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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第八話 無理しないでね


「おくすりこねましょ! こねましょ~」

「おいしくな~れっ! おいしくね!」

「こねこね~」


 破壊的な味のガガギギ薬を、妖精さんがこねなおしてくれている。

 三人がかりで羽根をキラキラさせて、普通の味へ。

 これで大人でも「ぱたりこ」と倒れる恐ろしい味の薬が、まあ子供でも飲めるくらいにはマシになる。


「あや! からだなおったです~」

「ハナちゃん良かったね。ほっとひと安心だよ」

「よかったね! よかったね!」


 ハナちゃんも無事体調が良くなったようで、元気そうにお見舞いをもぐもぐし始めた。

 羽根を補修した妖精ちゃんも、ハナちゃんが元気になったのが嬉しいのか、きゃいきゃいと喜んでいる。

 あとは、他のお子様たちだね。


「おくすり、くばってきました」

「あれならのめるって、ひょうばんよかったぞ」

「ふが」


 どうやら、問題なく飲んでもらえているようだ。

 あとは一日か二日様子を見て、問題ないようなら警戒態勢を解こう。


(おみまいきたよ~)


 と、ひと安心しているところに、神輿がお見舞いにやって来た。

 なんだかんだで、神様も心配してくれているんだな。


「かみさま、こどもたちのおうちをひととおりめぐってましたね」

(しんぱい~)


 神輿はおろおろしているけど、ご安心下さいだ。

 ヤナさん特製のお薬を妖精さんたちがなんとかしてくれたおかげで、なんとかなりそうですよ。


「だいぶよくなったです~」

(ほんと?)


 神輿がおろおろしているのを見かねたのか、ハナちゃんが元気なところを見せてあげている。


「ほんとです~」

(よかった~)


 神輿も安心できたのか、ハナちゃんの周りをキャッキャと飛んでいるね。

 ほんと、優しくてかわいい神様だ。

 ……しかしあれだ、各家庭を回ったときに積もったのか、神輿の上に雪がのっている。

 そのままだと神輿も部屋もぬれちゃうので、雪を落としてあげよう。


「神様神様、神輿に雪が積もっていますので、ちょっと玄関で落としましょう」

(おねがい~)


 手を出すと、ほよよっと神輿が手のひらの上に乗ってきた。

 それじゃあ、ちょっと玄関まで。


 積雪神輿を抱えて玄関に到着し、積もった雪を払ってあげる。


(すっきり~)


 あとはタオルで拭いて……と。


(ふわふわ~)


 タオルにくるまってキャッキャする神輿、すっきりしたのかご機嫌だね。

 それじゃあ、部屋に戻ろ……う?


(おいしそうな、たべもの~)


 ん? 神輿が動かないぞ。

 謎の声は美味しそうな食べ物、とか言っているけど……。

 神輿が見ている先には何が……と、ユキちゃんのトートバッグが置いてあるね。

 ……玄関に置きっぱなしだったか。


 どうも神輿は、これを見ているみたいだね。なんかはみ出しているやつ。

 これは……あ、これチョコレートだ。可愛いラッピングの。


 そういや、明日はバレンタインか。これはちょっと、期待しても良いかな?

 でも、ラッピングが違うけど、似たようなのが五個もある。

 これは義理チョコっぽいな。


(ひかってて、おいしそう~)


 ……光ってて美味しそう?

 俺が見た感じは、特に光ってはいないけど……。

 気のせいだよね?


 ……まあ、これはお供え物ではないと思うから、神様には我慢してもらおう。



 ◇



(ざんねん~)

「あら? 神輿がなんだか元気がありませんね」


 例のチョコはお供え物には出来ないので、神輿はがっくし状態だ。

 でもまあ、お菓子は沢山ありますからご安心を。


「良くわからないけど、お供え物をして元気を出してもらおう」

(――ほんと!)

「お菓子が沢山ありますから、こちらをどうぞ」

(ありがと~!)


 とりあえず手持ちのお菓子をお供えして、元気を出して貰う。


(おそなえものたくさん、みなぎる~!)


 ユキちゃんのチョコは食べられなかったけど、沢山のお菓子は食べられた神輿、元気にくるっくるだ。

 ご機嫌になってくれて、良かった良かった。


 ――さて、ユキちゃんのカバンは渡しておこう。中身は見なかったことにして。


「あそうそう、ユキちゃんカバン玄関に置きっぱなしだったよ」

「あ、忘れてました。ありがとうございます」


 カバンをユキちゃんに渡すと、なんだか急いで中身を確認しているね。

 そして、ほっとした様子でカバンを脇に置いた。

 ……神様が言っていた「光ってて美味しそう」ってのが気になるけど。

 気にすると顔に出る。忘れることにしよう。


 そうして、しばしの間ユキちゃんや神輿とキャッキャしていると――。


「タイシさん、そろそろおゆうしょくのじかんですが、たべていかれます?」

「あや! もうそんなじかんです?」


 ――カナさんから、お夕食のお誘いが来た。もちろんごちそうになりたいね。

 ただ……今日はドタバタしただけに、俺の分まで作る手間をかけてもらうのも申し訳ないかと思う。

 その辺確認しよう。


「今日はみなさん大変だったと思いますので、あまりお手間をかけて頂くのも申し訳ないかと思っていまして」

「いえいえ! これくらいなら、ちがいはあまりありませんので」

「タイシ~、ゆうしょくたべてってほしいです~」


 遠慮すると、カナさん的には大丈夫とのことだ。

 いつも通りの表情なので、気を使っているわけではないかな。

 あとはハナちゃんが、俺の服のすそをひしっとつかんでおねだりだ。

 これはもう、断る理由は無いか。


「では、お言葉に甘えます」

「わーい! タイシとゆうしょくです~」

「では、さっそくつくりますね!」


 そんなわけで、カナさんがしゃきっとして台所に向かおうとする。


「ハナもてつだうです――あえ?」


 ハナちゃんがお手伝いに行こうとしたので、しゅぴっと肩を掴んで止める。

 病み上がりだから、今日は休んでいた方が良い。


「ハナ、きょうはだいじょうぶだから、ゆっくりやすんでいてね」

「あや~……ハナ、もうげんきです?」

「たいりょくはおちているから、もうちょっとがまんしてね」

「あい~……」


 カナさんも同じ気持ちなのか、ハナちゃん今日はお手伝いお休みだ。

 ハナちゃん、お手伝い出来なくてちょっとしょんぼりだね。


「あ、じゃあ私がお手伝いを――おおっと!」


 今度はユキちゃんが動き出したので、また肩を掴んで止める。


「二人とも病み上がりだから、今日はゆっくり休もうね」

「は、はい」

「あい~」


 働き者なのは良いけれど、休む時はきっちりとだね。

 とまあ二人を寝かしつけて、待つ事三十分。


(おいしそうなにおい~)


 お味噌汁の良い匂いが漂ってきて、神輿がそわそわし始める。

 気持ちはわかる。

 というか、お味噌汁の匂いがしてきた途端、みんなのお腹がグーグーなりだしたからね。


「た、大志さん……聞こえちゃいました?」

「ハナも、おなかなっちゃったです~」


 お腹の虫の音を聞かれたのが恥ずかしいのか、ユキちゃんちょっと顔が赤いね。

 ハナちゃんは元気いっぱい、きゅるるると音が出るたびにキャッキャしている。


「お腹が空いて自然に音が出るのは、元気で正常な証拠、良い事だね」

「ハナ、げんきです~」

「沢山食べて、もっと元気になろうね」

「あい~!」


 ハナちゃんもうかなり元気になったね、良い事だ。


「ユキちゃんも、気にすることは無いよ。それは良い事で、当たり前なんだから」

「そうですね!」


 ユキちゃんも開き直ったのか、ニコニコ笑顔で俺を見てくる。

 そうそう、笑顔が一番だね。


 そうして部屋でキャッキャしていると、カナさんが呼びに来た。


「ゆうしょくができましたので、みなさんどうぞ」

「あい~!」

(おそなえもの~!)


 みんなで部屋から出て、居間に向かう。

 お楽しみの献立は、味噌汁ベースの雑炊に、サバの水煮にお漬物、そしてお吸い物だ。

 ハナちゃんとユキちゃんは病み上がりだから、消化に良い献立で良いね。

 それに味噌の良い匂いもしていて、とっても美味しそうだ。


「あまりてまをかけられなくて、すいません」


 カナさんが申し訳なさそうにしているけど、こういうのも良いもので。

 俺はこういった献立、結構好きなんだよね。


「私はこういう献立、好きですよ。それに消化に良い料理なので、病み上りの人たちにもちょうどよいです」

「そういっていただけると」

(おいしそう~)


 問題ない旨を伝えると、カナさんにっこり顔になった。

 それに、神輿も料理が楽しみで仕方ないようで、くるくる回っている。

 この献立で良いというか、これが良い。これが今日の、最適なんだ。

 そんなわけで、今日もおいしい夕食、頂きましょう!


「では、いただきます」

「「「いただきまーす」」」

(おそなえもの~)


 ヤナさんの号令にて頂きますをして。

 今日はお見舞いに来てくれた神輿も、夕食にご招待だ。


(あっつあつで、おいし~)


 神輿がくるくる回ると、ちょっとずつ雑炊が消えて。

 雑炊が消えると、神輿がピカピカ光って。

 美味しく夕食を堪能しているね。


 では、俺も早速あつあつ雑炊を頂きましょう!


 さじで雑炊をすくって、口に入れる。

 すると――ほっとする味が口に広がった。


 カナさんお得意の野菜たっぷりお味噌汁を、雑炊用に合わせてあるね。

 味噌汁部分はやや薄味で、雑炊にありがちなしょっぱさは抑えられている。

 しかし出汁はしっかり入れてあって、旨味がしっかり感じられる。


 薄めの味噌汁にしっかりお出汁、するすると食べられるね。

 さらに白味噌を使っているので、さっぱりした味わいだ。

 溶き卵も入っていて、卵の風味とふんわりした食感がまた良い。


 お野菜の方は、良く火を通して柔らかくしてあるものが大半。口の中でほろほろと崩れる。

 ただ一部青菜はさっと火を通してあるだけのようで、シャキシャキとした食感が出るよう工夫されている。

 ただの雑炊でも、カナさん結構手間かけているね。


 そして雑炊の味に慣れてきたところで、サバの水煮をちょいっと摘まむ。

 缶詰を温めただけのものだけど、既製品ならではの安定した美味しさ。

 じっくり煮込まれたサバは、うすしお味と魚の脂の旨味がぎっしりと詰まっている。


 サバの水煮を食べた後は、磯の香りを消すためにお漬物を少々。

 ハナちゃんち自家製の浅漬けが、口の中をさっぱりとリセット。

 ほのかな塩分が、口に残るだけ。


 では、最後にお吸い物だ。

 三つ葉が入れられたあっさりとしただし汁は、浅漬けの塩分をするっと流してくれる上、体を芯から温めてくれる。

 雑炊があるのに汁物を用意しているのは、沢山ある雑炊を飽きずに最後まで食べられるようにとの、工夫された組み合わせだね。


「カナさん、なんだかんだ言って結構手間かけてますね。美味しいですよ」

「あら、ありがとうございます。うふふ」

「おかあさん、おかわりです~」

「はい、ちょっとまっててね」


 カナさんに美味しいと伝えると、なんだかんだ言っても嬉しそうだった。

 ハナちゃんや他のご家族もも沢山お代わりしているので、けっこうウケている。

 素朴な料理だけど、それだけに心遣いが良く伝わる献立だ。

 この辺やっぱり、母親というのは良く考えて料理を作っているね。


「ハナ、たくさんたべるのよ?」

「あい~! おかわりするです~」


 病み上りのハナちゃんだけど、食欲旺盛だね。またお代わりだ。

 カナさんもほかのみんなも、そんなハナちゃんをニコニコと見守る。

 やっぱり子供は寝て食べて遊んで、そして元気が一番だね。


(おかわり、いい~?)

「かみさま、これどうぞです~」

(ありがと~)


 神輿もお代わりを所望してきたので、謎の声が聞こえるハナちゃんが対応だね。

 んしょんしょと雑炊を取り分けてくれて、神輿大喜びだ。

 みんなで楽しく、体に優しい雑炊をもぐもぐ。ほっとするひと時。


 こうして、大騒ぎした一日だったけど……最後はほんわか夕食で締めくくることができたのだった。



 ◇



 そして翌日。


 朝から、風邪を引いた子供たちの様子を確認して回る。

 みんな風邪は治ったようで、キャッキャと元気に走り回っていた。一安心だね。

 お見舞いのお菓子を配って歩いて、確認のお仕事は終了だ。

 さて、今日はこれからどうしようかな?


「あ、あの~。大志さん、ちょっとよろしいですか?」


 集会場でこれから何をしようか考えていると、ユキちゃんがやってきた。

 これは、あれだね。例のあれだ。


「大丈夫だよ。何かな?」


 そして何故か正座をしてしまう俺。こういうシチュエーション、慣れてないものでして。

 だってさ、俺のバレンタインは大体、お袋とか近所のおばちゃんからチ○ルを貰う位な物でして。

 俺の周り、女っ気がないからしょうがないのですよ。しょうがないんだ……。


「き、今日はアレですよね。ほらアレ」

「そうだね。アレだね」


 妙な緊張が会場を包む。

 そしてユキちゃん――ブツを取り出した!

 来たー!


「そ、そんなわけで、これはアレです。そう、アレというかソレです」

「ありがたく頂きます」

「ど、どうぞ」


 昨日見た、アレですな。恭しく、ブツを拝領する。ありがたや~。

 ……うん、光ってはいない。大丈夫だ。


「……フフフ、受け取ったわね」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何にも」


 そうかな? オーラが黒いけど気のせいだよね?

 これ、食べても大丈夫だよね?


「あ、ええとですね……」


 じっとブツを見つめていると、ユキちゃんがわたわたし始めた。


「ま、まあ普段からの感謝的なアレとか、ソレ的な感じでして」

「さようで」

「さようでござる」


 ユキちゃんの口調がおかしいけど、気にしないことにしよう。

 こういう頂き物は、目の前で食べるのが吉とお袋に教わっている。

 さっそく食べましょう!


「では、早速食べるね」

「どうぞ! どうぞどうぞ!」


 では――頂きます!


 ――――。


 ――うわあ! ユキちゃんめっちゃ可愛く見える! これは凄いよ!



 ◇



 めっちゃ可愛く見えるユキちゃんと、集会場でお茶を飲んでまったりする。

 眼福眼福。


「あ、あれ? 効果が薄い……? 予定ではこう、もっと……」


 めっちゃ可愛く見えるユキちゃんが何か言っているけど、まあ気にしない気にしない。

 多分考えてはいけない。


 首をかしげるユキちゃんだけど、なんか凄い。

 キラキラしてる。エステ後より凄い。


「タイシタイシ~、ここにいたですか~」


 そうしてお茶を飲んで眼福を楽しんでいると、ハナちゃんがぽてぽてと集会場に入ってきた。

 今日は寒いので、もこもこ着込んだもこもこハナちゃんだ。

 もうすっかり風邪は治ったようで、元気いっぱいだね。


(ども~)


 おや? 神輿もそのあとをほよほよ飛んできた。

 こっちも元気いっぱいで、ぴかぴか光っている。

 一緒に来たのかな? どうやら、俺を探していたみたいだけど。


「ハナちゃんどうしたの?」

「タイシ~、きょうは、あまいものをあげるひって、ユキにきいたです~」

(きいた~)

「ふふふ」


 おお! ユキちゃんはバレンタインのこと、ハナちゃんにも話していたのか。

 ……神様も一緒に聞いていたのかな?


「ささ、二人ともアレを」

「あい~! ひごろのおれいに、これをあげるです~」

(どぞ~)


 ユキちゃんの合図とともに、ハナちゃんと神輿は……可愛いラッピングのチョコを差し出してきた。

 これは……五個あったチョコのうちの二つだね。それぞれ包装が違う。

 ありがたやありがたや。ユキちゃん、気を効かせてくれたんだ。


(ひかるやつ~)


 ん? 光るやつ?

 ……考えないようにしよう。貰えるだけで、ありがたいのだ。


「それでは、二人ともありがたく頂きます」

「あい~!」

(どぞどぞ~)


 ハナちゃんと神輿から、恭しくチョコを拝領する。

 いやあ今日は良い日だな。まさか身内とおばちゃんたち以外から、チョコをもらえる日が来るとは。

 感無量である。


 あれ? ユキちゃんもハナちゃんも身内では?

 おまけに神様は超自然的存在? 建築物? 模型?

 しかもチョコの出所は、全部ユキちゃんである。


 ……考えたらいけない。


 まああれだ、これも早速頂きましょう!


「じゃあさっそく食べるね。頂きます!」

「どうぞです~!」

(どぞどぞ~!)


 二人のチョコを食べる。それぞれ味が違っていて、美味しい。


 ……。


 ――うわあ! ハナちゃんと神輿が妙に可愛い! なにこの現象!


「フフフ……たまにはおすそ分けも、良いものね」


 黒いオーラのユキちゃん、意味深な笑みだ。

 でもまあ、オーラは黒いけど、悪い感じはしない。気にしない気にしない。

 気にしたら、いけない。



 ◇



 無事バレンタインも終わって。マイスターとマッチョさんが語っていた。

 なんだか、腕グキさんとステキさんが妙にキラキラして見えたと。

 よかった、俺だけじゃなかった……。


 というのは置いといて。

 子供たち風邪ひいちゃった騒動から、数日後のこと。


「それじゃ大志、ちょっくら行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 爺ちゃんたちが、旅立つ……大阪に。異世界ではない。


「ここに凄いスーパー銭湯があるのよね?」

「あにゃ?」

「世界のなんとか温泉ていう、凄まじいのがあるよ。もうなんかすごい」


 爺ちゃんたち、村の温泉施設がいたく気に入って。

 ああいう施設、巡ってみようという話になってしまった。

 そこで、まずはインパクト重視で、大阪にあるとんでもない規模のスーパー銭湯を紹介した。


「俺も便乗するぜ」


 高橋さんも便乗して、大阪行きだ。バスの運転手としての役割もあるけど。


「箱根とか、お台場にもあるね。デカい奴が」

「時間があったら考えとく。じゃ、行ってくるな!」

「楽しみねえ」

「あにゃ~」


 そんなわけで、爺ちゃんたちがスーパー銭湯巡りに旅立った。

 俺も行きたい。


 とまあこんな感じで、村の運営は俺に一任されることになった。

 なるべく平穏に、平和に運営していければ良いな。


 そして、一部忙しくなった人たちもいた。


「おくすりこねこね~」

「たくさんこねましょ! こねましょ~」

「がんばろ! がんばろ!」

「あや~、ようせいさんたち、はねがキラッキラです~」


 妖精さんたち、いっしょうけんめいお薬をこねこねだ。

 ヤナさんの良く効く薬が、まともに飲めるようになって。

 観光客からも、ほしいといわれるようになった。

 まあ、あれだけ効くのだから、ほしくもなるとは思う。


 今妖精さんたちが羽根をキラキラさせながら、一生懸命味をなおしてくれている。

 ただ……。


「みんな、あんまり無理しなくて良いからね。がんばりすぎたら、だめだからね」

「いそがなくても、だいじょぶです~」


 三人がかりで羽根を激しく輝かせて、ようやくなんとかしているわけで。

 結構無理しているのでは? と思って心配なわけだ。

 ハナちゃんも同じ気もちのようで、心配そうに妖精さんたちを見ている。

 つい昨日かぜをひいちゃっただけに、体調不良の大変さは身にしみてわかっているからだろうね。


「だいじょうぶ! だいじょうぶ!」

「おくすり、みんなひつようとしてるから! してるから!」

「びょうきをすこしでも、へらしましょ~」


 でも、妖精さんたちは、一生懸命お仕事をしてくれる。

 お薬はたくさんあったほうが良いのだから、確かにそうではある。

 ただほんとに、大丈夫なのかな……。


「みんなのために、こねましょ~」


 心配でならないので、妖精さんたちが働きすぎないよう、気をつけていこう。

 のんびりすごしてくれて、いいのだから。

 というわけで、妖精さんたちへのお礼に買って来たお菓子、振る舞いましょう!


「ほらほら、今日はこの辺にしておこうね。甘くておいしいおやつを持ってきたから、それを食べてゆっくりしよう」

「いっしょに、おやつたべるです~」

「――あまくておいしいおやつ! おやつ!」

「なんだろね! なんだろね!」

「おやつ! おやつ!」


 おやつに誘ったら、きゃいきゃいと作業をとめたね。

 おなかもすいてきている頃だろうから、さすがに休憩は取ってくれるみたいだ。

 ほっと一安心だね。


 それじゃあ、村の子供たちも誘ってみんなでおやつ会でもしましょう!


「そこな子供たち、ほかの子供たちも誘って、みんなでおやつを食べよう」

「おやつだ!」

「みんなよんでくる~」

「どんなおやつかな! たのしみ~」


 声をかけた子供たちは、キャーキャー喜びながら他の子供も誘いに行った。

 では、おやつ会の準備をしましょうかね。

 今日はちょっと面白いお菓子を持ってきたわけで。


「タイシタイシ~、これってどんなおかしです?」

「みためはふつうのおだんごかな? かな?」

「なかみはなんだろね! なんだろね!」


 お菓子を用意していると、ハナちゃんや妖精さんたちが興味深そうに見ている。

 見た目は確かに普通の大福っぽいやつだ。

 でもね、これは中身が……ふふふ。


「どんなお菓子かは、食べてからのお楽しみ。まだ内緒だよ」

「あや~、きになるです~」

「なんだろな! なんだろな!」

「わくわくするね! わくわくするね!」


 ハナちゃんずずいと前のめりで大福を見つめ、妖精さんたちはぴこぴこ飛び回ってきゃいっきゃいだ。

 ほかの子供たちが来るまで、もうちょいお待ちくださいだね。


「みんなつれてきたよ!」

「おやつあるってきいた~」

「どんなの~?」


 準備ができたところで、ちょうど子供たちがやってきた。

 みんな目がキラッキラだね。どんなおやつか気になってしょうがないみたいだ。

 では、各自に配って実食と行きましょう!


「はいみんな、一人三つずつね。あと、あま~くて温かい飲み物もあるからね」

「わーい!」

「ならぼ! ならぼ!」

「おやつだ~!」


 子供たちと妖精さんには、例の大福とココアを配る。

 大福にココアは一見ミスマッチだけど、今日の場合はこれで良い。

 あ、あと大事な人を呼ばないと。


「もちろん神様の分もありますよ。こちらです」

(きゃー! きゃー! むぎゅ……きゃー!)


 神様に声をかけたら、謎の声がきゃーきゃー言いながら神輿出撃だね。

 ちなみに、最初の「きゃー!」で神社と神輿の扉が開くまでは、前と同じだ。

 しかし、次の「きゃー!」の時に光の玉が神社から出てきて、神輿の入り口で「むぎゅ」っとなった。

 そして神輿の入り口で一瞬ぷるぷるした後、乗り込んで出撃という感じである。


(おそなえもの~!)


 こうして多少「むぎゅ」とはなったものの、神輿も無事スタンバイ。

 用意してあったお菓子と飲み物の上で、くるくる回って準備万端だね。


 ……さて、全員に配り終えたね。

 それじゃあ、食べてみようか!


「はいみんな、頂きます」

「「「いただきまーす!」」」

(いただきまーす!)


 頂きますの号令をすると、みんなあんぐりとお口を開けて大福をほおばる。

 神輿も大福を手? にとって、かじりつく。

 今日は持ってかないで、直接食べるみたいだ。


 そしてみんな、大福を一口かじったところで――。


「――あや! なかはあまくてふわっふわです~!」

「なにこれ!? なにこれ!?」

「しろくてふわふわ! おいしいね! ふしぎだね!」

(ふしぎなおかし~!)


 ハナちゃんや妖精さんたち、お目々まん丸で驚いている。

 この大福……外は極めて柔らかい薄皮餅、中はホイップクリームとカスタードなのだ。

 シュークリームと中身は似ているね。でも外側がお餅、という面白大福だ。

 和菓子でもなく、洋菓子でもない。不思議なお菓子なんだなこれが。


「なかみ、とろける~」

「おもしろくておいしい~」

「こっちののみものも、あまくておいし~」


 子供たちも驚きつつ、キャッキャと大福を食べている。

 ココアも好評で、みんな楽しそうだね。


「おいし~です~」

(みなぎる~)


 ハナちゃんと神輿は、キャッキャと次の大福に取り掛かっているね。

 二人とも、ほっぺにクリームついてるけど。


「こういうのでも、いいんだ! いいんだ!」

「いろんなおだんご、たのしいな! たのしいな!」

「さんこうになるね! あたらしいおだんごだね!」


 そして妖精さんたちは、お団子大好き魂を揺さぶられたようだ。

 ちたまにある数々の工夫を凝らされた、くるくる丸めちゃうよ系のお菓子、大いに刺激を受けている。


「みんなも、新しい発想のお団子とか挑戦してみてね。材料はあげるから」

「あたらしいおだんご!」

「つくろ! つくろ!」

「おだんごのじょうしき、くつがえすの~!」

「きゃい~」


 不思議大福に刺激された妖精さん、お団子の概念を覆すものに挑戦するかもだね。

 その調子で、無理せず趣味のお団子作りを楽しんでもらいたい。

 

 ――さて、これでなんとか休憩してもらえたね。

 妖精さんたちにあまり無理させないよう、これからも気を付けて行こう。

 ちいさなちいさな体でがんばる姿は可愛いけど、無理するところを見たいわけじゃない。

 毎日ぼちぼち、ゆったりと過ごしていきましょうだね。


大志、薬剤耐性がつきつつある、の巻。

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