第二話 冬服どうしましょ
お花見の準備が整ったので、神様へ知らせるためにハナちゃんと集会場へやってきた。
神棚の神社はご機嫌でほよほよ光っているので、お留守ではないね。
それでは、神様にお知らせしましょう。
「神様、これから妖精さんの住んでいるところで、お花見します。ご一緒にどうですか?」
「おそなえもの、たくさんあるです~」
(ほんと! たのしそう~!)
神様をお誘いすると、すぐさま神社の扉がバン! と開いて光の球が飛び出してくる。
……ん? なんかいつもと違うような。
いや、気のせいかな? いやでも、なんか違和感が……。
そんなことを考えているうちに、神輿の謎ドアがバン! と開く。
そして光の球はその中に飛び込んで――。
(むぎゅ)
――ん? いま光の球が一瞬、神輿の入口のところでつっかえなかったか?
「……タイシタイシ、ひかりのたま、なんかおっきくなってるです?」
あ、それかも。違和感の正体。
なんだかいつもより、一回り程大きくなっている気がする。
ただ、一瞬の事だったので確証は持てない。
「何とも言えないけど、なんか違う気はするね」
「びみょうなさです~」
ハナちゃんと一緒に、首をかしげる。ほんと、なんだろね?
(おはなみ~、はやくいこ~)
……神輿がうずうずして、待ちきれない様子だ。
気になる所はあるけれど、とりあえず置いておこう。
「それでは、行きましょうか」
(わーい!)
「いくです~」
こうして、なんだか良くわからない事があったけど、とりあえずみんなでお花見会場へとむかった。
まあ、神様にも色々あるんだろうと思う。あるんだと思う。
気になるけど、触れるといけない気が。
……だって「女神様、お太りあそばされました?」とか、聞けないわけですよ。
◇
そうして、お花見が始まってみんなでわいわいと酒盛りを始める。
今日はそれほど寒くなくて、ぽかぽかあったかの快適そのものだ。
綺麗なお花に囲まれて、和やかに宴は進行していく。
「きれいなおはなばたけですな」
「ひとばんでこれって、びっくりかな~」
「なんだか、わたしたちはこういうばめんに、よくそうぐうしますね」
「とくしたな~」
平原のお三方や、他の観光客の方々もお花見に参加してもらっている。
彼らはまさかこうなるとは思っていなかったようで、びっくり顔だ。
そうだよね、これが普通の反応だよね。
この村の住人は、なんだか変な方面に慣れ始めている気がしてならない。
「ばう~! ばう~!」
「ギニャギニャ」
「ピヨ~」
動物たちは、ハナちゃんに栽培してもらったトウモロコシに夢中だ。
やっぱり、甘くておいしいから大人気だね。
(おはな、たくさんさいた~)
「かみさまだ! かみさまだ!」
「おそなえものだよ! たべて! たべて!」
「いつもありがと! ありがと!」
(それほどでも~)
神輿もほよほよと花畑を飛んで、綺麗な花やお供え物を堪能している。
それに妖精さんが群がって、ちやほやだ。
微笑ましい光景である。
……しかし、神輿が喜んで光るとき、いつもの光り方とちょっと違う気がする。
なんか、うっすらと文様みたいなものが浮かんでいるような……。
「……タイシ、かみさまやっぱり、なんかちがうです?」
「光った時、うっすらと文様みたいなのが見えるよね」
「ハナも、そうみえるです~」
ハナちゃんも見えているようなので、俺の気のせいじゃないよね。
……神様、なんかちょっと変わった?
他の人にも聞いてみよう。
「ヤナさん、神様の光り方なんか普段とちがくないですか?」
「え? いつもどおりじゃないですか?」
「……文様とか浮かんでいるように見えません?」
「いえ、とくにはみえませんが……」
……ヤナさんには見えていないようだ。
あれ? と思ったので他の人にも確認したが、文様の見えている人はいなかった。
俺とハナちゃんだけ、うっすらと見えているようだ。
「ハナちゃん、どう思う?」
「わからないです~」
ハナちゃんと首を傾げたけど、結局わからなかった。
これもひとまず、置いておこう。
考えてもわからないことは、気にしない気にしない。
◇
「おはなのせつめいをするよ! するよ!」
「このおはな、おくすりになるんだよ! おいしくないけど!」
「こっちのおはなは、むしさんがだいすきなんだよ!」
お花見が進むにつれて、妖精さんたちのテンションが上がってきた。
きゃいきゃいと嬉しそうに、お花の説明をしている。
自分たちの大好きなお花が沢山なので、みんなに知ってもらいたいようだ。
こちらとしても、妖精世界の花がどんな生態を持つのかわからないだけに、助かるね。
……これ、妖精さんをガイドにして、観光地化できちゃうかも。
森に泉に花畑に、ちょっとした異世界自然公園が出来ちゃってるわけだ。
イケるんじゃないかな?
なんだか、だんだん長野が異世界に浸食されてる気がしなくもないけど……。
まあ、楽しいから良いのではと。もともと、何もない丘だったわけで。
そんな丘に色んな環境が出来て、これ逆に良いのでは?
「おはなのたね、いいかんじ? いいかんじ?」
「おいしくないけど、いいかんじ~?」
「ぜんぶたべなくて、よかった?」
この結果は、逆に良いんじゃ無いかなと思っていると、救助隊妖精さんたちがぴこぴこ飛んできた。
種の提供者なだけに、この結果は気になるのかも。
――すっごいいい感じ! って言ってあげよう。
「みんなのおかげで、凄くいい感じになったよ。君たちのところのお花を、こっちで咲かせたいとずっと思っていたんだ」
「いいかんじ! よかった! よかった!」
「やくにたてた! やくにたてた!」
「がんばったかい、あった~」
「きゃい~!」
思いっきり肯定してあげたら、救助隊妖精さんたちはきゃいきゃいだ。
元気にぱたぱたと、俺のまわりを飛び回り始めた。
……妖精さんたちのキラキラ粒子、体に当たるとほのかにあったかいんだな。
なんか、体によさそう。白い粒子がキラッキラだね。
「あや~、タイシもキラキラまみれです~」
「うれしいからね! ひかりがでちゃうよ! でちゃうよ!」
俺が妖精さん粒子まみれになっていると、同じく妖精さん粒子まみれになったハナちゃんがやって来た。
ハナちゃんの肩には、羽根を補修した妖精ちゃんが七色の粒子をキラキラ撒いている。
そして妖精ちゃんは、あのサクラみたいな花を抱えてにっこにこだ。
……この花が好きなのかな? 聞いてみるか。
「君はこの花が、お気に入りなのかな?」
「そうだよ! そうだよ! わたしには、このおはながいちばんあうの!」
「これではねをなおすと、もっとマシになるってきいたです~」
どうやら、妖精ちゃんに合う花のようだ。
ハナちゃんが補足してくれたけど、このサクラっぽい花を使えば、もっと羽根をマシに補修できるらしい。
それなら……今貼り付けているコスモスは酵素ではがして、妖精サクラを張り付けてみようか。
「また今度この花を使って、羽根を補修しようね。お手伝いするから」
「ハナもてつだうです~」
「ありがと! ありがと! こっちのおはなもよかったけど、やっぱりいちばんあうのはこれなの!」
妖精ちゃんは、きゃいきゃいと妖精サクラにほおずりをする。
やっぱり、自分に合うのが一番だよね。
……しかし、秋桜に妖精サクラ、どちらもサクラではないのに形は良く似ている。
もしかして、妖精ちゃんの羽根は……サクラっぽい形状の花に親和性があるのかもしれないな。
春になってちたまのサクラが咲いたら、見せてあげるのも良いかも知れない。
ちょうど良いことに、この村には固有の面白いサクラがある。
河津桜のように早い時期に咲いて、二ヶ月近く花をつける面白いサクラだ。
来年になったら、見せてあげよう。
おまけに同じ時期に、うちと加茂井家の代表が行う祭事がある。
みんなにも参加してもらって、祭事のあとのお花見を楽しむのも良いかもしれないな。
……まあなんにせよ、妖精さん世界の環境がちょっとだけ村にできた。
冬は心配だけど、もう出たとこ勝負になるしかない。このステキな花畑を、今は思いっきり楽しもう。
他のみんなも、のんびりお花見を楽しんでいるからね。俺だけジタバタしても、しょうがない。
「色々あるけど、今はお花見を楽しむとするかな」
「あい~! タイシとおはなみ、するです~」
「おはなのことならきいてね! なんでもいいよ!」
こうして、妖精さんたちの故郷がほんの少しだけ、村に出来た。
まああれだね。殺風景だった丘が、賑やかになった。
これは……楽しくて良いね!
◇
妖精さん花畑が出来てから、数日後のこと。
ハナちゃんちで、ヤナさんと打ち合わせをしていた。
「温泉の建屋がそろそろ組みあがりますので、いつごろ使用開始しようかと思ってまして」
「もうすぐです~。たのしみです~」
「おそうじとか、いろいろあるんですよね?」
「そうなんです。村人総がかりになりますので、予定を組む必要がありまして」
ようやく温泉拡張工事が終わり、建屋も屋根を乗せれば出来上がる。
内装はまた来年だけど、これでも施設は使えるわけだ。
ただ、使用開始するためには……お掃除と言う大仕事をしなければならない。
みんな村の仕事をしているから、予定を合わせないといけないわけだ。
「ひとまず、みんなのよていをきいてみます」
「お願いします」
「ハナもおとうさんのおてつだい、するです~」
「それはたすかるよ。ハナのおてつだい、たのしみにしてるね」
「あい~」
ヤナさんが色々取り纏めてくれるので、こっちは楽ちんだ。
そしてヤナさんも、大好きな温泉が大きくなるので、嬉しそうな顔をしている。
これから寒くなるだけに、あったかい温泉は至福の存在になるだろう。
ハナちゃんもお父さんのお手伝いをすると言っているので、楽しく仕事ができるのではと。
そうして色々打ち合わせをしていた時のこと。
「――へくちっ!」
おもむろに、ハナちゃんが可愛らしいくしゃみをした。
くしゃみをする瞬間はエルフ耳がぴっこーんと立って、くしゃみが終わったらへにょっと垂れる。
なんともかわいらしい耳の動きで、ほんわかする。ただ、風邪を引いたのではと心配にもなる。
「あや~」
「ハナ、だいじょうぶかい?」
「あえ~、さいきんなんだか、さむいです~」
「たしかに、なんだかさむくなってきたわね」
どうやら風邪ではないようなので、一安心だ。でも、寒くてくしゃみがでたと。
たしかに、最近どんどん気温が下がってきている。
いつも元気いっぱいのハナちゃんも、くしゃみをしちゃうくらいには寒くなってきた。
そろそろ、防寒具やら寝具やらの冬支度を始めないとな。
「……そろそろ、防寒具を用意する頃合いですね」
「ぼうかんぐ? ですか」
「ええ。寒い時に着る、とってもあったかい服です」
「そういえば、さいきんユキがなんか、もこもこしたやつきてるです~」
「そうそう、ユキちゃんが着てる、あのもこもこしたやつ」
あったかい服でわかったのか、ハナちゃんはユキちゃんの服装に思い当ったようだ。
このあいだおしゃれな秋物セーターを着てきたから、たぶんそれだ。
「私たちは、この時期服を着込んであったかくしてます。なので、ちょっとお金がかかりますね」
冬物をゼロからそろえるので、どうしてもお金はかかる。
俺が全部援助しようとするとエルフたちも遠慮しちゃうので、多少のお金は出してもらう感じだ。
「みんなもそこそこおかねがたまってきてますので、それなりにかえるとはおもいますよ」
「かんこうぎょうで、いろいろおしごとがありますから」
「ハナも、おこづかいたまったです~」
ヤナさんが村人の財政状況をふわっと教えてくれたけど、まあお仕事は沢山あるからね。
宿泊施設のお掃除やシーツの洗濯、温泉掃除などそこそこの日当は出している。
雑貨屋の店番や屋台、お土産屋さんの経営などもしているので、無一文ではないはず。
というか農閑期だから、そういう副業し放題だ。
現金という意味では、農繁期より稼いでいるかもしれない。
「とりあえず何着かお試し品を持ってきますので、明日試着してみましょう」
「わかりました。みんなには、おはなししておきます」
「あったかいふく、たのしみです~」
ということで、明日は冬物の服を用意して、どれが良いか試してもらおう。
◇
翌日、ユキちゃんと一緒に色々服を買い込んで集会場でお披露目をする。
コートやらセーターやら、厚手の靴下やら手袋やら。
発熱するインナーも用意した。
それを見たエルフたち、キャッキャと服を手に取る。
「たしかにこれは、あったかいですね」
「もっこもこです~」
「え!? これこんなにうすいのに、あったかいぞ!」
さっそく何名か試着したけど、みんなその防寒性能に驚いているね。
まあ、真冬用の服だから暖かくないと困るけど。
そのなかでも、発熱するインナーはみんな驚いていた。
一見すると薄手でそんなに暖かそうには見えないけど、着るとわかるそのすごさ。
これは、ちたま科学文明のなせる技だね。
「あれ? このかぶるやつ、みみがひっかかる」
「こうして、みみをさげてからかぶるといけるじゃん?」
「ちゃんとかぶると、とってもみみがあったかいわ~」
ただ、外套のフードは、耳が若干引っかかるようだ。
ちたま人用の装備だから、この辺はしかたがないかも。
「おい、これすごいあったかいぞ」
「なんか、つくりががっしりしてる」
「これいいんじゃね?」
そして男性陣に一番人気なのが、ワークメンで買ってきたやつだ。
冬の工事現場で、誘導員の方々が来ているアレだね。
こいつは安いのに凄い性能だから、とってもおすすめではある。
最近はその性能ゆえか、バイク乗りにも人気だとか。
過酷な環境にさらされるバイク装備で通用するくらいの性能なのだから、凄いと思う。
ただし、見た目は工事現場の人だ。見た目は気にしないようにしよう。
「それでタイシさん、これほどのそうびがひつようなほど、さむくなるってことですか?」
「このすごいやつをきると、あついです~」
一通りの防寒具を試したようで、ヤナさんが不安そうに聞いてきた。
ハナちゃんはいろいろ着込んで汗だくだ。……今全部着る必要はないからね。
というか大人用の外套を羽織っているから、丈がすごい余ってるし。
「こんなすごいの、ひつようになるの?」
「おもってたより、やばそうなきがする」
ほかのみなさんも、ヤナさんの質問を聞いて思い至ったようだ。
そうなんです、これくらいの装備が必要なんです。
その辺教えておこう。
「これくらいの装備が無いと、速攻アレしますよ。むしろ、これでも寒さは防げないほどです」
「これでもだめです!?」
「やべえええ~」
「これでもだめとか、ふるえる」
これでも寒いと言うと、ハナちゃんお目々まんまるのびっくり顔になった。
ほかの方々は、防寒具を着込んでぷるぷるしている。
いや、まだ大丈夫ですから。ほんとにヤバいのは、一月から二月ですから。
「……というわけで、寒いなって思ったら服を着込んでください。でないと、体調を崩します」
「わかりました。きをつけます」
「むりしないことにするです~」
なんとなく冬のキツさをわかってもらえたのか、ヤナさんはキリリとした表情になった。
でも、ヤナさんは今発熱インナーを上下着ているタイツぴっちぴち状態なので、見た目的には若干おもしろい。
ハナちゃんはもこもこセーターを着てキャッキャしているね。でも、やっぱり丈が余ってる。
子供用のを着ましょうね。
「こっちって、たまにしぜんがヤバいときあるよな~」
「あつくなったとおもったらさむくなるとか、ふるえる」
「おれのじまんのいっちょうらは、かぜとおしがよくて、つかえないのだ……」
春夏秋と経験して、エルフたちはちたまの気候変動について理解が深まって来たね。
というか、この辺の地域は特に厳しい地域だから、その点はごめんなさいだ。
初代さんは事情があってここに村を作ったらしいけど、具体的なところはわかっていない。
流石に二千年以上前の話だから、しょうがないけど。
「大志さん、あとは毛布と湯たんぽも説明しましょう」
「あ、そうだね。毛布はともかく、湯たんぽは説明しとかないと」
服の説明は一通りできたので、次は寝具と暖房器具だね。
ユキちゃんが、毛布と湯たんぽを持って来てくれた。
「あえ? ゆたんぽです?」
「まるっこくてひらべったい」
「なんにつかうんだろ」
毛布はまあ見ればわかるよね。ただ、湯たんぽを見てみなさん首を傾げた。
ハナちゃんは興味が出たのか、丈があまったセーターをずるずる引きずって、湯たんぽを覗き込む。
それじゃ、使い方を説明しよう。
「この湯たんぽというのは、中に熱いお湯を入れて、寒さをしのぐ道具です」
「なるほどです~」
「そういうつかいかたなんだ」
「でも、すぐにぬるくなっちゃわない?」
湯たんぽの使い方は簡単なので、みんなすぐに理解してくれた。
お湯だとすぐにぬるくなるという心配をする人もいるけど、意外とイケるんですよこれが。
「これに沸騰したお湯を入れると、夜から使って朝方くらいは、まだほのかにあったかいくらい持ちますよ」
「え! いがいともつんですね」
「いがいです~」
「ゆたんぽ、すげええ~」
時間にするとまあ五時間から六時間は、あったかいまま使える。
ついでに、良い感じの使い方も教えよう。
「お布団の足元とかに入れておくと、足ぽっかぽかで眠れます」
「ぽかぽかおふとんです~」
「それはいい!」
「たしかに、さいきんおふとんはいるとき、なんかあしもとつめたい」
湯たんぽを入れたぽかぽかお布団を想像したのか、みなさん顔がぽわんとなった。
寒くなってくると、あったかいお布団がたまらないからね。
みなさんぜひとも、お試しくださいだ。
――さて、だいたいの説明はこれで良いよね。
あとは、どんな服が欲しいかまとめてもらって、調達するだけだ。
カタログを渡して、選んでもらおう。
「だいたいわかったと思いますので、こちらの写真から欲しい服などを選んでおいてください」
「わかりました。まとめおわったら、おわたししますね」
「よろしくお願いします」
ヤナさんがまとめ役をしてくれるみたいなので、ありがたくお願いしておく。
とりあえずしばらくはこれで良いね。あとは、もっと寒くなって来た時に追加装備を提案しよう。
じょじょに、こっちの防寒装備の使い方を覚えてもらえば良い。
あと観光客の方々にも、貸出防寒具を用意しよう。
これでエルフたちは何とかなる。
ただ、ものすごい懸念点もあるんだよな……。
◇
「親父……森の動物たちや虫さんたち、それに妖精さんたちの防寒どうしよう」
「どうすっかなあ」
自宅にて、親父にちょろっと相談してみる。俺が今懸念しているのは、これなのだ。
森にすむ動物たち、虫さんたち、それに妖精さんたちの越冬問題だ。
正直、これはかなり困っている。
毎朝ダイヤモンドダストが見られるようになったら、外で過ごすのは厳しいのではと思う。
ただ、有効な手立てがあまりない。
「体の小さい生き物が多いから、熱容量的にこっちの冬は厳しいよね」
「あっという間に体温が奪われるな」
動物たちは毛皮があるから、まだ何とかなるかもしれない。
しかし妖精さんたちは……小さな体に加え、大きな羽根を持っている。
表面積は大きいのに容量そのものは小さいので、こっちの冬を無策で乗り切るのは不可能だと見ている。
動物たちも、冬眠の準備を始めているとかそういう気配はない。たぶん冬眠しない生き物だと思われる。
「……冬が厳しいあいだは、エルフ世界で過ごしてもらうのはどうか?」
親父が提案してくれたけど、やっぱそうなるかな。
ただ、あっちはあっちで……森も無ければ花も無い。
ちたまは極寒、エルフ世界は何もない。わりと八方ふさがりだ。
ビニールハウスで温室を作るにしても、規模的にけっこう難しい。
なにより、豪雪でハウスがつぶれる危険性がある。
というか、毎年どこかしらでそういう事故は起きている。
そんなわけで……厳しい冬が、やってきそうだ。
寒さが厳しいのはいつもの事だけど、それをしのぐにはどうするか。
頭の痛い問題だ。
「……とりあえず妖精さんたち用の防寒具については、服を作ってもらおう」
「まずはそれだな」
「ユキちゃんにも相談してみる」
「そこはまかせた」
というわけで、まずユキちゃんに相談を持ちかける。
さっそく電話だ。
『もしもし、大志さんどうされました?』
「それが、ちょっと相談があって」
『――なになに? 例の大志さんから?』
『あ! ちょっと反対側から耳あてないで!』
……なんだか賑やかだな。誰かほかにいるのだろうか。
女の人の声が聞こえた気がするけど、なんだろ?
「なんだか賑やかだね」
『え、ええまあ。今魔女さんと、化粧水作りの打ち合わせをしていまして』
「そうなんだ。……しかし、仲良さそうだね」
『ええまあ。仲良しですね。――あ、わかったから! ちょっとじっとしてて!』
『え~、私も仲間に入れてよ~』
なんだかキャーキャー始まったけど、どうやら魔女さんは賑やかな人っぽいね。
けど話が進まないでござるよ。メールにしとけばよかったかな?
そうして電話越しに、キャーキャードタバタ、という音を聞くことしばらく。
突然「ガッチャコン!」という音がする。
そして――静かになった。
『……お、お待たせしました。それで、ご用件は?』
突然静かになったので何だろうとおもっていると、ユキちゃんの声が。
息を切らせているけど、なにやら色々あったようだ。
……それはともかく、要件を伝えよう。
「も、もうすぐ冬なんだけど、妖精さんたち用の防寒具が必要だと思って」
『そういえばそうですね。それで、生地などをどうしたら良いかというお話ですか?』
「それもあるんだけど、わりと難しい問題があってさ……」
『わりと難しい問題ですか?』
ようやく話が進んだので、色々相談しよう。
とりあえず、俺が懸念していること話そうか。
「妖精さんたちは体がちいさいうえに羽根が大きいから、ふつうの防寒対策じゃあっという間に熱が失われると思うんだよ」
『……確かに、体重は数百グラムくらいでしたね』
ユキちゃんも防寒対策の難しさ、理解してくれたかもだ。
妖精さんたちの身長は、ちたま人の十分の一から十二分の一。そして体重は――百分の一だ。
なるほどベルクマンの法則通り、質量に比べて表面積がかなり大きい。
妖精さんたちが高カロリー食品をたくさん食べるのも、体温維持のための熱量が必要だからだろう。
このへんは、小動物と似たような生態なわけだ。
『妖精さんたちも大変ですけど、動物や虫さんたちも大変ではないですか?』
「そこも悩んでいるんだ。どうしようかと」
ユキちゃんも同じ考えに至ったようで、今俺が悩んでいる点について指摘がきた。
ほんとこれ、どうしよう。
と思っていたら、なんか電話越しに「パリン」という音が聞こえた。
『ねえねえ、なにが大変なの?』
『あちょっと! 閉じ込めたはずなのに!』
『魔女だからね~、こういうの得意なのさ~』
『ああ……渾身の結界があっさり突破された……』
『それより、私に相談してみ~? オススメ魔術、あるかもよ~?』
どうやら、ユキちゃん渾身の術が魔女さんに突破されたようだ。
俺の知らない所で、何やら高度な攻防があった模様。
神秘側の人がすることは、色々ぶっとんでいて面白いね。
そしてまた騒がしくなったけど……「おすすめ魔術」とか聞こえたわけだ。
それ、興味あるな。ちょっと聞いてみようか。
「あ~ユキちゃん、魔女さんに今の話を聞かせて……相談するって出来る?」
『え? 魔女さんにですか?』
「そうそう。彼女も相談してほしそうだし」
『え、ええまあ……それでは、ちょっと相談してみますね』
「じゃいったん電話切るね」
『まとまったら、私の方から連絡します』
ということで、ユキちゃんにまずボールを投げてみた。
さて、なんかいい手があるだろうか。