第二話 どうすんべ
あの騒ぎから数日、森は――どんどん枯れていきました。
とうぜん食べ物も、どんどん無くなっていきます。
これに困ったエルフ達……族長んちで、車座になって相談し合っていました。
「なぁ、このままだとこの森、無くなるよな?」
「もう食べ物かなり減ってきてるべ」
「やばいよ、やばいよ」
今現在のエルフ達の状況は……やっぱり日本で例えると、日本中のスーパーが閉店しつつある状態です。
今日はお魚にしようかしら? とスーパーに行っても――営業していないのです。
怖いですよね。
そんな状況の中、いくら相談したところで――森が枯れるのを見ているしかありません。
原因なんてわからないですし、わかっても対処できるかは別の話なのです。
ですが……皆わかっていることが、一つありました。
このままだとここのエルフ族が――アレな事になるのは時間の問題……ということだけは。
決断しなければなりません。
しかし、誰もが良い提案を思いつけないで居ました。
だってこんなこと初めてなのですから。そうすぐには良い発想など出てきません。
「どうすんべ……」
「まずいよな、これ」
「つっても何すりゃいいんだか……」
困り果てたエルフ達、どうすべどうすべと議論は進みません。
――そんな時、ハナちゃんのおとうさんが、提案しました。
「今なら間に合う。この森を、出ましょう。……あっちの森なら望みはあるはずです」
あっちの森とは、ここから結構離れたところにある大きな森の事です。
その森に居るエルフとは、よく物々交換で交易をしていました。
距離は離れているものの、割と仲良くやってきたのです。
嫁入り婿入り、嫁取り婿取りで人の交流も盛んでした。
実は、おとうさんもあっちの森から婿に来た身です。
「あっちならまだ人が増えても大丈夫なはずです。それにあっちには皆親戚も居るでしょう?」
おとうさんはこの辺のエルフ族にしては、珍しく繊細なたちで能天気ではないのでした。
なので、どうにもならなくなる前に動こう、そう提案したのです。
「しかし、故郷の森を捨てるというのは……」
「あっちまで行くの、けっこうキツくね?」
「俺にとって、あっちまで歩くのは不可能に近いじゃん……」
「お前はもうちょっと普段から歩けよ。子供ですら平気な距離でもへばってんじゃん」
他のエルフ達はざわめきますが、構わずおとうさんは続けます。
「でも、このままここに居てもいずれ行き詰まります。であれば、まだ食料が残ってるうちに行動するしかないかと思いますが」
「「「う~ん」」」
なかなか決断できない皆さん、うんうんと唸ります。
――しかし、ここで静かに話を聞いていた族長が決断しました。
「ヤナの言うとおりだ。このままここに居たらマズい。――この森を出よう。そうするしかない」
「「「はあ~」」」
エルフ達も皆わかってはいたのですが、あと一押しが必要な状態でした。
族長はその一押しをする役を、買って出たのです。
……こうして、こっちの森エルフ族は大移動をすることになりました。
まあ、あっちの森エルフに親戚が居る人が殆どなので、実は言うほど大変ではありません。
割とすんなり移動は始まりました。
――しかし、いくつかの家で問題が発生しました。
あっちの森に親戚が居なかったり、おとしよりや小さい子供が居て移動が無理な家がいくつか。
それと、貧しくて移動に耐える蓄えが無い家があったのです。
なんと――ハナちゃんのおうちもそうでした。
ハナちゃんのおうちにはおじいちゃんもおばあちゃんも、この部族最長老のひいおばあちゃんも居ます。
彼らにとっては……あっちの森に行くのは厳しかったのでした。
こうして、いくつかの家が足踏みをする中、どんどんエルフ達は移動していきました。
――何件かの家を残して……。
◇
――ある日のこと。
殆どすべてのエルフ達は、森から移住が終わりました。
残すは族長一家が移動するのみで、村は数件の家のみが残されています。
そして、最後まで残っていた族長も、森を出る日が訪れました。
森を出る時、族長は残された家の皆を呼び集め、あることをお願いしました。
「ヤナ、俺は今から出発するが、ここに残るお前が――今日からこの部族の族長だ」
「はい……」
「こんなことになって申し訳ないと思うが、なんとか残った皆を率いてくれ」
「――やれるだけのことは、やります」
「頼んだぞ。……これは族長の証だ、お前に託す!」
族長……いえ、元族長から、なんかの宝石がついた首飾りを渡されるおとうさん。
この瞬間、おとうさんは――族長になりました。
ここぞというときに、意外と頼りになるとわかったおとうさんです。
他の皆も、彼が族長になることについて、誰も反対しませんでした。
――言いだしっぺがまさかの残留、という点について同情されていたのもありますが。
そして、族長の継承を終えたことを確認した元族長は、言いました。
「では皆! なんとか生き残ってくれ!」
そう言い残すと、元族長とその一家は森を出ていきました。
「行っちゃったです……」
「そうだね……」
取り残されたエルフ達は、小さくなっていく元族長たちを見送りました。
「何とか、しないと……!」
族長になってしまったお父さんは、これからどうすればいいか必死に考え始めました。
残された皆を、これから率いて行かなくてはならないからです。
……やがて、元族長たちの姿は見えなくなりました。
こうして、荒廃したこっちの森には、いくつかの家が取り残されてしまったのです。
果たして彼らは、これからどうなってしまうのでしょうか――。