第七話 んむむ~
「はいハナちゃん、桃だよ」
「いただきますです~」
風邪を引いたら桃缶らしいので、ハナちゃんに桃を食べてもらう。
もぎゅもぎゅと食べているので、食欲はあるね。
しかし……。
「あや~、あじがあんましないです~」
「鼻が詰まっていると、味がわからなくなるんだって聞いたことあるよ」
「ざんねんです~」
大好きな桃を食べているけど、味があんまり分からないらしい。
俺はこうなったことが無いので、聞いた話しかわからない。
子供のころ風邪っぽいな、と思って薬を飲んだり病院に行ったりしたこともある。
だけど、全部気のせいだったり。空気が乾燥していて、喉が痛くなっただけとか。
こんな感じで病気らしい病気はしたことが無いので、それがどんな辛さなのか分からないわけで。
ようするに、俺は病気の人の気持ちを――分かってあげることが、出来ない。
こういう時はこうして欲しいってのも、本当の意味では分かってはいないのだ。
だから、細かい気配りや察することもあまり出来ない。
この辺は、すごくもどかしい。
もうちょっと誰かを理解したいとは思うけど、どうにもならない。
こういうのが、どんどんガテン系へと走らせる原因なのかとは思う。
お袋やユキちゃんたちの、外部の目がどうしても必要になるわけだ。
しかし、そのユキちゃんもダウンしているわけで……。
「付きっ切りで看病……またも怪我の功名。……フフフ」
……いや、なんか元気そうだ。
なんというか、前向きな感じがするね。
というか、ユキちゃん村でお泊まりするときは、着ぐるみパジャマを着るんだね……。
腕グキさんちに置いてあるらしいけど、なかなかの出来栄え。
そしておそらく、これはミッションだ。褒めておくべしだ。
「ユキちゃん、そのパジャマかわいい感じだね。良い生地つかってる」
「かわいい……ふっふっふ」
「どうぶつさんです~」
白キツネちゃんの着ぐるみパジャマが、よりいっそう年齢を低く見せて――おっと、これ以上いけない。
考えたらいけない。顔に出る。
……俺はけして祟りが怖いわけじゃないんだ。そうなんだよ。そうにちがいない。
「ハナ、あたまひやすわね」
「あい~」
カナさんはカナさんで、てきぱきとハナちゃんの看病をしている。
濡れ布巾を小まめに変えて、熱さましだ。
このまま、様子を見ながらカナさんと看病を続けよう。
そうしてしばらく看病をしていく。
お昼を回ったところで、お見舞客が来た。
「ハナちゃん、風邪ひいたんだって? お見舞い持ってきたぞ」
「この時期は、どうしてもねえ」
「あにゃ~」
爺ちゃん婆ちゃんとシャムちゃんが、果物盛り合わせをもって来てくれた。売り物のやつだね。
イチゴにブドウにリンゴに、ミカンにキウイにメロンに……。
あれ? バナナが無いな。こういうのには、だいたい入っているのに。
「爺ちゃん、バナナが無いけど」
「最初から入ってなかったな。この時期、寒さで痛むからじゃないか?」
「ああ、なるほど」
バナナは冬の寒さが大敵で、ちょっと油断すると凍傷にかかって痛むんだよね。
寒い部屋に置いておくと、痛みやすい。とくにこの辺の、寒さが厳しい地域ならなおのこと。
夜寝る前に暖房を切ると、朝カチコチになってたりもする。これでもう痛んでしまう。
そういうのもあって、贈り物として使う盛り合わせに入れてないんだろうな。
これはこれで、業者側の気遣いってやつなんだろう。
「タイシ~、『まなな』ってなんです?」
「まなな? バナナのこと?」
冬のバナナ保管について、その難しさについて考えていると。
ハナちゃんが興味深そうに聞いてきた。
バナナという語感が面白かったのか、聞いたことのない名前に興味を持ったのか。
お見舞いのイチゴを早速かじりながら、こてっと首をかしげている。
「あい、まななです?」
「いや、バナナだよ。ヴァナーナ」
「まなーな? です~?」
しかしハナちゃん鼻づまりなので、バナナが「まなな」になってる感じ?
そうしてしばらくの間、ハナちゃんとまなまな言っていると。
「お~い、ハナちゃんだいじょうぶ?」
「かぜひいたとか、ふるえる」
「ゆっくりやすむのよ~」
続々とお見舞客がやって来た。
みなさんお見舞いの品を持って来てくれるので、食べ物沢山だね。
おやつ食べ放題だよ。
「あや~、おやつたくさんですけど、あじがしないです~」
そしてハナちゃんは、もらったお見舞いをもぐもぐだ。
……食欲はすごいあるみたいだね。
これなら、すぐに治るかもだ。
とまあその後もひっきりなしにお見舞い客が訪れ、お見舞い品を置いて。
ハナちゃんとユキちゃんの様子をうかがい、お大事にと帰って行った。
やがて、夕方前にさしかかろうかという頃――。
「ハナ、おくすりを作ったよ。これを飲むんだよ」
「――うきゅっ!」
ヤナさんがお薬をこさえて持ってきた。
……黒い玉で、正露○みたいなやつだ。
それを見たハナちゃん、うきゅっとビクビク状態に。
「あや~、にがいおくすり、きたです~……」
「おくすりがにがいのは、しょうがないからね。ささ、お飲みなさい」
「んむむむ~」
「あ、こら。口をあけなさい」
「んむ~!」
ヤナさんがお薬をハナちゃんに飲ませようとするけど、ハナちゃん抵抗する。
ハナちゃんがこれほど抵抗するとは……かなりヤバい味のようだ。
「……ヤナさん、これってどんな味がするんですか?」
「あ~なんというか、『ガガギギ!』って味です」
「……さようで」
擬音がヤバい。「ガガギギ!」って……。
ハナちゃんが抵抗するといい、その擬音といい。
良薬口に苦し、どころの騒ぎではないようだ。
「んむ~」
「ほら、おくすりを飲まないと」
「んむむ~!」
ハナちゃんとヤナさんの攻防が続く。
俺も出来ることなら、ハナちゃんにお薬を飲んでほしいとは思う。けど、これほどまで抵抗しているのを見ると、アレな感じが。
どっちに味方をすればいいか、なかなか悩ましい所である。
ハナちゃんは今、お口に両手を当てて防御している。んむむむハナちゃん状態。
そしてヤナさんは、ガガギギ薬をなんとかして飲ませようと奮闘。
……どうしよう。
あれだ、ちょっと味をみせてもらおう。
それでどっちに味方をするか、決めよう。
「ヤナさん、そのお薬ですけど……ちょっと味をみせてもらってよろしいですか?」
「え? あじみですか? ……ど、どうぞ」
味見は良いみたいなんだけど、どうしてヤナさん引き気味なの?
……嫌な予感がするけど、もう後には引けないぞ……。
「タイシ~、それきけんです~」
「あ、口があいた」
ハナちゃんが警告してくれたけど、すかさずヤナさんお薬を飲まそうとする。
「んむ~!」
――そしてハナちゃん素早くブロック!
鉄壁である。
……まあそんな攻防は置いておいて、味見しよう。ちょっとひとつぶだけ。
では! 味見!
――――ぐあああああああ!
◇
「……流石に、これはアレですよ」
「んむ~」
「そうですかね。良くきくのですけど……」
ほんとに、「ガガギギ!」って味だった。
これを子供に飲ませるのは、かなり気が引ける。トラウマになるよ。
ということで、ハナちゃんの味方をすることに。
「ゲホゲホ……大志さん、それってそんなにアレですか?」
隣で休んでいたユキちゃんも、こわごわとガガギギ薬を覗き込んできた。
「あ、ユキさんも飲みます? ききますよ?」
「え? あ、あのその……」
「んむむ~!」
すかさずヤナさんがお勧めしたけど、ユキちゃんも出来れば遠慮したいみたいだ。
ハナちゃんも首を横に振って、止めている。
……味見をした感じ、味が「ガガギギ!」ってなる以外は、体に良さそうなんだけどね。
なんというか「これは効くな」というのは感覚で分かった。
でも、味がね……。胃の中でも「ガガギギ!」ってなってるのがわかるくらい、強烈なわけで。
飲んでほしいとは思うけど、飲ませたいとは思えない。
なんとも、扱いの難しい薬だ……。
これ、どうしたら良いかな。
「ヤナ、くすりをくばってきたけど……ほかのこどもたちも、みんなていこうしてるわ」
「ふが」
「なきだすこどもも、でるしまつだ」
お薬の味ヤバい事件をどうするか悩んでいると、カナさんとひいおばあちゃん、あとおじいちゃんが部屋に入ってきた。
どうやら、他の風邪ひきお子さんたちも、抵抗勢力となっているようだ。
「すっごく、良くきくのになあ……」
ヤナさん残念そうだ。
しかしこれ、体の病を治してくれるだろうけど……心の病を引き起こしそうな味でしてね。
それさえ何とかなれば。
……ちたまには、苦いお薬をなんとか飲めるようにする工夫は、いくつかある。
それを試してみようか。
◇
ちょっと車を出して、薬局まで。
オブラートや、とろみ剤とかを買ってみる。
ついでに栄養ドリンクとかゼリー状食品とか色々買って、村へととんぼ帰りだ。
すぐさまハナちゃんの家に戻って、検証をする。
「こっちでもお薬を飲むのに苦労している人が沢山いますので、こういうものがあります」
「これに包むと、粉のお薬は飲みやすくなりますね。こっちも、とろみで包んで飲みやすくします」
「んむ?」
「なるほど、それなら味がアレでも、なんとかなりそうですね」
風邪ひきユキちゃんが、製品を細かく説明してくれた。
……こんな時まで働こうとするとは。
無理しないで、寝ていてほしい。
「んむ~?」
しかしハナちゃん、半信半疑のお顔だ。いまだに防御を崩さない。
「では、私が試してみますね」
「んむ~、んむ~」
ユキちゃんが実演してみせるようで、オブラートにガガギギ薬を包んだ。
それを見たハナちゃん、首を横に振って止めようとしている。
そうしている間に、ユキちゃんが薬を口に入れて――。
「――んぐっ!」
ぱたりと倒れた。
「だめみたいですね」
「んむ~」
「……」
そしてユキちゃん動かなくなった。沈黙する、白キツネの着ぐるみパジャマさんだ。
ヤナさんがしょんぼり顔でユキちゃんを見て、ハナちゃんは「だから止めたのに……」的な顔。
――――。
これは、そう。我々ちたま人の、科学信仰が起こした事件なのだ。
――我々ちたま人は、ちたまの文明を信頼しすぎたのだ。
ちたま文明でも、なんともならない物体、そういうものが、あったのだ。
結果、こんな悲劇が起きてしまった……。
――と雰囲気たっぷりにモノローグしている場合ではなくて、ユキちゃんの様子を確認しよう。
「ユキちゃん大丈夫?」
「……これは、非常に、お勧めできません……」
「んむ」
ユキちゃんの肩を支えて起こしてあげると、青い顔をして答えてくれた。
しかし、ユキちゃんが体を張ってくれたおかげで、オブラートではダメなことが分かった。
次は俺の番だな。
というか、こういうの大体俺の役割だった。何食べても俺は大丈夫だからね。
それでは、俺はとろみ剤のほうを実験だ。
「では次に、私がこのとろみのやつで試してみます」
「んむ~」
ハナちゃんが、心配そうな顔で俺を見つめる。
まあ大丈夫だよ。さっき直でかじったときよりは、マシだと思うから。
では、実験!
――――うぎゃあああああ!
◇
……ちたま文明、二連敗でござる。
なんというかですね、突き抜けてくるんですよ。ガガギギ味が。
一瞬で浸透して来るというか、浸蝕してくるというか。
破壊力はかなり高い。
「……あ、なんだか体調が良くなった気が」
しかしユキちゃんが復活したっぽい。
なんだか、すっきりした顔をしている。
「ユキちゃん、念のため、熱を測ってみて良いかな?」
「はいはいどうぞ! どうぞどうぞ!」
体温計を取り出すと、またおでこを出してきた。
いやあの、この耳式体温計のほうが正確なんだけど……。
――――。
「フフフ……予行演習、フフフ……」
ご要望通り測ってみたけど、言った通り熱は引いていた。
顔色も良くなっているね。確かにこの薬、かなり効くようだ。
そして効くことがわかってしまった以上、飲んでほしいとは思うのだけど……。
「んむむ」
「ハナ、あきらめてぐいっと飲もうよ。ほらぐいっと!」
「んむ~!」
ハナちゃん鉄壁の防御!
……気持ちは分かる。というか、あの味はトラウマになるね。
ハナちゃんもあの味は知っているのだから、見事にトラウマになってるわけだ。
でも良く効くお薬だけに、非常にもったいないとは思う。
なんとか、ならないかな……。
「味さえどうにかできたら、最高のお薬になりそうですけど……」
「私もがんばってみましたが、このへんがげんかいでして」
ヤナさんもその辺は自覚があるようで、これでもなんとかした結果らしいぞ……。
「むかしは、もっとすごかったんです。『ガギーン!』みたいなあじで」
「んむむ!」
カナさんが言うには、改良前はもっとヤバい味だったそうで……。
ハナちゃんも、うんうんと頷いて同意している。
どうやら、その「ガギーン!」バージョンも飲んだことがあるらしい。
そりゃ、トラウマにもなるよね……。
しかしほんとこれ、どうしよう……。
「どうしますかね」
「んむ~」
「今のところ、これがげんかいなんですよね……」
お薬を前にして、しばらくみんなで悩むのであった。
――それからしばらくして。
「おみまいにきたよ! きたよ!」
「おだんごたくさん! たべて! たべて!」
「おだんごたべて、げんきだして!」
みんなでガガギギ薬を見つめて悩んでいると、妖精さんたちがきゃいきゃいとお見舞いにやって来た。
一気に家がにぎやかになったね。
「ぐあいはどうかな! どうかな!」
「んむ~」
「どしたの? どしたの?」
「んむむ~」
羽根を補修した妖精ちゃんに問いかけられたけど、ハナちゃん防御中なので「んむむ」としか言えない。
それほどまでに、あの薬がトラウマなのである。
俺が代わりに説明しておこう。
「ハナちゃんの体調は、良くはないけど凄く悪いわけでもないかな?」
「かぜひくとたいへん! たいへん!」
「おくすりのまないの? のまないの?」
あ、妖精さん、ガガギギ薬に気づいた。
まあ、いかにも「お薬だよ!」というオーラは出ているからね。すぐにわかるか。
この辺も説明しておこう。
「良く効くお薬なんだけど、味が凄まじくて」
「んむ!」
「どんなあじ? どんなあじ?」
「ためしてみましょ~」
ああ! 羽根を補修した妖精ちゃん、ガガギギ薬をかじった!
「――……」
そしてぱたりこ、と倒れる。
…………。
――大変だー!
「んむむ~!」
「これはやばいよ! やばいよ!」
「だいじょうぶ!? だいじょうぶ!?」
「……」
ハナちゃんや妖精さんたち、大騒ぎだ!
いやはや、この薬……ほんと味だけはヤバいな!
というか、羽根を補修した妖精ちゃん、大丈夫か?
「君、大丈夫?」
羽根を補修した妖精ちゃんを両手の平の上に乗せて、容態を確認する。
ペットボトル一本分の重さの妖精さんだけど、ぐったりしているからやや重めに感じるね。
さて、状態は……息はしているね。
「……このおくすり、あじがヤバい~……」
あ、目を覚ました。無事なようだね。
良かった良かった。
「くちなおし~……」
そしてすぐさま、木の実をくりぬいて作ったとおぼしきなんかの容器を取り出し、んぐんぐと飲み始めた。
それ、どこにしまってたの?
「とまあこういうわけで、このお薬をなんとかして飲めないかと困っていたんだ」
「これはきょうれつ~……」
「こまったね! たいへんだね!」
「にがそう~」
羽根を補修した妖精ちゃん、落ち着いたみたいだ。
さっき飲んでいた奴は……甘い匂いがするから、お花の蜜かな?
「このおくすり、のめるようにしたらみんなよろこぶ? よろこぶ?」
羽根を補修した妖精ちゃん、そんなことを聞いてきた。
まあ、飲めるようになったら喜ぶだろうね。効き目は確かだから。
ユキちゃんが、体を張って証明してくれたわけで。
「他にも風邪を引いた子供がいるから、飲めるようになればみんな喜ぶと思うよ」
ほかのお子さんも、抵抗勢力になっているみたいだからね。
親御さんも困っているだろう。
そして、親御さんたちも味は知っているだろうから、無理強いもできないと思う。
ほんと、どうしたら――。
「それなら、あじをマシにするね! するね!」
「これつかっていい? いい?」
「まかせて! まかせて!」
――おや? 妖精さん達がガガギギ薬を手に取って……なんかの容器を取り出した。
何をするの?
「おくすりこねこね~」
「あじをマシに、こねなおしましょ~」
「おいしくな~れっ!」
そして羽根がキラキラと輝き始め、お団子をこねるようにガガギギ薬をこねはじめた。
一人の妖精さんは薬をこね、もう一人はなんかの液体をかけている。
もう一人は、しきりに「おいしくな~れ」と念を込めているけど……。
「――はい! できました! できました!」
「これでなんとか、なったでしょ~」
「たしょう、おいしくはなったよ! なったよ! ……そのはず~」
果たして、こねられた薬は……正露の丸いやつから……ポップなピンクに変わっていた。
妖精さんが手でぐにぐにさせているから、グミみたいになっている。
「くだもののあじっぽくなったはずだよ! はずだよ!」
「どうぞ! どうぞ!」
「おくすり、のみましょ~」
「んむ?」
そして羽根を補修した妖精ちゃんが、ハナちゃんに元ガガギギ薬を差し出す。
「んむ? んむむむ?」
「のんで! のんで!」
「あじはもう、そこそこだいじょうぶ~」
「どうぞ! どうぞ!」
「むむ~……」
妖精さんたちにお勧めされまくり、キラキラした目で見つめられ。
ハナちゃん追い詰められていく……。
せっかく目の前で作ってもらった物なので、断り切れない。
「あ、あや~……」
そしてついに、元ガガギギ薬を受け取ってしまった。
――投了。
「……あえ~、あえ~」
「どうぞ! どうぞ!」
「それをのんで、げんきになってね! なってね!」
「おすすめ~」
妖精さんたちの無邪気さに、ハナちゃんもう後戻りできない。
そう――飲むしかないのである。
「あ、あえ~……の、のむです……」
「どうぞ! どうぞ!」
「ぐいっとね! ぐいっと!」
「ましなやつ~」
きゃいきゃいとハナちゃんを煽る妖精さんたちだ。
そしてついに――。
「――いくです!」
――ハナちゃんが、元ガガギギ薬を飲んだ!
飲んでしまった!
「……あえ? だいぶマシです? ミカンのあじっぽくなったです?」
「だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
「だいじょぶです~! これならのめるです~!」
「よかったよ! よかったよ!」
「きゃい~きゃい~」
……どうやら、味はだいぶマシになったようだ。
ハナちゃんが大丈夫と答えたので、妖精さんたちもきゃいきゃいと嬉しそうだ。
「あ、ほんとだ。くすりっぽいミカンのあじになってる……」
「これなら、まあのめなくもないわね」
「わ、私の時にこれがあれば……」
ヤナさんとカナさんも味見してみたようだけど、ずいぶんマシらしい。
ユキちゃんなんて、ガックリしているよ……。
まあそうだよね、もうちょっと待てば、ガガギギ薬の洗礼を受けずにすんだわけで。
タイミングが、ちょっと悪かったね。
……というか、こねている間の妖精さんたちは、羽根がキラッキラに光っていた。
あれはヒヒイロカネを作るときと同じくらいの、キラッキラだ。
このガガギギ薬の味を何とかするために、そこまで力を使わないといけない、という感じがするわけで。
……ガガギギ薬の味、相当ヤバいようだね。
妖精さん達でも、三人がかりでそこまでしないとマシにならないという……。
……。
……ガガギギ薬の味は、気にしないことにしよう。
しかし、これがあれば――他の子供達も、お薬が飲めるぞ!
これは助かる! そして妖精さんたちすごい!
あのどうにもならなかったガガギギ味を、どうにかなるレベルにまでなんとかしてくれた!
お団子職人として味を追求していたのは、伊達じゃなかったんだ!
「君たち凄いね! さすがお団子職人だね!」
「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」
「おだんごならまかせて! まかせて! もっとこねちゃうよ! こねちゃうよ!」
「きゃい~!」
妖精さんたちを褒めたら、きゃいっきゃいになって喜んだ。
もっとこねると言ってくれているので、よその子の分もお願いしよう。
「お礼はするから、もっとこねて欲しいんだけど、出来るかな?」
「だいじょうぶだよ! もんだいないよ!」
「おだんごこねるよ! こねちゃうよ!」
「あじをマシに、しましょう~」
どうやら引き受けてくれるようなので、お願いしよう。
これで、子供たちの風邪何とかしよう計画は、なんとかなるかもだ。
それじゃあ、ヤナさんにガガギギ薬をもっと作ってもらいましょう!
そして、妖精さんたちに――こねなおしてもらいましょう!