第二話 あにゃ?
お袋はエルフたちに伝わる伝承を聞き取り調査して、また集会場で小話大会中だ。
そして俺は俺で、前から計画していた冬ならではのイベントを開催中だ。
今日はイベントが同時進行なので、なかなか忙しい日である。
今こっちで開催しているのは、雪像を作る催しだ。
参加者のみなさん、キャッキャと前衛芸術雪像をこさえている。
「タイシ~、ハナのつくったゆきだるま、どうです?」
「……ひとりでどうやって、この大きさの雪だるまを……」
なお、ハナちゃんは一.五メートルくらいの雪だるまをこさえた模様。
これいったい、どうやって作ったの?
「こういうあそびも、いいもんだな~」
「かんたんにかたちがつくれるとか、すてき」
「おれのじまんのゆきだるま、みてほしいのだ」
ステキさんは、冒涜的な宇宙的存在っぽい雪像を作っているね……なんかにょろにょろしている。
ちょっと正気度が下がるかもしれない。
他の方々のは……縄文土器みたいな文様が付いた雪だるまを作ったりと、造形に凝ったものもちらほら。
特筆すべきは、おっちゃんエルフだね。
おっちゃんエルフの雪だるまとかは、見事なフクロオオカミの雪像になっているよ。
普通に凄いよ。あと、それ一時間で作ったのがもっとすごいよ。
「ばうばう?」
「ばう~」
「ばう」
あまりの凄さに、フクロオオカミが集まってきちゃったし。
おっちゃんエルフ、大満足そうな顔だ。
この調子で、いろいろ雪像を作ってもらったら楽しいかもだね。
「あ、エルフさんたちの雪だるま、耳がありますね」
「トレードマークだからかな?」
おっちゃんエルフ以外の雪だるまには、ちょこんとエルフ耳が。
かわいらしいワンポイントとなっていて、目を惹くね。
とまあ可愛らしい? イベントになったけど、今日も村は平和だ。
この調子で、ゆったり過ごしましょう!
ちなみに、おっちゃんエルフが調子に乗ってリアル雪像を沢山作ったので、雪まつりみたいになりました。
なんだかいつの間にか観光名所が出来ちゃったけど、おっちゃんありがとうだ。
あとで良いお酒を進呈しておこう。
◇
「それでは、わたしたちはあっちのもりにいきます」
「また、あそびにくるかな~」
「しばしのおわかれですね」
一月もそろそろ終わりになり。長く村で滞在していた、平原のお三方が旅立つ事に。
目的地はあっちの森なので、まあ来月の中ぐらいにはまた来てくれるだろうけど。
「わたしたちも、いったんあっちのもりにかえります」
「でんちがおやつになるって、おしえてきますね」
一緒に、元族長さんと団長さんも同行だ。
賑やかな旅路になるね。お気をつけて、行ってらっしゃい!
ということで、旅人を見送った翌日。
今度は親父を見送りだ。
「じゃあ、佐渡に行くな。二月中旬ぐらいには帰ってくるから」
「私も一緒に行くわよ。あっちにも色々、歴史がありそうだから。特に日本書紀に出てきた、佐渡にやってきた謎の粛慎人の伝承が気になるわ」
親父は焼き物研修に、お袋はフィールドワークのために佐渡へと旅立っていった。
夫婦水入らず、とはならないけど、仲良く旅行してくださいだね。
「それとあともうちょっとで、『光る人影伝説』が分かりそうだけど……それらは佐渡でまとめるわ」
「そうなんだ。だいぶ分かってきているの?」
「ええ、結構わかって来たわ。あれは多分、そう昔の話じゃないわね。話に派生がないのが、その証拠よ」
お袋はどうも、例の稲川さん風語りのあの伝説について、何かわかってきたようだ。
一緒に話を聞いていた俺にはさっぱりなんだけど、何かつかみどころがあったらしい。
確かに、話に派生は無かった。全ての話が、ブレていない。
なるほど、言い伝えだから、派生の多寡でも話が生まれた時期が推測できるんだな。
「ねえねえ、わかってきそうとかいってるよ?」
「あれで、わかるものなんだ」
「いやまさか、それでわかるわけないじゃん……いやまさか」
お袋がキャッキャと話をしている後ろでは、やっぱり例の三人組がひそひそ話をしている。
光る人影伝説の話が出ると、いつも気まずそうな三人だけど……。
どうしたんだろう?
「他にも、蛇に関する言い伝えとかも面白いわ」
「蛇?」
「縄文人と一緒で、蛇信仰があるみたい。蛇を大事にしているみたいで、土器にも蛇身装飾文があるのよ」
蛇身装飾文とかいわれても、どれがそれだか分からない。
ただまあ、お袋には分かるんだろう。
「そんなところも、一致するんだ」
「そうなの。というか、ミジャグジ様とかも……もともとは大和民族に対する、先住民の信仰という説があるわ。黒姫伝説だって、大蛇信仰をベースに組み立てられているもの」
「……なんだか、つながって来たね」
「ええ。蛇信仰ある所に――先住民族の影あり、よ」
エルフたちから話を聞けば聞くほど、奇妙な一致が見えてきているようだ。
あの養命お酒大人気騒ぎ、ちゃんと話を聞いた成果が出ているんだね。
「まあ、話は長くなるからこの辺で。結果を楽しみにしてらっしゃい。じゃあ、行ってくるわね!」
「大志、行ってくるな。村を頼んだ」
「二人とも、行ってらっしゃい。村は任せてほしい」
「いってらっしゃいです~。ハナも、がんばるです~」
とまあ、お袋が佐渡に行ってしまうので、村でのフィールドワークはいったんお休みだ。
暇を見ては、俺もちょっと聞き取り調査などをしておこう。
こうして、旅立つ人たちを見送る日が続く。
なんだか、一気に人が旅立っていった感じだ。
「あや~、ちょっとさみしいです~」
「みんなすぐに帰ってくるから、ちょっとの辛抱だよ」
「あい~」
村から人が旅立っていくのは、まあ寂しい物で。
ハナちゃんと、しんみり見送ったのだった。
「俺らはまだまだのんびりしてくぜ」
「久々だものね。大志ちゃん、よろしくね」
「私たちも、のんびりしますよ」
「タイシー! ヨロシク!」
爺ちゃん一行は、温泉施設が気に入りすぎて長居するようだ。
俺も爺ちゃん婆ちゃんに、孝行するチャンスなわけで。
ちたまで行きたい場所があったら、いろいろ連れて行ってあげよう。
「みんな、集会場でお茶しようか」
「良いねえ。あの妖精さんたちの和菓子、美味いんだよな」
「甘さがクドくなくて、優しいのよね」
「あにゃ~!」
今日は気温マイナス二十℃、超極寒。
あまり外で過ごさず、家に引きこもろう。
というわけで、みんなで集会場へ移動だ。
雑貨屋のためにストーブをつけているので、いつでもぽっかぽか。
お仕事をしていて寒さで参った村人の、避難所にもなっている。
人が常にいる施設というのは、大事な物だね。
「ふがふが」
「ひいおばあちゃん、こんにちわです~」
「ふがふが~」
お店番のひいおばあちゃんに元気に挨拶して、集会場へ。
そこにはヤナさんもいて、無線をモニターしていた。
「あ、タイシさんこんにちわ」
「ヤナさんこんにちは。何かありました?」
「火のようじんで、しょうぼうだんがじゅんかい中なんです」
「消防団のお仕事ですか」
「はい。むせんがあるので、仕事がしやすいですね」
そんなヤナさん、お茶を飲みながら待機だ。
他の消防団メンバーが帰ってきたら、おにぎりとあったかいお味噌汁でもご馳走しようかな?
まあ、帰ってきてから聞いてみよう。
「タイシタイシ~、おちゃがはいったですよ~」
「ハナちゃんありがと、それじゃあゆっくりしようか」
「あい~」
ハナちゃんが入れてくれたお茶をすすって、ほっと一息。
梅昆布茶か。寒いときに飲むと、これは美味しいね。
「……あにゃ?」
そんなほんわかとした一時に、シャムちゃんが何かを見つめて首を傾げた。
どうしたんだろう?
「あにゃ? あにゃにゃ?」
そうして、何かをこちらに持ってきた。
……紙袋?
「あにゃ~……」
中を覗くと……衣類がいくつか。
――この衣類の模様、見覚えがあるぞ?
これってたしか……。
「あや! へいげんのひとたちの、ふくです~!」
ハナちゃんもわかったようだ。これ、平原のお三方の着ていた服だ。
これ、忘れ物だよ。
「あ~困ったな。これ、どうしよう」
「戻ってきたときに、渡すしかないな」
「もう追いつくの無理だよね、昨日出発しちゃったから」
連絡手段もないから、どうしようもない。
せめてあっちの森と、何か連絡をとる手段があれば違うかもだけど。
残念ながら、今のところ打つ手は無いわけで。
「忘れないように、ここに置いておこう」
「そうするです~」
こうして、村に忘れ物が残されたのだった。
そうだよね。こういうこともあるよね。
今後もこういうことが予想されるから、村に忘れ物保管所を作らないとだめかもだ。
「あにゃ、にゃにゃ~」
そんな忘れ物を、シャムちゃんはじっと見つめていた。
平原のお三方と仲良しだっただけに、心配なようだ。
エルフ世界でもシャムちゃんの世界でも、服は貴重品だ。
貴重な物を忘れてしまった彼らを、心底心配しているんだろうな。
「まあ、今は待つしか無いよ。大事に保管しておこう」
「あにゃ~」
シャムちゃんの頭を撫でて、慰めておいた。
誰かをここまで心配できるなんて、良い子だね。
――その次の日。
「あにゃ、あにゃにゃ」
「ミュミュ?」
「あにゃ~」
「ミュ~」
集会場で、シャムちゃんが羽ネコちゃんとにゃあにゃあしていた。
何を言っているのかわからないけど、仲は良さそうだね。
……おなじネコっぽい系だから、気が合うのかな?
というか、言葉分かるの?
◇
――さらに翌日。おやつを買いに、ハナちゃんと駄菓子屋へ。
そこで、違和感を感じた。
「あえ? なんかちがうです?」
「ハナちゃんも気になった? なんか違うよね?」
「あい~。なんか、たりないかんじです?」
ハナちゃんも違和感を感じたようで、何か足りない感じがするとのこと。
なんだろう?
……。
――あ! 無い! 忘れ物が無い!
大変だ!
「ハナちゃん大変だよ! 平原の人たちの忘れ物、見当たらないよ!」
「――あややや! たいへんです~!」
俺とハナちゃん、大慌て!
わーわーあやややと忘れ物を探す。
――しかし、どこを探しても……見つからない。
「うわ~、これまずいよ。どこかに行っちゃったよ……」
「あえ~? あえ~?」
俺とハナちゃん、ほとほと困り果てる。ハナちゃん「あえ~? あえ~?」と右に左に。
預かった忘れ物をなくすなんて、大失敗だ……。
「おい大志、大騒ぎしてるけどどうした?」
「大志ちゃん、困りごと?」
「あにゃ?」
ハナちゃんと一緒にしょんぼりしていると、爺ちゃんたちが騒ぎを聞いてやってきた。
とりあえず、今起きていることを話そう。
「爺ちゃん、ほらあの忘れ物。あれがどっか行っちゃったんだよ」
「忘れ物? あ~、平原の人たちの服か」
「どっかにいっちゃったの?」
「あい~……」
爺ちゃんたちも、服が入っていた紙袋、それが置いてあった棚を見て何も無いことを確認する。
ほんとこれ、どうしよう?
「あにゃ? にゃにゃ~にゃ。にゃあ」
あれ? シャムちゃんが棚を指さして、にゃあにゃあ言っている。
……なんて言っているんだろう?
「爺ちゃん、この子はなんて言っているの?」
「ちっと待て。……にゃあ、あにゃ?」
「あにゃにゃ~」
「あにゃ? にゃにゃにゃ」
「あにゃ~」
爺ちゃんがシャムちゃんに、あにゃ語で何かを聞いている。
しばらくにゃあにゃあやりとりがあった後で、爺ちゃんふーっと息を吐いた。
なんて言ってるのかな?
「……大志、あの忘れ物――送った、って言ってるぞ」
「え?」
忘れ物を――送った?
「え? どう言うこと? 送ったって、どうやって?」
「おくったです?」
俺とハナちゃん、意味が分からない。
だって、渡すのが不可能だったから保管していたわけで。
それを送った? なにを、どうして?
「あにゃ~」
「ほら、あの羽根の生えたネコちゃんがいたろ? あの子に頼んだんだってよ」
「――え!?」
なんですと!?
「……シャムちゃん、本当なの?」
「あにゃ? ……ホントホント! タノンダ!」
聞くところによると、本当らしい。
どうやら、俺が気づいていなかったこと――あったようだ。
◇
ここはとある世界のとある平原。
平原のお三方とそのた二人が、のんびり旅をしていました。
「いや~、自転車は快適ですな~」
「すいすい進めるかな~」
「もう、欠かせないわね」
「ばう~」
キコキコと自転車を漕いで、平原のお三方はもうご機嫌。
快調に旅路を進んでいました。
「あと一日で着きますな」
「森に帰ったら、お土産を配りませんとな」
「ばうばう」
元族長さんと団長さんも、快調に自転車を走らせます。
その後ろには、リアカーを引くフクロオオカミ。
飴をもぐもぐ食べながら、ご機嫌で走っています。
「そろそろ休憩しますかな?」
「あ、良いですね」
「お茶でも飲みましょう」
そんな元族長さんと団長さんに、平原のお父さんが休憩を提案しました。
とくに異論は無いので、お茶をすることに。
「お湯、沸かしますね」
「ゆっくりするかな~」
そうしてキャンプ道具を取り出し、お湯を沸かし始めます。
その時のことです。
「――あれ!? 無い! 無いかな!?」
平原の娘ちゃん、なにやら大慌てです!
「お母さ~ん! 服が! 服がないかな~!」
「あら! それ本当!?」
「本当かな~!」
娘ちゃんとお母さん、慌てて荷物をひっくり返します。
しかし、どこを探しても――見つかりませんでした。
「どこかに置いて来ちゃったのかしら……」
「やっちゃったかな~……」
「あ~もしかしたら、あの村に忘れてきたのかも? あの村に行ったら、聞いてみましょう」
「そうするかな~」
無い物はどうしようもないですからね。
あの村に保管してあること、祈りましょう。
「あ~、しょんぼりかな~」
しょんぼり娘ちゃん、ずずずっとお茶をすすってヘコみます。
さあさあ、元気出して。なんとかなるさ~。
「まあ、そろそろ出よう。服はまた、作ってあげるから」
「もうしわけないかな~」
ヘコんでばかりはいられません。そろそろ出発しましょうとなりました。
そうしていそいそと出発の準備のため、お片付けです。
「ん? 何か……聞こえたな?」
お片付けが終わろうとしているとき、平原のお父さんの耳が……何かを捉えました。
何か、聞こえたようです。
「ミュ~……」
「あれれ? あの、空を飛んでるのって……」
「――ネコちゃん!?」
遠く遠くに、空を飛んでこっちに向かってくる存在が見えました。
エルフのスーパーお目々は、その正体をはっきり捉えていました。
そう――ネコちゃんが、空を飛んでいるのです!
「ミュミュ~!」
「わああ! ネコちゃんどうしたのかな~!?」
「あ、なにか……ぶら下げているぞ?」
やがて、ネコちゃんがみんなの所にたどり着きました。
そしてその首には――紙袋が。
「あ! これ! この袋って!?」
「ミュ~」
見覚えのある紙袋に気づいた娘ちゃん、さっそく紙袋をのぞき込みます。
その中には――服が、入っていました!
「わーい! 服! 服が戻ってきたかな~!」
「良かったわね!」
「ネコちゃん、凄いな! 良い子良い子~」
「ミュ~」
大喜びの娘ちゃんとお母さん、そしてネコちゃんをなでなでのお父さんでした。
ネコちゃんは褒められて撫でられて、もうご機嫌!
みんな、良かったね!
「これ、多分……忘れ物に気づいて、あっちの村でなんとかしてくれたんだな」
「そう思うかな~」
「あの村、本当に凄いわね!」
ネコちゃんを可愛がりながら、平原のお三方はキャッキャと大はしゃぎ。
無くしたと思っていた物が戻ってきたので、嬉しさもひとしおです。
「君、このまま帰ることは出来る?」
「ミュン」
「大丈夫そうですね」
元族長さんがネコちゃんに問いかけると、自信のあるような返事が返ってきました。
団長さんも、その様子をみて一安心です。
「それじゃあ、私たちの写真を撮って、持って行って貰おう」
「あ! それいいかな! 受け取った証明になるかな!」
「良いわね良いわね! さっそく写真、撮りましょう!」
平原のお父さん、良いこと思いつきましたね。
これなら、荷物を届けたのが証明出来ます。
「じゃあ私が撮りますので、三人で並んで下さい」
「ネコちゃんも一緒にね」
「ミュ」
元族長さんがカメラを構えて、三人を撮ってあげるようですね。
団長さんに勧められて、ネコちゃんも三人のもとへ。
「はい! 写真撮れました」
「ありがとうございます。……じゃあネコちゃん、これをタイシさんとこに届けて欲しいな」
「お願いできるかな~?」
「ミュン!」
任せて! という感じで、ネコちゃん写真をくわえました。
そして――羽をぱたぱた。ぱたぱた。
羽ばたいたネコちゃん、ふわっと飛び上がり――もの凄い速さで飛んでいきます。
「あ、飛んだ」
「わわ! 速いかな!」
「あんなに速く、飛べたのね」
「ミュ~」
最後に聞こえたネコちゃんの鳴き声は……「またね!」と聞こえた気がしました。
◇
――同日、夕方。
「ミュ~」
「……平原の人たちの、写真だ」
「あや~、にもつうけとってるです~」
「あにゃ」
村にネコちゃんが戻ってきた。平原のお三方が映っている写真をくわえて。
これは……ちゃんと荷物を届けているな。
「まさか、ネコちゃんにこんな特技があったとは……」
「きづかなかったです~」
「ミュミュ~」
ネコちゃん、「エヘン!」といった感じで得意げだ。
いやホント、これは凄いよ。
「ネコちゃん凄いよ~、もう褒めまくっちゃうよ!」
「ハナもほめちゃうです~!」
「ミュ~ン、ミュ~ン」
ネコちゃん、褒められて撫でられてもう超ご機嫌だね。
ゴロゴロと喉を鳴らして、ひっくり返っている。
可愛いなあ。
……でも、どうしてシャムちゃんはこの特殊能力に気づけたんだろう?
聞いてみよう。
「シャムちゃん、どうしてこれが分かったの?」
「あにゃ、あにゃ~にゃ?」
「向こうから言って来たそうだ」
向こうから? ネコちゃん側からの申し出?
「あにゃにゃにゃ」
「このネコちゃんが『僕なら、届けられるよ?』って、聞いてきたんだと」
「ミュン」
うわ~……これはほんと驚きだ。
シャムちゃん、このネコちゃんと会話出来てるよ……。
このネコちゃんの特殊能力、シャムちゃんがいなかったらずっと分からないままだったな。
「ネコちゃんもシャムちゃんも、お手柄だよ! これはもう、たくさんお礼しちゃうよ!」
「あ~にゃ!」
「ミュミュ~!」
シャムちゃんとネコちゃん、お礼をすると言ったらもうにゃんにゃん大喜びだ。
さてさて、何をお礼したら良いかな?
――とその前に。
俺は今、ちょっと思いついてしまった。
もしこれが可能なら……。確認してみよう。
「ね、ねえ。もしかしてさ――」




