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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十四章 みんな、おかえり!
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第四話 とうとう大晦日!


 ――いよいよ大晦日。今日が終われば、新しい年が始まる。


 今日は集会場にて、みんなでまったり年越し会を催す。

 食べたり飲んだりして、好きに過ごしてもらおうという趣旨だ。

 お酒やジュースや、その他の飲み物。

 おつまみや食べ物などなど沢山並べましょう。


 ということで、子猫亭にオードブルとおせちを取りに訪れる。

 オードブルとおせちを受け取ったら、別のお店にお寿司も受け取りに行く。

 午前中は大忙しだね。


「大将、受け取りに来ました」

「おう大志、毎度あり。そこの箱が全部そうだ」

「これですね」


 大量のオードブルが入った箱を、さくっと車に積み込む。

 その間も、子猫亭は忙しく営業だ。


「大将、忙しそうですね」

「おかげさんで、大忙しだ。大志のアドバイス、効き過ぎたんじゃねえ?」

「あの案は子猫亭の実力を宣伝するものですから、これが本来の姿なんですよ」

「嬉しいこと言うねえ」


 大将もお店が繁盛して、まんざらでも無い表情だ。

 ただ、繁盛するのも限度はあるという物で……。


「父さん、夜に一家族予約したいって電話来たけど、どうする?」


 息子さんが、予約の確認にやって来た。

 大晦日の夜、家族で美味しい料理を食べたい。

 そんな人は多いだろうね。


「あ~……まあ、なんとかなるだろ」

「わかった。受けとく」


 大将は少し考えたあと、受け入れる決定をしたね。

 たぶん仕事的には厳しいのだろうけど、それでもだ。

 しかし大晦日なのに、夜遅くまで営業。

 三人でお店を回すのは……キツくなっているのではと思う。


「大将、人手は足りてます?」

「正直全くだな、ちっとやべえ。バイト募集が必要かも知れねえ」

「まあそうなりますか」

「そうなるな」


 幸い料理人は二人いるから、フロントを何とかすればだいぶ負担は減るだろう。

 あまり無理せず、お店を経営して欲しいね。


「それじゃ、お邪魔したら悪いのでそろそろお暇しますね」

「ああ、また来てくれよな!」

「ちょくちょく食べに来ますよ」


 こうして子猫亭の繁盛する様子を横目に、大量のオードブルを積んで次の場所に向かう。

 あ、団体さんが子猫亭入っていった。……大丈夫かな?



 ◇



「まったりしてますね」

「きょうはのんびり、すごせそうです」

「のんびりするです~」


 夕方ちょっと過ぎ、集会場でまったり年越し会を始めた。

 集会場にはハナちゃん一家やほかの村人、それに観光客たちものんびり過ごしている。

 みんな普段より一層ゆる~い雰囲気で、くつろいでいるね。


 テーブルの上には飲み物やおやつ、そしてオードブルにお寿司などなど。

 おにぎりも腕グキさんちにお願いして、量産してある。

 これらの食べ物を好きにつまんで、ゆっくり過ごしてもらいたい。


「大志さん、おつまみをどうぞ。野沢菜の辛味噌和えですよ」

「良いねえ。これご飯にも合うし、焼酎やビールにも合うんだ」


 ユキちゃんがおつまみを持って来てくれたので、ありがたく頂く。


「野沢菜は沢山ありますので、こちらもどうぞ」

「ありがとう。大事に食べるよ」

「……フフフ」


 妙に可愛く見えるユキちゃんがいてくれると、細かい所に気を回してくれて助かるね。

 男でばかりでガサツな部分を女性視点でフォローしてくれるので、頼りきりだ。

 村のみんなからも頼りにされているし、美容の先生でもある。

 この人材、逃がさぬよう気を付けねば。


 ……最近、なんだか妙に距離が近かったり、妙に可愛く見えるのが気になるけど。

 気のせいかな?


「しかしまあ、今年は賑やかでいいな」

「三月は無人だったのにね」

「村が賑やかなのは、家を建てた俺としても嬉しいぜ」


 親父や高橋さんとも雑談しながら、ちびちびお酒を飲む。

 エルフ燻製をつまみに飲むウィスキーは、また味わい深い。

 口直しに野沢菜の辛味噌和えをつまむと、またこれが美味しいね。


「わたしたちも、もりでさまよっていたときは……まさかこうなるとはおもいもしませんでした」

「まいにちおなかいっぱい、きせきです~!」

「いろんなおりょうりがつくれるなんて、すばらしいですね」


 隣で飲んでいたヤナさんも、雑談に参加してきた。

 カナさんに焼酎をお酌をしてもらいながら、ご機嫌でもぐもぐとサバ缶をつまんでいる。

 お魚好きなヤナさんの、定番の晩酌スタイルだね。

 ニコニコとカナさんにお酌してもらい、カナさんにお酌してあげて。

 二人で仲よくお酒を飲んでいる。


「タイシ、ハナにおにぎりくれたの、いまでもおぼえてるです~」

「思い出の味かな?」

「あい~! ハナ、おにぎりだいすきです~!」


 そういうハナちゃんは、今まさにおにぎりをもぐもぐしている。

 ……だいぶ沢山食べているけど、このあと年越しそばだよ?


「おにぎり、いくらでもたべられるですね~」

「たくさんおたべ」

「あい~!」


 ……問題なさそうなので、良い事にしよう。

 でもまあ、三月までは本当に誰もいなかった。

 それが今や、お客さんが沢山過ごす村になった。

 本当に、感慨深い。


「うふ~」


 おなかペコペコでもうギリギリだったハナちゃんも、今では毎日三食もりもり食べられるまでになった。

 みんなで努力した甲斐があったというもの。


「こういったあつまりも、いいもんですな~」

「まったりできるかな~」

「おさけものめるから、いいわね~」


 平原のお三方ものびきっているけど、この人たちに出会ってからもいろいろあった。

 エルフ世界にある森や人たちとの、交流のきっかけを作ってくれた人たちだ。

 ちょくちょく村に遊びに来てくれるようになって、親しくもなった。


 今や村で大活躍のフクロオオカミたちがやって来た切っ掛けを作ってくれたりと、何気に活躍もしている。

 村に新しい風を吹き込んでくれる、不思議な人たちだ。


「おや? このおさけ……うちのくだものとめっちゃあうぞ?」

「どれどれ……ほんとだ! これはうまい!」


 その隣では、元族長さんと消防団長さんが飲んでいる。

 あっちの森自慢の果物をもぐもぐしながら、ワインをちびちび飲んでいる。

 この人たちはあっちの森とうちの村を繋ぐ人たちだ。


 貴重なビタミン源である、新鮮な果物をもって交易に来てくれるのもありがたい。

 あと、何気に(きん)を拾ってきてくれる。うちの副業的にも大助かりの存在だ。

 そして元族長さんも団長さんも人をまとめた経験があるだけに、冷静で落ち着いている。

 けっこう頼もしい方々でもある。これも素敵な出会いだ。


「きょうはおみせ、おやすみ!」

「のんびりするぞー」

「ぎゃうぎゃう~」

「まあ、全員ゆっくりしようぜ。たまにはもてなされる側も良いもんだぞ」


 リザードマン世界からは、高橋さんとバイトリザードマン、それに海竜ちゃんが年越しに参加だ。

 彼らもリゾート地を盛り上げて維持管理してくれていて、とても助かる。

 村の観光業と湖畔のリゾート地の二足のわらじは厳しかっただけに、無くてはならない方々だ。

 あと彼らはなんだかノリが良い。そういう面でも、湖畔のリゾート運営するのに向いていた。


 ちなみに彼らの造る焼きそばは美味しい。名物になる日も近いだろう。

 妙にちたまの調味料の扱いに慣れているけど、これは高橋さんが色々教えたんだろうなと思う。

 なんにせよ、昔からの絆のおかげで、楽しいリゾートが生み出せた。

 人付き合いは大事だね。


 高橋さんは建築関係や重機関係で、大きな力となっている。

 橋を架けるという目標を持ったリザードマン、技術者として大活躍だ。

 親友としても、長い付き合いだ。これからもよろしくだね。


「どうぶつちゃんたち~、これもたべるのよ~」

「ギニャギニャ」

「ばう~」

「キャーン」

「ピヨ~」


 もちろん動物たちも、この村の大切な住人だ。

 彼らが森で過ごす様子は、エルフの森を彩り鮮やかにしてくれる。

 森にたくさんの生命が存在していて、元気に生きている。そんな光景を見るのは、心が癒される。

 欠かせない存在だ。


「ほらほらどうぶつちゃん、けづくろいするわね!」

「ミュ~」


 ……というか、平原の動物好きお姉さんが集会場に動物を連れ込んでいる。

 別室で動物たちと戯れて、恍惚の表情だね。

 でもこの人、いったいいつ自分の森に帰るんだろう? かなり長期滞在している。

 ……まさか、住み着いてしまっている?


 ま、まあ……そのうち平原の族長さんが連れ戻しに来るだろう。

 それまで、存分に動物たちとお戯れ下さいだね。


「このくろいやつ、おいしい! おいしい!」

「あまいおさけだね! ごうかだね!」

「あま~い!」

「よっぱらっちゃった~……」


 この村で一番新しいお客さんである、妖精さんたち。

 今は洋酒が入ったボンボン菓子で、ほろ酔い気分だ。

 この季節、チョコレートの中に洋酒が入ったお菓子が出回る。

 せっかくだからと買ってきてみたら、大人気のお酒お菓子となった。


 この妖精さんたち、森の維持に大活躍してくれている。

 この子たちがいなければ、森は豊かな実を付けられない。

 そして、働き者でもある。花の蜜を集めてくれたり、お願いすると一生懸命働いてくれる。


 極めつけは、色々こねてまとめてしまう能力だ。

 温泉施設が出来たのも、緋緋色金が出来たのもこの子たちのおかげ。

 ちいさなちいさな体だけど、その存在感はかなりある。

 けっこう派手な、でも可愛い可愛い不思議な種族だ。

 妖精さんたちと交流を続けて、もっともっとこの子たちのことを知っていかないとね。


「このおすしってやつ、なまのおさかな? だいじょうぶなのかしら~」

「これがくってみるとな、うめえんだよ」

「ほんとなの?」

「ほんとじゃん。このみどりのやつが、まじうまい」


 もちろん村人の方々も、欠かせない存在だ。

 というか、彼ら村人エルフなくしてこの村は成り立たない。

 いまこの村を、村として存続させてくれているのは、ひとえに彼らのおかげだ。


 彼らは全てを失った難民の状態から、ずっと頑張り続けてここまで来れた。

 ぽわぽわしているからそれとはわかりにくいけど、実は努力の人たちだ。

 彼らが頑張ってくれている限り、この村は安定して育つだろう。


 一時期は「俺たち地味?」と悩んでいたこともあるけど、魔力ぽいやつを操ったりエナジードレインも出来る事が判明した。

 結構凄い能力を持っているので、これからの活躍を期待したい。

 ……ただ、今の所どの能力も見た目は地味だけど。


 それはそれとして。今マイスターが本わさびを一本まるまる食べてしまった。

 すりおろして薬味にするやつを、ボリボリと。

 というわけで、お寿司からワサビが失われた。

 緊急事態の発生である。


「ユキちゃん、本わさび品切れしたけど……どうする?」

「倉庫にたくさんワサビちゃんが保管してありますから、大丈夫では?」

「あ、それがあったね!」


 そうそう、うちにはワサビちゃんという謎食材があった。

 それを使えば、ワサビ問題は解決だ。


 このワサビちゃんも、不思議な不思議な村の仲間だね。

 赤い光が苦手な、二足歩行植物。ぴっぴと鳴く。

 味を減退せたり増幅させる不思議な調味料となる謎植物で、この村の主要商品作物だ。

 そして腰のくびれが蠱惑的。


「今取ってきます、少々お待ちを」


 妙に可愛く見えるユキちゃん、すぐさまワサビちゃんを取りに行ってくれた。

 俺が行こうと思ってたけど、持って来てくれるならありがたい。

 感謝感謝だ。


(にぎやか~。たのし~)


 ユキちゃんが部屋から出て行くのと同時に、神輿がこっちにほよほよ飛んできた。

 この神様も、色々お世話になっているね。

 エルフや動物たちを気遣ってくれたり、ご利益をもたらしてくれたり。

 言葉の通訳もしてくれたり、異世界の存在を助けに行ったり。


 これほど気さくで優しい神様が、見守っていてくれる。心が温かくなる。

 神輿を納品してからは、能動的に動き回ったり自己主張したりと積極的にもなった。

 あと、この村でも五本の指に入る食いしん坊でもある。

 なんにせよ、村を明るくしてくれる楽しい存在だ。

 これは拝まないとね。ありがたやありがたや……。


(およ?)


 あ、拝んでいたらこっちに近づいてきた。

 ぴかぴか光って、俺の周りをくるくると回る。

 好奇心旺盛な神輿だね。


(これ、おいしそう~)


 あれ? 野沢菜の上でくるくる回り始めたな。

 これはさっき、妙に可愛く見えるユキちゃんから沢山もらったやつだ。

 これが食べたいのかな?

 ……じゃあ、お供えしよう。


「神様、こちらをどうぞ。お供え物です」

(やたー!)


 お皿に取り分けて、神様の前に掲げてみる。

 嬉しそうに、ほよほよ光ったね。食いしん坊さんだなあ。


(ありがと~)


 そしてピカっと光って、手に持ったお皿から野沢菜漬けは消えた。

 今回はお皿を持って行かれなくて、一安心だ。

 手に持っていると良いのかも?


(――……)


 ん? 神輿の動きが……止まった?


(およ? およよ?)


 あれ? 神輿がまた俺の周りをまわり始めたけど……。

 謎の声はおよおよ言っているけど、どうしたんだろう?


(すてき~)


 ――うわ! 神輿がなんかべたべたして来た!

 ええええ? 神様一体どうしたの!?



 ◇



(やすらぐ~)

「……大志さん、その頭の上の神輿は……?」

「よくわからない。酔っぱらっちゃったのかも」

「はあ……」


 なぜか神輿が引っ付いてきたけど、まあ神輿だからね。

 子猫のようなものと思えば、問題ないのではと。

 ということで、神輿は好きに振る舞ってもらう事にして。


 さて、そろそろあの時間ですよ。紅白歌大戦の時間です!

 とりあえずこれを流して、だらだら過ごした後年越しそば。

 定番の過ごし方ですな。

 というわけで、テレビを映しちゃいましょう!


「親父、それじゃテレビつけようか」

「ああ」

「プロジェクタは俺が準備しておくわ」


 俺と親父と高橋さん、三人でてきぱきと準備する。

 スクリーンを張って、プロジェクタを調整して、チューナーを繋いで。

 はい、あっという間に出来上がり!


「あえ? タイシ、うごくしゃしん、うつすです?」

「そうだね。いちおう動く写真だね。ただ、歌を歌う人たちが沢山でてくるやつだよ

「あや! うたです!」

「そうそう、みんなで楽しみながら、のんびりそばやラーメンを食べて、年を越そうじゃないかと」

「たのしそうです~!」


 この村では、初のテレビ放映だ。

 ちたまにっぽん年末番組を見て、まったり過ごそう。


「お? 笑ったら危ないじゃないんだな」

「あれ本当に色々と酷いけど、なんだかんだで面白いのよねえ」

「あにゃ?」


 爺ちゃん婆ちゃんが、もう一つの年末番組の話をしてきたね。

 ただあれは……。


「あれ、日本人じゃないとわけがわからないと思う。それと、エルフたちには刺激が……」

「まあそうだな。あれは慣れが必要だ」

「面白いんだけどねえ。さすがにねえ」


 爺ちゃん婆ちゃんんもその辺は納得のようで、一安心だ。

 エルフたちには、まったりとした歌番組を見て過ごしてもらいましょう。


「ちなみに、俺も笑ったら危ない派なんだけどね」

「私も大志と一緒ね」

「あ、私もそうなんですよ!」


 俺とお袋、そしてユキちゃんは笑ったら危ない派だね。

 爺ちゃん婆ちゃんもだ。


「俺は美咲と違って、歌大戦なんだよなあ」

「俺もあのノリについて行けるようになったのは、最近だなあ」


 親父と高橋さんは、まったり歌大戦派だ。

 高橋さんはちたまにっぽん生まれではないだけに、あのノリを理解するのは時間がかかった模様。

 こういうのがあるから、エルフたちもあのノリについてはいけないだろう。

 のんびり行きましょうねと。


「ちなみに、笑ったら危ないを見たい人はこっちのワンセグね」

「自宅の方では、予約録画はしてあるのよね?」

「もちろん」


 当然録画予約はしてある。抜かりはない。


「じゃあ私は、あとで見るわ。大画面で!」

「俺もそれで良いぞ」

「私もよ」


 お袋と爺ちゃん婆ちゃんは、後日家で鑑賞だね。

 リビングの大画面で、じっくり鑑賞しましょう。


「ユキちゃんはどう?」

「あ~、私は……ちょっとだけつまみ食いしたいですね」

「それじゃ、一緒に見る?」

「それで良いです! それが良いです!」


 ユキちゃんは全部ではないにせよ、つまみ食いで笑ったら危ないを見たいようだ。

 テレビはザッピング派なのかも。俺もそうだから、気が合うね。

 でも、なんか距離が近いですよ。


「なになに?」

「うごくしゃしんを、うつすんですって」

「うたをうたうひと、とかきこえた~!」


 ちたまメンバーでわいわい話していると、他のみなさんも興味を持ったようだ。

 続々とスクリーンの前にやってくる。

 ちょうどいい時間だから、放映しながらみんなにも説明しよう。

 では、電源を入れて……はい、映りました。


「あや! なんかうつったです~!」

「みたこともないかんじ」

「たのしみ~」


 映像が投影されると、エルフたちはキラキラした目でスクリーンを見つめ始めた。

 では、この動く写真の内容を説明しましょう!


「え~みなさん、これは赤い組と白い組に分かれて、歌の点数を競う催しを映したものです」

「「「おおー!」」」

「歌の専門家が歌うので、見応えありますよ」

「「「わー!」」」


 と説明している間に、番組が始まる。

 みなさん、まったりテレビをみてお過ごし下さいだ。



 ◇



「あややや! キラキラしてるです~!」

「こんなもよおし、あるんですね!」

「おもしろいわ!」


 ハナちゃんお目々キラッキラ。ヤナさんとカナさんはかぶりつき。

 ハナちゃん一家は、歌番組に大はしゃぎだ。


「うた、めっちゃうめえな!」

「うたでかちまけをきそうとか、すてき」

「おれは、うたはへたなのでじまんじゃないのだ……」


 ワーワーキャーキャーと、歌番組を見て盛り上がるみなさん。

 ステキさんはもう、ウットリとした様子だ。

 おっちゃんエルフは、歌は自慢じゃ無いのね。ぼえ~ってなる?


 しかしあれだね。まったり過ごすはずが、集会場が大盛り上がりになってしまった。


「おどりがすごいね! すごいね!」

「こうかな? こうだね!」

「はげしいおどり~」


 妖精さんたちは、女性歌手グループの踊りを真似てきゃいきゃい踊っていた。

 これがまた可愛らしい。お人形が踊っているような可愛さだ。


「大志、これ映像に残しておいてよ。めっちゃ可愛いわ!」

「かわいいって! かわいいって!」

「もっとおどるよ! おどるよ!」

「きゃい~!」


 お袋が褒めたから、妖精さんたちご機嫌だ。ステップが激しくなったぞ。

 ……まあ、お袋の要望に答えてカメラを固定しておくか。

 あと妖精さんたち、初見でボックス踏めるとか凄くない? 踊りの才能あるよ君たち。

 ちなみに俺はボックス踏めません。こんがらがります。


(にぎやか~)


 そして神輿は俺の頭の上で、歌番組をみてキャッキャしている。

 というかさっきから、ぴったりくっついて離れない。

 でも楽しんで居るみたいだから、そのままにしておこう。


 とまあ賑やかな中、俺とユキちゃんとで笑ったら危ないをつまみ食いで見る。


「あ、ここでムエタイ来るか~」

「意外な展開ですね」

「婆ちゃんが言うとおり、酷いけど面白いね」

「ええ」


 ユキちゃんと肩を寄せ合って、小さな画面でムエタイを食らう様子を眺める。

 というかユキちゃん、なんか顔も近い。まつげ長いな~。

 ……まあ、あんまり意識しないようにしよう。

 それじゃ、引き続きちょいちょいと歌大戦と合わせて番組を楽しみますか。


「フフフ……これはもうかなりの親しさ」

「? どうしたの?」

「ああいえ、こちらの話です」


 そちらの話か。あまり踏み込むと危険な気がするから、スルーしよう。

 俺は危機管理には自信があるんだ。


「タイシタイシ~、ハナもまざるです~」

(ここ、おちつく~)


 ハナちゃんもやってきて、神輿は相変わらず頭の上でもぞもぞしていて。

 みんなに囲まれて、なかなか楽しいね。

 でもなんだろう? ……みんなのオーラが若干黒く見えるね。

 気のせいかな?



 ◇



 大盛り上がりの歌大戦も終わり、テレビも年越しモードに入った。

 神輿を頭に乗せたまま、みんなにそばやラーメンを配る。


「年越し前に食べきって下さいね。はいどうぞ」

「ラーメン~」

「たまご~」

「もやしもってきたの! もやし!」


 みなさん思い思いの食べ方で、ずぞぞとそばやラーメンを啜る。

 そして何を願っているかは分からないけど、それぞれ幸せを祈願しているに違いない。


 しかし……ここまで来れたのは、感慨深いな。


 ハラペコエルフが大勢やってきて、みんなでラーメンを食べて。

 畑仕事をして、野菜を作って穀物を作って。

 なんだか動物がどんどん増えていって、森が賑やかになって。


 さらに不思議な出会いがあって、地図作りを初めて。

 みんなで旅行に行って、妖精さんたちがやってきて。

 やっとこ収穫祭をして、冬支度を初めて。

 そしてとうとう、年越しだ。


 色んな出会いがあって、色んな出来事があった。

 懸念していた越冬も、今のところ良い調子で。

 当初立てた計画は、概ね成功に向かって進んでいる。

 来年は、いろいろ新しいことをしよう。

 このみんなと、協力し合って。


「つぎはおそばよ~」

「たまご~」

「まだまだたべるぞ~!」

(ごうかなおそなえもの~!)


 ……とっても食いしん坊なみなさんだけど、かけがえのない仲間だ。

 きっと来年も、賑やかで楽しく過ごせるだろう。

 新しい年が、楽しみで仕方が無い。


「大志、大変だったろう」

「私たちでも、ここまで大人数は経験がないわ」

「俺もだよ。大志から聞いたときは、驚いて湯呑み一つ割っちまった」


 爺ちゃん婆ちゃん、そして親父はこの賑やかな光景をみて、労をねぎらってくれた。

 今までのウチの、わかっている歴史で初めての大人数来訪だ。

 この大人数を飢えさせないよう、自立できるよう立ち回る。

 その難しさは、やってみて痛感している。

 ただ、これは俺の力だけじゃ無理だった。


「村に来たみんなや、親父や外部の人たち、それにうちの一族のノウハウがあったからこそだよ。俺はまとめただけ」


 とはいうものの、まだ道半ばであって。

 年を越した後は、正月イベントをしなきゃね。

 モチとかついちゃうぞ~! カニとかたべちゃうぞ~!

 ああもう、楽しみだ。


「まあ元旦はのんびりして、その後正月イベントやるから。手伝い頼みたいな」

「任せとけや。モチつきとか燃えるぜ」

「私は、カニが楽しみね」


 爺ちゃん婆ちゃん、正月は超気合い入る人だ。

 昔の人は、なんだかんだ言って正月を思いっきり楽しむよね。

 厳しい時代において、年を越すというのは本当に祝いの日らしいし。

 この辺り、現代ちたまっ子の俺とは感覚が違うぽい。


「おい大志、しんみりしているところ悪いが、そろそろ新年だ」

「お! もうそんな時間なんだ」

「ああ、カウントダウンは、お前の役目だ」


 高橋さんがちょいちょいと、カウントダウンタイマーを指さす。

 家族と話をしていたら、いつの間にか十二時目前だ。

 会場のみんなも、タイマーの数字を見てワクワクしている。


「タイシ~、もうすぐです?」

「とうとう、いっしゅうまわるんですね」

「なんだか、わくわくしてきました」


 ハナちゃん、ヤナさん、カナさん。

 三人が俺の所にやってきた。新年まで、あと一分。

 それじゃあ、みんなで十秒前からカウントダウンしよう!


「みなさん、十、九、八、七と読み上げていきます。ゼロになったら――新年です!」

「やるです~!」

「おお! それはたのしそうです!」

「もりあがるわ~!」

「みんなでよみあげるとか、すてき」

「わたしたちもするよ! するよ!」

「なかま~」


 ワイワイキャッキャと会場が盛り上がる。

 観光客、リザードマン、爺ちゃんたちのお供さんたちもキャッキャしている。

 そして妖精さんたちと、村のエルフたち。それに……うちの一族も。


「新年になったら、あけましておめでとうって言います」

「わかったです~!」


 ハナちゃん、キャッキャと応じてくれた。

 それでは、カウントダウン始めましょう!


「では! 十!」

「「「じゅう!」」」


 音頭を取って、カウントダウンを始める。

 みんな笑顔で、俺の後に続いて読み上げる。


「三!」

「「「さーん!」」」

「二!」

「「「にー!」」」

「一!」

「「「いーち!」」」


 ――さあ! もうすぐ新年の始まりだ!

皆様、よいお年を!

来年もよろしくお願い致します。

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