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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十三章 エルフだってできるもん!
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第一話 咲くのだ! お花!


 妖精さん世界で、救助隊妖精さんが排水事業に巻き込まれた。

 その結果エルフ世界にどんぶらこしてきて、俺たちと出会った。

 聞いた感じでは二重遭難しかかっていたから、結果的にはそれで事なきを得たともいえる。


 しかし、どんぶらこしてきた妖精さんたちは、素晴らしい物を携えてきた。

 それは――妖精世界の、花の種だ。


 妖精さん居住区は作った。よろこんで住んでもくれた。エルフの森の受粉も手伝ってくれた。

 妖精さんたちは、村になじんでくれた。でも、大切なものが欠けていた。

 それは、妖精さんの故郷にあった――花々だ。


 エルフたちは地球で故郷の森を再現した。

 完全ではないけれど、そういうものがあるというのは――大きな救いになる。

 でも、妖精さんたちには……それが無かった。

 しかし、今俺たちの手元には、種がある。

 もしかしたら、妖精さんたちの故郷の一部でも、再現することが出来るかもしれない。

 遭難しかかった救助隊妖精さんたちが、俺たちに授けてくれたこの奇跡。

 なんとしても、ものにしたい。


 ――ということで、お花を咲かせましょう計画発動だ!

 さて、妖精さん世界の花は……果たして咲いてくれるだろうか。



 ◇



「それじゃハナちゃん、試しにここで植えてみよう」

「あい!」


 ハナちゃんにお願いすると、さっそくスコップでザクザクと土をほじくり、種をぽてっと入れる。

 土をかけたら、さあ儀式の始まりだ。


「おはな~おはな~、きれいにさくですよ~」


 じょうろでちょろちょろ水をかけて、謎の歌を歌う。

 すると、ハナちゃんの体がぽわぽわと光って、なんかの力が働いているのが分かった。

 さあ、花は咲いてくれるか。


「……あえ? さかないです?」

「ん? 何にも起こらないね」

「ぴくりともしないです~」


 ハナちゃんが儀式をしても、花は咲かなかった。

 ……何でだろう?


「じゃあ土を変えてみよう。鉢植えに土を入れて、ここに植えようね」

「あい~」

「おれのじまんのはちうえ、つかってほしいのだ」

「ありがとです~」


 土が悪いのかもしれない。

 ということで別の場所の土を持って来て、鉢に植えて再チャレンジだ。

 おっちゃんエルフ自慢の鉢で、さあどうだ!


「おはな~おはな~、がんばるです~」


 またぽわぽわ光るハナちゃんだけど……。

 何故だか、花は咲かない。


「タイシ、さかないです~……」

「じゃあ次は水を変えてみよう」

「さかないです~」

「それじゃあ次は――」


 ――と色々試してみたけど、やっぱり花は咲かなかった。

 やがて、日が暮れてくる。


「……ハナちゃん、今日はこれ位にして、また明日試してみよう」

「あい~……」


 何をしても花は咲かないので、俺もハナちゃんもがっくしだ。

 妖精世界の花を、この世界に咲かせたいのだけど……上手く行かない。

 種がダメなのか、土地がダメなのか、水がダメなのか。何もかもが、わからない。

 ……これは、じっくり取り組む必要がありそうだ。


「ハナちゃん頑張ってくれたから、またお礼をするね」

「あい~……」


 しょんぼりハナちゃんを励ますけど、あまり手ごたえは無い感じだ。

 自信のあった「にょきにょき」が上手くいかなかったので、ハナちゃんなりにショックがあったのかもしれないな。

 ……ちょっと無理させちゃったかもだ。


「ほらハナちゃん、肩車をしてあげるね。一緒に帰ろう」

「あい~……」


 そんなしょんぼりハナちゃんを肩車して、村に帰る。

 ハナちゃんの可愛いエルフ耳も、なんだかペタンとしてしまっている。

 ほんとに、元気がない。花が咲かない鉢植えを抱えて、しょんぼりハナちゃんだ。

 ……これは、早いところ妖精花の栽培技術を確立しないといけないな。


「……タイシ、ハナちょっとおもったですけど……」

「おもったこと? 何かな?」


 洞窟に向かう道中、ハナちゃんがぽつっとつぶやく。

 何かを思ったようだ。一体何だろう?


「ハナたちのところだと、おはながさかないかもです?」

「ハナちゃんたちの所というと、あの灰色の森だよね?」

「あい~、もりがかれるくらいだから、なんかあるかもです?」

「……ありうるねそれ。もしかしたら」


 確かにハナちゃんの言うとおり、エルフ世界のあの場所は――森が全て灰化するような所だ。

 何かあるのかもしれない。

 ただ……野菜は栽培できたんだよな。キャベツがもりもり育った。

 野菜が育つのに、妖精世界の花が育たないなんて、あるのだろうか?


 ……まあ、それは村に帰って試せばいいか。

 まずはちたまで栽培を試みてみて、どうなるかだな。


「ハナちゃん、村で試してみよう。もしかしたら、もしかするかもだよ」

「あい~! ためすです~」


 ちょっと希望が見えたのか、ハナちゃんは抱えていた鉢植えを掲げた。

 なんだか、とっても気合の入った顔だ。元気が戻ってきたみたいだね。ほっと一安心だ。

 それじゃ、洞窟をくぐって村に帰ろう。村に帰ったら、今日はあと一回だけ試そう。

 さて、どうなるか。


「ためすです~ためすです~、おはな、さかせるです~」


 洞窟をくぐる間、ハナちゃんは気合の入った歌を歌う。

 もう何としても花を咲かせようと、闘志みなぎる様子だ。

 ……ハナちゃん、何だか意地になっておられる?


「それじゃあ、ハナががんばれるよう、きょうのゆうしょくはカレーにしようか」

「あや! カレーです!?」

「いいわね。ハナのだいすきな、おにくたっぷりカレーをつくっちゃうわよ!」

「やったー! おにくたっぷりカレーです~!」


 ヤナさんとカナさんも、ハナちゃんを応援したいようだ。

 気合いを入れるために、ハナちゃんが大好きなお肉たっぷりカレーが献立になった。

 家族が応援してくれるのは、心強いよね。

 ハナちゃん、一緒に頑張ろう。


「カレ~、カレ~、おにくたっぷりです~」


 ……あれ? 花を咲かせる決意の歌から……カレーの歌に変わった?

 あのみなぎる闘志、もうどっかいっちゃってない?


「おいしいカレ~、たのしみです~」


 ハナちゃんはもうご機嫌で、お耳ぴこぴこだ。あれ? お花は?

 ご機嫌で鉢植えを掲げたけど、ハナちゃんの頭の中はもうカレーでいっぱいになってないかな?


 ……そうしている間に、もう洞窟の出口だな。これを抜ければ村だ。

 ハナちゃん、花の栽培忘れてないよね? 大丈夫だよね?


「うふふ~うふふ~」


 ……まあ、ご機嫌になったから良いか。

 しょんぼりハナちゃんが元気になったのだから、問題ない。

 さあ、洞窟を抜けて村に帰ろう!


 ――そして洞窟を抜け、夕方近い村に帰還する。


 ……やっぱこっちは、ちょっと寒いな。

 あと数日もすれば、雪が降るかもしれない。早い所、冬支度もしないとな。

 妖精花栽培に、冬支度に、観光業に、色々忙しい日々が続くだろう。

 俺も、気合入れなきゃな。


「あれ? ハナちゃんそれどうしたの?」

「あえ? なんです?」


 洞窟を抜けて気合を入れていると、マイスターがハナちゃんに問いかけた。

 それどうしたのと聞いているけど……何だろう?


「いやさ、そのはちうえ……なんかおはな、さいてね?」

「あえ?」

「え? 花が咲いてる……?」


 マイスターが指さす先にある、ハナちゃんが頭の上に掲げた鉢植え。

 それを見てみると――。


「あえ?」

「……え?」


 ――青い花が、咲いていた。


「おはな、さいてるです?」

「見事に咲いてる?」


 え? 何で?


「――あやー! おはなさいたです~!」

「何で!? さっきまでは咲いてなかったのに!?」

「なんでです~!?」


 そしてハナちゃん大パニック!

 村に帰ったら試そうと意気込んでいたのに、試す前に咲いてしまった。

 カレーに気を取られていたから、まさに寝耳に水の出来事だね。


「あ、やっぱさいてるじゃん? おれのきのせいじゃなかった」

「おれも、きのせいかとおもってみないふりしてた」

「わたしも」

「ふがふが」


 どうやら他のみなさん、気のせいかと思って黙っていたようだ。

 ハナちゃんが頭の上に鉢植えを掲げていたから、俺とハナちゃんだけ見えてなかった……。


 ……でも、これで一つの可能性が出てきたね。

 エルフ世界では、というかあの地域では――お花は咲かない、という可能性が。

 もうちょっと試してみれば、より確信が持てるだろう。

 これを確かめるために、ハナちゃんにもうちょっとだけ協力をお願いしなければ。


「ハナちゃん、村に帰ったら……他の種も試してみない?」

「あい~! ためすです~。きっときっと、おはなはさくです~」


 花が咲いたことに気を良くしたのか、ハナちゃんお耳をピコっとさせてやる気十分だ。

 もしかしたら、もしかするからね!


「ハナちゃんがさっき言った、あっちじゃ咲かないかもってのが――当たってるかも」

「これからためせば、わかるです~」


 妖精花が咲かなかったのは――場所に問題があった、かもしれない。

 それが、確かめられるかもだ。


「それじゃあぼくらも、カレーつくりをがんばるか」

「いっしょにつくりましょう。ハナもおてつだいする?」

「あい~! ハナもカレーつくるです~」


 ヤナさんとカナさんも応援してくれる。ハナちゃん、さらに気合が入ったね。

 それじゃあ、いっちょ試してみましょう!


「カレ~、カレ~、おにくたっぷりです~」


 ――え? もうカレーに意識が逸れた!?



 ◇



 村に到着して、すぐさま実験を開始する。

 妖精さん居住区の丘で、試しに何種類かの花の種を植えてみた。

 そしてハナちゃんが、にょきにょきの儀式をしたとたん――。


「おはな、さいたです~!」

「咲いたね。ハナちゃんよく頑張った、偉い!」

「うふ~」


 ――見事な花が、咲いた。

 やはりハナちゃんが思った通り、エルフ世界のあの場所では――ダメなんだ。

 灰化という共通点があるあの場所では、同じく灰化するような植物は、育たない。

 何故そうなるかはわからないけど、一つの知見を得られた。

 もしかしたら、一歩謎に近づけたかもしれない。


 あの土地には――何かがあるんだ。何かが起きたんだ。あの場所で。


「おはながさいたよ! さいたよ!」

「しってるおはな~!」

「うれしいな! たのしいな!」


 色々考えていると、妖精さんが花に集まって来た。

 青や赤や黄色の花、もちろんあのうす桃色のサクラのような花も。

 それらの花は、キラキラと光っている。

 妖精さんたちがそれらの花に群がり、さらにキラッキラに。

 夕暮れ時の丘に、光が舞い踊る。


 ……とても幻想的で、美しい光景だ。


「おお~、すげえきれいだな~」

「おはながキラキラ、ようせいさんもキラキラとか、すてき」

「なける」


 村のみなさんも、その光景をみてうるうるだ。

 彼らも自分たちの故郷とそっくりな森が出来たとき、とても嬉しそうだったからね。

 あきらめていた故郷の一部でも、取り戻せたときの気持ちはよくわかるのだろう。

 おっちゃんエルフとか、号泣しているくらいだ。鼻水は拭きましょうね。


「タイシ~、このちょうしで、おはなたくさんさかせるです?」


 妖精さんが喜ぶ様子を見て、ハナちゃんもっと花を咲かせようと思ったようだ。

 ただ、ちょっと待った方が良い。


「あ、いや……それはちょっと待った方が良いかも」

「あえ? おはなさかせないです?」


 だって、ここはもうすぐ――冬になるのだから。

 冬になってしまったら……寒くて植物は育たない。

 というか、枯れちゃうかもだ。この辺を懸念していることを、伝えよう。


「ハナちゃん、この村はもうすぐとっても、と~っても寒くなるんだ」

「あえ? さむくなるです?」

「そう。みんなが来た時に最初に説明した、『冬』って季節が来るんだ」

「あや~……そういえばさいきん、さむくなってきたです~」


 ハナちゃんも寒くなってきた実感があるのか、なんとなくわかってくれたようだ。

 これから、どんどん寒くなるという事が。


「それでね、あんまり寒いと植物は枯れちゃったり成長が止まっちゃうんだ」

「あや! かれちゃうです!?」

「そういう植物が多いね。だから……ちょっと様子を見たいなって思う」

「あえ~、そういうことですか~」


 ハナちゃんを含めてエルフたちは、まだこの地域の冬の厳しさを知らない。

 ただ、あと数日でその兆候はわかるはずだ。

 これでは植物はまともに育たないだろうっていうほどの、厳しい季節が来るということが。


 だから、花の栽培はちょっと様子を見よう。大事な種は、温存したい。

 ここで全部撒いてしまって、その後すぐに雪が降って枯れてしまったら。

 ……俺は泣く自信がある。というわけで、様子を見ましょうねと。


「種は大事にとっておいて、ここぞという時ににょきにょきさせよう」

「あい~! わかったです~!」


 妖精さんたちには申し訳ないけど、この地域の冬は尋常ではない。

 シベリア並みの寒さになる。用心に用心を重ねるくらいが、ちょうどいい。

 まあ今日は、これくらいで終わりにしよう。

 あとは夕食を食べて、温泉に入ってぐっすりおねむするだけだ。


「タイシさん、このようせいさんのふねはどうしたらいいじゃん?」


 ん? マイスターが救助隊妖精さんの乗ってきた船を持ってきたぞ?

 そういえばこれ、放置したままだったな。

 いったい誰が持ってきてくれたんだろう?


「あれ? 誰か船を持ってきてくれたんですか?」

「わたしがもってきたの。すてきなフネだったから、ほっとくのもかわいそうとおもって」


 ステキさんがしゅぴっと手を挙げた。

 なるほど、確かにこれを放置したら、可哀そうだよね。

 救助隊妖精さんたちを、ここまで守って運んでくれた船だ。大事にしないと。

 ステキさんにお礼を言っておこう。


「いやいや、気づかなかったので助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。なんだかしまえなかったけど、もってくるぶんにはかるかったので」


 頭を下げると、ステキさんもペコペコ頭を下げる。


「……あれ? いまなんか……」


 日本人のサガが炸裂し俺もペコペコと頭を下げ合っていると、マイスターがなんか地面を見始めた。

 ただ、わりと大きな船を持っているので、足元が見えないようだ。

 持っている船の右から左から、下を覗き込もうとして首を伸ばしている。

 どうしたのかな?


「どうされました?」

「いや、いまなんか、フネからおっこちたような」

「何かが落ちましたか?」

「……う~ん、なんかがおっこちて、あしにあたったきがした」


 何かが落っこちて、足に当たった気がしたと。

 ……マイスターの足元を見てみる。土しか見えない。

 ハナちゃんと一緒に土をほじったときに出来たとおぼしき、盛り土があるくらいか。


「何もないですね」

「……やっぱ、おれのきのせいだったみたい?」

「それっぽいですね。何も落ちていませんので」


 何にも見つからないので、多分気のせいかもだね。

 ――おっと、それより船の扱いだ。

 正直どうしたらいいかわからないので、妖精さんに聞いてみよう。


「君たち、この船はどうしたら良いかな?」

「つかいみち、ないかな? ないかな?」

「どうしましょ~」

「ほっとくのも、もったいない? もったいない?」


 妖精さんたちも、どうするかは特に考えていないようだ。

 ……あれだ、記念に飾っておくか。とりあえず集会場に飾ろう。


「それじゃあ、この船は飾り物として使って良いかな? みんなが見られる場所に、大事に飾るよ」

「かざるの? ……それはいいね! いいね!」

「だいじにしてね! だいじにしてね!」

「こんど、みにいきましょ~」


 飾るのは問題ないようだ。それじゃ、大事に飾っておこう。

 この船は、救助隊妖精さんたちの勲章だからね。

 妖精接着剤でガチガチに作ってあるから、長期間この姿を維持できるんじゃないかな?

 妖精ちゃんの羽根を補修したコスモスも、なんかずっと維持できているし。


「飾ったら場所を教えるから、見に来てね」

「ありがと! ありがと!」

「みにいくよ! みにいくよ!」


 これで船の行き場も決まったから、あとは飾るだけ。

 あとで集会場に寄って、棚の所に飾ろう。


 ――さて、これで今日の作業と決めごとは終了だ。

 もう良い時間だし、船を飾り終わったら夕食を食べるとするか。


「ハナちゃん、今日はこれ位にして夕食にしよう。もう良い時間だから」

「あい~! きょうはカレーです~! たのしみです~」


 今日の献立を思い出したのか、ハナちゃんの頭の中はもうカレーでいっぱいだね。

 それじゃあお肉たっぷりの、美味しいカレーを食べましょう!



 ◇



 そして翌日。


「――あややややや! おはなたくさんです~!?」

「ええ……?」


 妖精さん居住区の丘に――沢山お花が咲いていたでござる。

 それを見たハナちゃん、「あえ~? あえ~?」と右に左にわたわたしている。

 だって、身に覚えがないだろうからね。

 俺だって、こうなるとは微塵も思っていなかった。俺もぽかーんだよ。


 妖精さん居住区は一面お花だらけになっていて、なんかここだけ春みたいな咲きっぷり。

 待って、ちょっと待って。何これ何が起きたの?


「おはながいっぱい! うれしいな! うれしいな!」

「おだんごつくりまくり~」

「こねましょ~」


 妖精さんたちは大喜びで、もうお団子を作り始めているし。

 いやいや、何がどうしてこうなった。


 ……昨日はハナちゃんちでカレーをごちそうになって、温泉に入って集会場で寝て。

 そして朝起きたら、妖精さんがきゃいきゃいと俺とハナちゃんを呼びに来た。

 えらい喜びようなので、何かと思って妖精居住区に来てみたわけだ。


 そしたらもう――お花が満開!

 度肝を抜かれた……。


「あえ~……タイシのきづかい、こっぱみじんです?」

「そうなるね。いや、自分が浅はかだったよ……」


 あれだね、油断したね。そういやこれ……異世界の花だった。

 異世界の花が、そんな簡単な相手なわけがないよね。


 ……。


 ――あっはっは! 笑うしかない。


「タイシ、このおはな、どうするです?」

「もう咲いちゃったのだから――思いっきり喜んじゃおう!」


 起きてしまったことはしょうがない。それより、花畑が出来たことを喜ぼう!

 だって、すっごい綺麗な花畑なのだから。喜ばないと、損するよこれ。


「よろこんじゃうです?」

「そうそう、妖精さんと一緒に、喜んで楽しんで、満喫しよう」

「それがいいかもです~!」


 ハナちゃんも、だんだん流されてきた。

 もう考えるだけ無駄だから、それで良いよね!


「うっわ~、すげえおはなばたけ、できてんじゃん」

「あるいみ、どこかでみたこうけい」

「タイシさんちのとち、どんどんうめつくされていく」


 俺とハナちゃん、そして妖精さんがワーキャー騒いでいると、他のみなさんもやって来た。

 そうだね、ある意味どこかで見た光景だね。

 予想できて、しかるべき光景だったのだ……。


 妖精花は、エルフ世界では弱々しく芽も出さなかった。

 そんな植物だったから……弱いって思いこんじゃったのですよ。

 そう思い込んだ俺が、やらかしたのでござるよ。


 いやでもさ、昨日あれほど苦労したのは何だったのと。

 妖精世界の植物、呆れるほどしぶといじゃん。

 隙あらばって感じで増えてるじゃん。


「ほんじゃ大志、花も満開になったことだし、花見すっか」

「大志さ、俺はもう慣れたよ」

「実は私、ちょっとこうなるの期待してました」


 高橋さんが花見を提案し、親父とユキちゃんはなんか慣れてしまっていた。

 ちたま人たち、だんだん異世界植物のしぶとさに耐性が付いてきてるね。

 ユキちゃんとか、こうなるの期待してたとか……実は気づいてて指摘しなかったぽいぞ?


 ……目の前の事に集中しすぎて、お約束を忘れてたんだな、俺。

 これは反省しなきゃだな。


「おはなみするなら、じゅんびしようぜ」

「おれもてつだう」

「わたしは、おりょうりのじゅんびするわ~」


 エルフたちも慣れたもので、みんな準備のために動き始める。

 植物が大増殖しても、なんか動じなくなった。


「ばうばう?」

「ギニャ~」

「ミュ?」


 賑やかになったのを聞きつけて、森の動物達もやってきた。

 花の匂いを嗅いだり、つんつんつついたりしているね。

 動物たちも来たから、賑やかになるね。


「タイシ~、おはなみするです~」

「そうだね。お花見しようね」


 お花見と聞いて、ハナちゃんわくわく顔だ。

 もう、細かいことは気にしないでおこう。

 それじゃ、俺もお花見のために食材を調達してこようか。


「自分はお花見の食材を調達してくるよ」

「ごちそう、たのしみです~」


 ということで、開き直ってとことんお花見を楽しみましょう!


「あ、トウモロコシたくさんもってくるから、楽しみにしててね」

「ば、ばう~!」

「ギニャニャ~」

「ピヨ!」

「え? え?」


 トウモロコシを持ってくると言ったら、動物達は大喜びだ。

 それじゃあ調達に――ん?


「ばう~」

「ギニャ~」

「ピピピ」

「キャ~ン!」


 あれ? 動物たちが群がってきたけど。

 あ、いや。ちょっと待って、ちょっと待って。

 嬉しいのは分かるけど、ちょっと待って――。



 

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