第十話 エルフの森、巡回します
やがて台風が本格的に接近したところで、ようやくカミナリが治まった。
ということで、急いでハナちゃんたちを家に帰すことに。
「それじゃハナちゃん、また明日」
「またあしたです~!」
「何かあったら連絡しますね」
ハナちゃんが元気に手をぶんぶんと降って、集会場を後にする。
ユキちゃんも無線機を取り出して、連絡要員としてお仕事だ。
「では、しょうぼうだんのみなさんがんばってください」
「おねがいするわ~」
「あさごはん、よういしておくね」
カナさんと腕グキさん母子も、その後に続く。
そうして、集会場はぷるぷる妖精さんとフクロイヌたち、そして消防団だけとなった。
(かみなり~! おそなえもの~!)
……おっと、神様もいらっさった。
カミナリが落ちるたびに、なんかほよっほよと光ってご機嫌だった。
エルフたちの話では、なんかきのこやらなんやらあるらしいからね。
それがなんなのか良くわからないけど、俺も楽しみにしておこう。
さて、そろそろ俺たちも巡回をしよう。
外はもう土砂降りなので、一回見回りをしておいた方が良い。
とりあえず第一陣は俺とマイスター、高橋さんとマッチョさんが巡回だ。
それじゃ――巡回開始だ!
◇
「こちらデルタ、森の方をこれより確認します。どうぞ」
『こちらチャーリー、俺たちは畑の方を確認する。どうぞ』
『こちらアルファ。デルタ、チャーリーどちらもりょうかいしました。どうぞ』
無線で連絡を取り合い、これからの行動を連絡し合う。
俺とマイスターはエルフの森、高橋さんとマッチョさんは田んぼを巡回だ。
何か行動する前は必ず通信して、司令部の了解を得る。
通信は簡潔に、一言二言で済ませ、速やかに行動だ。
――では、森に向かおう。
「これより森に向かいます、大丈夫ですか?」
「おう、まかせとけ」
ドッカンドッカンカミナリが落ちていたので、念のため森も確認だ。
マイスターも体力十分な様子なので、問題ないね。
「では、ゆっくり行きましょう」
「おう」
ということで、じわじわとエルフの森に近づいていく。
豪雨の中、ハナちゃんちの明かりを目印にして移動だ。
そしてハナちゃんちを通り過ぎようとしたところで、ふと窓を見る。
あ、ハナちゃんが手を振っているね。
ユキちゃんが無線を聞いていたから、近くに来るのが分かったようだ。
こちらも手を振りかえしつつ、ちょっと通信しておこう。
「こちらデルタ、今ハナちゃんちの横を通って森に向かう所です。どうぞ」
『こちらエコー、お二人を目視確認しました。どうぞ』
『こちらアルファ、りょうかいしました。どうぞ』
ユキちゃんやハナちゃんちにいる面々も、窓に集まって手を振っている。
これは、気合いが入るね。
『こちらエコー、ハナちゃんが「むりしないでね」と伝えて欲しいそうです。どうぞ』
「こちらデルタ、了解しました。『無理はしないから、安心してね』と伝えて下さい。どうぞ」
『こちらエコー、了解しました。どうぞ』
そうして、ユキちゃんがハナちゃんに伝える様子が見える。
それを聞いたハナちゃん、ぴょんぴょんと飛んで口をぱくぱくしているね。
ゴウゴウと雨が降っていて家の中の声は聞こえないけど、気持ちは伝わった。
それじゃ、無理せず頑張りましょうか。
マイスターと二人で家のみんなに手を振って、森の方へ足を進める。
「むせんがあると、こころづよいじゃん?」
「離れていても、意思を伝え合えますからね。気持ちも伝わります」
「がんばらなきゃっておもう」
「無理はせずに、程々に行きましょう」
「おう」
マイスターもハナちゃんの応援、の伝言を聞いて気合いが入ったようだ。
キリっとした表情で、森を目指す。
――と、森の入り口が見えてきた。
風に揺られてはいるけど、今のところ目立ったものは……。
……こころなしか、光る葉っぱや光る木の光が強いかも?
マイスターにも聞いてみよう。
「なんだか、光が強くありません?」
「つよいな。まあカミナリがおちると、だいたいこうなるじゃん?」
「カミナリのせいですか」
「おう」
どうやら、カミナリが落ちたのが原因らしい。
……そういや、森とかが元気になるってハナちゃんが言ってたな。
これは、元気になったって事なのかな?
「森が元気になったんですか?」
「たしょうはってところ?」
「多少はですか。まだまだ元気になったりします?」
「おう。カミナリがもっとおちれば、もっとテッカテカひかるじゃん?」
もっとカミナリが落ちれば、もっとテッカテカ光るらしい。
……良く分かんないけど、元気になるなら良いか。
それじゃ、この調子で森の外周を確認していこう。
「では、こっちから回って、まず森の外を見ましょう」
「おう」
なんだか輝きを増した森の外周を、マイスターと二人でテクテクと見て回る。
そして、移設したワサビちゃん畑が見えてきた。
この大雨の中、街灯はきっちり機能して周囲を照らしている。
さらには――。
「ぴっぴ~」
「ぴ~ぴ」
「ぴー」
LEDの明かりに照らされ、豪雨の中――ワサビちゃんがキャッキャしていた。
……なんだか、踊っているみたいに見える。
「……ワサビちゃん、なんだか踊ってますね」
「おどってるな」
「ぴ~」
「あ! 泳いでる!」
「こんなの、はじめてみるじゃん?」
さらには、豪雨で出来た水たまりをすいすいと泳ぐ個体も。
ワサビちゃん……平泳ぎ、出来るんだ……。
そして泳ぎ方は平泳ぎなんだけど、なんだか蠱惑的。
セクシー平泳ぎだね。
「……まあ、げんきしてるってことでいいじゃん?」
「それで良いですかね。この豪雨を堪能しているみたいで……」
「ぴっぴー」
泳げる植物、ワサビちゃん。LEDライトの下で、豪雨を満喫だね。
やっぱり植物だから、雨が降ると嬉しいのかも。
まあ、これも元気してるなら……それで良いか。
とりあえずこの面白現象は動画を撮っといて、後でみんなに見せよう。
……それと、動画は撮りっぱなしにしておこう。
まだなんか、変なことありそうだ。
「お、うごくしゃしんとるの?」
「ええ。司令部に状況を伝えるのにも、便利ですから」
「なるほど~」
そうして、豪雨でキャッキャワサビちゃんを動画に納める。
……あ、水泳競争を始めた。もの凄い遊んでる。応援団もいる。
なんだかなあ……。
……もしかして、ワサビちゃんたち雨が降るたびにこんな遊びしてたの?
「……何でしょうね、これ」
「なんだろな」
「ぴぴ~」
「ぴっぴっぴ」
「ぴ~」
ワサビちゃん、まだまだ――謎が多い植物である。
◇
『こちらチャーリー、田んぼは異常なし。そろそろ戻る。どうぞ』
『こちらアルファ、りょうかいしました。どうぞ』
「こちらデルタ、森はまだ確認中。もう少し確認してから戻ります。どうぞ」
『こちらアルファ、りょうかいしました。デルタはひきつづきかくにんおねがいします。どうぞ』
ワサビちゃん水泳大会を眺めていたら、高橋さん組は田んぼの確認を終えたようだ。
こっちも確認を急ごう。
「こちらデルタ、確認が終わったら連絡します。どうぞ」
『こちらアルファ、りょうかいしました。どうぞ』
そうして、引き続き豪雨の中確認作業を続ける。次は森の中だ。
……カミナリがちょっと怖いけど、身代わり地蔵もあるからなんとかなる。
落雷が直撃しても、身代わりになってくれるからね。
お地蔵さん、お願いしますだ。
「……では、森の中を見てみましょう」
「おう。なんかいいこと、おきてるかな~」
落雷があると良いことがあるらしいので、マイスターはウッキウキだ。
俺はちょっと怖いんだけど……。
まあ、慎重に行きましょうだね。
そうして、森の中に足を踏み入れる。
木々があるせいか、なんだか雨があんまり降っていない。
森の外はゴウゴウ大雨なのに、森の中はパラパラ小雨だ。
そして、光がなんだか強い以外は、特に異常は無い。
マイスターにも、異常は無いか聞いてみよう。
「何か気づいたことありますか?」
「いんや。おおあめがふったときは、だいたいこんなんだ」
「大雨の時は、だいたいこうなんですか?」
「おう。ふつうだな」
どうやら普通らしいので、良しとしよう。
……良いんだよね?
良くわからないまま、なんだか明るくなった森の巡回を続ける。
そして、半分くらい見回ったところで――。
肌に、なにかビリビリと来るものを感じた。
それは――直感。
カミナリが――ここに落ちてくる!
「伏せて下さい! カミナリが来ます!」
「え? え?」
「失礼!」
――間に合え!
直後――目の前が真っ白になり、バリバリバリ! という轟音に包まれた。
そして、耳がキーンとなって何も聞こえなくなる。
マイスターは……上手くかばえたね。一緒に地面に伏せている感触がある。
さて、俺の体は……特に何も無いな。
目が閃光でチカチカして、耳がキーンとしているだけだ。
身代わり地蔵が発動した形跡もないから、うまく避けられたかな?
……さて、目もだんだん見えるようになってきたから、マイスターの無事を確認しよう。
「ケガはありませんか?」
「――! ――!」
耳がキーンとしていて良くわからないけど、大丈夫っぽい仕草だ。
そして、何かを指さしてキャッキャしている。
なんだろ――て。
……なに、これ?
「――――! ――!」
マイスターが指さす先、そこには――輝く木々があった。
――なに……これ?
◇
輝く木々は、葉っぱや木の幹に幾何学模様……まるで――螺旋のような模様が浮かび上がっていた。
そして、その模様に光が通っては消え、通っては消え。
光が循環しているように見える。
「――カミ……がおち……と、こん……かんじ……」
だんだん耳も聞こえるようになってきた。マイスターのキャッキャする声が、聞こえてくる。
そして――またちょっと離れたところに落雷が!
――今度は見えた!
木が――雷を吸い取った! 不自然に雷光が曲がったぞ! 直角に!
そして……雷を吸い取った木は……螺旋のような幾何学模様が浮かび上がり――明滅を始めた。
この森、雷を……吸収している? もしくは、充電している?
『こちらエコー! こちらエコー! デルタ応答して下さい! どうぞ!』
『デルタ! 何かありましたか! どうぞ!』
そして、無線機から声が聞こえているのに気づく。
……耳がすっかり聞こえるようになったみたいだ。
無線から、ヤナさんやユキちゃんが必死で呼びかける声が聞こえてくる。
早いところ、応答しないと。
「……こちらデルタ、二人とも問題なし。どうぞ」
『無事ですか! 二人とも! 落雷がありましたが、大丈夫ですか!』
ユキちゃん慌てすぎて、コールサインやら色々忘れている。
これは相当心配かけちゃったな。
また落雷があるとさらに心配かけるから、さっさと森を出よう。
「ユキちゃん落ち着いて……。こちらデルタ――問題なし。……ただ、報告したいことがありますので、指令部に戻ります。どうぞ」
『こちらアルファ……ごぶじでなによりです。きかんをおまちします。どうぞ』
『……こちらエコー、私も行きます。どうぞ』
無事と報告したので、ヤナさんもユキちゃんも落ち着いたようだ。
無線機が無事で良かったね。でなかったら、森に駆けつけてしまったかもだ。
……ただ、恐らくだけど……ぶっちゃけ森の中にいれば落雷は安全かと思う。
かなり近い所に落雷したはずなのに、無線機もカメラも無事だ。
木々が落雷を吸収してしまうので、真上に落ちてきても影響が出ないんじゃないか?
でも、心臓に悪い。ほんとビックリした。
残念だけど、森の巡回はこれ以上は止めだ。また、カミナリ祭りになりそうだし。
――それじゃ、集会場に戻ろう。
「それでは、戻りましょう」
「おう。いいもんみれた」
「凄かったですね、あれ」
マイスターと軽く話すと、もう目がキラッキラだ。
これは、そうとう感動しているな。
「あれ、めったにみれないんだぜ。……うごくしゃしん、とれた?」
「もうバッチリですよ」
「やったー!」
動画撮影ができたと聞いて、マイスターはもう大はしゃぎだ。
さらに目がキラッキラになった。
……そして、これでエルフたちが雷を怖がらない理由――分かったね。
森がカミナリを吸収するから、森の中にいれば安全なんだ。
そういうことなんだ。
「あした、みんなにもみせてあげたいじゃん?」
「みんなを集めて、見てもらいましょう」
「いいねいいね! みんなよろこぶじゃん!」
そうして、マイスターとキャッキャしながら森を出ると――。
「――大志さん! ご無事で!」
「タイシ~! カミナリ、どうだったです?」
「すごいおとがしたわね~」
「けがはない?」
「だいじょうぶですか?」
ユキちゃんとハナちゃん、そして腕グキさん母子とカナさんが家から出てきた。
俺たちが出てくるの、見えたみたいだね。
無事なのを伝えよう。
「ユキちゃん、心配してくれてありがとう。かすり傷一つ無いよ」
「ほんと、良かったです……もう気が気じゃなかったです……」
「あえ? もりのなか、カミナリおちてもだいじょぶです?」
「こっちでは、カミナリは危ないものなの……」
「あえ? あぶないです?」
真っ青な顔のユキちゃんと、のんびりしたハナちゃんで温度差があるね。
まあ、アレを知らなきゃそうもなるし、知ってればこうもなるか。
「ユキちゃん、心配かけてごめんね。詳しいことは指令部で話すから」
「分かりました……とりあえず集会場に行きましょう」
俺もマイスターも平気そうな様子を見て、ユキちゃんもほっと一安心だね。
顔色も戻ってきた。ほんと、心配かけてごめんなさいだ。
それと……ハナちゃんに、カミナリ凄かったって伝えとこう。
動画も撮ったから、見せてあげなきゃね。
「ハナちゃん、カミナリ凄かったよ。動く写真を撮ったから、見せてあげるね」
「あや! うごくしゃしんあるです!」
動画を撮ったと伝えたら、ハナちゃんのエルフ耳がぴこんと立った。
滅多に見られない光景らしいからね。貴重な映像だ。
「すげかったぜ~! きっとびっくりするじゃん?」
「たのしみです~!」
「え、ほんと? みたいわ~」
「わあ! みたいわ! はやくいきましょ!」
「うごくしゃしんということは、くりかえしみられますね! それをみれば、おえかきできそう!」
焦るユキちゃんとは違って、エルフたちはのんびりキャッキャだ。
それじゃ、集会場に行きましょう!
◇
――集会場に戻って、携帯用ガスコンロでみそ汁を暖め直し、ほっと一息。
そうしてみそ汁を飲みながら、俺とマイスターが見た現象を説明する。
「――というわけで、こんな出来事がありました」
「意味分かんねえ」
「何じゃそら」
「ええ……?」
解説も交えながら動画を見せると、こんな反応だ。
まず高橋さんの第一声が「意味分かんねえ」だった。
だよね。俺も良く分かんない。
……ちなみに親父とユキちゃんは、二人とも口あんぐりだ。
親父が「何じゃそら」で、「ええ……?」がユキちゃんだね。
二人ともそれ以降、口を開けたまま硬直だ。
あんまりな動画だったので、事態について来れてないようだ。
だよね。俺も良く分かんない。
「おおお! うごくしゃしん! よくとれてますね! すごい!」
「きれいです~! めったにみれないやつ、とれてるです~!」
「これは! おえかきしなきゃ!」
ハナちゃん一家はそれはもう大はしゃぎで、動画を見て大喜びだ。
……あとカナさん、お絵かきはまた明日ということで。
そのお絵かき道具は、とりあえずしまっておいてくださいね。
「すげえじゃん! やったじゃん!」
「うおお~! おれもいきたかった~!」
「きれいね~」
「こんなにはっきりうつってるとか、すてき」
そしてマイスターたちも、動画を見て大はしゃぎだ。キャーキャーとノートPCを取り囲んでいる。
レア現象をくりかえし見られるのが、とてもウケたようだ。
動画撮っといて良かった。
というか、もうPC勝手に使ってるね。
……いつの間に操作方法覚えたの?
普通にマウスと動画プレイヤー使えてるんだけど……。
「……それで、エルフの森が落雷を吸収してるのか?」
「らしいね。あれだけ落雷受けても、俺たちなんともなかったよ」
「意味分かんねえ」
エルフたちがPCを勝手に使っている事にちょっと驚いていると、親父が解凍した。
解凍した親父は、俺が述べた見解を確認してくる。
……高橋さんは、相変わらず「意味分かんねえ」だ。
だよね。俺も良く分かんない。ただの推測だ。
「これは、もりがげんきになりますよ!」
「このカミナリおっこちたきのところに、きのこにょきにょきです~!」
じゅるりとしたヤナさんがカチカチとPCを操作して、動画をまた再生する。
そしてそれを見たハナちゃんはお手々を広げて、きのこにょきにょきを笑顔で表現だ。
「うおおお! あれがくえるのか! たのしみ~」
「うめえんだよな~あれ」
「わたしは、にものがすきね~」
「わたしはやいたのがすき」
他のエルフたちも、意味が分かってない地球側と違ってそれはもうキャッキャとはしゃぐ。
……俺もそのきのこ、楽しみだよ。どんな味がするんだろうね。
きっと美味しいんだろうな。美味しいと良いな~。
――ハッ。現実逃避しかけた。いかんいかん。
「……大志さんたちのは良くわからないとして、田んぼの方はどうでしたか?」
お、ユキちゃんも解凍した。
そして、俺たちが体験した謎現象はやっぱり「良くわからない」で片付けられた。
だよね。俺も良く分かんないもの。
……これはこれ以上考えても分からないので、エルフたちと一緒にキャッキャして済ませちゃおう。
現実逃避しても、良いよね。それがいい。考えるだけ無駄だ。意味分かんない。
思考停止したところで、田んぼはどうだったか確認してさらに現実逃避しよう。
「そうそう、田んぼは? エルフの森は意味わかんないからもういいとして、田んぼはどうだった?」
「一応、問題はなかったけどさ……」
「一応? 問題はなかったんだよね?」
「ああ。問題はなかったんだけど……」
……妙に高橋さんの歯切れが悪い。問題はなかったんだよね?
でも、なにか引っかかることがあったぽいぞ。
「何かあったの? 引っかかってるみたいだけど」
「……いやさ。この豪雨なのに、妙に――用水路が落ち着いてんだよ」
「落ち着いてる?」
「ああ。普通は水であふれてなきゃおかしいのにさ、全然普通なんだよこれが」
……水量がおかしいのか?
用水路は突貫で拡張したから、容量が増えたとかが原因と思われるけど……。
「まあ、気のせいかもしれん」
「気になるなら……俺が当番の時、もっと上の方まで確認しとくぞ?」
「志郎さん、頼んでもいいですか?」
「ああ、確認しとく」
「頼みます」
いまいち煮え切らない高橋さんだけど、親父が上流の方を確認するようだ。
高橋さん、頭を下げて親父にお願いだね。
あとは、親父の確認待ちってことになるか。
……とりあえず、現状はこんな所でいいかな?
それじゃいったん休憩に入ってから、頃合いを見て巡回を再開しよう。
「じゃあ第一次巡回の報告はこれ位にして、いったん休憩しよう」
「一回目でもうこんなんとか、先が思いやられるぜ。意味分かんねえ」
高橋さんの言うとおり、一回目の巡回で色々起きすぎた。
二回目は無事平穏に過ぎてもらいたい。
「そうだ大志、仮眠取っとけ。お前今日ずっと起きてたろ?」
「そうだね。仮眠を取っておくよ」
俺は朝からずっと活動していたから、親父の言うとおり仮眠をしとこう。
夜の巡回は神経を使うだけに、寝不足で行動するのは避けたい。
――それじゃ、別室に行って仮眠するとしましょうか。
「それでは、私たちはハナちゃんの家に戻りますね」
「タイシ~、おやすみです~」
報告会がひと段落ついたので、ハナちゃんたちも家に戻るようだ。
ぶんぶんと元気に手を振るハナちゃんに、手を振りかえしてお休みの挨拶をしよう。
「ハナちゃんユキちゃんおやすみ。また何かあったら、連絡するね」
「あい~!」
「大志さんも、消防団のみなさんも……無理しないで下さいね」
「きをつけてね~」
「おやすみなさい」
そうして、にぎやかに家に戻るハナちゃんたちを見送った。
さて、俺も別室で仮眠を取ろう。
「おれもねるじゃん」
「ゆっくり体を休めましょう」
「おう」
マイスターも朝から起きていたので、俺と一緒に雑魚寝だ。
二人でいそいそと布団を敷き、横になる。
それでは、おやすみなさい――。
「ギニャ……ギニャ……」
「ニャ~……」
(むにゃ……)
「すぴぴ」
――なんだろ、なんか重いぞ。
こうなんか、ふわふわしたやつとか神輿っぽいやつとか、妖精さんっぽいのが俺の上に乗っかってる気がするぞ……。
ふわふわしたのは、顔の上とかにいる気がするぞ……。
これ総重量、結構ある気がす――ZZZ。