第七話 なんだか、似てるやつ
でかいダイヤモンドを、作っちゃったでござる。
「……まさか鉱石をこねて、さらにまとめる事ができるなんてな」
「このダイヤ、ほんとでけえよ。末端価格いくらだろ」
「正規ルートでは売れませんけど……でもこの大きさ! 素晴らしいですね!」
ちたま人はみんな、澄み切ったまなざしだ。
大き目のビー玉くらいの大きさにしたダイヤモンドを、欲にまみれ――おっと! 曇りなきまなこで見つめている。
ただユキちゃんの言うとおり、正規ルートじゃ売れない。
だって鑑定書ないからね。めっちゃ怪しまれるどころか、通報ものだ。
鑑定書をもらおうとしても危ないかも。
「やくだてた? いいかんじ?」
こねこねしてくれた妖精ちゃんは、役立てたかどうか知りたいみたいだな。
ちゃんと役立ってるよって、伝えてあげよう。
「この特技はすごいよ。かなり役立ってるね」
「きゃい~!」
妖精ちゃん、きゃいきゃいとよろこんでキラッキラだね。
いやいやこちらこそ、お手伝いありがとうございますだ。
「それにしても大志、こんなでかいの作ってどうすんだ?」
「さすがにこれは……表に出せないだろ?」
高橋さんと親父が、この巨大ダイヤについて用途を聞いてきた。
実は、一つ考えていたことがある。
こういうのを、出自を気にせず買う人は……心当たりがある。
そんなわけで、その心当たりと関係のある――ユキちゃんにお願いしよう。
「このダイヤについては……ユキちゃん経由で――魔女業界に噂を流してほしいな」
「え? 魔女さん業界ですか?」
「そう、魔女さん系。宝石を使う魔術とか、使い手はいるはずだから」
「それ系の人はたいてい、宝石にお金が出て行って貧乏っぽかったですよ。知り合いはカニカマがごちそうって言ってましたから」
カニカマがごちそう……。ま、まあ頑張ってくださいだ。
ユキちゃんは魔女業界の実態をそれなりに知っているのか、いろいろ指摘してくれる。
ただ、宝石を買うお金はあるわけだ。それなら、大丈夫じゃないかと思う。
「宝石を買ってなお、生活できているのなら大丈夫だとは思うけど」
「まあ確かに、宝石を買うお金はありますからね。収入はわりとある方ではと」
だよね。所得自体が低いわけじゃなくて、可処分所得のほとんどが宝石代なだけだよね。
だから、お金自体はあるわけだ。
「そんなわけで、それ系の人に噂を流せば……」
「食いつきますね、間違いなく」
「設定額は……相当安く。宝石系魔術の使い手なら、転売はしないはずだから」
「え? それで良いんですか?」
相当安くするというと、ユキちゃん目を丸くする。でも、これにはわけがある。
「ちょっと考えがあってね」
「考えというと?」
「その魔女さん? 魔女さんたち? にお礼をしたいと思ってね」
「え? お礼ですか? 大志さんが魔女さんの業界にお礼をする理由、ありましたっけ?」
ユキちゃんは首を傾げてしまったけど、確かに直接的には接点は無い。
だから、直接的接点がないという理由なら、お礼をする理由も無い。
でも……うちはそれ系の人たちに、かなりお世話になっている節がある。
たとえば、増幅石の加工だ。魔女さん系の技術で加工されている形跡がある。
ここらで指摘しておくのも、今後の関係のために必要かな?
ぶっちゃけて聞いてしまおう。
「増幅石の加工とかさ……それ系の技術入ってるよね。あの加工済みの石に、ギリシャ語入ってるし」
「え!? なぜそれを!?」
「ちょっと調べたんだ」
指摘すると驚くユキちゃんだけど、俺だってそれなりには見えて聞こえる人だからね。
巫女ちゃん程ではないけど、まあまあ見えちゃうわけだ。
佐渡の時に大量生産したあのアレな石を、ちょこっと調べたら色々見えちゃったわけで。
「この体系って、ユキちゃんちの本流じゃないでしょ?」
「そこまで……」
「うちだって、伊達に神秘と触れ合っているわけじゃないからね」
高橋さんの腕についている石を指さして言うと、ユキちゃんびっくり状態だ。
うちは異世界にまつわる、わけわかんない現象を相手にしているわけでね。
それに比べれば、ちたまのアレ系はまだわかりやすい方だ。
歴史を学べば、ある程度推測できるのだから。自宅から出ずとも調査が出来てしまう。
「うちはこの加工技術にかなりお世話になっている。だから、ユキちゃんを通じてお礼をしたいなと」
「そういう考えだったんですね」
「それに、お安く提供できれば……ユキちゃんちも魔女さんとの関係強められるんじゃない?」
「え、ええまあ……感謝はされると思います」
「なら、それでいいと思う」
イーブンな取引も、それはそれで良いとは思う。
でもこういう臨時収入があって便宜を図れるのなら、やっておいた方が良い。
いずれ別の形で、返ってくるのではないかと思う。
「話を聞いた限りじゃ親しい関係だと思うから、思いっきりディスカウントして良いよ」
「……ありがとうございます。うちも助かります」
「こちらも世話になっているからね。お互い様だよ」
ユキちゃんちが魔女さん系と関係があるのは、今までの話で大体わかる。
というかカニカマがごちそうなんて、よほど親しい人じゃなきゃ話さないよ。
それこそ親友クラスとか、昔からつながりがあるとか、なんにせよ親しい間柄だ。
そういうつながりがある人の助けになれば、加茂井家だって助かるだろう。
俺の家としても、今までお世話になっている人たちへの恩返しになる。
「では……それなりに買えそうな程度、の額にしてしまいますね」
「それで良いよ。お金より、そういう関係の方が大切だから」
「そうですね! ……とはいえ、そこそこの金額にはなりますけどね」
「その辺は専門家にお任せしますだね」
ということで、お金儲けはほっぽって関係構築の方に注力だ。
平時にきちんと良い関係を築けていれば、有事の際に頼りにできる。
それが起きるかもわからないけど、しておいて損は無い。
「……なあ大志、お安く売るのは良いんだけどさ。その金でなんかする予定とかあるか?」
ユキちゃんと商談していると、高橋さんがちょいちょいとつついてきた。
売れないダイヤを、確実に売れるようにしたわけだ。
収入が得られるわけで、用途も気になるよね。
さしあたっては……。
「大いなる野望はあるよ。でっかい野望」
「――大いなる野望か! どんなんだ?」
高橋さん、野望と聞いて前のめりになる。
それでは、俺の野望をお教えしましょう!
「その野望とは――今拡張している温泉を、建屋で囲むこと!」
「ちっちゃ! 野望ちっちゃ! 何だよそのささやかな目標!」
いやいや、大いなる野望だよ! ささやかじゃないよ!
手作り露天が、普通の温泉施設になるんだから。
今はあまりお金をかけられないから、コツコツやって時間がかかっているわけで。
「ちなみに発注は高橋さんとこだけど」
「まいどあり。確かに大いなる野望だ。さすが大志だ」
手のひらクルリの高橋さんだ。これで重機は買えるから良いよね。
まあ、残ったお金は冬に必要な装備代金として使うけど。
どのみち、すぐになくなっちゃうだろう。悪銭身につかずってね。
ただ……これで魔女さん系と良い関係を築けたなら、それだけは消えない。
俺はそっちのほうを、大事にしたいと思うわけだ。
なにせ、うちの相手は――異世界だ。お金じゃ解決できないことが、山ほど出てくる。
そういう状況になったとき、こうして作っておいた関係が活きるはずだ。
常に未来に投資しないと、この仕事はやっていけない。
◇
ダイヤモンド騒動が一段落して、村には平穏が戻った。
というか、ちたま人だけが騒いでいたような気もする。
「かわいいふくを、つくりましょ~」
「どうぐがふえて、こうりつてき~」
「たくさんたくさん、つくりましょ~」
素材提供によって、こっちの裁縫道具をコピーした妖精さんだ。
ちっちゃなダイヤモンド製の道具を駆使して、かわいい服を作っている。
俺が本来したかったことは、ちゃんと実現できたね。
「あや! ハナのおようふくのちっちゃいやつです!」
「妖精さんたち、前と同じでハナちゃんのお洋服を参考にしているんだね」
「すごいです~」
妖精さんたちはハナちゃんが来ていた洋服もコピーして、きゃいきゃいとお裁縫だ。
人形用みたいな、ちいさな洋服が出来上がっていく。
前作っていた洋服もそうだったけど、なかなかの出来映えだ。
なんでもミニチュアサイズの妖精さん作品、ハナちゃんも興味深げに見ているね。
「わたしも、まけていられませんね」
「お、新しい洋服ですか」
「ええ、ハナのおようふく、しんさくをつくりますよ!」
「おとうさん、ありがとです~」
ヤナさんもそれに刺激されたのか、新しいハナちゃん用の洋服を作るようだ。
無理せずぼちぼちと、作っていって下さいだね。
これから寒くなってくるから、冬向けの子供服にしたほうが良いかもだけど。
「おようふく、たのしみです~」
「がんばってつくるからね」
「あい~!」
ひと騒動終えた後の、まったりした時間。
ハナちゃんたちと、のんびりお茶を飲んで過ごしたのだった。
◇
色んな出来事が落ち着いて、時間にも余裕が出てきた。
そんな中、自宅で親父とのんびりテレビをみていた時の事。
『夏に佐渡島で発見された、謎の化石。第一発見者はなんと、旅行客だったのです』
「親父、佐渡の話題だよ」
「どれどれ」
毎週やっている情報番組が流れていて、佐渡というキーワードにちょっと反応してしまった。
そういえば、陶芸おじさんからの手紙に、そんなことが書いてあった。
第一発見者は、旅行客だったんだ。
……これはちょっと、録画しておこう。
メディアサーバーのリモコンは……あった。録画ボタンをぽちっとな。
これで録画開始だ。こいつで録画すれば、色んな機器に転送できる。
超便利な録画マシンちゃんだ。
『発見されたのはこの海岸で、発見者は夏休みの家族旅行で来ていたそうです』
「へえ~。夏休みっていったら、俺たちが行った時期と重なるよね」
「もしかしたら、俺たちが発見者になってた可能性もあるよな」
親父とお茶を飲みながら、見たことのある場所の映像を楽しむ。
化石とか、ロマンあるよなあ。
『これから発見者のかたに、お話を伺いに行きます』
映像が切替わり、タレントさんがレポートしながら町を歩いていく様子が流れる。
そして一軒の――フラワーショップへと、入って行った。
『化石を発見されたのは、このかたです!』
お店に入ったレポーターが話しかけた人は――。
「――親父、この人!」
「ああ、あの人だな」
果たして、テレビに映っていたのは――巫女ちゃんの、お父さんだった。
仕事中なのか、店のロゴが入ったエプロン姿だ。
後ろの方では……巫女ちゃんとお母さんもちらりと映っているね。
間違いない。あの一家だ。
『発見された時は、どう思われましたか?』
『化石になる前は、どんな色をしていたんだろう? きっと綺麗だったのだろうな……と思いました』
まさかの知り合いがテレビ出演! 録画しといて良かった!
後でスマホに動画を転送しておこう。ユキちゃんにも見せないと。
俺と親父がびっくりしている間に、インタビューはどんどん進んでいく。
『うちに帰った後調べてみましたが、まったくわからない。でも気になったので……学生時代の恩師に、便りを送ったのです』
『それが、今回の大発見につながったのですね』
『大発見……なのですかね?』
どうやら大発見だったらしい。
だけど、巫女ちゃんのお父さんは……いまいちすっきりしない顔だ。
なにか引っかかっているような、そんな様子が伝わってくる。
「どうしたんだろうね、もっと喜べばいいのに」
「どうも、乗り気じゃない感じはするな」
親父も、同じことを感じ取ったようだ。
どうも巫女ちゃんのお父さんは……何かが気になっているようだ。
一体なんだろうね。
『それでは、その化石の映像を大公開です!』
やがてインタビューは終了し、スタジオの映像に切り替わる。
大公開と言ってからCMを挟むおなじみの流れの後、その化石の映像が映し出される。
五十インチの画面に、映し出されたそれは――。
「……なんだろ、これ」
「サクラのような、そうではないような」
はっきりとした形をした、花の化石だった。
すべての形が残っていて、化石と言うより……美しい石細工のような。
……なんだろね、これ。
◇
「タイシさん、これっておかねにかえられるのでしたっけ?」
知り合いがテレビ出演事件の翌日、村に出向くと団長さんが一つの石を持ってきた。
手に持っているのは――ダイヤの原石だ。
湖に沈んでいたのは、だいたい拾ってきたはず。
だけど、まだ残っていたのかな?
「これって、湖に潜って取ってきたのですか?」
「いえ? どうくつからあるいてすぐのところに、なんかあったかんじです」
「え? すぐのところですか?」
「はい」
どうやら湖の中だけじゃなくて、他にもあったっぽい。
これはもうちょっと、探してみたほうが良いかもね。
まだあるなら……妖精さんに、もっと素材を渡せる。
「あ、タイシいたです~、これひろったです~」
「なんかおちてましたよ、みずうみにいくとちゅうのところに」
「いくつかありました」
団長さんのダイヤ原石を換金していると、ハナちゃん一家がやって来た。
そしてその手に持っているのは、やっぱり――ダイヤの原石。
なんだ、まだまだあるんだな。
「タイシ~。これ、ようせいさんたちに……あげてもいいです?」
ぽてぽてとやって来たハナちゃんは、原石を妖精さんにあげたいと言う。
ハナちゃんが拾ってきたのは、小さい原石。
だけど、これだって結構な額になるはずだ。
換金すれば良いお金になる。……ほんとに良いの?
「すごくお金になる石だけど、あげちゃっていいの?」
「あい~! ようせいさんたちに、もっとどうぐをつくってほしいです~」
お金より隣人を優先したんだ。これは、なかなか出来る事じゃない。
ここはハナちゃんの意思を、尊重しよう。
「それは、ハナちゃんがしたいようにして良いよ」
「あい~! それじゃ、ようせいさんにあげちゃうです~!」
「偉いねハナちゃん、それは……なかなか出来る事じゃないよ」
「えへへ」
軽く褒めたら、ハナちゃんてれてれだ。
でもね、まだまだ――褒めちゃいますよ!
「偉い子はなでなでしちゃうよ。頭なでまくりだよ」
「うふ~。うふふ~」
「それに偉い子には、何かご褒美をあげちゃおうじゃないか。何が良い?」
「ごほうびです!? なんでもいいです?」
ご褒美をあげると言ったら、ハナちゃんめっちゃ食いついた。
何でもいいと聞かれたけど、出来る事ならね。
「自分が出来る事ならね」
「じゃあじゃあ、ハナときょういちにち、あそんでほしいです~!」
「……それでいいの?」
「あい~!」
それなら、今日一日遊んでほしいというハナちゃんの要望――叶えましょう!
最近はようやく、仕事が落ち着いた。だから、ゆっくり時間が取れる。
思いっきりハナちゃんと遊んでも、問題ないだろう。
「よし、ハナちゃんと遊んじゃおう!」
「わーい! タイシありがとです~!」
ハナちゃん、ぴょんぴょんしながら大喜びだ。キャッキャしている。
今日は、一日ハナちゃんと遊び倒しましょう!
「さっそくだけど、まずは何をして遊ぶ?」
「ハナ、おもいっきりおよぎたいです~」
「お、水遊びだね。水着をもって、湖に行こうか!」
「いくです~!」
ということで、ハナちゃんと湖で遊ぶぞ!
◇
ハナちゃんと水遊びという事で、ボスオオカミに乗っけてもらって湖まで向かう。
十分もあればついてしまうので、のんびり移動だ。
「……ばう?」
……おや? フクロオオカミが立ち止った。
「あえ? とまっちゃったです?」
「どうしたの? なにかあった?」
「ばう!」
そしてトコトコと、湖までの直線経路から外れる。
どうしたんだろう?
「あや~、どこいくです?」
「良くわからないけど、お任せしてみるか」
「ばう」
ボスオオカミにお任せするまま、トコトコ移動する。
そのままちょっと進んだところで、ボスオオカミが立ち止った。
これは……川の跡かな? 水が流れた跡がある。
今は水が流れておらず乾いているけど、見た感じそうだね。
彼はここに来たかったのかな?
「ここに何かあるの?」
「ばう!」
「あえ? ほりはじめたです?」
ボスオオカミが、ばうばうとなにやら地面を掘り始めた。
しばらく見守っていると……。
「ばう! ばうばう!」
「あえ? いしです?」
「石みたいだね」
ボスオオカミが石を掘り当て、くわえて見せてくれた。
これは――。
「――ダイヤの原石、だ」
「あや! うまってたです?」
「ばう~!」
どうやらボスオオカミは、俺たちにこの石のありかを教えてくれたらしい。
散々探して、見つかったらキャッキャしてたからね。
それを見て、この石を渡せば俺たちが喜ぶって、学習したんだ。
賢くて、とっても優しい子だね。
「ばうばう」
「くれるです?」
「ばう~!」
そのままハナちゃんの手に、ぽてっと落とす。
どうやら、石を貰えるようだ。
良くしてくれて、ありがとうだね。こっちもお礼をしよう。
「良い子にはお礼をしちゃうよ。もう今日はブラッシングしたり、飴をあげたりこちょこちょしたり、全部しちゃうよ」
「ばう~! ばうばう!」
「よろこんでるです~!」
お礼の内容に、ボスオオカミは大喜びだ。
ハナちゃんと遊んで、ボスオオカミと遊んで。大忙しになるね!
ということで、湖に到着してすぐさま、ボスオオカミにご褒美をあげることに。
「ばうう~ばうう~」
「きもちよさそうです~」
「飴もあげるよ。ほら」
「ばう~」
飴をもぐもぐしながら、ブラッシングにうっとりするボスオオカミだ。
至れり尽くせりといった感じで、くつろいでいる。
「ばふふ……」
「あえ? オオカミさん、ねちゃったです?」
「気持ちよかったんだろうね」
ボスオオカミを接待していたら、気持ちよさのあまり寝てしまったようだ。
続きままたあとにして、ゆっくり寝かせてあげよう。
さて、ボスオオカミが寝てしまった。
これから、俺たちはどうしようか。
「ハナちゃん、これからどうしようか?」
「オオカミさんといっしょに、ハナたちもおひるねするです?」
遊びじゃなくて、ちょっと休憩か。良いかもね。
ボスオオカミによりかかって、うとうとしよう。
「それじゃあ、ちょっと休もうか」
「あい~」
ということで、ハナちゃんと一緒にボスオオカミにぽふっと寄りかかる。
ふわふわで気持ちいいので、こうしているだけで安らぐ。
「すぴぴ」
ハナちゃん、もう寝てる。
……まあ、ゆっくりお休み下さいだ。
俺もちょっと休もう。
そうしてぼーっとすること数分、なんだか色々なことが思考に浮かんで来た。
リラックス出来ているけど、頭が冴えて眠れない。
……ちょうど良いかも。
気になることが沢山あるけど、忙しくてあんまり考えられなかった。
この時間で、ちょろっと考えてみよう。
さしあたっては、ダイヤの原石事件が気になる。
……あのダイヤの原石、どうして湖の底に沈んでいたのだろうか。
エルフたちが換金に持ってくる鉱石に、今までダイヤの原石はなかった。
なのに、湖が出来たらゴロゴロ出始めた。
おまけにだ。全部拾いつくしたと思ったら……湖じゃないそこら辺にもあったという。
今さっきだって、ボスオオカミが見つけてくれた。
これは一体、何を意味する?
というか、湖畔のリゾート運営を開始する前に散々調べたはずだ。
その時には、ダイヤの原石なんて見つからなかった。
それが、ある日突然だ。何故だ?
危険生物が居ないか確認するために、水中も水底も探したはずだ。
その時は、なぜ見つからなかった?
色々腑に落ちないことが、なんだか多い。
みんなには話していないけど、何かが引っかかる。
この違和感、一体何だろうか?
◇
違和感は抱えつつも、時間はのんびり過ぎて行く。
「あえ~、けっこうねちゃったです~」
「ばうばう」
ハナちゃんとボスオオカミも起きて、活動再開だ。
とりあえず、これからどうしようか。
ボスオオカミの接待、再開しようか?
「ねえ君、もう一回ブラッシングとかする?」
「ばうばう」
「またこんど、してほしいみたいです?」
「ばう」
どうやら今日は満足したようで、また今度らしい。
今回はありがたく、お言葉に甘えよう。
「じゃあまた今度ね」
「ばう」
「それならタイシ、こんどはハナとおよぐです~!」
ボスオオカミ接待がひとまず終わったので、ハナちゃんからお誘いだ。
当初の予定はそうだったので、思いっきり泳ごうか。
「よし、泳ごう!」
「あい~! きがえるです~!」
ハナちゃんが、水着を持って「ぽてて」と更衣室に走って行った。
俺も着替えよう。
男の着替えは簡単なので、一分もかからず終わった。
ハナちゃんはまだ着替え中みたいだから、ちょっくら待つとしよう。
ということでのんびり待っていると、視界の端にマイスターが水辺でしゃがんでいるのが見えた。
普段着だから、泳ぐつもりじゃないんだろうな。
彼は一体、何をしているんだろうか。
ハナちゃんが着替え終わったら、ちょっと行ってみよう。
そして待つ事数分、ハナちゃんが出てきた。
佐渡の時に着ていた、あのかわいい水着姿だ。
「タイシ~、きがえたです~」
「じゃあ泳ごうか……とその前に」
「あえ?」
「ほらそこ。何かしているから、気になってさ」
「あや、たしかにきになるです~」
マイスターが虫メガネで、なにかを見ているのがわかる。
ハナちゃんも気になったようなので、一緒に確認しに行こう。
「ハナちゃん、確認してみない?」
「あい。いってみるです~」
ハナちゃんに提案すると、同意してくれた。
それじゃあ、マイスターの所に行ってみよう。
「行ってみよう」
「あい~!」
ぽてぽてと歩くハナちゃんと一緒に、調べ物中のマイスターの元へ。
話を聞いてみよう。
「……こんにちは。すいません、それは何をしているのですか?」
「ん? あ、ハナちゃんとタイシさん、こんにちは」
「こんにちわです~」
マイスターに挨拶をすると、のんびり挨拶が返ってきた。
彼が手に持っているのは……なんだろ、灰色の枝みたいなの?
一体それ、なんだろうか?
「その手に持っているのを、調べていたのですか?」
「おう。なんかこれ、みたことなくって」
「みたことないです?」
「おれたちのもとのもりに、こんなおはななんて、さいてなかったじゃん?」
「――お花?」
その手に持っているのは、花なの?
……あ、手に隠れた位置になんかある。良く見せてもらおう。
「すいません、見せて頂いてよろしいでしょうか?」
「どうぞ。タイシさんのいけんも、きかせてほしい」
「わかりました。どれどれ……」
マイスターからブツを手渡され、良く見てみる。
なんかサクラっぽいな……。
――サクラ?
最近、そんなことなかったか……?
「……タイシ、どうしたです?」
「いやなんか、最近これっぽいやつを見たような。なんだったか……」
「よくわからないですけど、しゃしんとっとくです?」
「そうすっか」
記憶を探る俺をよそに、ハナちゃんとマイスターは写真を撮り始める。
まあ、記録を残すのは大切だから……記録?
――あ! これもしかして!
「タイシ?」
「思い出したんだ! これをどこで見たか!」
急いでスマホを操作し、プレイヤーを起動する。
すぐさま一覧が表示されたので、目的のデータを探す。
ユキちゃんにも見せようと、転送しておいた録画データだ。
程なくしてデータを見つけたので、早速再生を開始する。
「あや! うごくしゃしんです~。あのおやこがうつってるです~」
「おはながたくさんならんでるな。おはなをうってるって、ほんとだったんだ」
録画を再生すると、ハナちゃんとマイスターが釘付けに。
知っている人の、知らなかった日常だからね。興味も沸くよね。
でも、俺が見たいのは……このちょっと先。
もうちょっと。
「げんきそうです~」
「ん? なんかうしろにいるおとこのこ、ひょうじょうかたくね?」
キャッキャとテレビ録画を見る、ハナちゃんとマイスターだ。
二人とも楽しそうだけど、俺が見たい場面は……あと数秒先。
――そして、ついに目的の場面が映し出された。
『それでは、その化石の映像を大公開です!』
そこに映し出された「モノ」と、今俺の手の中にある「モノ」とを比較する。
「あや! タイシ、これ――!」
「おなじやつじゃん!?」
果たしてそれは――そっくり、だった。
マイスターが発見したこの灰色の花。そして、佐渡で発見された謎の化石。
どちらも――同じ「モノ」だった。
佐渡の化石は、花が灰化した物。
しかし地球には――灰化する花など、存在しない。
これは地球の花ではない。異世界の花だ。
ではエルフ世界の花なのか。
マイスターやハナちゃんは、見たことがないという。
あの灰化した森には――なかったという。
もし、それが本当だとしたら。
地球で発見された、灰化した花。
エルフ世界で発見された、灰化した花。
どちらの世界にも、存在しない花が――。
どちらの世界にも、存在することになる。