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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十二章 この世界に存在しない花
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第七話 なんだか、似てるやつ


 でかいダイヤモンドを、作っちゃったでござる。


「……まさか鉱石をこねて、さらにまとめる事ができるなんてな」

「このダイヤ、ほんとでけえよ。末端価格いくらだろ」

「正規ルートでは売れませんけど……でもこの大きさ! 素晴らしいですね!」


 ちたま人はみんな、澄み切ったまなざしだ。

 大き目のビー玉くらいの大きさにしたダイヤモンドを、欲にまみれ――おっと! 曇りなきまなこで見つめている。


 ただユキちゃんの言うとおり、正規ルートじゃ売れない。

 だって鑑定書ないからね。めっちゃ怪しまれるどころか、通報ものだ。

 鑑定書をもらおうとしても危ないかも。


「やくだてた? いいかんじ?」


 こねこねしてくれた妖精ちゃんは、役立てたかどうか知りたいみたいだな。

 ちゃんと役立ってるよって、伝えてあげよう。


「この特技はすごいよ。かなり役立ってるね」

「きゃい~!」


 妖精ちゃん、きゃいきゃいとよろこんでキラッキラだね。

 いやいやこちらこそ、お手伝いありがとうございますだ。


「それにしても大志、こんなでかいの作ってどうすんだ?」

「さすがにこれは……表に出せないだろ?」


 高橋さんと親父が、この巨大ダイヤについて用途を聞いてきた。

 実は、一つ考えていたことがある。

 こういうのを、出自を気にせず買う人は……心当たりがある。

 そんなわけで、その心当たりと関係のある――ユキちゃんにお願いしよう。


「このダイヤについては……ユキちゃん経由で――魔女業界に噂を流してほしいな」

「え? 魔女さん業界ですか?」

「そう、魔女さん系。宝石を使う魔術とか、使い手はいるはずだから」

「それ系の人はたいてい、宝石にお金が出て行って貧乏っぽかったですよ。知り合いはカニカマがごちそうって言ってましたから」


 カニカマがごちそう……。ま、まあ頑張ってくださいだ。

 ユキちゃんは魔女業界の実態をそれなりに知っているのか、いろいろ指摘してくれる。

 ただ、宝石を買うお金はあるわけだ。それなら、大丈夫じゃないかと思う。


「宝石を買ってなお、生活できているのなら大丈夫だとは思うけど」

「まあ確かに、宝石を買うお金はありますからね。収入はわりとある方ではと」


 だよね。所得自体が低いわけじゃなくて、可処分所得のほとんどが宝石代なだけだよね。

 だから、お金自体はあるわけだ。


「そんなわけで、それ系の人に噂を流せば……」

「食いつきますね、間違いなく」

「設定額は……相当安く。宝石系魔術の使い手なら、転売はしないはずだから」

「え? それで良いんですか?」


 相当安くするというと、ユキちゃん目を丸くする。でも、これにはわけがある。


「ちょっと考えがあってね」

「考えというと?」

「その魔女さん? 魔女さんたち? にお礼をしたいと思ってね」

「え? お礼ですか? 大志さんが魔女さんの業界にお礼をする理由、ありましたっけ?」


 ユキちゃんは首を傾げてしまったけど、確かに直接的には接点は無い。

 だから、直接的接点がないという理由なら、お礼をする理由も無い。

 でも……うちはそれ系の人たちに、かなりお世話になっている節がある。

 たとえば、増幅石の加工だ。魔女さん系の技術で加工されている形跡がある。

 ここらで指摘しておくのも、今後の関係のために必要かな?

 ぶっちゃけて聞いてしまおう。


「増幅石の加工とかさ……それ系の技術入ってるよね。あの加工済みの石に、ギリシャ語入ってるし」

「え!? なぜそれを!?」

「ちょっと調べたんだ」


 指摘すると驚くユキちゃんだけど、俺だってそれなりには見えて聞こえる人だからね。

 巫女ちゃん程ではないけど、まあまあ見えちゃうわけだ。

 佐渡の時に大量生産したあのアレな石を、ちょこっと調べたら色々見えちゃったわけで。


「この体系って、ユキちゃんちの本流じゃないでしょ?」

「そこまで……」

「うちだって、伊達に神秘と触れ合っているわけじゃないからね」


 高橋さんの腕についている石を指さして言うと、ユキちゃんびっくり状態だ。

 うちは異世界にまつわる、わけわかんない現象を相手にしているわけでね。

 それに比べれば、ちたまのアレ系はまだわかりやすい方だ。

 歴史を学べば、ある程度推測できるのだから。自宅から出ずとも調査が出来てしまう。


「うちはこの加工技術にかなりお世話になっている。だから、ユキちゃんを通じてお礼をしたいなと」

「そういう考えだったんですね」

「それに、お安く提供できれば……ユキちゃんちも魔女さんとの関係強められるんじゃない?」

「え、ええまあ……感謝はされると思います」

「なら、それでいいと思う」


 イーブンな取引も、それはそれで良いとは思う。

 でもこういう臨時収入があって便宜を図れるのなら、やっておいた方が良い。

 いずれ別の形で、返ってくるのではないかと思う。


「話を聞いた限りじゃ親しい関係だと思うから、思いっきりディスカウントして良いよ」

「……ありがとうございます。うちも助かります」

「こちらも世話になっているからね。お互い様だよ」


 ユキちゃんちが魔女さん系と関係があるのは、今までの話で大体わかる。

 というかカニカマがごちそうなんて、よほど親しい人じゃなきゃ話さないよ。

 それこそ親友クラスとか、昔からつながりがあるとか、なんにせよ親しい間柄だ。

 そういうつながりがある人の助けになれば、加茂井家だって助かるだろう。

 俺の家としても、今までお世話になっている人たちへの恩返しになる。


「では……それなりに買えそうな程度、の額にしてしまいますね」

「それで良いよ。お金より、そういう関係の方が大切だから」

「そうですね! ……とはいえ、そこそこの金額にはなりますけどね」

「その辺は専門家にお任せしますだね」


 ということで、お金儲けはほっぽって関係構築の方に注力だ。

 平時にきちんと良い関係を築けていれば、有事の際に頼りにできる。

 それが起きるかもわからないけど、しておいて損は無い。


「……なあ大志、お安く売るのは良いんだけどさ。その金でなんかする予定とかあるか?」


 ユキちゃんと商談していると、高橋さんがちょいちょいとつついてきた。

 売れないダイヤを、確実に売れるようにしたわけだ。

 収入が得られるわけで、用途も気になるよね。

 さしあたっては……。


「大いなる野望はあるよ。でっかい野望」

「――大いなる野望か! どんなんだ?」


 高橋さん、野望と聞いて前のめりになる。

 それでは、俺の野望をお教えしましょう!


「その野望とは――今拡張している温泉を、建屋で囲むこと!」

「ちっちゃ! 野望ちっちゃ! 何だよそのささやかな目標!」


 いやいや、大いなる野望だよ! ささやかじゃないよ!

 手作り露天が、普通の温泉施設になるんだから。

 今はあまりお金をかけられないから、コツコツやって時間がかかっているわけで。


「ちなみに発注は高橋さんとこだけど」

「まいどあり。確かに大いなる野望だ。さすが大志だ」


 手のひらクルリの高橋さんだ。これで重機は買えるから良いよね。

 まあ、残ったお金は冬に必要な装備代金として使うけど。

 どのみち、すぐになくなっちゃうだろう。悪銭身につかずってね。

 ただ……これで魔女さん系と良い関係を築けたなら、それだけは消えない。

 俺はそっちのほうを、大事にしたいと思うわけだ。


 なにせ、うちの相手は――異世界だ。お金じゃ解決できないことが、山ほど出てくる。

 そういう状況になったとき、こうして作っておいた関係が活きるはずだ。

 常に未来に投資しないと、この仕事はやっていけない。



 ◇



 ダイヤモンド騒動が一段落して、村には平穏が戻った。

 というか、ちたま人だけが騒いでいたような気もする。


「かわいいふくを、つくりましょ~」

「どうぐがふえて、こうりつてき~」

「たくさんたくさん、つくりましょ~」


 素材提供によって、こっちの裁縫道具をコピーした妖精さんだ。

 ちっちゃなダイヤモンド製の道具を駆使して、かわいい服を作っている。

 俺が本来したかったことは、ちゃんと実現できたね。


「あや! ハナのおようふくのちっちゃいやつです!」

「妖精さんたち、前と同じでハナちゃんのお洋服を参考にしているんだね」

「すごいです~」


 妖精さんたちはハナちゃんが来ていた洋服もコピーして、きゃいきゃいとお裁縫だ。

 人形用みたいな、ちいさな洋服が出来上がっていく。

 前作っていた洋服もそうだったけど、なかなかの出来映えだ。


 なんでもミニチュアサイズの妖精さん作品、ハナちゃんも興味深げに見ているね。


「わたしも、まけていられませんね」

「お、新しい洋服ですか」

「ええ、ハナのおようふく、しんさくをつくりますよ!」

「おとうさん、ありがとです~」


 ヤナさんもそれに刺激されたのか、新しいハナちゃん用の洋服を作るようだ。

 無理せずぼちぼちと、作っていって下さいだね。

 これから寒くなってくるから、冬向けの子供服にしたほうが良いかもだけど。


「おようふく、たのしみです~」

「がんばってつくるからね」

「あい~!」


 ひと騒動終えた後の、まったりした時間。

 ハナちゃんたちと、のんびりお茶を飲んで過ごしたのだった。



 ◇



 色んな出来事が落ち着いて、時間にも余裕が出てきた。

 そんな中、自宅で親父とのんびりテレビをみていた時の事。


『夏に佐渡島で発見された、謎の化石。第一発見者はなんと、旅行客だったのです』

「親父、佐渡の話題だよ」

「どれどれ」


 毎週やっている情報番組が流れていて、佐渡というキーワードにちょっと反応してしまった。

 そういえば、陶芸おじさんからの手紙に、そんなことが書いてあった。

 第一発見者は、旅行客だったんだ。


 ……これはちょっと、録画しておこう。

 メディアサーバーのリモコンは……あった。録画ボタンをぽちっとな。

 これで録画開始だ。こいつで録画すれば、色んな機器に転送できる。

 超便利な録画マシンちゃんだ。


『発見されたのはこの海岸で、発見者は夏休みの家族旅行で来ていたそうです』

「へえ~。夏休みっていったら、俺たちが行った時期と重なるよね」

「もしかしたら、俺たちが発見者になってた可能性もあるよな」


 親父とお茶を飲みながら、見たことのある場所の映像を楽しむ。

 化石とか、ロマンあるよなあ。


『これから発見者のかたに、お話を伺いに行きます』


 映像が切替わり、タレントさんがレポートしながら町を歩いていく様子が流れる。

 そして一軒の――フラワーショップへと、入って行った。


『化石を発見されたのは、このかたです!』


 お店に入ったレポーターが話しかけた人は――。


「――親父、この人!」

「ああ、あの人だな」


 果たして、テレビに映っていたのは――巫女ちゃんの、お父さんだった。

 仕事中なのか、店のロゴが入ったエプロン姿だ。

 後ろの方では……巫女ちゃんとお母さんもちらりと映っているね。

 間違いない。あの一家だ。


『発見された時は、どう思われましたか?』

『化石になる前は、どんな色をしていたんだろう? きっと綺麗だったのだろうな……と思いました』


 まさかの知り合いがテレビ出演! 録画しといて良かった!

 後でスマホに動画を転送しておこう。ユキちゃんにも見せないと。

 俺と親父がびっくりしている間に、インタビューはどんどん進んでいく。


『うちに帰った後調べてみましたが、まったくわからない。でも気になったので……学生時代の恩師に、便りを送ったのです』

『それが、今回の大発見につながったのですね』

『大発見……なのですかね?』


 どうやら大発見だったらしい。

 だけど、巫女ちゃんのお父さんは……いまいちすっきりしない顔だ。

 なにか引っかかっているような、そんな様子が伝わってくる。


「どうしたんだろうね、もっと喜べばいいのに」

「どうも、乗り気じゃない感じはするな」


 親父も、同じことを感じ取ったようだ。

 どうも巫女ちゃんのお父さんは……何かが気になっているようだ。

 一体なんだろうね。


『それでは、その化石の映像を大公開です!』


 やがてインタビューは終了し、スタジオの映像に切り替わる。

 大公開と言ってからCMを挟むおなじみの流れの後、その化石の映像が映し出される。


 五十インチの画面に、映し出されたそれは――。


「……なんだろ、これ」

「サクラのような、そうではないような」


 はっきりとした形をした、花の化石だった。

 すべての形が残っていて、化石と言うより……美しい石細工のような。

 ……なんだろね、これ。



 ◇



「タイシさん、これっておかねにかえられるのでしたっけ?」


 知り合いがテレビ出演事件の翌日、村に出向くと団長さんが一つの石を持ってきた。

 手に持っているのは――ダイヤの原石だ。

 湖に沈んでいたのは、だいたい拾ってきたはず。

 だけど、まだ残っていたのかな?


「これって、湖に潜って取ってきたのですか?」

「いえ? どうくつからあるいてすぐのところに、なんかあったかんじです」

「え? すぐのところですか?」

「はい」


 どうやら湖の中だけじゃなくて、他にもあったっぽい。

 これはもうちょっと、探してみたほうが良いかもね。

 まだあるなら……妖精さんに、もっと素材を渡せる。


「あ、タイシいたです~、これひろったです~」

「なんかおちてましたよ、みずうみにいくとちゅうのところに」

「いくつかありました」


 団長さんのダイヤ原石を換金していると、ハナちゃん一家がやって来た。

 そしてその手に持っているのは、やっぱり――ダイヤの原石。


 なんだ、まだまだあるんだな。


「タイシ~。これ、ようせいさんたちに……あげてもいいです?」


 ぽてぽてとやって来たハナちゃんは、原石を妖精さんにあげたいと言う。

 ハナちゃんが拾ってきたのは、小さい原石。

 だけど、これだって結構な額になるはずだ。

 換金すれば良いお金になる。……ほんとに良いの?


「すごくお金になる石だけど、あげちゃっていいの?」

「あい~! ようせいさんたちに、もっとどうぐをつくってほしいです~」


 お金より隣人を優先したんだ。これは、なかなか出来る事じゃない。

 ここはハナちゃんの意思を、尊重しよう。


「それは、ハナちゃんがしたいようにして良いよ」

「あい~! それじゃ、ようせいさんにあげちゃうです~!」

「偉いねハナちゃん、それは……なかなか出来る事じゃないよ」

「えへへ」


 軽く褒めたら、ハナちゃんてれてれだ。

 でもね、まだまだ――褒めちゃいますよ!


「偉い子はなでなでしちゃうよ。頭なでまくりだよ」

「うふ~。うふふ~」

「それに偉い子には、何かご褒美をあげちゃおうじゃないか。何が良い?」

「ごほうびです!? なんでもいいです?」


 ご褒美をあげると言ったら、ハナちゃんめっちゃ食いついた。

 何でもいいと聞かれたけど、出来る事ならね。


「自分が出来る事ならね」

「じゃあじゃあ、ハナときょういちにち、あそんでほしいです~!」

「……それでいいの?」

「あい~!」


 それなら、今日一日遊んでほしいというハナちゃんの要望――叶えましょう!

 最近はようやく、仕事が落ち着いた。だから、ゆっくり時間が取れる。

 思いっきりハナちゃんと遊んでも、問題ないだろう。


「よし、ハナちゃんと遊んじゃおう!」

「わーい! タイシありがとです~!」


 ハナちゃん、ぴょんぴょんしながら大喜びだ。キャッキャしている。

 今日は、一日ハナちゃんと遊び倒しましょう!


「さっそくだけど、まずは何をして遊ぶ?」

「ハナ、おもいっきりおよぎたいです~」

「お、水遊びだね。水着をもって、湖に行こうか!」

「いくです~!」


 ということで、ハナちゃんと湖で遊ぶぞ!

 


 ◇



 ハナちゃんと水遊びという事で、ボスオオカミに乗っけてもらって湖まで向かう。

 十分もあればついてしまうので、のんびり移動だ。


「……ばう?」


 ……おや? フクロオオカミが立ち止った。


「あえ? とまっちゃったです?」

「どうしたの? なにかあった?」

「ばう!」


 そしてトコトコと、湖までの直線経路から外れる。

 どうしたんだろう?


「あや~、どこいくです?」

「良くわからないけど、お任せしてみるか」

「ばう」


 ボスオオカミにお任せするまま、トコトコ移動する。

 そのままちょっと進んだところで、ボスオオカミが立ち止った。

 これは……川の跡かな? 水が流れた跡がある。

 今は水が流れておらず乾いているけど、見た感じそうだね。

 彼はここに来たかったのかな?


「ここに何かあるの?」

「ばう!」

「あえ? ほりはじめたです?」


 ボスオオカミが、ばうばうとなにやら地面を掘り始めた。

 しばらく見守っていると……。


「ばう! ばうばう!」

「あえ? いしです?」

「石みたいだね」


 ボスオオカミが石を掘り当て、くわえて見せてくれた。

 これは――。


「――ダイヤの原石、だ」

「あや! うまってたです?」

「ばう~!」


 どうやらボスオオカミは、俺たちにこの石のありかを教えてくれたらしい。

 散々探して、見つかったらキャッキャしてたからね。

 それを見て、この石を渡せば俺たちが喜ぶって、学習したんだ。

 賢くて、とっても優しい子だね。


「ばうばう」

「くれるです?」

「ばう~!」


 そのままハナちゃんの手に、ぽてっと落とす。

 どうやら、石を貰えるようだ。

 良くしてくれて、ありがとうだね。こっちもお礼をしよう。


「良い子にはお礼をしちゃうよ。もう今日はブラッシングしたり、飴をあげたりこちょこちょしたり、全部しちゃうよ」

「ばう~! ばうばう!」

「よろこんでるです~!」


 お礼の内容に、ボスオオカミは大喜びだ。

 ハナちゃんと遊んで、ボスオオカミと遊んで。大忙しになるね!


 ということで、湖に到着してすぐさま、ボスオオカミにご褒美をあげることに。


「ばうう~ばうう~」

「きもちよさそうです~」

「飴もあげるよ。ほら」

「ばう~」


 飴をもぐもぐしながら、ブラッシングにうっとりするボスオオカミだ。

 至れり尽くせりといった感じで、くつろいでいる。


「ばふふ……」

「あえ? オオカミさん、ねちゃったです?」

「気持ちよかったんだろうね」


 ボスオオカミを接待していたら、気持ちよさのあまり寝てしまったようだ。

 続きままたあとにして、ゆっくり寝かせてあげよう。


 さて、ボスオオカミが寝てしまった。

 これから、俺たちはどうしようか。


「ハナちゃん、これからどうしようか?」

「オオカミさんといっしょに、ハナたちもおひるねするです?」


 遊びじゃなくて、ちょっと休憩か。良いかもね。

 ボスオオカミによりかかって、うとうとしよう。


「それじゃあ、ちょっと休もうか」

「あい~」


 ということで、ハナちゃんと一緒にボスオオカミにぽふっと寄りかかる。

 ふわふわで気持ちいいので、こうしているだけで安らぐ。


「すぴぴ」


 ハナちゃん、もう寝てる。

 ……まあ、ゆっくりお休み下さいだ。

 俺もちょっと休もう。


 そうしてぼーっとすること数分、なんだか色々なことが思考に浮かんで来た。

 リラックス出来ているけど、頭が冴えて眠れない。

 ……ちょうど良いかも。


 気になることが沢山あるけど、忙しくてあんまり考えられなかった。

 この時間で、ちょろっと考えてみよう。


 さしあたっては、ダイヤの原石事件が気になる。

 ……あのダイヤの原石、どうして湖の底に沈んでいたのだろうか。

 エルフたちが換金に持ってくる鉱石に、今までダイヤの原石はなかった。

 なのに、湖が出来たらゴロゴロ出始めた。


 おまけにだ。全部拾いつくしたと思ったら……湖じゃないそこら辺にもあったという。

 今さっきだって、ボスオオカミが見つけてくれた。

 これは一体、何を意味する?


 というか、湖畔のリゾート運営を開始する前に散々調べたはずだ。

 その時には、ダイヤの原石なんて見つからなかった。

 それが、ある日突然だ。何故だ?


 危険生物が居ないか確認するために、水中も水底も探したはずだ。

 その時は、なぜ見つからなかった?


 色々腑に落ちないことが、なんだか多い。

 みんなには話していないけど、何かが引っかかる。


 この違和感、一体何だろうか?



 ◇



 違和感は抱えつつも、時間はのんびり過ぎて行く。


「あえ~、けっこうねちゃったです~」

「ばうばう」


 ハナちゃんとボスオオカミも起きて、活動再開だ。

 とりあえず、これからどうしようか。

 ボスオオカミの接待、再開しようか?


「ねえ君、もう一回ブラッシングとかする?」

「ばうばう」

「またこんど、してほしいみたいです?」

「ばう」


 どうやら今日は満足したようで、また今度らしい。

 今回はありがたく、お言葉に甘えよう。


「じゃあまた今度ね」

「ばう」

「それならタイシ、こんどはハナとおよぐです~!」


 ボスオオカミ接待がひとまず終わったので、ハナちゃんからお誘いだ。

 当初の予定はそうだったので、思いっきり泳ごうか。


「よし、泳ごう!」

「あい~! きがえるです~!」


 ハナちゃんが、水着を持って「ぽてて」と更衣室に走って行った。

 俺も着替えよう。


 男の着替えは簡単なので、一分もかからず終わった。

 ハナちゃんはまだ着替え中みたいだから、ちょっくら待つとしよう。


 ということでのんびり待っていると、視界の端にマイスターが水辺でしゃがんでいるのが見えた。

 普段着だから、泳ぐつもりじゃないんだろうな。

 彼は一体、何をしているんだろうか。

 ハナちゃんが着替え終わったら、ちょっと行ってみよう。


 そして待つ事数分、ハナちゃんが出てきた。

 佐渡の時に着ていた、あのかわいい水着姿だ。


「タイシ~、きがえたです~」

「じゃあ泳ごうか……とその前に」

「あえ?」

「ほらそこ。何かしているから、気になってさ」

「あや、たしかにきになるです~」


 マイスターが虫メガネで、なにかを見ているのがわかる。

 ハナちゃんも気になったようなので、一緒に確認しに行こう。


「ハナちゃん、確認してみない?」

「あい。いってみるです~」


 ハナちゃんに提案すると、同意してくれた。

 それじゃあ、マイスターの所に行ってみよう。


「行ってみよう」

「あい~!」


 ぽてぽてと歩くハナちゃんと一緒に、調べ物中のマイスターの元へ。

 話を聞いてみよう。


「……こんにちは。すいません、それは何をしているのですか?」

「ん? あ、ハナちゃんとタイシさん、こんにちは」

「こんにちわです~」


 マイスターに挨拶をすると、のんびり挨拶が返ってきた。

 彼が手に持っているのは……なんだろ、灰色の枝みたいなの?

 一体それ、なんだろうか?


「その手に持っているのを、調べていたのですか?」

「おう。なんかこれ、みたことなくって」

「みたことないです?」

「おれたちのもとのもりに、こんなおはななんて、さいてなかったじゃん?」

「――お花?」


 その手に持っているのは、花なの?

 ……あ、手に隠れた位置になんかある。良く見せてもらおう。


「すいません、見せて頂いてよろしいでしょうか?」

「どうぞ。タイシさんのいけんも、きかせてほしい」

「わかりました。どれどれ……」


 マイスターからブツを手渡され、良く見てみる。

 なんかサクラっぽいな……。


 ――サクラ?

 最近、そんなことなかったか……?


「……タイシ、どうしたです?」

「いやなんか、最近これっぽいやつを見たような。なんだったか……」

「よくわからないですけど、しゃしんとっとくです?」

「そうすっか」


 記憶を探る俺をよそに、ハナちゃんとマイスターは写真を撮り始める。

 まあ、記録を残すのは大切だから……記録?


 ――あ! これもしかして!


「タイシ?」

「思い出したんだ! これをどこで見たか!」


 急いでスマホを操作し、プレイヤーを起動する。

 すぐさま一覧が表示されたので、目的のデータを探す。

 ユキちゃんにも見せようと、転送しておいた録画データだ。

 程なくしてデータを見つけたので、早速再生を開始する。


「あや! うごくしゃしんです~。あのおやこがうつってるです~」

「おはながたくさんならんでるな。おはなをうってるって、ほんとだったんだ」


 録画を再生すると、ハナちゃんとマイスターが釘付けに。

 知っている人の、知らなかった日常だからね。興味も沸くよね。

 でも、俺が見たいのは……このちょっと先。

 もうちょっと。


「げんきそうです~」

「ん? なんかうしろにいるおとこのこ、ひょうじょうかたくね?」


 キャッキャとテレビ録画を見る、ハナちゃんとマイスターだ。

 二人とも楽しそうだけど、俺が見たい場面は……あと数秒先。


 ――そして、ついに目的の場面が映し出された。


『それでは、その化石の映像を大公開です!』


 そこに映し出された「モノ」と、今俺の手の中にある「モノ」とを比較する。


「あや! タイシ、これ――!」

「おなじやつじゃん!?」


 果たしてそれは――そっくり、だった。


 マイスターが発見したこの灰色の花。そして、佐渡で発見された謎の化石。

 どちらも――同じ「モノ」だった。


 佐渡の化石は、花が灰化した物。

 しかし地球には――灰化する花など、存在しない。

 これは地球の花ではない。異世界の花だ。


 ではエルフ世界の花なのか。

 マイスターやハナちゃんは、見たことがないという。

 あの灰化した森には――なかったという。

 もし、それが本当だとしたら。


 地球で発見された、灰化した花。

 エルフ世界で発見された、灰化した花。


 どちらの世界にも、存在しない花が――。

 どちらの世界にも、存在することになる。


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