第十一話 おすすめおやつ
今俺は、佐渡の陶芸おじさん宅にお邪魔している。
陶芸研修がどんなものなのかを目で見て確認したり、納品物を治めたり。
あとは今後の商談をしたり。
実際に佐渡に来て、顔を合わせて話をしたかったのが一番大きいけど。
そんなわけで、二泊三日の日程で佐渡の陶芸おじさんちにご厄介になった。
ただ、佐渡に来てみてびっくりした。
なんと、思ったより寒くない。おまけにそんなに雪も無い。
冬の日本海に浮かぶ離島、という言葉からイメージした気候とは全然違った。
というかエルフ村より全然気温が高い。海はあらぶっているけど。
「親父、佐渡ってそんな寒くないんだ」
「暖流の影響で、本島より一℃から二℃くらい気温が高いそうだ。おまけに気温が安定してるんだってよ」
「なるほど、暖流ね」
想像していたのとは違い、うちの村より気温が厳しくなかった。
ぶっちゃけ佐渡島の方が過ごしやすい。
これなら平原の人たちも、思う存分キャッキャ出来るというものだ。
実際に来てみないと分からないこと、多いなと改めて実感する。
ちなみに、肝心の平原の人たちはというと……。
「うおおお! やきものするぞ~!」
「おちゃわんつくりましょう!」
「おれは、おさらをつくるぜ!」
「わたしは、うみをみてこようかしら」
「――あ! あにめのじかんだわ!」
さっそくいそいそと活動し始めたけど、みんな生き生きしているね。
というか、ちたま生活になじんでいる。
約一名、テレビのリモコンを大事に抱えて、目をキラキラさせながら魔女っ子アニメを見始めたけど。
この人、テレビの使い方やら時計の見方やら会得しちゃってますな。
……たった一週間ちょっとで、なじみ過ぎでしょ。
でもまあ……彼らも楽しく焼き物研修が出来ているようだから、良いのではと。
陶芸おじさん的には、彼らはどうかなと言う点も確認しておこう。
「彼らはどんな感じですかね」
「さすが焼き物好きだけあって、なかなか筋が良いな。半年もあれば、窯を作るところまで行けるんじゃないかと思うぜ」
「それはそれは、順調そうですね」
「ああ、順調だな。今時焼き物に熱心な人も少ないから、こっちもやりがいあるぜ」
わははと陶芸おじさんが笑いながら言う。陶芸おじさんも、教えるのが楽しそうだ。
陶芸教室をやっている位だから、当然なんだろうけど。
しかし、本当に良い人に巡り合えたな。
「あそうだ、例の綺麗な石でできたナイフさ、あれ通販始めたぜ」
おもむろに陶芸おじさんがいってきたけど、通販?
「通販ですか?」
「……まずかったか?」
陶芸おじさんはちょっと「やっちゃったか?」という顔になったけど、全然まずくはない。
というか、お土産で細々と売れるくらいかと思っていたから、驚いただけだ。
「いえ、それは問題ありませんが……そんなに売れてますか」
「在庫がすぐにハケるくらいは売れてる。今月末の入金、楽しみにしててくれ」
「それはそれは。こっちも追加で沢山持ってきましたので、ご確認頂けたらと」
「良いねえ。あとで確認するわ」
これは入金が楽しみだな。というか、通販の必要性が出たという事は……知名度が出てきたということだ。
ここでお土産を買っていった人が誰かに見せて、それを見た人が欲しくなった。
でも佐渡までは来るのが難しいから、通販を望んだ。そんな流れが見て取れる。
やっぱりエルフたちの工芸品、良い物だったんだ。
エルフたちの手で一生懸命作った物が評価されるのは、俺も嬉しいね。
あと、陶芸おじさんはなんか色々と手を貸してくれて、独自に発展もさせてくれて大変ありがたい。
お礼を言っておかないとな。
「いやはや、色々良くしていただいて、ありがとうございます」
「それはお互い様ってやつよ。こっちも助かってる」
陶芸おじさんに頭を下げると、おじさんもペコペコと頭を下げる。
これは日本人のサガなのだ。
それと、お礼ついでにあれを渡しておこう。
あっちら辺の森エルフたちから買い取ったやつ。
「そうそう、今回はお土産があるんですよ。……ちょっと待ってくださいね」
「お土産? どれどれ」
持ってきた段ボール箱を開けると――じゃじゃーん! マツタケぎっしり!
この異世界マツタケ、ほんとマツタケそっくり。
あっちら辺の森ではわりとたくさん採れるようで、お値段もかなりお安い。
しかし村のエルフたちは匂いが苦手なようで、あんまり人気が無い。
というわけで、遠慮なく我々ちたまにっぽん人が頂くことにした。
お土産にたくさん持ってこれるくらい、マツタケ祭である。
「おおい! これマツタケじゃねえか! しかも沢山!」
「縁あって沢山貰えたので、おすそ分けで配りまくっているんですよ」
あまりに大量なため、陶芸おじさんもビックリ顔。
実は子猫亭にも大量におすそ分けしたけど、同じように驚いていた。
おかげで子猫亭は今、マツタケ料理フェア中だ。
「良いのか? こんなに貰っちゃって」
あんまりに大量なので、陶芸おじさんちょっと引いている。
俺も何も知らなければ同じ反応したと思う。そんくらい大量。
おすそ分けというより、出荷と言った方が近いとも言う。
それくらい沢山あるので、是非とも受け取って頂きたい。
「もちろんですよ。ご近所さんにおすそ分けするのも、良いかもですね」
「ありがてえ。こっちも何か、お礼考えとく」
「それは楽しみです」
下手に遠慮しないで、好意は素直に受け取っておこう。
信用出来る人からの好意だから、安心して受けられる。
ここはひとつ、楽しみに待ちましょうだね。
「まあまあ今日はゆっくりしてくれ。晩飯はカニだしちゃうぜ。たくさん」
「おー! 良いですね」
どうやら晩御飯はたくさんのカニか。それは良い。
久々に無言でカニを貪るぞ!
「きょう、カニですって!」
「まじで!」
「カニきたー!」
「たぎるわー!」
「いよっしょあああああ!」
……平原の人たちもカニと聞いて大はしゃぎになった。
カニ美味しいからね。そうなるよね。
とまあそんなこんなで、親父や陶芸おじさん、そして平原の五人衆と一緒に佐渡を楽しんだ。
俺も研修に混じって以前より悪化した前衛芸術をまた作ってみたり、みんなで温泉に行ったり、無言でカニを食べたり。
ちなみにあれだけ賑やかな平原の人たちも、カニを食べるときは無言であった。
そうして二日間楽しく視察し、最終日の朝。
「では、お世話になりました」
「また来てくれよな。あ、これお土産の菓子折り」
「これは美味しそうですね、お土産ありがとうございます。また顔を出しますので、その際はよろしくお願い致します」
「ああ。それじゃあな!」
佐渡での楽しい仕事を終え、いよいよ長野へと帰還だ。
今回はジェットフォイルを利用するので、あっという間に直江津、そしてあっという間に長野だ。
四時間もあれば、村に戻れるんじゃないかな?
この速さ、フェリー各社がジェットフォイルを新造したがるのも良くわかる。
「やきもの、がんばります!」
「すっごいの、やいちゃう」
「こんどみてください」
「カッチカチなやつをめざして!」
「もえてきた~あああああああ!」
同じく見送りをしてくれる平原の五人衆は、相変わらず熱気が凄い。湯気が出ている。
みんな、頑張って夢の焼き物を習得してくださいだ。
「じゃ親父、後は頼んだ」
「任せろ。村のことはお前に任せた」
「任された」
最後に親父へと挨拶をし、ジェットフォイルに乗り込む。
さあ、長野に――帰ろう!
◇
ジェットフォイルでかっとんで、駐車場に停めておいた車に乗って。
それから自動車道をオートクルーズで楽して走って。
四時間ちょっとで、飯綱に到着。ユキちゃんを領域で出迎え、村へと向かう。
「あ、この間お父さんに車の事を話したら、『あれが良いんだ』とか言ってました」
道中、ふとユキちゃんがこのあいだの旧車の話をしてきた。
あれが良いとは、本当に筋金入っている。
維持するのは相当たいへんだと思うが、愛情があるんだろうね。
「ユキちゃんのお父さん、筋金入りだね。車もそういうオーナーの手に渡るのは、とっても幸せだろうと思う」
というか、付喪神が生まれるレベルになりそうだ。
そうなると、一族の守護神になっちゃうけど。
「ただ、WRなんとかってのを増車したい! とは言ってましたね。高いからダメって、お母さんに即座に却下されてましたけど」
「それも筋金入りだね……。どんどん車が増えていくフラグだよそれ」
「ええ……?」
ユキちゃんのお父さん、筋金入ってる。完全に趣味の人だね。
増車って辺りが、もうフラグなんだ。コレクターになっちゃうわけで。
うちは実用面で星座エンブレムのステーションワゴンを買っているけど、ユキちゃんちのお父さんはなんか違う。
熱意が違う。最近なんだか、暑い――おっと、熱い人が周りに多いな。
そうしてユキちゃんのお父さんの筋金いりっぷりを指摘したら、ユキちゃんがきょろきょろと車内を見渡す。
そして首を傾げながら、指摘してきた。
「この車は、お父さんの車と同じメーカーですよね? 大志さんちも筋金入りなんですか?」
まあ、同じメーカーの車に乗っているなら、そう思うかも。
ただ、うちがこのメーカーの車も買っているのはやんごとなき理由があるのだ。
この辺説明しておこう。
「うちは母方の叔父さんが、ディーラーの営業やってるんだ。身内から買うのは基本だよね」
「なるほど」
これがやんごとなき理由だ。
身内がディーラー勤めなら、だいたいそこから買うのがよくあるパターン。
大人の世界の車選びは、わりとこんな理由が大きかったり。
ただ、色々良くしてくれる叔父さんだから、車を買う時もアフターサービスも安心だったりもする。
身内から買う特大の特典としては、信用がおけるという理由が大きい。
大きな買い物をするなら、人となりが分かる人から買いたいというのは、ごく当たり前じゃないかな?
あとは、雪道につおい国産ステーションワゴンの選択肢が、ほんと少ないのもある。
選択肢が少ない上に、身内がディーラー勤め。事実上選択肢が無いともいえるな……。
考えないでおこう。
……あ、そうだ。
その叔父さんも筋金入っているから、ユキちゃんのお父さんに紹介したらいいかも。
WRなんとかも、買うとなったらけっこう割り引いてくれるから良いのでは?
「ユキちゃん、そのディーラーの叔父さんを、ユキちゃんのお父さんに紹介してみる?」
「え? お父さんにですか?」
「多分同じ趣味だから話も盛り上がるだろうし、おまけに車買う時けっこう割引してくれるよ」
「良いかも知れませんね。……お願いしてもよろしいでしょうか」
ユキちゃんも乗り気なようだから、紹介しよう。
あとで叔父さんに電話かければ良いかな?
「それじゃ叔父さんに連絡しておくよ」
「ありがとうございます。お父さん喜ぶと思いますよ」
よし、話はまとまったね。これで新しい繋がりが出来るかもだ。
加茂井さんちには世話になっているから、少しでも恩返ししておかないとね。
と、そんなことを話している間に、村に到着だ。
もうハナちゃんが遠目に見える。こっちに向かて、手を振っているね。
やっぱりもこもこ着込んでいて、もこもこハナちゃんになっているけど。
それじゃ、車を停めて挨拶しよう。
「タイシタイシ~! おかえりです~! ユキもおかえりです~!」
「ハナちゃんただいま。帰って来たよ」
「ただいまハナちゃん」
「ギニャギニャ」
「ばう~」
ハナちゃんと動物たちは、元気にお出迎えだ。
俺とユキちゃんの周りをくるくる回り、元気いっぱい。
見ているこっちもほんわかする。
いつも通りの様子だから、俺が佐渡に行っている間は特に何か起きてはいないようだね。
ほっと一安心だ。
そうしてホッとしていたら、ハナちゃんが車を興味深そうに見つめ始めた。
「タイシ~、きょうはなんか、のりものちがうです?」
いつもと違う車に、ハナちゃんは興味を持ったようだ。
このステーションワゴンは村に乗って来たのは初めてだね。
いつもはワンボックスだけど、もう冬だからね。
雪道に強い車じゃないと、村に入ってこれないわけですよ。
「これは雪道にめっちゃ強いやつだよ。この辺の地域だと、わりと見かけるね」
「みたかんじは、ゆきみちにつよいかどうか、わからないです?」
ハンドリングとか車体のの安定性が全く違うけど、それは見ただけじゃ分からない。
運転して初めて「何これすてき!」となるやつなんだよね。
「まあ見ただけだと、ぜんぜん分からないね」
「そうですか~」
ぽてぽてと車の周りを一周して、エルフ耳をぴこぴこさせるハナちゃんだ。
まあ、しばらくはこの車で村に来ることになるね。
『かっこいいきかいのよかん!』
「あやー! おばけです~!」
『え? なにそれこわい』
そしてメカ好きさんが、新たな機械の登場を感知して……離脱しちゃいけないアレだけでやって来た。
突然の出現に、ハナちゃんびっくりだ。
そしてアレだけで来たという事は、今頃本体は……。
「たいへんなのー! ひとがたおれてるのー!」
「あや! おおごとです!?」
案の定、どこからか叫び声が聞こえてきた。ナノさんかな?
ひとが倒れてると聞いて、ハナちゃんわたわた慌て始めた。
そして、メカ好きさんのアレはといえば……。
『え? ひとがたおれてる? たいへんだ!?』
いや、多分それメカ好きさんの本体のことです。
というか、早く戻って!
◇
「おさわがせしました」
「いやさ、もうちょっとさ、なんとかならないの?」
『けっこうじゆうに、でられますゆえ』
「それさ、しゅぎょうのほうこうせい、まちがってるんじゃね?」
……とりあえず本体に戻して、事なきを得た。
村に帰って来たと思ったらいきなり大騒ぎだ。
賑やかで良いと言えば、そうなんだけど。
今度は紐でくくっておこうかな?
まあ、紐は今度持って来よう。
ボーイスカウトで鍛えた縄結び技術、活用しちゃうぞ!
それはさておき。騒ぎを聞きつけてヤナさんもやってきたから、ちょっと話をしようか。
「ヤナさん、雑貨の在庫やらでお話があるんでしたっけ?」
「ああそうそう! でんちとかいろいろ、たりなくなってきまして」
「電池? ……まあ、そろそろ補充が必要とは考えてました。家で相談しましょうか」
「そうしましょう」
電池とか色々足りないようだ。
でも、村で使っているのは二次電池だから……充電すれば良い話だよね?
カメラくらいしか電池を使わないはずだけど、不足するって何だろう?
……。
……まあいいか。理由を聞けば分かるはずだ。
もしかしてだけど、今は寒いから電池の性能は落ちているわけで。
それを使えなくなったと勘違いしているのかも知れないし。
であれば、「電池は暖めると性能が回復します」と教えれば良いだけだ。
「タイシ、さっそくおうちいくです~。おうちは、ぽかぽかあったかです~」
ちょこっと考え込んでいると、もこもこハナちゃんがもこもこぴょんぴょんしながら、家へ行こうと催促して来たね。
たしかに外は寒いし、考えるのは後にして家の方に行こうか。
「では、家に向かいましょう」
「わかりました」
「おうち~おうち~、ぽかぽかおうち~」
そうして、もこもこぽてぽてと歩くハナちゃんを先頭に、みんなでヤナさんの家へ。
「ビリビリ~、ビリビリ~」
「きゃー!」
「やっぱり、でんちのほうがまろやか~」
道中、子供たちが下敷きで髪の毛をこすって、なんか静電気遊びをしているのを見かけた。
子供の頃は、小学校でそんな遊びをやったっけなあ。懐かしい。
……でも、子供たちは、なんで木の棒をくわえているんだろうか。
電池の方がまろやか? 何の事?
「――タイシタイシ~、はやくおうちいくです~」
「あ、うん。そうだね」
ハナちゃんは俺の手を引っ張って催促して来た。
まあ気になるけど、あとで聞けば良いか。
ということで、寄り道せずにハナちゃんちへ移動した。
家の中に入ると、ストーブがほどよく焚かれていてあったかぽかぽかだ。
こうして人が住んで暖房を使ってもらえば、家も長持ちする。
俺にとっては、ありがたい話だね。
それじゃ、あったかおうちにお邪魔して、お仕事の話をよう。
「お邪魔します」
「ハナちゃん、お邪魔するね」
「あい~」
もこもこハナちゃんに居間へと案内してもらって、腰を落ち着ける。
ハナちゃんも流石に熱いのか、もこもこをキャストオフして身軽になった。
……五枚も下に着てたのか。そりゃ、もこもこにもなるね。
「あ、タイシさんいらっしゃい。いま、あったか~いおちゃを、よういしますね!」
「おかあさん、おやつもほしいです~」
「おやつね、わかったわ。ちょっとまっててね」
「あい~!」
カナさんがお茶を入れてくれるようなので、遠慮せず頂きましょう。
おやつも出てくるぽいので、まったりしながらヤナさんとお話だ。
「それで、雑貨屋の在庫についてですか」
「はい。でんちとかカメラとか、そのたもろもろをはっちゅうしたくて」
「一覧とかあります?」
「あります。ちょっとまっていてください」
そういうと、ヤナさんは別室へ入って行った。
そこを書斎として使っているのかも。カナさんが地図を書くときにも使っているね。
ハナちゃんちの、お仕事部屋って感じかな?
「おちゃがはいりました。みなさんどうぞ」
ヤナさんが別室に行ったすぐあとに、入れ違いでカナさんがお茶を持って居間に入ってきた。
コトコトとちゃぶ台にお茶を置いて、ニッコリ微笑んでくれる。
この色と香りは……ほうじ茶だね。寒い日は、香ばしいほうじ茶がとても美味しく感じる。
この感覚、エルフたちも同じなのかもしれないな。
とりあえ、ずひと口頂こう。
「あ、これもどうぞ」
お茶を飲もうと手を伸ばしたら、カナさんが湯呑の横に何かをコトリと置いた。
ん? これは……。
五センチ程度の長さをした木の棒と――単三型の電池?
「はいハナ、しろいやつよ」
「わーい! ハナ、このしろいやつがすきです~!」
なんでカナさんは、単三型の電池を配っているわけ?
それと、この木の棒は何の意味が?
……木の棒は中が空洞で、ストローみたいになっているけど。
「あの……大志さん、これって電池ですよね?」
「電池だね」
「ですよね?」
ユキちゃんも、電池が出てきたことに首を傾げる。
いったいこれ……何だろう?
「あ、どうぞおめしあがりください」
「え、ええ……」
「ええ……?」
カナさんがニコニコ顔でお召し上がり下さいと、電池をお勧めして来た。
これ、どうしよう?
「どうもどうも、しりょうをもってきました」
電池を目の前にして困っていると、ヤナさんが別室から資料を持ってやって来た。
だけど、今俺とユキちゃんのちたま人は――それどころではない。
これをどうしたら良いのか、さっぱりわからないわけで。
「おやつ、たべるです~! べつばらです~!」
頭の中がハテナマークだらけになる中、ハナちゃんが棒をぴょいっと手に取る。
その棒は……乾電池のプラス側にコツっと当てたね。一体何をするんだろう?
別腹とか言ってるけど、なんの事?
「いただきますです~!」
そして――棒くわえてちゅーちゅー吸い始めた。
ストローみたいな使い方をしているけど、空気を吸ってるだけでは?
「……何かの儀式ですかね?」
「さっぱりわからない」
ユキちゃんも、ハナちゃんの様子が理解できないようだ。
一体ハナちゃん、何をしているのか。
やがて、ハナちゃんが吸うのを止めて……お口もぐもぐしはじめる。
「あや~、やっぱりしろいやつのほうが、あじがこいです~」
「わたしは、こっちのぎんいろのやつがすきね。そんなにあまくないやつ」
「ぼくはしろいやつかな」
ヤナさんとカナさんも、木のストローをちゅーちゅー吸う。
そして、もぐもぐ。もぐもぐ――パチパチ。
……パチパチ? 髪の毛から――火花が出ている!?
「でんき、おいしいです~」
電気、美味しい!?
……これ、青電きのこちゃんを食べているときの光景に、そっくり?
――まさか。まさか!
「ね、ねえハナちゃん。もしかすると、この電池に入ってる何かを食べてる?」
「あい。ほのかにあまくて、おいしいです~」
……。
「ねえユキちゃん、今の聞いた?」
「……はい。き、聞きました」
ユキちゃんはぷるぷるし始めた。俺もぷるぷるしたい。
しかしその前に、最終確認だ。悪あがきとも言う。
「ハナちゃん、つまり……みんなは乾電池の電気そのものを、食べている?」
「あい~。ビリビリきのこと、おんなじです~!」
……まじで?
「むらのみんなも、あたらしいおやつがふえたって、よろこんでまして」
「じゅうでんしとけば、いつでもたべられるので、おてがるでいいんですよ」
「いたをこすってパチパチするやつは、あんまりあじがしないです~」
ほかのみんなも食べてる?
というかさっき子供たちがやっていた静電気遊び、あれは遊びじゃなくて――おやつを食べていた?
おいおいおい! ハナちゃんたちというか、エルフたち。
まさか――「電気そのもの」を食べられるのか!?
別腹ってあたりがすごく気になるけど、今の所それが何だかは分からない。
しかし、エルフたちと知り合ってから、八か月余り。
大体彼らの事がわかって来たな~なんて思っていたけど――大間違いだった。
このエルフたち、ファンタジーの住人らしく――とんでもない能力を持っていた!
電気をもぐもぐ食べられちゃうとか、凄い! そして面白い!
前に「俺らなんか地味」とかエルフの誰かが言っていた。
全然そんなことないじゃないか!
……あ、でも見た感じは地味だな。ただもぐもぐしているだけだ。
……。
ま、まあ、見た目はやっぱり地味じゃん問題は置いといて、知られざるエルフの特殊能力、一つ発見だ!
この電気を食べちゃう面白能力を伸ばしてあげたら――すっごく楽しい事が起きそう!
……ふふふふふふふふ。
「あや~、タイシわるいおとなのかおしてるです?」
「きっとまたなにか、たのしいことをするんだよ。たぶん」
「たのしいことなら、ハナもおてつだいするです~!」
ふふふふふふ。お手伝い、沢山してもらいますよ。
ふふふふふ。