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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第七話 んむむ~


「はいハナちゃん、桃だよ」

「いただきますです~」


 風邪を引いたら桃缶らしいので、ハナちゃんに桃を食べてもらう。

 もぎゅもぎゅと食べているので、食欲はあるね。

 しかし……。


「あや~、あじがあんましないです~」

「鼻が詰まっていると、味がわからなくなるんだって聞いたことあるよ」

「ざんねんです~」


 大好きな桃を食べているけど、味があんまり分からないらしい。

 俺はこうなったことが無いので、聞いた話しかわからない。

 子供のころ風邪っぽいな、と思って薬を飲んだり病院に行ったりしたこともある。

 だけど、全部気のせいだったり。空気が乾燥していて、喉が痛くなっただけとか。


 こんな感じで病気らしい病気はしたことが無いので、それがどんな辛さなのか分からないわけで。

 ようするに、俺は病気の人の気持ちを――分かってあげることが、出来ない。

 こういう時はこうして欲しいってのも、本当の意味では分かってはいないのだ。


 だから、細かい気配りや察することもあまり出来ない。

 この辺は、すごくもどかしい。

 もうちょっと誰かを理解したいとは思うけど、どうにもならない。


 こういうのが、どんどんガテン系へと走らせる原因なのかとは思う。

 お袋やユキちゃんたちの、外部の目がどうしても必要になるわけだ。

 しかし、そのユキちゃんもダウンしているわけで……。


「付きっ切りで看病……またも怪我の功名。……フフフ」


 ……いや、なんか元気そうだ。

 なんというか、前向きな感じがするね。

 というか、ユキちゃん村でお泊まりするときは、着ぐるみパジャマを着るんだね……。

 腕グキさんちに置いてあるらしいけど、なかなかの出来栄え。

 そしておそらく、これはミッションだ。褒めておくべしだ。


「ユキちゃん、そのパジャマかわいい感じだね。良い生地つかってる」

「かわいい……ふっふっふ」

「どうぶつさんです~」


 白キツネちゃんの着ぐるみパジャマが、よりいっそう年齢を低く見せて――おっと、これ以上いけない。

 考えたらいけない。顔に出る。

 ……俺はけして祟りが怖いわけじゃないんだ。そうなんだよ。そうにちがいない。


「ハナ、あたまひやすわね」

「あい~」


 カナさんはカナさんで、てきぱきとハナちゃんの看病をしている。

 濡れ布巾を小まめに変えて、熱さましだ。

 このまま、様子を見ながらカナさんと看病を続けよう。


 そうしてしばらく看病をしていく。

 お昼を回ったところで、お見舞客が来た。


「ハナちゃん、風邪ひいたんだって? お見舞い持ってきたぞ」

「この時期は、どうしてもねえ」

「あにゃ~」


 爺ちゃん婆ちゃんとシャムちゃんが、果物盛り合わせをもって来てくれた。売り物のやつだね。

 イチゴにブドウにリンゴに、ミカンにキウイにメロンに……。

 あれ? バナナが無いな。こういうのには、だいたい入っているのに。


「爺ちゃん、バナナが無いけど」

「最初から入ってなかったな。この時期、寒さで痛むからじゃないか?」

「ああ、なるほど」


 バナナは冬の寒さが大敵で、ちょっと油断すると凍傷にかかって痛むんだよね。

 寒い部屋に置いておくと、痛みやすい。とくにこの辺の、寒さが厳しい地域ならなおのこと。

 夜寝る前に暖房を切ると、朝カチコチになってたりもする。これでもう痛んでしまう。


 そういうのもあって、贈り物として使う盛り合わせに入れてないんだろうな。

 これはこれで、業者側の気遣いってやつなんだろう。


「タイシ~、『まなな』ってなんです?」

「まなな? バナナのこと?」


 冬のバナナ保管について、その難しさについて考えていると。

 ハナちゃんが興味深そうに聞いてきた。

 バナナという語感が面白かったのか、聞いたことのない名前に興味を持ったのか。

 お見舞いのイチゴを早速かじりながら、こてっと首をかしげている。


「あい、まななです?」

「いや、バナナだよ。ヴァナーナ」

「まなーな? です~?」


 しかしハナちゃん鼻づまりなので、バナナが「まなな」になってる感じ?

 そうしてしばらくの間、ハナちゃんとまなまな言っていると。


「お~い、ハナちゃんだいじょうぶ?」

「かぜひいたとか、ふるえる」

「ゆっくりやすむのよ~」


 続々とお見舞客がやって来た。

 みなさんお見舞いの品を持って来てくれるので、食べ物沢山だね。

 おやつ食べ放題だよ。


「あや~、おやつたくさんですけど、あじがしないです~」


 そしてハナちゃんは、もらったお見舞いをもぐもぐだ。

 ……食欲はすごいあるみたいだね。

 これなら、すぐに治るかもだ。


 とまあその後もひっきりなしにお見舞い客が訪れ、お見舞い品を置いて。

 ハナちゃんとユキちゃんの様子をうかがい、お大事にと帰って行った。


 やがて、夕方前にさしかかろうかという頃――。


「ハナ、おくすりを作ったよ。これを飲むんだよ」

「――うきゅっ!」


 ヤナさんがお薬をこさえて持ってきた。

 ……黒い玉で、正露○みたいなやつだ。

 それを見たハナちゃん、うきゅっとビクビク状態に。


「あや~、にがいおくすり、きたです~……」

「おくすりがにがいのは、しょうがないからね。ささ、お飲みなさい」

「んむむむ~」

「あ、こら。口をあけなさい」

「んむ~!」


 ヤナさんがお薬をハナちゃんに飲ませようとするけど、ハナちゃん抵抗する。

 ハナちゃんがこれほど抵抗するとは……かなりヤバい味のようだ。


「……ヤナさん、これってどんな味がするんですか?」

「あ~なんというか、『ガガギギ!』って味です」

「……さようで」


 擬音がヤバい。「ガガギギ!」って……。

 ハナちゃんが抵抗するといい、その擬音といい。

 良薬口に苦し、どころの騒ぎではないようだ。


「んむ~」

「ほら、おくすりを飲まないと」

「んむむ~!」


 ハナちゃんとヤナさんの攻防が続く。

 俺も出来ることなら、ハナちゃんにお薬を飲んでほしいとは思う。けど、これほどまで抵抗しているのを見ると、アレな感じが。

 どっちに味方をすればいいか、なかなか悩ましい所である。


 ハナちゃんは今、お口に両手を当てて防御している。んむむむハナちゃん状態。

 そしてヤナさんは、ガガギギ薬をなんとかして飲ませようと奮闘。


 ……どうしよう。

 あれだ、ちょっと味をみせてもらおう。

 それでどっちに味方をするか、決めよう。


「ヤナさん、そのお薬ですけど……ちょっと味をみせてもらってよろしいですか?」

「え? あじみですか? ……ど、どうぞ」


 味見は良いみたいなんだけど、どうしてヤナさん引き気味なの?

 ……嫌な予感がするけど、もう後には引けないぞ……。


「タイシ~、それきけんです~」

「あ、口があいた」


 ハナちゃんが警告してくれたけど、すかさずヤナさんお薬を飲まそうとする。


「んむ~!」


 ――そしてハナちゃん素早くブロック!

 鉄壁である。


 ……まあそんな攻防は置いておいて、味見しよう。ちょっとひとつぶだけ。

 では! 味見!


 ――――ぐあああああああ!



 ◇



「……流石に、これはアレですよ」

「んむ~」

「そうですかね。良くきくのですけど……」


 ほんとに、「ガガギギ!」って味だった。

 これを子供に飲ませるのは、かなり気が引ける。トラウマになるよ。

 ということで、ハナちゃんの味方をすることに。


「ゲホゲホ……大志さん、それってそんなにアレですか?」


 隣で休んでいたユキちゃんも、こわごわとガガギギ薬を覗き込んできた。


「あ、ユキさんも飲みます? ききますよ?」

「え? あ、あのその……」

「んむむ~!」


 すかさずヤナさんがお勧めしたけど、ユキちゃんも出来れば遠慮したいみたいだ。

 ハナちゃんも首を横に振って、止めている。


 ……味見をした感じ、味が「ガガギギ!」ってなる以外は、体に良さそうなんだけどね。

 なんというか「これは効くな」というのは感覚で分かった。

 でも、味がね……。胃の中でも「ガガギギ!」ってなってるのがわかるくらい、強烈なわけで。


 飲んでほしいとは思うけど、飲ませたいとは思えない。

 なんとも、扱いの難しい薬だ……。

 これ、どうしたら良いかな。


「ヤナ、くすりをくばってきたけど……ほかのこどもたちも、みんなていこうしてるわ」

「ふが」

「なきだすこどもも、でるしまつだ」


 お薬の味ヤバい事件をどうするか悩んでいると、カナさんとひいおばあちゃん、あとおじいちゃんが部屋に入ってきた。

 どうやら、他の風邪ひきお子さんたちも、抵抗勢力となっているようだ。


「すっごく、良くきくのになあ……」


 ヤナさん残念そうだ。

 しかしこれ、体の病を治してくれるだろうけど……心の病を引き起こしそうな味でしてね。

 それさえ何とかなれば。


 ……ちたまには、苦いお薬をなんとか飲めるようにする工夫は、いくつかある。

 それを試してみようか。



 ◇



 ちょっと車を出して、薬局まで。

 オブラートや、とろみ剤とかを買ってみる。

 ついでに栄養ドリンクとかゼリー状食品とか色々買って、村へととんぼ帰りだ。


 すぐさまハナちゃんの家に戻って、検証をする。


「こっちでもお薬を飲むのに苦労している人が沢山いますので、こういうものがあります」

「これに包むと、粉のお薬は飲みやすくなりますね。こっちも、とろみで包んで飲みやすくします」

「んむ?」

「なるほど、それなら味がアレでも、なんとかなりそうですね」


 風邪ひきユキちゃんが、製品を細かく説明してくれた。

 ……こんな時まで働こうとするとは。

 無理しないで、寝ていてほしい。


「んむ~?」


 しかしハナちゃん、半信半疑のお顔だ。いまだに防御を崩さない。


「では、私が試してみますね」

「んむ~、んむ~」


 ユキちゃんが実演してみせるようで、オブラートにガガギギ薬を包んだ。

 それを見たハナちゃん、首を横に振って止めようとしている。

 そうしている間に、ユキちゃんが薬を口に入れて――。


「――んぐっ!」


 ぱたりと倒れた。


「だめみたいですね」

「んむ~」

「……」


 そしてユキちゃん動かなくなった。沈黙する、白キツネの着ぐるみパジャマさんだ。

 ヤナさんがしょんぼり顔でユキちゃんを見て、ハナちゃんは「だから止めたのに……」的な顔。


 ――――。


 これは、そう。我々ちたま人の、科学信仰が起こした事件なのだ。

 ――我々ちたま人は、ちたまの文明を信頼しすぎたのだ。

 ちたま文明でも、なんともならない物体、そういうものが、あったのだ。

 結果、こんな悲劇が起きてしまった……。


 ――と雰囲気たっぷりにモノローグしている場合ではなくて、ユキちゃんの様子を確認しよう。


「ユキちゃん大丈夫?」

「……これは、非常に、お勧めできません……」

「んむ」


 ユキちゃんの肩を支えて起こしてあげると、青い顔をして答えてくれた。

 しかし、ユキちゃんが体を張ってくれたおかげで、オブラートではダメなことが分かった。

 次は俺の番だな。

 というか、こういうの大体俺の役割だった。何食べても俺は大丈夫だからね。

 それでは、俺はとろみ剤のほうを実験だ。


「では次に、私がこのとろみのやつで試してみます」

「んむ~」


 ハナちゃんが、心配そうな顔で俺を見つめる。

 まあ大丈夫だよ。さっき直でかじったときよりは、マシだと思うから。

 では、実験!


 ――――うぎゃあああああ!



 ◇



 ……ちたま文明、二連敗でござる。

 なんというかですね、突き抜けてくるんですよ。ガガギギ味が。

 一瞬で浸透して来るというか、浸蝕してくるというか。

 破壊力はかなり高い。


「……あ、なんだか体調が良くなった気が」


 しかしユキちゃんが復活したっぽい。

 なんだか、すっきりした顔をしている。


「ユキちゃん、念のため、熱を測ってみて良いかな?」

「はいはいどうぞ! どうぞどうぞ!」


 体温計を取り出すと、またおでこを出してきた。

 いやあの、この耳式体温計のほうが正確なんだけど……。


 ――――。


「フフフ……予行演習、フフフ……」


 ご要望通り測ってみたけど、言った通り熱は引いていた。

 顔色も良くなっているね。確かにこの薬、かなり効くようだ。

 そして効くことがわかってしまった以上、飲んでほしいとは思うのだけど……。


「んむむ」

「ハナ、あきらめてぐいっと飲もうよ。ほらぐいっと!」

「んむ~!」


 ハナちゃん鉄壁の防御!

 ……気持ちは分かる。というか、あの味はトラウマになるね。

 ハナちゃんもあの味は知っているのだから、見事にトラウマになってるわけだ。

 でも良く効くお薬だけに、非常にもったいないとは思う。

 なんとか、ならないかな……。


「味さえどうにかできたら、最高のお薬になりそうですけど……」

「私もがんばってみましたが、このへんがげんかいでして」


 ヤナさんもその辺は自覚があるようで、これでもなんとかした結果らしいぞ……。


「むかしは、もっとすごかったんです。『ガギーン!』みたいなあじで」

「んむむ!」


 カナさんが言うには、改良前はもっとヤバい味だったそうで……。

 ハナちゃんも、うんうんと頷いて同意している。

 どうやら、その「ガギーン!」バージョンも飲んだことがあるらしい。

 そりゃ、トラウマにもなるよね……。


 しかしほんとこれ、どうしよう……。


「どうしますかね」

「んむ~」

「今のところ、これがげんかいなんですよね……」


 お薬を前にして、しばらくみんなで悩むのであった。


 ――それからしばらくして。


「おみまいにきたよ! きたよ!」

「おだんごたくさん! たべて! たべて!」

「おだんごたべて、げんきだして!」

 

 みんなでガガギギ薬を見つめて悩んでいると、妖精さんたちがきゃいきゃいとお見舞いにやって来た。

 一気に家がにぎやかになったね。


「ぐあいはどうかな! どうかな!」

「んむ~」

「どしたの? どしたの?」

「んむむ~」


 羽根を補修した妖精ちゃんに問いかけられたけど、ハナちゃん防御中なので「んむむ」としか言えない。

 それほどまでに、あの薬がトラウマなのである。

 俺が代わりに説明しておこう。


「ハナちゃんの体調は、良くはないけど凄く悪いわけでもないかな?」

「かぜひくとたいへん! たいへん!」

「おくすりのまないの? のまないの?」


 あ、妖精さん、ガガギギ薬に気づいた。

 まあ、いかにも「お薬だよ!」というオーラは出ているからね。すぐにわかるか。

 この辺も説明しておこう。


「良く効くお薬なんだけど、味が凄まじくて」

「んむ!」

「どんなあじ? どんなあじ?」

「ためしてみましょ~」


 ああ! 羽根を補修した妖精ちゃん、ガガギギ薬をかじった!


「――……」


 そしてぱたりこ、と倒れる。


 …………。


 ――大変だー!


「んむむ~!」

「これはやばいよ! やばいよ!」

「だいじょうぶ!? だいじょうぶ!?」

「……」


 ハナちゃんや妖精さんたち、大騒ぎだ!

 いやはや、この薬……ほんと味だけはヤバいな!

 というか、羽根を補修した妖精ちゃん、大丈夫か?


「君、大丈夫?」


 羽根を補修した妖精ちゃんを両手の平の上に乗せて、容態を確認する。

 ペットボトル一本分の重さの妖精さんだけど、ぐったりしているからやや重めに感じるね。

 さて、状態は……息はしているね。


「……このおくすり、あじがヤバい~……」


 あ、目を覚ました。無事なようだね。

 良かった良かった。


「くちなおし~……」


 そしてすぐさま、木の実をくりぬいて作ったとおぼしきなんかの容器を取り出し、んぐんぐと飲み始めた。

 それ、どこにしまってたの?


「とまあこういうわけで、このお薬をなんとかして飲めないかと困っていたんだ」

「これはきょうれつ~……」

「こまったね! たいへんだね!」

「にがそう~」


 羽根を補修した妖精ちゃん、落ち着いたみたいだ。

 さっき飲んでいた奴は……甘い匂いがするから、お花の蜜かな?


「このおくすり、のめるようにしたらみんなよろこぶ? よろこぶ?」


 羽根を補修した妖精ちゃん、そんなことを聞いてきた。

 まあ、飲めるようになったら喜ぶだろうね。効き目は確かだから。

 ユキちゃんが、体を張って証明してくれたわけで。


「他にも風邪を引いた子供がいるから、飲めるようになればみんな喜ぶと思うよ」


 ほかのお子さんも、抵抗勢力になっているみたいだからね。

 親御さんも困っているだろう。

 そして、親御さんたちも味は知っているだろうから、無理強いもできないと思う。

 ほんと、どうしたら――。


「それなら、あじをマシにするね! するね!」

「これつかっていい? いい?」

「まかせて! まかせて!」


 ――おや? 妖精さん達がガガギギ薬を手に取って……なんかの容器を取り出した。

 何をするの?


「おくすりこねこね~」

「あじをマシに、こねなおしましょ~」

「おいしくな~れっ!」


 そして羽根がキラキラと輝き始め、お団子をこねるようにガガギギ薬をこねはじめた。

 一人の妖精さんは薬をこね、もう一人はなんかの液体をかけている。

 もう一人は、しきりに「おいしくな~れ」と念を込めているけど……。


「――はい! できました! できました!」

「これでなんとか、なったでしょ~」

「たしょう、おいしくはなったよ! なったよ! ……そのはず~」


 果たして、こねられた薬は……正露の丸いやつから……ポップなピンクに変わっていた。

 妖精さんが手でぐにぐにさせているから、グミみたいになっている。


「くだもののあじっぽくなったはずだよ! はずだよ!」

「どうぞ! どうぞ!」

「おくすり、のみましょ~」

「んむ?」


 そして羽根を補修した妖精ちゃんが、ハナちゃんに元ガガギギ薬を差し出す。


「んむ? んむむむ?」

「のんで! のんで!」

「あじはもう、そこそこだいじょうぶ~」

「どうぞ! どうぞ!」

「むむ~……」


 妖精さんたちにお勧めされまくり、キラキラした目で見つめられ。

 ハナちゃん追い詰められていく……。

 せっかく目の前で作ってもらった物なので、断り切れない。


「あ、あや~……」


 そしてついに、元ガガギギ薬を受け取ってしまった。

 ――投了。


「……あえ~、あえ~」

「どうぞ! どうぞ!」

「それをのんで、げんきになってね! なってね!」

「おすすめ~」


 妖精さんたちの無邪気さに、ハナちゃんもう後戻りできない。

 そう――飲むしかないのである。


「あ、あえ~……の、のむです……」

「どうぞ! どうぞ!」

「ぐいっとね! ぐいっと!」

「ましなやつ~」


 きゃいきゃいとハナちゃんを煽る妖精さんたちだ。

 そしてついに――。


「――いくです!」


 ――ハナちゃんが、元ガガギギ薬を飲んだ!

 飲んでしまった!


「……あえ? だいぶマシです? ミカンのあじっぽくなったです?」

「だいじょうぶ? だいじょうぶ?」

「だいじょぶです~! これならのめるです~!」

「よかったよ! よかったよ!」

「きゃい~きゃい~」


 ……どうやら、味はだいぶマシになったようだ。

 ハナちゃんが大丈夫と答えたので、妖精さんたちもきゃいきゃいと嬉しそうだ。


「あ、ほんとだ。くすりっぽいミカンのあじになってる……」

「これなら、まあのめなくもないわね」

「わ、私の時にこれがあれば……」


 ヤナさんとカナさんも味見してみたようだけど、ずいぶんマシらしい。

 ユキちゃんなんて、ガックリしているよ……。

 まあそうだよね、もうちょっと待てば、ガガギギ薬の洗礼を受けずにすんだわけで。

 タイミングが、ちょっと悪かったね。


 ……というか、こねている間の妖精さんたちは、羽根がキラッキラに光っていた。

 あれはヒヒイロカネを作るときと同じくらいの、キラッキラだ。

 このガガギギ薬の味を何とかするために、そこまで力を使わないといけない、という感じがするわけで。


 ……ガガギギ薬の味、相当ヤバいようだね。

 妖精さん達でも、三人がかりでそこまでしないとマシにならないという……。


 ……。


 ……ガガギギ薬の味は、気にしないことにしよう。

 しかし、これがあれば――他の子供達も、お薬が飲めるぞ!


 これは助かる! そして妖精さんたちすごい!

 あのどうにもならなかったガガギギ味を、どうにかなるレベルにまでなんとかしてくれた!

 お団子職人として味を追求していたのは、伊達じゃなかったんだ!


「君たち凄いね! さすがお団子職人だね!」

「ほめられちゃった! ほめられちゃった!」

「おだんごならまかせて! まかせて! もっとこねちゃうよ! こねちゃうよ!」

「きゃい~!」


 妖精さんたちを褒めたら、きゃいっきゃいになって喜んだ。

 もっとこねると言ってくれているので、よその子の分もお願いしよう。


「お礼はするから、もっとこねて欲しいんだけど、出来るかな?」

「だいじょうぶだよ! もんだいないよ!」

「おだんごこねるよ! こねちゃうよ!」

「あじをマシに、しましょう~」


 どうやら引き受けてくれるようなので、お願いしよう。

 これで、子供たちの風邪何とかしよう計画は、なんとかなるかもだ。

 それじゃあ、ヤナさんにガガギギ薬をもっと作ってもらいましょう!


 そして、妖精さんたちに――こねなおしてもらいましょう!


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