表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二章  活動開始
19/448

第三話 男のしょっぴんぐ

 親父と温泉でさっぱりした後、俺はいったん家に帰って腰を落ち着けた。じっくりと、これからの食料をどうするか考えよう。


 まず何を差し置いても、とにかく食料だな。それが無いことには、何にもできない。

 今は春なので、里山から採れる炭水化物は限られる。芋を掘るか、野生化した雑穀を集めるか。いずれにしても、三十人を支えるほどの量が毎日採れるとは思えない。

 とにかく炭水化物だ。それをどこかから調達しないと、食料不足に陥る。

 かつ、一定の期間もたせるだけの物量も必要かと思う。


 物量がないと毎日食料調達に忙殺されることになり、それ以外何もできなくなる。そしてそこまでやっても、食料が足りないといった事態に陥る。(すなわ)ち、農業に人手を割くことが出来なくなる。

 結果、食料不足はいつまでも解決できずに、冬を迎えてアレな事になる。これは絶対に避けたい。


 目指すところは自給自足であるし、できるだけ農業に集中できるような環境を作る必要がある。

 冬を越せ、翌年も十分な収穫を得られるくらいの種を得られれば、村をエルフ達だけで維持できるようになる。あわよくば、村の発展すら狙える。

 そうするためにも、まずは安定した食料供給、という一歩が肝となる。ここで手を抜いてはいけない。


 なにより、おなかを空かせていたハナちゃんの姿と、同じくおなかを空かせて声をかけてきたヤナさん達。あの姿をまた見るなんて事には絶対にしたくない。


 さて、それではどうやって安定して、食料を供給するかだ。

 家に余っている米を提供しようか。いや、現状では難しい。米の調理はそれなりに時間もかかり、器具も必要になる。


 米は、アルファ化させ、食べられるようにするのに時間がかかる食料なのである。生米の状態からリゾットもしくは雑炊を作ると、これが良くわかる。お米を美味しく炊くにも、大体四十分水に浸さないといけない。このことから、今村にある調理器具だけでは厳しいかな、と思う。

 ガスコンロが四つしかない今の状況で、約三十人分の米を一気に調理し、副菜もつくる。これはちょっと、手間と時間的に厳しい面がある。


 そう考えると、仕込んでおきさえすれば、すぐに調理が住む小麦粉かな。これが今のところ、もっとも負担が少ない。

 まずは小麦粉を一か月分ほど提供して、簡単な料理を自分たちで作ってもらうようにしよう。

 そうやって時間稼ぎをしながら、全家庭分の調理器具を揃えていこう。調理器具さえそろえば、今やっている炊き出し方式から、各家庭で調理してもらう方式に切り替えられるはず。

 そうすれば、米も有用な食糧にすることができるんじゃないかな。

 謎の原理を使う、火起こしの達人も居る事だし。


 ちなみに諦めないでやっても、俺には無理だった。どうしてもボッてならない。無念。

 ……ボッてならないのはさておき、小麦粉を大量に調達する方針で行こう。


 つまりお金で解決する。楽ちん!


 実も蓋もないけど、結局これが手っ取り早い。最初にアレコレ考えてたのは殆ど無駄な時間だったな……。


 とはいえ、お金で解決するならそれはそれで、できればお安く買いたい。俺の貯金だって無限じゃない。

 お安く大量に買うにはどうすればいいか……。業務用スーパーで買うより、直接(おろし)に発注するのが量も買えてお安く済むかな? しかし卸とのツテは無い。どうしたものか。


 ……そういえば高校時代の同級生で、実家が製麺業を営んでる友人が居る。小麦粉の良い調達先も、あいつなら知っているんじゃないかな。知ってたらいいな。知ってるよね。知ってるに決まってる(断定)。

よし! 電話を掛けよう。


「もしもし山本? 元気してた?」

『大志か。久しぶりだな』

「久しぶり。実はちょっと、山本に相談があってさ」

『お前が俺に相談て珍しいな、いったい何を相談したいんだ?』


 相談には乗ってくれるようだ。俺は単刀直入に、要件を告げた。


「小麦粉をとりあえず……五百キロ程買いたいんだけど、なんかいいツテないかと思って」


 沈黙。


 小麦粉を五百キロというのは、三十人弱の人間を一か月養えるだけの量である。その分量を告げた途端、電話の向こうから応答が無くなった。まあいきなり五百キロだ、固まっても無理はないか。

 暫くそのまま待つと、ようやく解凍したのか応答が返ってくる。


『とりあえず五百キロて……。一体何を始める気なんだよそれ』


 さすがに業者でもないのに、個人で五百キロはあきれたか。俺でも、こんな話をいきなり切りだされたら、意味も分からず動揺するか、あきれるだろう。当然の反応だな。


「人助けだよ人助け」


 エルフに食料援助するんだよ、なんて言えるわけも無いので、人助けでお茶を濁す。これで押し通すのだ。


『またお前んち変なことやってんの? 昔そんなこと言って豆炭を大量に買ったせいで、お前んちに警察来てたよな』


 小学生のころの話だな。まだ覚えてたか。可燃物を大量に個人が買ったんだから、通報されもする。

 その時は親父が警察を言いくるめたらしいが、いったい何をどうやって言いくるめたのか、今でも謎だ。

 

「そんなわけで、山本に相談することにしたんだ」


 都合の悪いことは、聞かなかったことにする。割とこれで押し通せる場面は多い……といいな。


『俺の疑問はスルーかよ。まあ何がそんなわけでかは知らんが、うちんとこの小麦粉卸してやろうか?』


 うちんとこの小麦粉? 製麺用に仕入れたやつを分けてくれるのかな? 聞いてみよう。


「製麺用の奴分けてくれんの?」

『いや、お前知らないみたいだけど、俺んち小麦粉卸が本業だぞ? 製麺業は副業だ』


 知らんかった。しかし、山本の友人は俺を含めその他大勢、製麺業が本業だと思っていたはずだ。屋号(やごう)も製麺が付いているし。


「副業の方が儲かってそうなんだけど、俺の気のせいかな」

『痛い所を……発注ミスで大量に来た小麦粉を、どうするか悩んだ末、じいさんが製麺やりだしたのが始まりなんだよ。そしたらそっちの方が人気でちまった』


 あるよねそういうの。おまけの方が人気出ちゃうあれ。


「なるほどね。でもちょうどいいな。頼んじゃっても良いか?」

『良いぜ。友達価格にしてやるから、粉の種類を指定してくれ。納期と価格は種類で決まるからさ』


 粉の種類か……中力(ちゅうりき)粉でいいかな。

 なぜ中力粉かといえば、用途が幅広くて便利だからだ。やろうと思えばこれでパンも焼ける。

 ちゃんと用途に合った種類で作ったものには負けるが、薄力(はくりき)粉と強力(きょうりき)粉の用途をどっちも、割とカバーできるのが中力粉の良い点だ。


「じゃあ中力粉の安いやつで頼む。国産輸入問わない」


 産地を選ぶ余裕はないので、ここは問わないことにした。とにかく量が必要だから、値段の安い物しか選択肢が無い。


『ちょっと待ってろ……五百キロで……大量購入だから割引して……税込六万六千円でどうだ』


 お友達価格のお蔭か、思ったより安い。金額は問題ないな。後は納期か。


「金額は問題ない。納期は?」

『一番安いやつは在庫が少なくてな、まあ百キロなら今日納品できる。残り四百キロは発注かけるから三営業日後になるな』


 百キロあれば一週間分以上になる、これも問題ない。お願いすることにしよう。


「よし、それでお願いしたい。助かるよ」

『いいってことよ。じゃあ商談成立だな。百キロは今日中に取りこいよ』

「昼過ぎに行くわ。支払いはその時現金で。五百キロ分一括で払うからさ」

『わかった。まいどあり』


 商談を済ませて電話を切る。これでとりあえずの主食は何とかなった。今後は小麦の消費量を見ながらその都度発注をかけていこう。

 今回は時間的余裕がないし、消費量もわからないから五百キロに留めたが、これで時間的余裕ができる。次は一トン位発注かけようかな。そうすれば、もうちょっと安く調達できるだろう。

 主食の問題はお金で解決したので、次に必要なものは何か考えてみよう。


 調味料は前回持ち込んだから、しばらく持つとして……。あとは山菜だけでは厳しいな。すぐに収穫できる野菜も何種類か栽培してもらえば、より生活が安定すると思う。


 簡単に栽培できて、すぐに収穫可能な野菜。候補としてはスプラウト(もやし)が代表的か。すぐに思いつくのは、かいわれ大根だ。種を撒いて、早ければ一週間で食べられる。豆もやしも良いな。とりあえず、この二つは採用だ。

 後は何がいいかな……。自宅の家庭菜園で適当に栽培しているもので、割と良かった奴を思い出してみる。

 ……二十日大根と、サラダミックスが良かったな。


 二十日大根は、文字通り二十日程度で収穫でき、手間もかからない。根っこも葉っぱも食べられる。

 サラダミックスは一種類ではなく、数種の漬菜(つけな)種子を混ぜたもので、これは二週間~三週間程度で収穫でき、複数回の収穫が可能。ものによっては、一年中収穫し続けられる優れものだ。

 これらの栽培が簡単、かつ収穫が早い野菜で感触を掴んでもらい、その後、本格的な野菜と穀物の栽培に繋げられたら良いなと思う。

 言わば本格的に農業を始める前の練習にもなって、一石二鳥なのではないだろうか。


 何より自分たちの手で栽培して、自分たちで収穫した野菜。これを日々の料理で食べたりすれば、エルフ達も実感が持てるだろうと思う。

 こういう経験は、お金では買えない。


 よし、だんだんと具体的な方針が固まってきたな。この調子で一つ一つ、問題を片付けて行こう。


 俺は種の調達の為、ホームセンターへ向かった。

 バイパス沿いにいくつもホームセンターがあるので、より取り見取りだ。とりあえず車で五分程度のところにある、全国チェーンのホームセンターに入る。

 ホームセンターは品ぞろえが豊富で、たまに来ると楽しい。ついついキャンプ用品とか見てしまう。


 お! よさげなバーベキューセットがあるな。欲しいな。お値段はお幾ら?

 何このクーラーボックス、ソーラーパネルで動いちゃうの?! これも欲しいな。

 あ、そういやダクトテープ切らしてたんだった。買いだめしとこう。ついでにカー用品も見ておこうかな。


 ……ん? 俺ここに何しに来たんだっけ?





 いろいろ寄り道してしまった。とりあえず園芸コーナーで、豆苗とかいわれ大根水耕栽培キット、ミックスサラダの種子を大量買いする。他の種は家に沢山あるので、明日出発前に車に積めばいいか。

 どっこいしょと車に積み、次は百円均一の店に行く。ここではスコップやじょうろ、プランターなどの園芸用品を八世帯分そろえた。意外と百円均一の園芸用品は、品ぞろえも在庫も豊富だったりする。

 

 種と園芸用品は一通りそろった辺りで昼過ぎになったので、小麦粉百キロを引き取りに行く。

 やっぱり何度見ても、屋号は製麺だ。これで小麦卸が本業など誰が気づくのだろうか。卸は基本的に業者相手の商売だから、別に問題は無いのだろう。

 気を取り直して、店に入っていく。


「お、来たか」

「久しぶり。元気してたか」

「ああ、お前も元気そうだな」


 一通り息災なのを確認したところで、本題に入る。


「それで、今日納品分の小麦粉は?」

「そこにある」


 山本が指さした先には、二十五キロで一袋の小麦粉が、四袋積んであった。輸入小麦粉で中力粉、問題なし。これで一週間は持つので、ほっと一安心だ。

 割と無理なお願いを聞いてくれた友人に、お礼を言う。


「急な発注受けてくれて助かったわ。残りが届いたら電話くれ」

「いいってことよ。電話はお前の携帯でいいか?」

「それで頼む。はい、これ代金」

「まいどあり」


 会計を済ませしばらく雑談した後、お暇することにする。仕事の邪魔しちゃ悪いからな。


「それじゃ、そろそろお暇するわ」

「ああ、また来いよ」


 おもむろに小麦粉の袋四つを抱え上げ、車に積むと、山本が呆れた様子で言ってきた。


「……相変わらず怪力だな。それ百キロあるんだぞ? どうして持てるんだよ」

「百キロだろ? 重いと言えば重いけど、言うほどじゃないだろ」

「お前それおかしいから……」


 おかしいかな? うちの家系じゃこれが普通だから、良くわからん。見送ってくれた山本に手を振り、家に向かって車を走らせる。とりあえず、今日やらなければならないことは全部終えた。

 さて、これで村はしばらくは持つはずだ。基礎が整う、とまではいかないが、ずいぶんマシにはなるのではないかな。

 エルフ達には、これから色々なことを覚えてもらう必要がある。明日からまた忙しくなるが、また彼らに会えると思うと、楽しくなってくる。


 さて、エルフ達は今頃、何をやっているだろうか。夕食の準備でもしているのかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いつか、エルフに枯れた森を再生しに行くことはあるのでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ