第五話 さりげなさが大事
トリプルマッチョをお見舞いされて、体の疲れも取れたところで。
改めて平原の焼き物五人組に、無名異焼き研修を持ちかけた。
もちろん、極寒の離島という見知らぬ異郷で泊まり込みという話含めて。
そしたら――。
「やります!」
「しらないところにいけるなんて、ついてる~」
「むしろ、たびができるおまけつき!」
「わくわくするな」
「やったー!」
……逆に喜ばれてしまった。
そうだよね、旅好きな人たちだったね。忘れてた。
「……両者合意が取れたので、細かい日程や料金などを詰めます」
「おてすうおかけします」
「たのしみ~」
「すっごいやきもの、やけるようにがんばる!」
とりあえず、俺も一緒に佐渡に行ってしばらく様子を見る必要はあるかも。
陶芸おじさんところに顔も出したかったから、ちょうどいいと言えばちょうどいい。
「タイシ、なんかおおごとです?」
「かなりの大事になったね。でも、ハナちゃんの提案が、とうとう実を結ぶよ」
「タイシのおてつだい、あんまりできなかったです~」
ハナちゃんの提案は、もうハナちゃんの手を離れて大事に発展してしまった。
たしかに、ハナちゃんが手を出せる部分があんまりない。その辺が残念なようだ。
でも、それはそれで良いんだよ。
「ハナちゃん、それは問題ないんだよ。ハナちゃんがいい提案をしてくれたから、みんながんばろうって思ったんだ」
「そうです?」
「そうだよ。一つの提案がみんなを大きく動かすというのは、良くあるんだ」
「あや~、よくあるですか~」
ほんと良くあるね。重要なのは、思いつけたかどうかだ。
「今回重要だったのは、この提案を思いつけたかどうかなんだよ。だから気にすることはないんだ」
「それをきいて、ひとあんしんです~」
言いだしっぺなのに手伝いが出来ないことに、ハナちゃんは不安を抱えていたようだ。
責任感のある、良い子だね。
今は安心できたのか、にこにこ笑顔でエルフ耳をぴこぴこさせている。
「そんなに責任感を感じなくても大丈夫だよ。安心してね」
「あい~」
さて、あとは大人がする仕事だ。
ハナちゃんはのびのびしてもらって、俺たち大人が動かないとね。
――そしてその日の夜のこと。
自宅で親父に今日の出来事を報告する。
話が大きくなってきただけに、俺一人で勝手に動くのはよろしくないからね。
「へえ、佐渡に焼き物研修か。楽しそうじゃないか」
「楽しそうかな?」
「そりゃそうだろ。プロが付きっきりで、伝統技法を教えてくれるんだぜ。そんなの普通は無理だよ」
「言われてみれば、そう考えられるね」
俺は焼き物とか良くわからないけど、親父は焼き物好きだからかな。
どうやら無名異焼研修が、とても楽しそうに見えているらしい。
たしかに……興味のある人なら、すごいイベントではないだろうか。
「あのダークエルフたちが結構うらやましいよ。俺も参加したいくらいだ」
グイっとビールを飲みながら、親父がそんなことを言った。
――言ってしまったのだ。この俺の前で。
ふふふふふふ。
「じゃあ親父も参加しちゃう?」
「お?」
「海の幸に温泉に、そして――陶芸三昧」
「おお?」
俺は、身内にも容赦なく悪魔のささやきをする男なのだよ。
「今は農閑期で仕事も少ないし、法具の製作も納期はたっぷりあるから――趣味に走っても、良いのでは?」
「おおお?」
「プロに伝統技法を教えてもらえる、この千載一遇のチャンス――逃す手はない」
「おお! おおおお!」
親父が前のめりになった。あと一押しだな。
「おまけに、まわりには――焼き物大好きな仲間が!」
「――なあ大志、俺も参加していいかな?」
はい落ちた。
というか、親父にはちょうどいい休暇になるよね。
いっつも大変な仕事を手伝ってくれるんだから、たまには好きなことしてもらいたい。
それに佐渡に研修に行く焼き物エルフ五人も、頼れる人が出来る。
もちろん俺もちょくちょく顔を出すけど、常に一緒にいてくれる人がいたら心強いだろう。
親父だって、「焼き物大好き仲間」のくだりで落ちた。
趣味仲間と焼き物できて、親父的には楽しいかもだ。
佐渡の焼き物修行、楽しんできてほしい。
「じゃあ親父も参加する方針で、計画立てるね」
「ああ。ただ……会社の決算どうする?」
そろそろ、そっちの準備も始めたほうが良いな。
とはいえ、毎月ちゃんと入力しているから慌ててする作業もない。
大体の事は、俺がやっとこう。
「それは俺がやっとくよ。最終確認は、いつもの税理士さんにお願いするけど」
「なにからなにまで、悪いな」
「そんときは親父にもデータ送るから、確認だけはしてほしい」
「ああ、問題ない」
親父、楽しそうな顔になったな。焼き物研修が楽しみなようだ。
それじゃあ、親父と一緒に計画を練ろう。
そして翌日計画は完成。ひとまず一週間研修して様子をみることになった。
この一週間の結果をもって、今後の方針を再検討することになる。
親父も同行して一緒に焼き物研修をうけつつ、平原の焼き物五人組をサポートする役割だ。
この計画を平原の人たちに相談すると、問題ないとの回答が。
というか……平原の人たちは異世界を旅できるので、むしろそれがそれが良いと大はしゃぎになった。
ただ、ある程度のちたまルールを知らないと厳しい。
そんなわけで、二日に渡る「ちたませいかつ」研修も行う。
してはいけないこと、していいこと、ちたまにっぽんの倫理観。
それに交通ルールや、お買い物の方法、ご近所づきあい等々。
「こっちって、きまりごとがおおいのね」
「みちわたるのも、ひとくろう」
「やきもののためなら!」
「あたま、こげそう……」
「やまとかとちとか、かってにはいったらだめなんだ~」
座学を受けた平原の五人組は、頭が「ぷしゅ~っ」となった。
詰め込み教育だからね。どんどん詰め込んじゃうよ。
「あと親父、出身国を聞かれたらどうしよう」
「その場その場で適当な事言っておく」
「それで大丈夫なの?」
「安心しろ、これで今まで何とかなった」
「不安しかない」
そうして三日ほどドタバタして、ようやく出発日となった。
「大志、村をよろしくな」
「がんばるよ。親父も、この人たちをよろしく」
「ああ、任せてくれ」
田んぼのある場所の平地にて、出発を見送る。
焼き物五人衆も、マイクロバスに乗ってウッキウキだ。
「たのしみだわ~」
「あこがれのじどうしゃ!」
「なか、すごいわね!」
「たびがはじまるぞ~」
「ほんで、どこにいくんだろ」
行先は佐渡ですよ。
冬の日本海という、ダイナミックなちたまの自然を体験下さいだ。
まあここまでは計画通り。しかし――。
「――俺もちょっくら、冬の日本海を楽しんでくるな」
「高橋さん、みんなをお願いね」
「ああ」
何故かマイクロバスは二台である。
その二台目のマイクロバスには、高橋さんが運転手だ。
高橋さんは親父たちに便乗して、冬の日本海を楽しんでくる。
それだけなら、マイクロバスは二台いらない。
でも、何故か二台いらっさる。その理由とは――。
「おさかな、たのしみだねえ」
「ゆきってやつ、すっごいふってくるんだって!」
「わくわくする~」
「おんせん、たくさんあるんだって~」
――他の方々も、佐渡観光したいと言い出したためだ。
佐渡について説明したら、焼き物五人組以外の方々も行きたがってしまったわけで。
観光客向けに、二泊三日の佐渡ツアーが組まれてしまった。
平原の族長さんやら、あっちの森の人も参加しちゃっている。
もうほんと、大事になったでござるよ。
「ほんじゃ、行ってくる。なんかあったら連絡するわ」
「行ってらっしゃい」
「「「いってきまーす!」」」
そんなこんなで、焼き物五人衆以外に十五名ほど佐渡へと向かって行った。
マイクロバスが見えなくなるまで、手を振る。
……佐渡のみなさん、ご迷惑をおかけしますだ。
右も左も、ちたまも分からない観光客なので、優しくしてね。
その後、親父から色々道中の様子がメールで送られて来た。
メールの内容はこうだ。
”高速道路で速さのあまり数名気絶”
”フェリーを見て全員気絶”
”ジェットフォイルの速さを見て全員気絶”
……楽しそうで、何よりです。
彼らの研修旅行、上手くいけばいいな。
◇
無名異焼き騒動がおさまった? ので、彼らが持ってきた増幅石やら金粒やらを精査する作業に入る。
たぶんかなりの額のおつりが出るだろうから、その分は現金なり手形なりにして返さないといけない。
そんなわけで、ストーブを炊いてぬくぬくの集会場にてユキちゃんと作業をする。
「寒い中ありがとうね。今度またお礼はするから」
「それは楽しみです……フフフ」
……なんだか隣に座るユキちゃん、距離が近い気がするけど。
あと、俺が出来る範囲でのお礼だからね。出来る範囲で……。
とまあユキちゃんと軽く雑談しながら、ぼちぼちと集計をしていく。
隣の部屋では、神輿と妖精さんが仲良くおねむしていたりするので、声は抑えめ。
このまま静かに作業をしよう。
「増幅石は、小粒なのがたくさんですね」
「暇を見つけては、集めてたらしいよ」
「これだけの量を集めるのは、大変かもしれないですね」
「彼らが、それくらい本気だってことだね」
焼き物五人衆が一生懸命集めた、小粒だけど大量の増幅石。
小さい物は安い値段になってしまうけど、ちりも積もればなんとやら。
彼らの焼き物研修は、金銭面での問題は出ないだろう。
お土産を沢山買えそうなくらいは、余剰金は出るはず。
買い食いだってしたいだろうから、彼らにお金を渡せるよう急いで集計作業を終えよう。
「そういえば、金はかなり貯まったと思いますけど、これどうするんですか?」
増幅石の重量を計測していると、金の査定をしていたユキちゃんが話しかけてきた。
確かに、今まで受け取った金粒は相当な量になっている。
村ではそれなりに値崩れしているくらい、みんな沢山持って来てくれる。
これをどうしているか、ちょっと話しておこう。
「実はもう既に、純金仏像とか硬化純金鉾とかにして、納品済みだったり」
「あ、もう現金化されてるんですね」
「おかげで今年は、法人税すごく取られるよ。まあかなり儲かりました」
「それは良かったです。大志さんの持ち出し、かなりの額みたいでしたから」
現金化してあることを伝えたら、ユキちゃんもほっと一安心の様子だ。
まあ実際、村に投資した額はほぼ回収できてしまっている。
あんまり儲けるつもりは無かったけど、時期が良かったということで。
この儲けは……経費として計上できる物品を購入して、また村に投資するのも良いかもしれないな。
村の食糧庫を増設したり、機械整備用のガレージを設置するのも良いかもしれない。
箱もの以外にも、村に導入したいものは沢山ある。雪かき用の装備として除雪機とか。
またまた夢膨らむ。だんだんと、村を過ごしやすくしていきたい。
「税金対策に、スノーモービルとか買っちゃおうかな。主に輸送用の足として」
「わあ! 私、あれ一度乗ってみたかったんです」
「あ、そうか。レジャーとしても使えそうだね。実際あれ、凄い楽しいんだよ」
「実現したら、乗せて下さいね」
「それはもちろん」
ユキちゃんはスノーモービルに興味があるようで、なんだかワクワクした様子だ。
豪雪地帯の足として、それにレジャーとして使えそうなので検討しておこう。
そうした雑談をしながら作業をしていると、集会場にハナちゃんがやってきた。
「タイシタイシ~、そろそろおひるです~」
「あ、もうそんな時間なんだ」
「それでは、いったん作業は切り上げてお昼を食べましょう」
「いっしょにたべるです~」
ハナちゃんもおなかが空いたのか、「きゅるる」と可愛らしいお腹の虫を鳴かせている。
それじゃ、お昼にしましょう!
◇
今日のお昼は、ハナちゃんちで食べることになった。
ハナちゃんからのお誘いなので、ありがたくご馳走になることに。
今はユキちゃんとカナさん、そしてハナちゃんがお料理をしている。
「そういえば、やきものけんしゅうって、いまどうなっていますか?」
「土の選別を習っているところだそうで、毎日賑やかだって父から連絡がきましたよ」
「たのしそうですね」
「父も楽しいって言ってました。他の方々も、生き生きと佐渡で過ごしているそうです」
「さすがへいげんのひとたち、たくましい」
お料理が出来るまでの間、ヤナさんと雑談をする。
たまにストーブに薪を入れたりと、まったりした時間が過ぎていく。
町では味わえない、のんびりとしたひと時。
この村で過ごすと、とても安らぐね。時間の流れ方が、全く違う。
「はーいみんな、おひるできたわよー」
「今日は、野菜炒めとチャーハン、あとお味噌汁になります」
「やさいいためは、ハナがつくったです~」
のんびりまったり過ごしている間に、お昼が出来上がった。
コトコトと、ちゃぶ台に色んな料理が並べられていく。
その中で、ユキちゃんがなじみのある料理を持ってきた。
「はい大志さん、野沢菜チャーハンですよ」
「あ、自分これ好きなんだ」
「それは良かったです! 定番ですよね」
好きな料理だと伝えると、ユキちゃんの顔がほころんだ。
そしてユキちゃんが作ってくれた野沢菜チャーハンとは、長野おなじみのお袋料理だね。
乳酸発酵が進みすぎてすっぱくなった野沢菜は、こうしてチャーハンにすると美味しく食べられる。
うちのお袋も良く作ってくれた料理で、俺はこれが結構好きだ。
「タイシ、やさいいためもあるです~」
「ハナちゃんありがとう。これも美味しそうだね」
「きのことおにく、たっぷりです~」
ハナちゃん担当の野菜炒めは、キャベツにピーマン、そして玉ねぎが基本の野菜炒め。
さらにお肉やシメジ、あと炒り卵も入っていてとてお美味しそうだ。
「おみそしるは、だいこんたっぷりです」
「ホントにどっさり入ってますね」
「だいこんをにたおりょうり、みんなすきなんです」
「確かに、味がしみ込んだダイコンは美味しいですよね」
「ええ」
最後にカナさんが味噌汁を配膳して、準備完了だ。
ちゃぶ台の上には、美味しそうなお昼がずらりと並ぶ。
野菜がたっぷりで、炭水化物もたんぱく質もそろっている。
栄養のバランスがとれた、良い献立だね。
塩分は、ちょっと多めかもだけど。
「みんないいかな? では、いただきます」
「「「いただきまーす」」」
家長のヤナさんが頂きますをして、みんなも頂きますと続く。
箸を手に取って、笑顔でもぐもぐ食べ始めた。
ちょっとぎこちない所はあるけど、箸の扱いにもだいぶ慣れているね。
それじゃ、俺も食べよう。まずは……味噌汁を一口。
出汁はやや濃口、味噌やや薄口にしてあるみたいだ。
しょっぱすぎず、でも薄すぎず。なかなか絶妙の味加減。
そして細切りダイコンはよく味がしみ込んでおり、噛むと出汁の旨味がじゅわっと溢れる。
さらに暖かい味噌汁は体の中からあったまり、味と暖かさの両方でもって心を満たしてくれる。
「おみそしる、おいしいです~」
「ほっとするあじだね」
ハナちゃん一家も、味噌汁を飲んでほんわか顔だ。
カナさんはその様子を見て、ニコニコしている。
家族が自分の作った料理を美味しく食べてくれるのは、お母さんが幸福を感じる一時だろうからね。
では次に、ハナちゃんの野菜炒めだね。頂きます。
野菜炒めは良く火が通った玉ねぎが甘さを与え、ピーマンのほんのりした苦味が玉ねぎの甘さを引き立てる。
これらの味を、食感が良くなるよう炒められたキャベツが支えている。
味付け自体は塩胡椒と……鶏ガラスープの素かな? そして香りづけに醤油。
塩味が薄目だけど……これはご飯が白米ではなく野沢菜チャーハンだからかな?
一緒に出す料理の事も考えて、味付けを調整しているように見える。
ハナちゃん、なかなか高度な味付けが出来るようになっているかもだ。
そして他の具材、シメジやお肉と卵も一緒に食べてみる。
香り付けで加えられた醤油が、シメジや卵の美味しさを引き立てる。
醤油を入れたのは、このためだったんだな。これだけでも、ご飯が食べられる美味しさだ。
お肉も良く下処理されていて、筋張ったところも無く臭みも無い。
ハナちゃんの野菜炒め、かなりの完成度だ。
「ハナちゃん、野菜炒めすごく美味しいよ。お料理、かなり上手になったね」
「うふ~、うふふ~」
「具材と味付けが良く合っているよ。ハナちゃんすごいね」
「うきゃ~」
野菜炒めを褒めたら、ハナちゃんうきゃうきゃだ。
かなり頑張って作ったのは、食べてみれば良くわかる。
ハナちゃんくらいの子供がこれ位の料理を作れるというのは、なかなか凄いのでは。
「ぐふ~」
「あ、もうぐんにゃりしたね」
「おんなのこだもの」
追加で褒める前に、ハナちゃんがぐにゃった。
まあ、ご機嫌のようだから大丈夫だよね。
それじゃ最後に、ユキちゃんの野沢菜チャーハンだ。
まあ、チャーハンほどパラっとはさせず、実質的には野沢菜焼き飯なんだけど。
これはわざとで、この焼き飯状態なのが一番美味しいのだ。ユキちゃん、良くわかってらっしゃる。
そして焼き飯なので、箸で食べられる。食器の持ち替えが無いので、食べやすいわけだ。
では、お味はどうかなと。一口食べてみよう。
味は……香ばしい醤油と胡椒の香りががふわっと広がり、続いて野沢菜の塩気とわずかな酸味。
これらの主張の強さを、コメと卵の淡白な味が和らげる。
水分多めの野沢菜からはほのかな苦みと旨味がしみだしてきて、味に彩を加える。
そしてごく少量加えられた鷹の爪が胡椒とは別種の辛みを与え、食欲が増すのがわかる。
食感は……もちもちした米にふわふわとした卵、そしてしゃきしゃきした野沢菜がそれぞれ合わさって、噛むごとに色んな表情を見せてくれる。
おなじみのお袋の味だけど、たくさん食べられるよう味付けや具材の比率が工夫されているね。
料理に手慣れた人ならではの、細かい気配りだ。
「あ~、これこれ。この野沢菜チャーハン、まさにお袋の味だよ」
「気に入って頂けて良かったです。わたしも、お母さんに良く作ってもらってます」
「現在進行形なんだ」
「お母さんに作ってもらったものを食べたいわけですからね。おねだりします」
「言われてみれば、そりゃそうだよね」
お袋の味が食べたいのだから、母親に作ってもらうのも要素の一つだよね。
わかってらっしゃる。
「ユキのこれ、なんかほっとするあじです~」
「これが、こっちのおふくろのあじですか」
「まあ、一部地域だけですけど」
ハナちゃん一家も、美味しそうに野沢菜チャーハンを食べている。
とくにハナちゃんんは「ほわん」とした表情ながら、もぐもぐと結構な勢いで食べている。
こっちの野沢菜がお口にあったようで、良かった良かった。
「カナ、おかわりいいかな?」
「はいどうぞ」
「ふがふが」
「あら、おばあちゃんも?」
「ハナも、おかわりするです~」
そして料理自体も美味しい上に、みんなで食べる美味しさも加わる。
食卓を囲むみんなは、にこにこ顔だ。今日も平和で、なによりだね。
でも、みんなの野沢菜チャーハンと俺の野沢菜チャーハン、なんか色がちょっと違くない?
多少気になる所はあるけど、みんなで楽しくお昼を食べて小休止した。
しばらく食休みした後は、お仕事再開だ。
今度はハナちゃんも一緒に、集会場へ向かう。
「あ~、くったくった~」
「きょうのおひる、すげえたくさんでたな~」
道中、マイスターとマッチョさんが腕グキさんちから出てきたのを目撃する。
どうやら二人はお昼直後のようで、お腹をさすって満足顔だ。
「あの、のざわなチャーハンってやつ、あれうめえな~」
「また、たべたいな~」
へえ、腕グキさんとこも野沢菜チャーハンだったんだ。
野沢菜はユキちゃんが持ってきたものだから、おすそ分けでもしたのかも。
「フフフ……さりげなさが大事」
「ん? さりげなさ?」
「ああいえ、こっちの話です」
「そっちの話なんだ」
「ええまあ」
ユキちゃんがちょっと暗黒面に行っていたけど、なんだろね。
そっちの話らしいけど。
若い娘さんには色々あるんだろうから、気にしないことにしよう。
それじゃ、集会場に向って……おや?
「大志さん、どうされました?」
「どうしたです?」
「ああいや、なんでもないよ」
いや、なんだかユキちゃんが妙に可愛く見えるんだよな。
朝と変わりはないはずなのに、今はほんと可愛く見えるんだよ。
なんだろうこれ?
◇
妙に可愛く見えるユキちゃんは気になるのだけど、あまりチラ見すると失礼なので我慢して。
なんとか三人でテクテク歩いて、集会場に到着した。
中に入ると、まず神輿がぬいぐるみの入った箱のなかで……なんかもぞもぞしていた。
(かわいいぬいぐるみ~、しこうのひととき~)
……乙女な神様、ぬいぐるみをご堪能中のようだ。
神様が起きているという事は、妖精さんたちも起きたのかな?
さっきは、仲良く一緒におねむしていたから。
別室をちょっと覗いてみるか。
「あえ? タイシどうしたです?」
「妖精さんたちがどうしているか、ちょっと確認だね」
「ハナもかくにんするです~」
ハナちゃんも確認したいようなので、ぽてぽて歩くハナちゃんと一緒に別室へ。
しかし……。
「あえ? いないです?」
「誰もいないね。どこに行っちゃったんだろう?」
別室には、妖精さんたちはいなかった。どこかに遊びに行ったのだろうか?
……まあ、どこかにはいるだろう。
さて、ひとまずいないという確認はとれた。気になるところだけど、俺は仕事がある。
まずは仕事を終わらせよう。
ということで隣の部屋に入ったところ――。
「おだんご、こねこね~」
「こねましょこねましょ! たくさんね!」
「しっぱいしちゃった~……」
妖精さんたちは、隣の部屋にいらっさった。
みんなできゃいきゃいと、なんかのお団子をこねている。
こっちにいたんだね。これで一安心だ。
「みんなこんにちは。ちょっとお仕事をするから、ここに座っていいかな?」
「あ! こんにちは! こんにちは!」
「どうぞすわって! すわって!」
「いらっしゃい~」
きゃいきゃいと座る場所を開けてくれる妖精さんたちだ。
邪魔しちゃってごめんね、でも俺も仕事があるからね。
「あ、タイシさんこんちわ」
「きょうもさむいですな~」
「もんじゃたべて、あったまってます」
奥の方には、おやつを食べている村人たちがいるね。
あとマッチョさんとマイスターもいらっさるけど、さっきお昼を食べたのでは?
……まあ、細かい事は気にせず仕事を再開しよう。
「それじゃ、仕事を始めようか」
「はい。……あれ?」
「ユキちゃん、どうしたの?」
「いえ、ここにまとめておいた……増幅石が見当たらなくて」
妙に可愛く見えるユキちゃんが、テーブルの上や下をきょろきょろ探す。
……確かに、置いてあったはずの増幅石が無い。
あれ? どこにいった?
妖精さん達なら、何か知っているかな?
「ねえ君たち、ここにあった石とか知らない?」
「しってるよ! しってるよ!」
あ、知っているみたいだ。じゃあ聞いてみ――。
「これだよね? これだよね?」
「どうぞ! どうぞ!」
「しっぱいしたやつ~……」
――ん? きみたち、その手に持っているのは……何?
イトカワ?
使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使い下さい