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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第六話 ぴち?


 またまた大雪。

 なんか今年は、雪が多いなあという印象だ。

 そして今日は冬将軍がやってきていて、とんでもなく寒い。

 市街地でもマイナス十℃という、息も凍る寒さだ。


 村の事が凄い気になるのだけど、こんな日に限って外せない用事がある。

 というか、こんな日だからこそ、外せない用事だ。


「スノーモービルを貸して頂けるとは、まことに助かります」

「いえいえ。おそらく今夜は相当積もりますので、活用下さい。あと、スノーモビル(・・・)らしいですよ。呼び方」

「ええ! モービルじゃないのですか!?」


 役場の人が、モービルじゃないという事に凄い驚いている。

 ふっふっふ。そうなのです、モビルなのですよ。

 とまあ小ネタはおいといて。


 今回とある町の役場から、スノーモビルの貸出要請が来ちゃったわけだ。

 数日前から大雪の予報は出ていたので、緊急時用の対策のためだそうな。


「大志、私物をかりちまってすまねえな」

「こういうのは、お互い様ってやつですよ。お仕事頑張ってください」

「ああ、まかせとけ」


 もう一人のおじさんが話しかけてきた。このおじさんはお袋の親戚で、役場の人である。

 役場の方でも、冬の一時期にしか使わないスノーモビルをわざわざ買うのは難しいそうで。

 今回丁度良くうちが保有していたので、おじさんの計らいもあって貸し出すことになった。

 レジャー用途で買ったやつだけど、思わぬところで役立つかもだ。


 ……これが緊急時に役立つ機会は、来ないほうが良いのだけれど。

 それはすなわち、誰かが困っているという事だからね。

 何事も起きずに、済んでほしい。心からそう思う。


「まあ、使わないに越したことは無いですね」

「こういうのがあるってだけでも、市民のみな様は安心できるんだ。ありがたく使わせてもらうよ」


 そういって、おじさんはがははと笑う。

 本当に、お仕事頑張って下さいだ。


「それじゃあまた今度、美咲さん経由でお礼するな!」

「ええ。楽しみにしています」


 そうして、スノーモビルちゃん二台はドナドナされていった。

 まあ、来週には返って来るけど。


 こんな感じで、どこも大雪対策で大わらわなのであった。

 豪雪対策をしている雪国だって、限界はあるからね。

 俺としては隠し村の住人たちの事も心配だけど、みんな大丈夫かな?

 まあ、これでお仕事は終わった。早い所村に行こう。



 ◇



 村に到着すると、すぐさま豪雪対策に消防団を招集する。


「こんなわけで、今日はすっごく雪が降ります。念のため、待機および巡回をしましょう」

「「「おー!」」」


 村の若い衆と気合を入れて、豪雪に備える。


「おにぎり、さしいれよ~」

「おみそしるも、あるからね」

「ハナもおてつだいしたです~」

「たくさんにぎりました」

「がんばったの」


 集会場で待機中は、お料理自慢のみなさんが差し入れもしてくれた。

 ……この巨大なおにぎり、ハナちゃん作で間違いないな。


「それでは、ありがたく頂きます」

「ハナもたべるです~」

「おにぎり、おいしいな~」


 すぐさまおにぎり祭りが始まり、たらふくごちそうになる。

 こういう差し入れ、ありがたいね。


「あ、なんかすごいふってきました」

「これからが本番ですね。特に喫緊(きっきん)の用事がない方は、自宅で過ごして下さい」

「ハナも、おうちですごすです~」

「ヤナ、がんばってね」


 午後を過ぎると、雪が本降りになってきた。

 出歩いているみなさんは自宅待機をお願いして、俺たち消防団は集会場で待機だ。


「ああそうそう。ハナちゃん、この無線を持って行ってね」

「わかったです~」


 何かあったときはハナちゃんちも駆け込み寺になるので、無線も渡しておく。


「ふがふが」

「あえ? おしごとまだあるです?」


 しかし、引き上げる際にハナちゃんのひいおばあちゃんが、何か話しかけてきた。

 どうやら、お仕事がまだあるらしい。


「どんなお仕事ですか?」

「ふがふが、ふが~」

「たまにクモさんがきて、キャラメルおねだりするらしいです~」

「ふが」

「クモさんがきたら、これをあげてほしいっていってるです~」


 そしてひいおばあちゃんが、一箱のキャラメルを渡してきた。

 ……クモさんって言ったら、あの青色クモさんだよね。


 あのクモさん、確かキャラメル大好きだったよね。

 いつのまにか、駄菓子屋に来てキャラメルをおねだりするようになったんだ。

 大事なお仕事の気がするから、ちゃんと引き継いでおこう。


「わかりました。クモさんが来たら、これをあげますね」

「ふが~」

「タイシ、おねがいです~」


 そうして、ひいおばあちゃんから仕事を引き継いだ。


 ――それから一時間くらいして。


 ガラガラと、集会場の扉が開けられる。

 扉を開けたのは……なんか白いもこもこしたやつ。

 ……なんだろ、これ?


「……」


 その白いもこもこしたやつは、すさささっと駄菓子屋にやってきた。

 三つも、白いもこもこしたやつがやってきた。

 なにこれ?


「……!」


 首をかしげて見ていると、ふぁさっと白いのがめくれて――。

 クモさんの顔が出てきた。

 ほんと、なにこれ?


「――!」


 顔を出したクモさん、ぴこぴこっと前足を振って挨拶してくる。

 ……これ、防寒具かな?


 そういえば、雪が初めて降ったとき、クモさんはなにか編んでいた。

 これが、それなのかも。

 顔の部分はフードがついていて、ジャケットみたいに羽織れるような構造だ。

 このクモさん、わりと凝った服を作れるみたいだね。


「――? ――?」


 そしてクモさん、駄菓子屋を見回して何かを探している。

 ……たぶん、ひいおばあちゃんの姿を探しているんだろうな。

 これ、キャラメルをもらいに来たんだと思う。

 まずは、ひいおばあちゃんは今日お休みってことを伝えよう。


「今日はひいおばあちゃん、お休みなんだ」

「――!」

「――!!!!」

「……!」


 ガガーン! といった感じでショックを受けるクモさんたちだ。

 でも大丈夫。ちゃんと引き継いでいるからね。


「安心してね。ひいおばあちゃんから、これを渡してって頼まれているから。ほら、どうぞ」


 キャラメルの箱を開けて、包みをほどいて。

 クモさんたちに見せてあげる。


「!!!」

「~! ~!」

「……~」


 クモさんたち、大喜びになってキャラメルをひとつずつ、抱える。

 そして、口に持っていってぷるぷるだ。

 キャラメル大好きクモさんたち、念願のキャラメルをゲットだね。


「――」

「――!」

「……」


 しばらくキャラメルを堪能したクモさんたち、満足したのか手を振って駄菓子屋から出て行った。

 二個目のキャラメルをおみやげに、ご機嫌そうだった。

 あのクモさんたちも村になじんでいるようで、ほんわかしたひとときを過ごせたのだった。

 


 ◇ 



 クモさんたちにキャラメルをあげたあとは、特に何も起こらず。

 とても暇な待機任務と、相成った。

 台風の時と違って、そんなに張りつめてもいなければ緊急の出来事が起きまくるわけでもない。

 お茶を飲んで、じりじりと待機することになる。


「やることないから、にほんごのべんきょうでもするじゃん?」

「あ、おれもやろう」

「おれもおれも」


 暇すぎて、集会場では自己学習が始まる。これはこれで、有意義な時間の使い方だと思う。

 じっくり勉強してくださいだ。


「これって『め』だっけ?」

「それは……『ぬ』じゃないか」

「おれてきには『あ』かとおもうじゃん?」


 集会場に置いてある、日本語学習用の知育玩具でもって悩みながら勉強していくみなさんだ。

 ……やっぱり、ヤナさんとハナちゃんが特別なだけで、普通はこれくらい悩むよね。

 勉強中のみなさん、マグネット式の玩具をつかって、ぺたぺたとひらがなマグネットを並べている。


「このくっつくやつ、おもしろいよな~」

「つくやつと、つかないやつがあるじゃん?」

「ふしぎ~」


 あれ? なんかひらがなマグネットを、あちこちの物にくっつけ実験始めたぞ。

 ……まあ、金属を扱っていないエルフたちだ。磁石は珍しいんだろう。


「あ、なんかこれ、おれにくっつくじゃん?」

「え? マジ? ……マジだ」

「おまえ、やっぱおかしい」


 そしてなぜか、マイスターに磁石がくっつく。


 ――どんなびっくり人間だよ!


 とまあ……わりとのんびり、待機任務をこなす俺たちだった。



 ◇



 ――その日の夜。零時くらいのこと。


『タイシタイシ~、たいへんです~!』


 夜中に、ハナちゃんから無線が。

 これは――緊急連絡だ!


「ハナちゃん、何かあった!?」

「ハナ、どうした!」

『タイシ~、おとうさん~。なんか、ワサビちゃんがいえのそとにいるです?』


 慌てて無線に応答すると、どうやらワサビちゃんが畑から流出しているらしい。

 ……なんで?


「え? ワサビちゃんが? またどうして」

『わからないです~』


 ハナちゃんも良くわからないという事なので、とりあえずハナちゃんの所へ向かうことに。

 みんなで行くことも無いので、俺とヤナさんだけで家へと移動だ。

 するとそこには……。


「ぴっぴ~」

「ぴぴぴ」

「ぴ~」


 ハナちゃんちの窓の外、家の光が照らす場所で……何十体かのワサビちゃんが、キャッキャと雪遊びをしていた。

 かまくらとか作ってるよ……。なにこの植物、すごくない?


「ぴ~!」


 ……あ、かまくらが崩れた。救助しておこう。


「ほら君たち、かまくらはもっと頑丈に作らないと」

「ぴぴぴ」

「ぴっ」


 ワサビちゃんを救助すると、ペコペコとお礼をするような動作をした。

 なにこれ可愛い! あと腰のくびれが蠱惑的。


 とまあそれはそれとして。

 ……おかしいな、なんで畑から出てきたんだろう?


「タイシ~、おとうさん~、きたです?」


 外でワサビちゃんと戯れていると、ハナちゃんが玄関から出てきた。

 もこもこ厚着状態のもこもこハナちゃんだ。

 なんだかもう、準備万端だね。


「ハナちゃんの言うとおり、なんだか畑から出てきているね」

「あい~」

「ハナ、いつごろからこうなってるの?」

「ちょっとまえから、おうちのまわりにきたです~」

「ぴぴ~」


 ぽてぽて歩くハナちゃんの周りを、ワサビちゃんがてこてこ歩いている。

 ほんと、どうしちゃったんだろう?


 ……これは、ワサビちゃん畑に何かあったな。

 畑を確認する必要がある。


「ちょっと今から、ワサビちゃん畑を確認してみますね」

「あ、私もおともします」

「ハナもいくです~」


 ということで三人でぼちぼちと、冬の夜中にワサビちゃん畑の確認に向かう。

 積雪と月明かりのおかげで、夜でも不思議な明るさがある中を歩き、畑に到着。

 すると――街灯が点いていなかった。しかも全部。


 ……おかしいな、故障に備えて複数台設置してあるはずだ。

 それが全部ダメになるとは、一体何があったのか。寒さで壊れちゃったのかな?


「ぴぴ~……」

「ぴ……ぴ……」

「ぴ~……」

「ぴち……」


 ……畑からは、ワサビちゃんや芽ワサビちゃんたちの、悲しそうな歌が聞こえている。

 とってもとっても、悲しそうな歌が……。


 どれ、もっと近づいて見てみよう。


「ぴ~……」

「ぴち……」


 近づいて確認すると……明かりの点かない街灯を見上げて、呆然としているようだ。


「あや~、かなしそうなかんじです~」

「ぴ~……」

「畑のあかりが、ついていなかったんですね」

「ぴち」


 悲しみワサビちゃんを見たハナちゃん、お耳ぺたんこ。

 ヤナさんは、悲しみ芽ワサビちゃんをつんつんしている。


 しかし、どうして明かりが点いていないんだろう。

 調べてみないと。


「ちょっと調べてみます――」

「ぴ!」

「ぴっぴ!」

「ぴち~! ぴち~!」


 ――街灯を調べようとしたら、ワサビちゃんたちが周りに集まってきた!


「ぴ~……」

「ぴち……」


 ワサビちゃんたち、もうなんか……懇願するみたいな感じで俺を見上げている。

 うわあプレッシャーすごい!


「あや~、タイシかこまれたです~」

「あ、タイシさんの体を、登りはじめてますよ」

「ぴ」


 あああほんとだ! ワサビちゃん登ってきてる!

 まって! もうちょっと待ってて!

 ワサビちゃんフル装備状態になる前に、急いで確認しないと!


 慌てて街灯を確認してみると――ソーラーパネルに雪が積もっていた。

 ……なるほど、雪に光が遮られて充電ができず、電池切れになったんだ。

 昼間ずっと雪が降っていたのが、そのまま残ってしまったんだな。

 いくらエルフの森が暖かくても、溶けきる前に夜になったらどうしようもない。


「ぴちぴち」

「ぴっぴ」

「ぴ~」


 もうすでに肩まで登ってきたワサビちゃんたちも、パネルを覗き込む。

 ここで、彼らに悲しいお知らせを――伝えなければならない。


「……これでは、今日は明かり無しになるね」

「ぴ~!」

「ぴ……ぴ……」

「……ぴち」


 今日は明かり無しと伝えたら、ワサビちゃんたちがム○クの叫びみたいな顔をして、俺の肩からぽろぽろと落っこちて行った。


 ――どんだけショック受けてるの!?


「ぴぴ~……」

「ぴっぴ」

「ぴち」


 そしてどよんとした感じで、土に潜っていく。土の中から、また悲しい歌が……。

 夜は賑やかなはずのワサビちゃん畑が、今日は一転どんより畑になってしまった……。


「ものすごい、どんよりしてますね……」

「タイシ~、なんとかならないです?」


 あまりのどんより畑ぶりに、ヤナさんとハナちゃんもちょっと引いている。

 ハナちゃんのお願いどおり、何とかする必要はあるね。

 まあ、解決方法は超簡単だ。


「この懐中電灯は朝まで光りますので、これを釣るしておきましょう。こんな感じで」

「ぴち!」

「ぴぴぴぴぴ!」

「ぴっぴ~!」


 ――ワサビちゃんたち、土の中から飛び出してきた!


「あや! ワサビちゃんげんきになったです~!」

「またタイシさんのからだを、のぼりはじめましたね」


 あああ、ワサビちゃんたち、キャッキャと俺の体にしがみついて……また登ってきた!?

 ちょっとまって! まだ作業中だから! もうちょっとだけ待って!?

 というか、夜だからワサビちゃんたちすっごく活動的!



 ◇



 ――翌朝。


 昨日は、ワサビちゃん流出事件以外は特に何もなく。

 深夜過ぎてから、消防団の任務は終了となり、俺はハナちゃんちでお泊りさせてもらった。

 ハナちゃんはいっしょにおねむ出来るとあって、大はしゃぎでキャッキャ状態。

 ……まあ、お布団に入ったら速攻すぴぴ状態だったけど。

 ハナちゃん、寝つきの良さが凄いんだよな。


 そして昨日は夜遅くまで起きていたから、今はまだおねむの真っ最中だ。

 起こすのも忍びないので、ハナちゃんはおねむしていてもらうことに。


 というわけで、一人でワサビちゃん畑に向かう。昨日吊るした、LED懐中電灯の回収だね。

 寒いけど良く晴れた早朝、さわかかな空気を楽しみながら、畑へと到着。

 すると――。


「ぴち!」

「ぴちぴち」

「ぴち~」


 畑では……なんだか赤色芽ワサビちゃんと黄色芽ワサビちゃんが、ぴちぴちとはしゃいでいた。

 ……こんな時間なのに、地上に出ていて平気なのだろうか?


「ぴち? ぴち~!」

「ぴちぴち」


 ……どうやら平気なようで、元気に池に飛び込んだり、地上でぴちぴちしたりして遊んでいる。

 しかし、緑と青の芽ワサビちゃんは池の底に沈んだまま、ぷるぷるしている。


 ……赤と黄だけ、朝日の中でも平気……。

 これは、もしかして。


 ――カラーフィルター効果か?


 苦手な赤やそれに近い黄色の波長を、色素で吸収する。

 そうすれば、特定波長の光に対するダメージを減らせて、「ぎゃあああ!」ってなりにくくなる。

 つまりはそういうことではないだろうか?

 赤と黄の芽ワサビちゃんは、波長の長い光をカラーレジストしている、と。


「ぴっち~」

「ぴちぴち」


 赤い子はひときわ元気に活動しているところを見ると、それっぽいぞ。

 昼間に見たことは無いから、限界はあるとは思うけど。


「ぴち」


 あとは今のところ、発芽したのは……赤、青、黄、緑の四種類の色ワサビちゃんだ。

 これ――ワサビちゃんにも品種があるってことかと思う。

 実はワサビちゃん、品種が豊富なのかもだ。


 ……じゃあなんで、最初は緑ワサビちゃんしかいなかったんだ? という疑問が出てくるけど。

 エルフ世界の環境では、緑ワサビちゃんしか発芽できなかったとか?

 それなら、なぜ緑ワサビちゃんしか発芽できないか、という話にもなる。


「ぴちぴち」


 ……この謎の植物? まだまだ何か、あるっぽいな。

 今後とも、根気よく調べて行こう。


 それに、これら色違いワサビちゃんの味も気になる。

 いずれ大きく成長して、脱皮できるまでになったら――試食会しよう!

 そしてまた、子猫亭に丸投げしよう!


 また一つ、楽しみが出来たぞ。


「ちいさなワサビちゃんたち、すくすく育ってね」

「ぴち~」


 声をかけたら、なんだかぴちぴちと返事をした感じがする。

 ちっちゃな葉っぱが、ぴこぴこしているね。


「あと、美味しく育ってね」

「ぴ、ぴち~!」

「ぴち!」

「ぴちちちち!」


 ……あれ? 今度はぷるぷる震えはじめたぞ?

 どうしたんだろう?



 ◇



 ぴちぴち芽ワサビちゃんと戯れて、街灯のメンテナンスをしてからハナちゃんちにもどった。

 が、ハナちゃんが起きて来ていない。

 いつもなら、朝食の支度をキャッキャと手伝っている時間だ。

 ……どうしたんだろう?


「ヤナさん、ハナちゃんはどうしました?」

「それが……ハナはどうも、ちょうしが悪いみたいで」

「調子が悪い?」


 ……調子が悪い、つまり体調不良ってことだろうか。

 これは心配だ。確認しないと。


「ハナちゃんの所に行っても大丈夫ですか?」

「ええ、だいじょうぶですよ。そこのへやで寝ています。カナもつきそっていますよ」

「わかりました」


 急いでヤナさんが教えてくれた部屋に向かうと……。


「あや~、あたまいたいです~」

「ハナ、だいじょうぶ?」

「あんましです~」


 赤い顔をしたハナちゃんが、おふとんで寝かされていた。

 これは……カゼひいちゃったみたいだな。

 昨日のワサビちゃん流出騒ぎで、夜更かししたうえ寒い所で活動したのが原因、かも。

 ちょっと、無理させちゃったかもだ。反省しないと。


 まあ、いまはハナちゃんの症状を確認しよう。


「カナさん、ハナちゃんの様子はどうですか?」

「ええと……なんだか、ねつがあってのどもいたいみたいです」

「あい~……」


 ずずずと鼻をすするハナちゃん、気だるそうな感じだ。

 熱はどれくらいか、ちょっと見てみよう。


「ハナちゃん、ちょっと熱を見てみるね」

「あい~……」

「そこそこ熱い、感じだね」

「だるいです~」


 高熱ってわけじゃないね。ただ、子供だとちょっとした発熱でもかなり辛いと聞く。

 ……俺は病気を一切したことがないので、聞いた話だけど。


「タイシさん、どうしたらよろしいでしょうか」

「ひとまずは暖かくして、安静にしているのが良いですね。あとは、熱を冷ますために濡れ布巾をおでこに乗せたり」

「やってみます」


 濡れ布巾を用意するため、カナさんがたたたっと部屋から出て行った。

 俺は俺で、ユキちゃんに連絡しておこう。


「ハナちゃん、自分がついているから、ゆっくりおねむしててね」

「あい~……すぴぴ」


 もうおねむした。なんという寝つきの良さ。



 ◇



 しばらくハナちゃんの寝顔を見守って、ハナちゃん一家と一緒に看病していると。


「大志さん、ハナちゃんが風邪を引いたって聞いて飛んできまし――ふえっくし!」


 ユキちゃんが部屋に飛び込んできたけど……ユキちゃんマスク姿で盛大にくしゃみをした。

 おいおい、ユキちゃんも風邪ひいてる?


「……ユキちゃん、風邪っぽいけど大丈夫?」

「え、ええまあ。これ位なら平気です――ふえっくし!」

「明らかに平気じゃない……」


 これは、ユキちゃんも寝ていてもらわないと。

 はいはいおふとん敷きましょうねと。


 ……あ、そういえば。ユキちゃんどうやって村まで来たんだろう?


「ユキちゃん、村までの足はどうしたの?」

「領域手前まで、お父さんに車で送ってもらいました。『雪道でもレオーネなら平気だぜ!』とかはしゃいでましたよ」

「あれでここまで来れるのか……」


 最新型のSUVでもきついのに、旧車でよくぞそこまで……。

 面白いお父さんだな。


「そうそう、体温計とかマスクとか色々持ってきましたので、使ってくださ――ふえっくし!」

「あ、ありがとう。それとユキちゃんも体を休めてね」


 色々な看病の道具を用意してくれたようで、大変ありがたい。

 ただ、ユキちゃんはハナちゃんより症状が重い感じがする。無理はしないでほしい。

 ……どれくらい熱があるんだろうか?


「ユキちゃん、熱はどれくらいあるの?」

「測ってないので何とも……――あ! 確認してみます!? ほらおでこにおでこを当てて!?」

「いや、体温計持って来てくれたよね? 耳式の瞬時に測れるやつ」

「いえいえ! こういうのはおでこで測ると良いんですよ! そう、良いんです!」


 ……妙におでこ計測をプッシュしてくる。

 でも、体温計あるわけで。というか、なんかユキちゃん元気になったな……。


「はい! はいどうぞ!」


 前髪を手で押さえて、おでこを出して準備万端ですね……。

 では、ご要望に答えましょう。なんかそのほうが良いらしいし。


「じゃあ測るよ。じっとしててね」

「きたー!」


 きたーって。……まあ気にしないことにしよう。

 さてさて、熱はどれくらい……明らかにヤバい。熱い。


「フ、フフフフ……予行演習」

「予行演習って、何の?」

「あ、いえ。こちらの話です」

「さようで」


 なんかご機嫌になったユキちゃんだけど、体調は明らかによろしくない。

 あとで病院に行ってもらおう。

 ともあれ、持って来てくれた看病道具はありがたく使わせてもらう。


 まずは村人にマスクを配布だ。これはヤナさんにお願いしよう。

 アルコール消毒液もあるな。ユキちゃん気が利いている。

 では、さっそく行動に移そう!



 ◇



 マスクや消毒液配布の過程で、他にも体調不良の人が数名いる事が判明した。

 全員がお子さんで、症状は軽いけど軽い熱があったりのどや鼻が痛いらしい。

 ……なんで子供だけなんだろう?


「ヤナさん、風邪を引いたのが子供だけって、何か理由があるのですか?」

「ほらあれですよ、あのふしぎなお酒。おとなはそれを飲んでいるので、かぜをひかないっぽいです」

「……あれですか」

「ええ、あれです」


 どうやら、養命お酒効果で大人たちは体力がついているようだ。

 その結果、風邪をひかないと。


「こどもにお酒を飲ませるのはちょっと……なので、こうなったのかと」

「なるほど」


 大人は養命お酒で元気いっぱいだけど、子供はお酒を飲ませないからそうもいかない。

 ここのところの寒さで体力が落ちていて、とうとう風邪を引いた、という感じかな?

 さて、この風邪ひきお子さんたち、どうにかしないとだな。


「ハナちゃんを含めたお子さんたちをどうするか、ちょっと考えます」

「お願いします。私のほうでも、おくすりとか作りますので」


 ……お薬? ヤナさん、薬作れるの?


「ヤナさん、そのお薬とは一体……」

「森にある、やくそうとか木のみとかで、わりときくやつを作れますよ。これでなんとか、なるはずです」


 そういえば、森に木の実が実ったときに、ハナちゃんが説明してくれたな。

 すごい苦いお薬になるとかなんとか。

 ……ここはひとつ、エルフ医療に任せてみるか。


「では、お薬のほうお願いします。それでダメなら、こちらでも手は打ちますので」

「わかりました。いそいで作りますね」

「お願いします」


 エルフ医療でなんともならなかったら、それ系をなんとかするお医者さんにお願いするしかない。

 俺は面識がないから、親父に顔を繋いでもらわないといけないけど。

 ただ、すっごくお金かかるとか聞いたんだよなあ。

 無保険だと、お医者さんが頑張っても高くついちゃうって話しだけど。


「ひとまず、私はユキちゃんとハナちゃんを看病していますね」

「お願いします。私は村のみんなと、これからざいりょうあつめにむかいます」


 ということで、村人総出で「子供たちの風邪なんとかしましょう」計画が始まった。


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