第三話 年末目指して大忙し
本日は二十時くらいにもう一話投稿します。
一日二話いきます。
お袋も爺ちゃん婆ちゃんも、その仲間たちも帰省して、うちの家族がそろった。
いよいよ、年末年始に向かって動き始める。
「おそうじ! おそうじよ~!」
「「「おー!」」」
年末は大掃除をする風習があると知った奥様方、気合十分でお掃除し始める。
「じゃあおれら、ちょっくらかりしてくる」
「おにく~」
「このそうびがあれば、さむさもへっちゃらだぜ!」
狩りが得意な男性陣は山に出かけ、お肉の確保に。
「おっし、カウントダウンタイマー設定したぜ」
「この数字が全部ゼロになったら、新しい一年の始まりです」
「「「わー!」」」
高橋さんと一緒に、集会場に電光のカウントダウンタイマーも設置する。
年越しを見た目に分かりやすく演出するためだ。
みんなでカウントダウンして、年の瀬を盛り上げよう!
「おだんごつくるね! た~くさん!」
「あまいおやつを、つくりましょ~」
「おだんごこねこね~」
妖精さんたちは、村のみんなで食べる為のおやつを量産してくれている。
年越し準備で疲れた体に、甘い妖精和菓子は沁みるだろう。
「しっぱいしたやつ~……」
「たべちゃお! たべちゃお!」
「つまみぐい~」
ちょくちょく生み出されるイトカワお団子は、妖精さんたちのつまみ食い用で消費されていく。
イトカワちゃん、そういう役目なのね……。
つまみ食いが多いような気がしなくもないけど、これはまあご愛嬌だね。
「大志、食料運び込もうぜ」
「わかった」
「たべもの、たくさんです~!」
「これを運び込んだら、かまくら作りしましょう」
さらに親父と一緒にカニやらそばやらラーメンやら、年末年始に食べる用の食材も運び込み。
ごちそう沢山なので、ハナちゃんはもう大喜びだ。
食料庫を覗き込んでは、ウッキウキだね。
ユキちゃんはかまくら作りのために、道具の準備を始めている。
提案者だけに、気合が入っているね。
こうして、村は忙しく年末に向けて動き出した――。
◇
「つぎはこっちをおそうじよ~」
「「「わー!」」」
奥様方がワーキャーと大掃除に駆け回るのを横目に、俺は集会場へ食糧を運び込む。
「おさけ、たくさんあるな~」
「これ、みんなでのむのがたのしみ」
「おとさないように、しんちょうにはこぼう」
村のエルフたちにも手伝ってもらい、お酒を運び込んで端っこに置いていく。
村の会費で買ったお酒だから、みなさん遠慮せずに飲んで下さいだね。
飲み過ぎ注意だけど。
「これっておさけ? おさけ?」
「ふしぎないろだね! ふしぎだね!」
「これぜんぶおさけ? たくさんあるね! たくさんだね!」
お酒を運んでいる最中、妖精さんたちがぱたぱた飛んできた。
運んでいるお酒の上を飛んで、きゃいきゃいしている。
どうやら、俺たちの会話が聞こえたみたいだ。
そしてお酒に興味があると言うことは、妖精さんたちはお酒を嗜むということかな?
ちょっと聞いてみよう。
「みんな、お酒って嗜んだりするの?」
「するよ! するよ! だいすきだよ!」
「くだものやおはなのみつ、ほっとくとおさけになるよ! なるよ!」
「あんまりないから、きちょうひん~」
きゃい~と言う感じで答えてくれたけど、妖精さんたちは醸造してたんだ。
ほっとくだけ醸造だけど、考えてみれば当然か。
甘い物があれば、自然発酵してアルコールに変わる事は良くある。
イチゴ大福とかですら、おいとくとアルコールできちゃうからね。
食べたらピリピリするやつが、アルコール出来ちゃったイチゴ大福だ。
アルコールって、わりと簡単に出来ちゃうんだよな。
「これがおさけだよ! おさけだよ!」
「こないだつくったやつ~」
「あんまりないけどね! けどね!」
ピリピリイチゴ大福にそれた思考を、妖精さんたちが引き戻してくれる。
きゃいきゃいと薄い琥珀色をした……飴玉? みたいなのを取り出した。
大きさは直径一センチくらいの、ちいさな飴玉だ。
……これがお酒? どんな味がするんだろう?
「それってどんな味なのかな?」
「たべていいよ! いいよ!」
「なかにおさけがはいってるの! おいしいよ!」
「おすすめ~」
羽根を補修した妖精ちゃんが、ちいさな妖精飴玉を手渡してくれた。
ありがたく受け取って、舌の上で転がしてみると――。
――すっごい甘い! 濃厚な花の蜜の味だ。
レモングラスのような爽やかな香りと共に、濃縮された自然の甘を感じる。
そのまましばらく転がすと、外側が溶けて中身が出てきた。
サラサラとした液体だけど、一気にアルコールの香りと風味が広がる。
外側の強烈な甘さとアルコールの刺激が合わさって、ちょうど良い美味しさになった。
……これはお酒が入った、ボンボン菓子そのまんまだ。
妖精さんたち、お酒も甘くして嗜むんだね。
お酒の入ったお菓子としてみると、完成度高い。
さすが、甘い物にこだわりのある妖精さんたちの作品だ。
「これは甘くて美味しいね。みんなが大好きなのも、良くわかるよ」
「そうなの! そうなの!」
「このおさけ、だいすき~!」
「あんまりつくれないけどね! つくれないけどね!」
きゃいきゃいと妖精酒ボンボンを掲げるみなさんだけど、確かにあんまり持ってないみたいだ。
数人しか持っていない。なるほどこれは、貴重品だ。
めったに飲む、というか食べられないんだろうね。
「これがおさけなら、たくさんつくれるの! つくれるの!」
「おさけ、こねこね~」
「おだんごにしちゃうよ! しちゃうよ!」
そうして妖精さんたち、お酒のビンを指さす。
妖精さんたちも、お酒を嗜みたいだね。
それなら、お酒を分けてあげよう。
「じゃあ何種類かのお酒を分けるね。これで、お酒お団子を作って良いよ」
「ありがと! ありがと!」
「たくさんつくるね! た~くさん!」
「きゃい~きゃい~」
早速木の実をくりぬいて作ったとおぼしき、なんかの容器を取り出す妖精さんだ。
そこにお酒を注げば良いんだね?
「はいどうぞ、こっちも」
「きゃい~」
「おさけ! おさけ!」
「あんまり飲み過ぎないように気をつけてね」
「きをつけるよ! きをつけるよ!」
と言うことで妖精さんたちにお酒を分けてあげて、妖精酒ボンボンの材料としてもらう事に。
妖精さんたちのお酒の嗜み方、なかなか面白い文化だなあと思う一時だった。
◇
食料を運び終え、妖精さんたちにお酒を分けて。
諸々の作業は終わったので、他の班のお仕事をお手伝いしに行く。
腕力が必要な所をお手伝いしようと思ったので、かまくら製造班の所へ。
そこでは、みんな楽しそうに作業をしていた。
「雪恵さん、この大きさで良いんだよね?」
「ええ。どーんと本格的なかまくらにしましょう!」
「「「おー!」」」
高橋さんがユキちゃんに図面をみせて、設計を確認しているね。
かまくらはユキちゃん提案の冬の催し物で、氷のブロックを積み上げる本格的なやつをこさえる。
その周りでは、力自慢の男性陣があつまってえっほえっほと雪のブロックを運んでいる。
沢山作り貯めておいた雪のブロックはかなりの量があるから、材料不足にはならなそうだね。
それじゃちょっと話しかけてみよう。
「ユキちゃん、作業は順調?」
「ええ、今の所順調ですよ。かなり本格的なのを作りますので、楽しみにしていてい下さい」
「良いねえ。雰囲気出そう」
「ハナたち、がんばるです~!」
ちらっと完成図の図面を除くと、結構な大きさのドーム型かまくらだった。
普通に中で快適に過ごせそうな設計で、これは凄いかもだ。
というかCADで図面書いてあるあたり、相当本気だ。
ハナちゃんもキャッキャと、そりで小さめブロックを運んでいるね。
「あとは積上げるだけですので、大晦日までに五つは作れますね」
「いい観光名所になりそうだよ」
「というか、観光客の方々もお手伝いしてくれていますね」
作業している人たちを見ると、確かに観光客の方々も参加している。
「こういうもよおし、たのしいな~」
「うちのもりでも、なにか……かんがえようかしら」
「いいねいいね!」
平原の人たちやあっちの森の人たち、ワイワイと積み上げ始めている。
エルフ世界には冬がないらしいから、ちたまの冬遊びは貴重な体験だ。
一つの催しとして楽しんでいるね。
寒さもへっちゃらな様子で、手伝いをしてくれている。
みんなにはあとで、お礼に暖かい卵入りラーメンを振る舞おう。
お代わりし放題で。
「あにゃ! あにゃあにゃ!」
「そうそう、これはこっちに運ぶんだ」
「あにゃ!」
シャムちゃんや爺ちゃんたちのお供の人も、一緒に楽しそうに参加している。
爺ちゃんたちの世界は冬があるし、かまくら作りもしている。
それゆえ、全員手慣れた感じだ。
この辺りは文化に共通性があって、面白いなあ。
「おもしろいぶんかだな~」
「ゆきでおうちがつくれちゃうとか、すてき」
「おれがむかしすんでいたはっぱのせおうちより、あきらかにこっちのほうがすごいのだ……」
ちたまエルフ村の方々も、楽しそうにかまくらを作っている。
本格的なやつだから、かなり頑丈で中も広い。おっちゃんエルフもヘコむほどの完成度だね。
でも残念。春になったらとけちゃいます。
冬の間だけ楽しめる、特別でステキなおうちですから。
「あらみんな、面白そうなことしてるじゃないの。かまくらね?」
「ばうばう」
えっちらおっちら作業をしていると、お袋がフクロオオカミに乗ってやってきた。
お袋、もうフクロオオカミと仲良くなってる……。
フクロオオカミは口をもぐもぐさせているから、飴玉でもあげたかな?
「ゆきでおうちをつくっちゃうとか、おもしろいですね」
「かんせいするの、たのしみです~」
ヤナさんとハナちゃんが、お袋に話しかけた。
お袋はシュタっと、フクロオオカミから降りてくる。
「かまくらは、いちおう神様の祠として作ったりもするわね」
(くわしく)
――いつの間にか俺の後ろに神輿が!
さっきはいなかったでしょ!?
「水の神様を祭るために、かまくらを作るお祭りがあるの」
「そうなんだ~」
(いいこときいた)
お袋がかまくらの話をすると、神輿がキャッキャし始める。
この神様、チャンスを逃さないなあ。
(おうち~)
……さて、もうなんか凄い期待している感じが出ている。
ぴこぴこと持ち手の部分を動かして、神様用かまくらのおねだりが……。
これもう、作るしかないわけで。
「……お袋、祭壇用のかまくらって作り方分かる?」
(お? おおお?)
「わかるわよ? 何々それも作るの?」
「まあね。神様用の祠をいっちょ作ろうかと」
(やたー!)
元気よく飛び回る神輿だ。神様も、かまくらイベントお楽しみ下さいだね。
「タイシ~、ハナもかみさまのかまくら、つくるです~!」
「あ、おれもてつだう」
「わたしも」
「面白そうですね。私もお手伝いしますよ」
他のみんなも続々とお手伝い宣言だ。
神様用のかまくら、みんなで気持ちを込めて作りましょう!
(みんな、ありがと~)
くるくる飛び回る神輿だけど、嬉しそうだね。
でも神様、このおうちは春になったら溶けますからね。
普段は集会場の神社でお過ごし下さいだ。
◇
大掃除も終わり、食料も運び込み、燃料もエルフ世界から拾ってきた。
年越しの準備は、これでだいたい終了。
もちろんかまくらも、ついさっき完成した。
年明けはこのかまくらで、何か楽しいことをしよう。
こうして色々な年越し準備が終わってひと安心、集会場でひと休みすることに。
妖精さん特製お団子をお茶菓子に、緑茶をずずっとすする。
「あ、大志さん。お茶うけに野沢菜漬けをどうぞ」
「ユキちゃんありがと。これ緑茶と合うよね」
「ええ。……フフフ」
ユキちゃんがタッパーから野沢菜を取り出して、小皿に盛り付けてくれる。
この野沢菜漬けをつまみながら緑茶を飲むのが、また格別だったりする。
乳酸発酵が弱めの、青々しい野沢菜漬けでお茶を飲むのがコツだ。
では、ひと口頂きます。
まず漬物の塩味で口の中が引き締まり、野沢菜のシャキシャキとした食感を楽しむ。
そして口の中に残るわずかな酸味と野沢菜独特の渋みを、緑茶で調和させる。
緑茶の渋さと野沢菜の渋さが、わずかな酸味と合わさって何とも言えぬさわやかさを感じさせてくれるのだ。
さらに疲れたときに食べると、体の疲れふっと楽になる。そんな不思議な組み合わせ。
「あ、みなさんも摘まんで下さい」
「ユキありがとです~。ハナ、このおつけもの、けっこうすきです~」
「こっちの郷土料理なの。たくさん食べてね」
「あい~!」
ほかの人たちにも降る舞うようで、別のタッパーを取り出してお皿に盛り付けしているね。
「あら、野沢菜ね。久しぶりだわ」
「上手に漬かってるな。これは美味いぞ」
親父とお袋はさっそく、別のタッパーのやつをひょいぱくひょいぱくと摘まむ。
「たまに、無性に食べたくなるんだよな。ただ、向こうじゃ作ってないから悶々とするが」
「これを食べると、帰ってきたって感じがするわ」
「私たちは、これを食べると『遊びに来た』って気になりますよ」
「あにゃ」
爺さん婆さんは、そりゃもうほくほく顔で、野沢菜を摘んでお茶を飲んでいるね。
故郷の味だから、沁みるだろう。
お供の人たちは、旅先の珍しい食べ物って感じだけど。
シャムちゃんも同じような感覚なのか、コクコクと頷いている。
まあこちらとしても、郷土料理を美味しく食べてくれるなら嬉しいね。
「これうめえんだよな~」
「とくにあのチャーハンにいれたやつ? あれがべらぼうにうめえじゃん?」
「またつくるわよ~。……フフフ」
「フフフ……たくさんつくるね」
マッチョさんとマイスターは、さりげなくリクエストしている。
腕グキさんとステキさんも乗り気だ。こういうリクエストなら通るんだな。
普段は注文ガン無視で、野菜炒めを出しているのに。
俺はあのお料理屋ほど、特定客の注文を聞かないお料理屋を知らない。
……でも、腕グキさんとステキさん、なんか妙に可愛く見えるユキちゃんと……笑い方似て来てない? 気のせいかな?
「かみさま~、おそなえするです~」
(ありがと~)
フフフと笑う腕グキさんたちの後ろでは、ハナちゃんが神棚にお茶と野沢菜漬けをお供えしている。
偉いねハナちゃん。いっつも神様にお供えしてくれる良い子だ。
神社も嬉しいようで、ほよほよ光っているね。微笑ましい。
そしてお供えが終わったハナちゃん、こちらにぽてぽてとやって来た。
「タイシタイシ、これってハナたちでもつくれるです?」
俺の前まで来ると、おもむろに野沢菜を自分達でも作れるか聞いてくる。
栽培できるか聞いてくるって事は、気に入ったんだね。
それじゃあ、今度種を持って来てあげよう。
「もちろんこの野沢菜もにょきにょきできるから、今度種を持って来るよ」
「あや! ほんとです!?」
「ホントだよ。おうちでお漬物作ってね」
「たのしみです~」
ハナちゃん乗り気だね。それじゃあ次に来るときに持って来よう。
エルフ湖畔の近くに作った、ハナちゃん菜園出張所はまだまだ小さい。
でも、冬季の野菜供給でとてつもない貢献をしてくれている。
この村でスタンダードになった野菜たっぷりお味噌汁、これはハナちゃんの頑張りによって支えられているのだ。
そこに野沢菜も加わったら、より食事に彩が増えるね。乳酸発酵食品だから、栄養もバッチリだ。
「フフフ、一般化してしまえばもっとさりげなく……」
そんな事を考えていると、妙に可愛く見えるユキちゃんが例の進捗ノートに何かを書き込んでつぶやいていた。
若い娘さんは、色々大変なのだろうから、触れないようにしよう。
あと、なんか触れたら危険と、俺の本能が告げている。
俺の勘は鋭い方だと思うからね、勘に従おう。
俺は危機回避能力には自信があるんだ。
しかし、この野沢菜漬けは美味しいなあ。あと、ユキちゃん妙に可愛いなあ。
危機回避能力ゼロ




