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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十五章 天空から見下ろす、大地の景色は
202/448

第一話 フライングヒューマノイド伝説?


 エルフたちが日本語を勉強し始めた結果、ハナちゃんのひらがな練習ノートにアイヌ語の単語を発見してしまった。

 それから、情報を繋ぎ合わせた結果……エルフたちの祖先が、ちたまにっぽんと関係があったかもしれない、と言う所まで推測できた。

 いまお袋の中では、「エルフちたまにっぽんにいたかも仮説」がブームだ。


「ふがふが」

「というおはなしです~」

「なるほど、面白い昔話ですね。小人伝説ですか」

「ふが~」


 そんなわけで、お袋はまず村一番の長老である、ハナちゃんのひいおばあちゃんから話を聞いている。

 こうして昔話を集めて編纂へんさんすれば、何か分かるかもという狙いだ。

 ちなみにユキちゃんは今日自動車学校なので、俺がお手伝いだ。

 大した手伝いは、出来ていないのだけど。


「今日はお話を聞かせて頂いて、ありがとうございます」

「ふがふが、ふが~」

「まだまだあるって、いってるです~」

「それは、また明日お伺いしますね」

「ふが」


 もう夕方も近いので、今日は終わりにするみたいだね。

 明日引き続き、お話を聞くお仕事だ。


「あそうそう、ひいおばあちゃんには、お礼にこの薬用酒をお渡しします」

「ふが!」

「寝る前にちょこっとだけ飲むと、だんだん効いてきますよ」

「ふがふが~」


 そして話をしてくれたお礼に、養命○を渡しているね。

 滋養強壮に良いらしいから、ぴったりの贈り物かも。

 ひいおばあちゃんも、にっこにこ笑顔で養○酒を受け取っている。

 薬用酒を飲んで、より一層元気になってくださいだね。


「ちなみにこのお酒も、面白いいきさつがあるのよ。旅人を助けて手厚くもてなしたら、お礼に製法を伝えてくれたらしいわ。それをなんとか作り上げたら、こんな凄いやつが出来たの」

「その旅人凄いな。何者なんだろう」

「これが謎なの。でも、相当な知識を持っていたのは間違いないわね。徳川家康もこのお酒、飲んだらしいわよ」


 おとぎ話みたいな話だけど、不思議なこともあるものだね。

 助けた相手がまともな人だと、こういう良い話になるんだな。


「ね? 民俗学って面白いでしょ。お金にはならないけど」

「歴史で語られなかった出来事も、もしかしたら民話や伝承で拾えるかもしれないのか」

「そうなの。わざわざ言い伝えるって事は、重要な情報で後世に伝えたいからって場合もあるの」

「昔話、あなどれないなあ」

「あなどれないです~」


 とまあハナちゃんちで聞き取り調査をしたり、薬用酒をあげてキャッキャしてもらったり。

 ぼちぼちと調査をしていくお袋であった。



 ◇



 翌日。またハナちゃんちにお袋と向かうと……。


「ふんが、ふんが」


 この寒い中、ひいおばあちゃんが家の外で――めっちゃ元気そうに体操をしていた。

 あれは……水泳する前にしたらいいよって教えた体操だね。

 というかひいおばあちゃん、体柔らかいな! 前屈で、手がペタっと地面についているよ!


「ひいおばあちゃん、お早うございます」

「ふんが」

「あら、元気いっぱいそうですね」

「ふんがふんが」


 まあ何を言っているかが良くわからないけど、元気なら良い事だね。

 さて、今日もお袋の聞き取り調査を眺めながら、ハナちゃんちでのんびりすごそう。


 ――そんなことを考えていた時期が、俺にもありました。


 午後になり、ハナちゃんちに行列ができる。

 みなさん、お年寄りだ。


「むかしばなしをしたら、なんかすごいおさけがもらえるってききました!」

「それ、すごくきくってきいたんですよ」

「おれもそのおさけ、ほしいですな」


 どうやら養○酒目当てらしい。


「ふが~」

「きのうのんだら、めっちゃきいたっていってるです~」

「それで、噂が広まったの?」

「あい~!」


 ひいおばあちゃんが元気だった理由、聞いとけばよかった。

 ほっといたせいで、大騒ぎになったよこれ。


「大志、ひとまず集会場に行きましょう。お年寄りを外で待たせるのは、良くないわ」

「そうだね、そうしよう」


 ということで集会場に場所を移して、聞き取り調査を開始する。


「お袋、とりあえず俺は薬用酒調達してくるから、三十分ほど待ってて」

「わかったわ」


 ということで車に乗って急いで町まで下りて、どでかいドラッグストアで調達してくる。

 とりあえず在庫があるだけ買うことにする。

 そんなに高い物じゃないからね。余ったら雑貨屋に置けば良いし。


「……業者?」


 大量買いする俺を見て、アルバイトの若い兄ちゃんが首を傾げた。

 まあ、間違ってはいない。お仕事で使うからね。


 そうして怪しい目で見られながらも、大量の養命お酒を買って村に戻ると――。


「ではおれから!」

「つぎはわたし」

「おれもおれも」


 誰が一番に話すか、ワイワイと決め事をしていた。

 お年寄りたちも、活躍できるチャンスとあって大はりきりだ。

 それじゃあ、もっとやる気を出してもらいましょう!


「はいみなさん、薬用酒を持ってきましたよ。たくさんあります」

「おお! これがうわさの!」

「みため、ごうか~」

「おはなし、がんばろ!」


 養命お酒というすぺさる景品を目の前に出されて、お年寄りたちの目はキラッキラに。

 効果はひいおばあちゃんで実証済みだから、みなさん欲しくてたまらないようだ。


「よーし! ほんじゃあおらからはなすだよ!」


 とまあいろいろあって、ようやく最初のお年寄りが語り始めた。


「おらがこどものころのはなしなんだども、あるひ、みちをあるいていると――」


 おじいちゃん、それは昔話というより……思い出話じゃないかな?



 ◇



 そうしてお年寄りの昔話というよりよもやま話が語られ、お婆ちゃんとの馴れ初めが語られ。

 民話とかそういうのは、特に関係ない話が沢山聞けた感じだ。


「お袋、民話とかと関係ないけど良いの?」

「これはこれで、エルフの人たちの文化がわかるから良いのよ」

「なるほど」


 そう言われてみれば、彼らの生活や風習は結構聞けた。

 こういう何気ないよもやま話でも、民俗学にとっては大事な情報なんだ。

 なるほど確かに、根気はいるけど面白いかもだ。


「うむ。さいごはおれがはなすぞ」

「まってました!」

「じいさんのはなし、こわいんだよな~」


 そしてオオトリで、どっかのお爺ちゃんが登場する。

 村人たちが盛り上がっているところを見ると、話上手みたいだね。

 ずずずとお茶を飲んだどっかのお爺ちゃん、雰囲気たっぷりに語り始める。


「はなしのだいめいは、なづけて『ひかるひとかげ』ですぞ」


 おお! 光る人影か。これは民話っぽいぞ。


「おれたちがまえにすんでいた、あのむらには……あるいいつたえがあったんです」


 雰囲気たっぷりに話し始める、どっかのお爺ちゃん。

 声のトーンを落として、やや早口で語る。


「くんせいをつくると、ひかるひとかげがあらわれることがある、そんないいつたえが」

「ごくり」


 言い伝え自体は他のエルフも聞いたことがあるようで、みなさん固唾を飲んで話に聞き入っている。

 しかし、燻製を作るとあらわれる事がある、光る人影か……。

 ホラーな感じがするね。


「おれはそんなはなし、しんじちゃいなかったんですよ。もちろんまわりのみんなもそう」


 ぎょろりとした目で、会場の人たちを見渡すご老人。


「だけどあるひ……みんなでくんせいをつくったひのことでした。……いたんですよ――それが」

「ひええ」

「ふとそらをみあげると、ひかるひとかげが――こっちをみおろしていたんですよ!」

「ぎゃあああ!」


 だんだん早口になるお年寄り。

 話を聞いているみなさんはもう、叫んだりぷるぷるしたりと、様々な反応だ。

 しかしご老人、畳み掛ける。


「こっちをみていうんですよ『くんせいの、いいにおいするじゃん?』って! そらから! ひかるひとかげが!」

「こわいです~!」

(きゃ~!)


 あまりの怖さに、ハナちゃんと何故か神輿が俺の服の中に飛び込んでくる。

 神様、いつの間に参加してたの!?


「おれはにげたんです! でも――おいかけてくるんです。ずっと――ずっと! ひとかげが!」

「こええええ」


 ほかのみなさんもぷるぷる、俺の服の中でハナちゃんと神輿もぷるぷる。

 エルフたちにとっては、鉄板の怪談話のようだ。


「『それ』からはしせんをかんじるんです! こっちをみているんです! じっとこっちを、みているんですよ!」

「あわわわわ……」


 ……というか、このご老人の語りかたって―ー稲川○二そっくり!

 そりゃあ怖いよ。あの語りかたをされたら、夕食の献立説明だって怖くなるよ!


「それからしばらく、むらではよるになると――ひかるひとかげが、みられるようになったんです」

「……」


 やがて話は終わり、集会場はしーんとなった。

 みなさん、ぷるぷるしている。

 ……あれ? マイスターとマッチョさん、それとステキさんはぷるぷるしていないな。


「……なあ、このはなしってさ」

「あれよね?」

「あれじゃん?」


 三人で、なんかうんうんと頷き合っているけど。

 どうしたんだろう?


「三人とも、どうされました? 何か知っている事でも?」


 お袋も気になったようで、三人に確認しているね。


「あ~、まああれじゃん? ちゃんと、ひをとおしたほうがいいってはなしじゃん?」

「そうよね。ひはちゃんと、とおさないと」

「まちがいない。ひはとおそう」


 三人とも、なんだかバツの悪そうな顔をしてそんな事を言った。

 火を通すって、何に?


「お袋、何のことかわかる?」

「さっぱりよ。でも、民話ってこんなものよ。ここから、どうやって真相にたどり着くのかが、腕の見せ所よ」

「さようで」


 お袋は大はりきりだね。腕まくりとかしてるよ。


「じつはそんな、こわいはなしじゃないじゃん……」

「ただただ、めいわくなだけだったわね」

「ああ、あれはたいへんだった」


 そんな大はりきりのお袋の後ろでは、なんだか三人がこそこそと話し合っていたのだった。


 とまあ、村人が集まった小話大会は結構盛り上がって――。


「ふしぎなおさけ、もらっちゃった」

「こんや、さっそくのむぞ~」

「ふがふが」


 ……まあ色々な話が聞けた結果、養命お酒を大盤振る舞いした。

 ハナちゃんのひいおばあちゃんとかは、二本目をゲットしてにっこにこだ。


「あ~、たくさん話が聞けたわ~。これから文字に起こさないと」


 この騒ぎの発端であるお袋は、満足そうに伸びをしているね。


「こわいです~……」

(おばけ~……)


 そしてハナちゃんと神輿は、相変わらず俺のシャツのなかでぷるっぷる。

 二人とも、頭隠してお尻隠さず状態だ。

 お化けの話し、苦手なのね……。


 まあ、あのフライングアンドシャイニングヒューマノイド伝説、内容より語りかたが怖かった。

 子供には刺激が強かったかもだ。


 しかしこんなときは、別の事で気を引くのが良いね。

 というわけで、この方に登場願おう。


「ギニャ?」


 はいフクロイヌー! いるだけで周囲を和ませる、可愛いやつだよ!


「ほら二人とも、フクロイヌと遊んでいれば、怖いのもまぎれるよ。ほらほら」

「ギニャン」

「あや~、ふわふわです~」

(いやし~)


 フクロイヌが醸す癒し空間のおかげで、ハナちゃんと神輿が落ち着いた。

 さすがだね。俺もくすぐっちゃうぞ!


「ギニャギニャ」

「あら、私も混ぜてよ」

「ギニャン」


 ということで、みんなでフクロイヌをくすぐって和んでいた時のこと。


「あのう……」


 集会場に、平原のお父さんがやって来た。

 何か用事かな?


「どうされました?」

「さっききいたのですけど、なんでも、おはなしをすると……ふしぎなおさけがもらえるって」


 あ、噂を聞いてやって来たんだ。養命お酒の効果すごい。


「そうなんですよ。みなさんの民話とか伝承を聞かせてもらって、お礼にお酒を配っているんです」

「あ、ほんとだったんですね!」

「ええ、本当ですよ」


 お袋が応対してくれたけど、平原のお父さんキャッキャし始めたね。

 旅人である平原の人から話を聞けるのなら、お袋も歓迎だろう。

 良い機会だから、平原のお父さんの話も聞いてみ――。


「――おーい! みんな! ほんとだって!」


 ……みんな?


「ふしぎなおさけ、もらえるんだ!」

「おはなし、いっぱいかんがえましたよ!」

「なにからはなそうかな~」

「おれもおれも」


 ――観光客が! 観光客が一気に押し寄せてきたよ!

 噂が凄い速さで広まってるよ!

 あと、お話を考えたって……まあ、それはそれで良いのか。

 作り話でも、文化や思想はわかるらしいから。

 しかし、また大勢集まってしまった。これ、どうしよう?


「……お袋、これどうする?」

「とりあえず、出発予定が決まっているとかの、急ぎの人から順番に聞いていきましょう。残りは明日で」

「わかった」


 観光客のみなさんも鼻息が荒いので、今日聞けるところまでは聞こう。

 明日とか近日中に、村を出発する人もいるからね。そういう人から順番だ。

 ただ……。


「お袋さ、薬用酒……ちょっと足りないかもしれないけど」

「申し訳ないけど、また買ってきてもらえない?」

「分かった。三十分で戻ってくる」

「お願いね」


 明日出発の人もいるだろうから、その分は最低必要だ。

 急いで買って来よう。



 ◇



 車で麓まで下りて、さっきとは別の大きなドラッグストアへと訪れる。

 店員さんに話しかけて、養命お酒をあるだけ購入だ。


「……業者?」


 そして会計の時、店員さんが不思議そうな顔をする。デジャヴである。

 まあ店員さんは、さっきとは違って女の人だけど。

 ……栗色くせっ気の、けっこう可愛らしい店員さんだね。

 意外と力があるのか、片手で何箱か一気に掴みあげている。


「犯罪の香りがする……」


 ……めっちゃ怪しまれてるぞこれ。

 まあ、薬用酒をいちどにこんなに買う人間は、業者以外にはそうそういないだろう。

 ちょっと言い訳しておくか。


「いやまあ、イベントの参加賞がこれなんですけど、思ってたより参加者がおりまして」

「はあ……」

「参加者は日本の外の方なので、珍しさもあるかもですね」

「へえ~」


 ……特に嘘は言っていない。

 エルフ世界は、日本の外にある世界だからね。


「ありがとうございましたー」


 何事も無く? 無事調達できたので、さくっと村に戻る。

 とりあえず段ボール一箱分の養命お酒を抱えて、集会場に戻ると――。


「では、つぎはわたしのばんですな」


 平原のお父さんが語り始めたときに、ちょうど戻ってこれた。

 しかし――。


「あれはそう、いどうにてまどって、よるおそくに……とあるもりに、とうちゃくしたときのことです」


 ――また稲川淳○来た! また来ちゃった!


「あややややや……」

(およよよよよ……)


 ほら、もうハナちゃんと神輿がぷるぷる始めたぞ。

 しかし、平原のお父さんの語りは止まらない。


「あるいているとちゅう、ふと、そらをみあげると――ひかるひとかげが! こっちをみているんです! こっちをみているんですよ!」

「おばけです~!」

(きゃ~!)


 ああほら、どっかで聞いた話が始まった。

 ハナちゃんはやっぱり、俺のシャツの中に逃げ込んで来た。

 ちなみに神輿は……。


「ギニャ?」

(きゃ~!)


 ……一番近くにいた、フクロイヌのフクロに逃げ込んだ。

 たしかに、そこは避難所になりますね……。

 でも、やっぱり頭隠しておしり隠さずですね。



 ◇



「――という、おはなしでした」

「「「わー!」」」


 ようやく今日最後の人のお話が終わって、みなさんわーわーぱちぱちと拍手をする。

 ……長かった。


「……おばけのおはなし、おわったです?」

「ハナちゃん大丈夫だよ。お話し終わったから」

「ほっとひとあんしんです~」

「よしよし、怖かったね~」

「うふ~」


 ぷるぷるしていたハナちゃん、安堵(あんど)の表情を浮かべながらシャツから出てきた。

 俺のシャツは、もうだいぶ伸びた感じがする。ゆるゆるである。

 まあ怖さを和らげるために頭を撫でてあげたら、うふうふハナちゃんに切り替わったけど。


 ……ちなみに、怖い話はそんなに無かった。

 八割がた、色んな森の名物料理グルメレポートだったわけで。

 さらに言うと、フライングヒューマノイド怪談、話自体は怖くない。

 あの稲川○淳二風の話し方が、なんでも怖くしてしまうだけなのだ。


(こわいの、おわった~?)

「ギニャ」


 そして会場が静かになったので、神輿もフクロから顔を出して周囲を確認だね。

 カンガルーの親子、みたいな感じになっているけど。


「は~、さすがに疲れたわ。大志、薬用酒の調達はお願いね」

「そういうと思って、もう通販で大量発注かけたよ。明日届く」

「手際良いわね!」


 お袋もさすがに疲れたようで、だらっとしている。

 でも、まだ明日もあるでござるよ。

 俺が手伝えるのは、養命お酒の調達と配布くらいだ。

 

「でも今日聞いたお話には、特徴が見られたわ。収穫は結構あったと思うの」

「へえ、どんな特徴?」


 お袋的には、何かの特徴をとらえたらしい。


「それはね……光る人影伝説が、ハナちゃんたちが元いた森だけに見られたことよ」

「あえ? ハナたちのもりだけです?」

「そうなの。ハナちゃんたちがいた森だけに、存在する伝説ね」


 お? あの稲川☆淳二語りによる、フライングヒューマノイド怪談、あの森だけの話しぽいな。

 そういや、まるで実際に見たかのごとく迫真の語りだった。

 そういう語りの技術も含めて、ひとつの伝承なんだろうか。


「この光る人影伝説、きっとなにか、すごい秘密が隠されているかもよ!」

「あや! おおごとです~!」

「ふふふ、謎を解き明かすのが楽しみだわ。ロマンだわー!」


 大きな秘密と聞いて、ハナちゃんも興味が沸いたようだ。

 お袋と一緒に、キャッキャしている。

 でもハナちゃん、それオバケの話しだけど大丈夫なの?


「……なあ、はなしでかくなってんぞ」

「どうするの? おひれつきまくってるわよ」

「それ、そんなすごいはなしじゃないじゃん……」


 そして会場の隅っこでは、三人組がなにかひそひそ話している。

 さっきと同じで、三人とも気まずい表情をしているね。

 一体どうしたんだろう?


(おばけこわい~)

「ギニャ」


 あ、ちょっと話題に出したら……今度は、神輿が完全にフクロに隠れてしまった。

 というか、神様がお化け怖がるって、どうなの?

 ……まあ、面白いというか可愛い神様ではあるね。



 ◇



 ――それから何時間かして。


「……神輿がフクロから出て来ない」

「あや~、たいへんです~」

「ギニャ」


 怖がり過ぎたのか、神輿がフクロから出て来ないのだ。

 なんちゅう怖がりな神様だ。かわいい。


 ……しかしこのままにしておくのもどうかと思うので、神輿を誘い出すことに。

 フクロイヌをくすぐって、神様をまろび出させるのも忍びないからね。

 幸い、神様お好みのステキアイテムはあるわけで、それを使うわけですよ。

 では――状況開始!


「神様神様、そろそろおうちに帰る時間ですよ」

「ギニャ」

(……)

「あえ? はんのうないです?」


 寝ているか怖がっているかで、声をかけても反応は無い。

 ということで、アイテムの登場だ。


「そこな神様、今日はとっておきのお供え物があるのですよ」

(――ほんと?)

「あや! みこしでてきたです!」

「ギニャギニャ」


 わりと現金な神輿、フクロからぴょいっと顔をのぞかせた。

 今現在、カンガルーの親子状態だ。

 では、ステキアイテムをお見せしましょう!

 ――さっきしこたま買って来た、養命お酒~!


「これは良く効く薬用酒で、村のご老人に大評判ですよ」

(すごそう~)

「じりじりとでてきたです?」

「ギニャ」


 養命お酒をみせると、神輿がじりじりと出てきた。

 あとは、お供えすれば神様もご機嫌になると……良いな。

 ――では、お供えだ!


「それでは神様、この薬用酒をお供えします」

「おそなえするです~」

(わーい!)


 フクロからぴこっと出てきた神輿、養命お酒の上でくるっくる。

 そしてお酒がぴかっとひかって、消えて――。


(――このおさけ、きくー!)

「あややや! みこしぴっかぴかです~!」


 どうやらものすごい効果があったらしく、神輿がミラーボール状態に。

 劇的に効いている。


 ……ちょっと、効きすぎた?


 ――あ! もしかして!

 ひと瓶の薬用酒、一気飲みしたの!?

 これ、ちびちび毎日飲むやつだよ!?


(みなぎる~!)


 ぴかぴか光ってくるくる回る神輿、元気爆発状態だ。

 ……次にお供えするときは、ちびちび飲むのが良いと伝えよう。


 まあ、元気がみなぎったおかげで……お化けはへっちゃらになったね。

 やっぱり、フクロのなかでぷるぷるしているよりも、元気に飛んでいる神輿が良い。

 これはこれで、上手くいった……のか?


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