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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十四章 みんな、おかえり!
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第十話 キーマン


 ――ふわっとした黒姫伝説。


 昔々、北信濃に高梨(たかなし)なんとかさんという戦国武将がおりました。お殿様です。

 お殿様には黒姫(くろひめ)という美しい娘がおり、大層可愛がっておりました。

 そんなある日、どっかの黒龍が黒姫に一目惚れをして求婚するのですが……まあ色々あって失恋しました。

 色々あったのです。

 

 その色々なのが原因で大蛇だったか黒龍だったかが怒ってしまい、腹いせに大暴れ。

 洪水が起きたりとか色々酷いことになります。およよ……。

 それを見た心優しい黒姫は、やっぱり色々あって黒龍とかを鎮め、だいたい何とかしてくれたり。

 ただ結果として黒姫もアレしてしまい、北信五岳(ほくしんごがく)の内の一つがなんか色々な理由で黒姫山(くろひめやま)と呼ばれるようになりました。


 おしまい。


 ――――。


「ひさびさに黒姫さんのお話したでな~」

「あんなんで良かったっけか?」

なから(だいたい)合ってる」


 散々若いもんと話して満足したお年寄りたちは、わいわいと農作業に戻っていきました。


「お、おお……やっぱり、色々と派生がありすぎて曖昧な伝説だわ……」


 お話を聞いた美咲は、ぐったりしてしまいました。

 そうなのです。この黒姫伝説は……派生がありすぎなのです。

 もう、どれが大本の話なのか、わからないくらい。


 例としては、悪役は大蛇だったり黒龍だったり、黒姫が相手を倒したり倒さなかったり。

 テレビアニメ版では、一緒に仲睦まじく暮らしたエンドだったりと、本当に謎なのです。

 これが原因で、美咲の調査は暗礁に乗り上げてしまいました。

 なんというか……とっかかりが掴めません。

 ご老人から聞かせて貰ったお話が、大事なところが色々ふわっとしているのもありますが。


「……でも、源頼朝(みなもとのよりとも)から授かったと言われる名剣を使う話は、やはりあるのね」


 そういいながら、美咲は不思議な石を取り出しました。


「うちに伝わるこの石、源頼朝から授かった名剣の柄につけられていた、らしいのよね……。とすれば、黒姫伝説が一番、うちの言い伝えに合致するわ」


 しばらく石を眺めて考える、美咲なのでした。

 ――そして十分くらいして。


「――まだまだ、調べなきゃいけないことは沢山ね。そろそろ調査を再開しましょう!」


 じっくり考え込んだ美咲は、しゃきっとベンチから立ち上がりました。

 調査再開ですね。頑張りましょう!


「でも、このお野菜どうしましょう……」


 ご老人たちからお話を聞くうちに、なんだかお野菜をたくさん貰っちゃいました。

 話を聞けば聞くほど増えて行く、新鮮なお野菜。もう一抱えも貰っちゃいました。

 このたくさんのお野菜を前に、美咲は途方に暮れます。


「……とりあえず車に積んでおきましょうか」


 ひとまず行動することにした美咲は、野菜を抱えてよろよろと歩いて戻ることに。


「でもこれはやっぱり、明日あたりに黒姫山に登ってみるしかないかしら?」


 なるほど、登山装備はそのためだったのですね。

 でも……明日登山するのは良いのですが、今日の宿泊場所をどうするかは考えているのでしょうか?

 ホテルとか、全然予約してないですよね?

 というかこの時代、女の一人旅だとホテル側が怪しんで断るんですよね。

 下手すると、今日は野宿ですよ?


「とにかく行動あるのみよ! 出来ることは全部試しましょう!」


 そうして気合を入れながら、沢山のお野菜を抱えて車まで戻ります。

 なんだか色々無計画ですが、やる気だけは十分あります。

 てくてくと車を止めた場所まで、沢山のお野菜を抱えて歩いて行く美咲なのでした。


 しかし、その道中――。


「――ああ姉ちゃん、ちょい待ち」

「はい? ……あ」


 一人のお年寄りに呼び止められました。

 肌がやや褐色で、手足が長い。

 この辺に昔から、それこそ古代から住んでいる人の特徴があるお年寄りでした。

 そしてその特徴を見た美咲、にわかに期待が高まった顔になりました。

 こういう、古代から在住の人に――話を聞きたかったからです。


「姉ちゃん、昔のことを調べてるんだよな?」

「はい! そうなんですよ!」


 そして、お年寄りは――「昔のこと」と言いました。

 美咲が調べているのは、「伝承」であって、「昔の事」ではないはずなのに。

 ……これは期待が持てそうですね。

 このお年寄りは――確実に何かを、知っています。


「うちは大昔からここで暮らしてるけんども、黒姫さんの母親……この辺の人だったって話があるでよ」

「……一般的には、保科(ほしな)氏出身とは言われていますよね? 高梨(たかなし)氏の奥方って」

「それがどうも、曖昧なんだなあ」


 お年寄りはとつとつと語ります。美咲はそれに耳を傾けて、次の話を待ちました。


「あれだ、高梨さんが住んでいた所じゃなく、なぜかここで伝説は語り継がれているでな」

「あ……本来なら、高梨氏の本拠地周辺で語り継がれるのが、筋のはずですよね」

「まあ、そういうわけだ。住んでた場所じゃあ、ぜんぜん語られとらん……不思議なほどになあ」

「ここは伝説の終わりの地であって、始まりは別の地域なのに……」


 お年寄りに教えられて、美咲は初めてそのギャップに気づきました。

 伝説の主役が住んでいた地ではなく、伝説が終わった地で――盛んに語られている。それはなぜか。

 終着点の黒姫山は、高梨氏の本拠地とは関係のない所。距離が離れすぎています。

 実際にこの地に訪れて、初めて分かる違和感。


「地域も水系も別なのに、密接に関連した大蛇もしくは黒龍伝説……。おかしいわ、これ。あきらかに治水の話じゃない」


 ――この伝説は、なにかが、おかしい。


 それに気づき、考え込む美咲にかまわず――お年寄りは続けます。


「姉ちゃんなら知っとるだろうけど、『俺ら』の系統って『黒』なんとかって名付けられてきたよなあ」

「え、ええ。一説によると――」


 ――名前に「黒」系の文字が当てられる。

 美咲の名字は――黒川、ですね。


「――お前さんもうすうす、気づいとるんだろ?」

「あ、はい……」


 美咲の言葉を途中で切らせて、ご老人は続けました。

 ――明らかに何かを知っています。

 ごくりと喉を鳴らす美咲、


「ほんで高梨さんがさあ、この辺の先住民を取り込むために……俺らの系統から嫁を取ったって話があるんでさあ」

「そういう説もあるとは……聞いています」

「――だから、『黒姫(くろひめ)』ってな」


 相当踏み込んだ話になってきました。美咲はもう、ドッキドキ。

 大量の野菜を持つ手はぷるぷると限界近いですが、話は続きます。


「姉ちゃんもその系統ぽいよな、手足がなげえ。肌は白いけんども」

「――そうなんです! 私の家系のルーツ、ここにあるかもって!」

「そんなこったろうと思った」


 とうとう、美咲の――真の目的に近づいてきました!

 目の前の貴重な情報源に、美咲は知的好奇心が抑えられません。

 野菜を落とさないよう、ぷるぷると抱えながらウキウキですね。


「黒姫伝説で重要なのは、実は黒姫の母親だで」

「ですよね。でも……どの伝承を見ても、語られていない。史実ですら、曖昧にされている」

「まあなあ。もうずっと昔のことだけん、いまさら隠すこともねえけんども……」

「え、ええ。『土蜘蛛(つちぐも)』……とか、まあ対立勢力ですからね」


 ようやく話の通じる人が現れて、美咲はもう内心大興奮です。

 色が浅黒くて、手足が長い異民族。だから――「土蜘蛛」。

 神話の時代、そうやって対立した歴史があったのです。


「そんなわけもあってな。高梨さんの住んでた所で語られない理由、なんだか察しがつくでよ」

「――静かに暮らせるよう、そっとしておいてくれた……感がありますね」

「大和の人らも、わりと気ぃ使ってくれたとこもあるだでな。ほんで仲良しになれたで。『黒』系の名前だって――仲間になった証で、自分たちで付けたでな」


 ……いろいろあって、なんとか仲良しになれたようですが。

 そして黒姫は――「土蜘蛛」の系統であると、お年寄りは暗に語っていますね。


「やっぱり――『ここ』なんですね」

「多分なあ。ただ、俺もこれ以上のこたあわかんねえ」

「黒姫が、その後どうなったかも?」

「まあなあ。その辺しっとるのは『入守(いりす)』さんちくらいでねえか?」

「いりす?」


 謎の名前が出てきました。入守さんとは、いったい何者なんでしょうか?


「うちの先祖も、俺自身も世話になっててなあ。入守さんからコメ貰って、飢えなくて済んだだよ」

「はあ……」

「この辺の俺と同じ系統の人間、みんな入守さんにゃあ頭あがらんでな」

「え、ええ……」


 昔話が始まりました。お年寄りあるあるです。

 そろそろ野菜を抱えた腕は限界みたいですが、我慢して話を聞きましょうね。


 そうして、自分の子供の頃やお婆さんとの馴れ初め、雪女伝説やら河童伝説、さらにはUFO伝説など話はあっちこっちに飛びまくり。

 もうなんか、いろんなよもやま話が聞けました。


「――とまあ色々変なことをしとる家だが、良い人たちだで」

「は、はい……」


 あ、もう足もガクガクきてますね。腕は気合いで何とかしている状態です。

 脂汗も出ています。がんばれ美咲!


「そ、それで……その方に会うにはどうしたら?」

「ああ、ちょっと待ってな。『入守志郎(いりすしろう)』さんちの住所を紙に書くだで」

「お、お願いします……」


 ――入守志郎。それが今回のキーマンのようです。


「ほい姉ちゃん、これが入守さんちの住所だ」


 個人情報保護なんて話が無かった時代、こんな感じでゆ~るゆる。

 なんとか、キーマンの住所をゲットできました。


「ありがとうございます! 早速行ってみますね!」

「おうおう、がんばんべえ。『黒塚(くろづか)』から紹介受けたっていえばええから」

「本当に、ありがとうございます! さっそく訪ねてみます!」

「俺がよろしく言ってたって、伝えといてくれや」

「はい!」


 調査が大幅に進みそうで、美咲はもうウッキウキです。

 腕はもうぱんぱんですが、やる気がみなぎります。


「ああ姉ちゃん、せっかくだからこの野菜も持ってけ」

「あ、え、ええ。見事なゴボウですね……」


 また野菜が増えました。がんばれ美咲!



 ◇



「こ、ここはどこ……」


 意気揚々と車を走らせた美咲、即座に迷います。

 カーナビが一般的ではない高級品だった時代、地図だけが頼りです。


 そしてここが重要。ナウマン象の化石が有名な湖のある周辺地域から入守さんちに行くには、二つのルートがあります。

 一つは十八号沿いを道なりに進み、「海はあっち、山はこっち」の看板を通り過ぎるルート。

 もう一つは……峠道。

 美咲は間違って、峠道に入ってしまったのでした。

 地図上はなんてこと無いその道、一見すると近道です。

 ですが……いったん入ったら最後、人家もまばらな道を延々と走る羽目になるのでした。


「あ、あわわわ……ガソリンがもうわずか……」


 はい無計画第二弾。給油忘れです。

 道に迷ってぐるぐるした結果、燃料が心許なくなってきました。


「というか、ここさっき通ったわよね……」


 おんなじ道を、ぐーるぐる。美咲はまだ、湖周辺から脱出出来ないでいました。

 土地勘が無いので、しょうがないかもですね。


「――やだ、行き止まりじゃない」


 そうして走る中、謎の行き止まりに到達しました。

 仕方が無いので、Uターンしようと車を動かしますが……。


「あ、あれ? これがこうなって、こうで……」


 切り返しに手間取っています。ペーパードライバーあるある。

 そうしている間に――。


「……あら? エンジンが止まっちゃった」


 はいガス欠です。これでもう、身動きが取れなくなってしまいました。

 人家も無い山道、そして行き止まり。美咲ぴんち!


「ど、どうしましょう……」


 あわあわと慌てる美咲ですが、どうしようもありません。

 携帯電話も一般的ではない時代ですから、歩いて助けを求めに下山するしかないですね。


「……食料はたくさんあることだし、ちょっと一息入れましょう」


 もはや慌てても無駄な段階ですからね。落ち着くのは良いことです。

 そうして、美咲は貰った野菜を生でかじり始めました。


「とれたては美味しいわね~。甘みが凄いわ!」


 うっそうとした山道で、車内で生野菜をかじる一人の女。ホラーですね。

 そうして、しばらく野菜をかじっていると――。


「あら? 何か動いた?」


 ――外で、何かが動いた気配がしました。

 そちらの方をよく見てみると……。


「……女の子?」

「?」


 綺麗ななんかの石を額にはめた、女の子がいました。

 車の外から、美咲の方を興味深そうに見つめています。

 そして美咲は――その石をみてびっくり!


「あ! あの石! うちに伝わる変な石と同じやつ!」

「???」


 いても立ってもいられなくなった美咲は、慌てて車を降ります!


「君! ちょっと話を聞かせて!」


 女の子の方へ走っていく美咲、ですが――。


「きゃ~!」


 美咲の迫力を見て、女の子が逃げ出します!

 そりゃそうですよ。こんな山奥で、野菜をかじっている女が迫ってきたら逃げますよ。


「あ! 待って! お願い待ってって!」

「きゃ~!」


 逃げ出した女の子を必死で追いかける美咲ですが、次の瞬間。


「きゃ~!」

「――え!? 消えた!?」


 女の子は、行き止まりの先に走り込んで――ふっと、消えてしまいました。

 そして、それっきり。


 セミの鳴き声だけが、みんみんと響きます。


「……今、確かに女の子がいたのに……」


 美咲、ぷるぷるふるえます。心霊現象ですね。

 今の子は、もしやオバケ……。


「こ、ここで……きき消えたのよね……」


 震える声で、こわごわと女の子が消えた場所へ向かいます。

 怖いけど、確かめずにはいられない。そういうのありますよね。

 ホラー映画だと、フラグなんですけど。


 そうしてこわごわと確認しに向かった美咲は――ぽかんとしてしまいました。

 なぜなら――。


「……道が、現れた?」


 先ほどまで、木々が生い茂って壁、だった場所。

 そこに美咲が立ったら――道が、出てきたのでした。


「これは、夢?」


 ごしごしと目をこする美咲ですが、夢ではありません。

 確かにそこに、道があるのでした。


「……」


 しばらく考え込む美咲、やがて――。


「――行ってみましょう! あの石をつけた子と言いこの道と言い、間違いなくなにかあるわ!」


 突然現れたその道を、ずんずんと歩き始めたのでした。


「あ、忘れ物」


 と思ったら、美咲が引き返してきました。

 そして、登山リュックに野菜を詰め込み始めます。


「食べ物はたくさんあった方が、良さそうだからね」


 その辺しっかりしてますね。もらったお野菜、有効活用出来そうです。


「それじゃあ、行くわよ~!」


 野菜がはみ出たリュックを背負って、美咲は意気揚々と道を進んでいくのでした。

 あ、野菜落っことしましたよ。詰め込みすぎですよ。


「さてさて、この先には何があるか。いざ突入!」


 しかし野菜を落っことしたのに気づかない美咲、とうとう踏み込みます!

 元気に壁に到達した美咲の姿は、ふっと、消えてしまいました。

 そして――それっきり。


 みんみんとセミが鳴く、暑い夏の……不思議な出来事。

 さて、一体どうなってしまうのでしょうか。



 ◇



「……人が整備した形跡があるわね」


 謎の山道を進む美咲、草刈りをした跡を発見しました。

 綺麗に刈り揃えてある道を見て、人の手が入っていることを確信します。


「――わ! 景色が! 景色がワープしてる!」


 途中、周りの景色が一気にワープする怪現象にも遭遇。


「なにこれ! 凄いわ! まさかこんな場所があるなんて!」


 未知の出来事に遭遇して――テンションが上がってきました!

 足取り軽く、どんどん道を進んでいきます。

 あの……もうちょっと警戒した方が良いのでは?

 あきらかに、普通はヤバい場所って思うところですよ、ここ。


「あんな山、車で走っているときは無かったわ! ここは本当、どこなのかしら?」


 警戒心ゼロで突き進む美咲、キャッキャと写真を撮影し、キャッキャと野菜をかじり。

 未知の風景にもう大はしゃぎ!

 どうやら普通の人とは、神経の太さが違うようです。


 そうしてずんずんと道を進んで、しばらくしたときのこと。


「――村だわ! かやぶき屋根の家が……ひいふうみい、五つね」


 とうとう村を発見しました!

 そう――隠し村です!


「こんにちはー! 誰かいませんかー!」


 さっそく家々を訪問して、人がいないか呼びかけます。

 ですが、返事はありません。


「……誰もいないのかしら。さっきの女の子は? 隠れちゃった?」


 一通り村を探しますが、誰も見つかりません。

 しーんとしています。


「あ~、暗くなって来ちゃったわ。どうしましょう……」


 そうして探検をしている間に、夕方になってしまいました。

 今から暗い中を戻るのは、ちょっと無理な感じです。


「大きな建物はカギが開いていたから、そこをちょっと借りましょう」


 神経の太い美咲、この無人の謎の村で一晩明かすようです。

 唯一カギが開いていた、大きな建物。

 そこに入って、寝袋を出しました。


「まあ、明日になれば何とかなるでしょ。食べ物はあるのだから、まだマシよね」


 またもやボリボリと野菜をかじり始めましたね。たくましい。

 そうして、その日は野菜をかじって早めに寝たのでした。



 ◇



「……なんでこんな所に、車が停まってんだ? しかも『わ』ナンバー」


 翌日朝、美咲が乗ってきた車をいぶかしげな様子で調べる……一人の男性がおりました。

 かなりの長身、でも優しそうな顔。誰かによく似ているような?


「しかも、後部座席にはお土産がたくさん積んである……観光客か?」


 車内をのぞき込むと、長野のお土産がたくさん積んでありました。


「善光寺に物産センターに野尻湖に……一通り巡ってんな」


 お土産の内容から、どこを巡ったか良くわかりますね。

 行く先々で何かしら、お土産を買っているようです。

 お菓子系のお土産は、だいたい食べた後のようですが。


「しかし土産物食っちゃって大丈夫なんかな……おっと、そうじゃない」


 その男性、土産物なのに食べられていることを心配していますね。

 ですよね。お土産はあげる物であって、自分で食べちゃダメでしょうと。


「道に迷って遭難して……とかだったらヤバいかもな」


 きょろきょろと辺りを見渡すと、周囲はうっそうとした森です。

 もし道を外れてしまったら……遭難間違いなし。

 下手をすると、最悪の事態になります。


「どうする? レンタカー会社に問い合わせてみて……でも、会社がわからんな」


 車を良く調べてみても、どこの会社のレンタカーかはわかりませんでした。

 とはいえ、わかったところで携帯電話も無いわけです。すぐには連絡出来ません。

 なかなか不便な時代なのでした。


「町まで下りて警察に通報するにも、この場所だとちっとまずいよなあ……」


 そうして、どうしようかと考えながら、男性はぐるぐると車の周りを回っていると……。


「ん? なんでニンジンが落ちてんだ?」


 ふと、ニンジンが落ちているのが見えました。

 なぜにこんな山奥で、野菜がおちているのか。


「しかもかじりかけ」


 落ちていたニンジンを拾って、まじまじと調べます。

 半分くらいかじってありますね。


「……あ、あっちにはキュウリが。こっちにも」


 またもや野菜が落ちていました。一つでは無く、いくつか。

 その野菜の落ちている方を辿っていくと……。


「このゴボウ、入り口の境界に落ちてんな……」


 なぜかゴボウが落ちていたそこは、木々が遮る壁のような場所。

 そこから、ゴボウがこんにちはしていました。


「――まさか!」


 そう、そのまさかです。野菜かじり女が、昨日入っていきましたよ。

 わりと楽しそうでした。それはもうキャッキャしていましたね。


「しかし外部の人間じゃあ入れないはずだ。うちの関係者か? ……まあ、村に行って調べてみよう」


 そう言った長身の男性は、行き止まりに歩いていき――やがて、ふっと消えました。

 そして――それっきり。


二百話目にして、ついにあの人のフルネームが判明。

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