第二話 ご紹介
改めて神様をお袋に紹介して、なんで神輿なのかのいきさつも教えた。
「神様まで来ちゃうって、それすごいわね」
(それほどでも~)
お袋の素直な感想に、神輿もてれてれである。ほよほよ光って反応を示しているね。
お袋は俺と違って、謎の声は聞こえていないようだ。
でも慣れてくれば、そのうち仕草と光を見て大体意思疎通できるようになるとは思う。
じっくり交流してくださいだね。
さて、神様の紹介忘れた事件はこれで解決したかな。
じゃあ次に、年越しラーメン問題に取り掛かろう。
「ちなみに、年越しはそばとラーメンどっちでもいい事にします。お好きな方で」
お袋が「ラーメンでも良い」と言っちゃったので、もうなんでもありなことにする。
縁起を担げて、楽しく美味しく過ごせるなら、それで良いよね。
「……きゅうきょくの、せんたく」
「なやましい……」
「どっちも、すてがたいです~」
……あれ? エルフたちがものすごい悩み始めた。
そばとラーメン、甲乙付け難いらしい。
「う、うう……きめられない……」
「これは、むずかしいもんだいだわ」
ヤナさんとカナさんも頭を抱えて悩んでる。
そこまで悩むことなの!?
「ぐ、ぐぬぬ」
「なんちゅうこうどなもんだい……」
「きめられないじゃん……」
(なやましい~)
あ~これ、どうしよう。多分この人たち、決められないぞ……。
というか、神輿も悩ましげに「およよ」っと光っている。
謎の声も悩ましいと言っているし。
みんな悩んじゃったぞこれ……。
「大志、なんとかしなさいよ」
「元はと言えば、お袋がラーメンとか言ったのが原因じゃない?」
「なにそれ、知らないわ」
あ、とぼけた。
……しょうがない、とっておきの解決方法、ご提案しましょう!
「あ~、みなさん。迷うのなら――両方食べちゃえば良いのでは?」
「「「――!!!」」」
迷ったら両方食べちゃえばいい。片方しかダメなんてルールは無いわけで。
てなことを提案したら、エルフたちから「ピリリ」っと電撃が走った。
……そんなところで電力つかっちゃうのね。
「タイシタイシ、りょうほうたべても、いいです?」
(おそなえもの、たくさん~?)
ハナちゃんきたいのまなざし。お目々キラキラ。
神輿もキラキラ。
別に食料とお腹の容量が許すなら、両方食べても問題は無い。
「良いんだよ、両方食べたって。でも、麺類は伸びるからそこは気を付けてね」
「わーい! りょうほうたべるです~!」
(おそなえもの~!)
安心したのか、ハナちゃんと神輿は手を取り合いキャッキャと大はしゃぎだ。
たんまりお食べくださいだね。
「べつに、むつかしくかんがえなくていいんだ」
「りょうほうたべちゃっていいとか、すてき」
「ふとっちゃうわ~」
ほかのみなさんもキャッキャと大はしゃぎだね。
あと、ふとっちゃうと言っている腕グキさんだけど、抑制するつもりはないらしい。
あの……両方食べなきゃいけないわけではないのですよ。
食べたかったら、両方食べても良いというお話でしてね。
「ガテン系の思考きたわね。あんたたち親子、ほっとくとすぐ力技に走るんだから」
「おい大志、俺にもとばっちりきたぞ」
「事実だからしょうがない」
あまりに力技な解決策に、お袋は呆れ顔だ。
とばっちりを食らった親父からクレームが来たけど、親父も似たようなもので。
俺ら親子、似た者同士なんだから。
「ユキちゃん、大志はいっつもこんなんだから、苦労してるでしょ」
「え、ええまあ……」
ユキちゃん否定しないぞ……。俺も身に覚えがありすぎるだけに、申し訳ない感じだ。
「ほっとくと力技に走るから、申し訳ないけどフォローしてあげてね」
「そこはもちろんです。とことんまでお付き合いしますよ」
「あら、頼もしいわ! いい子ね~!」
「あ、あわわわ……」
ユキちゃんがとことん付き合ってくれると回答したら、お袋はご機嫌だ。
ユキちゃんの頭を抱えて、なでくりし始めた。
よそ様の娘さんだから、大事にしてね、大事に。
◇
――翌日。
久々にお袋が帰ってきたので、親孝行をすることに。
以前計画していた、あの神輿もなんとかするエステサロンにある、最上級コースへご招待だ!
「あらー! 大志がエステ連れてってくれるなんて、成長したわね! ……で、誰の入れ知恵?」
「そこにおわしまする、ユキちゃん大先生にございます」
「え、ええまあ」
(いやしのひととき~)
折角だからユキちゃんと神輿も誘って、神輿もなんとかするエステサロンに向かう。
俺がエステと言うものを自発的に調べるはずもないので、すぐさま情報源は外部と言うのがバレました。
ユキちゃん大先生、さまさまでございます。
(えすて、たのしみ~)
「で、大志。この神輿はどうするの?」
「一緒にエステで、つやつやになってもらうよ? 前回もつやつやにしてもらったから実績あるし」
「……そこ、大丈夫なの?」
「こうかはばつぐんだ」
神輿もつやつやにするエステサロン、お袋は心配顔になった。
でも大丈夫。だって――俺がエステ受けるわけじゃないから!
あっはっは。
と賑やかに騒いでいるうちに、目的地へ到着だ。
みんなをエステに送り出して、俺は書店で電気工事士のテキストを見てくるとしよう。
テキストが一冊だけだと、ちょっと不安だからね。
視点は多角的に、だ。お袋の教えでもある。
そして書店で楽しくショッピングをし、迎えに行くと――。
「ここ凄いわね! つやっつやになるじゃない!」
「腕がいいですよね!」
(つやつや~!)
――そこには、元気につやつやになった女子たちが!
道行くおばちゃんたちも、キャッキャとはしゃぐ三人を見て、それからエステサロンの看板を見て。
またつやつや三人組を見てから……虚ろな目で、ふらふらとエステサロンに入っていった。
……ですよね。この効果を見ちゃうと、抗えないかもだね。
お安いコースでも効果はかなりあるらしいので、ご検討下さいだ。
きっとつやつやになって、家族がビックリしますよ。
……。
――さて! 人だかりができ始めたから早い所撤収しよう。
ほっとくと制服を着た公務員の人が、あかいやつを点滅させてやってきてしまうからね。
彼らもヒマじゃないのだから、手を煩わせたら申し訳ない。
「はいはいみんな、車にのって帰ろう」
「ほほほ、今日はご機嫌だわ。大志よくやった!」
「ふふふ、このツヤ、この手触り……。おこづかいでは無理なコース……」
(いやされた~)
ご機嫌三人組を車に乗せ、キャッキャと賑やかに村へと戻った。
そして、村では――。
「――えすて~、えすて~」
「つやつやおはだ~」
「もっとうつくしく……」
「ゆめのえすて……」
待ち構えていた、えすてゾンビ――ではなくうつろな目をした女子エルフたちに、三人は連れていかれてしまった。
いまごろ集会場では、エステ体験を聞きながらお目々キラキラ女子エルフに、生まれ変わっているだろう。……たぶん。
まあエステ問題をどうするかは、ユキちゃんに丸投げしてある。俺は触れないことにしよう。
だってそこ、地雷原だからね。
「あえ? おかあさんどこいったです?」
たまにキャーキャー聞こえてくる集会場を眺めていると、ハナちゃんがぽてぽてやってきた。
カナさんを探しているようだけど、さっきカナさんはえすてゾンビになっていたね。
「ハナちゃんのお母さんは、いま集会場にいると思うよ。……冬はお肌が荒れやすいからね。お母さんも大変なんだよ」
「たいへんですか~」
ハナちゃんもおっきくなったら、多分あの輪の中の一員になると思うけど……先の話だね。
ハナちゃんはまだまだ、つやつやお肌の子だ。今は慌てる必要はないと思う。
それより、どうしてカナさんを探していたんだろう? ちょっと聞いてみるか。
「ハナちゃん、お母さんを探していたのは、何か用があったから?」
「あい~……、おなかすいちゃったです~」
きゅるると可愛くお腹を鳴らして、ハナちゃんはらぺこアピールだ。
集会場はしばらく盛り上がっていると思うから、多少時間はかかるよね。
……湖畔のリゾートに行って、リザードマン特製焼きそばでも食べに行こうか。
「ハナちゃん、あっちの湖に行って、焼きそば食べない?」
「やきそば! たべたいです~!」
「よし決まった。それじゃあフクロオオカミに乗って、焼きそばを食べに行こう!」
「わーい!」
ということで、ボスオオカミにお願いして湖畔のリゾートへ行くことに。
「ばうばう」
「あっちに行ったら、毛繕いしてあげるよ」
「ばう~!」
寒いのもへっちゃらな様子で、ボスオオカミは洞窟へと歩いていく。
もうすっかり仲良しさんなので、毛繕いとかいろいろしてあげたくなるね。
「……ばう?」
おや? 洞窟を目前にして……ボスオオカミが足を止めた。そして、耳をぴこぴこさせる。
……どうしたんだろう?
「あえ? タイシタイシ、なんか声が聞こえるです?」
「声が聞こえる? 観光客かな?」
「なんだか、にぎやかなかんじです~」
賑やかな感じなんだ。大勢来たのかな?
まあいいや、とりあえず行ってみよう。
「とりあえず行ってみようか」
「ばう」
「あい~」
特に気にせず、洞窟へと再び歩き出す。
すると、俺の耳にも賑やかな音が聞こえてきた。
わいわいキャッキャと、楽しそうな声だね。
お、姿も見えてきた……て、あれは――。
「おう大志! 出迎えか?」
「大志ちゃん、久しぶりねえ」
洞窟から出て来たばかりと思しきご一行のうち、二人のお年寄りが手を振ってきた。
あれは、爺ちゃんと婆ちゃんだ!
「爺ちゃんと婆ちゃんじゃないか! 今日戻ったんだ!」
「あえ? おじいちゃんとおばあちゃんです?」
「そうだよ。うちの祖父と祖母だね」
キャッキャと賑やかなご一行の前まで近づくと、爺ちゃん婆ちゃんにっこりだ。
周りでキャッキャしているのは、旅のお供の方々だね。
「あどうも大志さん、お久しぶりです」
「どうもどうも、お元気そうで」
キャッキャしている一行の中で、一人が流暢な日本語で挨拶して来る。
東南アジア系の顔つきをした、見た感じ普通の人間で、親父と同い年の人だ。
この人毎年遊びに来るから、もう顔なじみだね。
他の人もほとんどが去年来た見知った顔だけど、知らない顔もちらほらある。
「あにゃあにゃ。にゃ~」
その知らない顔の内の一人が、爺ちゃんに「あにゃあにゃ」と現地語で何か話しかけている。
この人は……ケットシーちゃんだね。○イルーみたいな二足歩行ネコちゃん族だ。
陽気で人懐こい、かわいい種族なんだなこれが。
「あにゃ、あにゃにゃ」
「にゃ~!」
そんな彼? 彼女? に爺ちゃんが現地語で何かを説明したら、にゃーと言ったあと……うんうんと頷いてこっちにやって来た。
「ヨロシクヨロシク! ハジメマシテ!」
そしてにゃんにゃんという感じで、片言の日本語で挨拶してくれた。可愛いね~。
俺も挨拶しよう。
「初めまして、こちらこそ、よろしく。私の名前、大志。大志」
あちらさんにも分かりやすいように、単語を区切って聞き取りやすく。余計な修飾はせず話す。
「タイシー! ヨロシク!」
うまく伝わったようで、にゃんにゃんと返答してくれた。ほんと、可愛いなあ。
見た目はシャム猫っぽい、シャムちゃんだね。よろしくお願いしますだ。
「わたしはハナハっていいますです~、ハナってよんでね!」
「ハナー! ヨロシク!」
「ハナちゃんか、よろしくな」
「ハナちゃんね、よろしく」
ハナちゃんも俺の後に続いて、可愛く自己紹介だ。
爺ちゃん婆ちゃんも、にこにこ顔でよろしくの挨拶をする。和やかだ。
とまあこんな感じで、爺ちゃんが昔手助けした世界は、今でもお付き合いが続いている。
そこは人間以外の知的生命体がいて、多様性あふれる面白い世界。
俺も、また遊びに行くのも良いかもな。
「あや~! ふしぎなひとたちです~」
「お、そっちのお嬢ちゃんとおっきな動物は、新顔か?」
「ばう?」
おおっと、突然の再会に喜んでいたけど、色々と説明しないとね。
いま大勢来ているから、爺ちゃん婆ちゃんも驚くだろう。
……あ、でも集会場は今、えすて会議中だ。使えないよね。どうしようか……。
あれだ、いったんみんなで湖畔のリゾートに行こう。
そこでおやつでもつまみながら、色々説明すればいいや。
お袋にメールで、爺ちゃんたちが帰ってきたことと、湖畔で遊んでることを連絡しとけば問題ない。
それじゃ、みんなをエルフご自慢の湖畔リゾートにお誘いしましょうねと。
「あ~爺ちゃん、今集会場は会議で使ってるんだ。だから、別の場所でお茶しよう。良い所があるんだ」
「良い所? それで構わないぜ」
「あら良いじゃない。行きましょう」
爺ちゃん婆ちゃんも乗り気だから、問題ないね。
それじゃあみんなで、湖畔リゾートに行こう!
◇
「ほ~、大勢来たんか。つうかよ、ほんとに村の規模になってんじゃねえか」
「あら、賑やかになったのね。わ! 妖精もいるじゃない!」
「タイシ、みんなによくしてくれるです~」
「良かったわね~」
「あい~!」
「ばうばう~」
ハナちゃんが持っていた写真をみせながら、今までのいきさつを説明する。
みんなで焼きそばやら軽食やらを摘んで、まったり報告会だ。
ボスオオカミは爺ちゃんに毛づくろいしてもらって、ばうばうとうっとり顔。
婆ちゃんはちっこいハナちゃんが可愛くて仕方がないのか、にこにこと頭をなでなでしている。
俺もなでとこう。
「えへへ」
頭を撫でられたり焼きそば食べ放題だったりして、ハナちゃんもうご機嫌だね。
可愛いエルフ耳も、ぴっこぴこだ。
「しかし大志よ、隠し村を観光地化とかヤベえこと考えたな」
「隠す気ゼロよね。美咲さんの考え方に、良く似てるわ」
「……否定できない」
「にぎやかになって、ハナたちたのしいです~」
話しを進めていくうちに、色々突っ込みも頂く。でも、どうせなら賑やかな方が良いからね。
この世界の人たち、ほんわかしているから大丈夫だと思うし。
多分お袋も、同じようななこと考えるだろうし。この辺、親子だなって感じだ。
まあハナちゃんもキャッキャと喜んでくれているから、良いんじゃないかと。
「おや? しらないひとがたくさんですな」
「タイシさんのかんけいしゃかな~?」
「にぎやかですね」
ワイワイキャッキャと湖畔リゾートで報告会をしていると、平原のお三方が遊びにやってきた。
初めて見る人だらけで、興味深々のようすだ。
知らない人だらけなのに、興味を持って近づく、これは平原の人ならではかも。
初対面でもグイグイいけないと、交易とかやってられないだろうからね。
「おやおやこれは、現地の人ですかな? 私はこの大志の祖父です」
「私は祖母ですよ。久々に里帰りしているの」
「私たちは、旅のお供ですね。みんなで一緒に、世界を旅しています」
「あにゃ」
爺さんたちも物怖じせず、にこやかに挨拶だ。
こっちはこっちで旅慣れしているから、やっぱり物怖じしない性格だね。
「え!? せかいをたびしているのですか! それはすばらしい!」
「たびはいいものかな~!」
「わたしたちも、たびするの、だいすきなんですよ!」
そして爺さんたちが「世界を旅している」と言ったら、平原のお三方が食いついた。フィッシュ!
彼らも旅が大好きだから、世界を旅しているなんて言われたらそりゃ食いつくよね。
こうして、ちたまに帰らずワーキャーと交流会が始まる。
写真を見せあったり、旅の思い出を話したり。
村の様子や、生活の風景などなど話したり。
爺さんたちも楽しそうに、話を聞いたり話をしたりと盛り上がる。
「はーい! やきそばついかね!」
「のみもの、おまちしやしたー!」
「よろこんでー!」
注文がバカスカ入るので、バイトリザードマンたちは居酒屋ノリで大忙しだ。
今日は大儲けだね。
「あにゃあにゃ」
「こんなひともいるのね」
「かわいいかな!」
平原のお母さんと娘さんは、シャムちゃんとキャッキャしている。
二足歩行ネコちゃんはエルフ世界にいないから、もう珍しくてかわいくてしょうがないみたいだ。
シャムちゃんも構われて嬉しいのか、あにゃあにゃとご機嫌のようす。
楽しく交流してくださいだね。
(おまつりのよかん~)
そしてこういう賑やかな集まりを見逃さない神様、神輿に乗ってご登場だ。
ほよほよとこちらに飛んでくる。
……えすて会議は終わったのかな?
「……なあ大志、なんか飛んできたけど。これ何?」
「神輿? UFO? それとも現地の……人?」
「あにゃ?」
(ども~)
――あ! また神様の紹介忘れてた!




