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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第十一話 見えちゃう人


 メカ好きさんのおかげで、俺が盛大に勘違いしていたことが判明した。

 羽根をなんとか補修した妖精ちゃんのキラキラは、普通の人には白にみえていると。

 離脱したメカ好きさんのたましい的なアレ状態と、俺にだけ七色に見えていた、と。

 この結果、なんかやな感じの仮説が見えてきてしまった。


 すなわち、七色のキラキラは――生命力漏れちゃってない?

 ではないかと。


 結構やばい感じがするので、急いで追加調査をすることになった。

 まずは、ソレ系をなんとかしてくれるお医者さんへと。

 しかし――。


「すまない、私はあくまで普通の人間で、その『生命力』などは見ることが出来ないんだ」

「と言うことは、先生でも難しいと……」

「無責任な診断は、したくないからね。力になれなくて、すまない」

「いえ、ご無理を言ってしまって、申し訳ございません」


 ――という結果に終わった。


 妖精さんは特殊極まる存在で、さらに謎だらけ。

 オマケに、普通の人では見ることが出来ない現象が、起きている。

 高橋さんすらなんとかする、凄腕のお医者さんでも……ダメだった。


 しかし――ひとつのアドバイスを貰った。


「もっと……不思議な現象を見ることに慣れた人なら、何か解るかも知れないよ」


 このアドバイスに、ピンと来る人物が存在する。

 そう、あの……巫女ちゃんだ。

 彼女の見鬼(けんき)は、日本有数。下手をすると――世界有数。

 これ以上無い人物が、存在したのだ。


 ――というわけで、巫女ちゃんに診て貰うことにする。


 めっちゃくちゃ見えちゃう人なら、これがなんなのか……感覚的に分かるかも知れない。

 すぐさま、巫女ちゃんちに約束を取り付けたのだった。



 ◇



「すごいね! はやいね! おっきなおうち、たくさんだね!」

「きゃい~」

「このじどうしゃにのるのは、初めてですね!」

「かいてきです~」

「うちのお父さん、この車も欲しがってました。自動運転レベル二でしたっけ?」

(おでかけ~)


 高速道路を走って、巫女ちゃんちを目指す。


 助手席にユキちゃんが座り、後部座席ではハナちゃんたちがキャッキャしている。

 運転席の後ろがハナちゃん、真ん中がヤナさんだ。

 助手席の後ろはチャイルドシートがつけてあって、そこに神輿と妖精ちゃんたちが固定されている。

 今回は羽根をなんとか補修した妖精ちゃんの他に、イトカワちゃんも旅に参加だ。

 普通の妖精さんという、比較対象としてのご参加だね。


 みんなお出かけにハイテンションで、キャッキャと車内は賑やかである。

 特に羽根をなんとか補修した妖精ちゃんとイトカワちゃんは、初めてちたまの町を目にして、きゃいっきゃいだ。

 目にする物全てが巨大で、大興奮のご様子だね。


 ……しかし、なんか楽しいお出かけ風景なんだけど……これで良いのかな?

 まあ、楽しんで貰えているなら良いのかも。


 そんな感じで楽しく移動して、サービスエリアでちょっとお昼休憩をする。

 さて、みんなでラーメンでも食べようかな?


「ここのラーメンは美味しいから、みんなで食べない?」

「たべるです~!」

「ぜひともぜひとも!」

「寒いときには、こういうのが良いですよね」

「きゃい~」

「おもしろいたべもの! たべたいよ!」

(おそなえもの~)


 みんなでキャッキャと、フードコートに向かう。

 妖精ちゃん二人は、ユキちゃんに抱えられてきゃいっきゃいだ。

 ラーメンたくさん、ご馳走しちゃうよ!


「ねえ、あれってロボットかしら?」

「フィギュアじゃないか?」

「でも、動いてるわよ」


 ……ん? なんか辺りが騒がしいな。

 みんなこっちを見ているけど――。


「妖精みたいな形の、フィギュア?」

「きゃい?」

「すごい! 生きているみたい!」

「ママ~、あれほしい~」

「きゃい?」


 ――あ! 妖精ちゃんたちに加工増幅石つけるの忘れてた!



 ◇



「たのしかったね! おおうけだね!」

「めだったね! にんきものだったね!」

「みんな、おおよろこびだったです~」

(いいかんじ~)


 あれって妖精じゃね事件は、ごまかしました。

 ユキちゃん迫真の演技で、人形ストリートパフォーマンスのふりをしてくれたのだ。

 妖精ちゃんもノリノリで、元気に演技をしてくれた。


 そしたらもう人だかりが出来てしまって、大人気に。

 おひねり、凄いもらっちゃったよ……。

 無許可だったから、当局の人が来ないかヒヤヒヤしたね。


「な、なんとかごまかせましたね……一時はどうなることかと思いました……」

「ユキちゃんありがとう。このおひねりは、ユキちゃんの正当な報酬だよ。あと妖精ちゃんもかな?」


 三人で山分けしてね。気前の良い人が多かったのか、五万円弱くらいおひねりがある。

 予想外の臨時収入だね。


「それなら、このお金でたくさんお団子買いましょう!」

「おだんご! おだんご!」

「きゃい~きゃい~」

「あや! ようせいさんたち、キラッキラです~」


 ユキちゃんがお団子購入を提案したら、妖精さんたちキラッキラだね。

 思わぬご褒美に、大喜びだ。良かった良かった。

 というか、今回の目的から脱線しまくりでござるよ。


 ……そんな騒ぎがありつつも、無事巫女ちゃんの住む町に到着だ。

 顔を出しに行くという連絡はしてあるので、このまま直行だね。


 車を走らせて、目的地へと。

 やがて、かわいいひまわりの看板が見えてきた。

 まさにお花屋さんで、店舗兼住宅だね。


 すぐさまそのお店の駐車場に車を停めて、店先に向かう。

 店先では、巫女ちゃんのお父さんがお花の手入れをしていた。

 それじゃあ、声をかけよう。


「どうもこんにちは。ようやく到着しました」

「ああ大志さん、お久しぶりです。ようこそ我がフラワーショップへ!」


 なぜか握手して、店内に招き入れられる。

 色とりどりの花が置いてあって、見た目も華やか。


「おはなたくさんだね! たくさんだね!」

「きれいなおはな! きれいなおはな!」

「あや~、みたこともないおはな、いっぱいあるです~」

「こういう、せんもん店もあるのですね」

(おはな、きれい~!)


 様々なお花があって、妖精ちゃんたちやハナちゃん、そして神輿はキャッキャと大はしゃぎだね。

 ヤナさんは、こういうのも商売になるのかと感心しきりだ。


「ささ、こちらにどうぞ」


 売り物の花をみんなでキャッキャして眺めていたら、巫女ちゃんのお父さんがバックヤードへ通してくれた。

 そのバックヤードを抜けて、住居へとお邪魔する。


「宇宙人さんたち、いらっしゃい!」

(ども~)

「お疲れでしょう? 今お茶を煎れますから」


 住居に入ると、巫女ちゃんとお母さんが出迎えてくれた。

 そして神輿がぴこぴこ手を振って、挨拶だね。

 ……もうなんか、俺たち宇宙人枠で固定されてないかな?


「こんにちわ! こんにちわ!」

「よろしくね! よろしく!」


 妖精ちゃんたちも、元気に挨拶だ。

 しかし、巫女ちゃんは――ぽかん、としてしまった。


「……ママ、妖精さんが二人もいるよ?」


 妖精ちゃんたちを見た巫女ちゃん、早速ツッコミだ。

 今回、初めての顔合わせだからね。びっくりするよね。


「そうね、妖精さんみたいに可愛い子たちね」

「ちがくて!」

「きゃい?」

「かわいいって! かわいいって!」


 巫女ちゃんには、妖精ちゃんたちはそのまま妖精に見えている。

 でもお母さんには、可愛い子供みたいに見えているようだ。

 可愛いと言われて、妖精ちゃんたちきゃいっきゃいだね。


 まあ、いつもの光景ではある。

 巫女ちゃんはまたもや誤魔化されて、納得いかない様子だけど。

 もうちょっとお待ちくださいだ。


 ――さて、顔合わせが終わったところで、まずはお土産を渡そう。

 今回のお土産は……妖精さんたちに作って貰った、妖精さん渾身の創作和菓子だ。

 ちなみにイトカワちゃんも参加したけど、だいたい妖精さんたちの試食品になった。

 まあそれはそれとして。


「あ、こちらお土産です。職人さん手作りの、美味しい創作和菓子です」

「わーい! お菓子だ~!」


 妖精ちゃんたちをみてビックリしていた巫女ちゃんも、お菓子と聞いて意識がそっちに行った。

 食いしん坊さんだね。


「あらこれはどうもご丁寧に。早速頂きましょう」


 巫女ちゃんのお母さんはというと、菓子折を持ってウキウキと家の奥に入っていった。


「では、居間にご案内致します」

「こっちだよ~」


 お母さんがお茶の準備をする間に、お父さんに居間へと案内して貰う。

 ……けっこう良い家だな。住みやすそうだ。


 そして居間に入ると、すぐにあるものに目が行く。

 灰化した妖精花が、大事に飾ってあったのだ。

 巫女ちゃんのお父さん、やはり良い人なんだな。

 ほんと、ふさわしい人の手に渡ったのが実感できた。

 よかったよかった。


「それでは、少々お待ち下さい。ちょっとお店準備中にしてきますので」

「わかりました」


 灰化花を見てほんわかしていると、巫女ちゃんのお父さんが部屋から出て行った。

 今、この部屋には俺たちと巫女ちゃんだけ。


 ――ちょうどいい、今がチャンスだ。


「ユキちゃん、お願い」

「分かりました」


 ユキちゃんに目配せすると、ささっと何かのお札を取り出す。

 これは、人払いのお札らしい。

 出入り口に貼っておけば、しばらくは人が訪れなくなるとかなんとか。

 因果とか巡り合わせとか、なんかいじくるやつなのかな?


 ……まあそれは気にしないことにして。

 人払いはしたから、話を始めよう。


「今日はちょっと、お願いしたいことがあって。君にしか出来ないことなんだ」

「私に?」


 巫女ちゃんが首を傾げた。まずは、妖精ちゃんの事を話そう。


「君の思っているとおり、この子は妖精なんだけど……」

「よろしくね! よろしくね!」

「そうらしいね! ようせいっぽいやつだよ!」


 妖精ちゃんたちを手のひらの上にのせて、巫女ちゃんの目の前に差し出す。

 ちいさなちいさな妖精ちゃんたちは、きゃいっきゃいで挨拶だ。

 とにかく明るい妖精ちゃんたちだね。

 そして、今回はごまかされなかった巫女ちゃんはと言うと――。


「――やっぱり! 妖精さんだよね! 間違いないよね!」


 いつも信じて貰えなかったり、うちの術でごまかされていた巫女ちゃんだ。

 とうとう神秘の存在を現実の物として――自分以外の人間が認めた。

 このことに、巫女ちゃん大興奮だ。


「ママー! やっぱり妖精さんだよ! ほんとに妖精さん、実在するんだよ!」


 巫女ちゃんはもう嬉しくなったようで、お母さんを大声で呼ぶ。

 しかし、今は人払いをしてある。

 しばらくは誰も来ないのだよ。……フフフ。


 というか、お願いをしないと。


「あ~、この子たちが妖精ってことは、ちょっと秘密にして欲しいんだ。ほら、静かに過ごさせてあげたくて」

「むらはにぎやかだけどね! にぎやか!」

「おはなばたけは、まいにちキラッキラだよ! キラッキラ~」


 ちょっ! 妖精ちゃん秘密を暴露してる!


「妖精さん、賑やかって言ってるけど……」

「まちがっては、いないです?」

「にぎやかですね、たしかに」

「合ってます」

(たのしい~)


 ……静かに過ごさせてあげたいと言ったな。あれは嘘だ。

 確かに、毎日賑やかだ。

 でもそれじゃ話が進まないので、強引にいこう。

 

「まあとにかく、秘密ね。秘密」

「ひみつだよ! ひみつだよ!」

「ないしょばなし~」

「ないしょです~」

「……わかった」


 いまいち納得が行かない感じの巫女ちゃんだけど、まあ秘密にしておいて下さいだ。

 それでは本題に行こう


「それでね、この子の羽根のことで……ちょっとお願いがあって」

「妖精さんの羽根? ……お花が貼ってある」


 羽根のことを切り出すと、巫女ちゃんが妖精ちゃんの羽根をのぞき込んだ。

 そしてすぐさま、無理矢理補修した部分に目が行ったようだ。

 まあこの補修は、結構目立つからね。


「実はこの部分、羽根に穴が開いちゃっているんだ」

「え! それって痛くないの?」

「いたくはないよ! ふつうだよ!」

「そうなの?」

「そうだよ! そうだよ!」


 俺の手からぴこっと降りた妖精ちゃん、ちこちこと歩いて、痛くないよアピールだ。

 それじゃあ、今までの経緯を巫女ちゃんに詳しく説明しよう。



 ◇



「妖精さん、かわいそう~!」

(なける~……)


 ――巫女ちゃん号泣。ついでに神輿も号泣。


 一通り説明したら、もうなんか感情移入しちゃったようで、号泣したでござるよ。

 神様のは、もらい泣きかな?


 とにかく、状況は理解して貰えたと思う。

 ……協力して貰えるだろうか?


「この羽根から出るキラキラ、正体は何か突き止めたいんだ」

「わかった~! 私協力する~!」


 おお! 巫女ちゃん腕まくりで気合いを入れた!

 協力してもらえるんだ。

 でも鼻水は拭こうね。けっこう出てるから。女の子だから、ちょっとね。


「ありがとね! ありがとね!」

「妖精さん、私も力になるよ!」

「きゃい~」


 妖精ちゃんたちと巫女ちゃん、三人でキャッキャだね。

 それでは話も通したところで、実際に見て貰おう。


「それじゃあ、見て貰えるかな?」

「わかった!」


 巫女ちゃん元気にお返事だ。

 さっそく、キラキラ粒子を出して貰おう。


「キラキラを出して欲しい。大丈夫?」

「だいじょうぶだよ! だいじょうぶ!」


 羽根をなんとか補修した妖精ちゃんにお願いすると、さっそく羽根からキラキラ七色粒子が出てくる。

 さて、巫女ちゃんには……どう見えているかな?


「どうかな?」

「虹色で綺麗! ……でも、妖精さんの力、減ってるよ?」

「きゃい?」


 ……力が減っている。それはつまり。


「生命力とかが、漏れているということ?」

「……良く分かんない。でも、色んな、なにかが漏れてる……」


 生命力かどうかは、断定出来ない、か。

 ただ、色んななにかが漏れていると。


 そして巫女ちゃん、妖精ちゃんの羽根をじっくりと観察し始めた。

 数分くらいだろうか、じっと羽根を観察した巫女ちゃんは――。


「……こことここ、あとここから、色々漏れてる」


 ――穴が開いていない部分を、いくつも指さしたのだった。


「きゃい?」

「この辺はもう――限界かも。キラキラの通り道が……崩れかけてて、漏れ始めてる」


 ――俺は、またしても勘違いしていた。


 羽根に穴の開いた箇所だけではない。

 他にいくつも、よろしくない箇所があるらしい。



 ◇



 妖精さんの羽根は、妖精ぱわーの通り道がある。

 羽根の根元から力が送られ、外周から中心部に集まり、そこからまた外周に広がって根元へと戻る。

 ようは根元から始まって、羽根をぐるっと力が一周するのだという。


 そしてこの力を通した際、力が最高になるポイントが、一枚の羽根に二つある。

 蝶々のような羽根の、上の羽根と下の羽根それぞれの中央部に、最も力が強くなる特異点が存在するという。

 その中心部で最高に増幅された力は、今度は外周へと広がる通り道へ流れて、やがてもとの強さに戻り根元へ戻る。

 つまり、妖精さんたちの羽根は――「妖精ぱわー増幅器」の役割をしていたのだ。


 中心部に力が集中したとき、妖精さんの周りに良くわからない空間が出来ているようだけど、それがなにかまでは分からない。


 ――以上が、巫女ちゃんに調べて貰った妖精さんの羽根の秘密だ。


 妖精さんたちはちいさい体で、少ない力でも高出力の妖精ぱわーを使えるよう、特殊な羽根を持っている。


 しかし、その力を増幅する通り道には高負荷がかかるため、無理をすると焼き切れる。

 焼き切れた箇所からは、妖精ぱわーが漏れ出す。

 また、焼き切れる危険性がある高負荷な箇所からも、多少の力は漏れ始めるという。


「君たちの羽根は、すごい能力をもっていたんだね」

「じまんのはねだよ! じまんだよ!」

「ああ! あんまりキラキラ出しちゃ……」

「きゃい?」


 羽根をなんとか補修した妖精ちゃん、羽根を褒められてきゃいっきゃい。

 そして妖精ぱわーも漏れまくり。

 巫女ちゃん慌てて、キラキラが漏れている箇所を押さえるけど、手をすり抜けて漏れてくる。


「これ、どうしたら良いんだろう……」


 妖精さんの羽根について、いくつかの事がわかった。

 ただ、どうすれば良いかは、まだ解らない。


「ごめんなさい、ちょっと分からない……」

「う~ん……」


 巫女ちゃんも見当がつかないようで、頭を抱える。

 

 でも早いところ、焼き切れたり脆くなり始めている箇所を、なんとかしないといけない。

 そうしないと、結局力が漏れてしまう。

 この失われた部分や、脆くなっている部分をどうにかするには……再生、する必要があるのかな?


「むずかしいの? むずかしい?」


 イトカワちゃんも、ぴこぴこ飛びながら、心配そうに聞いてくる。


 ……まあ、ちたま医療でも不可能な領域だね。

 これは、再生医療の領域だ。

 そんなの、ちたまの最先端技術を持ってしても……ほとんど実現していない。


「あ~……なんとかするよ」


 でもとにかく、何とかしないといけない。

 どうすれば良いか全く分からないけど、出来ないとは言わない。

 言えば、そこで終わってしまう。俺たちが、最後の砦なのだ。


「がんばろうね! がんばるよ!」

「きゃい~」


 妖精ちゃんたちはきゃいきゃいと戯れ、イトカワちゃんはぴこぴこと空を飛び。

 これを見たら、出来ないとは言えない。

 やるしかないわけで。


「……空を飛ぶときも、妖精さんぱわー使ってる」


 そしてまた、新事実が判明した。

 巫女ちゃんが、空を飛ぶイトカワちゃんを指さして言ったのだ。


 ……確かに、飛行中は羽根が光っている。

 そんなに強くない光だけど、たしかに光り方は……増幅時の、それだ。


 ……力をうまく増幅できなくなって、さらに力が漏れて。

 だから飛べなくなるし、体の力も弱ってしまう。そう言うこと、なのだろう。

 やはり、正常パターンとしての比較対象があって良かった……。


「あれ? この色って……」


 ……ん? 巫女ちゃんが、ぴこぴこと飛行中のイトカワちゃんを……なんか凝視している。

 さらに、だんだん眉間にしわが寄って来た。

 どうしたんだろう?


「どうしたの?」

「……この子もちょっと、漏れてる」

「きゃい?」


 ――はい?



 ◇



「いやあすいません、お店を閉めようとしたら、次から次へとお客さんが来てしまって」

「なんだか今日は、大繁盛でした」


 人払いのお札はだいぶ効果があったようで、客足を増やして足止めしていたようだ。

 ちょっと疲れた様子で、でも儲かってホクホクのお父さんとお母さんだね。

 今は妖精和菓子をみんなでつまみながら、のんびり雑談だ。


「宇宙人さん、今度の日曜でいいの?」

「うん。その時はよろしくね」


 そんな中、巫女ちゃんがひそひそと話しかけてきた。

 今度の日曜、また巫女ちゃんにお願いをしてある。

 今回予想外の結果が出たので、追加調査が必要になってしまったのだ。


 ……遊びたい盛りの子供の日曜を潰すのは、大変申し訳ない。

 だけど、これは巫女ちゃんの力なくしては、無理なのだった。



 ◇



 その週の日曜日、約束していた通り妖精さん全員を、巫女ちゃんの元へと連れて行く。

 マイクロバスを使って、たくさんの妖精さんたちを乗せて。

 今回はちょっと嫌な予感がするので、ハナちゃんとヤナさん、そして神様とユキちゃんは村でお留守番してもらうことにした。

 ……嫌な予感が当たっているのなら、帰りのバスは雰囲気最悪になる。

 あまり、連れ出したくない気分だったのだ。


 というわけで、俺と妖精さんたちだけの、ちょっとしたドライブとなった。


「おっきなおうちたくさん! たくさん!」

「おっきなひとも、たくさん! たくさん!」

「きゃい~」


 しかしバスの中はもう大騒ぎで、妖精さんたちきゃいっきゃいだ。

 途中のサービスエリアとかは、加工増幅石が足りないので、外には交代で出て貰ったけど……。


「これなに? これなに?」

「これは、お土産のお団子だよ」

「おだんご! おだんご!」

「どんなの? どんなの~?」

「こっちもおだんご~!」


 もうなんか、お土産売り場とかで大騒ぎになった。

 もちろんお団子のお土産をたくさん買って、車内でお団子パーリィが始まる。


「このおだんご! おいしいね! おいしいね!」

「こっちは、わりとふつう~」

「これ、たべるとパチパチする?」


 お土産のお団子に舌鼓をうつ妖精さんたちだけど、イトカワちゃんは何をかじっているのかな?

 パチパチするお団子なんて、無いはずだけど……。


「へんなあじ? へんなあじ?」


 ……あれ? イトカワちゃん、それって乾燥剤じゃない?


 ……。


 ――大変だー!



 ◇



 なん、とか、巫女ちゃんの住む町に、到着、した……。


「宇宙人さん、ようこそ!」

「ごめんね、わざわざ来て貰って」

「これくらいへっちゃら! 妖精さんたちのためなら、これくらいへっちゃら!」

「今度お礼はするね。おもちゃでもなんでも、買ってあげちゃうよ」

「わーい!」


 大騒ぎの道中にぐったりしていたけど、これからが本番だ。

 道の駅にマイクロバスを停めて、巫女ちゃんに来て貰っている。

 そして、もう一人。


「あなたが、大志さんですか?」


 巫女ちゃんの護衛役である、護衛君だ。

 なかなか男前なお子さんで、キリっとしている。

 護衛君にも挨拶しておこう。


「初めまして、大志です。あの子のこと、よろしくね」

「できる限りのことはします」

「厳しかったら、遠慮無く言って欲しい。力になるよ」

「そのときは、お願いします」


 ペコリと頭を下げる護衛君、礼儀正しいな。

 こりゃ、護衛さん一族は良い人選をしてくれた。

 護衛さん一族にも、後で何かお礼をしておこう。


 ――さて、これで役者はそろった。

 それじゃあお仕事、始めましょう!


「それじゃあ二人とも、今日のことは内緒でお願いね」

「わかった!」

「誓います」


 念のため内緒にして欲しいと確認したあと、二人を招き入れる。

 すると――。


「――わあ! 妖精さんがいっぱい! すごく大勢の妖精さんだ~!」

「う、うわ……ほんとに、妖精って実在するんだ……」

「ひさしぶり! ひさしぶり!」

「このあいだは、どうも! どうも!」

「わたしは、はじめましてだね! だね!」

「きゃい~」


 バスの中できゃいきゃいしている大勢の妖精さんに、二人はもう目がまん丸だ。

 まさかこんなにたくさん存在しているとは、想像を超えていたのだろう。

 驚いている二人には申し訳ないけど、さっそく診断をして貰わないと。


「今回この子たちの羽根を見て欲しい。大変だと思うけど、お願いします」

「うん、わかった。一人一人、ちゃんと見ていくね」

「……僕は何にも出来ないから、ここで見ているよ」

「きゃい?」


 巫女ちゃんにお願いすると、腕まくりをして気合いを入れてくれた。

 護衛君はそれほど強力な見鬼の才を持っていないようで、今回は見守るようだ。

 俺も同じ立場だから、一緒に見守ろう。


 そうして、巫女ちゃんに診断をお願いして。

 その結果はというと――。


「……この五人の子以外は、全員――漏れてる」

「五人以外、全員……」


 驚愕の結果が、判明してしまった。嫌な予感が……当たってしまった。

 五人以外の妖精さんは、全員――力を漏出させていたのだ。


「キラキラが白く見えない子は、力が……漏れてる」


 巫女ちゃんは、そう言う。


 妖精さんのキラキラ粒子、みんな色が違ってきれいだな。

 俺はそんな、脳天気なことを思っていた。

 だけどそれは、一つの真実を……暴いていたのだ。


 色つき粒子は――良くない兆候、だと。

 漏れている物自体は悪いものではないので、全然気づけなかった。

 漏れること自体が良くないのだけど、悪い気配が感じられないので、わからなかった。

 俺は、何をしていたんだろうな……かなりヘコむ。


 ――――。


 こうして謎多き妖精さんの、一つの謎が明らかになって。

 そしてまた、いくつもの謎と課題が浮かび上がった。


 なぜ、白い粒子は問題がないのか。

 なぜ、五人だけは漏れていないのか。

 そして、どうしたら――解決できるのか。


 目の前の課題は、とても大きくて、そして見当もつかなくて。

 でも、前に進まないといけない。

 これは絶対に、解決しなくてはならない。

 そんな、課題だった。


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