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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十三章 エルフだってできるもん!
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第四話 情熱の五人組


 森と花畑の生き物、そして妖精さんの越冬問題はなんとかなった。

 実際になんとかできたのは、妖精さんの着衣だけ。その他の生き物たちの問題は、解決が難しいはずだった。

 しかしハナちゃんの助言により、異世界植物がスフィアの役割をしていたことが判明した。

 そのため域内であれば、春の気候で過ごせることが確認された。

 これで大体の越冬問題は解決できたので、ほっと一安心。

 良かった良かった、と村に帰ると……。


「しろいのがふってきたー!」

「なにこれ、ふしぎ~」

「でも、おいしくないわね」


 観光客のみなさんが、雪を見てキャッキャと大はしゃぎしていた。

 そういえば村のエルフも妖精さんも、はしゃいでいたね。

 彼らにとっては、すごく珍しいんだろうな。

 沖縄の人が雪をみた、くらいの感じなのだろうか?


「あ! タイシさんこれなんですか!」

「さむくなったとおもったら、なんかしろいやつがふってきたかな!」

「こんなの、はじめてみました!」


 俺の姿を見つけた平原のお三方、もう大興奮で駆け寄ってくる。

 ……寒さで耳が真っ赤だけど、大丈夫かな?

 とりあえず、雪について説明しておこう。


「これは雪といって、水が凍ってしまったやつです。あまりに寒いと、空の上で雨が凍っちゃうんですよ」


 実際はもっと複雑だけど、気象学の授業をしたいわけじゃないからね。

 軽めの説明で終わりだ。


「そうなんですか。たしかに、めっちゃさむくなりましたね!」

「あわてて、ぼうかんぐをきこんだかな~」

「こっちのおてんきって、ふしぎですね」


 雪について軽く説明すると、お三方はまあまあわかったようだ。

 空を見上げて、キャッキャと喜んでいる。

 こっちに住む側からすると、雪はもうほんとやっかいだ。

 でも、エルフたちからすれば珍しくてしょうがないんだろうな。


 ――あ、これも観光資源に出来るかも。

 エルフ世界では見られない、冬という気候。そして、雪という現象。

 この厄介な季節と現象を、観光化しちゃえば――楽しく冬を、過ごせるかも!

 どうせ冬を過ごすなら、楽しい方が良いよね。

 冬だ困る嫌だ寒いと過ごすよりは、ずっといい。


 この冬を楽しめるような、何かを考えよう。みんなで楽しめるような、何かを。


「タイシタイシ~、なんかいいこと、かんがえたです?」

「表情が明るくなりましたね。またイベントとかですか?」


 ハナちゃんとユキちゃんが、仲良く手を繋いでやってきた。

 まだ具体的には考えていないけど、思いついたことを話してみよう。


「ハナちゃんたちからすると……冬とか雪が降るとかは、とっても珍しいんだよね?」

「あい~。こんなの、みたことなくておもしろいです~」


 ハナちゃんはもうお目々キラキラで、ちらつく雪を見ている。

 ほんとに、雪が珍しいんだね。


「私たちからすると、もう大変ですよね」

「そうそう、大変なんだけど……」


 ユキちゃんはちょっと困り顔だね。

 北部に住んでいる人間からすると、豪雪で毎年えらい目に合っているからね。

 雪かきだって、重労働だ。過ぎたるは及ばざるがごとしだね。

 その気持ちは、良くわかる。でも、せっかくだから楽しもうということで、本題を話そう。


「まあ大変ではあるんだけど、エルフ世界の人たちは珍しがっているわけだ」

「それはまあ、そうですね」

「さむいのも、このしろいのも、めずらしいです~」

「というわけで、こっちの冬を観光名所にして、なにかみんなで楽しめたらなって思ったんだよ」


 寒くて大変だけど、それを楽しさに変えることができる……何かをしたい。

 冬しか出来ない事や、冬ならではの楽しい事――たくさんあるはずだ。


「具体的には考えてないけど、この冬を楽しく過ごせるなにかをしたいなって」

「それ、良いですね! 私たち雪国育ち、腕の見せ所かもしれません」

「でしょ?」

「ええ! 豪雪で苦労してきた経験、活かせるかもですね!」


 ユキちゃんノリノリだね。生まれてからこのかた、さんざん豪雪に鍛えられてきた。

 ……鍛えられたというか、あきらめと共に豪雪と付き合ってきたというか。

 ま、まあ深くは考えないようにしよう。ここはひとつ、開き直って冬を満喫する何かをしよう。


「タイシ、それってハナもおてつだいできるです?」


 俺とユキちゃんが盛り上がるのを見て、ハナちゃんも何か手伝いたいようだ。

 別に雪国育ちしかできないってわけじゃないから、大丈夫だと思う。

 ちたまの子供たちだって、雪で思いっきり遊ぶわけだし。

 ハナちゃんたちでも、出来る事は沢山あるはず。


「具体的に何をするかはまだだけど、ハナちゃんも活躍できること、たくさんあるよ。その時はお願いね」

「あい~! ハナ、がんばるです~」


 ハナちゃんにぱっと笑顔で、やる気みなぎる感じだ。

 とはいえまだ雪が積もるのは先。

 それまでに、なんかイベント考えておこう。



 ◇



 初雪から以降、なんだかどんどん寒くなってくる。

 ここ数年、大陸の方から強烈な寒気が流れ込む現象が良く起きるようになった。

 日本の気候も、なんだか極端になってきた感じがする。

 村のエルフたちは、どう過ごしているだろうか。

 

 朝の寒さの中、そんな事を考えながらぼんやりとコーヒーを飲んでいると――スマホが振動する。

 電話がかかってきたね。誰から電話かなと画面を確認すると……ハナちゃんからだった。

 こんな朝から電話とは、何かあったのだろうか?


「ハナちゃん、おはよう」

『もしもしタイシ~、おはようです~』

「元気いっぱいだね。それで、今日はどうしたの?」


 声は慌てていないから、緊急事態ではなさそうだ。


『へいげんのひとたちがきて、やきものについておしえてほしいっていってるです~』

「平原の人たちが?」

『あい~! あっちのぞくちょうさんも、きてるです~』


 どうやら、無名異焼について話を聞きたいみたいだな。

 平原の族長さんもお越しのようだから、村に説明に行く必要があるな。


「わかったよ。それじゃあ、お昼過ぎくらいにそっちに行くって伝えてほしいな」

『あい~! つたえるです~』


 というわけで、平原の族長さんとお話しだ。

 族長さんが来るほどなのだから、大事な話だろう。

 ……族長さんも割と気軽に旅をしてくるけど、まあ今回は大事な話のはず。

 たぶん。



 ◇



 お昼過ぎ、村に到着。

 もうすっかり寒くなったけど、ハナちゃんが元気にお出迎えしてくれた。


「タイシ~、おかえりです~」


 てててっと走ってきたハナちゃん、服を着込みすぎてもっこもこだ。

 もこもこハナちゃんだね。ちょっと重ね着しすぎかも?

 まあ、そこは置いといて挨拶しましょうか。


「ただいまハナちゃん。やけに厚着してるけど、寒いの?」

「おかあさんが、あつぎしなさいっていったから、あるだけきてみたです~」

「さようで」

「あい~」


 あるだけ着込んじゃったんだ。でもそれ、動きにくそうだね。

 今の寒さなら、上に一枚羽織ればいいかな。


「これくらいなら、もうちょっと薄着でも大丈夫だよ」

「やっぱしです?」

「うん。やっぱし」


 ハナちゃんも自覚はあったようだ。着込みすぎたって。

 にへへと苦笑いしているけど、それもまた可愛い。

 まあ、それは家に帰ってから脱げばいいかな。

 とりあえず、俺は平原の族長さんとお話ししないとね。


「それでハナちゃん、平原の族長さんとお話しをしに来たけど、今どちらかな?」

「ハナのおうちで、おちゃのんでるです~」

「じゃあ、ハナちゃんちに行けばいいのかな?」

「あい~。タイシ、いっしょにいくです~」


 平原の族長さんはハナちゃんちにいるようなので、さっそく向かいましょう。

 もこもこと歩くハナちゃんと一緒に、のんびり向かう。

 やっぱり多少、歩きにくそうだね。


 そうしてハナちゃんちにお邪魔しますをして、平原の族長さんと向かい合う。

 平原の族長さんも、貸し防寒具を着込んでもっこもこだね。

 室内はストーブで温められているから、そんなに着込まなくても良いのではと。


「おやおやタイシさん、おひさしぶりだねえ」

「どうも、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「そりゃもう。げんきすぎて、また……ながたびしてしまったねえ」

「それは何よりです。元気が一番ですからね」


 まずは挨拶をして、和やかに話は始まった。

 それから色々な近況報告やら、この時期は寒さに気を付けて欲しいなどの連絡事項を話したりする。

 一通りの連絡事項や共有情報などを伝え合ったところで、族長さんが本題を話し始めた。


「それでね、きょうはタイシさんにおねがいがあってきたんだよ。ほら、あのやきもの」

「もろい赤土を、固く頑丈に焼く方法ですよね?」

「そうそう。それについてのおねがいだね」


 まあこのあたりは事前に聞いていたので、問題ない。

 あとは、どんなお願いかだね。


「お願いと言うと、どのような内容でしょうか?」

「それがね……あのやきものをやけるようになりたいって、うちのわかいのがいいだしてね」

「はあ」


 どうも、平原の人たちの中で、若い人が無名異焼きの技術を習得したがっているようだ。

 しかし、俺はその焼き方を知らない。

 調べてはみたけど、なんか付け焼刃の知識じゃ無理だよねあれ。

 ……どうしよう。


「それで、ごにんほど……こっちにきちゃったんだねえ」

「え?」


 もう来ちゃってるの? 五人も?

 あれ? 隣の部屋が、なんだか騒がしい――。


「――よばれたきがして!」

「おじゃまします!」

「ぼくたち!」

「わたしたち!」

「すごいやきもの、べんきょうしにきましたああああ!」


 いきなりズドン! と扉が開いたかと思ったら、五人の平原の人たちが乱入して来た!

 女性三人、男性二人の五人組だ!

 ……もしかして、この人たち?

 なんだか、目がメラメラと情熱に燃えているけど……。

 あ、きちんと扉を閉めたね。そこはちゃんとしてるんだ。ひとんちだからね。

 とりあえず、詳しいことを聞いてみよう。


「この方々が、そうですか?」

「そうなんだよ。あのやきものをみて、いてもたってもいられなくなったみたいでねえ」


 平原の族長さんも困り顔だけど、俺も困っちゃう。

 俺も焼き方知らないわけで……。


「おねがいします! あのすごいやつ! やきかたおしえてほしいです!」

「ぜひともぜひとも!」

「やかずには、いられない~!」

「もうなんか、あれがぼくのめざしていたやつなんだっておもいました!」

「カッチカチなの、おれもやきたい!」


 平原の焼き物狂五人組、ずずいと迫ってきた!

 ものすごく鼻息が荒い。興奮しすぎです。

 焼き物に対する情熱、ものすごいよこの人たち……。


「おしえてください~。このとおり!」

「このために、たくさんきれいないしをあつめたんです!」

「こんなにもってきました!」


 女性陣が布袋をひっくり返して、ざらざらと増幅石やら金粒やら見せてくれる。

 なんか、すごい量だぞ……。

 あと、近いです。接近しすぎです。それとなんか……目が血走ってます。


「まあこんなわけで、おさえきれなかったんだねえ」

「さようで」


 目が血走って、さらに鼻息がふんすふんすしているダークエルフに囲まれてしまった。

 平原の族長さんも、まいったまいったと頭をかいている。


 ……これ、どうしよう。

 この状態で「焼き方知らないですけど」とか言ったら、この五人は落胆しすぎてアレしかねないぞ……。

 希望が大きければ、絶望もまた大きい。ただでは済まなくなる。

 やばい、大事(おおごと)になってきた……。


 どうしよう……。囲まれているから、逃げられない。

 この状況を打開するには……そうだ!

 ここは一つ、プロにおまかせしよう!


 ――陶芸おじさんに、丸投げだ!


「あ、あのですね。焼き方を教えてくれそうな人に、心当たりがあります」

「きたー!」

「それでそれで!?」


 囲みが(せば)まった。めっちゃ近い。というか暑苦しい。情熱が熱量となって襲ってくる。

 もう焼き物を作りたい気持ちが暴走して、テンションおかしくなってるよこの人たち……。

 まあ、ちょっと待ってもらおう。


「いまからその心当たりの人に聞いてみますので、教えられるかどうかはその人次第です」

「まちます!」

「どうか、おねがいします!」

「どきどきする~!」

「これって、こいかな?」

「ちがうとおもう」


 よし! 何とかなった。

 これで結果がダメでも、まあしょうがないといってもらえるような余地は作れた。

 でも、なるべくなら俺としても望みはかなえてあげたい。

 ひとまず、確認してみよう。


「ではこれから連絡してきますので、少々お待ちを」

「「「はーい!」」」


 外に出て電話してみよう。中にいると、五人に囲まれて落ち着いて話ができないからね。

 それじゃ、陶芸おじさんに電話だ。

 陶芸おじさんとは、エルフ包丁の納品で何度か電話はしている。

 この時間なら、大丈夫だろう。


 ということで陶芸おじさんに電話すると、数コールで電話に出てくれた。


「もしもし大志です。こんにちは」

『あ、どうもこんにちは。今日はどうした? 工芸品、追加納品とか?』


 あ、それもあったな。結構売れてるから、そろそろ在庫が厳しいはずだ。

 まあそれは後で相談するとして、まずは聞いてみよう。


「工芸品もありますが……実はちょっと焼き物に関して、ご相談がありまして」

『お! 焼き物の事なら、なんでも聞いてくれ!』


 おや? 陶芸おじさん、なんかすごい嬉しそうだぞ?

 そういえば最近本職がヒマとかいう話も聞いたな。

 これ、もしかしたらイケるかも。話してみよう。


「実は、無名異焼きを身につけたいって若者が、五人程いるのですけど……彼らに焼き物研修って、出来たりします?」

『――何だって! それは本当か!?』


 おおう、陶芸おじさんめっちゃ声がでかくなった……。

 でも、怒ってる感じじゃない。ほんとにびっくりしている感じだ。

 あれ? これほんとにイケるかも?


「……本当です。ゼロから教える必要があります。しかし彼らは本気で、無名異焼きの技術を習得したがっております」

『本気なのか! そりゃあ良いじゃねえか。気合が入るぜ』


 あ、これイケる流れだ。というか、陶芸おじさんがやる気に満ちている感じだぞ?

 気合が入るぜとか言ってる。

 いやいや、まだどんな人が行くか聞いてからにしてくださいよ。

 なんたって、生徒はダークエルフなんですから。


「でもですね、その五人は……あ~、外国人の方々でして……」

『え? 外国人? ……ちなみにその人たち、日本語できんの?』

「言葉は問題ありません。……ただ、日本語の読み書きは出来ません」


 言葉は神様が翻訳してくれるから、まったく問題ないね。

 でも、読み書きはちょっと無理だ。そもそも彼らは、あんまり文字を使ってない。

 さて、この条件は厳しいだろうか……。


『言葉が通じるなら問題()え。陶芸技術は、体に叩き込めばいいだけの話だ』

「では、お請けして頂けますか?」

『ああ、やるぜ。ほんで、研修生は通いなんか?』


 あ、そうだ。研修するにしても、時間はかかる。

 一日お邪魔して、はいできました! なんて訳が無いよね。

 ある程度の期間は、佐渡で暮らす必要がある。


 う~ん、右も左もわからないダークエルフを、冬の佐渡に島流しか……。

 あれ? 無理かな?


『通いにしても、ある程度泊まりで指導は必要な技術もあるから……なんならうちで住み込みするか?』


 ああ……どんどん話が進んでいくぞ。

 平原の人たちも陶芸おじさんもどっちもやる気だ。

 これもう、いけるとこまで行くしかないか。


「あ~、通いは無理ですので、出来れば住み込みでお願いしたいです。生活費や家賃は、研修費用に含めて請求頂ければと」

『問題ないぜ。十人くらいは弟子を住めるようにしてあるんだ……今までずっと、ゼロなんだけどよ……』


 おじさん……あ、涙が……。

 あれか、妙に乗り気なのは、弟子がほしかったからなのね……。

 でも、それなら熱心に指導してくれそうだ。


「……それでは、ひとまず希望者に聞いてみます。詳しい事が決まりましたら、また後ほどお電話しますので」

『わかった。こっちは大歓迎だから、電話待ってるぜ!』


 なんとか繋ぎを付けて、通話終了だ。

 そして何とかなったとはいえ、前途多難な気はするね……。

 もうこれ、出たとこ勝負するしかない。


 ともあれ、あの焼き物五人組に話をしてみよう。

 異世界のむちゃくちゃ寒い島で、長期間暮らすことになるけど良い? てな感じに。

 さて、ハナちゃんちに戻って、話を――。


「……なあなあ、タイシさん、しゃしんをとるどうぐにはなしかけてるよ」

「あれ、むせんきじゃないよな。うごくしゃしんとかうつせるやつだよな」

「どうぐをまちがえるなんて、そうとうおつかれ」


 ん? なんか後ろからひそひそ話が聞こえてきたぞ?

 誰だろう? ……お? 肩を掴まれた?


「――こんにちはタイシさん。かなりおつかれですね」

「そんなときは、おれらにおまかせ」

「あしつぼ」


 ――え?


ゆだんたいてき

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