第四話 いろんなイベント
今日は節分。二月三日だ。
うちでは豆まきはやらない。
過去のお客さんにツノを生やした人もいたから「鬼は外」とか出来ないわけで。
なのでうちでは豆まきはしないのである。
――しかし、こんな我が家に救世主が現れたのだ!
その救世主とは――恵方巻きちゃん!
この恵方巻きちゃん、「鬼は外」とか言わないから助かるのだ。
金棒に見立ててうんたらとかあるけど、「鬼は外」と良いながら食べたりはしない。
ごまかしがきく、良いイベントだなあと思いました。
あと、豆よりボリュームがあるという単純な理由もあったり。
大食いの俺としては、沢山食べたいわけで。
豆だと足りない。
そんなもろもろの事情から、今日は村で恵方巻きをかじるイベントを催すことに。
子猫亭に恵方巻きを発注して、今日は巻き寿司パーリィだ。
……ただ、発注しに行ったとき、子猫亭が繁盛し過ぎてパンク寸前だったのが気になる。
まあそれでも、パンク寸前の子猫亭に容赦なく大量発注かけたんだけどね。
早く、良いアルバイトさんが見つかると良いな。
とまあこうして色々あって調達した恵方巻きを、村のみんなや観光客、それに妖精さんたちに配る。
「はいみなさん、あっちの方向を向いてこの食べ物を食べると、なんか良いらしいです」
お袋が佐渡に行ってしまっているので、説明は適当である。
みんなで楽しめれば、それで良いのだ。
「タイシタイシ~、これっておにぎりです?」
恵方巻きを受け取ったハナちゃんは、お皿の上にある巻き寿司を見て、こてっと首をかしげる。
そういや、巻き寿司を披露するのは初めてだね。
軽く説明しておこう。
「これは握るというより、巻いて作るんだ。いろんな具が入っているから、美味しいよ」
「あや~、まきまきしちゃうですか~」
「そうそう、巻き巻きしちゃうんだ」
「まきまきです~」
(まきまきおそなえもの~)
そうしてハナちゃんとまきまき言っていると、神輿が恵方巻きの上でくるくる回っていた。
そういえば、神様って恵方を向いて食べられるのだろうか?
……気にしないことにしよう。細かいことは気にしないってね。
「あ、私も恵方巻き作ってみたんですよ、大志さん、食べてくださいな」
恵方巻きを配り終えたところで、ユキちゃんも自作恵方巻きを携えてきた。
なかなか凄い出来映え。もちろん、ありがたく頂きますだ。
「じゃあ、頂きますしようか」
「あい~、いただきますです~」
「「「いただきまーす!」」」
そうしてみんなで、恵方巻きちゃんをマルカジリする。
俺はまず、ユキちゃんが作った恵方巻きちゃんを食べてみた。
――おお! ノリがすぐにかみ切れる。これは浅草ノリか。こだわってるな。
そのノリの風味が、酢飯や具材と優しく口の中で調和している。
まぐろやかんぴょう、だし巻き卵やしいたけなどの七種の具材の味を壊さず、それぞれ美味しさがわかる。
具材のバランスにもこだわった一品だね。
すぐさま、一本食べきってしまう。
「いやあ、これは美味しいね。こだわりを感じる」
「ええ! この日のために練習しましたから!」
「プロ顔負けだ」
「フフフ……胃袋はがっちり」
ユキちゃんに美味しいねって褒めたら、またなんかのノートに書き込みを始めた。
若い娘さんは、よくわからないなあ。
まあ、それは見なかったことにして。
ほかの方々は、どうかな? 美味しく食べているかな?
「すごく、たべがいあるな~」
「ごうかなたべものとか、すてき」
「ぶんりょうすごいわ~。おなかいっぱいになるわ~」
どうやら問題ないようで、美味しく頂いているようだ。
良かった良かった。子猫亭の恵方巻きだって、こだわりの逸品だからね。
「おもしろいたべものだね! おいしいね!」
「でっかくて、かじるのたいへん! たいへん!」
「みんなで、かじりましょ~」
妖精さんたちも、恵方巻きにかじりついてきゃいきゃいしている。
甘いものが大好きとはいえ、意外としょっぱい物も普通に食べる妖精さんだね。
というか最近、動物性の物も普通に食べられるようになってきている。
村の食事に慣れて、色々なものが食べられるようになったのかも。
まあ、主食は甘い物なんだけど。動物性の食べ物は、嗜好品って感じだね。
「たべきったよ! たべきったよ!」
「おかわりしましょ! おかわり~!」
「はらはちぶんめだね! はちぶんめ!」
……でも、あきらかに自分の体より大きな恵方巻きを、一人一本以上食べている……。
そのちいさな体のどこに、恵方巻きを一本以上まるまる食べる容積が?
(こっちむいてたべるの~?)
そして妖精さんたちがもぐもぐ食べている横では、神輿が恵方巻きをもぐもぐしていた。
一生懸命恵方巻きをかじる神輿は、なかなか可愛い。
……ん?
神輿が、恵方巻きを、かじって、いる?
――――。
あああ! 神輿が! 神輿が恵方巻きをそのまま食べている!
いつもみたいに、光って消えていない! そのまま食べているぞ!
というか神様、そのまま食べられるのね……。
いつの間に、神輿にそんな機能を実装したのか。
神様、面白すぎですよ……。
「あや~、かみさまのこういうたべかた、はじめてみるです~」
「そのまま、食べられるんですね」
ハナちゃんとヤナさんも、神輿の新たな可能性にびっくりしている。
俺もびっくりだ。
「いやはや、なんというか凄い神様ですね」
(それほどでも~)
恵方巻きをかじりながら、照れ照れの神輿であった。
でも神様、ほっぺに? ご飯粒ついてますよ。
◇
恵方巻きイベントの翌日。
今日は朝から、すごい大雪だ。というか、今年はなんだか降雪量が多い気がする。
村のことが気になるけど、用事があって顔を出せない。
みんな、元気しているかな? 大雪で困っていないかな?
ハナちゃんから緊急連絡が無いので、大丈夫なのだろうけど。
「それで、こちらが分析結果のデータとなります」
「ああはい、これですね」
村が心配で気もそぞろになっていたけど、こっちの用事も大事だ。
集中しよう。
「正直なんとも申しがたいのですが……これは鉱物ですか?」
「あ~、化石みたいなものですね」
「化石……あ、そういえば! 数ヶ月前に佐渡で、そういった化石が発見されましたね」
今応対しているのは、灰化した森のサンプル分析を依頼した会社の、担当者さんだ。
フランスの大学、ユキちゃんち、民間の分析会社。
これら複数の対象にて、それぞれの視点で分析してもらっている。
「私どもの見解から申しますと……元素の量が、ちょっと……」
「やはり、偏ってますか?」
「え、ええ。マグネシウム、マンガン、カルシムが多すぎるかなと。……六割は、ちょっと。化石でこの組成は……その……」
「疑問はごもっともですが、まあそれくらいで」
「は、はい……」
民間会社の担当者さんとはいえ、博士号持ちだ。
分析した対象がなにかおかしいことは、よく理解しているだろう。
ただ、あまり深入りするとこの人にとってもよろしくはない。
ちたまの物質じゃあないからね。いくら追求したところで、得られるものはない。
「御社はこのような依頼、よくこなしていると思っております」
「え、ええ。当社は守秘義務絶対遵守ですので」
その辺を見越して、口の堅い会社に依頼してあるわけだし。
フランスの大学だって、口の堅いそれ系の自然科学研究者がお袋の知り合いだったから、なんとか依頼できたわけで。
神秘を相手にする界隈は、持ちつ持たれつと口の堅さが重要だ。
「それとですね、これが電子顕微鏡写真なのですけど」
担当者さんも気持ちを整理出来たのか、粛々と説明を始めた。それでいい。
「……層になってますね」
「ええ、段階的に一層ずつ、酸化マグネシウムの層が形成されています。ほかのサンプルとも見比べると、中心部から外に向かって層が段階的に出来ていますね」
「……ということは、突如ああなるわけではなく、前兆は捉えられると言うことか」
「はい?」
「ああいえ、こちらの話です」
おそらくだけど、灰化には潜伏期間があるんだ。内部でじわりじわりと、進む。
この潜伏期間中は、次第に森の実りが減っていく。植物の生産能力が落ちていく。
それが一定水準にまで到達すると――突如顕在化する。
砂みたいなにおいがして、あっという間に灰化してしまう。
そんなところではないだろうか。
もしかしたら、砂のようなにおい、あれがトリガとなってほかの植物にも一気に広がるのかも。
単なる化学反応による臭いにとどまらず、ほかの植物にも灰化を促す。
いわゆるフェロモンみたいなもの、という可能性もあるな。
……たしかミズナラなどの一部の木も、どんぐりが芽をだすとフェロモンが出る。
そしてそのフェロモンにより、大本の木はしばらく実をつけなくなる、と聞いたことがある。
これは実を抑制することにより、すでに発芽した実の邪魔をしないため、だとか。
自然という物は、俺たちが思っている以上によく出来ているわけだ。
もしこのフェロモン仮説が、正しいと仮定したならば。
灰化現象も、なにかそうする必要があって――ああなった、可能性もあるのかも。
下手をすると、何千年単位で起こる自然のサイクル、という可能性すらある。
もしそうなら、やっかいだな……。
自然に逆らうのは、きわめて難しい。上手くつきあっていくしか、ないのだから。
「あとはですね……」
その後様々な分析結果を聞いたけど、やっぱり灰化する原因についてはわからなかった。
多分もっと、多角的な視点で分析しないといけないのだろう。
時間はかかるけど、地道に調査するしかない。
ただ今回、前兆現象はあるらしき事が判明した。これがわかっただけでも、大きな成果だろう。
前兆現象を捉えることが出来たなら、避難するまでの時間が稼げる。
エルフ世界のロジスティクス強化にて、これは可能となる。
根本治療ではなく対処療法にしか過ぎないけど、次善の策は用意しないとね。
そして、すべての分析結果を聞き終えて。一つの成果を得て。
今日の用事は終了だ。
「それでは、失礼致します」
「ありがとうございました。また何かございましたら、お願い致します」
分析会社の担当者さんを見送り、家に戻ってまた資料を一人で見直して。
大雪の降る中、こつこつと仕事をしたのだった。
◇
翌日、すぐさま村に訪れる。かなり雪が積もっているね。
でもみんな大雪に慣れたようで、しっかり雪かきしてあった。
良かった良かった。
「タイシタイシ~、おかえりです~!」
「ハナちゃんただいま」
広場に到着すると、早速もこもこ着込んだもこもこハナちゃんがお出迎えだ。
(ども~)
そして珍しいことに、神輿もほよほよと飛んで一緒にやってきた。
どうしたんだろう?
「神様も一緒なのは、めずらしいね。どうしたの?」
「タイシタイシ~、みずぬき、もうすぐおわるらしいです~」
(あとちょっと~)
なるほど! それを伝えに来たんだ!
長いこと続けたお仕事……とうとう完成するんだね。それはめでたい。
ただ、お仕事が終わってめでたしめでたし、だとなんかさびしい。
せっかく神様が頑張ってくれていたのだから、なにかしてあげたいな。
……あれだ、お祝いしちゃおうか!
神様の排水事業完了を祝って――なにかしよう!
「ねえねえ、神様の大仕事が終わるなら、なにかお祝いしようよ」
「あえ? おいわいです!?」
(おそなえもの?)
お祝いを提案したら、ハナちゃんびっくりまなこだ。唐突な提案だったからね。
あと、謎の声は何かを期待している感じだね。
もちろん、たんまりお供えしますよ!
「そうそう、ぱーっとさ、みんなでお祝いしようよ。ごちそうやお供え物沢山用意して」
「それいいです~! やるです~!」
(おそなえもの~!)
ハナちゃんごちそうに食いついた! そして神輿も食いついた!
それじゃあ、予定を決めてお祝いしましょう!
ということで、お祝い会のために日程を計画する。
佐渡に行っている親父やお袋、それと焼き物五人衆も呼び寄せて、賑やかに祝う計画を立てちゃいます。
「あっちは常春ですから、献立はこれでどうでしょう?」
「お、久々にエルフ土器カレーが食べられるね」
「あれって、スープカレーみたいで美味しいですよね」
「たくさんつくります」
「うでがなるわ~」
「あ、ケガしたわね、いまのおと」
お祝いで出すお料理を、お料理自慢の方々と考えて。
……計画時点で、腕グキさんがグキっとなったけど。
本番前には治ると良いな?
そして連絡を入れてから二日後には、親父たちが佐渡から帰って来た。
来たのだけど……。
「大志、ただいま。まあ、またすぐに佐渡に行くけど」
「佐渡の焼き物の歴史、けっこう奥深いわね。継続調査するわよ」
「なら、一緒に佐渡を見て回ろうか?」
「いいわね~! 夫婦水入らずで行きましょ!」
なんだか、佐渡から帰って来た親父とお袋……イチャイチャしておるわ。
どうしたんだろう……あ! お袋が妖精ダイヤの指輪してる!
そりゃ、イチャイチャもするか。
親父、きっちりミッションを達成したんだな。やりおるわ。
「フフフ……いずれ私も。フフフ……」
……後ろの方から黒いオーラが漂っているけど、俺は何も見ていない。
そう、何も起きてはいないのだ。
――さて、焼き物五人衆はどうかな? 修業の成果は出ているかな?
「みなさん、焼き物とかどんな感じですか?」
「これ! これみてくださいよ! ぼくがつちからせんべつしたおちゃわんです!」
「かたいやつ、たまにせいこうするようになったんですよおおおおおおお!」
「たまになんですけどね」
「まだまだ、しっぱいするほうがおおいんだよな~」
「あ、あにめのじかんが……」
……どうやらそれなりに成果は出てきたようで、わりといい感じのお茶碗をみせてくれた。
目が血走ったお姉さんとかは、自慢の湯呑みをキンキン言わせている。
確かにかた~く焼きあがっているね。
ただ、まだまだ割れちゃうようで、彼らとしては納得はいっていないみたいだ。
引き続き、修行してくださいだね。
「あ、あにめ~!」
……そして残る一人のお姉さん、なんで魔女っ娘あにめの、某キュアさんのコスプレをしているのか。
おまけに、しきりに「アニメの時間が」とか言ってそわそわしている。
「親父、あの人は……」
「アニメにドハマりして、連日徹夜してあの服を作ってしまった」
「――あれ自作なの!?」
「おまけに、アレを着て出歩くから……町の子供に大人気だ」
「――人気者になってる!?」
あにめさん、方向性間違い過ぎでしょ。……でも、本人は楽しそうだから良いのかも。
して、肝心の焼き物の方は……頑張っているのかな?
「あのお姉さん、焼き物の方は?」
「一番腕が良いぞ。あのエンブレムとか、自作の無名異焼きだ」
「――地味! 地味だけど凄いよ! でも凄いけど地味!」
……まあ、焼き物の修行もきっちりやっておられるようで。
特に問題はないだろう。無いと良いな。無いよね?
「あにめ~……」
そんなあにめさん、なんか体内時計でもあるのか、時間を気にしてオロオロしている。
「大志さん、あのキュア系の恰好をした方は……? 大丈夫ですか?」
「多分大丈夫。そうに違いない」
「ですかね?」
オロオロするあにめさんを、ユキちゃんが心配そうに見ている。
……どういう意味で心配しているかは、追求しないことにして。
ただ、オロオロしているのを放置するのは、ちょっと忍びない。
……ちょっと番組表を調べてみよう。
こっちと佐渡じゃ、放送局が違うから時間も違ったりするんだよね。
下手すると、放送してなかったり、二週間ずれていたりも。
その辺確認しないとだね。地方の辛い所でございます。
どこかの県は、キテなんとか大百科がずっと再放送されてたとか聞いたことがあるけど。
まあそれはそれとして、どうやら佐渡とこっちじゃ時間も内容もいっしょみたいだね。
これなら、村でも見られるな。せっかく村に来てくれたのだから、集会場で流してあげよう。
あにめさんに教えてあげないとだね。
「そこなキュア何とかさん。ちょいと……耳寄りなお話がありますよ」
「あに――みみよりなおななし? なになに?」
おろおろしていたあにめさん、すすすっとこっちにやって来た。
切替わり早い!
「例のキュア的なアニメですけど――集会場でも見られますよ」
「キャー!」
「というわけで、準備するのでおいでませ」
「あにめ~!」
あにめさん、キャッキャと大はしゃぎだ。
では、大画面でご堪能下さいだ。……さっさと設置してあげよう。
◇
「わ~! なんだか、はでだね~」
「キラキラしてる~」
「そこよ! そこでまほうをつかうの!」
集会場にしまっておいたプロジェクタを設置して、アンテナ線に繋げて。
バッテリは、青電きのこちゃんをかじかじして充電して。
ささっと準備を整えてアニメを流してあげたら……村にいる全員が集まってしまった。
『みんなで魔法をつかうわよ! いっくよー!』
「キャー!」
特に、あにめさんはもう大興奮だ。
主人公の魔女っ娘がなんかするたびに、同じ動きでキャーキャーと騒ぐ。
とんでもなく、どハマリしてらっしゃいますね……。
とまあこんな感じで、しばしみんなでアニメを鑑賞して楽しんだ。
――そして放送終了後。
「あにめ、みられてよかった~。ありがとうございました!」
「楽しんでいただけたようで、何よりです」
「こんどおれいに、なにかやいてもってきますね!」
「それは楽しみです」
あにめさん、大満足のご様子でお礼を言ってきた。
テレビ上映くらいなら、まあいくらでも言ってくださいだね。
そのお礼に、こんど何か焼いてきてくれるようなので、楽しみに待ちましょう。
さて、それじゃあ設備を片付けましょうか……ん?
なんか、スクリーンの前でカナさんがぷるぷるしている。
「えが……えがうごくなんて……」
「おかあさん、ぷるぷるです?」
なるほど、アニメに衝撃を受けたようだ。放送が終わっても、ぷるぷるしっぱなし。
まあ……明らかに絵なのに、滑らかに動いているのは衝撃だったんだろうね。
……せっかくだから、軽く原理を説明しておくか。
「カナさん、これは動く写真とほぼ同じ原理ですよ。ちょっとずつ動きを付けた絵を沢山書いて、素早く絵を切り替えると動く絵になります」
「は、はわ……」
「たいへんそうです~」
何となくわかってもらえたようで、カナさんぷるっぷる。
ハナちゃんも、大変なことは理解してくれたようだ。
実際に目の前で、映していたからね。
どんだけ大量の絵を必要としているかは、なんとなくわかるだろう。
「たくさんの、えをかいて……きりかえて……」
……おや? カナさんがメモ帳を取り出した。
そして、さらさらと何かを書き始める。
「おかあさん、なにしてるです?」
「ちょっとためしてみたくて」
一心不乱に、メモ帳に何かを書き込んでいくカナさん。
しばらくその様子を見守る。
「――できました! こういうことですよね!」
そして数分くらいで仕上がったようで、早速メモ帳をみせてくれる。
そこには――神輿が描かれていた。
アニメ調にデフォルメされた、ポップな感じの神輿が。
「あや! みこしです~!」
(よんだ?)
――神輿が! 神輿がいつの間にか俺の後ろに!
「これをこうして、ペラペラすると――」
「あや! うごいてるです~!」
(きゃ~! すごい~!)
カナさんがメモ帳をペラペラめくると、アニメ調神輿がくるくる回る。
再現度高い!
たった十数ページですぐに終わっちゃうけど、なかなかのクオリティだ。
カナさん、素早くパラパラ漫画を作ってしまったね。これは凄い。
いつの間にか参加していた神輿も、大喜びでくるっくるだ。
見比べると……やっぱり再現度高い!
「おお! まさにそれですよ。カナさん凄いですね! あと絵が綺麗です!」
「おかあさん、すごいです~!」
(いいかんじ~)
「うふふ! うふふ!」
アニメを自作できたのが嬉しいのか、絵が褒められたのが嬉しいのか。
カナさん耳をへにょっとさせて、ご機嫌になった。
ほんと、絵を書くのが大好きなんだね。
「お、それすげえじゃん」
「わたしにもみせてみせて」
「おもしろいな~」
ほかのみなさんもパラパラマンガを覗き込んで、わいわいと楽しんでいる。
絵のクオリティは高いだけに、枚数が少なくても見どころはある。
盛り上がるのも納得だ。
「うふふ! うふふ!」
カナさんもみんなに褒められて、ご機嫌でうふふうふふとにこにこ笑顔だね。
しかし……そんなカナさんに、何かが忍び寄る。
「――カナさん、おねがいが!」
「はい?」
忍び寄ってきたのは、あにめさん。
あにめさんが、ガッシリとカナさんの肩を、両手でつかんだ。
「さっきのあにめぽいやつ、かいてもらえませんか!」
「ええ……?」
「カナさんなら、できるはずです! このとおり!」
「え、ええ……?」
血走った目で、あにめさんもう迫真のお願いだ。
カナさんたじたじ。
「こ……こんなのでよろしいでしょうか?」
「キャー!」
押しに負けたカナさん、ささっと簡単な線画で魔女っ娘アニメの主役を書いて見せる。
さっと書いたわりになかなかの出来で、あにめさんもう飛び上がって喜んでいるね。
「も、もっとおねがいしてもいいですか!」
「あ、え、ええ……」
またもやカナさん押しに負けて、色々引き受けちゃってるけど。
大丈夫かな?




