表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十一章 エルフ農業(収穫祭)
159/448

第十一話 いいこと、あったです~!


 二時間ほど仮眠して目が覚めたけど、なんだかあんまり寝た気がしない……。

 ……やっぱり疲れてるのかな?

 最近色々忙しかったから、それが原因かな――て。


「ギニャ……ギニャ……」

「ニャ~……」

(むにゃ……)

「すぴぴ」


 ――原因、判明。

 みんな、なんで俺の上で寝てるの……?



 ◇



 とりあえず俺の上で寝ていたみんなを定位置に戻して、お仕事再開としよう。

 もう深夜になっていて、台風がそろそろ通り過ぎようとしている頃だ。

 ということで、起きているみんなと夜食を取ることにした。


「おにぎり、おいしいな~」

「塩味がきいてて、いいですね」

「あ、おみそしるもどうぞ」


 女性陣が作ってくれた夜食を、ありがたく頂く。

 親父とメカ好きさんは巡回中で、一足先に夜食は食べたようだ。

 ブラボーチームの無線を聞き逃さないよう、耳は無線に集中しとかないとね。


「しかし、いまのところたんぼにえいきょうがでてなくてよかったですね」

「あれがだめになると、こまっちゃうもんな~」

「このあめとかぜじゃ、タイシさんがピリピリするのもわかる」


 俺が仮眠している間に、二回ほど巡回をしたらしい。

 そして今のところ、異常なしとのこと。

 カミナリのほうは俺が仮眠に入ってから、一時間ほどズンドコ落ちていたらしい。

 今はもう静かなもので、カミナリは完全に治まったぽい。

 なので、もう近づいても大丈夫かな? という段階だそうだ。


 まあ、田んぼに影響がなくて俺もほっと一安心だ。

 ここで田んぼがやられると、エルフ越冬計画に大幅な修正が必要となる。

 それに、あれだけ苦労して作ったコメが収穫目前でダメになる、これは精神的に相当キツい。

 時間をかけて我が子のように育てた農作物がダメになる、ほんとこれはキツい。

 農家をやっていると数年単位でそういうことがおきるだけに、ピリピリもしちゃうね。


 この台風が過ぎたら、急いでコメを収穫しよう。

 そうすれば、危ない見回りもせずとも済む。

 俺たちも、出来ればやりたくないけど、仕方なしにやっているからね。

 しないで済むなら、それに越したことは無い。


「この台風が落ち着いたら、もうコメは収穫しちゃいましょう」

「とうとうですか!」

「ええ、とうとうです。これで、食べ物に困ることは……まあなくなりますよ」

「ようやくここまで……」


 ヤナさんに収穫の予定を伝えると、なんだかじーんとしてしまった。

 田植えに追肥に、雨の日も風の日も田んぼの見回りと、一生懸命やってきた。

 感慨深いだろうね。

 まあ、まだ小麦も残ってるんだけど。

 播種の時期がちょっと遅かったから、小麦はまだまだ時間がかかるんだよね。


「たくさんとれたらさ、おまつりしない?」

「まつり、いいね~」


 マイスターとマッチョさんも、収穫を楽しみにしているね。

 お祭りしようって話も出てきたけど、良いかも。

 収穫が終わったら、企画してみようか。

 小麦はまだだけど、コメが収穫出来たら祭りしちゃって良いよね。


 さて、あと一息だ。

 もうすぐ台風は通り過ぎる。あとちょっと。


 そうして夜食を食べて雑談をして、親父たちブラボーチームからの通信を待つ。

 この、待っている時間はやけに長く感じる。


 そうして、十数分ほど待った頃――。


『こちらブラボー、森の情報を確認した。報告することがあるのでこれより戻る。どうぞ』


 ――ようやく親父から、無線が入ってきた。

 報告したいことがあるそうで、戻ってくるのか。

 ……一体、何だろう。


「こちらアルファ、りょうかいしました。どうぞ」


 ヤナさんが了解し、返信を送る。これで親父たちが返ってくるのを待つだけだ。

 雨もすっかり落ち着いて、もう雨具なしでも問題ない程度になっている。

 もう、台風は過ぎ去ったから、これが今夜最後の巡回だな。

 あとは、夜が明けてからだ。

 明るくなってから、最終確認といこう。


「今戻った。もう台風は過ぎたな」

「ただいま~」


 そうしているうちに、親父とメカ好きさんが帰ってきた。

 二人とも特に疲れた様子もなく、まだまだ元気だね。

 それじゃあったかい味噌汁を飲んでもらって、落ち着いたら報告を聞こう。



 ◇



 あったかい味噌汁を飲んでもらって、ほっと一息。

 そろそろ落ち着いたろうから、報告を聞いてみよう。


「親父、報告したいことがあるそうだけど、なんかあった?」

「ああ、あった。まあちっとこいつを見てくれや」


 そうして親父は、アクションカムからメモリーカードを引き抜く。

 まずは動画を確認してってことか。

 それじゃ、早速ノートPCにセットして……と。


 外部メモリのマウントが完了し、フォルダが開く。

 いくつか動画ファイルが表示されたので、番号の若い順から再生していこう。

 一番若いファイルは……妖精さん居住区の辺りだね。丘になっているところだ。


「もうちょっと先だな、次の動画を表示してくれ」

「わかった」


 どうやらここは問題なかったらしく、次の動画を再生する。

 妖精さん居住区からちょっと下がったところ、森の境界の映像だ。

 ……凄い量の水が、森に流れ込んでるな。濁流だ。


「――これだ、ここを良く見てくれ。凄い水が流れ込んでるだろ?」


 親父がディスプレイを指さして、森に流れ込む濁流を指摘する。


 ……まあ、大雨が降っているからそういう事も起きるかもだ。

 しかし、親父的にはこれが問題っぽいな。眉を寄せている。

 何が問題と思っているのか、聞いてみよう。


「……親父、これの何が気になる?」

「二つある。まずは……こうならないように水路を作ったのに、なぜか森に集中して水が流れ込んでる点だ」

「……森に集中してる?」

「ああ。ほら……ここで水の流れが変わってるんだ」

「……確かに」


 親父が動画を止めて、映像内のある場所を指さす。

 そこは……周囲の水流が――なぜか一点に集まっていた。

 それを見た高橋さんも、眉を寄せる。


「変だな……こうならないよう、用水路を作ったはずなんだが」


 高橋さんがぽつりとつぶやいたけど、確かに用水路はそういう目的で作った。

 バックホウで突貫工事をしたものだけど、流路はそれなりに設計して作った――はずだった。

 ……なのに、水は森に集中して流れ込んでいる。

 まるで――用水路を無視するかのように。


「作った用水路を無視して、森に水が集中してるぽいね」

「ああ。それっぽい」

「さらにだ、続きみてくれよ」


 俺と高橋さんが首を傾げる中、親父が一時停止を解除した。

 動画の再生が再開され、こんどは森の下側に移動する様子が映し出される。


「ここだ。……大志、おかしいと思わないか? これ」

「どれどれ……あ!」

「な? 大志、やっぱりおかしいだろ?」

「親父の言うとおり、これはおかしい。明らかに変だ」

「何だこれ? ほんとにおかしい」


 親父がおかしいと指摘したそこは、俺も高橋さんも納得のおかしさだった。


「これ、なにがおかしいんです?」

「ふつうにみえるけど」

「なんだろ?」


 ヤナさんたちエルフ組はピンと来ていないので、説明しよう。

 とはいえ、凄く簡単な話だ。

 森にインプットされた水量に対して――アウトプットが異常に少ない。

 ただ、それだけだ。


「あんなに沢山水が森に流れ込んだのに――なぜこんなに出てくる水が少ないのか、ですね」

「え? ふつうですよね?」

「いつもどおりじゃん?」

「まえからこうだったよ?」


 ――なんですと?


 え? いつも通りなのこれ?


「みなさんの森って、こんなんなんですか?」

「ええ。おおあめがふると、ずんどこみずをきゅうしゅうしますよ」

「ズンドコ吸収しちゃいますか……」

「ええ、ずんどこ。……ふつうですよね?」


 普通じゃないよ……少なくともこっちの世界では。

 降った雨を、あるだけ吸収するとかしませんから……。


 ……あれだ、俺たちにとっちゃ異常でも……エルフたちにとっては日常なわけか。


「……親父、どうやらこれが普通らしいぞ」

「これが普通ったってなあ……」

「意味わかんねえ」


 親父も高橋さんも、もうお手上げ状態だ。その気持ち良くわかる。

 俺も意味わかんない。


 ただまあ、田んぼの用水路が無事なのも、理由はわかったね。

 森が水をズンドコ吸収しちゃうので、下の田んぼに濁流が押し寄せないんだ。

 田んぼの用水路の容量を超える水が――下まで流れて行かない、これだ。


 ……森が食いしん坊なおかげで、下の田んぼは助かったって事かもしれない。

 でなけりゃ、用水路の詰まりやオーバーフローは確実に起きていたはずだ。


 森のおかげで――俺たちは危険から遠ざかることが、できたんだと思う。


「親父、あの森のおかげで、下は水害から守られたんだと思うよ」

「……結果的か意図的かどうかは別として、それだったら大助かりだな」

「ZZZ」


 親父と顔を見合わせて、意味が分からないながらもひとまずの納得を得た。

 エルフの森――ありがとうって事で。


 こっちに来たエルフたちだけじゃなくて、俺たちも守ってもらったかな?

 ……不思議な森だ。そして意味わかんない。


 高橋さんなんて、意味わからな過ぎてもう寝てる。

 思考どころか意識も放棄してしまった。

 ……気持ちはわかる。俺ももう、寝たい。


「とりあえず、もんだいはないのですよね?」


 悩む俺たちをよそに、ヤナさんが手を挙げて確認して来た。

 ……問題はないって事で、良いと思う。


 俺たちが焦りっぱなしなだけで、エルフたちは落ち着いたものだ。

 日常にある事だから、焦る必要がないって事だもんね。


 そしてこの混乱、俺たち地球側の情報収集不足が招いたものだ。

 これは、反省しとこう。

 慌てる前に、エルフたちの話を良く聞こうねってことで。


 ――てことで、問題なしって事で締めくくろう。


「カミナリも水量も、問題なしって事にしましょう」

「ああ、もうそれで良いと思う。どうにもならんからな」

「ZZZ]


 地球側はもうそれで良いので、あとはエルフ側だね。


「みなさんはどうですか? 問題ないですよね?」

「ええ、ありません。いつものことですから」

「これは、もりがかなりげんきになったとおもうじゃん」

「あかるくなったら、かくにんしにいこうぜ」

「あしたは、おれらもむせんつかっていい?」


 エルフ消防団は、もうすっかり一仕事終えた感じだ。

 みんなも問題なしって事で良いかな。


 ……メカ好きさんは、無線を使いたくてしょうがないみたいだけど。

 明日、存分に使ってもらいましょう。


 あ、もしメカ好きさんのアレが離脱したら……。

 ……無線で呼んでもらえば良いか。



 ◇



 ――そして早朝。

 台風一過の快晴の中、台風被害の確認のため見回りを開始する。


「ハナもみまわり、てつだうです~」

「私はこっちの方を見ますね」

「てわけしてみまわるわ~」


 妖精さんとフクロイヌは安全のため集会場で待機だけど、村のエルフたちは早起きして見回りのお手伝いだ。

 ハナちゃんは俺のズボンのすそをクイクイしているので、一緒に見回りしたいみたいだね。

 ではお誘いしよう。

 俺とハナちゃんと、マイスターの三人組で見回ろう。


「それじゃハナちゃん、一緒に行こうか」

「あい~! タイシとみまわりです~」

「むせんき、こんどはおれがつかうじゃん」


 という事で、手分けして見回り開始だ。

 さて、どこから見回ろうかな?


「タイシタイシ~! きのこ! きのこがあるかみにいくです~!」

「お、きのこか。いいかも」


 ハナちゃんがしきりに、例のカミナリきのこを見に行きたがっている……。

 マイスターも賛成のようだから、まずは森を見に行こう。


「じゃあ森に行くよ。足元に気を付けてね」

「あい~!」

「いくじゃん!」


 そうしてぽてぽて歩くハナちゃんと一緒に、俺とマイスターも森に向かう。


『こちらチャーリー、温泉は泥とゴミが流入していて、大掃除が必要だ。どうぞ』

『こちらブラボー! たんぼはもんだいなし! ひがいはないです! どうぞ!』

『こちらエコー、三棟に雨どいが外れる被害が出ていて、修理の必要があります。どうぞ』


 森に向かう途中、続々と無線に報告が入ってくる。

 田んぼが被害ゼロなのは、本当に良かった。助かった。

 メカ好きさんが通信しているようで、妙に気合が入っているけど……。


 あと、温泉の被害については……まあ想定内だ。

 露天だから、どうしたって大雨が降ればこうなる。


 住宅の雨どいについては……雨が凄まじすぎて、ステーか連結部が耐えられなかったかな?

 まあ、雨どいは大雪対策で、わざと外れるようになっている。

 家本体にダメージを与えないためだけど、今回はそれが働いちゃったかもだな。

 それはまたはめればば良いだけなので、すぐに直せる。


 今のところ、主な被害はこれくらいか。被害は、殆どない感じだね。

 まだ安心は出来ないけど……少し気が楽になった。

 同行のハナちゃんたちにも、大きな被害はまだ確認されてない点を伝えよう。


「今の所、大きな被害は見つかってないみたいですね」

「よかったです~」

「おれらもかくにん、がんばろう」


 目だった被害がない事に喜ぶハナちゃんと、まだまだ気を抜かないマイスターだね。

 マイスターは消防団活動をしただけに、まだ仕事は終わってないのをよく自覚している。


 それじゃ、自覚も確認できたところで……マイスターに無線通信をやってもらおう。

 これから森に入って確認するから、まずはその報告だね。


「それでは、森に入る報告を無線でお願いします」

「おう! ほうこくするじゃん!」


 そうして、マイスターはいそいそとトランシーバーを取り出し送信ボタンをぽちっと押す。


「あ~。こちらデルタ。これよりもりのかくにんをはじめる。どうぞ」

『こちらアルファ、りょうかいしました。どうぞ』


 すぐさまヤナさんから返報が来る。しっかりモニタしてるね。


「おお~! じっさいにつかうとすげえ~! むせんきすげえ~!」


 実際に無線機を使ってみて、マイスターはいたく感動のご様子。

 こうして無線に慣れていけば、消防団活動でも有効につかえるだろうね。

 これからコツコツと、無線運用を覚えてもらおう。


 それはさておき、マイスターの報告も終わったから、森を確認するか。

 まずは、落雷のあったところからかな?


「では報告も終わりましたので、森に入りましょう。まずはカミナリが落ちた所の確認をしたいと思います」

「おう、がんばんべ」

「いくです~! きのこです~!」


 ということでさっそく森の中に入って、昨日落雷した木の所に向かうと――。


「――あったです~! きのこどっさりです~!」

「うおおおお! すげえたくさんあるじゃん!」


 ――木の根元に、怪しげなきのこが沢山出来ていた。

 でっかいしめじみたいなきのこなんだけど……かさに水玉模様がある。


 そして、水玉模様はなんだか――光っている。

 きのこにより光る色が違っていて、青く光っていたり緑に光っていたり、赤いのもある。

 ……これ、食べるの? ホントに? 見た目キツくない?


「これ! これがいちばんいいやつです~!」

「あかいやつじゃん! すげええ~!」


 ……俺の懸念をよそに、ハナちゃんとマイスターは大盛り上がりだ。

 なんか、水玉模様が赤い奴が良いらしい。一番見た目がアレなやつなんだけど……。

 ……もしかして、色が違うと味も変わるのかな?


「ハナちゃん、これって色で美味しさがかわるの?」

「あい~! このあかいのは、さいこうのやつです~」

「こんなたくさんあるのって、はじめてみた!」


 ハナちゃんとマイスター、大興奮だ。

 そうして興奮する二人から色々聞いた結果、色により等級があることが分かった。


 青は、かなりおいしいやつ。

 緑は、すんごくおいしいやつ。

 黄は、もうほんとおいしいやつ。

 赤が、とんでもなくしげきてきなやつ。


 ……だそうだ。


 赤だけ「おいしいやつ」という言葉が付かなかったのが、とっても気になる……。


「き~のこ、きのこ~、たくさんです~」

「こんだけあれば、しばらくくえるぞ~」


 そして歌いだす二人だ。もう嬉しくてしょうがないようだ。

 きのこの周りで、キャッキャと大はしゃぎだ。


 ……まあ、俺たちが天然マイタケを見つけたときみたいなもんか。

 天然マイタケは、ガチで美味しいからね。そんな状況なのかもしれない。


 他の木々にも、こんな謎きのこが沢山ある。

 カミナリが落ちた木は、だいたいきのこが生えてるっぽい。

 マイスターの言うとおり、これだけあればしばらく食べられるね。


 ……しかし、俺もこれ、食べなきゃいけないのかなあ……。

 きっとおすすめしてくれるよね……。


 ……まあ、いずれ来る試練の時は後で考えよう。

 きのこはこれで良いとして、森が水を大量に吸収していたのが凄い気になっているわけで。

 そこも含めて、もうちょっと森を確認しよう。


「二人とも、きのこはこれくらいにして、森をもうちょっと確認しよう」

「あや~、きのこ~……」

「きのこ~」


 ……きのこに首ったけのハナちゃんとマイスター、名残惜しそうだ。

 でもまあ、仕事があるからまずはそっちだね。


「ささ、見回り再開だよ」

「きのこ~、またくるです~……」

「まっててくれ~」


 きのこに手を振る二人と一緒に、ぼちぼちと森を移動する。

 そして――すぐに異変を見つけた。


 一本の木の(うろ)から――水が出ている!

 ぱしゃぱしゃと水が!

 さらにその洞から出る水が、ちょっとした泉を作っている!

 なにこれ! 幻想的!


「あや! みずがわいたです~!」

「いいことあったじゃん! さすがカミナリ!」


 泉を発見した瞬間、ハナちゃんとマイスターは泉に走っていってしまった。

 ちょ……安全を確認してから! 安全確認!


「それなりに、わいてるです~!」

「いいかんじじゃん。のんでみよう」

「あ……ちょっと!」


 止める間もなく、マイスターが泉の水を手にすくって、ゴクゴク飲み始める。

 安全確認……。


「けっこうおいしい。なんかちからでる」

「ハナものむです~」

「はい、ハナちゃんはもうちょっと待ってね。検査してからね」

「あえ?」


 ハナちゃんも飲もうとしたので、ひとまず止めておく。

 安全確認してからね。

 生水は検査しないと怖いからね。

 この村だって、湧水は検査してあるけど井戸は未検査だから、飲料用水にはしてないわけで。


 しかし、水がわいたか……。

 これやっぱり、昨日の豪雨を吸収したから、なんだろか。

 まあまあな感じで水がわいていて、ちょっとした泉と……川が出来ているね。


 この水が村に流れ込むと色々大変なので、流路を確認しておこう。

 村に流れ込むようだったら、用水路を作って誘導しとかないと。


「ちょっとこの川がどう流れているか、辿って確認しよう」

「あい。かくにんするです~」

「おう。いこうぜ」


 ぽてぽて歩くハナちゃんと一緒に、俺とマイスターも小川を辿っていく。

 川は森の中をくねくねと蛇行していて、透明な水が流れている。

 そして、その小川が朝日に照らされる様子は、とても風流だ。

 やっぱり、川があると景観もぐっと良くなるね。これはいいことかも。


「いいかんじです~」

「川があると、森がよりいっそう綺麗に見えるね」

「あい~!」


 キラキラと朝日を反射して輝く小川を、にこにこ顔で辿る。

 ささやかに流れる水の音も、また心地よい。


「なんか、おれたちがすんでたあっちのもりにちかづいてきたよな~」

「そうなんですか? みなさんの森の、かつての姿に近いと」

「おう。けっこうちかくなってるぞ」


 マイスターも、そんな小川を見ながらしみじみと言う。

 俺は灰色にサビた森しか知らないけど、マイスターが言うにはそうらしい。

 何か起こるたび、どんどんエルフの森が……往年の姿を取り戻していっているようだ。

 これも、良い事かな?


「かわ、こっちにむかってるです~」

「けっこう森中を巡ってるね」

「ふしぎです~」


 そうして、川をたどってぐるぐると森を歩き……とうとう森の外へ。

 どうやらこの川、外まで流れているようだね。

 それじゃ、森の外の流路も確認しよう。


「これ、どこまで続いてるんだろうね」

「けっこうあるいたです?」

「ひとばんで、こんなかわができるなんてな~」


 またもや川をたどって歩いていくと――ちょっとした池が出来ていた。

 まあまあな大きさの池で、水深は三十センチから五十センチくらい。

 池というか、大きな水たまりというか……。


 以前は無かった、エルフの森由来の池が出来ちゃったね。


 ……ん? そういえばここになんかあったような……。

 なんだっけ?



 ◇



 なんだっけと記憶をたどっていると……ふと、一つの穴を見つける。

 その穴は――柱を立てていた場所だった。

 あれ? この場所って――。


 ――あ! 元ワサビちゃん畑があったところ!


「あああ! ワサビちゃん畑だったところだ!」

「あやややや! ワサビちゃんのはたけ、いけになってるです~!」

「うわあ……かんぜんにすいぼつしてんじゃん……」


 移設前のワサビちゃん畑。

 つまり、ワサビちゃんの種がたんまり撒かれている場所が、池になってしまった。

 これは……やらかした。


「あっちゃ~……ワサビちゃんが種を撒いていた場所まで、気が回らなかった……」

「たいへんです~! タイシ、ワサビちゃんのたねがぶじか、かくにんするです~!」

「おれもかくにんするじゃん!」


 そうだ! まだ水没して間もないはずだから、水を抜けば間に合うかも!

 三人そろって、慌ててワサビちゃん畑だったところに駆け寄る。

 そして、種が無事かを確認するため――池を覗き込む。

 そこには……。


 ……ん? 水の底の方になにか……あるぞ。

 緑や青、それに赤や黄色の茎と、二枚のちっちゃな……葉っぱ?


 ……これは、まさか。


 ……まさか――芽?

 ワサビちゃんの種から……芽が出た?


「……芽、かな?」

「それっぽいです?」

「おれにも、そうみえるじゃん?」


 全員の意見が一致した。これは、そういうことだよね?

 なにをしてもぜんぜん芽が出なかった、あのワサビちゃん種子が――。


 ――発芽したんだ!


「――! ワサビちゃん、発芽来たー!」

「あやややー! たねがにょきったです~!」

「うおおお! めがでたー!」


 水没ワサビちゃん畑の水底には、三センチくらいの色とりどりな芽が沢山……沢山あった。

 ずっとずっと、気になっていたワサビちゃんの種。

 ワサビちゃんが一生懸命撒いていた、ちいさな種。

 全然芽が出なくて、ずっとずっと心配だった、あの種。


 そんな、沢山の種が――ついに発芽した!

 これは嬉しい!


 ……なんで突然芽が出たかは良くわからないけど、とにかくめでたい!

 原因は後で考えるとして、今は発芽を喜ぼ――。


「つんつんしてみるです」

「あ、なんかぷるぷるしてるな。くすぐったいのかな?」


 あ、感慨に浸っている間に……。

 ハナちゃんが木の棒を取り出して、芽をつんつんし始めた。


 つんつんされた芽は、水の底でぷるぷると葉っぱを震わせてる……。


 ……そこの二人、もうちょっと様子を見ようよ。

 ワサビちゃんの芽、すっごいぷるぷるしちゃってるよ……。


 ……あれ? ワサビちゃんの芽が集まってきたぞ。

 なんだこれ。


「あや! なんかあつまってきたです~!」

「おもしれえ! もっとつんつんしようぜ!」

「あい~!」


 ……だからね、もうちょっと様子を見てからね。

 こういう時は色々手順があると俺は思うわけでね。


「ちっちゃいの、たくさんあつまってきたです~!」

「すげえ~!」


 ――うっわ! ほんとにすっごい集まってきた!

 ちっちゃな芽がわっさわさ集まってきた!


 ぷるぷるしてて、なんか可愛い!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ