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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十四章 みんな、おかえり!
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第七話 資格のお勉強


「かっこいい~」

「ほら、はやくおうちかえるの」

「でもでも」

「でもじゃないの」


 建設予定の電源施設、そのコンテナ内で静かな攻防が繰り広げられている。

 バッテリはまだ運び込んでいないため、今はスノーモビルが格納されているのだけど……。


「みてよこのすがたかたち。かっこよすぎない?」

「すごいとはおもうの」

「だよね!」


 身近に現れた、ステキマシンのスノーモビル。

 メカ好きさんが、これにすっかりやられてしまったのだ。

 今は使ってないからちょうど良いと、電源施設にする予定のコンテナにスノーモビルを置いた。

 そしたら……いつの間にか入り込んで、一日中スノーモビルを眺めるメカ好きさんがいたわけだ。


「いいから、もうゆうがたになるの! ごはんなの!」

「ああ~、スノーモビル~」


 今は奥さんであるナノさんに引きずり出されて、およよってなっているけど。

 ……ひとまず、写真を眺めて気を紛らわせてもらいましょう。


「写真を渡しますので、これでひとまず」

「おお! これはこれで!」

「たすかったの~」


 ナノさんほっと一安心だね。

 こうして、二人は仲良く家に帰っていった。



 ◇



「……という事があってさ」

「まあ、スノーモビルはかっこいいですからね!」

「面白い人ね、その幽体離脱する人」

「特異体質っぽいよね」


 ユキちゃんち訪問の予定を合わせるため、俺の自宅で打ち合わせ中。

 ふと雑談になり、メカ好きさんのエピソードの話になった。

 ユキちゃんもスノーモビルは大ハマりしたので、気持ちは分かるようだ。

 お袋的には、メカ好きさんの特異体質に興味がわいたようだけど。


「あの人の機械好き、何とかしてあげたいとは思うんだけどね」

「マニュアルが読めないと、触らせるのはちょっと……ですね」

「スノーモビルはさすがに危ないわね」


 メカ好きさんの好奇心は本物なので、出来れば機械整備などをさせてあげたい。

 ただ、スノーモビルはちょっと無理だね。

 基礎知識が無かったりマニュアルを読めない状態では、弄らせることは出来ないわけで。

 もうちょっと簡単な機械があれば、出来るかな?

 その辺りは今度考えてみよう。


「でも、スノーモビルに乗ってみて……なんだか乗り物の楽しさが分かった気がします」

「あれはバイク並に楽しい乗り物だからね。冬しか乗れないけど」

「今のうちに楽しんでおきます!」


 スノーモビルの話が出たからか、ユキちゃんニッコニコになった。

 どうやら、乗り物を操縦する楽しみを分かってくれたようだ。

 冬の間は、スノーモビルをご堪能下さいだ。


「ユキちゃん、今度私と一緒にスノーモビルで遊びましょうか? 遺跡まで一緒に行く?」

「楽しそうですね! 美咲さん、よろしくお願いします!」

「良い返事ね~!」

「あわわ……」


 お袋とユキちゃん、スノーモビルで意気投合だね。

 ユキちゃんの頭を抱えて、よしよしと頭をなでまくりだ。

 姉と妹みたいで、微笑ましい。


 ……しかしこの件で分かったけど、ユキちゃん別に運転とかが苦手ってわけじゃないんだよね。

 でも、普通自動車運転免許を持っていない。この地域では必須資格のはずなのに。

 なんでだろう? ちょっと聞いてみるか。


「そういえばユキちゃん、運転免許持ってないよね。こっちじゃ不便じゃない?」

「あ~……確かに不便です。自転車だとけっこうキツいですね」

「え? ユキちゃん免許もってい無いのかしら?」

「お恥ずかしながら……」


 本人も不便だとは思っているようだ。

 田舎じゃ運転免許が無いと、ほぼどこにも行けない。

 たしかユキちゃんちの領域から、最寄りのコンビニまで五キロあったはずだ。

 自転車じゃ、むっちゃくちゃ不便だろう。


「何か免許を取らない理由ってあるの?」

「えっとですね……お恥ずかしながら、鬼教官が怖くて……」

「鬼教官?」

「ええ、お父さんが今でも言うんですよ。『鬼教官ぐぬぬ!』って」


 ……ユキちゃんのお父さん、引きずりすぎでしょ。相当昔の話では?


「ああ~、あるある! 私の時も、一人だけ凄い厳しい人いたわね」

「そういう話を聞いているので、ちょっと物怖じしてしまって」

「気持ち分かるわ~」


 お袋の時はあったみたいで、ユキちゃんが物怖じする気持ちも分かるようだ。

 でもお袋が物怖じって……それ嘘じゃない?

 高橋さん世界の危険な海を平気で泳ぐ人が、鬼教官で物怖じってあり得ないよ。


「でも、その鬼教官の話は興味あるわね」

「お父さんの鉄板ネタで、『自動車学校で鬼教官にぐぬぬ』シリーズがありまして」

「ネタなんだ」

「ええ。お腹がよじれるほど面白い実話集です。人ごとなら……ですが」


 うわあそれ聞きたい! めっちゃ聞きたい!

 ユキちゃんちに行ったらリクエストしよう。絶対しよう!


 とまあそれはさておき。鬼教官が怖いか。

 今はそんなことはないし、指名も出来る。大丈夫じゃないかな?


 それに相手も人だ。危ないことをされたら、怒りもする。

 免じて許可してもらうことが必要なくらい危ない機械、なのだから。

 教官さんたちだって、言い分はあるだろうと思う。

 自分の教えた生徒が事故を起こしてしまったら、すごく悲しいのではないかな?

 そう言うのもあって、すごく真剣なのかもしれない、という事も考えてあげないとだね。


「多分今はそう言うの避けられるよ、指名制あるから。自分が大型二輪取りに行ったときは、もうなんか手取り足取りだったね」

「そうなんですか」

「時代は変わったのね」


 特に波風無く、楽しく教習出来たな。

 というかバイクの教習の時、教官さんのほうが楽しんでた。

 なんでも、自動車教習と違って「自分でバイクを運転できる」からだとか。

 ……ああそうそう、その時は女性教官が凄く優しかったなあ。妙なほど。


「そういえば、そのときは女性教官さんが、なんか妙に優しかったなあ」

「手取り足取り……ぐぬぬ」

「大志、あんたねえ……」


 ん? ユキちゃんぐぬぬ状態になったけど……。あと、目にハイライトが無い。

 何この微妙な空気は。お袋も黙っちゃったし。


「三人ともどうした? はいお茶」


 親父がお茶を持ってきてくれたので、謎の空気は消えた。

 何だったんだろう? ……まあ良いか。

 俺の危機センサーには反応が無い。ということは、何も起きていないのだ。


「あ、親父ありがとう。今教習所の話しててさ」

「教習所? 大志、またなにか免許でも取るのか? フルビッター目指すとか」

「ああいや、ユキちゃんの話」


 そうそう、ユキちゃんの運転免許取得の話だ。

 で鬼教官が怖いって事なら、今は問題ないよね。

 免許取得をお勧めしてみるか。


「ユキちゃん免許取ってみない? AT限定とかならまあ……ちょっとは楽だよ」

「そうですね……。お父さんとお母さんからも言われてますので、考えてみます」

「無理しなくても良いからね」

「はい。魔女さんも免許無しなので、一緒に受けるのも良いかもですね」


 あの元気な魔女さんも、免許無いんだ。

 それならなおのこと、一緒に取りに行くのも良いかもだね。

 あ、実家にマニュアル車がある場合はAT限定だと不便かな?

 ……まあ、その辺は親御さんとご相談ということで。


「ユキちゃん、もし取りに行くなら……うちで経費負担するぞ?」

「え? それはさすがに」

「どのみち村への通勤で使うんだ。必要経費だよ」


 親父がユキちゃんに提案したけど、確かにそうだよね。

 主な免許の使い道は、うちの村への通勤だろう。

 それなら、うちで経費負担するのが筋だ。


「魔女さんも、せっかくだからうちで補助するぞ。もう既に、世話になっているからな」

「わあ! 魔女さん喜ぶと思います」

「それじゃあ、魔女さんにも話してみてくれ」

「はい!」


 親父太っ腹だなあ。魔女さんの費用も補助するって。

 ただ、実際問題魔女さんには、もう既にかなり世話になっている。

 これくらいのお礼をしても、良いかもだな。


「ユキちゃん、もし免許が取れたら、うちでお祝いしちゃうわよ!」

「やる気出てきました!」


 お袋もノリノリで、免許取得を煽る煽る。

 ユキちゃんもなんか、乗せられてきたね。二人でキャッキャし始めた。

 まあ、ご検討下さいだ。


 しかし、スノーモビルイベントは思わぬ所で役立ったな。

 ユキちゃんに免許取得を検討してもらえるくらいには、乗り物の楽しさを伝えられたと言うことで。

 楽しい体験っていうのは、次の一歩を踏み出すためには大事な事なのかもね。



 ◇



 一月も中旬になって、もらったカニもみんなで全部食べ尽くして。

 だんだんお正月気分も抜けてきた。

 ちなみに、妖精さんもカニを食べるときには無言になることが判明した。

 賑やかな妖精さんたちが、無言になる。カニの魅力ってすごい!


 とまあそんな出来事がありつつも、日常は平和に過ぎていく。

 そんな日常のひとときとして、今日は村でのんびり資格のお勉強をすることにした。

 ユキちゃんは家の用事、俺以外の家族はみんな街に行ってショッピング。

 ありていに言うと、まったり過ごせる数少ない機会とも言う。


「タイシタイシ~、なにやってるです?」


 電気工事士のテキストを読んでいると、ハナちゃんがぽてっと俺の膝の上に座る。

 髪の毛がふわふわと顔に当たるので、くすぐったいね。


「あや~、なんかなぞのもようが、たくさんです~」

「自分はお勉強していてね、ここには大事なことが沢山書いてあるんだ」

「あえ? おべんきょうです?」


 ハナちゃんこちらを見上げて、こてっと首を傾げた。

 緑のお目々がくりくりして、興味深そうな様子が伝わってくる。


「今倉庫にしているあの四角いやつ、あの場所に電気をいっぱい貯める施設を作るんだ」

「それって、おべんきょうがひつようです?」

「そうなんだよ。その施設を活用するには、たくさんお勉強しないとダメなんだ」

「あや~、たいへんです~」


 今度はハナちゃん、テキストの方をのぞき込んでお目々ぐるぐるだ。

 何が書いてあるか分からない本を見たら、お目々ぐるぐるになるよね。

 でもまあ、試験は六月だからあと半年もある。じっくり勉強しよう。

 そして最初に施設を構築するのは、親父にお願いすることになるね。

 俺はその後、各家庭に線を引いたり拡張したりを担当かな?


「タイシさん、そのでんきをいっぱいためるしせつですけど、たべてもいいんですか?」

「おなかがへったら、おやつをたべられるとうれしいですね」


 ……ヤナさんとカナさんが、キラキラお目々で聞いてきた。

 いや、あの……食べることしか考えてない感じですか?


「……まあ、食べることも出来るようにしますか」

「たのしみです~」

「どんなあじがするか、わくわくしますね」

「まろやかかしら? さわやかかしら?」


 家電を利用する前に、電気が食べ尽くされる可能性が出てきたぞ……。

 う~ん、どうしよう。

 ちたま人にとっては便利なエネルギーだけど、エルフたちにとっては美味しいおやつだ。

 この辺の認識の違い、なかなか埋めるのが難しいなあ。



 ◇



 また別の日。どかっと積雪があった。一晩で一メートル。やばい。

 これは雪かきしないと、日常生活に支障が出る。


 ということで――ステキマシン第二弾の登場だ!

 じゃじゃ~ん! ステキ除雪機~!


「トラクターってやつに、にてますね」

「おんなじいろです~」

「というか、そっくり」

『かっこいい!』


 広場にみんなを集めて、除雪機の説明会を行う。

 この除雪機は、エルフたちが使っていた耕耘機と操作はほぼ同じ。

 レバー操作があるくらいかな。というか同じメーカーだから似ていて当然かな?

 まあ、操作を説明しよう。


「この機械は、まあトラクターと同じ仕組みで雪をかいてくれます」

「そうなんだ」

「だいたい、どうやるかわかったかんじ」

「まえについているやつが、まわるっぽいわね」


 トラクターの運用で、刃が回転して何かをほじくるというのは理解出来ているね。

 この除雪機も、どうやって除雪するかはなんとなく分かったようだ。

 事前知識を持っている人たちに説明するのは、楽ちんで良いね。


 ――さあ、それではエンジンを始動してみよう。


 まず変速レバーがNの位置にあるか確認。問題なし。

 次に燃料コックレバーの位置確認。問題なし。

 切り替えレバー位置、自走でよし。


 一つ一つ確認して、始動前点検は全て問題なしだ。

 では、スタータスイッチを回して――始動!

 百九十六CCの単気筒四ストロークエンジンが唸りを上げる。わりと重低音で迫力あるね。

 さて、三十秒ほどクラッチレバーを握ってと。


「これも、トラクターとにてますね」

「そっくりです~」

「はたけ、たがやせそう」


 村人エルフも、観光客の見物人エルフもキャッキャとはしゃぐ。

 もうエンジンつきの機械、慣れっこだね。

 さて、前方に人や障害物がいないのを確認して……と。問題なし。

 投雪方向を調節して、実際に除雪してみましょう!


「では、これよりその辺の雪をかいてみます」

「タイシ、がんばってです~!」

「いよいよだな~!」

「かっこいいきかい! いよいよ!」


 まず左手の走行クラッチを握って、雪のあるところまで移動する。

 そうしたら、次は右手の除雪クラッチを握って雪かき開始だ。


 ぐいっと右手のクラッチを握ると、前方のオーガが回転を始めて雪を削る。

 その削られた雪は、オーガハウジングを伝って投雪口から勢いよくはき出される。


「あやー! すごいいきおいです~!」

「あっというまに、みちができちゃった!」

「こんなにいっきにゆきかきできるとか、すてき」

「おれのじまんのママさんダンプは、ただのちからわざだったのだ……」


 人力では不可能な量の雪を、人力では不可能な速度でかいていく。

 その様子に、みなさん大はしゃぎだ。見た目が楽しいっぽいね。

 そしておっちゃんエルフ、雪かき道具のスノーダンプでがしがしと雪かきをはじめた。

 ……なんで張り合うの?


 ちなみにおっちゃんエルフが使っているのは、ママさんダンプを見たおっちゃんがマネして木で自作したやつだ。

 なので正確にはママさんダンプではない。エルフさんダンプだ。


 ……まあ、あっちはあっちで道が出来るから良いかな?

 ――さて、気を取り直して!


「ではヤナさん、操作方法を教えますのでやってみて下さい」

「あ、やっぱりわたしなんですね」

「なんたって族長ですから。かっこいいところ見せないと」

「かっこいい……よーし! やりますよ!」


 速攻でおだてに乗るヤナさん、しゃきっとしました。

 それじゃあ、ヤナさんを始めとして大人のみなさんに、除雪機の扱いを習得してもらいましょう!


 ――ということで、順番に操作方法を伝授する。

 きっちり指差し確認をしていたので、運用は大丈夫だろう。


「かっこいいいいいいー!!!」

「あいつ、いちばんあつかいうまいな」

「まかせちゃう?」


 一通り除雪機の扱いを教えると、メカ好きさんがかなり早く操作を習熟できた。

 メカに対する情熱があるからなのか、慎重なんだけど上手だ。

 どのレバーをどの順番で動かすのか、すぐに理解した。


「これをつかえば、ゆきかきもらくちんですね」

「村の全てで使うのは難しいので、まずこれで大きな道を作って、その周りを人力ってのが効率的ですね」

「わかりました。そんなかんじで、つかってみます」


 とまあ、トラクター運用と同じく、みなさん機械運用が出来て大変満足げになった。

 これで雪かきは多少マシになるだろう。

 というか、雪かきをしておいてもらわないと、車が入れないからね。

 よろしくお願いしますだ。


 ……あ、ついでに良いこと考えた。

 このステキマシンは作業を終えた後、簡単な点検をする必要がある。

 これをメカ好きさんにお任せしたらどうだろう?


「あ~すいません、この機械は使い終わったあと点検が必要になるのですが……やってみます? やりかたは教えますので」

「――え!? いいのですか!?」

「本当に危ない部分はダメですけど、簡単な部分であれば」

「やりますやります! ぜひとも!」


 メカ好きさん、超ハイテンションになった。

 もうメカを弄りたくて仕方が無いみたいだね。


「では、よろしくお願い致します。この後、点検方法を教えますので」

『やったー! きかいがいじれるー!』


 おっと離脱した。しかし――なんかの紐が完全離脱を阻む!

 この、その辺におちてた白い紐……すごい高性能だな!



 ◇



 日々発生する細かい問題を解決していって、大きなお仕事は一応無くなった。

 というわけで、今日はハナちゃんちで、またまたお勉強の日とする。


「タイシタイシ~、またおべんきょうです?」

「そうだよ。今日もお勉強をするんだ」

「おうえんするです~」


 ハナちゃんが俺の膝の上にぽてっと座って、キャッキャと応援してくれる。

 心強い応援団だね。勉強頑張っちゃうぞ!


(がんばってね~)


 神輿もいつの間にかやってきて、俺の頭の上でキャッキャしている……。

 もぞもぞ動くのが、ちょっとくすぐったいね。

 でも、神様にも応援されちゃったら頑張るしか無いな。


「あ、私もご一緒させて頂いて、よろしいですか?」

「あえ? ユキもおべんきょうです?」


 さらにユキちゃんもテキストをもって、俺の隣に座った。


「これはね、自動車を運転するためのお勉強なの」


 ユキちゃんが手に持つテキストは、自動車教習のやつだ。

 そう、ユキちゃんとうとう普通自動車運転免許を取るため、教習所通いを始めたのだ。

 魔女さんも一緒に通って、二人でキャッキャしているとのこと。


 それにこの時期、めっちゃ空いている。料金も安くてすぐに予約も取れる。

 ……ただし雪道を運転するハメになる。頑張って下さいだね。


「あえ? じどうしゃです?」

「じどうしゃのうんてん……それって、おべんきょうするものなんですか?」

「タイシさん、かんたんそうにうごかしてましたけど」


 自動車の運転をするためのお勉強と聞いたハナちゃん一家、お目々まん丸にしている。

 自動車の運転で座学が必要とは、思っていなかったようだ。

 この辺ちょっと教えておこう。


「動かすだけなら、それほど難しくはありません。ですが、自動車を動かすときには沢山の規則があります」

「たくさんのきそくですか~」

「たしかに、あかいやつのときはとまれ、とかおしえてもらいましたね」


 佐渡に行くとき、事前に交通のルールの基本は教えてあるからね。

 実際に移動時にも見ているから、その辺の基本は理解出来ているはずだ。

 じゃあ、ルールを破った場合はどうなるかを教えよう。


「ちなみに自動車でこの規則を破ると、場合によっては重い罰を受けるんです」

「あややややや……じどうしゃ、こわいです~……」

「おもいばつ……」

「こちょこちょのけいじゃ、すまなさそうですね……」


 重い罰を受けると教えると、みなさんぷるぷるエルフになった。

 そうなんですよ。こちょこちょの刑じゃあ、済まないのです。


「覚えないといけない規則は、これだけあるの」

「あえ? これぜんぶです?」

「全部よ」


 そしてユキちゃんが、交通規則のページを開いてハナちゃんに見せている。

 文字の意味は分からないだろうけど、分量は分かるよね。


「あや~、おおすぎです~!」

「これ……これぜんぶ……」

「いみはわからないですけど、これはやばいですね……」

「はい、なんかもう大変ですね」


 ユキちゃんも、覚えなきゃいけないことの多さに苦労しているみたいだ。

 でも、これを覚えるのが基本だからね。頑張って頂きたい。


「ちなみに運転するようになると、自転車に乗っていても目視確認とか一時停止とかきちんと守るようになるよ」

「あ……一時停止……」


 ユキちゃんに運転あるあるを話すと、あっちゃ~って顔になった。

 まあ……免許を持って運転したことが無いと、自転車で一時停止を守るってのは頭に無いかもね。

 実際問題、一時停止無視の自転車が飛び出してくるのは良くある。

 俺も何度か、ヒヤっとしたことが。お気をつけ下さいだ。


「これからは気をつけましょう。交通ルールは誰かを縛る物じゃなくて、自分を守るための物だからね」

「はい」


 この時点でもう、一つユキちゃんは学んだわけだ。

 この調子で、ストレートで試験をクリアしてもらいたい。


「こっちのひとって、すごくべんきょうするのですね」

「タイシさんもユキさんも、いろいろものしりですよね」

「まあ、こっちじゃ勉強しないと、どうにもなりませんから」

「たいへんです~」


 ハナちゃん一家はしみじみとしながら、テキストをのぞき込んでいる。

 意味は分からずとも、大変なのは理解してもらえたかな?



 ◇



 ――その日の午後。


「あえ? おきゃくさんです?」

「ちょっとみてくるわね」


 俺は電気工事士の勉強、ユキちゃんは運転免許の勉強をしていた時のこと。

 ふと、ハナちゃんのエルフ耳が「ぴここ」っと動いた。

 どうやらお客さんが来たようで、カナさんがたたたっと玄関の方に走っていった。


 しばらくして。


「おーい大志、遊びに来たぞ」

「お勉強してるんですって?」

「人生常に勉強よ。良きかな良きかな」

「あにゃ~」


 爺ちゃん婆ちゃん、シャムちゃんが遊びに来た。お袋も一緒だね。

 もうすっかり、エルフ村になじんでいる。


「みんな、いらっしゃいです~」

「あらハナちゃん、今日もかわいー!」

「あややややややや……」


 ハナちゃん、いつものお袋ほおずりであやややハナちゃん状態に。

 まあハナちゃんだからね。ほおずりしちゃうよね。


「あそうそう、この子も一緒に勉強して良いか?」

「あにゃあにゃ」


 ハナちゃんがあやややとなっている隣では、シャムちゃんが何かの本を抱えていた。

 爺ちゃんいわく、一緒に勉強とのことだけど……。


「なんだか、さいきんみんなおべんきょうです?」

「タイシさんもユキさんも、もじとにらめっこですね」

「はやりなのかしら?」


 言われてみれば、確かにそうだね。

 まあ冬は出来ることが少ないから、座学中心になるのはしょうが無いかな。

 ともあれ、シャムちゃんはなんの勉強をするんだろう?


「何の勉強をするの?」

「日本語よ。私が教えるの。高橋さんたちのときと一緒ね」

「あにゃ!」


 シャムちゃんが本を見せてくれたけど、小学校低学年の国語テキストだ。

 なるほど、お袋が日本語を教えてあげるんだな。


「大志さん、高橋さんの時と一緒とは?」


 ユキちゃんがお袋と俺を交互に見て聞いてきたけど、説明しておくか。


「お袋は小学校の教員免許もちだからさ、日本語が分からない高橋さんたちリザードマンに、日本語を教えたことがあるんだよ」

「そうなんですか。だからリザードマンさんたち、結構日本語話せるんですね」

「そういうこと」


 基礎的な読み書きを教えるのは、なかなか大変だ。

 そういうとき、お袋みたいな初等教育のなんたるかを知っている人がいると凄くはかどる。


「あにゃ、にゃ……タイシ、ヨロシクヨロシク!」

「よろしくね。のんびりじっくり、勉強してね」

「ノンビリー!」


 シャムちゃん、にゃんにゃんと元気いっぱいだね。

 急がなくて良いから、じっくり日本語を学んでね。


「……タイシ、タイシ」

「いま、なんかにほんごのおべんきょうってきこえましたが」

「これでべんきょうできるんですか?」

「あにゃ?」


 ……おや? ハナちゃん一家が、なんかずずいと迫ってきたぞ?

 シャムちゃんが持っている、書き取りのテキストを見ているけど……。


「あら? みなさんも日本語を勉強したかったり……します?」


 お袋がシャムちゃんの持っているテキストを指さして、そんな事を聞く。

 すると――。


「タイシたちのもじ、べんきょうしたいです~!」

「ぜひともぜひとも!」

「よめたらいいなあって、ずっとおもってたんです!」

「ふが~」


 ――ワーキャーとハナちゃん一家、大騒ぎになった!

 うおお! すごい迫ってきた! もの凄い気迫!


「あ、あら……。それじゃあ、一緒に日本語をお勉強しましょうか」

「「「わーい!」」」


 お袋もその気迫に、若干引いている。

 どうやらみんな、日本語を勉強したいようだ。

 俺たちが一生懸命勉強している光景をみて、なにか思うところがあったようだね。


「……あにゃ?」


 ワーキャー騒ぐハナちゃん一家を見て、シャムちゃんこてんと首を傾げた。

 まだ状況が理解できていないみたいだ。

 シャムちゃん、ちょっと気合いみなぎる人たちが一緒になるよ。

 でも、賑やかで楽しい勉強風景になるかもね。


 それにハナちゃんたちが、日本語をある程度読み書き出来たなら。

 それはすなわち、様々な教本を読めるようになる。


 つまり――自己学習が可能となる!


 彼らが自分で考え、自分で選択した何かを、学べるようになる。

 これが実現したら――楽しいことをもっと出来るようになるぞ!


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