第六話 お団子こねこね、妖精さん
湖から、ダイヤモンドの原石が見つかったでござる。
この緊急事態について、ちたまメンバーはすばやく調査隊を結成した。
全員、清く正しく、澄んだまなざしで調査を開始する。
「あったぞ」
「こっちにもありました! 原石です!」
「この辺に、なんか沢山集まってるね」
「ここにもあるな。結構沢山ある気がするぞ」
澄み切ったまなざしの俺たちは、黙々と原石を探す。
結構沢山あるようで、何個ものブツが発見される。
「これを指輪にして、美咲に贈ったら……」
「俺はあれだ、新しい重機が」
「……エンゲージリング……給料三か月分……」
親父、高橋さん、ユキちゃんそれぞれ、なにやらブツブツと呟きながら、清く正しいまなざして原石を探し続ける。
それぞれ、欲しい物が口からダダ漏れだ。
親父は、お袋に指輪をあげたいみたいだね。夫婦円満、良いことだ。
高橋さんは、そういや重機を欲しがっていたな。買えたら良いね。
……ユキちゃんのつぶやきはなんだろね。危険な感じがするよ。
「あや~。よこしまなおとなたちが、なんかやってるです~」
「ぎゃう~」
――おっと! 顔に出て……いやいや、俺たちはあれだよ。
あれなんだ。
◇
清く正しいちたま人のちょっとした調査によって、まあまあの原石が見つかりました。
いま、一生懸命ほじくってます。
「結構中に埋まってるな」
「固くて、取り出すのが大変ですね」
「新しい重機……」
親父と高橋さんは力があるので、ゴリ押しで取れている。
ユキちゃんはそれが出来ないので、苦戦しているね。
ただ、みんな目的があるから一生懸命だ。
頑張る人って、美しいね。
「タイシ、これってなんにつかうです?」
「ぎゃう?」
一生懸命なおとなたちを見て、ハナちゃんがダイヤの用途について聞いてきた。
まあ、宝石として使ったり、工業製品の加工につかったりだね。
俺たちがダイヤをどう使っているか、簡単に教えておこう。
「綺麗に光を反射するから、宝物として扱ったりするよ」
「それだけです?」
「あとは、とっても固いから……物を作る道具とかで重宝してるね。固い物を削ってもへっちゃらなのが、便利だよ」
「なるほどです~」
「ぎゃう」
宝石としてはピンとこなかったようだけど、道具としては理解できたようだね。
エルフたちだって、石器を扱っていたわけで。
固い物を削るのは、苦労していたんだろうな。
「そういやさ、大志はこのダイヤほじってどうすんの?」
「大志だけ、なんか心の声が漏れてないけど」
「……え? 私なにか言ってました」
「い、いや……特には」
「俺はなんも聞いてねえな」
親父と高橋さんは声が漏れてる自覚があったようだけど、ユキちゃんは無かったようだね。
みんな、聞かなかったことにしてあげてるみたいだけど。
俺もそうしよう。
それで、俺がダイヤをほじくっている目的といえば――。
「――これさ、妖精さんたちにあげようと思って」
「え? 妖精さんにですか?」
「そうだよ。あの子たち、たしかダイヤモンドの道具を使っていたよね」
「え、ええ……」
ちらっと聞いてそれっきりだったけど、そういう話だった。
なら……このダイヤモンドの発見によって、一つの問題が解決できるはずだ。
「俺たちじゃ、ちいさな妖精さんたちに道具を提供できない。そして、ダイヤじゃおいそれと素材調達もできない」
工業用ダイヤも安いとはいえ、それなりにお値段はするわけだ。
さすがに……五十人以上の妖精さんたちへ、素材として提供するのは無理なわけだ。
「あの子たちに道具を提供することが出来ないなら、自分で作ってもらうしかない。このダイヤがあれば、可能かなって思った」
ほんと、ただそれだけ。
これで妖精さん達に、道具の素材を提供してあげられる。
きっと、それは必要なことだと思う。
「大志……お前やっぱすげえわ。拝んどくわ」
「お前は神か。俺も拝むわ」
(およ?)
高橋さんと親父、拝むのやめて!
あと、神様がなんか反応しちゃってるよ! 神社がほよほよ光ってるよ!
「――タイシ~! やっぱりタイシはタイシです~!」
「その発想は私には無理でしたけど……なんか――目が覚めました!」
俺の考えに賛同してくれたのか、ハナちゃんとユキちゃんはがっつり抱き着いてきた。
二人ともにっこにこだから、俺の考えはそう間違ってないかなって自信が付くね。
……でも、二人ともちょっと関節キマってるから。
もうちょっと、手加減してね。今さ、俺……逆関節状態だから。
ちょっとグキっていったから。
でもまあ、悪い気はしない。二人とも喜んでくれたからね。
「うふ~」
「ふふふ」
さて、ちたま人たちの目が覚めたところで、妖精さんたちを呼びましょう!
このほじくりだしたダイヤモンドで、道具を作ってもらおうじゃないか!
◇
ひとまず、妖精さんたちに集会場へ来てもらった。
集会場はキラキラきゃいきゃいと、とっても賑やかだ。
……ここでも、無心でお団子をこねる子がいるけど。
お団子職人かな?
まあそれはそれとして、まずは妖精さんたちの道具を見せてもらおう。
材料を渡す前に、妖精さんの道具がダイヤモンド製であると、確認しておかないとね。
「今日は君たちの道具について、ちょっと聞きたいことがあって。それでみんなに、集まってもらったんだ」
「わたしたちのどうぐ? どうぐ?」
「これかな? これかな?」
「じまんのどうぐだよ! みて! みて!」
道具について聞くと、みんなどこからか、様々な道具を取り出して見せてくれた。
……まあ、ちっちゃくて良くわからないんだけど。
「ちっちゃくて、良く見えませんね」
「いろいろなどうぐ、あるっぽいです?」
ユキちゃんとハナちゃんも目を細めるけど、やっぱり良くわからないみたいだ。
ということで、ここで――秘密兵器を投入だ!
「小さくて見えないのなら、拡大してしまえばいい。マイクロスコープを使おう」
「準備はしておきました。ノートPCに繋げてありますよ」
「準備ありがとう」
通販で買った、わりと良い性能のマイクロスコープだ。かなり高価なやつ。
これがあれば、妖精さんたちが暮らす……ちいさな世界の理解が深まる。
「なぞのどうぐ、きたです~」
「これは小さなものを、大きく見えるようにする道具だよ。さっそく見てみよう」
「あい~」
ハナちゃんは、なんだかわくわくした様子だ。
それじゃ道具を見せてもらって、マイクロスコープの凄さをご覧あれだね。
「誰か、道具を貸してくれるかな。大事に扱うよ」
「これどうぞ! これどうぞ!」
ハナちゃんと良く一緒にいる妖精ちゃんが、なんかの道具を掲げている。
キラキラ光る、透明な何かだ。
お言葉に甘えて、これを借りよう。
「協力ありがとう。それじゃ、借りるよ」
「どうぞ! どうぞ!」
ピンセットで謎の光るやつをつまみ、スライドガラスの上に置く。
カバーガラスをかぶせることができないので、プレパラートは作らない。
ただ試料を、観察台に置くだけ。
試料が息で飛んで行かないよう、まわりをボール紙のわっかで囲って、観察環境完成だ。
それでは――見てみましょう!
「倍率四十倍くらいで良いかな? ……あ、見えてきた」
「これは……スプーンぽいですね」
「俺には、しゃもじに見える」
「すくうやつっぽいです?」
形はスプーンのようなしゃもじのような。まあそんな形だ。
透明素材なので、なかなか分かりづらい。
これはなんなのか聞いてみよう。
「これって、食器とかかな?」
「そうだよ! そうだよ! きのみをほじくるやつだよ!」
「そういう、どうぐですか~」
「まあ……スプーンという事ですかね」
どうやら、これはスプーンのようだ。これで木の実を、ほじくるんだね。
さて、ではこれが本当にダイヤモンドかだけど……。
「ユキちゃん、確認お願いしてもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
今度はユキちゃんがピンセットで妖精さんスプーンを持ち、なにやら確認し始める。
息を吹きかけたり、ブラックライトで照らしたり。新聞紙の上に置いたり。
しばらくあれこれと調べていき――。
「――ダイヤモンドで確定ですね。間違いありません」
とのこと。よし、ダイヤモンドで確定ってことで良いだろう。
妖精さん達は、ダイヤモンドを道具として使っている。結論が出た。
……ダイヤモンドという固い物質を、いったいどうやってこの形に加工できたのか。
妖精さんたちには、まだまだ俺たちが知らない――何かがある。
◇
妖精さんたちは、ダイヤモンドを道具にしていることは分かった。
ということでさっそく、ほじくりだしたちびダイヤモンドを、妖精さんたちに見せてみる。
どうやって加工するかは知らないけど、それは聞いてみるってことで。
「ざいりょうたくさん! いろいろつくれるよ! つくれるよ!」
「なにをつくりましょ~」
「ふくをつくるどうぐ、つくりましょ!」
妖精さんたちはさっそく、ちびダイヤモンドを手に取る。
……道具を作るとは言っているけど、そこからどう加工するのだろうか。
聞いてみよう。
「ねえ君たち、どの固い石をどうやって道具に加工するの?」
「こねるの~」
「おだんご、こねこね~」
「かたちをかえましょ~」
……こねる? お団子? 形を変える?
「こねるって何のことでしょうね?」
「いしをこねるです? むりです?」
「……見守ってみよう」
ユキちゃんとハナちゃんが首を傾げたけど、俺も良くわからない。
とりあえず、妖精さんたちを見守ろう。
「かたちをかえましょ~」
「こねこね~」
「わりとてごわい~」
何名かの妖精さんが、手に取ったちびダイヤモンドをなんかしている。
こねこね歌いながら……羽根がキラキラ光りだした。
羽根の構造体に沿って――青っぽい光が流れる。
その光景はとても幻想的で、ついつい羽根の美しさに目を奪われてしまう。
「きれいです~」
「ファンタジーですね……」
ハナちゃんとユキちゃんも、その幻想的な光景にうっとりだ。
しばし、妖精さんの輝きに見とれる。
「――できたよ! できたよ! かんたんなやつ!」
「こねました~」
「しっぱい~」
あ! 羽を見ていたらもうなんか出来上がってしまった。
注目するところ、おもいきり間違えた!
……まあ、それはもう一回やってもらうとして。
妖精さんが、なんかしたやつを見てみよう。
「それじゃ、ちょっと見せてくれるかな?」
「どうぞ! どうぞ! かんたんなやつだよ!」
「わたしのはこねたやつだよ! こねただけ!」
「しっぱいしたやつ~……」
ふむ。簡単な道具を作った子と、こねただけの子。
そして、失敗しちゃった子か。
……失敗もするんだね。
これらを、順番に見て行こう。三つとも観察台に置いて……と。
では、拡大だ。
ピントが調整されて、対象物が画面に映し出される。
その映し出された、ちびダイヤモンドだったものは――。
「――形が、変わっている……!」
「……嘘みたいですけど、ほんとに変わってますね……」
「とうめいなおだんご、あるです?」
妖精さんが「こねこね」したダイヤモンドは――形が、変わっていた。
ちたま最高強度の鉱物を……「こねて」しまった。
この妖精さんたち――とんでもないお団子職人だ!
ダイヤモンドすら「こねこね」してしまう――特殊能力。
想定外の、特技だ……。
「……まさか、鉱物をこねられるとは」
「分子構造とか、どうなっているんでしょうね……」
「さっぱりわからないけど、これは凄い」
「おだんごです~」
俺とユキちゃんは衝撃でぷるぷるだけど、ハナちゃんはのんびりだね。
丸くこねられたやつをみて、お団子を連想しているようだ。
俺からすると、水晶玉だけど。
三人の妖精さんがつくったのは、まずバールのようなもの。
バールとは確定していないから、バールのような物と表現だ。
次に、こねただけの丸いもの。ハナちゃんがおだんごと言っているやつだ。
最後に……失敗しちゃったらしい、小惑星イトカワ形状のやつ。
まあ、前衛芸術に見えなくもない。
この失敗しちゃったやつについては、何を作ろうとしたのかは……聞かないでおこう。
俺も前衛芸術の使い手なだけに、シンパシーを感じたもので。
――しかし、これは凄いな!
ここまで自在に形を変えられるなら、そりゃあダイヤモンドを道具にもするというものだ。
ダイヤモンドは、ちたま現代文明でも精密加工で使用されるほどだ。
小さな道具が必要な妖精さんたちにとっては、うってつけの素材だろう。
道具が小さければ、負荷分散が難しく強度が必要になる。もろい素材じゃどうにもならない。
そんなとき、ダイヤモンドであれば……小さくても強度的に何とかなる。
これは、妖精さんたちが必要に駆られて身につけた――知恵と能力なんだろうな。
「まさか、妖精さんに――こんな能力があるとはね」
「信じられませんが……信じるしかないですよね」
俺とユキちゃんはこの凄さがわかるだけに、ぷるぷるしてしまう。
普通はそれ、こねられないからね。
「いしをこねちゃうようせいさん、すごいです?」
「かなり凄いよ。石をこねるとか、普通できないから」
「きゃい~!」
「きゃい~! きゃい~!」
ハナちゃんは、凄さがいまいち理解できなかったようだ。
とりあえず、凄いとは言っておくけど。
妖精さんも凄いと言われて、きゃいきゃい喜んでいるね。
……まあ、原理は良くわからないけど、これで妖精さんの道具素材はなんとかなる。
あとはお任せして、道具を作ってもらおう。
「とりあえず、この透明なやつを使うのは大丈夫だよね?」
「だいじょうぶだよ! もんだいないよ!」
「こねられるよ! こねちゃうよ!」
「しっぱいもするけど、たまにだよ! たま~に!」
問題ないようで、みなさんきゃいきゃいとお返事してくれる。
さっき失敗しちゃった前衛芸術ちゃんは、しきりに「たま~に」とアピールしているけど……。
ほんとに、たまに失敗するくらいなのかな?
……それは置いといて、俺がほじくったダイヤモンドはみんなあげちゃおう。
だって、ダイヤモンドも換金するの面倒だからね。
すぐにお金には出来ないから、持てあます。
有効活用できる人がいるのなら、渡しちゃえだ。
「それじゃあみんな、これを持って行って道具を作ってね」
「ありがと! ありがと!」
「なにをつくろうかな! どんなのつくろうかな!」
「こねましょ~」
持って行ってと伝えると、きゃいきゃいとちびダイヤモンドを抱えてぱたぱた飛んでいく。
道具が出来たら、また見せてもらおう。
あと、それほど数は無いから、大事に使ってもらおう。
「あんまり数はないから、大事に使ってね」
「わかったよ! きをつけるよ!」
「しっぱいしたやつ、さいりよう~」
「もっかいこねよ! もっかい!」
大事に使ってほしいという気持ちは、伝わったようだ。
こっちじゃ、それは貴重な素材だからね。
ただ、再利用は出来るっぽい。それなら、失敗しても大丈夫そうだ。
「しっぱいしたやつ、こねなおすね!」
さっそく再利用するようで、観察台に置いてあるイトカワを持って行った。
また、こねなおすんだね。今度は、しっかり見ておこう。
「これもつかっていいよ! こねただけのやつ!」
「ありがと! ありがと!」
お、素材を貰ったりもしているね。ハナちゃん曰く、お団子だ。
……これも、こねなおすのかな?
仲間同士で助け合っていて、微笑ましい。
「しっぱいしたやつ、こねなおし~。ついでにこっちも、くっつけて~
――ん?
なんだろ。前衛芸術ちゃんが、イトカワとお団子を――すりあわせ始めたぞ?
……くっつける?
「こねこねまぜまぜ~。――できあがり!」
そして、イトカワとお団子が――ひとつになった。
――え?
「た、大志さん……。今の見ました?」
「見た。見てしまった」
「きゃい?」
「あえ?」
ユキちゃんも見たようで、真っ青な顔でぷるぷる震えだす。
二つあったダイヤモンドが――ひとつに。
ちびダイヤモンドだった二つが――ちょっと大きなダイヤモンドに!
こねて形を変えられるだけではなく――混ぜてしまえる!
あり得ないことが……また起きた!
これは……衝撃だ。個別の鉱石を、混ぜ合わせることが出来るなんて……。
そして、これが可能と言うことは――。
「――ユキちゃん、俺は良い事を思いついてしまったよ」
「私もです」
ユキちゃんに話しかけると、彼女も同じ事を考えたようだ。
二人でぐふふと笑い合う。
「また、わるいおとなのかおです~」
「きゃい?」
――おっと! 顔に出ていた。
平常心平常心。
……フフフフフフ。