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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十二章 この世界に存在しない花
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第十二話 この世界に存在する花へ


 ここはとある世界のとある花畑――だったところ。

 洪水で沈んでしまったその場所に、五人の妖精さんがいました。


「みんなー! どこなの! どこなの!」

「いたら返事して! 返事して!」

「助けに来たよ! 助けに来たよ!」


 お花で作った、妖精さんにとっては大きな船。

 色とりどりのおっきなお花の花びらを貼り合わせて作った、結構しっかりした船です。

 そして明かりを採るためか、ほんのりと光るお花が真ん中に立てられています。


 妖精さんたちはこの船に乗って、洪水に沈んだ花畑をちゃぷちゃぷ進んでいきます。

 取り残された仲間を探すため、葉っぱのオールで一生懸命船を漕いで。

 一生懸命、声を張り上げて呼びかけながら。


「返事がないの~……」

「ここにはいないの? いないの?」

「もう一回、呼びかけよ! 呼びかけよ!」


 ……しかし、どれだけ呼びかけても返事はありません。

 妖精さんからすると、とってもとっても大きな、この水たまり。

 どれだけ探しても、逃げ遅れた人達は見つけられませんでした。


「みんなー! 食べ物いっぱい、持ってきたよ! 持って来たよ!」

「お団子いっぱい、持ってきたよ~!」

「どこなの? どこなの?」


 それでも妖精さんたちは、あきらめません。一生懸命、呼びかけます。

 妖精さん達が乗った船には、葉っぱで包まれた大きな荷物が積まれていました。

 それも沢山の荷物が。その葉っぱで包まれた荷物の中身は、たくさんの食糧。

 別のお花畑の妖精さん達と協力して、いっぱい食べ物を集めたのです。


「お腹空いた……」

「休憩しましょ! 休憩しましょ!」

「体力付けなきゃ、探せない~」


 ずっと呼びかけて疲れた妖精さんたち、いったん休憩です。

 ごそごそと葉っぱの包みを探して、アーモンドのようなものを取り出しました。


「甘くはないけど、がまんだよ! がまんだよ!」

「保存食、食べましょ~」

「食べられるだけ、ずいぶんマシ~」


 ポッケから取り出したアーモンドのような何かを、コリコリかじる妖精さんです。

 どうやら、美味しくは無さそうですね。


 甘い物も我慢して、仲間を探します。



 ◇



「見つからない~」

「みんなどこなの? どこなの?」

「どうしよう~……」


 妖精さんたち、仲間を探してもう三回もお天道様が隠れました。

 おっきなまあるいお星さまが、お天道様を隠します。

 地球の早朝のような薄暗い中、船の真ん中に立てたお花と妖精さんの羽根がぽわっと光っています。

 そして光のある存在は、この場所には他に見当たりませんでした。


「次はあっちに行ってみよ! 行ってみよ!」

「食べ物沢山、まだやれる~」

「探しましょ! 探しましょ!」


 まだまだ諦めきれない妖精さんたち、捜索を続行します。

 船に乗って、葉っぱのオールをこぎこぎ、別の場所に向かおうとします。

 ただ……みんなの顔には、疲れが見え始めました。

 限界は、近いかもしれません。


 そうして疲れた顔を見せながらも、一生懸命船を進めていると……。


 ――コツン、と。船に何かがぶつかりました。


「なにか当たったよ! 当たったよ!」

「何だろ? 何だろ?」

「見てみましょ! 見てみましょ!」


 妖精さんたち、船から下をのぞき込みます。


「あれれ? 何にもないよ? 何にもないよ?」

「気のせいかな? 気のせいかな?」

「何にもない~」


 しかしのぞき込んで船の周囲を全部調べましたが、何もありませんでした。

 妖精さんたちは首を傾げます。


「これ以上は、調べるの無理ね! 無理ね!」

「行きましょ! 行きましょ!」

「そうしましょ~」


 妖精さんたち、何も無いので調査を諦めました。

 また葉っぱオールを一生懸命漕いで、再び船を進め始めます。


 ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ。

 水に沈んだお花畑、そして薄暗いなか、船を漕ぐ音だけが響きます。

 妖精さんたちを照らすお花の光も、だんだん弱くなってきました。

 そんな寂しい雰囲気の中、妖精さんたちの口数も……だんだん減って行きます。


 結構長い時間、そんな状態のまま移動して――ようやく目的の場所に到着出来ました。


「みんな~! どこにいるの! どこにいるの!」

「助けに来たよ! 来たよ!」

「返事して~!」


 さっそく妖精さんたち、声を張り上げて呼びかけます。

 しかし――。


「ここもだめ~」

「見つからない~」

「どこなの……」


 ――誰も、居ませんでした。これだけ探しても見つからない。


「どこに行っちゃったの~……」

「誰もいない~」

「まさか? まさか?」


 ……妖精さん達の脳裏に、あまりよろしくない想像がよぎりました。

 よくない想像をしてしまったせいか、妖精さんたちはガックリ膝をつきます。

 もう、限界なのでしょうか……。妖精さんたちに、沈黙が訪れます。


 気力も体力ももう限界で、これからどうするかを――考えなくてはいけない段階になりました。

 疲れているせいか、羽根もなんだか透明になってきています。

 船の真ん中に立てた光るお花も、しなびてしまってもう光りません。

 今はもう、妖精さんたちの弱まった羽根の光だけが……ぼんやり光っているだけでした。


 どこを探しても見つからず、疲れ切って羽根の光も弱まって。

 もう妖精さんたちに残された時間は……それほど無いようです。


「これから、どうしよう……」


 一人の妖精さんが、ぽつりとつぶやきます。

 しかし、その呟きに返事は返ってきません。しばらくの間、沈黙が続きました。


 ――その時の事です!


「……変な音、聞こえるよ? 聞こえるよ?」

「雨みたいな、変な音?」

「なんだろ? なんだろ?」


 何やら、音が聞こえているようです。

 みんなが沈黙したから、周囲の音が耳に入ったのでした。

 妖精さんたちは耳をぴこぴこ動かして、どこから音がしているのかを探します。


 そして――妖精さんたちは気づきます。


「――私達、流されてるよ! 流されてるよ!」

「あっちの方に、流される~!」

「疲れて飛べない~! 漕がなきゃ! 漕がなきゃ!」


 変な音が聞こえたかと思ったら――船が流され始めました!

 もう疲れて飛べない妖精さんたち、一生懸命に葉っぱオールを漕ぎます。


「どれだけ漕いでも、流される~!」

「これはヤバイよ! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ!」

「凄い勢いだよ! 逆らえないよ!」


 突然起きた事態に、妖精さんたち大パニック!

 慌てて葉っぱオールをみんなでこぎこぎして、流れに逆らおうとします!

 でも、ちいさなちいさな妖精さん達の力では――逆らうことができませんでした。


 流されていくお花の船、その流される先には――水を吸い込む何かが!

 その何かは――ものすごい勢いで水を吸い込んでいます!

 この訳が分からない異常現象を見た妖精さん、さらに大パニックに!


「キャー! 飲み込まれるー!」

「助けて! 助けて!」

「キャー! キャー!」


 しかし妖精さんたちの懸命の抵抗もむなしく、お花の船はどんどん流されます。


「キャー!」


 やがてその船は、水を吸い込む何かに――飲み込まれてしまいました。



 ◇



 ここはとある世界の、とある洞窟の近く。

 エルフ観光客が集まって、とある催しの開始を待っていました。


「そろそろかな~」

「あ、神様が飛んできた」

「いよいよね!」


 神輿がほよほよ飛んできて、催しの始まりを知らせます。

 そして洞窟の前に来た神輿がくるくる回り、ぴかっと光ると開始の合図。

 洞窟から――大量の水が出てきました!


「始まったぞ~」

「何回見ても、凄え~」

「写真撮らなきゃ!」


 ゴウゴウと洞窟から流れ出る水に、エルフ観光客たちは大はしゃぎ!

 珍しい現象を楽しみます。


「あ、ホットケーキ下さい」

「はいなの」


 催しの最中は屋台も出て、美味しい物を食べながら見られます。

 わいわいキャッキャと、にぎわっていました。


「神様、これはお供えです」

「これもお供えするわ」


 見物客からはお供えが差し出され、ぴかっと消えていきます。

 お供え物が消えるたび、神輿の光が強くなります。

 排水事業、順調そうですね。


 排水事業中は、いろんなものが流れてきます。

 ダイヤの原石、灰色のお花、タダの石ころ、そして――。


「キャー!」

「なんか変なところに出たー!」

「キャー! キャー!」


 ――お花の船に乗った、ちいさなちいさな存在たちも。



 ◇



「タイシ~、こっちにもダイヤあったです~」

「お、それはなかなかおおきいね。いいものみつけたね」

「あい~!」

「あ、こっちにもありましたよ。おおきいげんせきが」


 洞窟から離れた、湖の近く。

 そこでは、大志とハナちゃん、そしてユキちゃんが原石拾いをしていました。

 宝石魔女さん達に提供するための、ダイヤ集めですね。

 その後ろでは、三人を乗せてきたボスオオカミが……飴玉をもぐもぐしています。

 とってものどかな光景ですね。


「結構沢山、あつまったです~」

「これくらいあれば、だいじょうぶかな?」

「もんだいないとおもいます」

「ばう~」


 なかなかの収穫に、ほくほく顔の三人です。

 ハナちゃんは大志に褒められて、ホックホク。

 ユキちゃんはお友達の魔女さんが喜ぶ顔を想像して、ホックホク。

 大志は温泉施設が充実出来そうで、ホックホク。

 ホクホク三人組なのでした。


 そんな三人の耳に、水が流れる音が聞こえてきました。


「あ、もうはじまったみたいだね」

「神様、頑張ってるです~」

「みずがながれてきましたね!」


 神様が妖精世界から排水している水が、流れてきました。

 この事業のおかげで、色んなものを拾いたい放題です。

 神様に感謝ですね。


「いろんなものが、流れてくるです~」

「きょうは、なんだか……おはながおおいね」

「また、ダイヤがながれてくるとうれしいですけど」


 川の水量が増えるので、三人は素早く後ずさります。

 そのまま、川が流れる様子をのんびり眺めることにしました。


 さばざばと水が流れる様子を、ただぼ~っと眺める三人です。

 しかし、数分くらい経った時のこと――。


「……あえ?」


 ――ハナちゃんのお耳が、ぴこっと立ちました。

 どうしたのでしょうか?


「タイシ、なんか声が聞こえるです?」

「こえがきこえる? なんのこえかな?」

「なんかキャーキャー言ってる声です~」

「キャーキャー?」


 ハナちゃんは何か聞こえたようですね。キャーキャー言ってるそうです。

 大志は聞こえていないのか、首を傾げました。


「あや! 近づいてくるです~」

「どっちのほうこうから?」

「あっち! あっちです~!」


 キャーキャーという声が近づいてきているらしく、大志に聞かれたハナちゃんは……あっちの方を指さしました。

 その方向は、川の上流――洞窟の方です。


 そして――。


「キャー! キャー!」

「知らないところ! 知らないところ!」

「なんかおっきなのがいる~! 食べられちゃう! 食べられちゃう!」


 ――なんだか良くわからない物が、流れてきました。


「……あえ?」

「いまの、なんだろう……」

「ようせいさん?」

「ばう?」


 キャーキャーと、パニック状態の妖精さんを乗せた何か。

 そんな何かがどんぶらこ、どんぶらこと流れて行きました。

 そしてそれを見送る、三人とボスオオカミ。

 ぽかーん状態です。


 やがて、その何かは……湖の方へと流されていきました。


「……とりあえず、ながされたほうにいってみよう。みずうみだね」

「わかりました、いってみましょう」

「行くです~!」

「ばう」


 わけが分からないなりに、大志は行動を始めます。

 キャーキャーと流されていった、謎の妖精さんたちを追いかけはじめました。

 大志の後に続く、ハナちゃんとユキちゃん、そしてボスオオカミです。


 やがて大志たちが追いつくと、流されてきたなんかは――湖のほとり、地上に打ち上げられていました。

 そして、そのなんかの上には……。


「おっきなの来た! おっきなの来た!」

「キャー! 食べられちゃう! 食べられちゃう!」

「助けて~!」


 五人の妖精さんが、抱き合ってキャーキャーぷるぷるしていました。



 ◇



「甘いお団子! 美味しいね! 美味しいね!」

「お団子、こね放題~」

「お腹いっぱい! お団子いっぱい~!」


 お花の船の上で、ぷるぷる震える妖精さんたち。

 そんな妖精さんに、大志はお団子の材料を振る舞いました。

 リザードマンが運営する湖畔の休憩場に、食材が沢山ありますからね。


 その材料で大喜びでお団子をこねて食べる妖精さん、もうすっかり心を許しています。

 ……ちょろい子たちですね。チョロフェアリーです。

 ものすごい勢いでお団子を作っては食べ、作っては食べする妖精さんたちなのでした。


「タイシ、この妖精さんたち……知らない顔です?」

「きているふくが、まずちがうね。おはなでつくったふくをきているようせいさんは、むらにはもういないはずだ」

「……むらのようせいさんたちとは、ちがうかんじですね」


 大喜びでお団子を食べる妖精さんたち観察しながら、大志たちはひそひそ話です。

 どうやら、村にいない妖精さんのようですね。

 大志の言うとおり、村の妖精さんは既にお花で作った服を着ていません。

 流石に、お花の服はもうしなびてしまいました。

 村の妖精さんたちは、みんな高級コットンの服に切り替わっていたのです。


「ユキちゃん、ちょっとむらから、ようせいさんをよんできてほしい」

「わかりました! すぐにいってきます」

「はいすいさぎょうは、もうおわってるじかんのはず。どうくつはつかえるとおもうから」

「はい!」


 テキパキと指示をする大志は、普段は見せない責任者としての顔つきです。

 大志はユキちゃんに、妖精さんを招集してもらうようですね。

 そして大志の顔つきを見て、ユキちゃんもテキパキ行動し始めました。


「オオカミさん、頼むです~」

「ばう」

「では、いそいでむかいます!」


 大志に指示されたユキちゃんは、ボスオオカミに飛び乗ってすぐさま村に向かって行きました。

 ボスオオカミは全力で走ってくれているので、すぐに帰ってくることでしょう。


「ちょっといいかな? きみたちはどうやってここにきたの?」


 ユキちゃんが妖精さんたちを呼びに行っている間に、大志は聞き取りをするようですね。

 どこから来たのか、質問です。


「わからないよ! 流されちゃったよ!」

「仲間を探していたらね! 流されちゃったの! 流されちゃったの!」

「お水を吸い込むなんかに、飲み込まれたの! 飲み込まれたの!」


 妖精さんたちも良くわかっていないので、説明が難しそうですね。


「みずをすいこむ、なにか……。もしや、そのへんにどうくつが?」

「タイシ~、もしかしてです?」

「たぶんね。ハナちゃんのおもっているとおりだとおもう」


 ただ、大志は「水を吸い込む」でピンと来たようです。ハナちゃんもですね。

 二人は、洞窟のある方をちらりと見ます。

 そのあと大志は視線を戻し、妖精さんの方に向き直って言いました。


「きみたちはなぜ、ながされちゃったの? なかまをさがしていたらしいけど」

「逃げ遅れたみんなを、探してたよ! 探してたよ!」

「船を作って、探したの! 探したの!」

「でも、見つけられなかったの……」

「どこにもいない~……」


 大志の問いかけに、妖精さんは答えます。

 船を作って仲間を探したけど、見つけられなかったと。

 そして妖精さんたち、自分たちの目的を思い出したのか……しょぼんとしてしまいました。


 しょんぼり妖精さん、羽根の光もしょんぼりよわよわです。

 お団子を作って食べたので、羽根の色は戻ってきました。

 でも心が弱っているのか、光がよわよわ状態です。

 これは、なんとかしないといけません。


「……きみたち、あんしんしていいよ。だいじょうぶだよ」

「みんな、だいじょぶです~。安心するです~」


 大志はだいたい分かったらしく、妖精さんに安心して良いと言います。

 ハナちゃんも、にっこり顔ですね。


「大丈夫? 何が? 何が?」

「安心して良いの? 良いの?」

「何で? 何で?」


 しかし妖精さんはなぜ大丈夫なのか、なぜ安心して良いのかわかりません。

 みんな、きょとんとしてしまいました。


「もうすぐわかるよ。ほら、あっちをみてごらん?」

「ユキ、もどってきたです~」

「きゃい?」


 大志が指さした先には、ボスオオカミに乗ってこっちに向かうユキちゃんの姿が。


「あれれ? あれれ? あっちから大勢来たよ?」

「あれってまさか? まさか?」

「そのまさか?」


 そして――大勢の妖精さんたちの姿も!


「みんながいるよ! みんながいるよ!」

「元気そうだよ! 手を振っているよ!」

「きゃい~! きゃい~!」


 ずっと探していた人たちが、そこにはいました。

 それを見た妖精さんたち、羽根が光り輝きます。

 どうやら、心も強さを取り戻したようですね。


 さあ妖精さんたち、ずっと待ち望んでいた――再会の時間です!



 ◇



「無事で良かった! 良かった!」

「お姉ちゃ~ん! 会いたかったよ! 会いたかったよ~!」

「みんな元気そう! 元気そう!」

「ひと安心~」

「きゃい~! きゃい~!」


 果たして、船に乗って流されてきた妖精さんたち――目的の人に会えました!

 ひしっと抱き合って、無事を確かめ合います。

 嬉しくて、嬉しくて、もう羽根は輝きっぱなしですね。


「ええ話や……」

「あれ? 俺、泣いてる?」

「感動的だわ~」


 村のみんなもやってきて、妖精さんたちの様子をうるうるしながら見守ります。

 自分たちも同じ経験をしただけに、感じるものがあるでしょうね。


「たすけにきたところで、かみさまのはいすいに……まきこまれちゃったようですね」

「結果的には、それが良かったみたいですけど」

「ええ、きいたはなしだと……このこたちも、けっこうあぶなかったようです」

「ギリギリっぽかったです~」


 大志はヤナさんに、事の顛末を説明していました。

 どうやら諦めきれない思いが強すぎて、二重遭難しかかっていたようです。

 神様の排水事業に巻き込まれなければ、救助隊妖精さんもぴんちだったのでした。

 ただ……助けたい気持ちはわかるだけに、難しい所ですね。

 元族長さんと団長さんのように、ある程度訓練された人間でなければ、撤退の判断は本当に難しいことなのですから。


「そんでタイシさん、この子たちどうすんの? 村に住んでもらうの?」

「そうなりますね。どうくつはまだ、つかえませんから」


 マイスターが大志に、新たに表れた妖精さんのこれからについて聞いてきました。

 大志はごく当たり前に、村に住んでもらうと答えます。

 排水が終わるまで、妖精さん世界の洞窟は使えませんから。


「おっし! お家作ろう!」

「俺の自慢の手作りお家、すぐに作るのだ」


 村に住んでもらうという事で、マッチョさんとおっちゃんエルフは気合が入ります。

 おうち作りなら、彼らにお願いするのが一番ですからね。

 妖精さん達が再会に喜ぶ後ろでは、こうして着々と受け入れ体制が整えられていました。

 村に仲間が、また増えますね!


「食べ物持ってきたの! 食べて! 食べて!」

「花粉のお団子、沢山あるよ! あるよ!」

「みんなで一生懸命、作ったの! 作ったの!」

「おひとつどうぞ~」


 そうして大志たちが受け入れ体制を整えていると、救助隊妖精さんたちはきゃいきゃいと荷解きを始めました。

 甘い物を我慢して運んできた、援助物資です。

 みんなで協力して集めた、故郷の食べ物。

 探していたみんなに、食べて欲しいのですね。


「花粉のお団子! ありがと! ありがと!」

「このお団子、久しぶり~」

「美味しい~」


 援助物資を貰って、きゃいきゃい大喜びの村の妖精さんです。

 さっそく、食べ物を受け取ってもぐもぐ。

 懐かしい故郷の味、心に染みわたります。


「私たちも、食べよ! 食べよ」

「こっちは保存食~」

「凄くたくさんあるからね! もったいないからね!」


 村の妖精さんが故郷の味にじーんとしている中、救助隊妖精さんは保存食を取り出します。

 美味しい物は人にあげて、自分たちはあんまり美味しくないものを食べる。

 ほんとに良い子たちですね。

 ……でも、さっきたらふく食べたのでは? また食べるの?


「これはこれで、悪くないかも? そこそこイケるかも?」

「なんか、慣れてきた~」

「食べられなくは、ないよね! ……ないよね?」


 アーモンドみたいな保存食を、カリカリかじる救助隊妖精さんです。

 そしてなんだか、味に慣れてきた模様です。

 ありますよねそういうの。

 乾パンとか、食べ慣れると意外と悪くないものです。


 しかし、それを見た大志は首を傾げます。


「……ん? きみたち、もうがまんするひつようは、ないんだよ?」


 もう保存食を、我慢して食べる必要はないですからね。

 大変な思いをして救助に来てくれたのですから、なるべく良い物を食べてもらいたいとの思いがあります。


「保存食だけど、残すともったいないから~」

「食べちゃうよ! 食べちゃうよ!」

「ものすごい沢山、持ってきたの~」


 我慢する必要はないと言われた妖精さんですが、もったいないとの事。

 大事な大事な食料ですからね。これのおかげで、長期間の捜索が可能となった物です。

 余らせないで、全部食べちゃうつもりのようでした。


「ほぞんしょくなんだ。……ちなみに、それはいったいなにかな?」


 そして「保存食」と聞いた大志は、どうやら好奇心が沸いたようです。

 救助隊妖精さんたちが食べようとしている「保存食」をのぞき込みました。


「興味あるの? 見せてあげる! 見せてあげる!」

「た~くさんあるよ! これとか! これも!」

「こっちは全部、保存食~」


 大志が興味を持ったのが分かったのか、妖精さんたちはきゃいきゃいと「保存食」を見せてくれました。

 手に持っている物だけでは無く、お花の船に積んである葉っぱの包みを開けて見せてくれます。

 その包みの中には、つぶつぶがたくさん、た~くさん入っていました。

 アーモンドのような「保存食」の他にも、たくさん似たような保存食があるようです。


「――ん? これは……え!?」


 様々な「保存食」見た大志、ぷるぷる震え始めました。

 どうやら――何かに気づいたようです。


「……ね、ねえきみたち、これってもしかして――」


 大志はぷるぷる震えながら「保存食」を指さして――。


「――もしかして、『タネ』じゃない?」


 そう問いかけました。


 救助妖精さんがかじっている、アーモンドのようなもの。

 そしてお花の船にたくさん積んである、「保存食」という名の黒いつぶつぶ。


 それは――何かの種。


「そうだよ! お花の種だよ! 長持ちするの! 長持ちするの!」

「あんまり美味しくは無いけど、食べられるよ! 食べられるよ!」

「たくさん持ってきた~」


 きゃいきゃいと他の包みを開ける妖精さんたち、そこには……まだまだ大量の、種がありました。

 妖精世界の――お花の種です!


「き、きみたち……。それをゆずってもらうことって、できるかな?」

「美味しくないよ? 良いの? 良いの?」

「欲しいなら、全部あげちゃうよ! あげちゃうよ!」

「慣れてくると、まあまあ食べられる~」


 妖精さんはあくまで、「保存食」として考えているようです。

 こころよく、お花の種をあげちゃうつもりですね。

 大志はぷるぷる震えっぱなしですが、その顔は――何かを期待する表情です。

 だって、思いがけず得られた、千載一遇のチャンスなのです。


 期待して、あきらめかけていた……大志の思い。

 それが――実現、出来るかもしれないのですから!


「ハナちゃん」

「あい~!」


 お花の種を貰い受けた大志は、ハナちゃんに呼びかけます。

 ハナちゃん、じょうろとスコップを取り出して、準備万端。

 ハナちゃんも、大志が何をしようとしているか……わかっているようですね。


「これをつかえば……もしかして」

「あい! もしかするです~」

「わたしもおてつだいします! ワクワクしますね!」


 大志、ハナちゃん、ユキちゃんの三人は、じっとお花の種を見つめます。

 これがあれば……不可能が、可能になります。


 この世界に存在しない花を――この世界に存在する花へ。

 そんなことが、可能になるかも!


 さあ、みんなで協力して――いろんなお花を咲かせましょう!



 ◇



「じゃあハナちゃん、まずはここでためしてみようか」

「ためすです~」


 タイシとハナちゃんが、早速行動を始めました。

 みんなもその周りに集まって、見守ります。


「……」


 ……そこからちょっと離れた、湖のほとり。

 救助隊妖精さんが乗ってきたお花の船が、打ち上げられています。

 そしてその船の、後ろ側。みんなから見えない場所――。


「……」


 ――船底の部分に、何かがくっついています。

 ちっちゃいなにかが、わさわさと動いているような。

 あれれ? これ、大きさはちっちゃいけど、どこかで見たような……。


 ……みんな、気づいてないけど大丈夫?

 何か、変なのも来てますよ?


これにて今章は終了となります。

みなさま、お付き合い頂きありがとうございます。

次章も引き続き、お付き合い頂ければと思います。

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