第一話 お花畑と、ちいさなちいさな存在たち
不意打ち投稿
ここはとある世界のとあるお花畑。常春の気候の中、お花畑ではちいさなちいさな存在たちが、のんびり暮らしていました。
しかしある日、異変が起き始めます。それはちいさなちいさな存在たちに降りかかる、災難の始まりでした……。
◇
「おだんごおだんご、作りましょ~」
「お花の蜜を、たっぷりつけて~」
「お花の花粉、こねましょ~」
ぴこぴこと飛ぶちいさなちいさな存在さんたち、今日ものんびりふ~わふわ。
お花の花粉を蜜で練って、おいしいおだんご作ってます。
ここは、ちいさなちいさな存在さんたちが暮らすお花畑。常にお花が咲いていて、気候も穏やか。
お花畑の仲間である、ハチさんやちょうちょさんと一緒にキャッキャうふふと過ごしておりました。
……ちょっと呼び名が長いので、もう妖精さんにしときましょう。
見た目もそんな感じなので、良いのではないでしょうか?
ちなみに妖精さんたちの姿は……耳が長くてちょうちょのような羽をもった、ちいさなちいさな人たち。
エルフをちいさくして、半透明で色とりどりなちょうちょの羽をつけたような感じ、でしょうか。
色白金髪妖精さん、銀髪褐色妖精さん、そして日本人のような……黒髪象牙色肌の妖精さん。
様々な妖精さんがおりますね。
着ている服は……お花を重ねた、きれいなドレス。
白い花びら、赤い花びら、青い花びらなどを組み合わせた、かわいいかわいい服をまとっています。
小さなお花を頭にかぶって、帽子のようにしたものを付けたおしゃれな子も、ちらほら。
お花に囲まれお花を身に付け、ふわふわきらきらお食事の準備ですね。
「おだんご、出来た!」
「食べましょ食べましょ」
「お腹いっぱい、食べましょ~」
そうしておだんごが出来たので、妖精さんたちはぱくりと一口。
甘いおだんご、おいしいな……あれ?
「――おだんご、にがい~」
「おかしいな、おかしいな~」
「甘い蜜が、にがくなっちゃった~!」
おだんごを一口かじった妖精さん、顔をしかめてしまいました。
なんだか、味がおかしいようですね。
そうしておだんごがおいしく無いことに首を傾げていると、遠くから仲間の妖精さんたちが飛んできました。
「あっちのお花、色が変~」
「灰色灰色、かっちかち~」
「花粉も蜜も、食べられない~」
慌てて飛んできた妖精さんたち、そんなことを言っています。
一体何が起きているのでしょうか?
「変な匂い、砂の匂い~」
「どんどんこっちに、広がってる~」
「逃げなきゃ、逃げなきゃ」
キャーキャーと大騒ぎを始める妖精さんたち、あわあわひらひらと飛び回ります。
「あっちのお花畑に、逃げましょ~」
「あっちはなんだか、平気みたい」
「行きましょ、行きましょ」
そうしてお花畑がどんどん灰色になるなか、妖精さんたちの大移動が始まりました。
妖精さんたちは空を飛べるので、休み休み行けばまあ何とかなります。
まだ無事なお花の蜜や花粉をおだんごにして、ひらひらふわふわ飛んでいってしまいました。
こうしてだいたいの妖精さんたちは、あっちのお花畑に逃げることが出来ました。
――だいたいは。
◇
「羽根が痛んでて、あんまり飛べないの~」
「おだんごが無くて、あっちまでいけない~」
「どうしましょ、どうしましょ」
「お母さん、お腹すいた……」
「食べ物、食べ物……あんまりないわ……」
お花畑の中心部、かろうじて灰色化がまだ進行していない地域。
そこには沢山の妖精さんが取り残されておりました。
羽根が痛んでいてあまり飛べない人、食料が無くて移動に耐えられない人、生まれたばかりで長距離を飛ぶ力が無い人など、力の弱い妖精さんがあわあわよろよろ。
それと一緒に、ちょうちょさんやハチさんもあわあわぷるぷる。
妖精さんのほかにも、取り残された存在がけっこうたくさん。
じりじりと迫る灰色に、みんなで恐怖していたのでした。
お腹が空いているせいか、自慢の羽もなんだかしんなり。
そして、どんどん色が薄くなってきています。
力が弱くなってきているからなのでしょうか……。
そして、そんな妖精さんや虫さんたちに――追い打ちが来ました。
「キャー! お水が! お水があふれてる~!」
「お花が、沈んじゃう~!」
「逃げなきゃ! 逃げなきゃ!」
なぜだか分かりませんが、どんどん水があふれて来たのです!
どんどん増える水は、あっという間に残されたお花畑も飲み込んでしまいました。
「このままじゃ、おぼれちゃう~」
「助けて、助けて」
「もう、飛べない~」
空に逃げた妖精さんと虫さんたちですが、もとより力の弱い子たちです。
そう長い時間、飛ぶことは出来ませんでした。
あんまり高くも、飛べません。じりじりと高度が落ちて行きます。
「もう、だめ……」
「掴まって! 掴まって!」
「神様~! 助けて~!」
恐れていた事態が起きました。羽を痛めていたちいさなちいさな妖精さん、力尽きて落ちていきます!
このままでは……。
――そのとき、何かがやってきました。
「ギニャ~、ギニャギニャ」
――フクロイヌです!
ぱしゃぱしゃと泳いで、落ちてきた妖精さんをふわふわ毛皮の背中で受け止めます。
ぽふっとふわふわ毛皮に落ちた妖精さん、きょとん。
「黒いの来た! 黒いの来た!」
「キャー! 食べられちゃう~!」
「助けて~!」
フクロイヌが現れた事で、妖精さんたち大パニック!
しかし、なすすべもありません。
「ギニャ」
長いしっぽがにょろりと伸びてきて、背中の妖精さんをくるりと捕まえます。
そして身体を捻って、ラッコ状態にしたかと思ったら――。
「え?」
――フクロにポイっと。
妖精さんはどこかへ消えてしまいました。
「キャー! 捕まっちゃったー!」
その様子を上空で見ていた他の妖精さんたち、さらに大パニック!
でも、なにもできませんでした。
落ちてしまった妖精さんがフクロに「仕舞われる」のを、指をくわえて見ているしかありません。
「わたしも、もうだめ……」
「キャー! 掴まって! 掴まって!」
「ギニャ」
「黒いのに捕まっちゃったー!」
「ちょうちょさんも、捕まった!」
こうして、妖精さんと虫さんたちは次々としっぽに捕まり――そしてフクロに「仕舞われて」行ったのでした……。
「ギニャ」
◇
「……さいですか」
「捕まっちゃったの~」
「フクロにぽいって、ぽいって。それから眠くなっちゃった~」
「起きたらおっきなひと、たくさん~」
「ギニャ」
今、大志の前には沢山の妖精さんが、大志に説明をしながらキャッキャしていました。
てっとり早かったので、あっちの森からもらった援助物資の干した果物を妖精さんたちにあげたのです。
妖精と言えば甘い物という偏見からでしたが、見事にハマりました。
あっちの森自慢の干した果物、大いに役立っております。
食べ物をもらった妖精さんたち、もう大喜び。
干した果物をひしっと抱えて、かじかじもぐもぐしています。
「タイシ、むしさんだらけです~」
「けっこうくすぐったいね」
ちょうちょさんとハチさんは、大志の頭に停まってひらひらぶんぶん。割とシュールな光景。
なんだか大志、懐かれておりますね。
「しかし……。はなばたけが――はいいろになった、か……」
「タイシ~。ハナたちと、一緒です~」
「……すごく、にてるよね」
「あい~」
妖精さんたちから話を聞いた大志は、考え込んでいます。
そしてハナちゃんも一緒になって、むむむと考え中。
ちなみに大志は虫さんだらけのままなので、真剣な顔をしていてもどこかシュールですね。
見ようによっては、色とりどりの美しい羽の王冠をまとった――妖精王、に見えなくもありませんが……。
……まあそれはそれとして。
妖精さんの話では、お花畑が灰色になり、おまけに砂の匂いもしたと言います。
これは、ハナちゃんたちの森に起きた事と……なんだか似ているのでした。
「これは……もしや」
「タイシ? どうしたです?」
しかし、考え込む大志に……妖精さんたちが群がってきました。
「お腹すいた、お腹すいた~」
「甘い食べもの、あったら欲しい~」
「この子に、もっと食べさせてあげたいの」
ぴこぴこと妖精さんが大志の回りを飛び、ちいさなお子さんを連れた妖精さんもぺこぺこ頭を下げます。
その弱った姿は、まるでハナちゃんたちと初めて出会った頃のよう。
みんなお腹を空かせて、体力も消耗してへろへろです。
「……あれこれかんがえている、ばあいじゃないか」
「タイシ、食べ物あげるです?」
「うん。いまひつようなのは、たべものだね」
へろへろ妖精さんたちを見た大志は、ひとまず考えるのを後にしました。
今必要な事、それは明白ですからね。
「……わかりました。くだもの、たくさんよういしましょう!」
「いいの?」
「わーい!」
「ありがと! ありがと!」
大志の言葉に、妖精さんたちは大喜び!
喜びすぎたせいか、キラキラと光る何かが妖精さんの周囲を舞っていますね。
動くと軌跡が残って、とっても綺麗です。
「タイシ、ハナも協力するです~」
「私も、お手伝いします」
「俺たちも手伝うぜ」
へろへろ妖精さんの様子を見たエルフたちも、協力するようです。
みんなで果物、採りましょう!
◇
森に生っていた果物をみんなで採ってきて、妖精さんにあげました。
妖精さんは大喜びで果物にかじりつきます。
かじかじ、かじかじ。もぐもぐ、もぐもぐ。
大人妖精さんも子供妖精さんも、夢中で果物かじります。
「うずまき果物、おいしーね!」
「お母さん、お腹いっぱいになったー!」
「良かったね! 助かったね!」
そうして果物をおなか一杯食べた妖精さんたち、ほっと一息。
そして元気を取り戻します。
「お、なんだかはねが……ひかってきたな」
「綺麗です~!」
「あ、透明な羽根に……色がうっすらと浮かんできたわ」
元気を取り戻した妖精さんたちに――変化が出ました。
それまで透明だった羽根に、色が浮かんできたのです!
透明な羽根が半透明になり、色とりどりな模様がきらめきます。
「虫さんたちも、なんだか光ってるです?」
「うん。きらきらしてるね」
一緒に出てきたちょうちょさんとハチさんも、近くのお花に止まって蜜を吸っています。
さっきまでへろへろだった虫さんたちも、なんだかきらきら光っておりました。
「不思議です~」
「ハナちゃんたちのところに、こういうひとたちやむしさんは……いた?」
「見たことないです~」
「ひいおばあちゃんも?」
「ふが~」
大志は妖精さんたちがハナちゃんたちの世界にいたか聞きましたが、どうやら見たことは無いようです。
ハナちゃんもひいおばあちゃんも、首を横に振りました。
「きいたことはない、と」
「ないです~」
「俺も聞いたことないじゃん?」
マイスターも首を横に振りました。
どうやらこの妖精さんや虫さんたち、エルフたちが知る限りでは――あっちの世界にはいなかったようですね。
「お腹いっぱい! ありがと! ありがと!」
「助かった~」
「おいしい果物、ありがと~!」
果物を食べ終わった妖精さんたち、ペコペコしながら大志とエルフたちにお礼を言います。
虫さんたちもひらひら飛んで、嬉しそう。
そんな妖精さんと虫さんたちに、大志はフクロイヌを抱えて差し出します。
「それはよかった。ちなみにおれいは、このフクロイヌにいってあげてください」
「ギニャ?」
「みなさんをたすけたのは、かれです。おれいをうけとるのは、かれではないかと」
フクロイヌをなでなでしながら、大志はそう言いました。
あっちの世界でフクロイヌを助けた状況と、妖精さんから聞いた話を総合すると――。
――どうやらフクロイヌは、割と命がけだったようです。
お礼を受け取るのは、フクロイヌがふさわしいですね。
「黒いのさん、ありがと~」
「助けてくれて、ありがと! ありがと!」
「お礼をしましょ! お礼をしましょ!」
妖精さんたちは、フクロイヌの回りをひらひら飛び始めました。
フクロイヌは、前足をぱたぱたさせて喜んでいますね。
「ちなみに、くすぐってあげるとよろこびますよ」
「ギニャ~」
「くすぐるね! くすぐるね!」
「私もくすぐるわ!」
「お礼をしましょ! お礼をしましょ!」
大志の一言で、妖精さんたちがフクロイヌに群がってこちょこちょくすぐり始めました。
そしてくすぐられたフクロイヌ、大喜び!
足をぱたぱた、しっぽばっさばさでくすぐられていきました。
その頭には、虫さんたちが止まってきらきら、きらきら。
もうなんかすごい賑やかです。
「ギニャニャ~。ギニャニャ~ン」
「良かったわね~」
「ちっちゃかわいい~」
「にぎやかです~」
妖精さんがキャッキャする様子を見て、エルフたちもほんわか和みます。
しんなり弱っていた妖精さんや虫さんたちが元気を取り戻したので、ほっと一安心ですね。
「こっちもくすぐる?」
「やっときましょ!」
「こちょこちょ~」
「あや! みこしぷるっぷるです~!」
あ、ほよほよ漂っていた神輿もくすぐられ始めました。
神様とばっちりです。
でも、みんな楽しそうですね。
妖精さんたちにこちょこちょくすぐられて、みんなでワイワイキャッキャと新しい仲間を受け入れたのでした。
めでたしめでたし――。
……あれ?
「ギニャ」
「――あ、なんかフクロからでてきた!」
ふとしたはずみに、またフクロから出てきました。
まあるくて、モルフォ蝶のような美しい青の何か――。
「あややや! でっかいクモさんです~」
「でっか!」
「うわ! まだのこってたんだ!」
「ギニャ」
フクロから出てきたのは、三匹のクモさんでした。
さっきのくすぐりでは、全部出切らなかったのですね。
そしてフクロから出てきた綺麗なクモさん、しばらく周りをキョロキョロしてから……。
ぴこぴこと前足を振って、挨拶をしました。
「挨拶です?」
「たぶんね。かしこいクモさんだね」
「こんにちわ~」
「あ、こっちに手を振ったわ」
そして青いクモさん、残っていた果物をみつけると……もぐもぐ食べ始めました。
「……くだものをたべるのか」
「そんなクモ、見たことないじゃん?」
「不思議です~」
どうやらこのクモさん、果物を食べるようです。
そしてあっという間に果物を食べ終えた後は……。
「あや! クモの巣で寝てるです?」
「……まるでハンモックだなこれ」
「捕まえる為じゃなくて、寝る為の巣なのね」
「写真撮っときますね」
おなか一杯になったきれいなクモさん、ハンモックのようなクモの巣を作って……すぴぴとおねむです。
なんというマイペースさ。
おなか丸出しで、野性味が全く感じられません……。
カナさんがパシャパシャ写真を撮っていますが、まるで反応しない余裕っぷり。
休日のおっさんのようなかっこうで、クモの巣ハンモックでのんびりゆったり。
割とダメな感じのクモさんなのでした。
「……まあなんだ、またなかまがふえたね」
「増えたですね~」
「変なクモだな~」
なんだかまた、仲間が増えちゃいました。
さあ、この変な仲間たち……一体これから、どうやって過ごすのかな?
大志のお仕事、どーんと増えました。
大志とみなさん。
この新しい仲間が過ごしていけるよう、頑張ってね!
次回から更新間隔はいつもの通り、二日置いてから更新に戻ります。