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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十二章 この世界に存在しない花
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第二話 訪れる観光客たち。しかし……。


「いや~、なんかいろいろかわってますな~」

「ちっちゃなひとたち、かわいいかな~」

「いろいろあったんですね」

「たのしいこと、たくさんあったです~!」


 平原のお三方に村の変わったところを紹介すると、その変化に驚いていた。

 神様が神輿で飛んでいるのを見て、驚いてお菓子をお供えし。

 芽ワサビちゃんがぴちぴちする様子を見ては驚き、妖精さん居住区をみては驚き。

 無線機を触ってはキャーキャー騒ぎ、佐渡旅行の写真を見せたら目が釘付けに。

 おどろきっぱなしの、半日だったようだ。


「このうみってやつ、すごいですな~」

「おもいっきりおよげたら、たのしいかな~」

「みたこともないいきものがいますけど、このかたは?」


 今は海水浴の写真を見て、お三方とも興味深々の様子だ。

 そして、海竜ちゃんをみて首を傾げているね。

 エルフ世界にはいない生き物だから、まあ当然だけど。

 軽く、海竜ちゃんのことを教えておこう。


「この生き物は海竜ちゃんと言いまして、高橋さんのところの生き物です。とても賢くて、優しい子ですね」

「フネをひっぱってくれたり、せなかにのせてくれたり、とってもよくしてくれたです~」

「いいなあ~」

「フネをひっぱってくれるなんて、たのしそうかな~」


 海竜ちゃんというかわいい生き物と遊んだと聞いて、お三方は大変うらやましそうな表情だ。

 まあ……その辺のちたま人の方々も、それを聞いたらうらやましいと感じると思う。

 恐竜はロマンだからね。


「うみ、いいですな~」

「こんなところ、あったらいってみたいかな~」

「すごいわね~」

「すごかったです~! またいきたいです~」


 そして海という未知の環境を写真で見て、もうお目々がキラッキラだ。

 ハナちゃんたちと同様、海に憧れをもったようだね。

 ちなみに、ハナちゃんも佐渡旅行を思い出してお目々キラキラだ。

 素敵な思い出になったようで、こっちもにこにこだね。


「タイシさん、このしゃしんって、まだまだあります?」

「もっとみたいかな~。うみ、すごいかな~」

「しゃしんをみているだけでも、たのしくなっちゃいます」


 平原のお三方から、佐渡旅行の写真をもっと見たいと要望が来たね。

 もちろん、まだまだあります。おびただしい量の写真が、あるんです。

 村のエルフたちが撮った写真もあるから、とんでもない物量が。


 というか、佐渡旅行の写真や映像を――集会場で展示してみようか。

 お三方だけではなく、きっと他の観光客の方々も見たがるはずだ。

 集会場に展示すれば、いつでも好きなときに見られるよね。

 それなら、観光客のみなさん喜んでくれるかもだ。


「写真はもうほんと沢山ありますので、お見せしますよ。それと……集会場でこれらの写真を展示しましょうか?」

「あ! それはいいですね! ぜひともおねがいしたいです!」

「いろんなしゃしんがみられるのは、たのしいかな~」

「しゅうかいじょうに、いりびたっちゃいそうね!」


 ほかの写真を出しつつ、集会場での展示を提案する。

 それを聞いた平原のお三方は、もうキャッキャと大はしゃぎだ。

 時間が出来たら写真を集めて、展示しよう。


 また、集会場が華やかになるね。

 こういう展示会、定期的にやって行くのもいいかもだ。


 ――そうしてキャッキャしながら、写真を見ていく。

 何枚か写真を見ていくうちに、平原の人たちは――あるひとつの写真に注目した。


「……おや? これはみんなで、なにをしているしゃしんですかな?」

「つちをこねてるのかな~?」

「どきづくりですか? たのしそうですね」


 平原の人たちが注目した写真は、陶芸教室の写真だった。

 そういや、酸化鉄を含んだ赤土の話をまだしていないな。

 説明しておこう。


「これは焼き物を体験する催しでして、みんなで食器を作ってます」

「やっぱり。これは……くるくるとまわすやつですよね?」

「ええ。こっちでは『ろくろ』といいまして、便利な道具ですね」

「わたしたちもつかってますけど、こっちではろくろっていうんですね」


 彼らも知っている道具があるので、みなさんなんだか嬉しそうだ。

 自分たちの世界と、俺たちの世界の共通点を見つけたのがうれしいのかもね。


「あれ? このつちって……あかいやつ?」

「うちのところにあるつちと、にてるかな~」

「このつちでどきをつくったら、われちゃいません?」


 ――お、赤土に気づいたね。

 娘ちゃんは似てると言っているし、お母さんは割れちゃうと言っている。

 無名異焼を説明する前に、彼らの土について聞いてみよう。


「みなさん、確か土器が割れて困っていたのですよね?」

「ええ。もりのそばにあるあかいつちだと、なんかわれちゃうんです」

「もろくて、いっつもこまってるかな~」

「あんまりわれるものだから……よそのもりにいって、どきをつくってます」


 なるほど、こちらの予想通りだね。

 それに赤土をなんとかする技術も、まだ開発されていないようだ。

 それなら、ハナちゃんのアイディアが使えるね。

 念のため、ハナちゃんに確認してから話そう。


「ハナちゃん、佐渡で思いついた事――役立ちそうだよ。話してみる?」

「うふ~、いけるかもです~。はなしてみるです~」


 ハナちゃんは自分の発想が役立ちそうと聞いて、エルフ耳をぴこぴこさせた。

 もし自分の案が誰かの役に立ったら、嬉しいからね。

 それじゃ、確認も取れた。

 焼き物について説明しつつ、ハナちゃんの案を提案してみよう。


「この赤土は、確かにもろくて……すぐ割れていたそうです」

「ほら、やっぱり」

「われちゃうの、どうしようもないかな~」

「ですよね」


 すぐに割れると聞いて、やっぱりね顔のお三方だ。


 ……ぬっふっふっふ。

 割れない焼き方があると聞いても、やっぱり顔のままでいられるかな?


「ハナちゃん、あの焼き物……今持ってる?」

「あるです~! いつでもだせるです~!」

「ふふふふ……それじゃ、自分が合図したら出してね」

「あい~!」


 ハナちゃんと、無名異焼を出すタイミングをこしょこしょ打ち合わせる。

 出来る事なら、びっくりさせたいからね。

 では、無名異焼の説明を――始めましょう!


「ふふふふふ……しかし我々ちたま人はですね、この問題をなんとかしたのです!」

「しちゃったです~!」

「――え? なんとかしちゃった?」

「ほんとかな?」

「ちたま?」


 なんとかしちゃったと聞いて、平原のお三方はお目々まん丸になった。

 平原のお母さんは、疑問に思うポイントがなんか違うけど。まあそこはスルーして。

 それでは――無名異焼のご登場でございます!


「ハナちゃん、お願い」

「あい~! これがなんとかしちゃったやつです~!」

「じゃじゃーん!」


 ハナちゃんがどこからか、無名異焼の湯呑みをぴょいっと取りだす。

 独特の赤い湯呑みは、なかなかの出来栄えだ。

 ……俺のは前衛芸術だから、ちょっと何に使うのか分からないからね。

 ハナちゃんの作品を見て、判断してもらうって事で。


「お! なかなかのできばえですな」

「ちょっと、てにとってもいいかな~?」

「いいですよ? どうぞです~」

「どんなかんじかしら?」


 目で見ただけでは分からないので、手にとって見てもらうことに。

 そして――。


「――え? これなんか……カッチカチ?」

「キンキンおとがするかな~?」

「これは……」


 だんだん、平原の人たちの顔が驚愕に染まっていく。

 そう、手で持つと分かる。ただ土を焼いただけの物とは違う、その硬度と重さに。

 この焼き物、元の大きさから三割も小さくなっている。

 それくらい、焼き締まっていて高密度なのだ。

 このため、他に類を見ない丈夫さと吸水性の無い焼き物となる。


「てざわりも、すごいなめらかですな……」

「これ、ほんとに、つちをやいたものなのかな……」

「こんなやきもの、つくれるなんて……」


 手触りにも、平原の人たちが驚いている。

 陶芸教室で説明してもらったけど、砂研磨という行程があるそうだ。

 焼き上がった後砂で研磨して、光沢のある表面に仕上げるとのこと。


 土で作った焼き物だけど、この行程を経るととても滑らかに。

 陶器でありながら、磁器に近い質感。それが無名異焼きなのだ。

 さらに、陶器としては最高強度である。

 以上、陶芸おじさんからの受け売りでございます。


「こんな……こんなものが」

「……すごい、かな~」

「しんじられない……」


 ハナちゃんの湯呑みをこねくりしながら、言葉少なげに見つめるお三方。

 どうやら、この焼き物の凄さを分かって貰えたようだ。

 では、ハナちゃんのアイディアを提案してみましょう!


「それでですね、この焼き方であれば……みなさんの森でも――固い土器が作れるかなと思ってまして」

「おもったです~!」

「「「――!」」」


 平原のお三方、ばばばっとこちらに顔を向ける。

 そう、もしかしたらそっちでも出来るかな、という訳ですよ。


「これ、わたしたちでも……できますか?」

「やってみないことには、分かりません。ただ、何もしないよりは良いかと」

「ちょうせん、あるのみです~!」


 さんざん悩まされていた赤土だ、半信半疑なのも当然だね。

 俺も上手く行くかなんて、分からない。

 でも、何もしなければ――ずっとそのままだ。

 ハナちゃんの言うとおり、挑戦する価値はあると思う。


「これ、いちぞくにしらせたら……」

「きっと、やってみたいっていうかな~」

「きいてみましょうよ!」


 平原の人たちも、乗り気になってきたね。

 もしかしたら、これで長年の悩みが解消されるかもしれないわけだ。

 だんだん、お目々がキラキラしてきた。


「これって、どうやってやけばいいんですか?」

「しりたいかな!」

「おしえていただけると、うれしいです!」


 お! 挑戦するみたいだ!

 よし、決まりだね!


「タイシ~! どうやってやくです?」

「焼き方はね、ええと……」


 ハナちゃんも、キャッキャして焼き方を聞いてきた。

 焼き方は、焼き方……。


 ――あれ? どうやってやるんだろう。


 一番重要な焼きの行程は、陶芸おじさんまかせなんだよね。

 俺たちは、形を作っただけで。土の選別すらしてない。


 焼き方を聞かれても――分からないね。

 あれれ?


「タイシ、どうしたです?」

「……どうしました?」


 固まった俺を見て、みなさんきょとんとした顔で見てくる。

 ……正直に言いましょう。分かりません!


「焼き方は、よくわかりません」

「……あえ?」

「ん?」


 固く焼き締めるとは聞いたけど、具体的にどうやるとかは知らないんだよね。

 (かま)の作り方もしらない。


「私、焼き物は詳しくなくて。具体的な方法は、作ってる人に聞かないと分からないですね」

「あや! そういえばそうです~!」

「ええ……」


 ずっこけるみなさんだ。

 盛り上げて落とす。良い感じにキマってしまった。

 あっはっは。


 ただ、ここまで期待させておいて「知りません」では済まされないわけだ。

 とりあえず、どうするかは後で考えるとして、時間稼ぎをしときましょう。


「まああれです。作り方は知ってる人に聞いて、どうするか考えます。なんとかします」

「なんとかするです~。ハナも、きょうりょくするです~」

「というわけで、とりあえず別の焼き物を用意します。持ち帰って検討頂けたらと」


 今あるのは、思い出の品だからね。

 市販の物を渡して、それを持って帰ってもらって検討してもらおう。

 焼き物は、まあ簡単には出来ない。

 平原の人たちの森でやるにしても、会議と合意は必要だろうから。


「わかりました。タイシさんなら、なんとかしちゃいますからね」

「なんとかするの、いままでみてきたかな~」

「そこは、しんようできますので」


 ……良かった。なんとか納得頂けたようだ。

 積み重ねてきた信用に、助けられたね。

 いやはや、上手く収まって良かった良かった。

 あとで、焼き方を調べてどうするか考えよう。



 ◇



 それから、ぽつぽつと平原の人が訪れ始めた。

 雨が上がった地域から、時間差で来ているとのこと。


「うごくしゃしん、すげえええ~」

「おさかなたくさんだ!」

「こんなのもあるなんて、いいですね!」


 新たに訪れた平原の人たちは、集会場で展示を始めた佐渡旅行展に首ったけになった。

 一日中、入り浸っている。


(にぎやか~)

「あ、かみさまだ」

「おそなえしとこう」

(ありがと~)


 集会場では、神輿がほよほよ飛んでいる事が多い。

 観光客は神様が動き回っているのが楽しいのか、遭遇する度なにかしらのお供え物をしている。

 神輿もお供え物沢山で、キャッキャと喜ぶ姿が良く見受けられた。


「これが、れいのやきものですか」

「かてえ」

「すごいな~」

「こんなふうに、やけるのね」


 そして参考展示してあった市販の無名異焼きを見て、平原の人たちもキャッキャする。

 すごい欲しがったので、市販品を何点か雑貨屋に置くことになった。


「え! おれらのほうちょう、かってもらえるの!」

「どうぞどうぞ! たくさんありますよ!」

「わーい!」


 エルフ包丁を買い取りますと言ったら、出るわ出るわ。

 おびただしい量の在庫が、出来てしまった。

 ……陶芸おじさん、沢山売って下さい。ちょっとこれ、ヤバい量です。


「ユキさん! やくそうたくさんもってきました!」

「けしょうすい! けしょうすいほしいです!」

「おはだ! おはだをトゥルットゥルに!」

「え、ええまあ……」


 そしてユキちゃんは、女子エルフたちの迫力にたじたじだ。

 あの化粧水は、エルフ世界でなんか大ヒットしたそうだ。

 これから彼女は、化粧水生産につきっきりとなる。

 ……がんばって頂きたい。


 そんな感じで、だんだんと村が賑やかになっていった。

 しかし、一つ気になることがあった。

 それは――。


 ――あっちの森からの観光客が、なぜか来ないこと。


 こっちはもう雨がすっかり上がっているので、時期的にはもう来れるはず。

 何かあったのだろうかと、みんなが心配する。

 特に、あっちの森出身のヤナさんが、一番心配していた。


「おかしいですね」

「どうしたのかしら?」

「しんぱいです~」


 しかし、みんなで心配をするけど……。

 俺たちには、確認する手段が――無い。

 調査隊を送る事も検討中だけど、準備が必要になる。


「何も無ければ、良いのですけど」

「もどかしいですね」

「むせんきがあったらな~」


 消防団員のみなさんと、検討会議をする。あっちの森と通信ができたら、と切に思う。

 でも、実際問題とても難しい。なぜなら、あっちは異世界だ。

 こっちの村から電波を飛ばしたって、届かない。インフラがどうこう以前の話だ。

 どうにもならない、問題だった。



 ◇



 あっちの森のことを心配して、調査隊派遣を検討してから数日。

 ハナちゃんから電話で緊急連絡が入った。


『タイシタイシ~! もとぞくちょう、むらにきたです~!』


 ――良かった! 来られたんだ!

 どんな状況か、聞いてみよう。


「それでハナちゃん、あっちの森はどうなのか分かった?」

『きいたです~。べつになにも、おきてないっていってたですよ~』

「そうなんだ」

『しおは、ふそくぎみだっていってたです~』

「それくらい?」

『あい~!』


 ……なんだか、いつも通りっぽいな。まあ、平和ならそれで良かった。

 ふう~。緊張の糸が切れた。


 何も無くて良かったけど、ほんとやきもきしたね。

 でもこれで、村がまた観光客で賑わう。

 人がもっと増えたら、色々考えていた企画を実行しよう。


「なんにせよ、なにもなくて良かったよ。これから自分も顔を出すから、元族長さんによろしくって言っておいて欲しいな」

『あい~! タイシからよろしくって、つたえるです~!』


 安心したところで、村に向おうかな。

 ほんと、電話って便利だ。



 ◇



「いやいや! タイシさんおひさしぶりです!」

「どうもどうも!」

「お二人とも、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「それはもう」


 村に顔を出すと、元族長さんだけではなく、消防団長さんも訪れていた。

 懐かしい顔ぶれだ。最後に合ったのは、もう一ヵ月半くらい前になるんだな。

 二人とも元気そうで、ほっと一安心だ。


「しかし、むらがなんだかかわってて、おどろきました」

「あのむせんき! あれ! あれがすっごいです! このむらのしょうぼうだん、すごすぎる!」


 一通り村を見たようで、元族長さんも団長さんも大はしゃぎだ。

 団長さんは、この村の消防団の近代化に驚いている。

 無線機に首ったけのようで、もう目がキラッキラだ。


 やっぱり、無線機があると違うからね。

 団員を組織的に運用出来るようになるから、従来とは異次元の水準で高度な組織が作れる。


「わたしたちのしょうぼうだんかつどう、みていきます?」

「おれら、むせんきをつねにもってていいんだ」

「これがあるおかげで、ほんとべんり」


 ヤナさんや他の消防団員の方々、団長さんに見学のお誘いだね。

 こちらの消防団活動を見学して、参考にしてほしいのかも。


「タイシさん、このむせんきって……あっちのもりでもつかえますか?」

「維持管理は結構大変ですけど、設備を揃えれば出来ますよ」

「おお! できますか!」


 団長さん、さらにお目々キラッキラに。

 実際この村では、でかいソーラーパネルで二台の大型充電器を使って電源を確保している。

 一台はまるまる一日充電して、もう一台の電気を使う。

 これを交互にくりかえして、常に電気に余裕がある状態にしている。

 余裕があるので、プロジェクタで上映会も出来ちゃうくらいだ。


 ……そしていざというときは、電きのこちゃんがある。

 わりと、電気が充実している村だったり。


 あっちの森でも、似たようなバッテリ二台体制を組み上げれば……可能とは思う。

 可能とは思うけど……。


「ちなみに、設備を全部揃えると……百万円ほどかかります」

「ぐああああああー!」


 お金のない団長さん――撃沈。

 そうなんです。お金がとってもかかるんです。

 この村の無線設備と電源設備は、毎月コツコツ割賦で返済だ。

 そうしたいとみんなが言ったので、受け入れたわけだ。


 そう、エルフ村――借金を抱える、の巻。

 無利子だから、まあコツコツ頑張って下さいだね。


 しかし、ちょっと電圧と電流量の計算が面倒だけど、構成を変えることも可能と言えば可能だ。

 バッテリの電圧とそれに伴う全体の電流量、そして使用機器の消費電力を計算しなおせば、三十万位の最小構成も作れるかな。


「最小構成なら三十万からですので、何とかなるかと思いますけど」

「あ、そういうのもあるんですね!」


 団長さん――復活!

 三十万くらいならね。なんなら、この村と同じく割賦でも良い。


「最小構成だと、無線機四台とソーラーパネル、そしてそれを維持するための装置ですね」

「むせんきが、よんだいですか……」

「一台は損耗予備ですので、実質三台しか同時に使えません」

「むむう……」


 悩み始める団長さんだ。

 これでどうやって運用していくか、悩ましいところはあるだろうね。

 ……というか、団長さんのポケットマネーで消防団を運用するのに、無理があると思う。


 公共事業なんだから、集落単位か森単位で資金を募った方が良いかもだ。

 これはその森や集落の方針次第なので、強制はできないけど。提案はできるかな?

 でも、いずれそういう形に収まっていくんじゃないかな。

 荷車の製作やら、そういう方式らしいし。


「とりあえず、団長さんの所属する集落の財産として、資金を募ったらどうですかね」

「しゅうらくの、ざいさんですか?」

「ええ。荷車と同じですよ。みんなの物として使うんです」

「なるほど」

「個人でするには、設備投資は負担が大きすぎます。ご検討下さい」

「わかりました。こんど、そうだんしてみます」


 なんにせよ、今すぐ決められる事じゃ無いね。ご検討下さいだ。

 それに前回だって、装備費はカンパしてくれた訳で。

 きっと、みんな協力してくれると思う。俺は確信してる。


「まあ募る話もありますので、集会場でお茶でもしますか」

「そうですね。たちばなしもなんですし」

「しゅうかいじょう、いくです~!」


 続きの話は、お茶を飲みながら。

 妖精さんが作ってくれた和菓子もあるので、おやつを食べながら話そう。

 妖精さんとナノさんの喫茶店も、着々と企画進行中だ。

 ついでにお菓子の味の感想を聞きつつ、談笑しよう。


 そうして集会場に移動し、縁側でひなたぼっこだ。

 お茶をずずずとすすりながら、妖精和菓子に舌鼓を打つ。


「そういえば、やけにこられるのがおそかったですね」


 お、ヤナさんが話し始めたけど、確かにそうだよね。

 ヤナさんはあっちの森出身だから、雨期の終了後どれくらいで村に来れるかわかる。

 一番気にしていたのも、ヤナさんだった。

 実際、なんで遅くなったんだろう? 俺も知りたいところだ。


「それがな、おれらもあめがあがってすぐに、もりをでたんだよ」

「え? すぐにですか。それにしては……」

「まあこのはなし、つづきがあってな」

「はあ」


 どうやら、雨が上がった後すぐに森を出たようだ。

 それにしては到着が遅い点について、ヤナさんが首を傾げた。

 でも、続きがあるらしい。なんだろ?


「もういちにちで、どうくつかなってところで――すすめなくなった」

「え? すすめなくなった?」


 あと一日の距離で、進めなくなったと。

 問題でも起きたのだろうか? リアカーが壊れたとか。


「これは、じっさいみたほうがはやいんじゃないかと」

「……見た方が早い、ですか?」

「ええ。どうくつからあるいてそれなりのところに、げんいんがあります」


 え? 洞窟から歩いてそれなり?

 平原の人たちは、何にも言ってなかったぞ?


「平原の人たち、特に何も言ってなかったですけど」

「はんたいほうこうですから、きづかなかったのかと」


 ……良くわからないけど、平原の人たちの移動経路とは違う所に問題があるらしいな。


 まあ、見れば分かるって話か。


「それでは、これを食べたら……自転車に乗って見に行きますか?」

「あ、いいですね。いきましょう」

「わたしもいきます」

「ハナもいくです~!」

「わたしも」


 ということで、俺とヤナさんとハナちゃん、そして元族長さんと団長さんで見に行くことに。

 大人はマウンテンバイク、ハナちゃんはボスオオカミに乗ってだ。

 みんなでのんびり、移動する。


 そして、洞窟を抜けて元族長さんが案内する方向へと。

 洞窟からだいたい……三キロから四キロくらい離れたところ。


「ほら、これですよ」

「こ、これは……」

「あやー! なんかすごいの、できてるです~!」


 ヤナさんとハナちゃん、愕然とする。

 俺もそのすごいやつの姿に、ちょっとびっくりだ。


「これ――湖、ですか?」

「たぶん」


 ここは、森の境界らしい。

 そこには――大きな湖が、存在していた。


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