第二十四話 旅の終わりと、フクロイヌ
「えっとね、こう考えたら良いよ。旅ってのはね――」
「あい」
ハナちゃんが寂しそうだったので、話を聞いてみた。
どうやら旅の終わりが、名残惜しいみたいだ。
つまりはそれだけ、この旅を楽しんでくれたと言うことだ。
それは――とても嬉しいことだ。
そこまでこの旅を楽しんでくれたハナちゃんに、家に帰ることも楽しめるような……そんな言葉を贈ろう。
「旅は、帰る場所があるから良いんだ」
「あえ? かえるばしょです?」
「そうだよ。帰る場所があるから、旅は楽しいんだ」
「それは……なんでです?」
ハナちゃん、興味が出たようだ。耳をぴこんと立てて、こっちを見ている。
それじゃ、大事なことを伝えよう。
「帰る場所が無かったら……旅が終わったときや、旅が出来なくなったとき――どこに行けば良いと思う?」
「……あや~。わからないです~」
「そう、分からないんだ。それでは旅は楽しめないよね?」
「こわいです~」
ハナちゃん、帰る場所の無い旅の怖さが分かったようだ。
旅がおわったり旅を続けられなくなったときに帰る場所が無い、それはとても恐ろしいことだ。
そしてハナちゃんぷるぷるしちゃったね。ちょっと怖がらせすぎたか。
でも、これは必要な事だからね。これが分かれば、次に言う大事なことも理解できる。
それじゃ最後だ。
ぷるぷるハナちゃんをほんわかさせましょう。
「でもね、帰るお家があったらどうかな?」
「かえるおうちです?」
「そうだよ。お父さんやお母さんがいて、お爺ちゃんやお婆ちゃん、そしてひいお婆ちゃんがいるお家はどう?」
家族みんながいる家を想像したのか、ハナちゃんの顔もだんだん明るくなってくる。
「あや……とってもあんしんできるです~」
「そうだね、ほっとするよね。さらに、ホットケーキも出てきちゃったら?」
「うふ~。しあわせです~」
家族みんなで食べるホットケーキを思い出したのか、ハナちゃんにっこにこ笑顔になった。
耳もでろんとたれ耳で、たれ耳ハナちゃんになったね。
これでもう大丈夫だ。旅を終えて家に帰る意味、分かって貰えたと思う。
「旅を終えて、家族がいる安心できるお家に帰る。これってすごい幸せな事だと、自分は思うよ」
「あい~! ハナもそうおもうです~!」
これで大丈夫。ハナちゃんは、旅を終えて家に帰る事も楽しめるはずだ。
お家に帰って、家族みんなとほんわか過ごす。
この安心あるからこそ、旅に出ても安心していられる。
帰る場所があるということは、そういうことだからね。
「タイシ~! ありがとです~!」
「そういうわけだから、家に帰ったらのんびりするんだよ?」
「あい~!」
これでよし、と。ハナちゃん、元気になったようだね。
これにて一件落着だ。
「ええはなしや……」
「おうち、かえるぞー!」
「かぞくっていいな……」
そして後ろを振り返ると、号泣エルフたちが居た。
みなさん、話聞いてたのね……。
「おれたち、いえにかえってもひとりなんだけど」
「ひとりみには、どっちにころんでもつらいはなし……」
そしてマッチョさんとマイスターに大ダメージ。
二人は崩れ落ちた。
……あれだ、フォローしておこう。
「お二人とも、村に帰ったらお料理屋に行くと良いですよ」
「そこはまいにちいってるけど……」
「やさいいためは、だいたいでてくるじゃん?」
「出迎えてくれる人が居るなら、そこが帰る場所ですよ」
「「おおお……」」
マッチョさんとマイスター、なんだか感動している。
実は適当言っただけだけどね。
でも、腕グキさんとステキさんの行動を見るに、そうそう間違ってはいないと思う。
二人にもちゃんと、帰る場所はあるんじゃないかな。
「タイシさん、わかってるわ~」
「きょうもおりょうり、がんばるね!」
ほら、腕グキさんとステキさん、キャッキャと喜んでいるし。
これで問題ないよね。
「タイシ! いっしょにおうち、かえるです~!」
そして元気になったハナちゃん、お耳をぴこぴこさせて大はしゃぎだ。
それじゃ、元気に村に帰ろう!
◇
「たのしかったです~! ありがとうです~!」
「さど、いいとこだった~!」
「いいおもいで、できたわ~!」
そして船は出航し、みんなデッキで手を振る。
これからまた二時間半の船旅だ。おもいっきり帰りを楽しもう。
「みなさん、この後お昼を食べて、それから自由行動です。旅の締めくくりを楽しみましょう!」
「「「はーい!」」」
こうして、食堂でお昼を食べたり、船を探検したりと帰りの船旅を満喫する。
「ラーメン、おいしいです~」
「そういえば、なんかラーメンばっかりたべてるきがしますね」
「カレーもおいしいわよ?」
(おそなえもの、たくさん~)
お昼では案の定、ラーメンを頼む人が多かった。
ラーメンがエルフソウルフードになりつつあるけど、良いのかな?
「タイシタイシ。かみさま、へんなところにいるです?」
(ぬいぐるみ、ふわふわ~)
「あ! ほんとだ! 一体どうやってこの中に……」
ゲームコーナーに行ったら、クレーンゲーム筐体のケースの中に神輿が居た。
ぬいぐるみに囲まれてキャッキャしている……。
「なんかすごそうな景品あるね」
「あれ、取れる?」
「難しそうだよ」
そして、豪華な神輿模型の景品に興味を持つ人もちらほら。
数万円の模型な上に、神様憑依中だ。そりゃ格が違う。
……それはさておき、他の人にキャッチされたら、うちの神様がよその子になってしまう。
それはまずい。
「他の人に取られると困るから、キャッチしますよっと」
(きゃー!)
「あや! みこしにげたです~!」
慌ててお金を投入し、神輿をあぶだくしょんする。
ケース内で逃げ回るので、これがなかなか難しい。
「よし! キャッチしたぞ!」
(さらわれる~)
「あややや! ぬいぐるみにしがみついてるです~」
二千円投入して、ようやくキャッチ。神輿のあぶだくしょんに成功。
その際、神輿はお気に入りっぽいぬいぐるみにしがみ付いていたので、同時にぬいぐるみもあぶだくしょんだ。
そしてゴトリと取り口に落ちてくる神輿とぬいぐるみ。
ひしっとぬいぐるみにしがみ付いたままの神輿を、ピックアップする。
「よし、神様ゲットだぜ」
(ども~)
「かみさま、けっこうたのしんでるです?」
ぬいぐるみを抱えた神輿は、ぴかぴか光ってキャッキャしているね……。
なんだかんだ言って、神様も楽しんでいたようで。
それじゃこのぬいぐるみは、お供えしちゃいましょう。だってしがみ付いて離れないし。
「このぬいぐるみは、神様にお供えしますね」
(わーい!)
ぬいぐるみを抱えたまま、くるくる回って喜ぶ神輿だ。
でも、筐体の中に入ったらだめですよ?
「すいません、この子って……イヌじゃないですよね?」
「ギニャ?」
「――イヌです」
「ギニャとか言ってますけど……」
「――そういうイヌなんです。かわいいですよね」
「ええ……?」
ペットコーナーでは、他の一般客さんに質問を受けたり。
フクロ「イヌ」というんだから――イヌだよね。
そう、イヌである。イヌに違いない。
――そんな風にドタバタしているうちに、あっというまに新潟港に到着した。
船内では、まるでゆっくりしている暇はなかったね……。
さて、これからいよいよ、村に帰るときだ。
もうすぐ、もう間もなく、旅は終わる。
ラストスパートだ。
◇
「ようやく新潟に到着です。みなさん、これから村へと一直線に帰りますよ!」
「もうすぐです~!」
「かえるぞ~!」
「うおおおおお」
新潟港に到着してバスに乗り込んでから、村へ帰ると告げた。
そしたらエルフたち、妙なテンションになっていた。
そんな気合いを入れなくても、高速走って二時間半ですから。
あっという間ですから。
「帰りは俺が運転するぜ」
「高橋さん、おねがい」
「おうよ」
帰りの運転は高橋さんだ。結局、俺は引率をしていてほとんど運転しなかったな。
親父と高橋さん、ありがとうだ。いずれお礼をしよう。
さて、帰りは北陸自動車道と上信越自動車道で一気に帰る。
バスでの長距離移動と、海竜ちゃんとの海遊びでスピードには慣れているはずだ。
高速道路で帰っても、もう大丈夫だろう。
「ギニャ~」
「ちゃんとシートベルトするですよ?」
(こうするの~)
「ギニャン」
フクロイヌも着座して、ちゃっかりシートベルトをしている。
この動物も、器用だね……。
あと、神輿がシートベルトをする衝撃的瞬間もようやく見られた。
なんというか、器用ですね……。
なにはともあれ、帰ろう。
高速使って、一気に村まで行っちゃいましょう!
「みなさん、これから行きとは違う道を通って帰ります。高速道路と言います」
「あえ? こうそくどうろです?」
正確には自動車道だけど、まあ意味合いが伝わればそれでいいからね。
凄い速さで走れる道、と言っとけば大体問題ないよね。
「すっごい速さで車が走れる、すっごい道だよ」
「すっごいみちですか~」
「そうだよ。すっごい速さで走るから、すぐに移動できちゃうんだ」
「すごそうです~」
既にスピードの向こう側を体験したハナちゃんなので、すっごい速さと聞いても怖がってはいないね。
にこにこ笑顔でおててをあげて、「凄そう!」を表現している。
「すっごいはやさだって」
「ふつうにはしっててもすごいのに、もっとはやいの?」
「らしい」
そしてほかのみなさんも、良くわからないなりにドキドキワクワクした様子だね。
今のところ問題なさそうだから、さっそく乗ってしまいましょう。
「では、これから高速道路に入ります」
「いよいよです~」
「あ、いまなんか……へんなわくのところをくぐりましたね!」
「あ、あれ? すごいかそくしてないですか……?」
インターチェンジに入ってETCゲートをくぐって、すぐさま合流だ。
一気に加速する。
……とはいえ、時速八十キロメートルしか出さないけど。
「あや~! ものすごいはやさで、じどうしゃはしってくです~」
「おおおお! バイクが、バイクがいっしゅんでみえなく……」
「やべええええ! けしきがすごいはやさでながれてく~」
(きゃー!)
そして走行車線を走っていると、ガンガン追い越されていく。
百キロ以上でている車もあったりで、そこはご愛敬だね。
ちなみに神輿は、合流した時点で俺の服の中に飛び込んできた。
いや、そこよりシートベルトしてたほうが安全ですから……。
「これが高速道路というもので、下にある道の倍くらいの速さで移動できる道です」
「これなら、むらまであっというまです~!」
「こんなすごいみちが、あったなんて……」
「むらのそと、おもってたよりやばかったんですね……」
ハナちゃん一家も、窓に張り付いて高速で流れる光景を眺めている。
ハナちゃんはおめめまん丸で、すっごくはしゃいでいるね。
「か……かっこいい――……」
「あれ、おまえなんか、ふたりになってね?」
『え? なにそれ? でも、なんかからだがかるくなったような……』
「おい、こっちのほう、いきしてないぞ……」
『またまた~』
ああああ! メカ好きさん――完全になんかが離脱してる!
早く戻さないと!
『お? これけっこうたのしいかも』
「たのしんでるとこわるいけどさ。おまえ、なんかすけてるんだけど……まずくねえ?」
『またまた~』
ちょっと! 離脱した方のメカ好きさん!
キャッキャしてないで戻って戻って!
◇
「あ、危なかった……」
「おてすうおかけしました……」
「おまえ、もうちょっとこしをおちつけたほうがいいんじゃね?」
「そういう問題ですかね……?」
ユキちゃんや隣の人と協力して、急いで詰め込み直して事なきを得た。
この人、油断できないぞほんと。
離脱しないように訓練しといてもらおう。
「あとで、なんかが出ちゃわないような訓練を教えますので」
「お、そういうのあるんですか?」
「いちおう、有るには有りますね」
会得するまでは、木工用ボンドで止めとけば良いか。
わりと木工用ボンド、なんかの接着に使えるんだよね。
障子用のノリも結構使える。
天然素材を接着する用途だからかな?
「大志、騒いでいるうちにもう上信越道入ったぞ」
「え? もう?」
メカ好きさんのアレを戻しているうちに、ずいぶん進んだようだ。
確かに上信越自動車道に入っているね。
もうしばらく走ったら、対面通行区間か。
ここでガクっと速度が落ちるから、多少は落ち着くかな。
「みなさん、あと半分くらいで村に着きますよ」
「え? もうついちゃうです?」
「なんだか、あっというまですね……」
「ふしぎね。いきはあんなにじかんがかかったのに……」
しみじみしているところ悪いですが、高速を使っているので速いのは当然ですよ。
実際に、半分以下の時間で移動できてますから。
……まあそれは置いといて、あとちょっとで到着だ。
もう、旅が終わっちゃうんだな……。
楽しい時間は流れるのが早――。
『――それでタイシさん、またでちゃったんですけど……』
「はいはい戻します」
「お、こんどはするっともどった」
いやね、もうちょっと浸らせて下さいよ。
今結構良いところだったんですよ。
◇
そうしてメカ好きさんのたまし――アレを戻したり色々しているうちに、村の入り口に到着だ。
あれだね。忙しくて帰路を堪能する暇が無かったね。
俺が運転しなくて、ほんと良かった……。
まあ、賑やかで良かったというところか。
退屈する暇もないほどだったから、ある意味充実した帰路と言っても良いかも。
その忙しさの原因は……とりあえず木工用ボンド、あれで接着しとこう。
どこにあったかな……。
『はいみなさん、もうすぐ村に入ります。やっぱり面白い光景が見られるので、お見逃し無く』
木工用ボンドを仕舞った場所を思い出そうとしていると、高橋さんからアナウンスが入った。
いよいよ領域に突入だ。
「ほらハナちゃん、今度は行きとは違った光景が見られるよ」
「あや~。たのしみです~」
「どんなこうけいか、わくわくしますね」
「こんどは、どうなるんでしょうか」
そうして、俺の指さした方をみなさん見つめる。
指さす先には――道が無い。
ただ、木々が生い茂って壁を作っているのが見えるだけ。
「あえ? なにもないです?」
「みちがないですけど……て、えええ!? つっこんでく!?」
「ええええ!? ぶつかるー!」
(きゃー!)
バスはそのまま、木々の壁につっこんで――すり抜ける。
その瞬間、みなさん大騒ぎだ。
神輿もまたもや、俺の服の中に飛び込んでぷるぷるだ。
まあ、この障壁というか入り口は、かなり巧妙に隠蔽されている。
神様でも、知らないと見破れないんじゃないかな?
だから、怖くても無理は無いかも。
怖がらせちゃったお詫びに、なでなでしとくか。
(およ? いいかんじ~)
なでなですると、怖さが和らいだのか、首元から本体をぴょこっと出してきた。
これもう、拾ってきた子猫と同じ反応だね。
「あやややや! とおりぬけちゃったです~!」
「い、いまのはいったい……」
「ゆめでも、みていたんでしょうか……」
そしてエルフたちも落ち着き始めた。
さて、軽く説明しておこう。
「今のは『門』でして、資格のある人だけすり抜けられます」
「ないひとはどうなるです?」
「木にぶつかるね。かったーい木に」
「あや~。よくわからないけど、すごいです~!」
村に入れる資格のある人だけ、何も無いようにすり抜けられる。
資格が無い人は……木に阻まれてそれ以上進めない。
これが初代の作った……強固で巧妙な、「門」だ。
どんな原理か、どんな術か……まったくわからない。
そして「門」をくぐり抜けると、すぐさまワープだ。
「あや! またあのふうけいです~」
「これは、いつものこうけいですね」
「すごいですね……」
もう一度経験しているとは言え、みんなはまたもや見とれる。
初代が作った「仕舞った」空間が展開される瞬間だ。
いや、俺たちが「仕舞われている」という方が正しいかな?
何はともあれ、とうとう村に到着だ。
これで旅は終わり。
日常への、帰還だ。
◇
「はい、村に到着しました。長旅はこれで終わり……みなさん、お疲れ様です!」
「ついたです~!」
「とうとう、おわったんですね……」
「あっというま、でしたね」
(おうち、かえってきた~)
平地についてバスを降りて、みんなに旅の終了を宣言する。
とうとう旅が終わったと言うことで、みんなもじーんとしている。
達成感、というものを感じているのかもな。
「大志、お疲れ」
「良くやったな。大仕事終えたぞ」
「お疲れ様でした。大志さんやみなさんとの旅行……とっても楽しかったです!」
「ぎゃう!」
色々付き合わせちゃった地球側のみんなも、俺の肩をたたいたりげんこつを合わせたりして、ねぎらってくれる。
ユキちゃんは、俺の両手を握ってにっこり笑顔だね。
そしてその手の温かさが、じんわりと心にしみこんでくる。
海竜ちゃんも、ひれをぱたぱたさせて喜んでいる。
「俺だけじゃ何にも出来なかったよ。みんなが手伝ってくれたおかげだ。みんなありがとう」
「良いって事よ。後で酒でもおごってくれ」
「俺はお前の親だからな。手伝うのなんて当たり前さ」
「私も、大志さんのお手伝いならがんばっちゃいますから!」
「ぎゃうぎゃう」
ほんと、みんなありがたいね。
それに、エルフたちもだ。
「みなさんの頑張りも、この旅を達成するのに欠かせないものでした。みなさんありがとうございます」
「タイシ、ありがとです~!」
「タイシさんがうごいてくれなかったら、ゆめはかないませんでした」
「わたしからも、おれいもうしあげます」
「ギニャ~」
(ありがと~)
みんなにもお礼を言うと、口々にねぎらってくれる。
ハナちゃんはよじよじ登ってきて、肩車のいつものポジションだ。
こうしてみんなに囲まれて、今回の旅は終わった。
旅を終えてみんなが手にしたのは、協力することで成し遂げられた、大きな達成感と……沢山の思い出。
それと、夢を叶えるため――旅立つ勇気。
みんな、かけがえの無い物を手にした。
そう思う。
◇
という風に綺麗に終わらせられたら良かったのだけど、まだ終わってないんだよね。
後回しにした最大の懸案事項があるわけだ。
「ギニャ?」
水没した謎世界で救出したフクロイヌ。
長い付き合いなので、村にいる個体だということはすぐに分かった。
本来は村にいたはずのフクロイヌが、なぜか謎世界にいたわけで。
その原因と思われる、どんな動物がフクロで眠っているか――確かめなくては。
「では、準備は良いかな?」
「だいじょぶです」
「ええ。準備はできてます」
「わたしも、さんかしますよ」
「せっかくだから、わたしも」
ゾロゾロとみんなが集まり、フクロイヌを囲む。
みんな、手をワキワキさせて準備万端だ。
「ギニャ~ン」
フクロイヌも受け入れ体勢は万全だ。
仰向けになり、お腹を見せて期待のまなざしだ。
では――くすぐりましょう!
「みなさん、行きますよ!」
「あい~! くすぐるです~!」
「そーれっ!」
みんなで一斉に、フクロイヌのお腹をこちょこちょこちょこちょ!
右から左から――くすぐりまくる!
「ギニャニャニャ~ン! ギニャニャニャ!」
フクロイヌはもう、くすぐられて超ご機嫌だ。
前足後ろ足、そしてしっぽをぱたぱた動かし喜ぶ。
そしていよいよ――なんか出てきた!
「やっぱりだ!」
「タイシ! でてきたです~!」
「動物さん、こんにちわ!」
「ようこそ~!」
「なかまがふえるわ~!」
「ギニャ~」
ぽろぽろとフクロから、丸まった何かがこぼれ出てくる。
握り拳大の何かが沢山……すごい、沢山。
――数え切れないくらい。
さて、一体どんな動物かな……て。
――え? なにこれ。
「あえ?」
「何だ――これ?」
何だこれ?
透明な……羽根?
虫? それとも――。
そして、その「何か」は、ぴろっと体を広げた。
その姿は……。
「あやややや! かわいいです~!」
「キャー! ちっちゃかわいい~!」
「?」
それは、きょとんとした様子でこちらを見ている。
何これ、かわいい~!
これにて夏休み特別企画は終了となります。
同時に、今章も終了となりました。お付きあい頂き、ありがとうございます。
次章も引き続き、お付きあい頂ければと思います。