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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十二章 この世界に存在しない花
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第六話 お団子こねこね、妖精さん


 湖から、ダイヤモンドの原石が見つかったでござる。

 この緊急事態について、ちたまメンバーはすばやく調査隊を結成した。

 全員、清く正しく、澄んだまなざしで調査を開始する。


「あったぞ」

「こっちにもありました! 原石です!」

「この辺に、なんか沢山集まってるね」

「ここにもあるな。結構沢山ある気がするぞ」


 澄み切ったまなざしの俺たちは、黙々と原石を探す。

 結構沢山あるようで、何個ものブツが発見される。


「これを指輪にして、美咲に贈ったら……」

「俺はあれだ、新しい重機が」

「……エンゲージリング……給料三か月分……」


 親父、高橋さん、ユキちゃんそれぞれ、なにやらブツブツと呟きながら、清く正しいまなざして原石を探し続ける。

 それぞれ、欲しい物が口からダダ漏れだ。


 親父は、お袋に指輪をあげたいみたいだね。夫婦円満、良いことだ。

 高橋さんは、そういや重機を欲しがっていたな。買えたら良いね。

 ……ユキちゃんのつぶやきはなんだろね。危険な感じがするよ。


「あや~。よこしまなおとなたちが、なんかやってるです~」

「ぎゃう~」


 ――おっと! 顔に出て……いやいや、俺たちはあれだよ。

 あれなんだ。



 ◇



 清く正しいちたま人のちょっとした調査によって、まあまあの原石が見つかりました。

 いま、一生懸命ほじくってます。


「結構中に埋まってるな」

「固くて、取り出すのが大変ですね」

「新しい重機……」


 親父と高橋さんは力があるので、ゴリ押しで取れている。

 ユキちゃんはそれが出来ないので、苦戦しているね。

 ただ、みんな目的があるから一生懸命だ。

 頑張る人って、美しいね。


「タイシ、これってなんにつかうです?」

「ぎゃう?」


 一生懸命なおとなたちを見て、ハナちゃんがダイヤの用途について聞いてきた。

 まあ、宝石として使ったり、工業製品の加工につかったりだね。

 俺たちがダイヤをどう使っているか、簡単に教えておこう。


「綺麗に光を反射するから、宝物として扱ったりするよ」

「それだけです?」

「あとは、とっても固いから……物を作る道具とかで重宝してるね。固い物を削ってもへっちゃらなのが、便利だよ」

「なるほどです~」

「ぎゃう」


 宝石としてはピンとこなかったようだけど、道具としては理解できたようだね。

 エルフたちだって、石器を扱っていたわけで。

 固い物を削るのは、苦労していたんだろうな。


「そういやさ、大志はこのダイヤほじってどうすんの?」

「大志だけ、なんか心の声が漏れてないけど」

「……え? 私なにか言ってました」

「い、いや……特には」

「俺はなんも聞いてねえな」


 親父と高橋さんは声が漏れてる自覚があったようだけど、ユキちゃんは無かったようだね。

 みんな、聞かなかったことにしてあげてるみたいだけど。

 俺もそうしよう。


 それで、俺がダイヤをほじくっている目的といえば――。


「――これさ、妖精さんたちにあげようと思って」

「え? 妖精さんにですか?」

「そうだよ。あの子たち、たしかダイヤモンドの道具を使っていたよね」

「え、ええ……」


 ちらっと聞いてそれっきりだったけど、そういう話だった。

 なら……このダイヤモンドの発見によって、一つの問題が解決できるはずだ。


「俺たちじゃ、ちいさな妖精さんたちに道具を提供できない。そして、ダイヤじゃおいそれと素材調達もできない」


 工業用ダイヤも安いとはいえ、それなりにお値段はするわけだ。

 さすがに……五十人以上の妖精さんたちへ、素材として提供するのは無理なわけだ。


「あの子たちに道具を提供することが出来ないなら、自分で作ってもらうしかない。このダイヤがあれば、可能かなって思った」


 ほんと、ただそれだけ。

 これで妖精さん達に、道具の素材を提供してあげられる。

 きっと、それは必要なことだと思う。


「大志……お前やっぱすげえわ。拝んどくわ」

「お前は神か。俺も拝むわ」

(およ?)


 高橋さんと親父、拝むのやめて!

 あと、神様がなんか反応しちゃってるよ! 神社がほよほよ光ってるよ!


「――タイシ~! やっぱりタイシはタイシです~!」

「その発想は私には無理でしたけど……なんか――目が覚めました!」


 俺の考えに賛同してくれたのか、ハナちゃんとユキちゃんはがっつり抱き着いてきた。

 二人ともにっこにこだから、俺の考えはそう間違ってないかなって自信が付くね。


 ……でも、二人ともちょっと関節キマってるから。

 もうちょっと、手加減してね。今さ、俺……逆関節状態だから。

 ちょっとグキっていったから。


 でもまあ、悪い気はしない。二人とも喜んでくれたからね。


「うふ~」

「ふふふ」


 さて、ちたま人たちの目が覚めたところで、妖精さんたちを呼びましょう!

 このほじくりだしたダイヤモンドで、道具を作ってもらおうじゃないか!



 ◇



 ひとまず、妖精さんたちに集会場へ来てもらった。

 集会場はキラキラきゃいきゃいと、とっても賑やかだ。

 ……ここでも、無心でお団子をこねる子がいるけど。

 お団子職人かな?


 まあそれはそれとして、まずは妖精さんたちの道具を見せてもらおう。

 材料を渡す前に、妖精さんの道具がダイヤモンド製であると、確認しておかないとね。


「今日は君たちの道具について、ちょっと聞きたいことがあって。それでみんなに、集まってもらったんだ」

「わたしたちのどうぐ? どうぐ?」

「これかな? これかな?」

「じまんのどうぐだよ! みて! みて!」


 道具について聞くと、みんなどこからか、様々な道具を取り出して見せてくれた。

 ……まあ、ちっちゃくて良くわからないんだけど。


「ちっちゃくて、良く見えませんね」

「いろいろなどうぐ、あるっぽいです?」


 ユキちゃんとハナちゃんも目を細めるけど、やっぱり良くわからないみたいだ。

 ということで、ここで――秘密兵器を投入だ!


「小さくて見えないのなら、拡大してしまえばいい。マイクロスコープを使おう」

「準備はしておきました。ノートPCに繋げてありますよ」

「準備ありがとう」


 通販で買った、わりと良い性能のマイクロスコープだ。かなり高価なやつ。

 これがあれば、妖精さんたちが暮らす……ちいさな世界の理解が深まる。


「なぞのどうぐ、きたです~」

「これは小さなものを、大きく見えるようにする道具だよ。さっそく見てみよう」

「あい~」


 ハナちゃんは、なんだかわくわくした様子だ。

 それじゃ道具を見せてもらって、マイクロスコープの凄さをご覧あれだね。


「誰か、道具を貸してくれるかな。大事に扱うよ」

「これどうぞ! これどうぞ!」


 ハナちゃんと良く一緒にいる妖精ちゃんが、なんかの道具を掲げている。

 キラキラ光る、透明な何かだ。

 お言葉に甘えて、これを借りよう。


「協力ありがとう。それじゃ、借りるよ」

「どうぞ! どうぞ!」


 ピンセットで謎の光るやつをつまみ、スライドガラスの上に置く。

 カバーガラスをかぶせることができないので、プレパラートは作らない。

 ただ試料を、観察台に置くだけ。

 試料が息で飛んで行かないよう、まわりをボール紙のわっかで囲って、観察環境完成だ。


 それでは――見てみましょう!


「倍率四十倍くらいで良いかな? ……あ、見えてきた」

「これは……スプーンぽいですね」

「俺には、しゃもじに見える」

「すくうやつっぽいです?」


 形はスプーンのようなしゃもじのような。まあそんな形だ。

 透明素材なので、なかなか分かりづらい。

 これはなんなのか聞いてみよう。


「これって、食器とかかな?」

「そうだよ! そうだよ! きのみをほじくるやつだよ!」

「そういう、どうぐですか~」

「まあ……スプーンという事ですかね」


 どうやら、これはスプーンのようだ。これで木の実を、ほじくるんだね。

 さて、ではこれが本当にダイヤモンドかだけど……。


「ユキちゃん、確認お願いしてもいいかな?」

「はい、大丈夫です」


 今度はユキちゃんがピンセットで妖精さんスプーンを持ち、なにやら確認し始める。

 息を吹きかけたり、ブラックライトで照らしたり。新聞紙の上に置いたり。

 しばらくあれこれと調べていき――。


「――ダイヤモンドで確定ですね。間違いありません」


 とのこと。よし、ダイヤモンドで確定ってことで良いだろう。

 妖精さん達は、ダイヤモンドを道具として使っている。結論が出た。


 ……ダイヤモンドという固い物質を、いったいどうやってこの形に加工できたのか。

 妖精さんたちには、まだまだ俺たちが知らない――何かがある。



 ◇



 妖精さんたちは、ダイヤモンドを道具にしていることは分かった。

 ということでさっそく、ほじくりだしたちびダイヤモンドを、妖精さんたちに見せてみる。

 どうやって加工するかは知らないけど、それは聞いてみるってことで。


「ざいりょうたくさん! いろいろつくれるよ! つくれるよ!」

「なにをつくりましょ~」

「ふくをつくるどうぐ、つくりましょ!」


 妖精さんたちはさっそく、ちびダイヤモンドを手に取る。

 ……道具を作るとは言っているけど、そこからどう加工するのだろうか。

 聞いてみよう。


「ねえ君たち、どの固い石をどうやって道具に加工するの?」

「こねるの~」

「おだんご、こねこね~」

「かたちをかえましょ~」


 ……こねる? お団子? 形を変える?


「こねるって何のことでしょうね?」

「いしをこねるです? むりです?」

「……見守ってみよう」


 ユキちゃんとハナちゃんが首を傾げたけど、俺も良くわからない。

 とりあえず、妖精さんたちを見守ろう。


「かたちをかえましょ~」

「こねこね~」

「わりとてごわい~」


 何名かの妖精さんが、手に取ったちびダイヤモンドをなんかしている。


 こねこね歌いながら……羽根がキラキラ光りだした。

 羽根の構造体に沿って――青っぽい光が流れる。

 その光景はとても幻想的で、ついつい羽根の美しさに目を奪われてしまう。


「きれいです~」

「ファンタジーですね……」


 ハナちゃんとユキちゃんも、その幻想的な光景にうっとりだ。

 しばし、妖精さんの輝きに見とれる。


「――できたよ! できたよ! かんたんなやつ!」

「こねました~」

「しっぱい~」


 あ! 羽を見ていたらもうなんか出来上がってしまった。

 注目するところ、おもいきり間違えた!


 ……まあ、それはもう一回やってもらうとして。

 妖精さんが、なんかしたやつを見てみよう。


「それじゃ、ちょっと見せてくれるかな?」

「どうぞ! どうぞ! かんたんなやつだよ!」

「わたしのはこねたやつだよ! こねただけ!」

「しっぱいしたやつ~……」


 ふむ。簡単な道具を作った子と、こねただけの子。

 そして、失敗しちゃった子か。

 ……失敗もするんだね。


 これらを、順番に見て行こう。三つとも観察台に置いて……と。

 では、拡大だ。


 ピントが調整されて、対象物が画面に映し出される。

 その映し出された、ちびダイヤモンドだったものは――。


「――形が、変わっている……!」

「……嘘みたいですけど、ほんとに変わってますね……」

「とうめいなおだんご、あるです?」


 妖精さんが「こねこね」したダイヤモンドは――形が、変わっていた。

 ちたま最高強度の鉱物を……「こねて」しまった。


 この妖精さんたち――とんでもないお団子職人だ!

 ダイヤモンドすら「こねこね」してしまう――特殊能力。

 想定外の、特技だ……。


「……まさか、鉱物をこねられるとは」

「分子構造とか、どうなっているんでしょうね……」

「さっぱりわからないけど、これは凄い」

「おだんごです~」


 俺とユキちゃんは衝撃でぷるぷるだけど、ハナちゃんはのんびりだね。

 丸くこねられたやつをみて、お団子を連想しているようだ。

 俺からすると、水晶玉だけど。


 三人の妖精さんがつくったのは、まずバールのようなもの。

 バールとは確定していないから、バールのような物と表現だ。


 次に、こねただけの丸いもの。ハナちゃんがおだんごと言っているやつだ。


 最後に……失敗しちゃったらしい、小惑星イトカワ形状のやつ。

 まあ、前衛芸術に見えなくもない。

 この失敗しちゃったやつについては、何を作ろうとしたのかは……聞かないでおこう。

 俺も前衛芸術の使い手なだけに、シンパシーを感じたもので。


 ――しかし、これは凄いな!

 ここまで自在に形を変えられるなら、そりゃあダイヤモンドを道具にもするというものだ。


 ダイヤモンドは、ちたま現代文明でも精密加工で使用されるほどだ。

 小さな道具が必要な妖精さんたちにとっては、うってつけの素材だろう。

 道具が小さければ、負荷分散が難しく強度が必要になる。もろい素材じゃどうにもならない。

 そんなとき、ダイヤモンドであれば……小さくても強度的に何とかなる。

 これは、妖精さんたちが必要に駆られて身につけた――知恵と能力なんだろうな。


「まさか、妖精さんに――こんな能力があるとはね」

「信じられませんが……信じるしかないですよね」


 俺とユキちゃんはこの凄さがわかるだけに、ぷるぷるしてしまう。

 普通はそれ、こねられないからね。


「いしをこねちゃうようせいさん、すごいです?」

「かなり凄いよ。石をこねるとか、普通できないから」

「きゃい~!」

「きゃい~! きゃい~!」


 ハナちゃんは、凄さがいまいち理解できなかったようだ。

 とりあえず、凄いとは言っておくけど。


 妖精さんも凄いと言われて、きゃいきゃい喜んでいるね。

 ……まあ、原理は良くわからないけど、これで妖精さんの道具素材はなんとかなる。

 あとはお任せして、道具を作ってもらおう。


「とりあえず、この透明なやつを使うのは大丈夫だよね?」

「だいじょうぶだよ! もんだいないよ!」

「こねられるよ! こねちゃうよ!」

「しっぱいもするけど、たまにだよ! たま~に!」


 問題ないようで、みなさんきゃいきゃいとお返事してくれる。

 さっき失敗しちゃった前衛芸術ちゃんは、しきりに「たま~に」とアピールしているけど……。

 ほんとに、たまに失敗するくらいなのかな?


 ……それは置いといて、俺がほじくったダイヤモンドはみんなあげちゃおう。

 だって、ダイヤモンドも換金するの面倒だからね。

 すぐにお金には出来ないから、持てあます。

 有効活用できる人がいるのなら、渡しちゃえだ。


「それじゃあみんな、これを持って行って道具を作ってね」

「ありがと! ありがと!」

「なにをつくろうかな! どんなのつくろうかな!」

「こねましょ~」


 持って行ってと伝えると、きゃいきゃいとちびダイヤモンドを抱えてぱたぱた飛んでいく。

 道具が出来たら、また見せてもらおう。

 あと、それほど数は無いから、大事に使ってもらおう。


「あんまり数はないから、大事に使ってね」

「わかったよ! きをつけるよ!」

「しっぱいしたやつ、さいりよう~」

「もっかいこねよ! もっかい!」


 大事に使ってほしいという気持ちは、伝わったようだ。

 こっちじゃ、それは貴重な素材だからね。

 ただ、再利用は出来るっぽい。それなら、失敗しても大丈夫そうだ。


「しっぱいしたやつ、こねなおすね!」


 さっそく再利用するようで、観察台に置いてあるイトカワを持って行った。

 また、こねなおすんだね。今度は、しっかり見ておこう。


「これもつかっていいよ! こねただけのやつ!」

「ありがと! ありがと!」


 お、素材を貰ったりもしているね。ハナちゃん曰く、お団子だ。

 ……これも、こねなおすのかな?

 仲間同士で助け合っていて、微笑ましい。


「しっぱいしたやつ、こねなおし~。ついでにこっちも、くっつけて~


 ――ん?


 なんだろ。前衛芸術ちゃんが、イトカワとお団子を――すりあわせ始めたぞ?

 ……くっつける?


「こねこねまぜまぜ~。――できあがり!」


 そして、イトカワとお団子が――ひとつになった。

 ――え?


「た、大志さん……。今の見ました?」

「見た。見てしまった」

「きゃい?」

「あえ?」


 ユキちゃんも見たようで、真っ青な顔でぷるぷる震えだす。

 二つあったダイヤモンドが――ひとつに。


 ちびダイヤモンドだった二つが――ちょっと大きなダイヤモンドに!

 こねて形を変えられるだけではなく――混ぜてしまえる!

 あり得ないことが……また起きた!


 これは……衝撃だ。個別の鉱石を、混ぜ合わせることが出来るなんて……。

 そして、これが可能と言うことは――。


「――ユキちゃん、俺は良い事を思いついてしまったよ」

「私もです」


 ユキちゃんに話しかけると、彼女も同じ事を考えたようだ。

 二人でぐふふと笑い合う。


「また、わるいおとなのかおです~」

「きゃい?」


 ――おっと! 顔に出ていた。

 平常心平常心。


 ……フフフフフフ。


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