した妖精ちゃんの、羽根補修部品ができました!
直径二センチほどの、ちいさなちいさな、しかし複雑な部品だ。
ここまでくるのに、一週間。
全員で力を合わせて、なんとかここまで来た。
それでは――手術を始めましょう!
とはいえ、部品を張り付けるだけなんだけど。
それも妖精さんたちにお任せだ。俺たちがやると、変なところに貼り付けてしまう。
「くすぐったいね! もぞもぞするよ!」
「じっとしててね! じっとね!」
「はい! つながりました~!」
精密な作業なので、これも妖精さんたちにお任せ。
きゃいきゃいと、にぎやかに羽の補修が進んでいく。
羽を補修中の妖精ちゃんは、くすぐったくてたまらないみたいだけど。
もうちょっと、我慢してね。
「てがくっついちゃった! くっついちゃった!」
「きゃい?」
……イトカワちゃんが、羽根に手をくっつけてしまうという事故も起きたりしたけれど。
酵素ではがして、またくっつけ手術を再開だ。
そうして、大騒ぎしながらも手術? をすること二時間。
部品を接着し、妖精サクラの花びらでカバーをして……手術は終了。
さっそく、粒子を出してもらうことに。
「どうかな? ちょっとキラキラを出してみて?」
「わかったよ! こうかな? こうかな?」
羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、がんばってキラキラを出してくれる。
すると――白い粒子が出てきた!
――が、若干色つき粒子もまざっている。
以前ほど多くはないけど、ほんのちょっとだけ。
まだ羽根に穴が開いてない子、くらいの量は……漏れていた。
色つき粒子が、ひらひらと。
妖精さんの羽根から、キラキラと。
まだまだ、何かが――足りない。
◇
『かっこいい~』
また雪が降って、メカ好きさんが大喜びで除雪機を使って雪かきをしている。
半分離脱しながらの雪かきとは、また器用な……。
そんな寒い中作業してくれるメカ好きさんには申し訳ないけど、こちらはぽかぽか集会場で頭ぷしゅ~っとなっていた。
どうしてもちょっとだけ妖精ぱわー漏れちゃうなあ問題、まったく解決が出来ずにいたのだ。
俺とハナちゃんとユキちゃん、そして妖精さんたちと一緒に、解決策を考える。
「うまくいかないもんだな……」
「まだ何か、足りないのでしょうかね……」
「あとちょっとなかんじです~」
半分成功、半分失敗。そんな結果に、すごいもやもやする俺たちだ。
ずいぶんマシになったとはいえ、目標まであと一歩、届かない。
何度も流路を見直し、何度も精度を確認し。
緋緋色金で作った人工流路は、問題ないと思われた。
しかし、どうしても漏れる。
妖精花畑にあるお花の花びらを使うと、ある程度は漏れが防げる所までは分かった。
羽根を花びらで補修するのは、理にかなった行為だったんだ。
ただ、それでも完全に防げない。
なんか、漏れてくる。
この現象を解明するために、何度も何度も妖精さんの粒子をスロー再生して、問題がないか確認していく。
だけど、糸口は見つからない。
「あ~、また八方ふさがりか」
「医療というものは、なかなか難しいものですね」
「ようせいさんのキラキラ、すりぬけちゃうです~」
「だいぶましになったけどね! これでもいいよ!」
羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、これでもいいと言ってくれている。
でも、あと一歩。もうちょっとなわけで。
もう一歩だけ、前に進みたい。
一体、何が足りないんだろう……。
「げんきだしてね! げんき!」
「みんなを、はげましましょ~」
イトカワちゃんと羽根をいい感じに補修した妖精ちゃん、二人そろってキラキラしながら励ましてくれる。
ああいや、あんまり粒子を出しちゃうと……。
でもまあ、励まそうとしてくれるのは、ありがたいね。
なんだか、やる気が出てくるよ。
「二人ともありがとうね。元気出てきたよ」
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
お礼を言うと、二人は喜んでまたキラッキラと粒子を出す。
あああ、色付き粒子、わりと出てる……。
またパターンに入ってしまった。
まあ、嬉しい時にかなり粒子がでちゃうらしいので、仕方ないかもだね。
羽根が脆化すること自体は防ぐことが出来たので、これくらいは確かに……許容はできなくもない。
ただ、ここで終わりたくないなあという思いもあるわけで。
なんとか、ならないかな……糸口、見つからないかな……。
「きゃい~」
「きゃい~きゃい~」
喜ぶ妖精ちゃんたち二人からでる白い粒子。
そこにわずかに、色付き粒子が混ざっていて……おや?
今なんか、粒子が……跳ね返った?
羽根をいい感じに補修した妖精ちゃんから出た色付き粒子が、イトカワちゃんの羽根にあたって。
なんか「ぽよん」て感じで跳ね返されたように見えた。
白い粒子は素通りなのに、色付き粒子だけ、「ぽよん」て。
色つき粒子、色んな物体をすり抜けちゃうのに。
妖精さんの羽根だけは……色つき粒子を、跳ね返す?
……もうちょっと観察してみよう。粒子をもうすこし、出してもらえば。
ちやほやしたら、もっと粒子が出るかな?
「二人ともかわいいね~」
「かわいいって! かわいいっって!」
「綺麗な羽根だね~」
「きゃい~!」
おお、出てきた出てきた。粒子がぶわわっと出てきた。
さてさて、隣り合った二人の色付き粒子は――ぽよん、と、跳ね返った。
――間違いない!
妖精さんの羽根は、本来なら色付き粒子を通さないんだ! シールドなんだ!
しかし脆化が起きている箇所は、そのシールド力が弱まる。
そういう事なのでは、ないだろうか。
サイクロイドにて流路を保護し、オーバーヒートを防ぐために白い粒子を放出する。
しかし、色付き粒子も多少は放出されてしまう。
その多少漏れてしまう色付き粒子は、羽根が漏らさないようシールドしている。
ということなのでは!
よーし、あの剥がれちゃった羽根の一部を使って、検証しよう!
◇
検証の結果は――ビンゴ。
剥がれてしまったあの羽根の一部を使ってみると、見事に色付き粒子が出て来なくなった。
やった! これで治療法、確立だ!
――しかし、特大の問題が一つあった。
「タイシ~、ほかのぶぶんはどうするです?」
「もう、漏れを防ぐ素材は無いですよね?」
「そうなんだよな……」
そう、剥がれ落ちた羽根の一部では、全然足りないのだ。
まだまだシールが必要な部分は沢山あれど、塞ぐための素材が……もう無い。
ほかの子からもらうわけにもいかず、またまた八方ふさがりに。
この素材問題が解決できれば、治療法確立! なんだけどなあ……。
「色んな布や素材を試してみましたけど、ダメですかね?」
「タイシ、これもだめです?」
ユキちゃんハナちゃんも一緒に素材探しをしてくれているけど、どれもすり抜けているね。
色付き粒子は、今この村では……俺と離脱したメカ好きさんしか見えない。
検証作業もなかなか大変だ。
まあこの辺はしょうがないとして、なんか良い素材、ないかなあ……。
そうして、また素材探しに逆戻りとなり、じりじりと検証していた時の事。
「ゆきかきおわった~。たのしかった~」
雪かきを終えたメカ好きさんが集会場にやって来た。
そして、あったかいお茶が入ったポットに手を伸ばしている。
寒い中、お仕事ありがとうございますだね。今度なにかお礼をしよう。
「あえ?」
しかしハナちゃん、メカ好きさんを見て首を傾げた。
と思ったら、ぽてぽて歩いていく。
「あえあえ?」
「あり? ハナちゃんどしたの?」
きょとんとするメカ好きさんにかまわず、ハナちゃんはじいいっと何かを覗き込む。
ハナちゃんの目線の先は……メカ好きさんの左手、手首の辺り。
そこには……なんかの白い紐が。
そして――。
「あやー! タイシこれです~! これつかえるかもです~!」
「うわー!」
ハナちゃんお耳をぴこっと立てて、メカ好きさんの腕を掴んで引きずってきた。
なんちゅう力持ち……。
というか、これが使える? メカ好きさんのこと?
「ハナちゃん、何が使えそうなの?」
「これですこれ! このしろいひもです~!」
「……白い紐?」
この白い紐が使えるって……あ。
この紐、メカ好きさんのたましい的なアレを、通さない。
体に結んでおけば、そこでたましい的なアレがひっかかって離脱を防ぐ。
メカ好きさんのたましい的なアレは、妖精さんぱわー漏れ粒子を目視できる。
それは、似たような存在だから、という仮説を勝手に組み立ててある。
……たましい的なアレと、妖精さんぱわーが似たような存在なのであれば。
もしかしてこの素材なら、妖精さんぱわーのわずかな漏出を――シールドできる?
……試す価値はあるな! さっそく検証だ!
――ということで、メカ好きさんから紐を借りて検証してみる。
『うまくいけばいいな~』
「あやー! ぜんぶでちゃったです~!」
……メカ好きさんが完全離脱したので、木工用ボンドで応急処置をば。
かなりの緊急事態が発生したけど、気を取り直して。
紐を患部に押し当てて、粒子を出してもらうと――漏れない。
粒子は白くなっていた。
これは――成功だ。
「……大丈夫、白くなっているよ」
「やったです~!」
「きゃい~!」
メカ好きさんの離脱防止用に使っていた、例の紐。
見事に妖精さん色付き粒子をシールドした。
これで、脆化病の治療法、確立ができ――。
「それで大志さん、この紐の素材って、何ですか?」
「タイシタイシ~、これなんです?」
――た?
…………あれ?
この紐、なんの紐なんだろう?
メカ好きさんの離脱防止にと、色々試した結果……この紐になった。
そしてこの紐は……その辺に落ちてたやつ。
……あれ?