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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第二章  活動開始
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第一話 顔テッカテカ、何とかしたいわ

 

「タイシ行っちゃったです……」


 ハナちゃんが心細そうに言いました。


「しょうがないさ、タイシさんだって家があるわけだし。また来てくれるって言ってたのだから、信じて待とう」

「あい~」


 ハナちゃんのお返事も、元気がありません。ハナちゃんはおにぎりをわけてくれて、やさしく頭を撫でてくれる大志に、よく懐いていたのでした。

 そして他のエルフ達も、大志が帰ってしまって、寂しそうです。今の所大志に頼るしかない、という事もあります。しかしそれ以上に、エルフ達は大志を大切な仲間だと思っていました。

 たった二日ですが、同じ釜の飯を食べ、一緒に食料を採りに行き、一緒に料理もしました。仲良く寝食を共にしたのです。そんな大志が帰ってしまった今、村の大切な住人が減ってしまったような、そんな寂しさをエルフ達は感じて居ました。


「さあさあみんな! とりあえず集会所で、タイシさんが来てくれるまでどうするか相談しましょう!」


 ヤナさんが皆に声をかけます。大志が来るのは二日後ですので、ここで待っていてもしょうがありません。


「そだな」

「ぼちぼちやんべ」

「まえよりずっとましだしな」


 エルフ達は、大志の去って行った道を名残惜しそうに見た後、ぞろぞろと集会場に移動していきました。おなか一杯食べられたので、足取りもしっかりしています。

 そうして移動する途中、ヤナさんに声がかかりました。


「おーい、ヤナ。ちょっとこっちに来てくれ」

義父(とう)さん? 何かあった?」


 ヤナさんのお義父さんが呼んでいます。そこにはひいおばあちゃんがいました。


「ばあさん、おなかが膨れて眠くなったみたいだ。どうする?」


 ひいおばあちゃんはもう、うとうとしています。この村一番の長老、お年寄りは寝るのも早いのです。


「それじゃあ、お年寄りと子供は先に家に帰ってもらおう。子供たちももう寝る時間だし。義父さんも義母さんもだよ。疲れているだろう?」

「そうするか。俺も今日は疲れたし、帰って寝るよ」

「それがいいよ。はい、これが家のカギ。念のためにカギかけておいて」

「わかった」


 周りを見ると、何人かのお年寄りと子供は、うとうとしています。今日も一日お疲れ様でした。


「すぴぴ」


 ハナちゃんも、いつの間にかおねむです。お腹いっぱいで幸せそうな寝顔でした。


「じゃあヤナ、あとは頼むな。ハナは俺が背負っていくから」

「わかった。ハナをお願い」


 ヤナさんは、ハナちゃんをお義父さんに任せて、集会場の方に行きました。

 そしてヤナさんのお義父さんは、ハナちゃんを背負って残った家族とおうちに帰ることにしたのですが……その道中。


「あえ~」


 すげしっ!


「うっ!」


 頭突きです。ハナちゃんの無体な寝相に、背負ったおじいちゃんは地味なダメージを受けていました。

 そんなこんなで、お年寄りと子供はおうちでおねむしてもらい、そのほかの大人たちは集会場で相談です。


「さて、それじゃ会議を始めますか」

「そだな」

「あんま話すことないけどな」


 エルフ達は車座になって相談を始めました。食糧難という、最大の危機は去りましたので、皆の表情も穏やかです。


「とりあえずは、タイシさんがまた来てくれるまで、このラーメンという食べ物と山菜で何とか凌ぐ、ということで問題ないですか?」

「そだな」

「ラーメン、あの量ならあと…………割といけるよな?」

「たまごはもうあと僅かだけど、また持ってきてくれるのかなぁ」


 脳筋エルフさん、指の数が足りなかった為、計算を途中で諦めました。まあ、大志が持ってきたラーメン、あと二百食ちょっとあります。まだまだ大丈夫ですよ。エルフ達にとってはラーメンもごちそうなので、これがあと数日続いたとしても、特に問題は有りません。


「まぁあまり贅沢は言わないことにしましょう。現時点で、もうかなり贅沢なわけですし」

「そだな」

「罰があたるわな」

「俺はこのラーメンさえあれば、割と生きていける。割と」


 割となんですね。まぁ基本的な栄養素は不足しますしね。知ってます? インスタントラーメンだけで生活すると、地味に体重減るんですよ。カロリー不足ですね。あと血圧が上がります。一緒に野菜も食べないと、やばいことになります。

 どうでもいいですか。ですよね。


「他に何か、やっといたほうがいい事って思いつきます?」


 ヤナさんが、引き続き皆に問いかけます。大志が居ない間、何もしないというわけにもいきません。


「は~い。私水浴びした~い。あとお洗濯も」


 一人の女子が、手を挙げて言いました。これから何をするかではなく、自分が何をしたいか、という話になってますね。会議の趣旨はいずこへ。


「そうよね、もう何日も体洗ってないわ」

「そだな」

「顔テッカテッカしてるとか、素敵じゃないわ」


 確かに皆、顔がテッカテカになり始めています。女子としては、あるまじき事態です。


「もう着替えもないし」

「炊事場に水はあるけど、食べ物扱うところで顔とか洗うのはちょっと、抵抗あるわよね」


 清潔にしようという案は、女子一同には納得のご意見だった模様。確かにここ何日か、エルフ達は水浴びすらできていません。そろそろ野性的なかほりが漂う頃合いです。年頃? の娘さんには耐えられないでしょう。


「あ~タイシさんによさげな川、というか水場聞いておけば良かったですね」

「そだな」

「まあ、忘れたものはしょうがあんめえ。明日探すか」

「そうすんべ」


 とりあえず、一つやることが決まりました。なんでも言ってみるものですね。


「でも、ここら辺の水結構冷たいんじゃね。炊事場に引いてある湧水? あれかなり冷かったし」

「そだな」

「うかつに水浴びしたら、風邪ひくかもな」


 そうなんです。湧水は元から冷たいし、このあたりの川も雪解け水で、かなり冷たくなっています。良いところに気づきましたね。


「じゃあ暖を取るための(たきぎ)も、拾っといたほうがいいな」

「そだな」

「昨日山菜採りしてた時も、結構薪になりそうなやつ落ちてたから、大丈夫だべ」


 一つの事が決まったので、他の事もとんとん拍子に決まっていきます。


「私はおうちのお掃除がしたいわ」

「そだな」

「素敵なおうち、ひかぴかにしたら、もっと素敵」


 おおむね、衛生面を整える方針になってきました。おなかが満たされたら、次は環境ですね。


「ではそうしましょう。それ位ですかね」


 ヤナさんが取りまとめます。皆おおむねそれでよい感じですが、ここで毒草マイスターがしゅぴっと華麗に手をあげます。


「水場を探すついでに、今日教わった以外の食べられる野草を探求するとか」

「却下だな」

「お前今日、毒草ばっか採ってたじゃんよ」

「今日あんな感じだったのに、どうしてそれを提案しちゃえるの? 逆にすげえわ」


 提案はよかったのですが、提案した人が問題でしたね。


「新たな野草を探すのは、止めときましょう。どんなものがあるかよくわかってませんし、ここはタイシさんに教えてもらったもの、だけで」


 ヤナさんも、マイスターのダメさ加減を知っていますので、即座に却下しました。ああ、哀れなマイスター。


「わざわざ危ないことする必要ないしな」

「一見うまそうなやつでも、なんかぴりりってするやつ、沢山あったよな」

「俺はそのぴりりとかふわっとかそういうのが、全く分かんないんだが」


 エルフ達も長年の森暮らしのおかげか、一応は感覚で食べられるもの、やばいものは見分けられます。が、万が一があります。ここは安全策を取ることにしました。

 エルフ達だって、錯乱して走り回りたくはないのです。


「では、明日は水浴びができる水場探し、薪拾い、家の掃除に水場が見つかったら、洗濯と水浴びでいきましょう」

「手分けすんべ」

「男衆は水場探しと、ついでに山菜採りで」


 ヤナさんが提案します。山を歩き回り体力が必要な探索班を、男達で固める方針ですね。


「女衆と子供、ご老人は掃除と薪拾いでどうでしょう」

「それでいくべ」


 反対意見は無いようです。会議はまとまりました。そして明日の予定が決まって、皆も一安心です。

 今日の仕事も終わり、皆そろそろ眠くなってきた頃合いですので、会議を解散しておうちにかえることにしました。


「それではみなさん、これで会議は終了します。明日もがんばりましょう!」

「「「はーい!」」」


 ヤナさんが、会議の締めの挨拶をします。エルフ達もそれを聞いて、集会場を後にしました。


「やっとお洗濯できるわ~」

「この顔のテッカテカ、きれいにできるのね」


 集会場を出た女子エルフ達は、ようやく衛生環境を整えられることになったので、各々張り切って居ました。顔がテッカテカを早くなんとかしたいのです。

 しかし、そんな彼女達をみて、あるエルフが言います。


「水場が見つかんなきゃ、そのまんまだぞ」

「「「あっ」」」


 会議が終わってから、そんな問題点を言う人がいます。もうちょっと、早くいってほしかった。有りますよねこういうの。


 水場が見つからなかった場合どうするか、は考えないことにして、エルフ達は、各々のおうちに帰っていきました。もうあれこれ議論するのは疲れたからです。


 なかったらその時はその時に考えよう。そんな感じになりました。


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