第四話 ミッション
「というわけで、湖が出来ました。これで思いっきり――遊んじゃいましょう!」
「「「わー!」」」
村に帰って、集会場に人を集めて計画を話してみた。
農業計画や運輸その他の計画は、もうちょっと練ってから。
いつまで水があるかも、わからないからね。様子を見てだ。
そしてこの計画を聞いたエルフたちは、水遊びができるとあって大はしゃぎだ。
「なにしてあそぼうかな~」
「フネのろうぜ、フネ」
「きょうそうすっか!」
もうなんかエルフカヌーを取り出したり、すでに水着姿の人も。
まだ準備中だから。まだ遊べないから。
「……とりあえず見張りや休憩所、安全装備など準備があります。遊ぶのはもうちょっとお待ちを」
「じゅんびがあるのか~」
「しかたなし」
「フネのおていれしとくわ~」
素直に聞き入れてくれたようで、一安心だ。
ライフセーバーは用意しとかないと、ちょっと怖いからね。
あとは暖を取る施設なり、場所なりも必要だ。
気温も水温は低くないとはいえ、体温以下ではあるからね。念のため。
「フ、フフフ……。またリア充イベントが」
「ユキ? どうしたです?」
そしてユキちゃんが若干胡乱な雰囲気だけど、ハナちゃんそっとしておいてあげて。
若い娘さんだから、色々あるんだと思う。
「それで、そのみずあそびってのは……わたしたちもできるんですか?」
「できたら、たのしそうかな~」
「あの、さどってところのしゃしんみたいなかんじで」
「それきになる!」
「んだんだ」
ほかのみなさんもユキちゃんをそっとしておいてくれるようで、彼女の様子には触れずに質問が飛んできた。
平原の人たちが、はいはいと手を挙げているね。
もちろん――ご参加いただけます!
「観光客のみなさんが参加できるよう、水着や色々な道具の貸し出しもしますよ」
「「「わーい!」」」
平原の人たち、大喜びだ。
彼らは佐渡旅行の写真展に入り浸っていただけに、喜びもひとしおかも。
佐渡と全く同じとはいかないけど、出来ることも沢山ある。
色々なイベント、考えて行こう。
「あのあの! このかわいいどうぶつちゃんとも、あそべる?」
「それだいじ!」
「んだんだ」
以前に来られたどうぶつ好きお姉さん、展示してある海竜ちゃん写真を指さして質問だ。
そして、その目はキラッキラ。
とにもかくにも、海竜ちゃんと遊びたいという意思が……ものすごい伝わってくる。
海竜は淡水でも活動できるから、これは問題ないね。
というか、海竜ちゃんだけじゃなくて――大人海竜たちも呼んじゃうよ!
「子供海竜ちゃんだけではなく、大人のでっかい海竜とも遊べるようにする予定です」
「キャー! かわいいどうぶつふえるのねー!」
動物好きのお姉さん、キャーキャーと大喜びしはじめた。
……海竜を招いた際には、思いっきり遊んであげてください。
「はい! しつもーん! ……このやきそばってやつ、たべられる?」
「それすっごいだいじ」
「みずうみをみながら、やきそばたべたい!」
「この、おさかなやいてるのもしてみたい!」
焼きそばについて質問が来たと思ったら、みなさんはいはいと手を挙げて次々に要望をしてくる。
水辺で鉄板焼きやら、バーベキューやらしたいってことだよね。
それはバーベキューセットを用意すれば出来るから、とっても簡単だ。
「それは可能ですね。材料は用意していないので、後日になりますが」
「ごじつか~」
「ざいりょうがないのね」
今日すぐにやろうと思えば、出来なくもない。ただ、あんまり慌ててもしょうがない。
材料をお安く揃えてから、後日やりましょう。
「参加希望者を募った後、材料をそろえます。後ほど募集しますので、みなさんどしどしご参加ください」
「「「はーい!」」」
平原の人たちのみならず、村のみなさんもお返事だ。……まさか全員参加?
……それはそれで、楽しいか。
みんなで焼きそば食べて、湖を眺めて楽しもう。
「あ、おれもしつもん」
「おれも」
「わたしも~」
他の方々も質問があるのか、次々に手が上がる。
それじゃ、要望の聞き取り含めて質問に答えていきましょう!
◇
「タイシ、おちゃです~」
「ありがとハナちゃん」
「うふ~」
さっきの会議で挙がった要望をまとめていると、ハナちゃんがお茶を入れてくれた。
気遣いのできる、良い子だね。ちなみに湯呑みは、俺自作の前衛芸術だ。
そして前衛芸術にお茶を注いだハナちゃんは、俺の右隣にぽてっと座り、にこにこ笑顔だ。
「お茶菓子もどうぞ。妖精さん特製の和菓子ですよ」
「ユキちゃんありがとう。これは、お茶と良く合うね」
「ふふふ」
そしてユキちゃんは、お茶菓子を持って来てくれた。
考え事のお供には、甘い物が良いね。
こちらも良く気遣いしてくれて、ありがたい。
……そしてなぜか、俺の左隣にぽふっと座って、にこにこし始める。
二人ともにこにこと俺を見ててくれるけど、水遊び計画が気になるのかな?
まあ、気にせず計画をまとめていこう。
まずは、要望のまとめだね。出てきた要望としては……。
バーベキューしたい、焼きそば食べたい、水辺でテント泊したいとかがあった。
これはいつでも実現可能だね。
あとは……フネに乗りたい、海竜と遊びたい、シュノーケリングしたい、などなど。
これらは、準備が整えば実現可能だ。
フネで湖を一周したいという要望もあるけど、ちょっと……今は無理かな。
これはいずれ調査しないといけないけど、かなりの準備が必要だから。
近間をぐるぐる周遊する、軽めのクルージングツアーなら……出来るかしれないけど。
「うふ~」
「ふふふ」
チェックリストにマルバツを付けて確認している間、ハナちゃんとユキちゃんはにこにこと見ている。
そんなに水遊びが楽しみなのかな?
こんな感じで、にこにこの二人に挟まれながら計画を立てていった。
とはいえ、リゾートの運営は丸投げする予定だ。
高橋さんをはじめとした、リザードマン世界の方々に、運営をお任せしてしまう。
彼らは水の専門家であり、水があるところならかなりつおいからね。
お任せしておけば、色々独自にしてくれると思う。
というわけだから、実のところ俺とエルフ村でなにかするということは……あまりない。
そもそも、エルフ村は人手が足りない。
村の観光地を運営しながら湖畔のリゾート運営は、ちょっと無理がある。
無理して両方運営すると、みんなずっと働き詰めになる。
目の前に美しい湖畔リゾートがあるのに、働くだけで遊べないという事態に。
それはさすがに、かわいそうだ。
それならば、運営を丸投げしてしまえば。
俺たちも観光客として、遊べるわけだ。
この考えは村のみんなには伝えてあって、同意を得られている。
理由を話すとき「無理しないで、みんなと湖畔でのんびり遊びたい」と言ったら、なんだか村のエルフたちはにこにことなった。
海あそびが楽しかったから、似たような遊びが出来るのが嬉しかったのかな?
「タイシ~。じゅんびができたら……ハナとあそんでくれるです?」
ハナちゃんがにこにこしながら、話しかけてきた。
それはもちろんだね。計画が実行できたら、さっそく遊びたい。
「もちろんだよ。海竜ちゃんも来るから、また競争しようね」
「ぐふふ~」
問いかけに答えると、ハナちゃんぐふぐふ状態に。
そして、なぜか浮き輪を膨らませ始めた。
いや……今膨らませても、使うのはまだ先だからね。
「大志さん、私とカヌーに乗ってくれます?」
「お誘い頂けるなら、ぜひとも。のんびりクルージングしようか」
「フフフ……順調」
ユキちゃんからの問いかけにも答えたら、謎のノートを取り出し何やら書き込みを始める。
今ちらっと「進捗状況」というタイトルが見えたけど……。
……まあ、若い娘さんには色々あるのだろう。
何の進捗かは分からないけど、恐らく触れてはならない物だ。
「ぐふふ~、ぐふふ~」
「フフフ……順調」
二人とも、頭の中は水遊びでいっぱいのようだ。
まああれだ。……ご機嫌なら、それで良いかな。
……ハナちゃんは浮き輪三つ目を膨らませはじめ、ユキちゃんはノート二冊目に突入だ。
二人とも、今から浮かれすぎではないだろうか?
◇
――翌日、湖畔にて。
「ここではたらくんですね!」
「でっかいみずうみがあるわ!」
「うおおお!」
「およぐぞー!」
高橋さんにお願いしていた、働き手がやって来た。
やってきたリザードマンは六人で、彼らが慣れたらさらに人を増やすらしい。
全員年が若いのか、体の大きさは百四十センチから、百六十五センチくらい。
そんな若々しいリザードマンたちは、湖を見て大はしゃぎだ。
「ほら、俺らの所……淡水湖ってあんまないからな」
「大きな島が、そもそもあまりないよね」
「そうそう。だからデカい淡水湖みたら、そりゃあはしゃぐってもんだ」
高橋さんの言うとおり、リザードマンたちは大はしゃぎで湖に走っていく。
ちなみに、女子も三名いらっしゃいます。
リザードウーマン? なのかな。
彼女たちも、女の子走りで湖に向かっている。
見た目はキバとかあるけど、リザードウーマンはお年頃の女性。
花を頭に飾ったりと、けっこう女子力が高い方々です。
しっぽの一撃は岩をも砕くけど、中身は夢見る乙女。
……魚を手づかみで捕ってもいるけど、乙女だからね。
「タイシ、あのひとたち……だんじょのみわけがつかないです?」
「色がちょっと赤っぽくて、体が細いのが女子だよ」
「あや~。びみょうなちがいです~」
「私も、あまり見分けが……」
ハナちゃんとユキちゃんは見分けがついてないみたいだけど、見慣れてくればすぐにわかるかな。
たぶん、今の二人は「見慣れていない人種は、最初全員同じ顔に見える」状態だろうから。
俺も幼稚園くらいの頃、テレビで外国の映像をみたとき、全員同じ顔に見えたからね。
それと同じだと思う。見慣れてくれば、簡単に見分けが付くようになる。
それに、リザードウーマンは……やっぱりどこか女性的だ。
歩き方からして、なんかちがう。しっぽの動きとか。
……まあ、リザードマンの男女判別については置いといて。
あとは、海竜ちゃんたちだね。
「ほら海竜ちゃん、あの湖で泳いで良いよ」
「ぎゃう!」
リザードマンたちの他には、海竜ちゃんたちを呼んだ。
とりあえずお試しということで、海竜ちゃんの他にはけっこうデカい海竜夫婦を連れてきてみた。
シャチの二倍くらいの大きさなんだけど、これでも年若くて体が小さい。
長老にもなると、クジラ並みの大きさになった個体もいるくらいだ。
いずれ、もっと大きな海竜たちも連れてきたいね。
「君たちも、好きに泳いで良いからね」
「がう!」
「が~うがう」
大人海竜たちにも泳いで良いと伝えると、大喜びで湖に向かっていく。
リザードマンたちと一緒に、湖を体験してもらって感触を掴んでもらおう。
「にぎやかになったです~」
「これから水着を販売したり、遊具を貸し出したりするよ。そうすれば、もっとにぎやかになるよ」
「たのしみです~」
ここにパラソルを立てて、イスを用意して。
集会用テントの休憩場や、食事を出す屋台を用意して。
さらに、遊具を貸し出す場所を作れば――ひとまず形は整う。
しばらくはリザードマンたちや海竜ちゃんたちと運営して、問題ないようなら丸投げフェーズに。
それが実現したら、俺たちも観光客として遊べる。
あとは……村のエルフもアルバイトしたければ、ここに働き口がある。
ちょっとしたお小遣い稼ぎや、家計の足しが欲しい時はどうぞいらっしゃいだ。
「そんで大志、遊泳禁止区域とかどうする?」
元気に遊ぶリザードマンたちと海竜たちを眺めていると、高橋さんが話しかけてきた。
遊泳禁止区域などなどをどうするかは、今まさに調査中だったり。
「設定はするよ。深い所とか、釣り場によさそうなところとか。その辺の判断は、あっちで泳いでいる水の専門家の意見を聞くとして」
「……あいつらをまず遊ばせたのは、そのためか」
「まあね。一通り遊べば、泳ぐのに良い場所や、釣りに良い場所もわかるだろうと思って」
「大志、そういうところ上手いよな」
「楽しく仕事が出来るなら、それに越したことはないさ」
水の専門家たちは、今元気に遊びまわっている。
一通り遊んでもらったら、いろいろ教えてもらおう。
さて、俺たちは施設の設営と行きましょうか!
◇
そうして準備を進める事、数日。ついに準備が整った。
さあ、湖開きをしようじゃないか!
「え~、本日はみなさまお集まりいただき、ありがとうございます」
「とうとうです~」
「ようやくこの日が!」
集まった村人や観光客に挨拶すると、最前列のハナちゃんとユキちゃんがまず反応した。
ハナちゃんは、浮き輪を抱えてお目々キラキラ。
ユキちゃんは、新しい水着を纏って気合十分である。
「こんなところに、みずうみができるなんてな~」
「じっさいにみると、でけええ~」
「きれいなみずうみ、いいかんじだわ~」
村人も観光客も、初めて湖を見た人たちはテンション最高潮の様子だ。
みんな水着を着ていて、泳ぐ気満々だ。
この水着は、季節外れだったのか在庫処分で大量に安く買えた。
これから観光客がどしどし来ても、余裕で販売できる在庫量がある。
……たった一ヶ月半くらいの差でお値段十分の一以下になるとか、アパレル業界も大変だ。
その恩恵を受けられたので、こっちは感謝だけど。
「ばう」
「ギニャニャ」
「ピヨ~」
今回は森の動物たちも招待しており、みんな湖に入りたくてうずうずしている。
佐渡旅行の時は、連れて行けなかったからね。
みんな思う存分、水遊びしてくださいだ。
あとは、妖精さんたちもお誘いしてある。
「みずあそび、ひさしぶり! ひさしぶり!」
「のんびりしましょ~」
「みすべで、おだんごたべよ! おだんご!」
洪水でえらい目にあった妖精さんたちだけど、トラウマもだいぶ治まった模様。
自作の水着を着こんで、きゃいきゃいとはしゃいでいる。
無心で、色んなお団子を量産している子もいるけど……。
まあ……お団子美味しいからね。沢山作ってね。
――さて、みんな水遊びしたくてうずうずしている。
ここは、長話はせずにさくっと行こう。
「本日から始まるこの観光地、運営するのはこちらの方々です」
「みなさん、よろしく!」
「こまったことがあったら、いってくださいね!」
「ぎゃうぎゃう」
「がう!」
運営主体の高橋さん世界の方々を紹介すると、ペコリとお辞儀して挨拶をしてくれた。
みなさん、頑張って稼いでください。
海竜ちゃんたちは、思いっきり遊んでください。
では、湖開きと行きましょう!
「それでは、これより湖開きです。みなさん思いっきり――水遊びをしてください!」
「「「わー!」」」
わーわーぱちぱちと拍手が沸き起こった後、みなさん湖に走り出す。
「まさか、またみずあそびできるとはな~」
「うみほどじゃないけど、これはこれですてき」
「おれのじまんのフネ、けっこうかりられてるのだ」
さっそくカヌーを浮かべて遊ぶ、村の方々。
のんびりと散策を始めているね。
「がうがう!」
「うわわわ! はやい!」
「きもちいいかな~!」
「どうぶつにのってみずあそびできるなんて、すごいわ!」
平原の人たちは、まずおとな海竜と遊ぶようだ。
背中に乗っけてもらって遊んだり、頭をなでなでしたり。
かわいい海竜と戯れて、ほくほく顔だ。
「ほらほら、どうぶつちゃんたち~! こっちにおいで~!」
特に、あの動物好きのお姉さんが喜んでいるね。
動物達に囲まれて、でれでれになっている。
存分に、お楽しみ下さいだね。
「タイシ~! ハナたちときょうそうするです~」
「ぎゃう~」
(ども~)
遊び始めたみんなを眺めていたら、海竜ちゃんにのったハナちゃんがやってきた。
競争のお誘いだね。
海竜ちゃんの背中には神輿も一緒に乗っていて、謎の声から挨拶も。
それじゃ、お誘いを受けましょう。
とはいえ……泳ぎだとすぐに離されてしまうわけで。
……あれだ、カヌーに乗って競争しよう。
これなら、海竜ちゃんにもついていける。
「自分はフネを使っても良いかな? それだと海竜ちゃんについていけるから」
「それでいいです~」
「ぎゃう」
良いみたいなので、早速カヌーをレンタルだ。
おっちゃん自慢のゴツいカヌーを借りましょう!
あと、ユキちゃんも誘わないとね。
「それじゃユキちゃん、一緒にカヌーに乗ろう」
「はい!」
元気よく返事したユキちゃんだけど、なんだかもじもじしている。
何かを期待するような目で俺を見ているけど……。
――おっと! 新しい水着だ。恐らくこれだ。
……新しい水着は褒めておかないと、後で恐ろしい事が起きる。とはお袋からの忠告だ。
もしこれを忘れたら……「――今、アナタノ後ロニイルノ」とかの電話がかかってきそうだし。
――実は飯綱のアレ、武田信玄が歴史を書き換えてしまっている。
それゆえ、あまり知られていない事がある。
飯綱のあの伝承、「本来」の存在は――怒らせたらヤバい。
渡来の、おっかない存在だ。
ユキちゃんが「本来」の系統を受け継いでいた場合――怒らせたら、まずいわけだ。
……というわけで、これよりミッションを開始する。
「そうそうユキちゃん、新しい水着も良く似合っていて、とても可愛いよ。イルカちゃん柄が良いね」
「ふ、ふふふふふ……」
――よし! ユキちゃんご機嫌になった。ミッションコンプリートだ。
……実際良く似合っていて、可愛らしいからね。お世辞ではない。
決して、祟りが怖いから褒めたわけではない。
ないのだ。――ないよね?




