第一話 フライングヒューマノイド伝説?
エルフたちが日本語を勉強し始めた結果、ハナちゃんのひらがな練習ノートにアイヌ語の単語を発見してしまった。
それから、情報を繋ぎ合わせた結果……エルフたちの祖先が、ちたまにっぽんと関係があったかもしれない、と言う所まで推測できた。
いまお袋の中では、「エルフちたまにっぽんにいたかも仮説」がブームだ。
「ふがふが」
「というおはなしです~」
「なるほど、面白い昔話ですね。小人伝説ですか」
「ふが~」
そんなわけで、お袋はまず村一番の長老である、ハナちゃんのひいおばあちゃんから話を聞いている。
こうして昔話を集めて編纂すれば、何か分かるかもという狙いだ。
ちなみにユキちゃんは今日自動車学校なので、俺がお手伝いだ。
大した手伝いは、出来ていないのだけど。
「今日はお話を聞かせて頂いて、ありがとうございます」
「ふがふが、ふが~」
「まだまだあるって、いってるです~」
「それは、また明日お伺いしますね」
「ふが」
もう夕方も近いので、今日は終わりにするみたいだね。
明日引き続き、お話を聞くお仕事だ。
「あそうそう、ひいおばあちゃんには、お礼にこの薬用酒をお渡しします」
「ふが!」
「寝る前にちょこっとだけ飲むと、だんだん効いてきますよ」
「ふがふが~」
そして話をしてくれたお礼に、養命○を渡しているね。
滋養強壮に良いらしいから、ぴったりの贈り物かも。
ひいおばあちゃんも、にっこにこ笑顔で養○酒を受け取っている。
薬用酒を飲んで、より一層元気になってくださいだね。
「ちなみにこのお酒も、面白いいきさつがあるのよ。旅人を助けて手厚くもてなしたら、お礼に製法を伝えてくれたらしいわ。それをなんとか作り上げたら、こんな凄いやつが出来たの」
「その旅人凄いな。何者なんだろう」
「これが謎なの。でも、相当な知識を持っていたのは間違いないわね。徳川家康もこのお酒、飲んだらしいわよ」
おとぎ話みたいな話だけど、不思議なこともあるものだね。
助けた相手がまともな人だと、こういう良い話になるんだな。
「ね? 民俗学って面白いでしょ。お金にはならないけど」
「歴史で語られなかった出来事も、もしかしたら民話や伝承で拾えるかもしれないのか」
「そうなの。わざわざ言い伝えるって事は、重要な情報で後世に伝えたいからって場合もあるの」
「昔話、あなどれないなあ」
「あなどれないです~」
とまあハナちゃんちで聞き取り調査をしたり、薬用酒をあげてキャッキャしてもらったり。
ぼちぼちと調査をしていくお袋であった。
◇
翌日。またハナちゃんちにお袋と向かうと……。
「ふんが、ふんが」
この寒い中、ひいおばあちゃんが家の外で――めっちゃ元気そうに体操をしていた。
あれは……水泳する前にしたらいいよって教えた体操だね。
というかひいおばあちゃん、体柔らかいな! 前屈で、手がペタっと地面についているよ!
「ひいおばあちゃん、お早うございます」
「ふんが」
「あら、元気いっぱいそうですね」
「ふんがふんが」
まあ何を言っているかが良くわからないけど、元気なら良い事だね。
さて、今日もお袋の聞き取り調査を眺めながら、ハナちゃんちでのんびりすごそう。
――そんなことを考えていた時期が、俺にもありました。
午後になり、ハナちゃんちに行列ができる。
みなさん、お年寄りだ。
「むかしばなしをしたら、なんかすごいおさけがもらえるってききました!」
「それ、すごくきくってきいたんですよ」
「おれもそのおさけ、ほしいですな」
どうやら養○酒目当てらしい。
「ふが~」
「きのうのんだら、めっちゃきいたっていってるです~」
「それで、噂が広まったの?」
「あい~!」
ひいおばあちゃんが元気だった理由、聞いとけばよかった。
ほっといたせいで、大騒ぎになったよこれ。
「大志、ひとまず集会場に行きましょう。お年寄りを外で待たせるのは、良くないわ」
「そうだね、そうしよう」
ということで集会場に場所を移して、聞き取り調査を開始する。
「お袋、とりあえず俺は薬用酒調達してくるから、三十分ほど待ってて」
「わかったわ」
ということで車に乗って急いで町まで下りて、どでかいドラッグストアで調達してくる。
とりあえず在庫があるだけ買うことにする。
そんなに高い物じゃないからね。余ったら雑貨屋に置けば良いし。
「……業者?」
大量買いする俺を見て、アルバイトの若い兄ちゃんが首を傾げた。
まあ、間違ってはいない。お仕事で使うからね。
そうして怪しい目で見られながらも、大量の養命お酒を買って村に戻ると――。
「ではおれから!」
「つぎはわたし」
「おれもおれも」
誰が一番に話すか、ワイワイと決め事をしていた。
お年寄りたちも、活躍できるチャンスとあって大はりきりだ。
それじゃあ、もっとやる気を出してもらいましょう!
「はいみなさん、薬用酒を持ってきましたよ。たくさんあります」
「おお! これがうわさの!」
「みため、ごうか~」
「おはなし、がんばろ!」
養命お酒というすぺさる景品を目の前に出されて、お年寄りたちの目はキラッキラに。
効果はひいおばあちゃんで実証済みだから、みなさん欲しくてたまらないようだ。
「よーし! ほんじゃあおらからはなすだよ!」
とまあいろいろあって、ようやく最初のお年寄りが語り始めた。
「おらがこどものころのはなしなんだども、あるひ、みちをあるいていると――」
おじいちゃん、それは昔話というより……思い出話じゃないかな?
◇
そうしてお年寄りの昔話というよりよもやま話が語られ、お婆ちゃんとの馴れ初めが語られ。
民話とかそういうのは、特に関係ない話が沢山聞けた感じだ。
「お袋、民話とかと関係ないけど良いの?」
「これはこれで、エルフの人たちの文化がわかるから良いのよ」
「なるほど」
そう言われてみれば、彼らの生活や風習は結構聞けた。
こういう何気ないよもやま話でも、民俗学にとっては大事な情報なんだ。
なるほど確かに、根気はいるけど面白いかもだ。
「うむ。さいごはおれがはなすぞ」
「まってました!」
「じいさんのはなし、こわいんだよな~」
そしてオオトリで、どっかのお爺ちゃんが登場する。
村人たちが盛り上がっているところを見ると、話上手みたいだね。
ずずずとお茶を飲んだどっかのお爺ちゃん、雰囲気たっぷりに語り始める。
「はなしのだいめいは、なづけて『ひかるひとかげ』ですぞ」
おお! 光る人影か。これは民話っぽいぞ。
「おれたちがまえにすんでいた、あのむらには……あるいいつたえがあったんです」
雰囲気たっぷりに話し始める、どっかのお爺ちゃん。
声のトーンを落として、やや早口で語る。
「くんせいをつくると、ひかるひとかげがあらわれることがある、そんないいつたえが」
「ごくり」
言い伝え自体は他のエルフも聞いたことがあるようで、みなさん固唾を飲んで話に聞き入っている。
しかし、燻製を作るとあらわれる事がある、光る人影か……。
ホラーな感じがするね。
「おれはそんなはなし、しんじちゃいなかったんですよ。もちろんまわりのみんなもそう」
ぎょろりとした目で、会場の人たちを見渡すご老人。
「だけどあるひ……みんなでくんせいをつくったひのことでした。……いたんですよ――それが」
「ひええ」
「ふとそらをみあげると、ひかるひとかげが――こっちをみおろしていたんですよ!」
「ぎゃあああ!」
だんだん早口になるお年寄り。
話を聞いているみなさんはもう、叫んだりぷるぷるしたりと、様々な反応だ。
しかしご老人、畳み掛ける。
「こっちをみていうんですよ『くんせいの、いいにおいするじゃん?』って! そらから! ひかるひとかげが!」
「こわいです~!」
(きゃ~!)
あまりの怖さに、ハナちゃんと何故か神輿が俺の服の中に飛び込んでくる。
神様、いつの間に参加してたの!?
「おれはにげたんです! でも――おいかけてくるんです。ずっと――ずっと! ひとかげが!」
「こええええ」
ほかのみなさんもぷるぷる、俺の服の中でハナちゃんと神輿もぷるぷる。
エルフたちにとっては、鉄板の怪談話のようだ。
「『それ』からはしせんをかんじるんです! こっちをみているんです! じっとこっちを、みているんですよ!」
「あわわわわ……」
……というか、このご老人の語りかたって―ー稲川○二そっくり!
そりゃあ怖いよ。あの語りかたをされたら、夕食の献立説明だって怖くなるよ!
「それからしばらく、むらではよるになると――ひかるひとかげが、みられるようになったんです」
「……」
やがて話は終わり、集会場はしーんとなった。
みなさん、ぷるぷるしている。
……あれ? マイスターとマッチョさん、それとステキさんはぷるぷるしていないな。
「……なあ、このはなしってさ」
「あれよね?」
「あれじゃん?」
三人で、なんかうんうんと頷き合っているけど。
どうしたんだろう?
「三人とも、どうされました? 何か知っている事でも?」
お袋も気になったようで、三人に確認しているね。
「あ~、まああれじゃん? ちゃんと、ひをとおしたほうがいいってはなしじゃん?」
「そうよね。ひはちゃんと、とおさないと」
「まちがいない。ひはとおそう」
三人とも、なんだかバツの悪そうな顔をしてそんな事を言った。
火を通すって、何に?
「お袋、何のことかわかる?」
「さっぱりよ。でも、民話ってこんなものよ。ここから、どうやって真相にたどり着くのかが、腕の見せ所よ」
「さようで」
お袋は大はりきりだね。腕まくりとかしてるよ。
「じつはそんな、こわいはなしじゃないじゃん……」
「ただただ、めいわくなだけだったわね」
「ああ、あれはたいへんだった」
そんな大はりきりのお袋の後ろでは、なんだか三人がこそこそと話し合っていたのだった。
とまあ、村人が集まった小話大会は結構盛り上がって――。
「ふしぎなおさけ、もらっちゃった」
「こんや、さっそくのむぞ~」
「ふがふが」
……まあ色々な話が聞けた結果、養命お酒を大盤振る舞いした。
ハナちゃんのひいおばあちゃんとかは、二本目をゲットしてにっこにこだ。
「あ~、たくさん話が聞けたわ~。これから文字に起こさないと」
この騒ぎの発端であるお袋は、満足そうに伸びをしているね。
「こわいです~……」
(おばけ~……)
そしてハナちゃんと神輿は、相変わらず俺のシャツのなかでぷるっぷる。
二人とも、頭隠してお尻隠さず状態だ。
お化けの話し、苦手なのね……。
まあ、あのフライングアンドシャイニングヒューマノイド伝説、内容より語りかたが怖かった。
子供には刺激が強かったかもだ。
しかしこんなときは、別の事で気を引くのが良いね。
というわけで、この方に登場願おう。
「ギニャ?」
はいフクロイヌー! いるだけで周囲を和ませる、可愛いやつだよ!
「ほら二人とも、フクロイヌと遊んでいれば、怖いのもまぎれるよ。ほらほら」
「ギニャン」
「あや~、ふわふわです~」
(いやし~)
フクロイヌが醸す癒し空間のおかげで、ハナちゃんと神輿が落ち着いた。
さすがだね。俺もくすぐっちゃうぞ!
「ギニャギニャ」
「あら、私も混ぜてよ」
「ギニャン」
ということで、みんなでフクロイヌをくすぐって和んでいた時のこと。
「あのう……」
集会場に、平原のお父さんがやって来た。
何か用事かな?
「どうされました?」
「さっききいたのですけど、なんでも、おはなしをすると……ふしぎなおさけがもらえるって」
あ、噂を聞いてやって来たんだ。養命お酒の効果すごい。
「そうなんですよ。みなさんの民話とか伝承を聞かせてもらって、お礼にお酒を配っているんです」
「あ、ほんとだったんですね!」
「ええ、本当ですよ」
お袋が応対してくれたけど、平原のお父さんキャッキャし始めたね。
旅人である平原の人から話を聞けるのなら、お袋も歓迎だろう。
良い機会だから、平原のお父さんの話も聞いてみ――。
「――おーい! みんな! ほんとだって!」
……みんな?
「ふしぎなおさけ、もらえるんだ!」
「おはなし、いっぱいかんがえましたよ!」
「なにからはなそうかな~」
「おれもおれも」
――観光客が! 観光客が一気に押し寄せてきたよ!
噂が凄い速さで広まってるよ!
あと、お話を考えたって……まあ、それはそれで良いのか。
作り話でも、文化や思想はわかるらしいから。
しかし、また大勢集まってしまった。これ、どうしよう?
「……お袋、これどうする?」
「とりあえず、出発予定が決まっているとかの、急ぎの人から順番に聞いていきましょう。残りは明日で」
「わかった」
観光客のみなさんも鼻息が荒いので、今日聞けるところまでは聞こう。
明日とか近日中に、村を出発する人もいるからね。そういう人から順番だ。
ただ……。
「お袋さ、薬用酒……ちょっと足りないかもしれないけど」
「申し訳ないけど、また買ってきてもらえない?」
「分かった。三十分で戻ってくる」
「お願いね」
明日出発の人もいるだろうから、その分は最低必要だ。
急いで買って来よう。
◇
車で麓まで下りて、さっきとは別の大きなドラッグストアへと訪れる。
店員さんに話しかけて、養命お酒をあるだけ購入だ。
「……業者?」
そして会計の時、店員さんが不思議そうな顔をする。デジャヴである。
まあ店員さんは、さっきとは違って女の人だけど。
……栗色くせっ気の、けっこう可愛らしい店員さんだね。
意外と力があるのか、片手で何箱か一気に掴みあげている。
「犯罪の香りがする……」
……めっちゃ怪しまれてるぞこれ。
まあ、薬用酒をいちどにこんなに買う人間は、業者以外にはそうそういないだろう。
ちょっと言い訳しておくか。
「いやまあ、イベントの参加賞がこれなんですけど、思ってたより参加者がおりまして」
「はあ……」
「参加者は日本の外の方なので、珍しさもあるかもですね」
「へえ~」
……特に嘘は言っていない。
エルフ世界は、日本の外にある世界だからね。
「ありがとうございましたー」
何事も無く? 無事調達できたので、さくっと村に戻る。
とりあえず段ボール一箱分の養命お酒を抱えて、集会場に戻ると――。
「では、つぎはわたしのばんですな」
平原のお父さんが語り始めたときに、ちょうど戻ってこれた。
しかし――。
「あれはそう、いどうにてまどって、よるおそくに……とあるもりに、とうちゃくしたときのことです」
――また稲川淳○来た! また来ちゃった!
「あややややや……」
(およよよよよ……)
ほら、もうハナちゃんと神輿がぷるぷる始めたぞ。
しかし、平原のお父さんの語りは止まらない。
「あるいているとちゅう、ふと、そらをみあげると――ひかるひとかげが! こっちをみているんです! こっちをみているんですよ!」
「おばけです~!」
(きゃ~!)
ああほら、どっかで聞いた話が始まった。
ハナちゃんはやっぱり、俺のシャツの中に逃げ込んで来た。
ちなみに神輿は……。
「ギニャ?」
(きゃ~!)
……一番近くにいた、フクロイヌのフクロに逃げ込んだ。
たしかに、そこは避難所になりますね……。
でも、やっぱり頭隠しておしり隠さずですね。
◇
「――という、おはなしでした」
「「「わー!」」」
ようやく今日最後の人のお話が終わって、みなさんわーわーぱちぱちと拍手をする。
……長かった。
「……おばけのおはなし、おわったです?」
「ハナちゃん大丈夫だよ。お話し終わったから」
「ほっとひとあんしんです~」
「よしよし、怖かったね~」
「うふ~」
ぷるぷるしていたハナちゃん、安堵の表情を浮かべながらシャツから出てきた。
俺のシャツは、もうだいぶ伸びた感じがする。ゆるゆるである。
まあ怖さを和らげるために頭を撫でてあげたら、うふうふハナちゃんに切り替わったけど。
……ちなみに、怖い話はそんなに無かった。
八割がた、色んな森の名物料理グルメレポートだったわけで。
さらに言うと、フライングヒューマノイド怪談、話自体は怖くない。
あの稲川○淳二風の話し方が、なんでも怖くしてしまうだけなのだ。
(こわいの、おわった~?)
「ギニャ」
そして会場が静かになったので、神輿もフクロから顔を出して周囲を確認だね。
カンガルーの親子、みたいな感じになっているけど。
「は~、さすがに疲れたわ。大志、薬用酒の調達はお願いね」
「そういうと思って、もう通販で大量発注かけたよ。明日届く」
「手際良いわね!」
お袋もさすがに疲れたようで、だらっとしている。
でも、まだ明日もあるでござるよ。
俺が手伝えるのは、養命お酒の調達と配布くらいだ。
「でも今日聞いたお話には、特徴が見られたわ。収穫は結構あったと思うの」
「へえ、どんな特徴?」
お袋的には、何かの特徴をとらえたらしい。
「それはね……光る人影伝説が、ハナちゃんたちが元いた森だけに見られたことよ」
「あえ? ハナたちのもりだけです?」
「そうなの。ハナちゃんたちがいた森だけに、存在する伝説ね」
お? あの稲川☆淳二語りによる、フライングヒューマノイド怪談、あの森だけの話しぽいな。
そういや、まるで実際に見たかのごとく迫真の語りだった。
そういう語りの技術も含めて、ひとつの伝承なんだろうか。
「この光る人影伝説、きっとなにか、すごい秘密が隠されているかもよ!」
「あや! おおごとです~!」
「ふふふ、謎を解き明かすのが楽しみだわ。ロマンだわー!」
大きな秘密と聞いて、ハナちゃんも興味が沸いたようだ。
お袋と一緒に、キャッキャしている。
でもハナちゃん、それオバケの話しだけど大丈夫なの?
「……なあ、はなしでかくなってんぞ」
「どうするの? おひれつきまくってるわよ」
「それ、そんなすごいはなしじゃないじゃん……」
そして会場の隅っこでは、三人組がなにかひそひそ話している。
さっきと同じで、三人とも気まずい表情をしているね。
一体どうしたんだろう?
(おばけこわい~)
「ギニャ」
あ、ちょっと話題に出したら……今度は、神輿が完全にフクロに隠れてしまった。
というか、神様がお化け怖がるって、どうなの?
……まあ、面白いというか可愛い神様ではあるね。
◇
――それから何時間かして。
「……神輿がフクロから出て来ない」
「あや~、たいへんです~」
「ギニャ」
怖がり過ぎたのか、神輿がフクロから出て来ないのだ。
なんちゅう怖がりな神様だ。かわいい。
……しかしこのままにしておくのもどうかと思うので、神輿を誘い出すことに。
フクロイヌをくすぐって、神様をまろび出させるのも忍びないからね。
幸い、神様お好みのステキアイテムはあるわけで、それを使うわけですよ。
では――状況開始!
「神様神様、そろそろおうちに帰る時間ですよ」
「ギニャ」
(……)
「あえ? はんのうないです?」
寝ているか怖がっているかで、声をかけても反応は無い。
ということで、アイテムの登場だ。
「そこな神様、今日はとっておきのお供え物があるのですよ」
(――ほんと?)
「あや! みこしでてきたです!」
「ギニャギニャ」
わりと現金な神輿、フクロからぴょいっと顔をのぞかせた。
今現在、カンガルーの親子状態だ。
では、ステキアイテムをお見せしましょう!
――さっきしこたま買って来た、養命お酒~!
「これは良く効く薬用酒で、村のご老人に大評判ですよ」
(すごそう~)
「じりじりとでてきたです?」
「ギニャ」
養命お酒をみせると、神輿がじりじりと出てきた。
あとは、お供えすれば神様もご機嫌になると……良いな。
――では、お供えだ!
「それでは神様、この薬用酒をお供えします」
「おそなえするです~」
(わーい!)
フクロからぴこっと出てきた神輿、養命お酒の上でくるっくる。
そしてお酒がぴかっとひかって、消えて――。
(――このおさけ、きくー!)
「あややや! みこしぴっかぴかです~!」
どうやらものすごい効果があったらしく、神輿がミラーボール状態に。
劇的に効いている。
……ちょっと、効きすぎた?
――あ! もしかして!
ひと瓶の薬用酒、一気飲みしたの!?
これ、ちびちび毎日飲むやつだよ!?
(みなぎる~!)
ぴかぴか光ってくるくる回る神輿、元気爆発状態だ。
……次にお供えするときは、ちびちび飲むのが良いと伝えよう。
まあ、元気がみなぎったおかげで……お化けはへっちゃらになったね。
やっぱり、フクロのなかでぷるぷるしているよりも、元気に飛んでいる神輿が良い。
これはこれで、上手くいった……のか?