第一話 咲くのだ! お花!
妖精さん世界で、救助隊妖精さんが排水事業に巻き込まれた。
その結果エルフ世界にどんぶらこしてきて、俺たちと出会った。
聞いた感じでは二重遭難しかかっていたから、結果的にはそれで事なきを得たともいえる。
しかし、どんぶらこしてきた妖精さんたちは、素晴らしい物を携えてきた。
それは――妖精世界の、花の種だ。
妖精さん居住区は作った。よろこんで住んでもくれた。エルフの森の受粉も手伝ってくれた。
妖精さんたちは、村になじんでくれた。でも、大切なものが欠けていた。
それは、妖精さんの故郷にあった――花々だ。
エルフたちは地球で故郷の森を再現した。
完全ではないけれど、そういうものがあるというのは――大きな救いになる。
でも、妖精さんたちには……それが無かった。
しかし、今俺たちの手元には、種がある。
もしかしたら、妖精さんたちの故郷の一部でも、再現することが出来るかもしれない。
遭難しかかった救助隊妖精さんたちが、俺たちに授けてくれたこの奇跡。
なんとしても、ものにしたい。
――ということで、お花を咲かせましょう計画発動だ!
さて、妖精さん世界の花は……果たして咲いてくれるだろうか。
◇
「それじゃハナちゃん、試しにここで植えてみよう」
「あい!」
ハナちゃんにお願いすると、さっそくスコップでザクザクと土をほじくり、種をぽてっと入れる。
土をかけたら、さあ儀式の始まりだ。
「おはな~おはな~、きれいにさくですよ~」
じょうろでちょろちょろ水をかけて、謎の歌を歌う。
すると、ハナちゃんの体がぽわぽわと光って、なんかの力が働いているのが分かった。
さあ、花は咲いてくれるか。
「……あえ? さかないです?」
「ん? 何にも起こらないね」
「ぴくりともしないです~」
ハナちゃんが儀式をしても、花は咲かなかった。
……何でだろう?
「じゃあ土を変えてみよう。鉢植えに土を入れて、ここに植えようね」
「あい~」
「おれのじまんのはちうえ、つかってほしいのだ」
「ありがとです~」
土が悪いのかもしれない。
ということで別の場所の土を持って来て、鉢に植えて再チャレンジだ。
おっちゃんエルフ自慢の鉢で、さあどうだ!
「おはな~おはな~、がんばるです~」
またぽわぽわ光るハナちゃんだけど……。
何故だか、花は咲かない。
「タイシ、さかないです~……」
「じゃあ次は水を変えてみよう」
「さかないです~」
「それじゃあ次は――」
――と色々試してみたけど、やっぱり花は咲かなかった。
やがて、日が暮れてくる。
「……ハナちゃん、今日はこれ位にして、また明日試してみよう」
「あい~……」
何をしても花は咲かないので、俺もハナちゃんもがっくしだ。
妖精世界の花を、この世界に咲かせたいのだけど……上手く行かない。
種がダメなのか、土地がダメなのか、水がダメなのか。何もかもが、わからない。
……これは、じっくり取り組む必要がありそうだ。
「ハナちゃん頑張ってくれたから、またお礼をするね」
「あい~……」
しょんぼりハナちゃんを励ますけど、あまり手ごたえは無い感じだ。
自信のあった「にょきにょき」が上手くいかなかったので、ハナちゃんなりにショックがあったのかもしれないな。
……ちょっと無理させちゃったかもだ。
「ほらハナちゃん、肩車をしてあげるね。一緒に帰ろう」
「あい~……」
そんなしょんぼりハナちゃんを肩車して、村に帰る。
ハナちゃんの可愛いエルフ耳も、なんだかペタンとしてしまっている。
ほんとに、元気がない。花が咲かない鉢植えを抱えて、しょんぼりハナちゃんだ。
……これは、早いところ妖精花の栽培技術を確立しないといけないな。
「……タイシ、ハナちょっとおもったですけど……」
「おもったこと? 何かな?」
洞窟に向かう道中、ハナちゃんがぽつっとつぶやく。
何かを思ったようだ。一体何だろう?
「ハナたちのところだと、おはながさかないかもです?」
「ハナちゃんたちの所というと、あの灰色の森だよね?」
「あい~、もりがかれるくらいだから、なんかあるかもです?」
「……ありうるねそれ。もしかしたら」
確かにハナちゃんの言うとおり、エルフ世界のあの場所は――森が全て灰化するような所だ。
何かあるのかもしれない。
ただ……野菜は栽培できたんだよな。キャベツがもりもり育った。
野菜が育つのに、妖精世界の花が育たないなんて、あるのだろうか?
……まあ、それは村に帰って試せばいいか。
まずはちたまで栽培を試みてみて、どうなるかだな。
「ハナちゃん、村で試してみよう。もしかしたら、もしかするかもだよ」
「あい~! ためすです~」
ちょっと希望が見えたのか、ハナちゃんは抱えていた鉢植えを掲げた。
なんだか、とっても気合の入った顔だ。元気が戻ってきたみたいだね。ほっと一安心だ。
それじゃ、洞窟をくぐって村に帰ろう。村に帰ったら、今日はあと一回だけ試そう。
さて、どうなるか。
「ためすです~ためすです~、おはな、さかせるです~」
洞窟をくぐる間、ハナちゃんは気合の入った歌を歌う。
もう何としても花を咲かせようと、闘志みなぎる様子だ。
……ハナちゃん、何だか意地になっておられる?
「それじゃあ、ハナががんばれるよう、きょうのゆうしょくはカレーにしようか」
「あや! カレーです!?」
「いいわね。ハナのだいすきな、おにくたっぷりカレーをつくっちゃうわよ!」
「やったー! おにくたっぷりカレーです~!」
ヤナさんとカナさんも、ハナちゃんを応援したいようだ。
気合いを入れるために、ハナちゃんが大好きなお肉たっぷりカレーが献立になった。
家族が応援してくれるのは、心強いよね。
ハナちゃん、一緒に頑張ろう。
「カレ~、カレ~、おにくたっぷりです~」
……あれ? 花を咲かせる決意の歌から……カレーの歌に変わった?
あのみなぎる闘志、もうどっかいっちゃってない?
「おいしいカレ~、たのしみです~」
ハナちゃんはもうご機嫌で、お耳ぴこぴこだ。あれ? お花は?
ご機嫌で鉢植えを掲げたけど、ハナちゃんの頭の中はもうカレーでいっぱいになってないかな?
……そうしている間に、もう洞窟の出口だな。これを抜ければ村だ。
ハナちゃん、花の栽培忘れてないよね? 大丈夫だよね?
「うふふ~うふふ~」
……まあ、ご機嫌になったから良いか。
しょんぼりハナちゃんが元気になったのだから、問題ない。
さあ、洞窟を抜けて村に帰ろう!
――そして洞窟を抜け、夕方近い村に帰還する。
……やっぱこっちは、ちょっと寒いな。
あと数日もすれば、雪が降るかもしれない。早い所、冬支度もしないとな。
妖精花栽培に、冬支度に、観光業に、色々忙しい日々が続くだろう。
俺も、気合入れなきゃな。
「あれ? ハナちゃんそれどうしたの?」
「あえ? なんです?」
洞窟を抜けて気合を入れていると、マイスターがハナちゃんに問いかけた。
それどうしたのと聞いているけど……何だろう?
「いやさ、そのはちうえ……なんかおはな、さいてね?」
「あえ?」
「え? 花が咲いてる……?」
マイスターが指さす先にある、ハナちゃんが頭の上に掲げた鉢植え。
それを見てみると――。
「あえ?」
「……え?」
――青い花が、咲いていた。
「おはな、さいてるです?」
「見事に咲いてる?」
え? 何で?
「――あやー! おはなさいたです~!」
「何で!? さっきまでは咲いてなかったのに!?」
「なんでです~!?」
そしてハナちゃん大パニック!
村に帰ったら試そうと意気込んでいたのに、試す前に咲いてしまった。
カレーに気を取られていたから、まさに寝耳に水の出来事だね。
「あ、やっぱさいてるじゃん? おれのきのせいじゃなかった」
「おれも、きのせいかとおもってみないふりしてた」
「わたしも」
「ふがふが」
どうやら他のみなさん、気のせいかと思って黙っていたようだ。
ハナちゃんが頭の上に鉢植えを掲げていたから、俺とハナちゃんだけ見えてなかった……。
……でも、これで一つの可能性が出てきたね。
エルフ世界では、というかあの地域では――お花は咲かない、という可能性が。
もうちょっと試してみれば、より確信が持てるだろう。
これを確かめるために、ハナちゃんにもうちょっとだけ協力をお願いしなければ。
「ハナちゃん、村に帰ったら……他の種も試してみない?」
「あい~! ためすです~。きっときっと、おはなはさくです~」
花が咲いたことに気を良くしたのか、ハナちゃんお耳をピコっとさせてやる気十分だ。
もしかしたら、もしかするからね!
「ハナちゃんがさっき言った、あっちじゃ咲かないかもってのが――当たってるかも」
「これからためせば、わかるです~」
妖精花が咲かなかったのは――場所に問題があった、かもしれない。
それが、確かめられるかもだ。
「それじゃあぼくらも、カレーつくりをがんばるか」
「いっしょにつくりましょう。ハナもおてつだいする?」
「あい~! ハナもカレーつくるです~」
ヤナさんとカナさんも応援してくれる。ハナちゃん、さらに気合が入ったね。
それじゃあ、いっちょ試してみましょう!
「カレ~、カレ~、おにくたっぷりです~」
――え? もうカレーに意識が逸れた!?
◇
村に到着して、すぐさま実験を開始する。
妖精さん居住区の丘で、試しに何種類かの花の種を植えてみた。
そしてハナちゃんが、にょきにょきの儀式をしたとたん――。
「おはな、さいたです~!」
「咲いたね。ハナちゃんよく頑張った、偉い!」
「うふ~」
――見事な花が、咲いた。
やはりハナちゃんが思った通り、エルフ世界のあの場所では――ダメなんだ。
灰化という共通点があるあの場所では、同じく灰化するような植物は、育たない。
何故そうなるかはわからないけど、一つの知見を得られた。
もしかしたら、一歩謎に近づけたかもしれない。
あの土地には――何かがあるんだ。何かが起きたんだ。あの場所で。
「おはながさいたよ! さいたよ!」
「しってるおはな~!」
「うれしいな! たのしいな!」
色々考えていると、妖精さんが花に集まって来た。
青や赤や黄色の花、もちろんあのうす桃色のサクラのような花も。
それらの花は、キラキラと光っている。
妖精さんたちがそれらの花に群がり、さらにキラッキラに。
夕暮れ時の丘に、光が舞い踊る。
……とても幻想的で、美しい光景だ。
「おお~、すげえきれいだな~」
「おはながキラキラ、ようせいさんもキラキラとか、すてき」
「なける」
村のみなさんも、その光景をみてうるうるだ。
彼らも自分たちの故郷とそっくりな森が出来たとき、とても嬉しそうだったからね。
あきらめていた故郷の一部でも、取り戻せたときの気持ちはよくわかるのだろう。
おっちゃんエルフとか、号泣しているくらいだ。鼻水は拭きましょうね。
「タイシ~、このちょうしで、おはなたくさんさかせるです?」
妖精さんが喜ぶ様子を見て、ハナちゃんもっと花を咲かせようと思ったようだ。
ただ、ちょっと待った方が良い。
「あ、いや……それはちょっと待った方が良いかも」
「あえ? おはなさかせないです?」
だって、ここはもうすぐ――冬になるのだから。
冬になってしまったら……寒くて植物は育たない。
というか、枯れちゃうかもだ。この辺を懸念していることを、伝えよう。
「ハナちゃん、この村はもうすぐとっても、と~っても寒くなるんだ」
「あえ? さむくなるです?」
「そう。みんなが来た時に最初に説明した、『冬』って季節が来るんだ」
「あや~……そういえばさいきん、さむくなってきたです~」
ハナちゃんも寒くなってきた実感があるのか、なんとなくわかってくれたようだ。
これから、どんどん寒くなるという事が。
「それでね、あんまり寒いと植物は枯れちゃったり成長が止まっちゃうんだ」
「あや! かれちゃうです!?」
「そういう植物が多いね。だから……ちょっと様子を見たいなって思う」
「あえ~、そういうことですか~」
ハナちゃんを含めてエルフたちは、まだこの地域の冬の厳しさを知らない。
ただ、あと数日でその兆候はわかるはずだ。
これでは植物はまともに育たないだろうっていうほどの、厳しい季節が来るということが。
だから、花の栽培はちょっと様子を見よう。大事な種は、温存したい。
ここで全部撒いてしまって、その後すぐに雪が降って枯れてしまったら。
……俺は泣く自信がある。というわけで、様子を見ましょうねと。
「種は大事にとっておいて、ここぞという時ににょきにょきさせよう」
「あい~! わかったです~!」
妖精さんたちには申し訳ないけど、この地域の冬は尋常ではない。
シベリア並みの寒さになる。用心に用心を重ねるくらいが、ちょうどいい。
まあ今日は、これくらいで終わりにしよう。
あとは夕食を食べて、温泉に入ってぐっすりおねむするだけだ。
「タイシさん、このようせいさんのふねはどうしたらいいじゃん?」
ん? マイスターが救助隊妖精さんの乗ってきた船を持ってきたぞ?
そういえばこれ、放置したままだったな。
いったい誰が持ってきてくれたんだろう?
「あれ? 誰か船を持ってきてくれたんですか?」
「わたしがもってきたの。すてきなフネだったから、ほっとくのもかわいそうとおもって」
ステキさんがしゅぴっと手を挙げた。
なるほど、確かにこれを放置したら、可哀そうだよね。
救助隊妖精さんたちを、ここまで守って運んでくれた船だ。大事にしないと。
ステキさんにお礼を言っておこう。
「いやいや、気づかなかったので助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。なんだかしまえなかったけど、もってくるぶんにはかるかったので」
頭を下げると、ステキさんもペコペコ頭を下げる。
「……あれ? いまなんか……」
日本人のサガが炸裂し俺もペコペコと頭を下げ合っていると、マイスターがなんか地面を見始めた。
ただ、わりと大きな船を持っているので、足元が見えないようだ。
持っている船の右から左から、下を覗き込もうとして首を伸ばしている。
どうしたのかな?
「どうされました?」
「いや、いまなんか、フネからおっこちたような」
「何かが落ちましたか?」
「……う~ん、なんかがおっこちて、あしにあたったきがした」
何かが落っこちて、足に当たった気がしたと。
……マイスターの足元を見てみる。土しか見えない。
ハナちゃんと一緒に土をほじったときに出来たとおぼしき、盛り土があるくらいか。
「何もないですね」
「……やっぱ、おれのきのせいだったみたい?」
「それっぽいですね。何も落ちていませんので」
何にも見つからないので、多分気のせいかもだね。
――おっと、それより船の扱いだ。
正直どうしたらいいかわからないので、妖精さんに聞いてみよう。
「君たち、この船はどうしたら良いかな?」
「つかいみち、ないかな? ないかな?」
「どうしましょ~」
「ほっとくのも、もったいない? もったいない?」
妖精さんたちも、どうするかは特に考えていないようだ。
……あれだ、記念に飾っておくか。とりあえず集会場に飾ろう。
「それじゃあ、この船は飾り物として使って良いかな? みんなが見られる場所に、大事に飾るよ」
「かざるの? ……それはいいね! いいね!」
「だいじにしてね! だいじにしてね!」
「こんど、みにいきましょ~」
飾るのは問題ないようだ。それじゃ、大事に飾っておこう。
この船は、救助隊妖精さんたちの勲章だからね。
妖精接着剤でガチガチに作ってあるから、長期間この姿を維持できるんじゃないかな?
妖精ちゃんの羽根を補修したコスモスも、なんかずっと維持できているし。
「飾ったら場所を教えるから、見に来てね」
「ありがと! ありがと!」
「みにいくよ! みにいくよ!」
これで船の行き場も決まったから、あとは飾るだけ。
あとで集会場に寄って、棚の所に飾ろう。
――さて、これで今日の作業と決めごとは終了だ。
もう良い時間だし、船を飾り終わったら夕食を食べるとするか。
「ハナちゃん、今日はこれ位にして夕食にしよう。もう良い時間だから」
「あい~! きょうはカレーです~! たのしみです~」
今日の献立を思い出したのか、ハナちゃんの頭の中はもうカレーでいっぱいだね。
それじゃあお肉たっぷりの、美味しいカレーを食べましょう!
◇
そして翌日。
「――あややややや! おはなたくさんです~!?」
「ええ……?」
妖精さん居住区の丘に――沢山お花が咲いていたでござる。
それを見たハナちゃん、「あえ~? あえ~?」と右に左にわたわたしている。
だって、身に覚えがないだろうからね。
俺だって、こうなるとは微塵も思っていなかった。俺もぽかーんだよ。
妖精さん居住区は一面お花だらけになっていて、なんかここだけ春みたいな咲きっぷり。
待って、ちょっと待って。何これ何が起きたの?
「おはながいっぱい! うれしいな! うれしいな!」
「おだんごつくりまくり~」
「こねましょ~」
妖精さんたちは大喜びで、もうお団子を作り始めているし。
いやいや、何がどうしてこうなった。
……昨日はハナちゃんちでカレーをごちそうになって、温泉に入って集会場で寝て。
そして朝起きたら、妖精さんがきゃいきゃいと俺とハナちゃんを呼びに来た。
えらい喜びようなので、何かと思って妖精居住区に来てみたわけだ。
そしたらもう――お花が満開!
度肝を抜かれた……。
「あえ~……タイシのきづかい、こっぱみじんです?」
「そうなるね。いや、自分が浅はかだったよ……」
あれだね、油断したね。そういやこれ……異世界の花だった。
異世界の花が、そんな簡単な相手なわけがないよね。
……。
――あっはっは! 笑うしかない。
「タイシ、このおはな、どうするです?」
「もう咲いちゃったのだから――思いっきり喜んじゃおう!」
起きてしまったことはしょうがない。それより、花畑が出来たことを喜ぼう!
だって、すっごい綺麗な花畑なのだから。喜ばないと、損するよこれ。
「よろこんじゃうです?」
「そうそう、妖精さんと一緒に、喜んで楽しんで、満喫しよう」
「それがいいかもです~!」
ハナちゃんも、だんだん流されてきた。
もう考えるだけ無駄だから、それで良いよね!
「うっわ~、すげえおはなばたけ、できてんじゃん」
「あるいみ、どこかでみたこうけい」
「タイシさんちのとち、どんどんうめつくされていく」
俺とハナちゃん、そして妖精さんがワーキャー騒いでいると、他のみなさんもやって来た。
そうだね、ある意味どこかで見た光景だね。
予想できて、しかるべき光景だったのだ……。
妖精花は、エルフ世界では弱々しく芽も出さなかった。
そんな植物だったから……弱いって思いこんじゃったのですよ。
そう思い込んだ俺が、やらかしたのでござるよ。
いやでもさ、昨日あれほど苦労したのは何だったのと。
妖精世界の植物、呆れるほどしぶといじゃん。
隙あらばって感じで増えてるじゃん。
「ほんじゃ大志、花も満開になったことだし、花見すっか」
「大志さ、俺はもう慣れたよ」
「実は私、ちょっとこうなるの期待してました」
高橋さんが花見を提案し、親父とユキちゃんはなんか慣れてしまっていた。
ちたま人たち、だんだん異世界植物のしぶとさに耐性が付いてきてるね。
ユキちゃんとか、こうなるの期待してたとか……実は気づいてて指摘しなかったぽいぞ?
……目の前の事に集中しすぎて、お約束を忘れてたんだな、俺。
これは反省しなきゃだな。
「おはなみするなら、じゅんびしようぜ」
「おれもてつだう」
「わたしは、おりょうりのじゅんびするわ~」
エルフたちも慣れたもので、みんな準備のために動き始める。
植物が大増殖しても、なんか動じなくなった。
「ばうばう?」
「ギニャ~」
「ミュ?」
賑やかになったのを聞きつけて、森の動物達もやってきた。
花の匂いを嗅いだり、つんつんつついたりしているね。
動物たちも来たから、賑やかになるね。
「タイシ~、おはなみするです~」
「そうだね。お花見しようね」
お花見と聞いて、ハナちゃんわくわく顔だ。
もう、細かいことは気にしないでおこう。
それじゃ、俺もお花見のために食材を調達してこようか。
「自分はお花見の食材を調達してくるよ」
「ごちそう、たのしみです~」
ということで、開き直ってとことんお花見を楽しみましょう!
「あ、トウモロコシたくさんもってくるから、楽しみにしててね」
「ば、ばう~!」
「ギニャニャ~」
「ピヨ!」
「え? え?」
トウモロコシを持ってくると言ったら、動物達は大喜びだ。
それじゃあ調達に――ん?
「ばう~」
「ギニャ~」
「ピピピ」
「キャ~ン!」
あれ? 動物たちが群がってきたけど。
あ、いや。ちょっと待って、ちょっと待って。
嬉しいのは分かるけど、ちょっと待って――。