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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十四章 みんな、おかえり!
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第六話 冬の遊び


 お正月三が日も過ぎて、それでも村は相変わらすのんびり。

 そんな中、ユキちゃんと企画していた冬を楽しもうイベントを開催する。


「また、ふしぎなきかいがありますね」

「じてんしゃみたいな、つかむところあるな~」

「これってのりものです?」

「かっこいい!」


 ダイヤモンドダスト輝く気温マイナス十二℃の中、みなさんには田んぼのある平地へ集まって貰った。

 そして、みなさんスノーモビルに興味津々である。経費で買ったやつ。

 一台のお値段百二十万円のすごいやつが、二台ある。

 音叉のロゴが特徴のメーカー製だ。

 今回このステキマシンは主役でもあり、脇役でもある。


 ちなみに「スノーモ()ビル下さい。かっこいいやつ!」ってウキウキでお店の人に言ったら「スノーモビル(・・・)ですよ」と訂正された悲しい思い出。

 どっちでも良いじゃんね。良いじゃんね。

 ……まあそんな思い出はさておき、まずはこのステキなマシンの説明をしよう。


「仰るとおり、これは乗り物です。大雪が積もっていても、へっちゃらで移動出来ちゃうすごいやつです」

「やっぱり、のりものだったんですね」

『かっこいいいい!』


 ヤナさんはスノーモビルを上から下からのぞき込んで、ふむふむしている。

 メカ好きさんは……左腕に結んだバングルっぽい紐のおかげで、完全離脱を防ぐことが出来ている。大成功だ。

 材料はその辺に落ちていたなんかの白い紐。だけどなんか効果抜群だった。

 ……今までの苦労はなんだったのだ……。


 ――おっと話が逸れた、元に戻そう。

 今回の催しの趣旨を伝えないとね。


「今回は雪の上を滑る遊びをします。あの小高い所まで行って、そこからこれらの道具で滑り降ります」


 隣に置いてあるスキーやらそりやら、スノボやらを指さす。


「そりはわかりますが、このにまいのいた? これをつかうのですか?」

「そうです。この靴は板に固定出来る仕組みがありまして、こうして履きます」

「あや! カチっとかいったです~」

「おおお、なぞのしくみ!」

『かっこいい!』


 スキーを履いて足を上げてみせると、みなさん大はしゃぎだ。

 オマケに軽く滑って見せましょう!


「はい、こうして滑ります」

「あやー! すいすいすべってるです~!」

「たのしそう!」

「じてんしゃなみに、はやい!」


 軽く滑ってみせると、みなさんワーキャー大騒ぎになった。

 まあ十人分しか用意していないので、交代で滑って貰うことになる。

 スノボは三人分。キモカワイイ変な柄のやつが安く売れ残っていた。


「滑る人は、これを着るのがお勧めです。ただし大きさが合わない場合もありますので、そのときはこちらの雨合羽で」


 ユキちゃんが貸し出し用のスキーウェアを用意してくれる。

 これも変な色のやつが売れ残っていたので、お安く買えた。

 全身どピンクのやつと、どぎつい黄色のやつ。……正直俺は着たくない。

 でも安かったのだ。しょうがないのだ。


「すいすいと丘から滑って降りるのは、楽しいぞ~!」


 そして、スキーフル装備の爺ちゃんはウッキウキだ。

 ちなみにお袋と婆ちゃんは、温泉施設でシャムちゃんとのんびりである。

 シャムちゃん女の子だったのねと。


「滑り方は私が教えます」

「あ、俺も教えるぞ。楽しそうだ」


 今回親父がスキーのインストラクター役なんだけど、飛び入りで爺ちゃんもやってくれるようだ。これはこれでありがたい。

 しかし爺ちゃん今年で八十歳なのに、ほんと元気だなあ。大丈夫かな?


「爺ちゃんやる気十分なとこ悪いけどさ、大丈夫なの?」

「二百歳までは現役だろ」

「そこまで粘るとにっぽん政府から調査くるから、ほどほどにね」


 ひい爺さんの時に工作忘れていて、わりと騒ぎになったと聞く。

 結局戦後の混乱期に色々ごまかして、事なきを得たとか。

 まあそれはそれとして。


「今回はフクロオオカミ便にて、あの丘まで引っ張って行きます」

「あの頂上からだと結構距離がありますので、長時間楽しめますよ」

「ばうばう」


 今回はリフト変わりに、木で大きなそりを適当に作ったやつを用意した。

 それに乗って、丘の上で登って貰う。

 そりを引く役目であるボスオオカミは、やる気十分だ。

 報酬はトウモロコシとキャベツどっさり。気合いが入るというものだね。


 そして目的の丘も、傾斜はそれほどでも無い。行くのも滑るのも、それほど負担は無いと思う。

 万が一速度が出ても、自転車よりちょっと速いくらいだ。


「と言うわけで、第一陣をご希望の方はあちらのテントで準備をして頂ければと」

「おれ! おれやりたい!」

「わたしも!」

「ハナもいきたいです~!」

(わたしも~)


 第一陣を募ったら、ワーキャーと希望者が殺到した。

 はいみなさん、順番ね順番。

 あと、そこのキラキラ神輿さんは……そりコースでお願いします。

 神輿に合うスキーは、無いのですよ……。


「ちなみに待っている間は、このスノーモビル体験をしますよ」

「それはそれで、おもしろそう!」

「まってるあいだも、たいくつしないかんじ!」

「たのしそう!」


 と言うことで、スノーモビル体験もしてもらう。滑ってもよし、待っていても良し。

 冬の遊びを、思いっきり楽しみましょう!



 ◇



 無事第一陣も決まったので、フクロオオカミ便にて丘の頂上へ。


「ではみなさん、行ってらっしゃい」

「「「はーい!」」」

(たのしみ~)


 第一陣のみなさん、フクロオオカミ便に乗って丘の頂上へ向かっていった。

 インストラクターは親父と爺ちゃんの二人なので、お任せして大丈夫だろう。

 ちなみに神輿は空を飛べるけど、雰囲気を出したいのかフクロオオカミの頭に乗っかっている。

 ……まあ、神様も楽しんで下さいだ。


 さて、俺は下界でもう一つのイベントを始めよう。スノーモビル体験だね。

 でもその前に、ユキちゃんに講習をしないといけない。

 ユキちゃんは以前からスノーモビルを操縦したがっていたので、イベントがてら講習もするのだ。

 では始めましょう!


「これから、スノーモビル講習を始めるよ」

「よろしくお願いします」

「これはこれで、おもしろそう」

「いろんなのりものが、あるんだな~」


 ヘルメットをかぶって完全防護のユキちゃんの後ろで、第二陣以降のエルフたちがキャッキャしている。

 この講習風景もまた一つの催し。

 乗りこなすのがどれだけ大変か、ユキちゃんの講習風景を見て実感してもらうわけだ。


「はい、それじゃエンジン始動するよ。パーキングブレーキ確認」

「パーキングブレーキよし!」


 まずハンドル左側のパーキングブレーキを確認してもらう。

 外側に倒れているので、問題なしだ。


「次はエンジン停止スイッチ確認」

「エンジン停止スイッチ確認! 位置よし!」


 ハンドル右側にあるエンジン停止スイッチを、オンの位置にする。

 これでエンジン始動準備は完了だ。

 ――では、メインスイッチをスタート!


「はい、次の手順」

「始動前確認問題なし! エンジン始動します!」


 ユキちゃんがメインスイッチを、時計回りにひねる。

 勢いよくセルモーターがキュルルと音を立て、すぐさまエンジンが始動。

 四ストローク二気筒、四百九十九CCのエンジンが唸りを上げた。


「うわわわ! すごいおと!」

「はくりょくある~!」

「かっこいい!」


 新車なので調子が良いね。この寒さだけど、アイドリングも安定している。

 みなさんもうエンジンというものにすっかり慣れきっているので、怖がることも無くキャッキャしているね。


「はい手を放して」

「手を放しました!」


 エンジンがかかったので、メインスイッチから手を放して問題なしだ。

 さて、このまましばらく暖気しとこう。


「わわわ! 自分の手でエンジンかけられました!」

「初めてエンジンをかけるのって、緊張するよね」

「すごい緊張しました!」


 二気筒の大型バイクと同じアイドリング音がする中、ユキちゃん大興奮だ。

 生まれて初めて自分でエンジンをかける、これは結構達成感があるね。

 それじゃ次は、後ろに乗って体験してもらおう。


「まずはユキちゃんに後ろに乗って貰って、乗った感覚を体験してもらうよ」

「はい!」

「ユキちゃんを乗せた後は、お待ちのみなさまも乗って頂きます」

「「「はーい」」」


 では、次の行動に移りましょう! スノーモビルにまたがってと。


「ユキちゃん、後ろに乗って腰につかまってね」

「はい!」


 ユキちゃんがひょいっと後部座席に乗り、わずかにサスペンションが沈む。

 じゃあ次はインカムだ。

 運転中は同乗者の声が聞こえないので、ヘルメットにインカムを仕込んである。

 バイク用の高性能なやつで、五十メートルまでなら通話可能だ。


「ユキちゃん、インカムのスイッチ入れて」

「少々お待ち下さい」


 ピッピッピッという音がヘルメットスピーカーから聞こえてきて、相互接続完了だ。

 これで無線通話が可能になった。


『……はい、どうですか?』

「問題なし、聞こえるよ」

『こちらも聞こえました。問題なしです』


 インカムの動作確認も完了したので、あとは発進するだけ。

 では、パーキングブレーキを内側に倒して……と。

 これで発進準備完了だ。


 では――出発!


「発進するよ!」

『はい!』


 スノーモビルはバイクと似ているけど、違う部分もある。

 ハンドル右側にアクセルがあるのは一緒だけど、捻る方法ではなくレバーなのだ。

 このレバーを人差し指で絞って、アクセルワークをコントロールする。


 というわけで、ハンドル右側にあるアクセルレバーをちょっと引く。

 エンジンの回転が上がってクラッチが繋がり……グイっと車体が前進を始める。

 スノーモビルのクラッチはいきなり繋がるから、発進はちょっと慎重にだ。


『わわ! グイっと来ますね!』

「このままスピードあげるよ!」


 アクセルレバーをじわじわ引いて、速度を上げる。

 そして大回りでターンし、時速二十キロくらいでぐるぐる回る。


『速いですね! これは楽しいです!』

「体重移動、だいたい感覚分かったかな?」

『もうちょっと……ですかね』

「じゃあもう二周ね」

『はい!』


 そうしてぐるぐる回って、元の位置へ。

 念のためエンジンを停止し、パーキングブレーキをかけてから降車する。

 さて、ユキちゃんの感想はどうかな?


「ユキちゃん、どんな感じだったかな?」

「後ろに乗っているだけでも、楽しいですね!」

「じゃあ次は、他の人を乗せている所を見ていてね。自分がどう体を動かしているか、それで掴んで欲しい」

「はい!」


 スノーモビルから降りると、ユキちゃん大はしゃぎだった。

 バイクの二人乗りに近い感覚だから、けっこう爽快感あるんだよね。

 それじゃ、次はエルフたちにこの爽快感を味わって貰いましょう!


「はいみなさん、次はみなさんに乗って頂きたいと思います。順番にどうぞ」

「まってました!」

「けっこうなはやさがでるとか、ふるえる」

「たのしそう~」


 キャッキャしたり、ぷるぷるしたりするエルフたちだ。

 でも、なんだかんだ言って行列を作っている。

 それでは、先頭の人から乗せていきましょう!



 ◇



「すげえたのしい!」

「あんなにはやくはしれるとか、すてき!」

「じてんしゃよりはやい!」


 一通り乗ってもらった結果、エルフたち大興奮になった。

 速さを怖がっていたステキさんも、手のひらくるりだ。

 キャッキャと、また行列に並んでいるね。


「ユキちゃん、見た感じどうかな?」

「なんとなく分かりました」

「一人でも大丈夫そうかな?」

「ええ! 出来ると思います!」


 ユキちゃんに出来るかどうか聞いてみたけど、本人はやる気十分だね。

 それでは、次はユキちゃん単独で動かしてもらおう。


「じゃあユキちゃん、今度は操縦してみよう」

「はい!」


 ユキちゃんもうノリノリで、二台目のエンジン始動を行う。

 ちゃんと始動前確認をして、指差し確認をして。

 無事エンジンを始動出来ました。


「これがアクセル、これがブレーキね。アクセルはゆっくりじわじわと絞ること」

『わかりました!』

「ブレーキも、じわっとね。いきなり握ると危ないから」

『はい!』


 俺は後ろに乗り込んで、各部の操作方法を教える。

 ユキちゃんは指差し確認をしているけど、ちょっと手が震えているかな?

 かなり緊張しているね。


「はい落ち着いて。何かあっても自分が何とかするから、大丈夫だよ」

『わかりました』

「じゃあ発進してみよう。パーキングブレーキ倒して」

『パーキングブレーキよし!』

「はいアクセル引いて」


 ――緊張の瞬間。

 

 みんなも固唾を飲んでユキちゃんの自走を見守る。

 インカムから、ユキちゃんの緊張の呼吸だけが聞こえる。

 がんばれ!


『発進します!』


 ユキちゃんが覚悟を決めて、右手人差し指をアクセルにかける。

 エンジンの回転数が上がり、やがてクラッチがつながり――。


『――動きました! やったー!』


 よし動いた! じわじわとだけど、確かに前進している!

 と同時に、インカムからユキちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。

 この調子で、操縦を続けてもらおう。


「よーし問題なし。そのままの速度で一周してみて」

『はい!』


 のろのろとだけど、危なげなくスノーモビルは前進していく。


『わ! わ! アクセルの加減が難しい!』


 ……たまに前後にガクガクっとなるけど、それはご愛敬。

 スノーモビルは、バイク並にアクセルワークが繊細だからね。

 ミリ単位の操作で、敏感に回転数が変化する。これはまあ、慣れるしかない。

 とりあえず、腕の力を抜いてもらおう。緊張でガッチガチだからね。


「はい腕の力を抜いて。軽~く、軽く。腕は添えるだけ。グリップは小指と薬指で軽く握る」


 ガチガチに腕が伸びているので、右腕の付け根をぽんぽんと叩く。

 腕は添えるだけで、全部の指で握らず小指と薬指だけで握る。

 この辺もバイクと同じだ。腕や手がガチガチだと、繊細な操作ができない。


『ふ~……』


 インカムから深呼吸の音が聞こえてきて、車速が安定した。

 お、力が抜けたね。


「じゃあ次は旋回ね。やや内側に体を傾けて、ゆ~っくり」

『はい!』


 インカムから聞こえる、ユキちゃんの呼吸がまた荒くなった。

 はい落ち着いて。


「はい力抜いて。楽に、楽~に。普段自転車に乗るくらいの気楽さで。大したことないさ」


 背筋がピンと伸びてガチガチなので、両肩を軽く叩いてあげる。

 すると、ピンと伸びていた背筋がふわっと丸まり、理想的な乗車姿勢に戻った。

 そのままゆるりと旋回して――元の位置へと帰還。


 ――良く出来ました!


「良く出来ました。あとは繰り返しだね」

「ありがとうございます! 最初は怖かったですけど、だんだん楽しくなってきました!」


 ヘルメットを外したユキちゃん、表情が「ぽわん」となっている。

 もの凄い達成感を得られたようだ。


「あとは繰り返し練習だね。次は自分の後を付いてきてくれるかな」

「はい!」


 ということで、行列エルフを乗せながらユキちゃんのスノーモビル講習を続行だ。

 一時間もやれば、ある程度乗れるようになるだろう。



 ◇



「タイシタイシ~、ハナ、けっこうすべるのうまくなったです~!」

(これ、たのし~!)


 スノーモビルイベント兼講習会の休憩中、ハナちゃんたちが滑ってきた。

 ハナちゃん、もうボーゲンはマスターしてらっしゃる。

 すいすいとこっちまで降りてきたね。


 そして神輿がそりに乗って、ハナちゃんと一緒にキャッキャと降りてきた。

 ……神様、平地でもそのまま滑ってきてますね。

 神様動力で動かしてませんか?


「ハナ……ちょっとまって……おいてかないで……」


 その後を、ヤナさんが生まれたての子鹿ボーゲンで続く。

 生まれたての子鹿ボーゲンとは、足がぷるっぷるで立っているのが精一杯の状態のことを言う。かわいい。

 そんなヤナさん、ハナちゃんに置いてかれまいと、なんかもう一生懸命だ。

 ちなみにスキーウェアは全身ピンクのやつ。


「これはたのしいですね! きもちいいです!」


 それとは対照的に、カナさんはスノーボードですいっすいと降りてきた。

 お絵かき大好きでインドア派に見えたカナさん、実は運動神経良いね。

 こっちのスキーウェアは、どぎつい黄色のやつだ。


「おう大志、こっちは全員降りたぜ」

「そっちはどうだ? ユキちゃん、スノーモービルに乗れるようになったか?」

「ユキちゃんはもうバッチリだよ。センス良いね」


 爺ちゃんと親父も、すいっすいと降りてきた。

 これで全員帰還したみたいだ。


「たのしいな~これ」

「すべるの、そうかいなの」

「またすべりたい」


 他のみなさんも、スキーはとても楽しめたようだ。

 まあみなさんボーゲンだけど、それでも滑るのは楽しいからね。

 さて、第一陣の方々には、次にスノーモビル体験をしてもらおう。


「降りてきた方々は、次はスノーモビル体験です」

「私も乗れるようになりましたので、大志さんと二人で担当します!」


 ユキちゃんウッキウキで、スノーモビル担当に名乗りを上げる。

 もう時速二十キロですいすい操れるようになったので、大丈夫だね。


「それじゃあ俺たちはまた丘に行くから、みんなを頼んだ」

「ばうばう」

「はいはい! じゅんびできました!」

「たのしみだわ~」

「いってらっしゃいです~」


 第二陣が準備出来たようで、またフクロオオカミ便で丘の上に向かっていった。

 俺たちは引き続き、スノーモビル遊びをしましょうかね。


「タイシタイシ~、ハナものりたいです~」

「それじゃあハナちゃん、自分の後ろにのって腰につかまってね」

「あい~!」


 フクロオオカミ便を見送っていると、ハナちゃんがぽてぽてとやってきておねだりだ。

 よーし、ハナちゃんを乗せてぐるぐる回ろう。


(わたしも~)


 おっと、神輿が俺の服の中に! 冷たい! 神様冷え切ってて冷たい!

 コッチコチ神輿が俺の体温を奪っていくよ!?


「私はカナさんを乗せますね」

「おねがいします!」


 冷え冷え神輿に体温を奪われぷるぷるしていると、ユキちゃんもイベントを始めるようだ。

 後ろに乗っているカナさん、もうウッキウキである。

 ちなみにユキちゃんもウッキウキだ。すっかりスノーモビルの虜だね。

 それじゃ、スノーモビル体験会、開始だ!

 体を動かせば、この冷え冷え神輿も乗り越えられるはず!


「じゃあ神様とハナちゃん、発進するね!」

『あい~!』

(どぞ~!)


 ヘルメットのインカムを通して、ハナちゃんのキャッキャした声が聞こえる。

 神輿も服から顔を出して、もぞもぞ動く。そして冷たい。


 ……。


 ――では、ぐいっとアクセルを絞って――さあ発進だ。


『あや~! これはたのしいです~!』

(たのし~!)


 ハナちゃんもう大はしゃぎだね。

 背中越しに、ハナちゃんがウキウキしている動きが伝わってきた。

 あと神輿が顔を出している隙間から、風がビュンビュン入ってくる!

 さささ寒い!


 ――しかしこれでへこたれてはいけない。

 もっと速度を上げるのだ!


「ハナちゃん、もうちょっと速度を上げちゃう?」

『あい~! はやくするです~!』

「じゃあ速度を上げるよ!」

『わーい!』


 ちょっとだけ速度を上げて、時速三十キロに。

 道路上だと原付程度の速度だけど、雪上だと相当速く感じる。

 ヘルメットがビュンビュンと風切り音を立てるので、けっこう迫力がある。

 あともの凄く寒い!


『このはやさ、そうかいです~!』

「ハナちゃん、これからぐるっと回るからしっかり掴まってね!」

『あい~!』

(だいはくりょく~!)


 ハナちゃんと神輿は大喜びだね。俺は寒くてぷるぷるだけど!

 そうしてしばらく走っていると、遠目にカナさんを乗せた二号機の姿が見えた。


『ハナー! こっちよー!』


 インカムからカナさんの声が聞こえてきて、こっちに手を振っている。

 ハナちゃんに、手を振り返してもらおう。


「ハナちゃん、お母さんに手を振ってあげて」

『あい~! おかあさ~ん! こっちです~!』

『ハナ、たのしいわねー!』

『あい~!』

『大志さん、こっちも順調ですよ!』


 ちょっと離れて、仲良く併走だ。ハナちゃんとカナさんはもう、ウッキウキで手を振り合っている。

 ユキちゃんもノリノリだね。


(ども~)

『あら、かみさまもいっしょなのね!』


 あああ! 神輿が身を乗り出したから余計に風が! 冷たい風が服の中に!

 上半身裸で走っているみたいに寒い! そして今気温マイナス十二℃!

 助けてー!


 ――――。


 とまあ寒さに耐えるというハプニングはあったが、楽しくスノーモビル体験を提供した。

 走り終わった後は服の中が凍っていたけど、俺は元気です。


 ……。


 まあその日は夕方まで、スキーとスノーモビルイベントを催した。

 参加者のみなさんは大満足のご様子だったので、第二回を企画しましょうかね。

 めでたしめでたし。


 ――そして翌日。


「お、おおお……からだが……」

「タイシ~、からだが、からだがいたいです~……」

「きんにく、きんにくがビリビリ……」


 イベント参加者のみなさん、無事全身筋肉痛になりました。

 初スキーの洗礼、無事通過だ。

 聞くところによると、誰もが経験する通過儀礼らしいですよこれ。

 俺は筋肉痛になったことが数えるほどしかないので、良くわからないのだけど。


「た、大志さん……す、スノーモビルでも、筋肉痛になるのですね……」


 そしてユキちゃんも全身バキバキに。

 そうなんです、スノーモビルも筋肉痛になるらしいです。

 バイクとよく似ていて、とくに太ももが筋肉痛になるそうだ。


 というわけで、参加者全員が筋肉痛でゾンビみたいな動きをしている。

 これは温泉に浸かって、体をほぐせば多少はマシになるかもね。

 みんなで温泉に入ってもらおう。


「筋肉痛のみなさんは、温泉に入って体をほぐしましょう」

「う、うごけないです~……」

「わ、私もちょっと……」


 ハナちゃんとユキちゃんは、移動を断念したみたいだ。一番はしゃいでいたからね。

 筋肉痛の度合いもかなりの物だろう。ロボットダンスみたいな動きしてるし。


 ……。


 しかし放置するのもアレなので、二人は俺が温泉施設まで運びましょう。

 入り口から先は、自分でなんとかしてね。


「二人とも、自分が入り口までは運ぶから、そこから先は自力でなんとか」

「あい~……なんとかするです~」

「こ、これはコレで美味しいイベント……!」


 二人を抱え上げると、なんだかユキちゃん大喜びになった。


「フフフ……ケガの功名」


 良くわからないけど……まあ喜んで頂けたなら何よりだ。

 それじゃ、温泉施設に行こう。


(おんせん……おんせん……)


 ……ん? なんだか謎の声が。

 あ、なんかちゃぶ台の上で神輿がピクピクしている。

 どうしたんだろう?


(きんにくつう~……)


 ――神輿も筋肉痛になるの!?


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