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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第五話 お祝いです~! ……あえ?

 アニメ騒ぎで色々あったけど、お祝いの準備もつつがなく進み。

 とうとう、排水事業完了の日を迎える。


(これでおわるよ~)

「かみさま、あとちょっとです~!」


 村人、観光客、俺んち、高橋さんやリザードマンたち。

 みんな集まって、くるくる回る神輿を見守る。

 最後にみんなで応援して、力を付けてもらうためだ。


(いくよ~!)


 俺たちが見守る中、排水が始まる。

 最初始めた時より、勢いはもうずいぶんと弱くなっていて。

 灰化花もそんなに流れて来なくなって。

 もうほんとに、終わりが見えている。


(もうちょっと~!)

「かみさま、がんばるです~!」

「がんばれ~!」

「神様ステキー!」

「神輿かっこいいー!」

(そ、それほどでも~)


 応援したりちやほやしたりで、快調に水は流れて行き。

 てれてれ神輿は、快調に排水を行っていく。


「おそなえものです~」

(ありがと~)

「おだんごもあるよ! おだんご!」

(ごちそうたくさん~!)


 お供え物をしてごちそうを食べてもらって。

 みんなで神様を応援して、排水事業が無事終わることを祈って。

 ワーキャーと大騒ぎをした。


 ――そして二時間後。


 洞窟から出てくる水が、ちょろちょろ、程度になった。


(――おわったよ~!)

「みんなー! おわったみたいです~!」

「「「わー!」」」


 神様の排水事業が、とうとう完了したのだ。

 これで、妖精さんたちが元いた花畑の洪水は――消えた。

 神様の大仕事が、達成されたのだ!


「かみさま、おめでとう! おめでとう!」

「ありがとうだよ! ありがとう!」

「こうずい、なんとかなった~。かみさまありがと! ありがと!」

(それほどでも~)


 エルフたちも妖精さんたちも、みんな神様におめでとうの言葉やありがとうの言葉を贈る。

 みんなに褒められて、神輿はもうてれってれ。もじもじ神輿だね。

 力もみなぎっているようで、ミラーボール状態で光ってる。

 神様、ありがとうございますだ。


 そしてだ、ついにお仕事が完了したのなら――お祝いしましょう! 盛大に!


「みなさん! 神様のおかげで洪水は何とか出来たはずです! 神様のお仕事完了を、お祝いしましょう!」

「どきにこみ、たべるです~!」

「くんせいもありますよ!」

「まるやき、しあがってるぜ~」

(おそなえもの~!)


 さっきの排水事業中にさんざん食べたけど、まだ食べます。

 というか、これからが本番だね!


「神様、こちらにあるお料理全部――お供え物です!」

「たくさんつくったです~!」

(お……おお……ごちそうたくさん~!)


 ずっと頑張ってきた神様に、なんかもうたくさんお供えしてみる。

 お供え物をあるだけ持っていく神様だから、これ位あっても大丈夫だろう。


「では、神様どうぞお召し上がり下さい! お仕事お疲れ様でした!」

「おつかれさまでしたです~!」

(わーい!)


 ぴっかぴか光ってお供え物が消えていく。

 最初に出会った時は、鍋ひとつ持っていくのに苦労していた神様。

 だけど、今はもう一升瓶でもなんでも、余裕で持って行ける。

 力が回復したのか、強くなったのか。なんにせよ、良いことだと思う。


「……大志さん、テーブルが一つ消えましたよ」

「きえたですね~」

「そうだね、消えたね……」


 ……でもね、テーブルごと持っていくのは予想外でした。

 そうです。油断してました。

 ユキちゃんもハナちゃんも、もちろん俺もぽかーんだ。


 …………。


 さて、細かい事は気にしないことにして。

 村の備品が一つ消えたけど、まあ気にせずに。


 ――俺たちも、お料理食べましょう!


「ではみなさん、私たちもお料理をお腹いっぱい食べましょう! いただきまーす!」

「「「いただきまーす!」」」


 テーブルは消えたけど、まあ楽しく食事会が始まる。


「ひさびさのごちそう!」

「どうぶつちゃんたち、トウモロコシあるわよ!」

「ばう~!」

「あまいものもあるよ! あるよ!」

「ギニャ~」


 思い思いにごちそうに手を出す人、自慢のお団子をお勧めする妖精さんたち、動物にトウモロコシを食べさせる平原のお姉さん。

 みんな笑顔で、好きな食べ物に群がる。


「タイシタイシ~、ハナがつくったどきにこみ、たべてほしいです~」

「お、みんなの郷土料理だね。どれどれ……」


 さっそくハナちゃんがエルフスープカレーを進めてくれたので、ありがたく頂く。

 お! あまり香りが無かったエルフカレーに、なんだか香りがついている!

 これは……あの激ウマ燻製の香りだ! それにスパイシーな香りも少々。

 エルフスープカレー、なんだか改良されているぞ!


 味の方は……やや薄味なカレースープは、香辛料の味わいと燻製、そして野菜の出汁が加わって深みを感じる味だ。

 そこにほくほくのジャガイモみたいな蛍光木の実、慈姑(くわい)のようにシャクシャクとするトゲトゲの枝。

 ニンジンのような根っこに、あとはちたま産玉ねぎが入っているね。

 これらさまざまな食感の野菜に加え、あのエルフ特製激ウマ燻製の肉の味がじゅわあっと広がる。

 これらと一緒に、スープにひたひたにしたご飯を一緒に食べれば――ごちそうだ。


 やや薄味なスープのおかげで、いくらでも食べられる美味しさ。

 エルフ土器煮込み、ものすごい進化している!


「ハナちゃんこれは美味しいね! 前よりずっと美味しくなってる!」

「うふ~。ハナ、がんばっておいしくしたです~」

「お料理を改良するところまで、腕を上げたんだ。さすがハナちゃんだね!」

「うきゃ~」

「ハナちゃん良く頑張ったね。良いお嫁さんになれるよ」

「ぐふ~、ぐふふ~」


 さて、無事ハナちゃんをぐにゃらせたところで。

 お肉やらお酒やら、沢山食べて飲みましょう!


「大志、これ本当にエルフの人たちの郷土料理なの? お店で出てくるスープカレーじゃなくて?」

「俺も驚いたんだけど、これはエルフたちが最初にごちそうしてくれた、彼らの料理の進化版だよ」

「……なるほど。いろんなハーブを組み合わせて、この味を出すのは素直に凄いわ」

「ぐふふ~」


 ハナちゃんがより一層ぐにゃったけど、確かにそうだ。

 エルフ達は森にあるハーブを組み合わせて、エルフカレーをこさえている。

 塩をあまり使えなかった環境もあって、ハーブを複雑に組み合わせて深みを出す技術が発達しているのかな、と思う。

 ないなら無いで、あるものを活用するその姿勢は見習いたいね。


「ぐふふ~、タイシもっとたべるです~」


 ぐふぐふハナちゃん、ぐにゃりつつもカレーをよそってくれる。

 そりゃあもう大量に。

 せっかくだから、あるだけ食べましょうかね!


「これおいしいね! おいしいね!」

「こういうのも、いいね! いいね!」

「ふしぎなあじ~」

「ぐふ~」


 妖精さんたちにも、ハナちゃんカレーは好評のようだ。

 きゃいきゃいと、ハナちゃんスープカレーを消費していく。

 ……そのちいさな体のどこに、見た目三人前もある量が入るの?


「このウィスキーとくんせい、めっちゃくちゃ合いますね」

「やべえほどうめえ」

「しょうぼうだん、やっててよかったなあ。かっこいいきかいも、いじれるし」

「おれのじまんのくんせい、じゃんじゃんたべてくれ」


 後ろの方では、ヤナさんたちがもうお酒を飲んで出来上がっている。

 めでたい席だから、お酒も進むね。

 おっちゃんエルフも燻製を量産したようで、次から次へと出てくる。


「……ちゃんと、ひはとおってるじゃん?」

「だいじょうぶよ。ひはとおってるわ」

「そもそも、ひをとおさなかったのおまえだけだから」


 その横では、三人組が燻製の上に乗っているなんかの葉っぱを、慎重に調べているけど……。

 これって、あの花の香りがする葉っぱだっけ?

 なんというか、シダ植物みたいなやつ。


「あそうそう大志、例の光る人影伝説だけど……あれ伝説じゃないわね」


 俺も葉っぱ調べていると、おもむろにお袋がそんなことを言ってくる。

 あれは伝説じゃない? なにそれ?


「伝説じゃないって、どういう事?」

「あれは創作でも昔話でもなく、『ここ数年であった出来事の目撃談』ぽいわ」

「……あえ?」

「またまた~」

「あ、信じてないわね」


 お袋は目撃談とか言ってるけど、光る人影なんてねえ。

 ……神様ならありうるかもだけど、なんか違う気もするし。

 そもそも、謎の声を聴くことの出来る人がそうそういないからね。


 それに神様は……よほどのことが無い限り、直接声を届けられていない。

 おそらくだけど、神様時空からこっちの時空に声を届けるのは、相当キツいんだと思う。

 エルフたちが一生懸命儀式をして、ようやく一言二言。それが限界のようで。

 であるならば、光る人影が気軽に話していた伝承とは矛盾する。

 あとは、なんであの話を目撃談って判断できるのか。


「そもそも、なんで目撃談だってわかるの?」

「話をしていた人全員が、『私は見た』とか自分の体験談として語ったからよ」

「そんな理由?」

「そうよ。伝承とか言い伝えじゃ、普通ありえないの。若い人も見たって言っているから、最近の話よ」

「あややややや……」

「またまた~」

「あ、やっぱり信じてないわね」


 さすがに、それは根拠が弱いなあって思う。

 全員が「私は見た」って言っているのが根拠とは。

 ハナちゃんは真に受けちゃったのか、ぷるぷる震えだしたけど……。


 ……ただまあ、お袋はガチの学者であって。

 何か判定できる、統計学的計算はしているかも。

 あんまり頭ごなしに、否定するのはやめておこうか。


「もしかしてお袋、だいたいわかってきてる?」

「まあね。正体とかは全然だけど、時期と場所は絞り込めてきたわよ」


 そうなんだ。やっぱり……専門家は違うということか。

 つかみどころのない怪談話かと思ったけど、何やら本当に秘密があるのかもね。


「おい、だいぶとくていされてんぞ」

「あんなはなしからそこまでくるとか、ふるえる」

「いや、そんなすごいはなしじゃ、ないじゃん……ないじゃん……」


 キャッキャと解説しながらカレーを食べるお袋の後ろでは、また三人組がひそひそ話だ。

 ものすごくぷるぷるしているけど、どうしたんだろう?


「おばけ、なんかほんとにいるっぽいです~!」

(おばけこわい~!)

「ばう?」


 ああ! そんなことを話していたら、ハナちゃんと神様がボスオオカミのフクロに潜ってしまった!

 二人とも、頭隠しておしり隠さず状態だ。


「ばうばう」


 ……そしてボスオオカミ、まんざらでもなさそうだ。というかわりと喜んでいる。

 フクロになにか入れるのが、好きなのかな?



 ◇



 お祝いも盛り上がって、神様とハナちゃんはフクロに引きこもって。

 この二人に、どうやって出てきてもらおうかと考えていた時の事。


「大志さん、今日は凄く漬け込んだ野沢菜を持って来てみました。しかしこれ、酸っぱくないんです」

「え? これだけ漬け込んでも、酸っぱくならないの?」

「ええ。ひと手間かけてまして。秘伝の味ですよ」

「へえ~、そりゃ興味あるな」


 ちょうど濃い味の料理を沢山食べたので、さっぱりした漬物が欲しかったところだ。

 こういう所、若い娘さんは気が効いて良いね。


「それじゃありがたく頂きます」

「はい、どうぞ。……フフフ」


 若干オーラが黒いけど、まあ気にせずひと口。

 ――おお! 確かに良く漬かっていてコクがあるのに、あまり酸っぱくない!

 茎の部分は柔らかくなっており、若干昆布出汁の味がする。

 なるほど、酸味を昆布出汁でまろやかにしているんだ。


「これは良いね。よく漬かった野沢菜の酸っぱさを、美味いこと抑えている」

「ええ、ここまで改良するのは、なかなか大変でした」

「さすがだね」

「フフフ」


 妙に可愛いユキちゃん、自信たっぷりの表情だ。

 まあ、言うだけのことはある。これは美味しい。


「あそうそうユキちゃん、ちょっと良いかしら」

「はい? 美咲さん、どうされました?」

「けなげなユキちゃんに、良いこと教えたげるから」

「――わあ! 楽しみです!」


 妙に可愛いユキちゃんとキャッキャしていたら、お袋がユキちゃんを連れて行った。

 良いことってなんだろう?

 まあ、女同士色々話もあるのだろう。そっとしておくか。

 しかしこの野沢菜漬けは、なかなか凄いなあ。

 多分これ、普通に店で売れるよ。名物になるよ。それくらい美味しい。


(これ、ひかってておいしそう~)

「あえ? おいしそうです?」


 そうして漬け物を食べてまったりしていると、神輿がフクロから顔をのぞかせる。

 ハナちゃんも一緒に顔を出したので、二人してカンガルーの子供状態だ。

 あと……謎の声は、光ってて美味しそうとか言ってる?

 俺の目には、普通の野沢菜漬けにしか見えないけど。


 ……美味しい物は、なんかそういうオーラが見えるって事かな?

 まあ、神様も食べたがる完成度ってことなんだろう。たしかにこれは、かなり美味しい。

 じゃあ、お供えしちゃいましょうか!


「神様神様、こちらをお供えします。どうぞお召し上がり下さい」

(やたー!)

「ハナちゃんもどうぞ」

「ありがとうです~」


 半分くらい取り分けて、ハナちゃんと神様にごちそうしちゃう。


(ありがと~)


 掲げたお皿から、野沢菜漬けが光って消える。

 どうぞ、ユキちゃんの自信作をご堪能下さいだね。


「あや! これおいし~です~!」


 ハナちゃんも、もぐもぐとすぺさる野沢菜を食べる。

 お口に合ったようで、にこにこ笑顔で食べているね。


(――……)

「あや~?」


 ……あれ? 神輿とハナちゃんの様子が、なんかおかしい。

 じっとこっちを見つめているけど……。


(――すてき~!)


 あああ! また神輿がべたべたしてきたぞ!

 神様どうしたの!?


「タイシ~、なんかみょうにかわいいです~!」


 えええ! ハナちゃんまで!

 二人ともどうしたの!?



 ◇



(すてき~)


 排水事業完了のお祝い会も終わって。

 神輿がすごいべたべたして来て。今は頭の上でふにゃふにゃしている。

 これはいつもの事なので、特に気にせずそのまま好き過ごしてもらって。


「タイシがみょうにかわいいです~」


 ……ハナちゃんがくっついてくるのも、いつものことだよね?

 まあ、懐かれるのは悪い気はしないからね。

 好きに過ごしてもらいましょうだ。


「……あれ? 二人ともどうしたんですか?」

「さあ?」


 神輿とハナちゃんがくっついている俺を見て、ユキちゃん首をかしげている。

 でも、俺も理由は分からないでござるよ?


 ――――。


 とまあこんな出来事があったけど、お祝いは楽しく進んで行って。

 お料理もあらかた食べ終えて、お酒もたらふく飲んで。

 日も傾いてきた所で、そろそろ家に帰ろうという事になった。


「いや~、くったくった~」

「たのしかったな~」

「かえったら、おんせんはいろうぜ~」


 村人も観光客も、ぼちぼちと洞窟をくぐっていく。


「ぼくたちも、いえにかえりますね!」

「またあした!」

「でわでわ~」

「ぎゃうぎゃう」

「おれもちょっくら、里帰りしてくるわ」


 バイトリザードマンや海竜ちゃんたち、そして高橋さんはリザードマン世界に帰っていく。

 まあ、洞窟をくぐるだけだけど。


「大志、俺らは先に戻ってるぜ。温泉入ってくる」

「俺も、じいさんと温泉はいるかな」

「私もお義母さんと温泉いこうかしら。ネコちゃんも一緒よ?」

「あ~にゃ!」


 うちの一家は、みんなで温泉みたいだね。

 爺ちゃんのお供さんやシャムちゃんも一緒に、ぞろぞろ帰って行った。


 そうして全員を見送った後は、俺も帰宅だ。ちたまに帰ろう。

 今残っているのは、俺とユキちゃんとハナちゃん一家、神輿と妖精さんたちだ。


「それでは、自分たちも帰ろう」

「そうですね。そろそろ帰りましょう」

「おうちかえるです~」

「たのしかったね! たのしかったね!」


 みんなお腹一杯食べられたようで、満足そうな顔で帰途に就く。

 おっと、冬服は着ておかないとね。


「ほらハナちゃん、冬服を着ましょうね」

「あい~」


 ユキちゃんがハナちゃんにもそもそと服を着せて、他のみなさんも、もそもそと服を着て。

 では、洞窟を抜けましょう!


「おうち~おうち~、かえるです~」

「かえろうね! かえろうね!」

(おうち~、ふわふわおふとん~)


 ハナちゃんがぽてぽてと歩き、羽根を補修した妖精ちゃんはその隣をぴこぴこと飛んで。

 神輿は俺の頭の上で、ほよほよ光って。

 ……神輿が光るおかげで、懐中電灯がなくても洞窟の中は明るいね。

 神様も元気で、なによりです。


「おうちにかえれば~、おやつです~」

(おそなえもの~おそなえもの~)

「あまいおやつ! たべようね!」


 ハナちゃんと妖精さん、そして謎の声の歌を聞きながら洞窟を歩き。

 あっという間に、厳冬のちたまにっぽんへとうちゃ~く!


「さむいね! さむいね!」

「おうちかえろ! かえろ!」

「おんせんもいいかな! いいかな!」


 ちたまに帰還すると、妖精さんたちは次の行動を相談しているようだ。

 家に帰るか、温泉に行くか。

 この子たちもすっかり、村になじんでいるね。もう、村人って言っても良いのではと。


「……あえ?」


 そんな妖精さんたちを見ていたハナちゃん、「あれっ?」て顔をして、首を傾げた。

 どうしたんだろう?


「……むむ? むむむ?」


 今度は右に左に首を傾げて、むむむと考え始める。むむむむハナちゃん状態に。

 妖精さんたちを見ているけど、何かあったのだろうか?


「ハナちゃんどうしたの?」

「むむ?」


 ハナちゃんに問いかけると、むむむ状態のままこちらを見上げる。

 可愛いので撫でておこう。


「むふ~」


 お耳ぴこぴこで喜んでいるけど、ハナちゃんのお目々は俺と妖精さんたちを行ったり来たり。

 とてもせわしなくなった。

 しかし、どうしちゃったんだろう?


「ハナちゃんどうしたの? おうち帰るよ?」

「――あや! それです~! おうちです~!」


 ハナちゃんは思考に結論が出たようで、ぽむっと手を叩いてぴょんぴょんし始めた。

 ……おうち? 一体なんのことだろう?


「タイシタイシ~! ようせいさんたち――もとのせかいにかえれるです?」


 ――え?


「こうずいはもうかいけつしたです? なら、ようせいさんたちはおうちかえれるです?」


 ――あ!


 そうだよ! 確かにそうだよ!

 神様の排水事業は、もともと妖精世界の洪水をなんとかする為だったわけで。

 洪水が解決したなら、妖精さんたちは元の世界に帰る事が可能になっているんだ!


 ……ようやく村になじんでくれた妖精さんたちと、もしかしたらお別れが来るかもしれない。

 それは寂しいけど、だからと言って無理やり引き留めるのは間違っている。

 あの子たちにはあの子たちの、故郷があるのだから。


 ……ちょうど良い機会だ。洞窟の「門」が開くか、試してもらおう。


「そうだね。妖精さんたち、もしかしたら元の世界に帰ることが出来るかもだ」

「きゃい?」

「あや~……」


 俺がハナちゃんの考えを肯定すると、ハナちゃん寂しそうな顔になった。

 妖精さんはまだ意味が分からない様で、首をこてっと傾げて周りをぴこぴこ飛んでいるけど。


「あ~、そういう事ですか。確かにそうですね」

「きゃい?」

「まあ、そうですよね……」

「きゃいきゃい?」


 ユキちゃんもヤナさんも気づいた。そして他の方々にも理解は広まっていく。

 みんな寂しそうだ。……妖精さんたちは、まだまだわかっていないみたいだけど。

 もしかしたら――別れが近づいているかも、という事に。


 ……これは、伝えてておかないとだね。


「ほら、君たちの所の洪水はもう何とかなったんだ。だから、もしかしたら故郷に帰ることが出来るかもしれないんだ」

「あ! そういえば! そういえば!」

「こうずいから、にげたんだった! にげたんだった!」

「すっかり、わすれてた~」


 妖精さんたち、てへぺろ状態だ。可愛い。

 ただまあ、急いで戻りたいってわけじゃない感じはするけど。

 それならそれで、こちらとしては大歓迎だ。


「別に無理して戻る必要がないのなら、好きなだけこっちにいてくれて良いからね」

「そうだね! そうだね!」

「むりすること、ないよね! ないよね!」

「きゃい~」


 やっぱり、無理して戻る気はあんまりないみたいだ。

 好きなだけいてねって伝えたら、きゃいきゃいと喜んでいる。

 まあそれはこちらとしても嬉しいけど、確認だけはしておこう。


「一応確認のために、洞窟をくぐって元の世界に戻ることが出来るか……試してみる?」

「そうだね! そうだね!」

「やってみよ! やってみよ!」

「おためし~」


 妖精さんたちも乗り気なようなので、早速実験だ。

 では、俺たちは下がって、妖精さんたちに洞窟の前まで行ってもらおう。


「それじゃあ、この洞窟の法則を説明するから、その通りにお試ししてね」

「わかったよ! わかったよ!」


 そうして、実験を始めた――。



 ◇



 実験の結果。

 ――だめでした。「門」は、開かなかったでござるよ。


「なんもおきないね! おきないね!」

「まだまだ、かえったらだめかも? だめかも?」

「なんかある~」


 妖精さんたちは法則を理解してくれているようで、いまはまだ、戻るときじゃないと思ってくれているようだ。

 まあ、結果は残念だった。でも、ほっとしたのも正直ある。

 まだまだ、この子たちの事を良く知りたい。もっと一緒に過ごしたい。

 そう思うのは、俺のわがままなのかもしれない。

 ……でも、ちょっとくらいは……望んでも許して欲しいもので。

 俺だって、別れは寂しいものなのだ。


「かみさま、つなげられないです?」

(むり~。いつになく、きょうりょくなかべ~)

「りゆうとか、わからないです?」

(わかんない~)


 ハナちゃんが神様に聞いているけど、謎の声を聴く限りはどうにもならないようだ。

 ……繋げるのが得意っぽい神様ですら、お手上げ。


 洪水排出の時は繋げることができたのに、いざ人を移動させようとしたら強力なブロックをかます。

 ……この洞窟、やっぱり何か――特殊な制御をしているんだろうな。

 とにかく、今は絶対妖精さんたちを帰さないようになっているようだ。


「ふしぎです~。ハナたちは、いったりきたりできるです~」

(こっちはゆるかった~)


 まあ確かにそうだ。ハナちゃんたちは、わりとすぐに繋がってた。

 ……というか繋げられないと、平原の人も元族長さんも助けられなかったからね。

 交易もはじまっちゃったから、ブロックされると逆に不幸になるわけで。


 その辺の機微は、けっこう優れた制御をしてくれるみたいだ。

 評価基準は、推測するしかないのだけど。

 でも今は、妖精さんを帰さないように……絶対ブロックをしているということは。


 今この子たちを戻したら、おそらく――良くない結末になる。


 きっと何か、大事な事が解決出来ていないんだ。

 妖精さんたちが、力強く生きて行けるような何かを――まだ見つけられていないんだ。

 ……あえてそれを言う必要はないから、ちょっと曖昧に説明しておこう。


「……あれだね、日々楽しく暮らしていれば、そのうち何とかなるよ」

「なるです?」

「なるの? なるの?」


 ハナちゃんと羽根を補修した妖精ちゃん、半信半疑のようだね。

 でも、なるわけですよ。俺たちはそのお手伝いをするだけ。


 今までのお客さんたちは、最終的に――自分たちの力でなんとかした。

 ハナちゃんたちだって妖精さんたちだって、きっと――なんとかするんじゃないかな。


「あわてず騒がず、ぼちぼちやろうよ。わかったら本気出すって感じでどうかな?」

「それがいいです~。ぼちぼちです~」

「ぼちぼちだね! ぼちぼち~!」


 妖精さんたちはまだ故郷の世界に戻れない、ハナちゃんたちの森も復活していない。

 でも、慌てず騒がず、ぼちぼちと。出来る事から、やって行きましょう!


 でも、わかったら本気出す、と言う点を復唱されなかったのはなぜだろう?

 ……深くは考えまい。気にしない気にしない。

 あとは神様もだね。無理せずぼちぼち、行きましょうよと。


「神様も、まったり行きましょうよ」

(うむむ~、つながらない~)

「あや! みこしきらっきらです~!」


 ――神様!? 意地にならないで良いですから!?

 ぼちぼちやりましょうよ! ぼちぼち!

 神輿すごい光ってますから!


マジカルなんとか被害拡大中

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