第二話 訪れる観光客たち。しかし……。
「いや~、なんかいろいろかわってますな~」
「ちっちゃなひとたち、かわいいかな~」
「いろいろあったんですね」
「たのしいこと、たくさんあったです~!」
平原のお三方に村の変わったところを紹介すると、その変化に驚いていた。
神様が神輿で飛んでいるのを見て、驚いてお菓子をお供えし。
芽ワサビちゃんがぴちぴちする様子を見ては驚き、妖精さん居住区をみては驚き。
無線機を触ってはキャーキャー騒ぎ、佐渡旅行の写真を見せたら目が釘付けに。
おどろきっぱなしの、半日だったようだ。
「このうみってやつ、すごいですな~」
「おもいっきりおよげたら、たのしいかな~」
「みたこともないいきものがいますけど、このかたは?」
今は海水浴の写真を見て、お三方とも興味深々の様子だ。
そして、海竜ちゃんをみて首を傾げているね。
エルフ世界にはいない生き物だから、まあ当然だけど。
軽く、海竜ちゃんのことを教えておこう。
「この生き物は海竜ちゃんと言いまして、高橋さんのところの生き物です。とても賢くて、優しい子ですね」
「フネをひっぱってくれたり、せなかにのせてくれたり、とってもよくしてくれたです~」
「いいなあ~」
「フネをひっぱってくれるなんて、たのしそうかな~」
海竜ちゃんというかわいい生き物と遊んだと聞いて、お三方は大変うらやましそうな表情だ。
まあ……その辺のちたま人の方々も、それを聞いたらうらやましいと感じると思う。
恐竜はロマンだからね。
「うみ、いいですな~」
「こんなところ、あったらいってみたいかな~」
「すごいわね~」
「すごかったです~! またいきたいです~」
そして海という未知の環境を写真で見て、もうお目々がキラッキラだ。
ハナちゃんたちと同様、海に憧れをもったようだね。
ちなみに、ハナちゃんも佐渡旅行を思い出してお目々キラキラだ。
素敵な思い出になったようで、こっちもにこにこだね。
「タイシさん、このしゃしんって、まだまだあります?」
「もっとみたいかな~。うみ、すごいかな~」
「しゃしんをみているだけでも、たのしくなっちゃいます」
平原のお三方から、佐渡旅行の写真をもっと見たいと要望が来たね。
もちろん、まだまだあります。おびただしい量の写真が、あるんです。
村のエルフたちが撮った写真もあるから、とんでもない物量が。
というか、佐渡旅行の写真や映像を――集会場で展示してみようか。
お三方だけではなく、きっと他の観光客の方々も見たがるはずだ。
集会場に展示すれば、いつでも好きなときに見られるよね。
それなら、観光客のみなさん喜んでくれるかもだ。
「写真はもうほんと沢山ありますので、お見せしますよ。それと……集会場でこれらの写真を展示しましょうか?」
「あ! それはいいですね! ぜひともおねがいしたいです!」
「いろんなしゃしんがみられるのは、たのしいかな~」
「しゅうかいじょうに、いりびたっちゃいそうね!」
ほかの写真を出しつつ、集会場での展示を提案する。
それを聞いた平原のお三方は、もうキャッキャと大はしゃぎだ。
時間が出来たら写真を集めて、展示しよう。
また、集会場が華やかになるね。
こういう展示会、定期的にやって行くのもいいかもだ。
――そうしてキャッキャしながら、写真を見ていく。
何枚か写真を見ていくうちに、平原の人たちは――あるひとつの写真に注目した。
「……おや? これはみんなで、なにをしているしゃしんですかな?」
「つちをこねてるのかな~?」
「どきづくりですか? たのしそうですね」
平原の人たちが注目した写真は、陶芸教室の写真だった。
そういや、酸化鉄を含んだ赤土の話をまだしていないな。
説明しておこう。
「これは焼き物を体験する催しでして、みんなで食器を作ってます」
「やっぱり。これは……くるくるとまわすやつですよね?」
「ええ。こっちでは『ろくろ』といいまして、便利な道具ですね」
「わたしたちもつかってますけど、こっちではろくろっていうんですね」
彼らも知っている道具があるので、みなさんなんだか嬉しそうだ。
自分たちの世界と、俺たちの世界の共通点を見つけたのがうれしいのかもね。
「あれ? このつちって……あかいやつ?」
「うちのところにあるつちと、にてるかな~」
「このつちでどきをつくったら、われちゃいません?」
――お、赤土に気づいたね。
娘ちゃんは似てると言っているし、お母さんは割れちゃうと言っている。
無名異焼を説明する前に、彼らの土について聞いてみよう。
「みなさん、確か土器が割れて困っていたのですよね?」
「ええ。もりのそばにあるあかいつちだと、なんかわれちゃうんです」
「もろくて、いっつもこまってるかな~」
「あんまりわれるものだから……よそのもりにいって、どきをつくってます」
なるほど、こちらの予想通りだね。
それに赤土をなんとかする技術も、まだ開発されていないようだ。
それなら、ハナちゃんのアイディアが使えるね。
念のため、ハナちゃんに確認してから話そう。
「ハナちゃん、佐渡で思いついた事――役立ちそうだよ。話してみる?」
「うふ~、いけるかもです~。はなしてみるです~」
ハナちゃんは自分の発想が役立ちそうと聞いて、エルフ耳をぴこぴこさせた。
もし自分の案が誰かの役に立ったら、嬉しいからね。
それじゃ、確認も取れた。
焼き物について説明しつつ、ハナちゃんの案を提案してみよう。
「この赤土は、確かにもろくて……すぐ割れていたそうです」
「ほら、やっぱり」
「われちゃうの、どうしようもないかな~」
「ですよね」
すぐに割れると聞いて、やっぱりね顔のお三方だ。
……ぬっふっふっふ。
割れない焼き方があると聞いても、やっぱり顔のままでいられるかな?
「ハナちゃん、あの焼き物……今持ってる?」
「あるです~! いつでもだせるです~!」
「ふふふふ……それじゃ、自分が合図したら出してね」
「あい~!」
ハナちゃんと、無名異焼を出すタイミングをこしょこしょ打ち合わせる。
出来る事なら、びっくりさせたいからね。
では、無名異焼の説明を――始めましょう!
「ふふふふふ……しかし我々ちたま人はですね、この問題をなんとかしたのです!」
「しちゃったです~!」
「――え? なんとかしちゃった?」
「ほんとかな?」
「ちたま?」
なんとかしちゃったと聞いて、平原のお三方はお目々まん丸になった。
平原のお母さんは、疑問に思うポイントがなんか違うけど。まあそこはスルーして。
それでは――無名異焼のご登場でございます!
「ハナちゃん、お願い」
「あい~! これがなんとかしちゃったやつです~!」
「じゃじゃーん!」
ハナちゃんがどこからか、無名異焼の湯呑みをぴょいっと取りだす。
独特の赤い湯呑みは、なかなかの出来栄えだ。
……俺のは前衛芸術だから、ちょっと何に使うのか分からないからね。
ハナちゃんの作品を見て、判断してもらうって事で。
「お! なかなかのできばえですな」
「ちょっと、てにとってもいいかな~?」
「いいですよ? どうぞです~」
「どんなかんじかしら?」
目で見ただけでは分からないので、手にとって見てもらうことに。
そして――。
「――え? これなんか……カッチカチ?」
「キンキンおとがするかな~?」
「これは……」
だんだん、平原の人たちの顔が驚愕に染まっていく。
そう、手で持つと分かる。ただ土を焼いただけの物とは違う、その硬度と重さに。
この焼き物、元の大きさから三割も小さくなっている。
それくらい、焼き締まっていて高密度なのだ。
このため、他に類を見ない丈夫さと吸水性の無い焼き物となる。
「てざわりも、すごいなめらかですな……」
「これ、ほんとに、つちをやいたものなのかな……」
「こんなやきもの、つくれるなんて……」
手触りにも、平原の人たちが驚いている。
陶芸教室で説明してもらったけど、砂研磨という行程があるそうだ。
焼き上がった後砂で研磨して、光沢のある表面に仕上げるとのこと。
土で作った焼き物だけど、この行程を経るととても滑らかに。
陶器でありながら、磁器に近い質感。それが無名異焼きなのだ。
さらに、陶器としては最高強度である。
以上、陶芸おじさんからの受け売りでございます。
「こんな……こんなものが」
「……すごい、かな~」
「しんじられない……」
ハナちゃんの湯呑みをこねくりしながら、言葉少なげに見つめるお三方。
どうやら、この焼き物の凄さを分かって貰えたようだ。
では、ハナちゃんのアイディアを提案してみましょう!
「それでですね、この焼き方であれば……みなさんの森でも――固い土器が作れるかなと思ってまして」
「おもったです~!」
「「「――!」」」
平原のお三方、ばばばっとこちらに顔を向ける。
そう、もしかしたらそっちでも出来るかな、という訳ですよ。
「これ、わたしたちでも……できますか?」
「やってみないことには、分かりません。ただ、何もしないよりは良いかと」
「ちょうせん、あるのみです~!」
さんざん悩まされていた赤土だ、半信半疑なのも当然だね。
俺も上手く行くかなんて、分からない。
でも、何もしなければ――ずっとそのままだ。
ハナちゃんの言うとおり、挑戦する価値はあると思う。
「これ、いちぞくにしらせたら……」
「きっと、やってみたいっていうかな~」
「きいてみましょうよ!」
平原の人たちも、乗り気になってきたね。
もしかしたら、これで長年の悩みが解消されるかもしれないわけだ。
だんだん、お目々がキラキラしてきた。
「これって、どうやってやけばいいんですか?」
「しりたいかな!」
「おしえていただけると、うれしいです!」
お! 挑戦するみたいだ!
よし、決まりだね!
「タイシ~! どうやってやくです?」
「焼き方はね、ええと……」
ハナちゃんも、キャッキャして焼き方を聞いてきた。
焼き方は、焼き方……。
――あれ? どうやってやるんだろう。
一番重要な焼きの行程は、陶芸おじさんまかせなんだよね。
俺たちは、形を作っただけで。土の選別すらしてない。
焼き方を聞かれても――分からないね。
あれれ?
「タイシ、どうしたです?」
「……どうしました?」
固まった俺を見て、みなさんきょとんとした顔で見てくる。
……正直に言いましょう。分かりません!
「焼き方は、よくわかりません」
「……あえ?」
「ん?」
固く焼き締めるとは聞いたけど、具体的にどうやるとかは知らないんだよね。
窯の作り方もしらない。
「私、焼き物は詳しくなくて。具体的な方法は、作ってる人に聞かないと分からないですね」
「あや! そういえばそうです~!」
「ええ……」
ずっこけるみなさんだ。
盛り上げて落とす。良い感じにキマってしまった。
あっはっは。
ただ、ここまで期待させておいて「知りません」では済まされないわけだ。
とりあえず、どうするかは後で考えるとして、時間稼ぎをしときましょう。
「まああれです。作り方は知ってる人に聞いて、どうするか考えます。なんとかします」
「なんとかするです~。ハナも、きょうりょくするです~」
「というわけで、とりあえず別の焼き物を用意します。持ち帰って検討頂けたらと」
今あるのは、思い出の品だからね。
市販の物を渡して、それを持って帰ってもらって検討してもらおう。
焼き物は、まあ簡単には出来ない。
平原の人たちの森でやるにしても、会議と合意は必要だろうから。
「わかりました。タイシさんなら、なんとかしちゃいますからね」
「なんとかするの、いままでみてきたかな~」
「そこは、しんようできますので」
……良かった。なんとか納得頂けたようだ。
積み重ねてきた信用に、助けられたね。
いやはや、上手く収まって良かった良かった。
あとで、焼き方を調べてどうするか考えよう。
◇
それから、ぽつぽつと平原の人が訪れ始めた。
雨が上がった地域から、時間差で来ているとのこと。
「うごくしゃしん、すげえええ~」
「おさかなたくさんだ!」
「こんなのもあるなんて、いいですね!」
新たに訪れた平原の人たちは、集会場で展示を始めた佐渡旅行展に首ったけになった。
一日中、入り浸っている。
(にぎやか~)
「あ、かみさまだ」
「おそなえしとこう」
(ありがと~)
集会場では、神輿がほよほよ飛んでいる事が多い。
観光客は神様が動き回っているのが楽しいのか、遭遇する度なにかしらのお供え物をしている。
神輿もお供え物沢山で、キャッキャと喜ぶ姿が良く見受けられた。
「これが、れいのやきものですか」
「かてえ」
「すごいな~」
「こんなふうに、やけるのね」
そして参考展示してあった市販の無名異焼きを見て、平原の人たちもキャッキャする。
すごい欲しがったので、市販品を何点か雑貨屋に置くことになった。
「え! おれらのほうちょう、かってもらえるの!」
「どうぞどうぞ! たくさんありますよ!」
「わーい!」
エルフ包丁を買い取りますと言ったら、出るわ出るわ。
おびただしい量の在庫が、出来てしまった。
……陶芸おじさん、沢山売って下さい。ちょっとこれ、ヤバい量です。
「ユキさん! やくそうたくさんもってきました!」
「けしょうすい! けしょうすいほしいです!」
「おはだ! おはだをトゥルットゥルに!」
「え、ええまあ……」
そしてユキちゃんは、女子エルフたちの迫力にたじたじだ。
あの化粧水は、エルフ世界でなんか大ヒットしたそうだ。
これから彼女は、化粧水生産につきっきりとなる。
……がんばって頂きたい。
そんな感じで、だんだんと村が賑やかになっていった。
しかし、一つ気になることがあった。
それは――。
――あっちの森からの観光客が、なぜか来ないこと。
こっちはもう雨がすっかり上がっているので、時期的にはもう来れるはず。
何かあったのだろうかと、みんなが心配する。
特に、あっちの森出身のヤナさんが、一番心配していた。
「おかしいですね」
「どうしたのかしら?」
「しんぱいです~」
しかし、みんなで心配をするけど……。
俺たちには、確認する手段が――無い。
調査隊を送る事も検討中だけど、準備が必要になる。
「何も無ければ、良いのですけど」
「もどかしいですね」
「むせんきがあったらな~」
消防団員のみなさんと、検討会議をする。あっちの森と通信ができたら、と切に思う。
でも、実際問題とても難しい。なぜなら、あっちは異世界だ。
こっちの村から電波を飛ばしたって、届かない。インフラがどうこう以前の話だ。
どうにもならない、問題だった。
◇
あっちの森のことを心配して、調査隊派遣を検討してから数日。
ハナちゃんから電話で緊急連絡が入った。
『タイシタイシ~! もとぞくちょう、むらにきたです~!』
――良かった! 来られたんだ!
どんな状況か、聞いてみよう。
「それでハナちゃん、あっちの森はどうなのか分かった?」
『きいたです~。べつになにも、おきてないっていってたですよ~』
「そうなんだ」
『しおは、ふそくぎみだっていってたです~』
「それくらい?」
『あい~!』
……なんだか、いつも通りっぽいな。まあ、平和ならそれで良かった。
ふう~。緊張の糸が切れた。
何も無くて良かったけど、ほんとやきもきしたね。
でもこれで、村がまた観光客で賑わう。
人がもっと増えたら、色々考えていた企画を実行しよう。
「なんにせよ、なにもなくて良かったよ。これから自分も顔を出すから、元族長さんによろしくって言っておいて欲しいな」
『あい~! タイシからよろしくって、つたえるです~!』
安心したところで、村に向おうかな。
ほんと、電話って便利だ。
◇
「いやいや! タイシさんおひさしぶりです!」
「どうもどうも!」
「お二人とも、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「それはもう」
村に顔を出すと、元族長さんだけではなく、消防団長さんも訪れていた。
懐かしい顔ぶれだ。最後に合ったのは、もう一ヵ月半くらい前になるんだな。
二人とも元気そうで、ほっと一安心だ。
「しかし、むらがなんだかかわってて、おどろきました」
「あのむせんき! あれ! あれがすっごいです! このむらのしょうぼうだん、すごすぎる!」
一通り村を見たようで、元族長さんも団長さんも大はしゃぎだ。
団長さんは、この村の消防団の近代化に驚いている。
無線機に首ったけのようで、もう目がキラッキラだ。
やっぱり、無線機があると違うからね。
団員を組織的に運用出来るようになるから、従来とは異次元の水準で高度な組織が作れる。
「わたしたちのしょうぼうだんかつどう、みていきます?」
「おれら、むせんきをつねにもってていいんだ」
「これがあるおかげで、ほんとべんり」
ヤナさんや他の消防団員の方々、団長さんに見学のお誘いだね。
こちらの消防団活動を見学して、参考にしてほしいのかも。
「タイシさん、このむせんきって……あっちのもりでもつかえますか?」
「維持管理は結構大変ですけど、設備を揃えれば出来ますよ」
「おお! できますか!」
団長さん、さらにお目々キラッキラに。
実際この村では、でかいソーラーパネルで二台の大型充電器を使って電源を確保している。
一台はまるまる一日充電して、もう一台の電気を使う。
これを交互にくりかえして、常に電気に余裕がある状態にしている。
余裕があるので、プロジェクタで上映会も出来ちゃうくらいだ。
……そしていざというときは、電きのこちゃんがある。
わりと、電気が充実している村だったり。
あっちの森でも、似たようなバッテリ二台体制を組み上げれば……可能とは思う。
可能とは思うけど……。
「ちなみに、設備を全部揃えると……百万円ほどかかります」
「ぐああああああー!」
お金のない団長さん――撃沈。
そうなんです。お金がとってもかかるんです。
この村の無線設備と電源設備は、毎月コツコツ割賦で返済だ。
そうしたいとみんなが言ったので、受け入れたわけだ。
そう、エルフ村――借金を抱える、の巻。
無利子だから、まあコツコツ頑張って下さいだね。
しかし、ちょっと電圧と電流量の計算が面倒だけど、構成を変えることも可能と言えば可能だ。
バッテリの電圧とそれに伴う全体の電流量、そして使用機器の消費電力を計算しなおせば、三十万位の最小構成も作れるかな。
「最小構成なら三十万からですので、何とかなるかと思いますけど」
「あ、そういうのもあるんですね!」
団長さん――復活!
三十万くらいならね。なんなら、この村と同じく割賦でも良い。
「最小構成だと、無線機四台とソーラーパネル、そしてそれを維持するための装置ですね」
「むせんきが、よんだいですか……」
「一台は損耗予備ですので、実質三台しか同時に使えません」
「むむう……」
悩み始める団長さんだ。
これでどうやって運用していくか、悩ましいところはあるだろうね。
……というか、団長さんのポケットマネーで消防団を運用するのに、無理があると思う。
公共事業なんだから、集落単位か森単位で資金を募った方が良いかもだ。
これはその森や集落の方針次第なので、強制はできないけど。提案はできるかな?
でも、いずれそういう形に収まっていくんじゃないかな。
荷車の製作やら、そういう方式らしいし。
「とりあえず、団長さんの所属する集落の財産として、資金を募ったらどうですかね」
「しゅうらくの、ざいさんですか?」
「ええ。荷車と同じですよ。みんなの物として使うんです」
「なるほど」
「個人でするには、設備投資は負担が大きすぎます。ご検討下さい」
「わかりました。こんど、そうだんしてみます」
なんにせよ、今すぐ決められる事じゃ無いね。ご検討下さいだ。
それに前回だって、装備費はカンパしてくれた訳で。
きっと、みんな協力してくれると思う。俺は確信してる。
「まあ募る話もありますので、集会場でお茶でもしますか」
「そうですね。たちばなしもなんですし」
「しゅうかいじょう、いくです~!」
続きの話は、お茶を飲みながら。
妖精さんが作ってくれた和菓子もあるので、おやつを食べながら話そう。
妖精さんとナノさんの喫茶店も、着々と企画進行中だ。
ついでにお菓子の味の感想を聞きつつ、談笑しよう。
そうして集会場に移動し、縁側でひなたぼっこだ。
お茶をずずずとすすりながら、妖精和菓子に舌鼓を打つ。
「そういえば、やけにこられるのがおそかったですね」
お、ヤナさんが話し始めたけど、確かにそうだよね。
ヤナさんはあっちの森出身だから、雨期の終了後どれくらいで村に来れるかわかる。
一番気にしていたのも、ヤナさんだった。
実際、なんで遅くなったんだろう? 俺も知りたいところだ。
「それがな、おれらもあめがあがってすぐに、もりをでたんだよ」
「え? すぐにですか。それにしては……」
「まあこのはなし、つづきがあってな」
「はあ」
どうやら、雨が上がった後すぐに森を出たようだ。
それにしては到着が遅い点について、ヤナさんが首を傾げた。
でも、続きがあるらしい。なんだろ?
「もういちにちで、どうくつかなってところで――すすめなくなった」
「え? すすめなくなった?」
あと一日の距離で、進めなくなったと。
問題でも起きたのだろうか? リアカーが壊れたとか。
「これは、じっさいみたほうがはやいんじゃないかと」
「……見た方が早い、ですか?」
「ええ。どうくつからあるいてそれなりのところに、げんいんがあります」
え? 洞窟から歩いてそれなり?
平原の人たちは、何にも言ってなかったぞ?
「平原の人たち、特に何も言ってなかったですけど」
「はんたいほうこうですから、きづかなかったのかと」
……良くわからないけど、平原の人たちの移動経路とは違う所に問題があるらしいな。
まあ、見れば分かるって話か。
「それでは、これを食べたら……自転車に乗って見に行きますか?」
「あ、いいですね。いきましょう」
「わたしもいきます」
「ハナもいくです~!」
「わたしも」
ということで、俺とヤナさんとハナちゃん、そして元族長さんと団長さんで見に行くことに。
大人はマウンテンバイク、ハナちゃんはボスオオカミに乗ってだ。
みんなでのんびり、移動する。
そして、洞窟を抜けて元族長さんが案内する方向へと。
洞窟からだいたい……三キロから四キロくらい離れたところ。
「ほら、これですよ」
「こ、これは……」
「あやー! なんかすごいの、できてるです~!」
ヤナさんとハナちゃん、愕然とする。
俺もそのすごいやつの姿に、ちょっとびっくりだ。
「これ――湖、ですか?」
「たぶん」
ここは、森の境界らしい。
そこには――大きな湖が、存在していた。




