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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
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第三話 おともだち~


 ネコちゃんは凄い飛行能力と、目的地到達能力を持っていた。

 どうやって目的地を特定しているのかは分からないけど、とにかくなんだか到達してしまう。

 俺は、そんなネコちゃんだから出来ることを、お願いしてみた。


 ――そして二日後の夕方、その結果が出た。


「タイシタイシ~、ネコちゃんかえってきたです~」

「ミュ~」


 ハナちゃんがネコちゃんを抱えて集会場にやってきた。

 そのネコちゃんの首には、袋がぶら下げてある。


「ネコちゃんありがとうね。ほら、高級フルーツだよ」

「ミュ~!」


 ネコちゃん、さっそく高級フルーツにかぶりつく。

 もぐもぐと一心不乱に、フルーツを平らげていく。

 ネコちゃんはこのご褒美が一番、嬉しいようだった。


 さて、それじゃあ実験は成功したかな?

 確認してみよう。袋の中には――あった、写真と……ICレコーダー。


「さっそく再生してみよう」


 今回、ネコちゃんにはインスタントカメラとICレコーダーをぶら下げて――あっちの森に行って貰った。

 元族長さん宛に、ネコちゃん便を試験的に飛ばしてみたのだ。

 ICレコーダの使い方は、平原の人たちが知っている。地図作成の時に利用しているからだ。

 今回はこちらの声を吹き込んで、あちらにも声を吹き込んで貰うよう録音しておいた。

 上手く行っているかな?


『あ~あ~。きこえますかな? ちゃんとネコちゃん、きましたぞい』


 ――元族長さんの声、来た! 成功だ!

 ネコちゃん便、わずか半日であっちの森とこの村を――往復した!

 凄い速度だ! ネコちゃんの飛行能力、とんでもなかった!


「タイシ~、せいこうしたです?」

「ハナちゃん、成功したよ! あっちの森と、連絡が取れたんだよ!」

「やったです~!」


 そう、これであっちの森と素早く連絡が取れるようになった!

 これは――革命だ!

 ネコちゃん便を使えば――森と森で、連絡を取り合えるんだ!


「タイシさん、これがうまくいったということは……」

「そうですヤナさん、あっちの森と通信が出来ますよ」

「うわあ! それはすばらしい!」


 リアルタイムじゃあない。でも、出来ると出来ないとでは大違いだ。

 ネコちゃんほんとうに、ほんとうに凄い!


「まさか、空を高速で飛べるなんてなあ」

「飛んでいる所を見なかったから、てっきり飛べないのだと思ってたわ」

「あにゃ?」


 爺ちゃん婆ちゃんも、さすがに驚いたようだ。

 たしかにネコちゃん、この村では一度も飛んでいるところを見せなかった。

 ……飛ぶ必要が無かったからね。しょうがないよね。


「あ、あの……大志さん。これ、持ってきましたけど」

「ユキちゃんありがとう。無駄に買ったこれ、ついでに有効活用しよう」


 そして俺はもう一つ、思いついたことがあったりする。

 以前灰化花騒ぎの時に大量購入したアレを、ユキちゃんに持ってきて貰ったのだ。


「このアクションカム、どうするんですか?」

「ふっふっふ……。ユキちゃん、このネコちゃんを見て欲しい」

「はい?」

「ミュミュ?」


 ユキちゃんはネコちゃんを見て、首を傾げる。

 ネコちゃんはこっちを見上げて、同じように首を傾げた。

 ふふふふ。


「このネコちゃんは空を飛んで、あっちの森まで行ってくれるわけだ」

「ええ、実験は成功しましたね」


 実験は非常に上手く行ったね。もうキャッキャしちゃったよ。

 今回は、それをさらに発展させる。このアクションカムを使って。

 すなわち――。


「ネコちゃんに飛んでもらっているときに――これで撮影したら?」

「あ! あああ!」


 ――そう、空撮だ。

 エルフ世界を……空から撮影することが可能だ!

 しかも長距離を撮影でき、俺たちが行ったことの無い――よその森の中まで到達できる。

 これは、とんでもない映像資料になる。


「タイシタイシ、うごくしゃしん、そらからとれちゃうです?」

「そうなんだよ。空から見下ろした風景、動く写真に出来ちゃう」

「――うっきゃ~! それはすごいです~! みたいです~!」


 ハナちゃんは、空から見下ろした映像が見たくてたまらないようだ。

 だって、エルフたちはそんな映像、見たこと無いだろうからね。

 鳥の視点からの映像。これは、エルフたちにとっては衝撃映像だろう。


「大志さん、その映像があれば、地図作成もよりはかどりますよね!」

「――ちずときいて、とんできました!」


 カナさんが息を切らせながら、走ってきた。

 そうなんです。これで地図がより正確になるんです。

 空撮映像をつなぎ合わせても良いんだけど、実写は割と見づらい。

 見づらい地図は使いづらい。

 ということで結局の所、上手い具合に手書きで記号化する必要がある。

 ただそれが上手く行けば……エルフ世界の地図が、もっともっと使いやすくなるわけだ。


「よーし! 今度はこのアクションカムをつけてあっちの森に、ネコちゃん便を飛ばそう!」

「ネコちゃん、たのむです~!」

「ミュ!」


 全ては、ネコちゃんにかかっている。

 そしてネコちゃん、誇らしげに返事をした――ような気がした。


「あにゃにゃ」

「ネコちゃんは『任せて!』って言ってるそうだ」


 ――あ、そういやシャムちゃん、言ってることがわかるんだった。

 しかし思わぬ所から、思わぬ事が分かった。

 これもまた、素敵な出会いのおかげだね!



 ◇



 アクションカムにモバイルバッテリから給電して運用すると、連続十時間の動画撮影が可能となる。

 今回この構成でネコちゃんにあっちの森とこの村とを往復してもらったところ……。


「あや~! すごいはやさです~!」

「うわわわ! みずうみの大きさ、よくわかりますね!」

「はわー!」


 とんでもない映像が撮れました。

 始まりは灰色の森、そしてすぐに大きな湖。次に眼下に広がる広大な平原、遠くに見えるあっちの森。

 たまに、ちいさく平原の人たちが旅する様子も写っていたり。

 とにかく、大興奮の空撮映像が撮れた。


「このカメラ、ちっちゃいのにすごいですね」

「きれいにとれてるです~」


 ヤナさんとハナちゃん、この映像を撮影したカメラにも興味を持ったようだ。

 十一番のシールが貼ってあるやつを、こねくりしている。

 どんなカメラか、知っておいてもらおう。


「これは近年登場した新しい概念のカメラでして、小型で頑丈、水の中でも空の上でもなんでも来いのすごいやつです」

「うみでも、つかってたです~」

「そうそう、そういう極限状態でも動く写真が撮れちゃう、便利なカメラなんだ」

「べんりです~」

「ほほう」


 ほかにも、あんまり使わない機能とかだけど教えておくか。

 

「こうしてこうすると……時間をものすごいゆっくりにして、撮影することもできます」


 ほとんど使ったことは無いけど、面白い映像が撮れるね。

 ためしに十一番のやつをスーパースローにして撮影して……と。

 ほんで、そこにいる羽根を補修した妖精ちゃんに、ちょっとお願いだ。


「ねえねえ、羽根からキラキラ、出せる?」

「できるよ! できるよ! はいどうぞ!」


 羽根を補修した妖精ちゃん、元気に粒子をキラッキラ出してくれた。

 七色の粒子が、綺麗だね。

 よし、これでスーパースロー映像が撮れた。


「ありがとうね。お礼にそこの棚の駄菓子、好きなの食べていいよ」

「きゃい~!」


 羽根を補修した妖精ちゃん、きゃいっきゃいになって棚の方に飛んで行った。

 ……飴玉を抱えて食べ始めたね。沢山お食べ。


 さて、妖精ちゃんのお蔭で綺麗な映像が撮れたから、スマホで再生してみよう。

 SDカードを移して……と。スマホに入ってたカードは、十一番にいったん入れとくか。


「今のキラキラを、時間をゆっくりにして撮影してみたよ。こんなん」

「あやー! すごくゆっくりです~!」

「うわあ! これはすごいですね!」

「おえかきするときに、さんこうになりそう!」


 ハナちゃんとヤナさん、妖精ちゃんのキラキラ粒子スーパースロー映像に大盛り上がりだ。

 カナさんもいつの間にか参加して、お目々キラッキラ状態。


「動くしゃしんって、こんな使いかたもあるんですね」

「動きの速い物を分析する時に、私たちも使っていて重宝していますよ」

「きれいです~」

「なるほど、こうやってひかるのね。いいえがかけそう!」


 ハナちゃん一家はスーパースロー映像に首ったけだけど、ネコちゃん映像もまだあるからね。


 とまあ脇道に逸れつつも、ネコちゃん映像を上映していく。 

 映像は、あっちの森に到達したところでまた大盛り上がりになった。


「あや! ひなんしたひとたち、げんきそうです~」

「みんな、新しいせいかつ、できてるね」

「くだものたくさん、たべているわ」


 ネコちゃんがあっちの森に着いてからは、元族長さんたちが住んでいる村の映像が映し出される。

 森が灰化したとき、避難した人たちの村のようだ。

 元気で暮らしているとは聞いていたけど、実際に映像を見て確認できたね。


「えがったな~」

「みんなふとったとか、ふるえる」

「おれのじまんのよめさんも、さいきんちょっとふとったのだ」

「なんですと!?」


 ……どうやらあっちの森は食べ物がけっこう豊富なようで、避難した人たちは太ったようだ。

 元族長さんが救助に来た時、沢山の果物を持ってきてくれた。

 あれは、この豊富な食料資源のおかげ、でもあるんだな。ようやく実感が持てた。


「ふとった……」


 あと、おっちゃんが余計なことを言ったので、奥さんがお腹のお肉をぷにぷにし始めた。

 おっちゃん、それ禁句ですよ。あとで恐ろしい事が起きますよ。

 具体的に言うと、奥さんの減量につきあわされるという恐ろしい事が。

 食卓のおかずが日々、減っていくんですよ。


「ふとった……」

「そういえば、さいきんおなかがぷよぷよって……」

「まずいわ~」

「ふるえる」


 ああほら、他の女子エルフたちも……おなかを摘んでぷるぷるしはじめた。

 まあお腹のお肉もぷるぷるしているけど……。

 これは冬だから、しょうがないのではと思う。

 寒さに体が対応したのではと。


「――どうしましょ! どうしましょ!」

「ふるえる~」

「おにくが~!」


 さらにうろたえだす女子エルフたち。

 お肉大好き女エルフさんも、別の意味で「お肉が~」と叫んでいる。

 ……これはほっておくと、へんな減量するぞ。今のうちに対処しよう。


「そこな女子のみなさま、スキーをするとよい運動になりますよ。色々減らせますよ」

「さて、じゅんびしなきゃだわ」

「スキーするわよ~!」

「ふるえる」


 女子エルフたちが、いそいそと集会場を出て行った。

 女子のみなさまだけではちょっと心配なので、爺ちゃんに監督してもおう。


「爺ちゃん、お願いできるかな?」

「おう、俺も一緒に滑ってくるわ」


 そうして、爺ちゃんも腕まくりして集会場を後にした。

 これでひと安心だ。


 ……さて、映像の続きを鑑賞しよう。

 今映っているのは……避難民エルフたちが、あっちの森エルフとキャッキャしているところか。

 この村と通信ぽいことが出来そうなので、はしゃいでいるのかな?


(みんな、げんきそう~)


 彼らが元気な様子を見て、謎の声も安心したような感じだ。

 ほよほよと飛んできた神輿が、ぽふっと俺の頭の上に乗ってきた。


(みんなをよろしくね~)


 そうして、俺の頭でキャッキャする神輿だ。もぞもぞ動くので、ちょっとくすぐったい。

 なんか向きがじわじわと変わってる感じだ。


 ……ん?

 映像を良く見ると……光の玉が映っているような?

 神輿はそれに合わせて、向きを変えている感じだ。

 あれ? みんなをよろしく?


 ……まさか。


「……ねえハナちゃん、なんか光の玉が映っているけど……これって何?」

「あえ? これです?」


 ハナちゃんがスクリーンに映しだされている、光の玉を指さした。

 俺の気のせいじゃなく、ちゃんと映っているね。


「そうそうこれ、これってもしかして……」

(おともだち~)

「あっちのかみさまです?」

「それっぽいよね!」


 ――やっぱり! あっちの神様だ!

 なんかもう普通に、カメラに写っている。

 あ、なんか猛烈にカメラにアピールしてる……。

 なんとかして写ろうと、フレームインしまくり。

 

「これってかみさまなの?」

「わりとそのへん、とんでるんだな」

「ゆうしょくつくってると、とんでくるってあっちのばあちゃんがいってた」

(くいしんぼう~)


 どうやら、あっちの神様はよく姿を現すようだ。

 そしてとても食いしん坊らしい。

 ……でも、謎の声は人の事言えないんじゃないかな?


「かみさま、いろがちがうです?」

「このひかるの、かみさまだったのですか……。たしかに、いわれてみれば」


 ハナちゃんが気づいたけど、あっちの神様はオレンジ色の光だね。

 しかし、ヤナさんがびっくり顔でオレンジ色神様の映像を見ている。

 どうしたんだろう?


「ヤナさん、どうされました?」

「ああいや、あっちの森にいたころは、人なつこいひかりのたま、としかおもってなくて」

「え? 人なつこい光の球、ですか?」

「そうです。あっちの森めいぶつだったのですが……だれも、かみさまとは、きづいていないですね」


 え? 誰も神様だって気づいてない?

 こんなにあからさまなのに?


 ……あ、そうか。光の球が神様だというのを、知る方法がないんだ。

 謎の声を聞くことは普通の人は出来ないだろうし、はたから見ればたしかに「人なつこい光の球」にしか見えない。

 うちの神様だって、神社に奉ってそこから光の球が出てきて、ようやく「神様」だと個体認識できた。

 神様の拠点を作っていない状態では、光の球が「実は神様だよ」なんてわかる機会は、無かっただろう。


「あっちの森でのぎしきのとき、かならずいたのは……かみさまだった、からなんですね」

「それっぽいですね」

「あそびにきてた、としかおもってなかったですね……」


 あっちの森出身のヤナさん、なんとも微妙な表情だ。

 オレンジ色の光の球が神様だとわかっていれば、色々出来たこともあるだろうからね。

 まあ、わからなかったのだから仕方がない。

 しかし今回、ようやく判明した。なら、教えた方が良いと思う。

 

「これ、教えてあげた方が良いですよね」

「そうですね。まあ……あっちの森のみんなもかわいがってますので、あつかいはかわらないでしょうけど」

「可愛がってますか」


 どうやら、神様とわからないまま、可愛がられているらしい。


「食べものとかをあげたり、いっしょにあそんだりしてますね。私も、ちいさいころはよくあそんでもらいました」

「神様を奉っているのと、結果は一緒ですね」

「ええ。なのでげんきいっぱいですね」


 あっちの森の神様、元気なのか。

 神様だとわかっていなくても、ちやほやはしているわけで。

 それなら、謎の神力も補給できているのかもだ。


「おしえてあげたら、あっちの森のみんな……きっとびっくりしますよ」

「ですね。あっちの森の神様も、もっと可愛がって貰えるかもしれませんよ」

「それは良いですね」


 しかしまあ、資料映像実験のつもりが、とんでもない事実が判明してしまった。

 いきなり大きな成果が出たね。

 まさか、あっちの森の神様が、神様と認識されていなかったなんて……。

 これからは神様と認識されるだろうから、おもいっきりちやほやしてもらって下さいだね。


「タイシ~、かみさましかうつってないです?」

「……カメラに張り付いたね」


 ……でもね、あっちの森の神様……カメラのレンズに張り付かないでね。

 なんも見えないわけで。カメラに写りたいのは、よ~くわかりましたから。


 というわけで、あっちの森映像の後半は大半がオレンジ色神様の、プロモーション映像となった。

 ヤナさんが言うとおり、とても人なつこい神様のようだ。

 なんというか……あっちの森の神様も、どうやら愉快な存在みたいだね。



 ◇



 空撮映像を入手し、さらに平原のひとたちからも情報を得て。

 地図の空白がまた埋まった。


「どうですか?」


 カナさんが仕上げた地図は、細かい所が修正されてより見やすくなった。

 まあ、洞窟からあっちの森周辺までは、だけど。

 ほかの地域は、空撮していないので正確かどうかは確認できない。

 ただ、それでも大きな進歩を果たした。


「映像資料と比較したら、とてもいい感じですね。カナさん、大したものです」

「おかあさん、すごいです~」

「カナ、やったじゃないか」

「うふふ」


 仕事が認められたカナさん、耳をへにょっとさせてご機嫌だ。

 この調子で、引き続き継続して頂きたい。


 ……しかし、地図を見ると――気になるところもある。

 地図そのものではなく、森の配置について。

 この辺、ちょっと聞いてみよう。


「あの、ひとつ気になったのですけど……ここから上って、なんでこうなんですか?」

「あえ? こっからうえです?」


 ハナちゃんがぴこっと指さしたところは、北の方だ。

 この地域に、違和感がある。


「……こっから上、北の方って……空白のままですよね?」


 そうなのだ。北の方が、ずっと空白なのである。

 この疑問に、カナさんが答えてくれるが……。


「こっからうえですか……へいげんのひとたちも、あしをはこんでないみたいですね」

「ふしぎです~」


 聞き取りをしているカナさんも、話を聞いたことは無いようだ。

 というか、聞いていたら書込みはするよね。

 ハナちゃんも不思議そうだけど、理由が分からないわけだ。

 ヤナさんはどうだろう?


「ヤナさん、なにか御存じでしょうか?」

「あ~、なんか聞いたことあります」

「あるんですか」

「はい」


 どうやらヤナさんは何かを知っているようだ。

 して、その聞いたこととはなんだろう?


「その聞いたことって、なんでしょうか?」

「かんたんなはなしですよ。このへん、森がないのでたびができないのです」

「あえ? もりがないです?」

「聞いただけだけどね」


 ……森が無い?

 まあ、森が無いと水や食料の補給が出来ないから、確かに旅は出来ないね。そこは納得だ。

 でも、なんで――森が無いんだ?


「森がない理由とか、わかりますか?」

「さっぱりです。そういうものかと」

「あや~……なぞです~」


 森が無い理由については、ヤナさんも知らないようだ。

 しょうがないか。地図を作成したのだって、ごく最近の話である。

 洞窟から半径五百キロ程度、しかわかっていない。


 資料映像でも、赤茶けた土の荒野が結構写っていた。

 というか、荒野の方が多いね。オーストラリアみたいな感じの。

 でも、その中に森がある程度の距離を保って点在している、ように見える。

 だから、この上の方にも……何にも無いってことは無いのでは。

 今の所なんとも言えないけど……俺たちが「森は無い」と思っているだけ、という可能性も。

 現地調査もしていないのだから、わかるわけもないけど。

 ……これは、もうすこし様子を見よう。


「いつかこの地域にも、なにか書き込めたら良いですね」

「そうですね。きっとこのへん、なにかありますよ」

「そのときは、がんばってちずをかきますね!」

「たのしいひとたち、いたらいいです~」


 みんなで、地図の空白地帯を見つめる。

 この空白が、いつか埋まる日を夢見て、目を輝かせて。

 慌てず騒がず、じっくり取り組みましょう!



 ◇



「ミュミュ~」

「ミュ~ン」


 今日もまた、あっちの森とネコちゃん便で通信する。

 数日に一回、頻度はそんなに多くせず。

 しかし、これだけでも大きく違った。


『みっかごくらいに、じゅうごにんほど、かんこうにいきます』

『じてんしゃとリアカー、さんだいずつほしいです』

『くだもの、どれくらいひつようですか?』


 こっちに何人が、いつごろ来るのか。

 あっちの森は、何が欲しいのか。

 こっちが何を欲しがっているのか。


 こんなことを、通信でやり取りするようになった。

 結果、ある程度の事前準備が可能となった。

 そう――予約が可能となったのである!


「しゅくはくしせつ、あけときます」

「リアカー、ありますよ」

「すっぱいやつを、じゅっこくらい。あま~いやつは、たくさんで」


 そして俺を仲介せずとも、村のエルフたちがやり取りをしてくれている。

 ICレコーダーに声を吹き込んだり、再生するだけだからね。

 言葉で意思疎通ができるので、運用はそう難しくないわけだ。


 これにより、観光地としてのサービスを向上させられる。

 意思決定が速くなったり、必要な物を準備できたり、到着してすぐに宿に入れたり。

 村の運営が、それなりに円滑になった。


「光る球は神様ですよ。ちやほやしてあげてください」


 あとは、光る球が神様だと教えてあげた。

 そしたら……。


『あれってかみさまなんですか!』

『しらずに、いっしょにあそんでました……。まあ、しっててもあそぶんですけど』

『もっと、ちやほやしますね』

『みんなでありがとうっていったら、ひかりがつよくなりました』


 驚きの声とともに、もっとちやほやするという声も。

 あっちの森の神様の光も強くなったようで、パワーアップしたかもだね。

 良かった良かった。


 こうして、あっちの森との交流がずっと深まるという、大きな成果が出た。

 ほかにも――。


『やきそばのざいりょう、もってきてほしいです』

『いま、きゅうけいじょうは、まんいんですよー』

『きょうは、つりびより』


 リザードマンより、湖畔リゾートの状況がすぐさま伝わるようになった。

 そして、こちらからもすぐさま伝えられる。

 遠くの森との通信だけではなく、近くの通信も便利になったわけだ。

 電波が届かないところと通信するときは、ネコちゃんにお任せ、となった。


「ネコちゃんありがとうね」

「ニュ~」

「ミュミュ~」

「ミュ~ン」


 ネコちゃんたちも、役立てたのが嬉しいのかしっぽをピンとたててご機嫌だ。


「もちろん君もだよ。君が気づかなかったら、ずっと分からないままだったから」

「あにゃ~」

「ありがとうです~」


 今回の立役者であるシャムちゃんを、ハナちゃんと一緒になでなでする。

 嬉しいのか、シャムちゃんは両手を上げてキャッキャしているね。

 肉球かわいい。



 ◇



「タイシタイシ~、ハナ、ひらがなけっこうかけるようになったです~」

「おお、ハナちゃん字がうまくなったね。えらいえらい」

「うふ~」


 ネコちゃん便が軌道に乗って、俺無しでも運用できるようになった頃。

 ハナちゃんや他のエルフたちの、日本語学習が進む。

 今ハナちゃんが書いたひらがなは……。


”はなは”


 と書いてあった。

 ……ハナちゃん、自分の名前、文字で書けるようになったんだね。

 言葉の学習では、これは大事な一歩だ。


「ハナちゃん、名前書けるようになったんだ。凄いね!」

「うふふ~。ほかにもたくさん、かけるですよ~!」


 偉いねと褒めたら、ハナちゃんうふうふ状態だ。

 ご機嫌で他にも文字をかきかきし始める。


「かけたです~」

「どれどれ……」


 ハナちゃんが新たに書いた文字を見ると……。


”たいし”


 と、書いてあった。俺の名前だ。


「タイシ~、どうです~」

「良いね良いね、自分の名前を書いてくれたんだ」

「あい~!」

「ありがとうね。お礼になでなでしちゃうよ!」

「うきゃ~」


 こんな感じで、ひらがな一つでハナちゃんとキャッキャする。

 ほめて伸ばす方針だからね。甘やかしちゃうからね。


「わたしたちもかけるよ! かけるよ!」

「どうかな? どうかな?」

「しっぱいしたやつ~……」


 妖精さんたちも褒めて欲しいのか、きゃいきゃいとノートにひらがなを書き始めた。

 ……意外と字が上手いでござる。

 あれだ、体が小さいから、大きな動作をすると誤差が少ないんだろうな。

 イトカワちゃんの文字は、相変わらずイトカワ形状なんだけど。


「はやく、マンガをよみたいな! よみたいな!」

「どんなおはなしだろうね! たのしみだね!」

「きゃい~」


 妖精さん達のやる気は高いようで、意欲的に学習できているね。

 もしかしたら、ようせい語もいずれわかるかもしれない。

 そしたら、妖精さんたちも縄文語? みたいなのを書いてくれたりして。

 ……まさかね。


 ……。


 まさか?


 ――――。


 色々怖いので、ようせい語の検証はお袋に丸投げする方針にした。

 もう俺の対処能力を超えるからね。気づかなかったふりをするのだ。

 こういうのは、文系の人に任せるに限る。それがいい。そうしよう。


 ということで、一つの可能性についての調査を先送りにする。

 俺は何も気づかなかった。だから罪はないのだよ。フフフ。


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