第十一話 見えちゃう人
メカ好きさんのおかげで、俺が盛大に勘違いしていたことが判明した。
羽根をなんとか補修した妖精ちゃんのキラキラは、普通の人には白にみえていると。
離脱したメカ好きさんのたましい的なアレ状態と、俺にだけ七色に見えていた、と。
この結果、なんかやな感じの仮説が見えてきてしまった。
すなわち、七色のキラキラは――生命力漏れちゃってない?
ではないかと。
結構やばい感じがするので、急いで追加調査をすることになった。
まずは、ソレ系をなんとかしてくれるお医者さんへと。
しかし――。
「すまない、私はあくまで普通の人間で、その『生命力』などは見ることが出来ないんだ」
「と言うことは、先生でも難しいと……」
「無責任な診断は、したくないからね。力になれなくて、すまない」
「いえ、ご無理を言ってしまって、申し訳ございません」
――という結果に終わった。
妖精さんは特殊極まる存在で、さらに謎だらけ。
オマケに、普通の人では見ることが出来ない現象が、起きている。
高橋さんすらなんとかする、凄腕のお医者さんでも……ダメだった。
しかし――ひとつのアドバイスを貰った。
「もっと……不思議な現象を見ることに慣れた人なら、何か解るかも知れないよ」
このアドバイスに、ピンと来る人物が存在する。
そう、あの……巫女ちゃんだ。
彼女の見鬼は、日本有数。下手をすると――世界有数。
これ以上無い人物が、存在したのだ。
――というわけで、巫女ちゃんに診て貰うことにする。
めっちゃくちゃ見えちゃう人なら、これがなんなのか……感覚的に分かるかも知れない。
すぐさま、巫女ちゃんちに約束を取り付けたのだった。
◇
「すごいね! はやいね! おっきなおうち、たくさんだね!」
「きゃい~」
「このじどうしゃにのるのは、初めてですね!」
「かいてきです~」
「うちのお父さん、この車も欲しがってました。自動運転レベル二でしたっけ?」
(おでかけ~)
高速道路を走って、巫女ちゃんちを目指す。
助手席にユキちゃんが座り、後部座席ではハナちゃんたちがキャッキャしている。
運転席の後ろがハナちゃん、真ん中がヤナさんだ。
助手席の後ろはチャイルドシートがつけてあって、そこに神輿と妖精ちゃんたちが固定されている。
今回は羽根をなんとか補修した妖精ちゃんの他に、イトカワちゃんも旅に参加だ。
普通の妖精さんという、比較対象としてのご参加だね。
みんなお出かけにハイテンションで、キャッキャと車内は賑やかである。
特に羽根をなんとか補修した妖精ちゃんとイトカワちゃんは、初めてちたまの町を目にして、きゃいっきゃいだ。
目にする物全てが巨大で、大興奮のご様子だね。
……しかし、なんか楽しいお出かけ風景なんだけど……これで良いのかな?
まあ、楽しんで貰えているなら良いのかも。
そんな感じで楽しく移動して、サービスエリアでちょっとお昼休憩をする。
さて、みんなでラーメンでも食べようかな?
「ここのラーメンは美味しいから、みんなで食べない?」
「たべるです~!」
「ぜひともぜひとも!」
「寒いときには、こういうのが良いですよね」
「きゃい~」
「おもしろいたべもの! たべたいよ!」
(おそなえもの~)
みんなでキャッキャと、フードコートに向かう。
妖精ちゃん二人は、ユキちゃんに抱えられてきゃいっきゃいだ。
ラーメンたくさん、ご馳走しちゃうよ!
「ねえ、あれってロボットかしら?」
「フィギュアじゃないか?」
「でも、動いてるわよ」
……ん? なんか辺りが騒がしいな。
みんなこっちを見ているけど――。
「妖精みたいな形の、フィギュア?」
「きゃい?」
「すごい! 生きているみたい!」
「ママ~、あれほしい~」
「きゃい?」
――あ! 妖精ちゃんたちに加工増幅石つけるの忘れてた!
◇
「たのしかったね! おおうけだね!」
「めだったね! にんきものだったね!」
「みんな、おおよろこびだったです~」
(いいかんじ~)
あれって妖精じゃね事件は、ごまかしました。
ユキちゃん迫真の演技で、人形ストリートパフォーマンスのふりをしてくれたのだ。
妖精ちゃんもノリノリで、元気に演技をしてくれた。
そしたらもう人だかりが出来てしまって、大人気に。
おひねり、凄いもらっちゃったよ……。
無許可だったから、当局の人が来ないかヒヤヒヤしたね。
「な、なんとかごまかせましたね……一時はどうなることかと思いました……」
「ユキちゃんありがとう。このおひねりは、ユキちゃんの正当な報酬だよ。あと妖精ちゃんもかな?」
三人で山分けしてね。気前の良い人が多かったのか、五万円弱くらいおひねりがある。
予想外の臨時収入だね。
「それなら、このお金でたくさんお団子買いましょう!」
「おだんご! おだんご!」
「きゃい~きゃい~」
「あや! ようせいさんたち、キラッキラです~」
ユキちゃんがお団子購入を提案したら、妖精さんたちキラッキラだね。
思わぬご褒美に、大喜びだ。良かった良かった。
というか、今回の目的から脱線しまくりでござるよ。
……そんな騒ぎがありつつも、無事巫女ちゃんの住む町に到着だ。
顔を出しに行くという連絡はしてあるので、このまま直行だね。
車を走らせて、目的地へと。
やがて、かわいいひまわりの看板が見えてきた。
まさにお花屋さんで、店舗兼住宅だね。
すぐさまそのお店の駐車場に車を停めて、店先に向かう。
店先では、巫女ちゃんのお父さんがお花の手入れをしていた。
それじゃあ、声をかけよう。
「どうもこんにちは。ようやく到着しました」
「ああ大志さん、お久しぶりです。ようこそ我がフラワーショップへ!」
なぜか握手して、店内に招き入れられる。
色とりどりの花が置いてあって、見た目も華やか。
「おはなたくさんだね! たくさんだね!」
「きれいなおはな! きれいなおはな!」
「あや~、みたこともないおはな、いっぱいあるです~」
「こういう、せんもん店もあるのですね」
(おはな、きれい~!)
様々なお花があって、妖精ちゃんたちやハナちゃん、そして神輿はキャッキャと大はしゃぎだね。
ヤナさんは、こういうのも商売になるのかと感心しきりだ。
「ささ、こちらにどうぞ」
売り物の花をみんなでキャッキャして眺めていたら、巫女ちゃんのお父さんがバックヤードへ通してくれた。
そのバックヤードを抜けて、住居へとお邪魔する。
「宇宙人さんたち、いらっしゃい!」
(ども~)
「お疲れでしょう? 今お茶を煎れますから」
住居に入ると、巫女ちゃんとお母さんが出迎えてくれた。
そして神輿がぴこぴこ手を振って、挨拶だね。
……もうなんか、俺たち宇宙人枠で固定されてないかな?
「こんにちわ! こんにちわ!」
「よろしくね! よろしく!」
妖精ちゃんたちも、元気に挨拶だ。
しかし、巫女ちゃんは――ぽかん、としてしまった。
「……ママ、妖精さんが二人もいるよ?」
妖精ちゃんたちを見た巫女ちゃん、早速ツッコミだ。
今回、初めての顔合わせだからね。びっくりするよね。
「そうね、妖精さんみたいに可愛い子たちね」
「ちがくて!」
「きゃい?」
「かわいいって! かわいいって!」
巫女ちゃんには、妖精ちゃんたちはそのまま妖精に見えている。
でもお母さんには、可愛い子供みたいに見えているようだ。
可愛いと言われて、妖精ちゃんたちきゃいっきゃいだね。
まあ、いつもの光景ではある。
巫女ちゃんはまたもや誤魔化されて、納得いかない様子だけど。
もうちょっとお待ちくださいだ。
――さて、顔合わせが終わったところで、まずはお土産を渡そう。
今回のお土産は……妖精さんたちに作って貰った、妖精さん渾身の創作和菓子だ。
ちなみにイトカワちゃんも参加したけど、だいたい妖精さんたちの試食品になった。
まあそれはそれとして。
「あ、こちらお土産です。職人さん手作りの、美味しい創作和菓子です」
「わーい! お菓子だ~!」
妖精ちゃんたちをみてビックリしていた巫女ちゃんも、お菓子と聞いて意識がそっちに行った。
食いしん坊さんだね。
「あらこれはどうもご丁寧に。早速頂きましょう」
巫女ちゃんのお母さんはというと、菓子折を持ってウキウキと家の奥に入っていった。
「では、居間にご案内致します」
「こっちだよ~」
お母さんがお茶の準備をする間に、お父さんに居間へと案内して貰う。
……けっこう良い家だな。住みやすそうだ。
そして居間に入ると、すぐにあるものに目が行く。
灰化した妖精花が、大事に飾ってあったのだ。
巫女ちゃんのお父さん、やはり良い人なんだな。
ほんと、ふさわしい人の手に渡ったのが実感できた。
よかったよかった。
「それでは、少々お待ち下さい。ちょっとお店準備中にしてきますので」
「わかりました」
灰化花を見てほんわかしていると、巫女ちゃんのお父さんが部屋から出て行った。
今、この部屋には俺たちと巫女ちゃんだけ。
――ちょうどいい、今がチャンスだ。
「ユキちゃん、お願い」
「分かりました」
ユキちゃんに目配せすると、ささっと何かのお札を取り出す。
これは、人払いのお札らしい。
出入り口に貼っておけば、しばらくは人が訪れなくなるとかなんとか。
因果とか巡り合わせとか、なんかいじくるやつなのかな?
……まあそれは気にしないことにして。
人払いはしたから、話を始めよう。
「今日はちょっと、お願いしたいことがあって。君にしか出来ないことなんだ」
「私に?」
巫女ちゃんが首を傾げた。まずは、妖精ちゃんの事を話そう。
「君の思っているとおり、この子は妖精なんだけど……」
「よろしくね! よろしくね!」
「そうらしいね! ようせいっぽいやつだよ!」
妖精ちゃんたちを手のひらの上にのせて、巫女ちゃんの目の前に差し出す。
ちいさなちいさな妖精ちゃんたちは、きゃいっきゃいで挨拶だ。
とにかく明るい妖精ちゃんたちだね。
そして、今回はごまかされなかった巫女ちゃんはと言うと――。
「――やっぱり! 妖精さんだよね! 間違いないよね!」
いつも信じて貰えなかったり、うちの術でごまかされていた巫女ちゃんだ。
とうとう神秘の存在を現実の物として――自分以外の人間が認めた。
このことに、巫女ちゃん大興奮だ。
「ママー! やっぱり妖精さんだよ! ほんとに妖精さん、実在するんだよ!」
巫女ちゃんはもう嬉しくなったようで、お母さんを大声で呼ぶ。
しかし、今は人払いをしてある。
しばらくは誰も来ないのだよ。……フフフ。
というか、お願いをしないと。
「あ~、この子たちが妖精ってことは、ちょっと秘密にして欲しいんだ。ほら、静かに過ごさせてあげたくて」
「むらはにぎやかだけどね! にぎやか!」
「おはなばたけは、まいにちキラッキラだよ! キラッキラ~」
ちょっ! 妖精ちゃん秘密を暴露してる!
「妖精さん、賑やかって言ってるけど……」
「まちがっては、いないです?」
「にぎやかですね、たしかに」
「合ってます」
(たのしい~)
……静かに過ごさせてあげたいと言ったな。あれは嘘だ。
確かに、毎日賑やかだ。
でもそれじゃ話が進まないので、強引にいこう。
「まあとにかく、秘密ね。秘密」
「ひみつだよ! ひみつだよ!」
「ないしょばなし~」
「ないしょです~」
「……わかった」
いまいち納得が行かない感じの巫女ちゃんだけど、まあ秘密にしておいて下さいだ。
それでは本題に行こう
「それでね、この子の羽根のことで……ちょっとお願いがあって」
「妖精さんの羽根? ……お花が貼ってある」
羽根のことを切り出すと、巫女ちゃんが妖精ちゃんの羽根をのぞき込んだ。
そしてすぐさま、無理矢理補修した部分に目が行ったようだ。
まあこの補修は、結構目立つからね。
「実はこの部分、羽根に穴が開いちゃっているんだ」
「え! それって痛くないの?」
「いたくはないよ! ふつうだよ!」
「そうなの?」
「そうだよ! そうだよ!」
俺の手からぴこっと降りた妖精ちゃん、ちこちこと歩いて、痛くないよアピールだ。
それじゃあ、今までの経緯を巫女ちゃんに詳しく説明しよう。
◇
「妖精さん、かわいそう~!」
(なける~……)
――巫女ちゃん号泣。ついでに神輿も号泣。
一通り説明したら、もうなんか感情移入しちゃったようで、号泣したでござるよ。
神様のは、もらい泣きかな?
とにかく、状況は理解して貰えたと思う。
……協力して貰えるだろうか?
「この羽根から出るキラキラ、正体は何か突き止めたいんだ」
「わかった~! 私協力する~!」
おお! 巫女ちゃん腕まくりで気合いを入れた!
協力してもらえるんだ。
でも鼻水は拭こうね。けっこう出てるから。女の子だから、ちょっとね。
「ありがとね! ありがとね!」
「妖精さん、私も力になるよ!」
「きゃい~」
妖精ちゃんたちと巫女ちゃん、三人でキャッキャだね。
それでは話も通したところで、実際に見て貰おう。
「それじゃあ、見て貰えるかな?」
「わかった!」
巫女ちゃん元気にお返事だ。
さっそく、キラキラ粒子を出して貰おう。
「キラキラを出して欲しい。大丈夫?」
「だいじょうぶだよ! だいじょうぶ!」
羽根をなんとか補修した妖精ちゃんにお願いすると、さっそく羽根からキラキラ七色粒子が出てくる。
さて、巫女ちゃんには……どう見えているかな?
「どうかな?」
「虹色で綺麗! ……でも、妖精さんの力、減ってるよ?」
「きゃい?」
……力が減っている。それはつまり。
「生命力とかが、漏れているということ?」
「……良く分かんない。でも、色んな、なにかが漏れてる……」
生命力かどうかは、断定出来ない、か。
ただ、色んななにかが漏れていると。
そして巫女ちゃん、妖精ちゃんの羽根をじっくりと観察し始めた。
数分くらいだろうか、じっと羽根を観察した巫女ちゃんは――。
「……こことここ、あとここから、色々漏れてる」
――穴が開いていない部分を、いくつも指さしたのだった。
「きゃい?」
「この辺はもう――限界かも。キラキラの通り道が……崩れかけてて、漏れ始めてる」
――俺は、またしても勘違いしていた。
羽根に穴の開いた箇所だけではない。
他にいくつも、よろしくない箇所があるらしい。
◇
妖精さんの羽根は、妖精ぱわーの通り道がある。
羽根の根元から力が送られ、外周から中心部に集まり、そこからまた外周に広がって根元へと戻る。
ようは根元から始まって、羽根をぐるっと力が一周するのだという。
そしてこの力を通した際、力が最高になるポイントが、一枚の羽根に二つある。
蝶々のような羽根の、上の羽根と下の羽根それぞれの中央部に、最も力が強くなる特異点が存在するという。
その中心部で最高に増幅された力は、今度は外周へと広がる通り道へ流れて、やがてもとの強さに戻り根元へ戻る。
つまり、妖精さんたちの羽根は――「妖精ぱわー増幅器」の役割をしていたのだ。
中心部に力が集中したとき、妖精さんの周りに良くわからない空間が出来ているようだけど、それがなにかまでは分からない。
――以上が、巫女ちゃんに調べて貰った妖精さんの羽根の秘密だ。
妖精さんたちはちいさい体で、少ない力でも高出力の妖精ぱわーを使えるよう、特殊な羽根を持っている。
しかし、その力を増幅する通り道には高負荷がかかるため、無理をすると焼き切れる。
焼き切れた箇所からは、妖精ぱわーが漏れ出す。
また、焼き切れる危険性がある高負荷な箇所からも、多少の力は漏れ始めるという。
「君たちの羽根は、すごい能力をもっていたんだね」
「じまんのはねだよ! じまんだよ!」
「ああ! あんまりキラキラ出しちゃ……」
「きゃい?」
羽根をなんとか補修した妖精ちゃん、羽根を褒められてきゃいっきゃい。
そして妖精ぱわーも漏れまくり。
巫女ちゃん慌てて、キラキラが漏れている箇所を押さえるけど、手をすり抜けて漏れてくる。
「これ、どうしたら良いんだろう……」
妖精さんの羽根について、いくつかの事がわかった。
ただ、どうすれば良いかは、まだ解らない。
「ごめんなさい、ちょっと分からない……」
「う~ん……」
巫女ちゃんも見当がつかないようで、頭を抱える。
でも早いところ、焼き切れたり脆くなり始めている箇所を、なんとかしないといけない。
そうしないと、結局力が漏れてしまう。
この失われた部分や、脆くなっている部分をどうにかするには……再生、する必要があるのかな?
「むずかしいの? むずかしい?」
イトカワちゃんも、ぴこぴこ飛びながら、心配そうに聞いてくる。
……まあ、ちたま医療でも不可能な領域だね。
これは、再生医療の領域だ。
そんなの、ちたまの最先端技術を持ってしても……ほとんど実現していない。
「あ~……なんとかするよ」
でもとにかく、何とかしないといけない。
どうすれば良いか全く分からないけど、出来ないとは言わない。
言えば、そこで終わってしまう。俺たちが、最後の砦なのだ。
「がんばろうね! がんばるよ!」
「きゃい~」
妖精ちゃんたちはきゃいきゃいと戯れ、イトカワちゃんはぴこぴこと空を飛び。
これを見たら、出来ないとは言えない。
やるしかないわけで。
「……空を飛ぶときも、妖精さんぱわー使ってる」
そしてまた、新事実が判明した。
巫女ちゃんが、空を飛ぶイトカワちゃんを指さして言ったのだ。
……確かに、飛行中は羽根が光っている。
そんなに強くない光だけど、たしかに光り方は……増幅時の、それだ。
……力をうまく増幅できなくなって、さらに力が漏れて。
だから飛べなくなるし、体の力も弱ってしまう。そう言うこと、なのだろう。
やはり、正常パターンとしての比較対象があって良かった……。
「あれ? この色って……」
……ん? 巫女ちゃんが、ぴこぴこと飛行中のイトカワちゃんを……なんか凝視している。
さらに、だんだん眉間にしわが寄って来た。
どうしたんだろう?
「どうしたの?」
「……この子もちょっと、漏れてる」
「きゃい?」
――はい?
◇
「いやあすいません、お店を閉めようとしたら、次から次へとお客さんが来てしまって」
「なんだか今日は、大繁盛でした」
人払いのお札はだいぶ効果があったようで、客足を増やして足止めしていたようだ。
ちょっと疲れた様子で、でも儲かってホクホクのお父さんとお母さんだね。
今は妖精和菓子をみんなでつまみながら、のんびり雑談だ。
「宇宙人さん、今度の日曜でいいの?」
「うん。その時はよろしくね」
そんな中、巫女ちゃんがひそひそと話しかけてきた。
今度の日曜、また巫女ちゃんにお願いをしてある。
今回予想外の結果が出たので、追加調査が必要になってしまったのだ。
……遊びたい盛りの子供の日曜を潰すのは、大変申し訳ない。
だけど、これは巫女ちゃんの力なくしては、無理なのだった。
◇
その週の日曜日、約束していた通り妖精さん全員を、巫女ちゃんの元へと連れて行く。
マイクロバスを使って、たくさんの妖精さんたちを乗せて。
今回はちょっと嫌な予感がするので、ハナちゃんとヤナさん、そして神様とユキちゃんは村でお留守番してもらうことにした。
……嫌な予感が当たっているのなら、帰りのバスは雰囲気最悪になる。
あまり、連れ出したくない気分だったのだ。
というわけで、俺と妖精さんたちだけの、ちょっとしたドライブとなった。
「おっきなおうちたくさん! たくさん!」
「おっきなひとも、たくさん! たくさん!」
「きゃい~」
しかしバスの中はもう大騒ぎで、妖精さんたちきゃいっきゃいだ。
途中のサービスエリアとかは、加工増幅石が足りないので、外には交代で出て貰ったけど……。
「これなに? これなに?」
「これは、お土産のお団子だよ」
「おだんご! おだんご!」
「どんなの? どんなの~?」
「こっちもおだんご~!」
もうなんか、お土産売り場とかで大騒ぎになった。
もちろんお団子のお土産をたくさん買って、車内でお団子パーリィが始まる。
「このおだんご! おいしいね! おいしいね!」
「こっちは、わりとふつう~」
「これ、たべるとパチパチする?」
お土産のお団子に舌鼓をうつ妖精さんたちだけど、イトカワちゃんは何をかじっているのかな?
パチパチするお団子なんて、無いはずだけど……。
「へんなあじ? へんなあじ?」
……あれ? イトカワちゃん、それって乾燥剤じゃない?
……。
――大変だー!
◇
なん、とか、巫女ちゃんの住む町に、到着、した……。
「宇宙人さん、ようこそ!」
「ごめんね、わざわざ来て貰って」
「これくらいへっちゃら! 妖精さんたちのためなら、これくらいへっちゃら!」
「今度お礼はするね。おもちゃでもなんでも、買ってあげちゃうよ」
「わーい!」
大騒ぎの道中にぐったりしていたけど、これからが本番だ。
道の駅にマイクロバスを停めて、巫女ちゃんに来て貰っている。
そして、もう一人。
「あなたが、大志さんですか?」
巫女ちゃんの護衛役である、護衛君だ。
なかなか男前なお子さんで、キリっとしている。
護衛君にも挨拶しておこう。
「初めまして、大志です。あの子のこと、よろしくね」
「できる限りのことはします」
「厳しかったら、遠慮無く言って欲しい。力になるよ」
「そのときは、お願いします」
ペコリと頭を下げる護衛君、礼儀正しいな。
こりゃ、護衛さん一族は良い人選をしてくれた。
護衛さん一族にも、後で何かお礼をしておこう。
――さて、これで役者はそろった。
それじゃあお仕事、始めましょう!
「それじゃあ二人とも、今日のことは内緒でお願いね」
「わかった!」
「誓います」
念のため内緒にして欲しいと確認したあと、二人を招き入れる。
すると――。
「――わあ! 妖精さんがいっぱい! すごく大勢の妖精さんだ~!」
「う、うわ……ほんとに、妖精って実在するんだ……」
「ひさしぶり! ひさしぶり!」
「このあいだは、どうも! どうも!」
「わたしは、はじめましてだね! だね!」
「きゃい~」
バスの中できゃいきゃいしている大勢の妖精さんに、二人はもう目がまん丸だ。
まさかこんなにたくさん存在しているとは、想像を超えていたのだろう。
驚いている二人には申し訳ないけど、さっそく診断をして貰わないと。
「今回この子たちの羽根を見て欲しい。大変だと思うけど、お願いします」
「うん、わかった。一人一人、ちゃんと見ていくね」
「……僕は何にも出来ないから、ここで見ているよ」
「きゃい?」
巫女ちゃんにお願いすると、腕まくりをして気合いを入れてくれた。
護衛君はそれほど強力な見鬼の才を持っていないようで、今回は見守るようだ。
俺も同じ立場だから、一緒に見守ろう。
そうして、巫女ちゃんに診断をお願いして。
その結果はというと――。
「……この五人の子以外は、全員――漏れてる」
「五人以外、全員……」
驚愕の結果が、判明してしまった。嫌な予感が……当たってしまった。
五人以外の妖精さんは、全員――力を漏出させていたのだ。
「キラキラが白く見えない子は、力が……漏れてる」
巫女ちゃんは、そう言う。
妖精さんのキラキラ粒子、みんな色が違ってきれいだな。
俺はそんな、脳天気なことを思っていた。
だけどそれは、一つの真実を……暴いていたのだ。
色つき粒子は――良くない兆候、だと。
漏れている物自体は悪いものではないので、全然気づけなかった。
漏れること自体が良くないのだけど、悪い気配が感じられないので、わからなかった。
俺は、何をしていたんだろうな……かなりヘコむ。
――――。
こうして謎多き妖精さんの、一つの謎が明らかになって。
そしてまた、いくつもの謎と課題が浮かび上がった。
なぜ、白い粒子は問題がないのか。
なぜ、五人だけは漏れていないのか。
そして、どうしたら――解決できるのか。
目の前の課題は、とても大きくて、そして見当もつかなくて。
でも、前に進まないといけない。
これは絶対に、解決しなくてはならない。
そんな、課題だった。