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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十一章 エルフ農業(収穫祭)
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第六話 ひと段落


 今日は妖精さんの服を作ったり、居住区を作る。

 男性陣と女性陣にわかれて、それぞれ作業だ。

 ヤナさんだけは、服作りに参加なので女性陣に混じって作業だけど。


 俺はひとまず服作り組の様子をみて、それから居住区作りに参加の予定だ。

 親父は家の仕事で来れないけど、まあエルフたちに任せても大丈夫だろう。

 マッチョさんとおっちゃんエルフが現場監督をするので、信頼してお任せすることにした。


 それと、前回神様にぬいぐるみを沢山お供えすると言ったので、沢山持ってきたわけで。

 段ボール箱にいっぱいのぬいぐるみだ。三十個くらい持ってきた。

 さて、これをお供えしたらどうなるだろうか。



 ◇



「それじゃハナちゃん、お供えしようか」

「あい~! おそなえするです~」

(きたー!)


 ハナちゃんと集会場にある神棚の前に来て、段ボール箱を置く。

 神社はほよっほよと光りっぱなしで、待ちきれない様子だ。

 それじゃ、早速お供えしましょうか。


「では神様、ぬいぐるみのお供え物です」

「おそなえものです~」


 そうして段ボール箱のふたをぱかっと開いてみると――。


(きゃー! きゃー! きゃー!)


 まず初めの「きゃー!」で、神社の門と神輿の謎ドアが同時にバンと開く。

 次の「きゃー!」で神社から神様とおぼしき光が飛び出してきて、神輿に飛び乗る。

 そして最後の「きゃー!」で神輿がきりもみ飛行をしながら、ぬいぐるみの沢山入っている段ボール箱にダイブ。

 ここまでだいたい、一.五秒の出来事だ。


「……すごい早業だったね」

「いっしゅんだったです?」


 俺とハナちゃん、神様のあまりの早業にびっくりだ。

 というか、お供え物を持って行かないで、神輿に乗ってダイブとは……。


(ぬいぐるみ、たくさん~)


 そして箱の中でぬいぐるみに埋もれながら、神輿がもぞもぞする。

 ぴかぴか光が漏れてくるけど、喜んで貰えたのだろうか。


「このお供え物、喜んでもらえたかな?」

(ありがと~!)

「だいじょぶみたいです」


 謎の声も嬉しそうだし、大丈夫だよね。

 それに……たくさんのぬいぐるみに埋もれるというのは、乙女のひとつの夢かもしれない。

 神様、けっこう乙女なのかもね。


(ふわふわ、たくさん~)


 そんなこんなで、ぬいぐるみ沢山のお供えは無事完了だ。

 喜んでもらえて何よりです。


「……タイシ、かみさまでてこないです?」

(ふわふわ~)


 ハナちゃんの言うとおり、神輿は箱の中でもぞもぞとうごめいて出て来ない。

 相当気に入ったのかも。

 まあ……好きにさせてあげよう。


「……喜んでいるみたいだから、このまま堪能させてあげよう」

「あい」

(かわいいぬいぐるみ~。たくさん~)


 神様、ぬいぐるみ集めという乙女な趣味に目覚めちゃったかもだ。

 ……趣味があるのは良い事だよね。うん。


 あと、神社の扉が開きっぱなしなんだよね。

 神様、喜び過ぎて閉めるのを忘れたっぽい。

 乙女の家の中が丸見えだとよろしくないので、閉めておいてあげよう。


 ……。


 ちらっと中が見えたけど……。

 な、なかなか乙女なお部屋でございました……。



 ◇



「おようふく、つくるです~」

「かわいいのつくろ! かわいいの!」

「手順は教えますので、色の違う布を使ったりして何種類か作りましょうね」

「がんばるわ~」

「ハナのきているおようふくと、おなじもののつくりかたをおしえます」


 神様がぬいぐるみの箱でもぞもぞしているのを眺めながら、服作りを始める。

 会場ではユキちゃんとヤナさんが指導役となって、数名の女子エルフと妖精さんたちが服作りをしている。

 俺はこの辺さっぱりなので、もうユキちゃんとヤナさんに完全にお任せだ。


「あや~。このへんむずかしいです~」

「指をチクってしないように気を付けてね」

「あい~」


 ハナちゃんも妖精さんの服作りに参加しているけど、若干手こずっているようだ。

 それでも、お料理にお裁縫にと家事能力を鍛えたいのか、結構積極的ではある。

 耳をぴこっと立てたり、へにゃっとさせたりしながら、ちくちくペタペタと服作りだね。


「ぬいましょぬいましょ~」

「あら~、おじょうずね~」

「おはなのふくはしょっちゅうつくりなおすから、わりとなれてるよ! なれてるよ!」


 他の女子エルフさんたちと妖精さんも、のんびりキャッキャと服作りだ。

 花びらの服はやっぱりそれほど長いこと持たないようで、しょっちゅう作り直すみたいだね。

 そりゃ、着る物を作るのも上手くなるよね。


「くっつけるやつも、つかってね! つかってね!」

「かりるわね~」

「どうぞ! どうぞ!」


 例の強力な接着剤も使って、ちまちまと服が出来上がっていく。

 まだまだ時間はかかりそうだけど、今日中には何着か出来そうなペースだね。

 のんびりぽやぽやとお洋服づくりをしているみなさんだけど、この調子なら問題なさそうだ。

 ここはもうお任せして大丈夫そうだから、俺は妖精さん居住区の造成にとりかかるか。


「それじゃ自分は、居住区作りの方に行ってくるね」

「タイシいってらっしゃいです~」

「こちらはお任せください」

「いってらっしゃい! いってらっしゃい!」


 ということで、女性陣に見送られて妖精さん居住区予定地まで移動する。

 現在あるエルフの森の北側、ちょっとした丘になっている場所だ。


 この丘をいずれエルフの森で囲んで、妖精さん村にする想定でいる。

 ここは冠水する心配もないから、ちいさな人の居住区には良いかと思う。

 ただ……水が無いのが難点だ。そのうち井戸でも、掘ろうかな?



 ◇



「あ、タイシさん。こんなかんじでどうです?」

「くい、だいたいうっときました」


 目的地に到着すると、すでにマッチョさんたちが杭を打ち終えていた。

 一つの敷地に八本の杭が、ガッチリと打ってある。

 この杭に角材を金具で固定し、そこに建築模型を固定する。

 建築模型はいずれエルフたちに返却するので、いつでも取り外せるようにとの考えからだ。

 杭はガッチ打ち込まれ、家もガッチリ固定するから台風が来ても大丈夫だね。


 まあ、台風の規模によってはこの家は一時的に取り外して、妖精さんたちも集会場に避難してもらうけど。

 そういう手が採れるのも、ちいさな住宅だからこそだね。


「こっちって、ながさやおもさがきまっててべんりだよな~」

「ぶひんをおうちでつくれちゃうもんな」

「ながさがきまってないと、まいかいそのばでぶひんつくるから、めんどいんだよな~」


 災害対策についてちょこっと考えていると、マッチョさんやおっちゃんエルフがそんな会話をしているのが耳に入った。

 こっちの度量衡(どりょうこう)の便利さに、ご満悦みたいだね。

 統一された計測単位があれば、何をするにも役立つ。

 地球の近代文明にとっては、必須ともいえるね。


「タイシさん、このながさをはかれるやつって、おれらもつかえるの?」

「なんか、すげえべんりそう」

「かっこいい」


 そしてマッチョさんとおっちゃんエルフが、正確に杭を打ったり角材を組んでいくのを見て、他の男性陣も興味を持ったようだ。

 この村ではヤナさん、カナさん、マッチョさんにおっちゃんエルフがメートル法に慣れ始めたくらいだから、まだ定着はしていない。

 これを機会にみんなが使えるようになれば、とっても便利かも。


 ……ちょうど、メカ好きさんが巻尺を見て目をキラキラさせているし。

 雑貨屋で巻尺や定規とか、各種計測用の道具を売ろうかな。

 欲しいかどうか聞いてみよう。


「この巻尺という道具や、そのほかの長さとかを測る道具、雑貨屋で売ります?」

「ほしいな~」

「ぜひとも!」

「おねだん、それなり?」


 雑貨屋に置こうかと提案すると、欲しがる人や値段を気にする人とに分かれたね。

 こないだの佐渡旅行で結構お金をつかっただけに、懐具合が気になるのかも。

 ただまあ、百円かそれ以下の道具にすれば、みんな買えるよね。

 マイクロメーターが必要になるような工作をするわけじゃないから、それで十分だと思う。

 早速提案してみよう。


「お値段は百円か、それ以下のものを用意します。ご安心ください」

「それならかえるじゃん」

「おれ、まきじゃくってのがいいな」

「おれも」


 ということで雑貨屋に各種計測道具を置くことに決定だ。こんど買ってこよう。

 使い方については、知っている人に教えてもらえば良いよね。


「使い方については、ヤナさんカナさんとそこのお二人が知ってます」

「みんなにおしえときます」

「そのへん、まかせといてくれ」


 マッチョさんとおっちゃんエルフは、教師役を引き受けてくれたね。

 突然振ったけど、本人たちも乗り気だ。

 これで、いずれエルフたちにもメートル法が定着するんじゃないかな?

 そうなると、何かを説明するときにも楽になるのであるがたい話でもある。


「たのしみだな~」

「いろんなもの、はかってみよう」

「こどものしんちょうとかはかると、せいちょうがわかっていいのだ」

「どうぶつやしょくぶつのおおきさも、はかってみたいじゃん」


 そうしてみんなウキウキしながら、作業を再開だ。

 大勢いるから、あっという間に仮設住宅が出来ていく。

 夕方くらいには作業が終わるから、そうしたらさっそく妖精さんたちに住んでもらおう。



 ◇



 ――夕方ちょっと前、無事妖精さん居住区の設営が終わる。


 まあ、仮設住宅だからいずれまた作業はあるんだけど、とりあえずこれでいい。

 それじゃ、集会場に行って服作りの様子がどうなったか見てこよう。


 ということで集会場まで移動し、どんな状況か確認する。


「タイシタイシ~、ようせいさんのふく、できたです~」

「かわいいのできたよ! みて! みて!」

「いっしょうけんめい、つくったの。つくったの」


 集会場に顔をだすと、妖精さんたちが何名か洋服を着ていた。

 ハナちゃんが佐渡旅行で着ていた、フリルのついた白いワンピースとほぼ同じデザインだ。

 フリルは花びらのような加工が施されているなど、多少のアレンジはあるね。

 それに各人リボンの色は変えていて、ちょっとしたおしゃれを演出してもいる。


「きごこち、いいよ。いいよ」

「うごきやすいね! かるいね!」

「こっちのふくって、かわいいよね! かわいいよね!」


 妖精さんたちは、そんなおろしたての服をきて大はしゃぎだ。

 服の着心地や動きやすさを確かめるために、ぴこぴこ飛んだりぴょんぴょんジャンプしたり、前転をする子もいるね。

 しかし妖精さんの羽根、前転してもしなやかに曲がってすぐに元に戻っている。

 相当頑丈かつ、柔軟な組織なのかもしれないな。


「タイシタイシ、ようせいさんのふく、どうです?」

「にあう? にあう?」

「かんそうきかせて! きかせて!」


 前転妖精さんの羽根を観察していると、その視線に気づいたのかハナちゃんと妖精さんたちがやってきた。

 そしてみんなから、服の感想を求められてしまった。


 ……可愛い服を着ていたら褒めるべしとお袋に言われているので、褒めるべしだ。


「みんなの服、良く出来ているよ。似合っててかわいいね」

「きゃい~! きゃい~!」

「かわいいって! かわいいって~!」

「あや! ようせいさんぴっかぴかです~!」


 褒めてあげると、妖精さんたち羽をキラッキラに光らせてきゃいきゃい喜ぶ。

 光る粒子もキラッキラでけっこう眩しい。

 この喜んだりすると光る様子、どこかの神様みたいだね。


 ……それはそれとして。

 服作りは上手くいったぽいけど、聞いてみるか。


「それでみなさん、服作りはどうでした?」

「おようふくづくりは、もんだいないかんじです」

「妖精さんたちの接着剤、かなり便利ですよ」


 ヤナさんとユキちゃんが報告してくれたけど、いい感じっぽいね。

 特に問題は無かったようで、妖精さん接着剤も活躍したようだ。


「これからも、きかいをみては……みんなでふくづくりをしようとおもってます」


 そしてヤナさんが、ちいさな服を手に持ってそう言った。

 今回だけじゃなく、機会をみては服作り会を開きたいようだ。

 大変良いことだと思うので、賛成しておこう。


「それは良いですね。かわいい服を一緒に作ってあげて下さい」

「ええ、それはもちろん」

「わたしもてつだうわ~」

「わたしも」


 ほかの女子エルフさんたちも乗り気なようなので、定期的に服作り会が開かれるね。

 みんな楽しそうなので、良い息抜きになったのかもしれない。

 かわいい服を作ってちいさな妖精さんを着せ替えできるのは、女子にとってはとても楽しいことかもしれないね。


「ハナのおようふく、かわいいのがまたつくれそうだよ」

「うふ~。たのしみです~」

「たのしみにしててね」


 ……ヤナさんはここで練習して、いずれハナちゃん用のかわいい服を作る計画みたいだね。

 新しいハナちゃんの服、出来上がるのが楽しみだ。

 こちらも色々必要な物が出たら、調達などして協力しよう。


「服作りで何か必要なものがあったら、遠慮なく言ってください」

「わかりました。ひつようなものがあったら、まとめておきます」


 よし、これで服作りは一段落だね。

 あとはみんなが自主的に進めてくれるだろうから、見守ろう。


 では、今日予定した一通りの作業はこれで完了だ。

 最後に、妖精さんを居住区に案内して家を見てもらおう。



 ◇



 村にのこっていたエルフたちと妖精さんたちを引き連れて、居住区に案内する。

 そこには、八本の柱の上に固定された建築模型が十四棟ある。

 このちいさなミニチュア村が、とりあえずの妖精さん仮設住宅だ。


「おっきなおうち! たくさん! たくさん!」

「ここにすんでもいいの? いいの?」


 家を発見すると、妖精さんたちがわくわくしながら聞いてきた。

 もちろん良いと言っておこう。それと、森で過ごしても良いことも。


「もちろん良いよ。この家に住んでも、森で過ごしても良いからね」

「きゃい~!」

「おかあさん、いこ! いこ!」

「いきましょいきましょ! このおうちね? このおうちね?」


 そして早速、各々適当な建築模型に入っていく。

 この建築模型は防水加工を施したので、雨が降っても大丈夫だ。

 雨風をしのげる頑丈な家、ご堪能くださいだね。


 ――あ、どの家に誰が住むかって決めないとな。


 しかし、妖精さんたちの世帯割りってどうすればいいんだろうか?

 五十人ほどもいるから、全員に行き渡らせるにはかなり足りない。

 しばらくは、五人ほどで共同住宅になってしまう。


 ……ちょっと相談してみよう。


「みんな、しばらくは五人で一つの家に住むってことになっちゃうけど、良い?」

「きゃい?」

「もんだいないよ、みんなでくらすよ!」

「わたし、きょうはこのおうちにする~」


 ……誰と住むかについて、なんだかこだわりはない感じだな。

 ちいさなお子さんをつれたお母さん妖精は、お子さんと一緒に住むのだろうけど。

 それに「今日はこのおうち」とか言ってるけど……。

 もしかして、毎日住む家を変えるのかな? 確認してみるか。


「今日はって事は、明日は違う家にしたりする?」

「そうするよ、そうするよ」

「いっしょにすごすひとも、かわるよ! かわるよ!」

「みんなかわりばんこで、いろんなおうちですごすの」


 一つの家に定住するのではなく、あっちの家こっちの家と住む場所を定めないみたいだね。

 ……あれか、花に入って雨風を凌いでいたりしたから、一つの住処に定住するって概念はないのかもね。

 今日はこの花、明日はこの花って感じで、毎日寝床を変えていたんだろうと思う。

 それなら、そうしてもらった方がストレスも少ないかもね。

 そうしてもらおう。


「それじゃ、みんなその日その日で好きな家、好きな人と過ごしてね」

「そうするよ! そうするよ!」

「おうちでなかよく、おだんごつくるよ!」

「おかあさんといっしょに、おだんごつくるね!」


 ということで、妖精さんは住所不定って感じになるか。

 まあ、ここに来れば会えるから問題ないよね。

 無理にすむ家を決めて、定住してもらう必要はない。

 妖精さんたちが過ごしやすいよう、生活スタイルはあまり変えないでもらおう。


「わたしはこのおうち! このおうち!」

「きょうはいっしょにすごしましょ! すごしましょ!」


 そうして、妖精さんたちがそれぞれ今日のねぐらを決めたところで――。


「たいへんたいへん! おうちのなかに、ふわふわしたのがあるよ! あるよ!」


 ――羽を痛めた妖精ちゃん、家の中でアレを発見だ。

 俺からの妖精さんへの贈り物を、ちょっと家に仕込んであるんだよね。


「あや! ちっちゃなおふとんがあるです!」

「ちっちゃなおふとん?」

「あ、ほんとだわ~」


 ハナちゃんが家の中ののぞき込んで、発見したようだね。

 そう妖精さん用の――おふとんを用意してみたわけだ。


 まあ、人形用のおふとんを買って家の中に置いただけだけど。

 この人形用のおふとん、実は妙に高かった。ひとつ五千円もした。

 ミニチュア系って、結構良いお値段するって初めて知ったよ……。


「おふとんってなに? なに?」

「ふわふわ、なんにつかうの? つかうの?」


 妖精さんはおふとんをどう使うか分からないようで、家の窓から顔を出して聞いてきた。

 寝るときに使う道具だって、説明しておこう。


「これはね、寝るときにこのふわふわの中に入って、ぐっすりすやすやする物だよ」

「ためしに、おふとんのなかにはいってみるといいです~」

「ふわふわのなかでねるの! たのしそう! たのしそう!」


 使い方を説明すると、ハナちゃんも補足してくれた。

 そして羽根を痛めた妖精ちゃんは、さっそくおふとんに潜り込む。


「すぴぴ」

「……もうねちゃったです?」

「寝ちゃったね」


 妖精ちゃん、一瞬でおねむしました。なんだか既視感のある光景だ……。

 妖精ちゃんの呼吸に合わせて、ちょっとはみだした羽根がぼんやり光っては消え光っては消え。

 寝ているときは、優しい光を出すんだね。

 喜んでいるときは、もう眩しいくらい光るのに。


「こうするのね? ふわふわだね!」

「わたしも、わたしも」

「おふとん、ふわふわ~」


 そして、他の妖精さんたちもおふとんにもぐりこんでいく。

 やがて――。


「すぴ~」

「すぴぴ」

「むにゃ……」


 家々から、ちいさなちいさな寝息が聞こえてきた。


「みんな、ねちゃったです?」

「……寝ちゃったね」


 妖精さんたち、夕方なのに全員おねむしてしまいました。

 初めての家で、初めてのおふとん。さっそく堪能してもらえたようだ。


「いっきにしずかになったわ~」

「ようせいさんたち、おやすみ」

「ゆっくり、からだをやすめるのよ」


 窓を開けっ放しで寝ている妖精さんなので、のぞき込むとかわいらしく寝ている様子が見える。

 ……窓を閉めてあげて、あとは思うがまま寝かせてあげるとするか。


「それじゃ、窓を閉めてあげたら私たちは戻りましょう」

「あい~。タイシ、きょうはうちでゆうしょく、いっしょにたべるです~」

「お、ご馳走になっちゃうかな?」

「ハナ、おりょうりつくっちゃうですよ~」


 妖精さんが寝てしまったので、俺たちも引き上げて夕食にしよう。

 ハナちゃんからお誘いが来たので、今日はハナちゃんちで夕食を一緒に食べて。

 いろいろ忙しかった一日だけど、あとはのんびり過ごすだけだね。


 それじゃ、夕食にしましょうか。



 ◇



 妖精さん居住区を後にして、ハナちゃんちに向かう途中――。


「あや! しゅうかいじょうあけっぱなしです~」

「あ、そうだ。戸締まりしておかないとね。ちょっと行ってくる」

「ハナもいくです~」


 集会場が開けっ放しなことに、ハナちゃんが気づいた。

 窓や戸は閉めておかないと、虫が入ってしまう。


 ――ということで、集会場の戸締まりに向かった。

 向かったのだけど……。


「あれ、そういえばぬいぐるみの段ボールも出しっ放しだね」

「かみさま、もってかなかったです?」


 雑貨屋の戸締まり確認をしていると、ぬいぐるみが入った段ボールがまだあった。

 神様は持って行かなかったようで、出しっ放し状態だ。

 どうしたんだろう? 神輿は?


「ハナちゃん、神輿は神棚にあるかな?」

「ないですね~」


 神輿は戻っているか確認したけど、神棚の駐車スペースには無い。

 では、神様はお出かけ中ということで。

 一体どこに?


 ……。

 …………。


 ――まさか。


「ハナちゃん、ちょっとこの中を確認してみよう」

「――あい」


 ハナちゃんも思い当たったようで、二人してぬいぐるみの入った段ボール箱を見る。

 光は漏れていないけど……もしかしてだ。

 というわけで箱の中を確認してみると――。


「……これ、寝てるのかな?」

(むにゃ……)

「ねてるですね~」


 ――はたしてそこには、ぬいぐるみに囲まれておねむの神輿があった。

 すっかりぐんにゃりと軟体化して、ぐっすりお休みのようだ。


 これ、どうしよう……。


「ハナちゃん、神様どうしようか」

「このはこごと、ハナのおうちにもってくです?」


 箱ごと、ハナちゃんちに持ってくとな。

 またなんで。


「持ってくの?」

「あい。かみさまがおきたとき、ひとりじゃかわいそうです?」

「……確かに」


 言われてみればそうだね。このまま起きたとき、集会場は真っ暗になっているだろう。

 そこにこの状態でおいておくのは、ちょっとかわいそうだよね。

 神様をなるべく一人にしないようにって考えられるハナちゃん、優しい子だ。

 そして優しい子には、なでなでだ。


「ハナちゃん、優しいね~。なでちゃうから」

「うふ~」


 ということで、神輿が入ったままの箱を持って行くことに。

 神様、今日はハナちゃんちでお泊まりだ。たまには、こういうのも良いよね。


「それじゃ、持って行こうか」

「あい~」


 あまり揺らさないようにして、そっと箱を抱えてハナちゃんちに帰る。


 まあ、今日も色々あったけど、楽しい一日だった。

 妖精さんも神様もすぐにおねむだったけど、寝る子は育つと言うからね。

 ぐっすりお休み下さいだ。


(ふわふわ~……)


 こうして、たまに聞こえる謎の寝言を聞きながら、のんびりハナちゃんちに帰った。

 もぞもぞ動く神輿を眺めながら、のんびりと。



 ◇



 ――さて、これで妖精さんの食料も被服も居住区もなんとかなった。


 これからしばらく過ごしてもらって、妖精さんたちの生活が落ち着いたら……仕事を頼もう。

 それは妖精さんたちや虫さんたちが一番うまくできる、大事なお仕事。

 

 ――花の受粉や、蜜集めだ。

 

 彼らは花と寄り添って生きてきたのだから、上手に出来るんじゃないかと思う。

 彼らの協力があれば、きっとエルフの森はもっと元気になる。

 彼らの協力があれば、きっと森は実りであふれる。


 妖精が飛び交い、虫さんが飛び交い。花が咲いて実りがあふれて。

 ……あの青いクモさんは、なんだか良くわからないけど。

 でもまあ、クモさんも森の一員だ。のんびり過ごしてもらおう。

 そして動物たちも元気で走り回って、エルフたちも森でのんびり過ごして。


 そんな美しい森が、きっと作れる。

 その日が来るのが、待ち遠しい。


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