第五話 お祝いです~! ……あえ?
アニメ騒ぎで色々あったけど、お祝いの準備もつつがなく進み。
とうとう、排水事業完了の日を迎える。
(これでおわるよ~)
「かみさま、あとちょっとです~!」
村人、観光客、俺んち、高橋さんやリザードマンたち。
みんな集まって、くるくる回る神輿を見守る。
最後にみんなで応援して、力を付けてもらうためだ。
(いくよ~!)
俺たちが見守る中、排水が始まる。
最初始めた時より、勢いはもうずいぶんと弱くなっていて。
灰化花もそんなに流れて来なくなって。
もうほんとに、終わりが見えている。
(もうちょっと~!)
「かみさま、がんばるです~!」
「がんばれ~!」
「神様ステキー!」
「神輿かっこいいー!」
(そ、それほどでも~)
応援したりちやほやしたりで、快調に水は流れて行き。
てれてれ神輿は、快調に排水を行っていく。
「おそなえものです~」
(ありがと~)
「おだんごもあるよ! おだんご!」
(ごちそうたくさん~!)
お供え物をしてごちそうを食べてもらって。
みんなで神様を応援して、排水事業が無事終わることを祈って。
ワーキャーと大騒ぎをした。
――そして二時間後。
洞窟から出てくる水が、ちょろちょろ、程度になった。
(――おわったよ~!)
「みんなー! おわったみたいです~!」
「「「わー!」」」
神様の排水事業が、とうとう完了したのだ。
これで、妖精さんたちが元いた花畑の洪水は――消えた。
神様の大仕事が、達成されたのだ!
「かみさま、おめでとう! おめでとう!」
「ありがとうだよ! ありがとう!」
「こうずい、なんとかなった~。かみさまありがと! ありがと!」
(それほどでも~)
エルフたちも妖精さんたちも、みんな神様におめでとうの言葉やありがとうの言葉を贈る。
みんなに褒められて、神輿はもうてれってれ。もじもじ神輿だね。
力もみなぎっているようで、ミラーボール状態で光ってる。
神様、ありがとうございますだ。
そしてだ、ついにお仕事が完了したのなら――お祝いしましょう! 盛大に!
「みなさん! 神様のおかげで洪水は何とか出来たはずです! 神様のお仕事完了を、お祝いしましょう!」
「どきにこみ、たべるです~!」
「くんせいもありますよ!」
「まるやき、しあがってるぜ~」
(おそなえもの~!)
さっきの排水事業中にさんざん食べたけど、まだ食べます。
というか、これからが本番だね!
「神様、こちらにあるお料理全部――お供え物です!」
「たくさんつくったです~!」
(お……おお……ごちそうたくさん~!)
ずっと頑張ってきた神様に、なんかもうたくさんお供えしてみる。
お供え物をあるだけ持っていく神様だから、これ位あっても大丈夫だろう。
「では、神様どうぞお召し上がり下さい! お仕事お疲れ様でした!」
「おつかれさまでしたです~!」
(わーい!)
ぴっかぴか光ってお供え物が消えていく。
最初に出会った時は、鍋ひとつ持っていくのに苦労していた神様。
だけど、今はもう一升瓶でもなんでも、余裕で持って行ける。
力が回復したのか、強くなったのか。なんにせよ、良いことだと思う。
「……大志さん、テーブルが一つ消えましたよ」
「きえたですね~」
「そうだね、消えたね……」
……でもね、テーブルごと持っていくのは予想外でした。
そうです。油断してました。
ユキちゃんもハナちゃんも、もちろん俺もぽかーんだ。
…………。
さて、細かい事は気にしないことにして。
村の備品が一つ消えたけど、まあ気にせずに。
――俺たちも、お料理食べましょう!
「ではみなさん、私たちもお料理をお腹いっぱい食べましょう! いただきまーす!」
「「「いただきまーす!」」」
テーブルは消えたけど、まあ楽しく食事会が始まる。
「ひさびさのごちそう!」
「どうぶつちゃんたち、トウモロコシあるわよ!」
「ばう~!」
「あまいものもあるよ! あるよ!」
「ギニャ~」
思い思いにごちそうに手を出す人、自慢のお団子をお勧めする妖精さんたち、動物にトウモロコシを食べさせる平原のお姉さん。
みんな笑顔で、好きな食べ物に群がる。
「タイシタイシ~、ハナがつくったどきにこみ、たべてほしいです~」
「お、みんなの郷土料理だね。どれどれ……」
さっそくハナちゃんがエルフスープカレーを進めてくれたので、ありがたく頂く。
お! あまり香りが無かったエルフカレーに、なんだか香りがついている!
これは……あの激ウマ燻製の香りだ! それにスパイシーな香りも少々。
エルフスープカレー、なんだか改良されているぞ!
味の方は……やや薄味なカレースープは、香辛料の味わいと燻製、そして野菜の出汁が加わって深みを感じる味だ。
そこにほくほくのジャガイモみたいな蛍光木の実、慈姑のようにシャクシャクとするトゲトゲの枝。
ニンジンのような根っこに、あとはちたま産玉ねぎが入っているね。
これらさまざまな食感の野菜に加え、あのエルフ特製激ウマ燻製の肉の味がじゅわあっと広がる。
これらと一緒に、スープにひたひたにしたご飯を一緒に食べれば――ごちそうだ。
やや薄味なスープのおかげで、いくらでも食べられる美味しさ。
エルフ土器煮込み、ものすごい進化している!
「ハナちゃんこれは美味しいね! 前よりずっと美味しくなってる!」
「うふ~。ハナ、がんばっておいしくしたです~」
「お料理を改良するところまで、腕を上げたんだ。さすがハナちゃんだね!」
「うきゃ~」
「ハナちゃん良く頑張ったね。良いお嫁さんになれるよ」
「ぐふ~、ぐふふ~」
さて、無事ハナちゃんをぐにゃらせたところで。
お肉やらお酒やら、沢山食べて飲みましょう!
「大志、これ本当にエルフの人たちの郷土料理なの? お店で出てくるスープカレーじゃなくて?」
「俺も驚いたんだけど、これはエルフたちが最初にごちそうしてくれた、彼らの料理の進化版だよ」
「……なるほど。いろんなハーブを組み合わせて、この味を出すのは素直に凄いわ」
「ぐふふ~」
ハナちゃんがより一層ぐにゃったけど、確かにそうだ。
エルフ達は森にあるハーブを組み合わせて、エルフカレーをこさえている。
塩をあまり使えなかった環境もあって、ハーブを複雑に組み合わせて深みを出す技術が発達しているのかな、と思う。
ないなら無いで、あるものを活用するその姿勢は見習いたいね。
「ぐふふ~、タイシもっとたべるです~」
ぐふぐふハナちゃん、ぐにゃりつつもカレーをよそってくれる。
そりゃあもう大量に。
せっかくだから、あるだけ食べましょうかね!
「これおいしいね! おいしいね!」
「こういうのも、いいね! いいね!」
「ふしぎなあじ~」
「ぐふ~」
妖精さんたちにも、ハナちゃんカレーは好評のようだ。
きゃいきゃいと、ハナちゃんスープカレーを消費していく。
……そのちいさな体のどこに、見た目三人前もある量が入るの?
「このウィスキーとくんせい、めっちゃくちゃ合いますね」
「やべえほどうめえ」
「しょうぼうだん、やっててよかったなあ。かっこいいきかいも、いじれるし」
「おれのじまんのくんせい、じゃんじゃんたべてくれ」
後ろの方では、ヤナさんたちがもうお酒を飲んで出来上がっている。
めでたい席だから、お酒も進むね。
おっちゃんエルフも燻製を量産したようで、次から次へと出てくる。
「……ちゃんと、ひはとおってるじゃん?」
「だいじょうぶよ。ひはとおってるわ」
「そもそも、ひをとおさなかったのおまえだけだから」
その横では、三人組が燻製の上に乗っているなんかの葉っぱを、慎重に調べているけど……。
これって、あの花の香りがする葉っぱだっけ?
なんというか、シダ植物みたいなやつ。
「あそうそう大志、例の光る人影伝説だけど……あれ伝説じゃないわね」
俺も葉っぱ調べていると、おもむろにお袋がそんなことを言ってくる。
あれは伝説じゃない? なにそれ?
「伝説じゃないって、どういう事?」
「あれは創作でも昔話でもなく、『ここ数年であった出来事の目撃談』ぽいわ」
「……あえ?」
「またまた~」
「あ、信じてないわね」
お袋は目撃談とか言ってるけど、光る人影なんてねえ。
……神様ならありうるかもだけど、なんか違う気もするし。
そもそも、謎の声を聴くことの出来る人がそうそういないからね。
それに神様は……よほどのことが無い限り、直接声を届けられていない。
おそらくだけど、神様時空からこっちの時空に声を届けるのは、相当キツいんだと思う。
エルフたちが一生懸命儀式をして、ようやく一言二言。それが限界のようで。
であるならば、光る人影が気軽に話していた伝承とは矛盾する。
あとは、なんであの話を目撃談って判断できるのか。
「そもそも、なんで目撃談だってわかるの?」
「話をしていた人全員が、『私は見た』とか自分の体験談として語ったからよ」
「そんな理由?」
「そうよ。伝承とか言い伝えじゃ、普通ありえないの。若い人も見たって言っているから、最近の話よ」
「あややややや……」
「またまた~」
「あ、やっぱり信じてないわね」
さすがに、それは根拠が弱いなあって思う。
全員が「私は見た」って言っているのが根拠とは。
ハナちゃんは真に受けちゃったのか、ぷるぷる震えだしたけど……。
……ただまあ、お袋はガチの学者であって。
何か判定できる、統計学的計算はしているかも。
あんまり頭ごなしに、否定するのはやめておこうか。
「もしかしてお袋、だいたいわかってきてる?」
「まあね。正体とかは全然だけど、時期と場所は絞り込めてきたわよ」
そうなんだ。やっぱり……専門家は違うということか。
つかみどころのない怪談話かと思ったけど、何やら本当に秘密があるのかもね。
「おい、だいぶとくていされてんぞ」
「あんなはなしからそこまでくるとか、ふるえる」
「いや、そんなすごいはなしじゃ、ないじゃん……ないじゃん……」
キャッキャと解説しながらカレーを食べるお袋の後ろでは、また三人組がひそひそ話だ。
ものすごくぷるぷるしているけど、どうしたんだろう?
「おばけ、なんかほんとにいるっぽいです~!」
(おばけこわい~!)
「ばう?」
ああ! そんなことを話していたら、ハナちゃんと神様がボスオオカミのフクロに潜ってしまった!
二人とも、頭隠しておしり隠さず状態だ。
「ばうばう」
……そしてボスオオカミ、まんざらでもなさそうだ。というかわりと喜んでいる。
フクロになにか入れるのが、好きなのかな?
◇
お祝いも盛り上がって、神様とハナちゃんはフクロに引きこもって。
この二人に、どうやって出てきてもらおうかと考えていた時の事。
「大志さん、今日は凄く漬け込んだ野沢菜を持って来てみました。しかしこれ、酸っぱくないんです」
「え? これだけ漬け込んでも、酸っぱくならないの?」
「ええ。ひと手間かけてまして。秘伝の味ですよ」
「へえ~、そりゃ興味あるな」
ちょうど濃い味の料理を沢山食べたので、さっぱりした漬物が欲しかったところだ。
こういう所、若い娘さんは気が効いて良いね。
「それじゃありがたく頂きます」
「はい、どうぞ。……フフフ」
若干オーラが黒いけど、まあ気にせずひと口。
――おお! 確かに良く漬かっていてコクがあるのに、あまり酸っぱくない!
茎の部分は柔らかくなっており、若干昆布出汁の味がする。
なるほど、酸味を昆布出汁でまろやかにしているんだ。
「これは良いね。よく漬かった野沢菜の酸っぱさを、美味いこと抑えている」
「ええ、ここまで改良するのは、なかなか大変でした」
「さすがだね」
「フフフ」
妙に可愛いユキちゃん、自信たっぷりの表情だ。
まあ、言うだけのことはある。これは美味しい。
「あそうそうユキちゃん、ちょっと良いかしら」
「はい? 美咲さん、どうされました?」
「けなげなユキちゃんに、良いこと教えたげるから」
「――わあ! 楽しみです!」
妙に可愛いユキちゃんとキャッキャしていたら、お袋がユキちゃんを連れて行った。
良いことってなんだろう?
まあ、女同士色々話もあるのだろう。そっとしておくか。
しかしこの野沢菜漬けは、なかなか凄いなあ。
多分これ、普通に店で売れるよ。名物になるよ。それくらい美味しい。
(これ、ひかってておいしそう~)
「あえ? おいしそうです?」
そうして漬け物を食べてまったりしていると、神輿がフクロから顔をのぞかせる。
ハナちゃんも一緒に顔を出したので、二人してカンガルーの子供状態だ。
あと……謎の声は、光ってて美味しそうとか言ってる?
俺の目には、普通の野沢菜漬けにしか見えないけど。
……美味しい物は、なんかそういうオーラが見えるって事かな?
まあ、神様も食べたがる完成度ってことなんだろう。たしかにこれは、かなり美味しい。
じゃあ、お供えしちゃいましょうか!
「神様神様、こちらをお供えします。どうぞお召し上がり下さい」
(やたー!)
「ハナちゃんもどうぞ」
「ありがとうです~」
半分くらい取り分けて、ハナちゃんと神様にごちそうしちゃう。
(ありがと~)
掲げたお皿から、野沢菜漬けが光って消える。
どうぞ、ユキちゃんの自信作をご堪能下さいだね。
「あや! これおいし~です~!」
ハナちゃんも、もぐもぐとすぺさる野沢菜を食べる。
お口に合ったようで、にこにこ笑顔で食べているね。
(――……)
「あや~?」
……あれ? 神輿とハナちゃんの様子が、なんかおかしい。
じっとこっちを見つめているけど……。
(――すてき~!)
あああ! また神輿がべたべたしてきたぞ!
神様どうしたの!?
「タイシ~、なんかみょうにかわいいです~!」
えええ! ハナちゃんまで!
二人ともどうしたの!?
◇
(すてき~)
排水事業完了のお祝い会も終わって。
神輿がすごいべたべたして来て。今は頭の上でふにゃふにゃしている。
これはいつもの事なので、特に気にせずそのまま好き過ごしてもらって。
「タイシがみょうにかわいいです~」
……ハナちゃんがくっついてくるのも、いつものことだよね?
まあ、懐かれるのは悪い気はしないからね。
好きに過ごしてもらいましょうだ。
「……あれ? 二人ともどうしたんですか?」
「さあ?」
神輿とハナちゃんがくっついている俺を見て、ユキちゃん首をかしげている。
でも、俺も理由は分からないでござるよ?
――――。
とまあこんな出来事があったけど、お祝いは楽しく進んで行って。
お料理もあらかた食べ終えて、お酒もたらふく飲んで。
日も傾いてきた所で、そろそろ家に帰ろうという事になった。
「いや~、くったくった~」
「たのしかったな~」
「かえったら、おんせんはいろうぜ~」
村人も観光客も、ぼちぼちと洞窟をくぐっていく。
「ぼくたちも、いえにかえりますね!」
「またあした!」
「でわでわ~」
「ぎゃうぎゃう」
「おれもちょっくら、里帰りしてくるわ」
バイトリザードマンや海竜ちゃんたち、そして高橋さんはリザードマン世界に帰っていく。
まあ、洞窟をくぐるだけだけど。
「大志、俺らは先に戻ってるぜ。温泉入ってくる」
「俺も、じいさんと温泉はいるかな」
「私もお義母さんと温泉いこうかしら。ネコちゃんも一緒よ?」
「あ~にゃ!」
うちの一家は、みんなで温泉みたいだね。
爺ちゃんのお供さんやシャムちゃんも一緒に、ぞろぞろ帰って行った。
そうして全員を見送った後は、俺も帰宅だ。ちたまに帰ろう。
今残っているのは、俺とユキちゃんとハナちゃん一家、神輿と妖精さんたちだ。
「それでは、自分たちも帰ろう」
「そうですね。そろそろ帰りましょう」
「おうちかえるです~」
「たのしかったね! たのしかったね!」
みんなお腹一杯食べられたようで、満足そうな顔で帰途に就く。
おっと、冬服は着ておかないとね。
「ほらハナちゃん、冬服を着ましょうね」
「あい~」
ユキちゃんがハナちゃんにもそもそと服を着せて、他のみなさんも、もそもそと服を着て。
では、洞窟を抜けましょう!
「おうち~おうち~、かえるです~」
「かえろうね! かえろうね!」
(おうち~、ふわふわおふとん~)
ハナちゃんがぽてぽてと歩き、羽根を補修した妖精ちゃんはその隣をぴこぴこと飛んで。
神輿は俺の頭の上で、ほよほよ光って。
……神輿が光るおかげで、懐中電灯がなくても洞窟の中は明るいね。
神様も元気で、なによりです。
「おうちにかえれば~、おやつです~」
(おそなえもの~おそなえもの~)
「あまいおやつ! たべようね!」
ハナちゃんと妖精さん、そして謎の声の歌を聞きながら洞窟を歩き。
あっという間に、厳冬のちたまにっぽんへとうちゃ~く!
「さむいね! さむいね!」
「おうちかえろ! かえろ!」
「おんせんもいいかな! いいかな!」
ちたまに帰還すると、妖精さんたちは次の行動を相談しているようだ。
家に帰るか、温泉に行くか。
この子たちもすっかり、村になじんでいるね。もう、村人って言っても良いのではと。
「……あえ?」
そんな妖精さんたちを見ていたハナちゃん、「あれっ?」て顔をして、首を傾げた。
どうしたんだろう?
「……むむ? むむむ?」
今度は右に左に首を傾げて、むむむと考え始める。むむむむハナちゃん状態に。
妖精さんたちを見ているけど、何かあったのだろうか?
「ハナちゃんどうしたの?」
「むむ?」
ハナちゃんに問いかけると、むむむ状態のままこちらを見上げる。
可愛いので撫でておこう。
「むふ~」
お耳ぴこぴこで喜んでいるけど、ハナちゃんのお目々は俺と妖精さんたちを行ったり来たり。
とてもせわしなくなった。
しかし、どうしちゃったんだろう?
「ハナちゃんどうしたの? おうち帰るよ?」
「――あや! それです~! おうちです~!」
ハナちゃんは思考に結論が出たようで、ぽむっと手を叩いてぴょんぴょんし始めた。
……おうち? 一体なんのことだろう?
「タイシタイシ~! ようせいさんたち――もとのせかいにかえれるです?」
――え?
「こうずいはもうかいけつしたです? なら、ようせいさんたちはおうちかえれるです?」
――あ!
そうだよ! 確かにそうだよ!
神様の排水事業は、もともと妖精世界の洪水をなんとかする為だったわけで。
洪水が解決したなら、妖精さんたちは元の世界に帰る事が可能になっているんだ!
……ようやく村になじんでくれた妖精さんたちと、もしかしたらお別れが来るかもしれない。
それは寂しいけど、だからと言って無理やり引き留めるのは間違っている。
あの子たちにはあの子たちの、故郷があるのだから。
……ちょうど良い機会だ。洞窟の「門」が開くか、試してもらおう。
「そうだね。妖精さんたち、もしかしたら元の世界に帰ることが出来るかもだ」
「きゃい?」
「あや~……」
俺がハナちゃんの考えを肯定すると、ハナちゃん寂しそうな顔になった。
妖精さんはまだ意味が分からない様で、首をこてっと傾げて周りをぴこぴこ飛んでいるけど。
「あ~、そういう事ですか。確かにそうですね」
「きゃい?」
「まあ、そうですよね……」
「きゃいきゃい?」
ユキちゃんもヤナさんも気づいた。そして他の方々にも理解は広まっていく。
みんな寂しそうだ。……妖精さんたちは、まだまだわかっていないみたいだけど。
もしかしたら――別れが近づいているかも、という事に。
……これは、伝えてておかないとだね。
「ほら、君たちの所の洪水はもう何とかなったんだ。だから、もしかしたら故郷に帰ることが出来るかもしれないんだ」
「あ! そういえば! そういえば!」
「こうずいから、にげたんだった! にげたんだった!」
「すっかり、わすれてた~」
妖精さんたち、てへぺろ状態だ。可愛い。
ただまあ、急いで戻りたいってわけじゃない感じはするけど。
それならそれで、こちらとしては大歓迎だ。
「別に無理して戻る必要がないのなら、好きなだけこっちにいてくれて良いからね」
「そうだね! そうだね!」
「むりすること、ないよね! ないよね!」
「きゃい~」
やっぱり、無理して戻る気はあんまりないみたいだ。
好きなだけいてねって伝えたら、きゃいきゃいと喜んでいる。
まあそれはこちらとしても嬉しいけど、確認だけはしておこう。
「一応確認のために、洞窟をくぐって元の世界に戻ることが出来るか……試してみる?」
「そうだね! そうだね!」
「やってみよ! やってみよ!」
「おためし~」
妖精さんたちも乗り気なようなので、早速実験だ。
では、俺たちは下がって、妖精さんたちに洞窟の前まで行ってもらおう。
「それじゃあ、この洞窟の法則を説明するから、その通りにお試ししてね」
「わかったよ! わかったよ!」
そうして、実験を始めた――。
◇
実験の結果。
――だめでした。「門」は、開かなかったでござるよ。
「なんもおきないね! おきないね!」
「まだまだ、かえったらだめかも? だめかも?」
「なんかある~」
妖精さんたちは法則を理解してくれているようで、いまはまだ、戻るときじゃないと思ってくれているようだ。
まあ、結果は残念だった。でも、ほっとしたのも正直ある。
まだまだ、この子たちの事を良く知りたい。もっと一緒に過ごしたい。
そう思うのは、俺のわがままなのかもしれない。
……でも、ちょっとくらいは……望んでも許して欲しいもので。
俺だって、別れは寂しいものなのだ。
「かみさま、つなげられないです?」
(むり~。いつになく、きょうりょくなかべ~)
「りゆうとか、わからないです?」
(わかんない~)
ハナちゃんが神様に聞いているけど、謎の声を聴く限りはどうにもならないようだ。
……繋げるのが得意っぽい神様ですら、お手上げ。
洪水排出の時は繋げることができたのに、いざ人を移動させようとしたら強力なブロックをかます。
……この洞窟、やっぱり何か――特殊な制御をしているんだろうな。
とにかく、今は絶対妖精さんたちを帰さないようになっているようだ。
「ふしぎです~。ハナたちは、いったりきたりできるです~」
(こっちはゆるかった~)
まあ確かにそうだ。ハナちゃんたちは、わりとすぐに繋がってた。
……というか繋げられないと、平原の人も元族長さんも助けられなかったからね。
交易もはじまっちゃったから、ブロックされると逆に不幸になるわけで。
その辺の機微は、けっこう優れた制御をしてくれるみたいだ。
評価基準は、推測するしかないのだけど。
でも今は、妖精さんを帰さないように……絶対ブロックをしているということは。
今この子たちを戻したら、おそらく――良くない結末になる。
きっと何か、大事な事が解決出来ていないんだ。
妖精さんたちが、力強く生きて行けるような何かを――まだ見つけられていないんだ。
……あえてそれを言う必要はないから、ちょっと曖昧に説明しておこう。
「……あれだね、日々楽しく暮らしていれば、そのうち何とかなるよ」
「なるです?」
「なるの? なるの?」
ハナちゃんと羽根を補修した妖精ちゃん、半信半疑のようだね。
でも、なるわけですよ。俺たちはそのお手伝いをするだけ。
今までのお客さんたちは、最終的に――自分たちの力でなんとかした。
ハナちゃんたちだって妖精さんたちだって、きっと――なんとかするんじゃないかな。
「あわてず騒がず、ぼちぼちやろうよ。わかったら本気出すって感じでどうかな?」
「それがいいです~。ぼちぼちです~」
「ぼちぼちだね! ぼちぼち~!」
妖精さんたちはまだ故郷の世界に戻れない、ハナちゃんたちの森も復活していない。
でも、慌てず騒がず、ぼちぼちと。出来る事から、やって行きましょう!
でも、わかったら本気出す、と言う点を復唱されなかったのはなぜだろう?
……深くは考えまい。気にしない気にしない。
あとは神様もだね。無理せずぼちぼち、行きましょうよと。
「神様も、まったり行きましょうよ」
(うむむ~、つながらない~)
「あや! みこしきらっきらです~!」
――神様!? 意地にならないで良いですから!?
ぼちぼちやりましょうよ! ぼちぼち!
神輿すごい光ってますから!
マジカルなんとか被害拡大中




