表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二章  活動開始
21/448

第五話 水場? 何それ聞いてない

 「おーい、皆。山菜取りはこれくらいにしてそろそろ戻るべ」


 籠を山菜でいっぱいにした水場班のエルフが、皆に呼びかけました。沢山取れましたね。皆も山菜が沢山取れたようで、各々籠を持ってきます。


「そうだな。これ位採れれば十分だろ」

「腹も減ってきたしな」


 エルフ達は、ぞろぞろと村に向かい始めました。なかなかの収穫に、皆満足顔です。足取りも軽く、籠を抱えて今日の夕食を思い浮かべていました。

 しかし、そんな皆にヤナさんが問いかけます。


「それで、皆さん良い水場は見つかりました?」


 ぴた。


 皆固まります。本来の目的は水場探しだったことを、ようやく思い出したようです。半日たってようやくです。

 しばらく固まっていたエルフ達、事の重大さを認識し始めました。


「……俺はそんな話は聞いていなかった。と思いたい」

「そんな目的は無かった。そうに違いない」

「水場はありません」


 ダメエルフ達は青ざめた顔で、それぞれ現実逃避と自己正当化を始めます。組織は腐敗するのです。そんな彼らを見て、ヤナさんは「やっぱりか……」という言葉に続けて言いました。


「一応、それなりの水場は見つけておきました。皆さん大丈夫ですよ」


 ダメエルフ達の顔に、笑顔が訪れます。だって、お掃除班に怒られなくて済むのですから。皆口々にヤナさんを称えます。


「さっすが族長! 頼りになるね!」

「ヤナさんが族長でえがった」

「ありがたや……ありがたや……」


 彼らにとって、ヤナさんは今や英雄です。ヤナさんもそう言われれば満更ではありません。「いやいや……」と照れ臭そうです。しかし、それに気を取られて、マッチョエルフ達に囲まれていることに気が付けませんでした。

 包囲網が完成した後、マッチョエルフ達は宣言します。


「肩を揉ませてもらおう」

「俺は足を揉んじゃうよ」

「じゃあ俺は足つぼ」


 笑顔で手をワキワキさせるマッチョエルフ達に、囲まれていることに気づいたヤナさん。自分の状況を認識します。


「……え?」


 ヤナさんは逃げようとしました。


 しかしまわりこまれてしまった!


「いや遠慮しときま……うわ気持ちいい! 特に足つぼ!」


 彼らはヤナさんに群がって、マッサージをし始めます。拒否権はありませんでした。


 ……数分後。


「体が軽い……」


 かなり疲れが取れたことに驚くヤナさん。そして一仕事終えて満足そうなマッチョ達。そんなヤナさんに、遠巻きにマッサージ風景を見ていたエルフが話しかけます。


「それで、見つけた水場ってどんな感じ?」


 そうでした。水場の事をすっかり忘れていました。気を取り直して、ヤナさんは水場の詳しい話をします。


「見つけた水場は、水が冷たすぎます。これでは水浴びするには、けっこう無理がありますね。洗濯するだけにしておいた方が良さそうです」

「薪で暖を取るのも難しいくらい?」


 実際に水場を確かめていないエルフ達は、その冷たさが良くわかりません。首を傾げています。そんな皆にヤナさんは説明を続けます。


「手を入れたら痛いくらい冷たかったので、無理ですね。タイシさんが言ってた、寒くてアレなことになるって意味が、少しわかりました」


 春とはいえ、この時期の水はまだまだ、かなり冷たいのです。手を入れるだけで痛く感じるほどの水温なので、水浴びは無理なのでした。

 そして、水浴びは無理だと説明されて、皆は困り顔になりました。だって水場探しの一番の目的は、水浴びだからです。まあ探していたのはヤナさんだけだったのですが……。


 困ったダメエルフ達、各々解決方法を提案し始めました。


「顔テッカテカしてるのなんとかしたい、とか言ってたけど、テッカテカさせときゃ良いんだよ」

「もう諦めて炊事場で洗っちゃえ、で済まそうぜ」

「水場はありません」


 組織の腐敗は深刻なようです。ヤナさんは、腐敗したダメエルフ達の意見は却下して、とりあえずありのまま報告することにしました。

 気が重い様子でトコトコと村に戻る、ダメルフ達。しかし、水が冷たいのは彼らが悪いわけではなく、時期が悪いだけです。

 だけども男としては、やはり女子供のがっかりした顔は、なるべく見たくない物なのです。



 ◇



「えっ? 水浴びできそうにないの?」


 村で待っていた皆は、水浴びは無理っぽそう、という話を聞いてがっかり。顔テッカテカを何とかできません。心なしか、朝よりテッカテカ度が増しています。もうそろそろ限界です。


「困ったわね」

「無理と聞くと、余計水浴びしたくなるわ」

「このテッカテカをどうしたらいいの」


 女子たちも残念そうです。この問題をどうしたらいいか、誰もいい案が思いつきませんでした。


「洗濯はできそうですから、今はそれで我慢しておきましょう」

「お洗濯はできるの?」

「ええ、まぁかなり冷たいですけど、出来なくはないです」


 残念そうな皆を、ヤナさんがとりなします。渋々ですが、話はまとまりそうですね。じゃあお洗濯だけでも……そんな意見になってきました。


 しかしその時、ダメルフ達が爆弾発言をしてしまいます。


「もう炊事場で洗っちゃえば良くね?」

「炊事場と思うからいけないんだ。そう、此処こそが唯一の水場なのだ」

「水場はありません」


 安定のダメさ加減ですね。しかし、今そんなことを言ってしまったら……。


「いや、水場は見つけたって話でしょ」

「炊事場で水浴びとか、素敵じゃないわ」

「これだから男は」


 当然、総攻撃となりました。腐敗した組織は打倒されるのが常です。そんな感じで、ダメな大人たちのすったもんだが始まりました。


「じゃあガスコンロと鍋でお湯を沸かして、それで洗っちゃうとか」


 さらに酷い意見も飛び出してきます。悪の組織も粘りますね。これには奥様方も若干引いてしまいました。


「調理器具で顔や体を洗うとか、信じらんない」

「これだから男は」


 無残な意見が飛び出し、奥様方に総攻撃される。そんなダメなやり取りが続いています。これは、事態が自然に終息するまで待つしかありませんね。

 ヤナさんが「まあまあ」と仲裁する中、ハナちゃんがぽてぽてと、のんびり歩いて帰ってきました。


「ただいまです~」


 ぽてぽて。


「あれ? ハナどこ行ってたのよ」


 カナさんはぽてぽて歩いてきたハナちゃんをみて、そういえばこの子、一体どこ行ってたんだろう。そんなことに今更気づきます。放置しすぎですね。

 ハナちゃんは笑顔で答えました。


「探検してたです~」

「探検? そんなことしてたの」


 今日は色々お仕事して疲れているはずなのに、この子は元気ね、そんなことを考えました。探検してきたと聞いて、怪我でもしてないかしら、とハナちゃんの様子を確認します。

 すると、ハナちゃんの様子が、さっきとちょっと違うことに気づきました。


「ハナ、なんだかお肌がつやつやしているけど、どうしたの?」


 そうです、なんだかハナちゃんのお肌がつやつやしています。髪もちょっと濡れています。

 お肌がつやつやしているとなれば、カナさんだって女子。確かめずには居られません。

 ハナちゃんはご機嫌で答えました。


「水浴び? してきたです~」


 はて、水が冷たすぎて水浴び無理だよと、先ほど伝えられたばかりです。そんな冷たい水で、ハナちゃんは水浴びしてきたのでしょうか。


「え? 水浴びって、水が冷たいって話を聞いたのだけど、大丈夫なの?」


 カナさんは心配になります。聞いたところによると、痛いくらい水が冷たいという話ですから。しかしハナちゃんを見ると、特に問題もなさそうです。つやつやです。


 問題なさそう……もしかして冷たい水で水浴びすると、お肌つやつやになるのかしら。

 なら早く、冷たい水で私もつやつやにならなきゃ! そんなことをカナさんは思います。ほぼ関心事は、お肌に行っていますね。

 しかしハナちゃんは、首を傾げて言いました。


「逆に熱くて汗かいたです」

「熱い? え? なにそれ?」


 カナさんは混乱します。冷たいはずの水が熱い? 訳が分かりません。この子は一体何を言っているんだろう、カナさんは理解ができません。

 これが理解できないと、お肌がつやつやにならない。そう思ったカナさんは、必死で考えます。お肌つやつやがかかっていますから、必死にもなります。


 そうして、お肌つやつやになりたいがあまり、思考の迷宮にはまってしまったカナさん。とうとう固まってしまいました。

 カナさんが固まってしばらくした頃。


「二人ともどうしたんだ?」


 奥様方に総攻撃された腐敗組織が、そろそろ壊滅するかな、という頃。ヤナさんは、ハナちゃんカナさんの様子がおかしい事に気づき、声をかけます。


「それがこの子、水浴びしてきたっていうのよ」

「え! 水浴び? ハナ、あんな冷たい水で水浴びしちゃ、だめじゃないか」


 ヤナさんは水の冷たさを、実際に触って確かめているだけに、びっくりしてしまいます。

  しかしよく見ると、ハナちゃんは冷たい水で冷え冷えになっているどころか、むしろほかほかしていました。


「逆に熱くて汗かいたです」

「熱い? え? なにそれ謎々?」


 どこかで聞いたやり取りが繰り返されます。

 しかしそこは族長、カナさんのようにはなりません。族長というより、男なのでお肌つやつやが死活問題ではなかったためです。お肌に対する関心が薄かったのですね。


 女子はいつも、この男女の関心の差に苦労していると聞きます。

 お肌の為に高い化粧水を買ってくると、その必死さがよくわかっていない男に「それいらなくね?」とか言われて「あんたの為なのよ!」という感じで喧嘩になるのです。女子も大変ですね。


 それはともかく、思考の迷宮にはまって固まることを逃れたヤナさん、とりあえず行動することにしました。


「考えてもわからないな。 ハナ、その水場ってどこにあった? 案内してくれないかな」

「あい。こっちです~」


 しょうもないことで揉めているダメルフ達を放置し、ヤナさんカナさんは、ぽてぽて歩くハナちゃんについていきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ