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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
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第二十四話 旅の終わりと、フクロイヌ


「えっとね、こう考えたら良いよ。旅ってのはね――」

「あい」


 ハナちゃんが寂しそうだったので、話を聞いてみた。

 どうやら旅の終わりが、名残惜しいみたいだ。

 つまりはそれだけ、この旅を楽しんでくれたと言うことだ。

 それは――とても嬉しいことだ。


 そこまでこの旅を楽しんでくれたハナちゃんに、家に帰ることも楽しめるような……そんな言葉を贈ろう。


「旅は、帰る場所があるから良いんだ」

「あえ? かえるばしょです?」

「そうだよ。帰る場所があるから、旅は楽しいんだ」

「それは……なんでです?」


 ハナちゃん、興味が出たようだ。耳をぴこんと立てて、こっちを見ている。

 それじゃ、大事なことを伝えよう。


「帰る場所が無かったら……旅が終わったときや、旅が出来なくなったとき――どこに行けば良いと思う?」

「……あや~。わからないです~」

「そう、分からないんだ。それでは旅は楽しめないよね?」

「こわいです~」


 ハナちゃん、帰る場所の無い旅の怖さが分かったようだ。

 旅がおわったり旅を続けられなくなったときに帰る場所が無い、それはとても恐ろしいことだ。

 そしてハナちゃんぷるぷるしちゃったね。ちょっと怖がらせすぎたか。

 でも、これは必要な事だからね。これが分かれば、次に言う大事なことも理解できる。


 それじゃ最後だ。

 ぷるぷるハナちゃんをほんわかさせましょう。


「でもね、帰るお家があったらどうかな?」

「かえるおうちです?」

「そうだよ。お父さんやお母さんがいて、お爺ちゃんやお婆ちゃん、そしてひいお婆ちゃんがいるお家はどう?」


 家族みんながいる家を想像したのか、ハナちゃんの顔もだんだん明るくなってくる。


「あや……とってもあんしんできるです~」

「そうだね、ほっとするよね。さらに、ホットケーキも出てきちゃったら?」

「うふ~。しあわせです~」


 家族みんなで食べるホットケーキを思い出したのか、ハナちゃんにっこにこ笑顔になった。

 耳もでろんとたれ耳で、たれ耳ハナちゃんになったね。

 これでもう大丈夫だ。旅を終えて家に帰る意味、分かって貰えたと思う。


「旅を終えて、家族がいる安心できるお家に帰る。これってすごい幸せな事だと、自分は思うよ」

「あい~! ハナもそうおもうです~!」


 これで大丈夫。ハナちゃんは、旅を終えて家に帰る事も楽しめるはずだ。

 お家に帰って、家族みんなとほんわか過ごす。

 この安心あるからこそ、旅に出ても安心していられる。

 帰る場所があるということは、そういうことだからね。


「タイシ~! ありがとです~!」

「そういうわけだから、家に帰ったらのんびりするんだよ?」

「あい~!」


 これでよし、と。ハナちゃん、元気になったようだね。

 これにて一件落着だ。


「ええはなしや……」

「おうち、かえるぞー!」

「かぞくっていいな……」


 そして後ろを振り返ると、号泣エルフたちが居た。

 みなさん、話聞いてたのね……。


「おれたち、いえにかえってもひとりなんだけど」

「ひとりみには、どっちにころんでもつらいはなし……」


 そしてマッチョさんとマイスターに大ダメージ。

 二人は崩れ落ちた。

 ……あれだ、フォローしておこう。


「お二人とも、村に帰ったらお料理屋に行くと良いですよ」

「そこはまいにちいってるけど……」

「やさいいためは、だいたいでてくるじゃん?」

「出迎えてくれる人が居るなら、そこが帰る場所ですよ」

「「おおお……」」


 マッチョさんとマイスター、なんだか感動している。

 実は適当言っただけだけどね。

 でも、腕グキさんとステキさんの行動を見るに、そうそう間違ってはいないと思う。

 二人にもちゃんと、帰る場所はあるんじゃないかな。


「タイシさん、わかってるわ~」

「きょうもおりょうり、がんばるね!」


 ほら、腕グキさんとステキさん、キャッキャと喜んでいるし。

 これで問題ないよね。


「タイシ! いっしょにおうち、かえるです~!」


 そして元気になったハナちゃん、お耳をぴこぴこさせて大はしゃぎだ。

 それじゃ、元気に村に帰ろう!



 ◇



「たのしかったです~! ありがとうです~!」

「さど、いいとこだった~!」

「いいおもいで、できたわ~!」


 そして船は出航し、みんなデッキで手を振る。

 これからまた二時間半の船旅だ。おもいっきり帰りを楽しもう。


「みなさん、この後お昼を食べて、それから自由行動です。旅の締めくくりを楽しみましょう!」

「「「はーい!」」」


 こうして、食堂でお昼を食べたり、船を探検したりと帰りの船旅を満喫する。


「ラーメン、おいしいです~」

「そういえば、なんかラーメンばっかりたべてるきがしますね」

「カレーもおいしいわよ?」

(おそなえもの、たくさん~)


 お昼では案の定、ラーメンを頼む人が多かった。

 ラーメンがエルフソウルフードになりつつあるけど、良いのかな?


「タイシタイシ。かみさま、へんなところにいるです?」

(ぬいぐるみ、ふわふわ~)

「あ! ほんとだ! 一体どうやってこの中に……」


 ゲームコーナーに行ったら、クレーンゲーム筐体のケースの中に神輿が居た。

 ぬいぐるみに囲まれてキャッキャしている……。


「なんかすごそうな景品あるね」

「あれ、取れる?」

「難しそうだよ」


 そして、豪華な神輿模型の景品に興味を持つ人もちらほら。

 数万円の模型な上に、神様憑依中だ。そりゃ格が違う。


 ……それはさておき、他の人にキャッチされたら、うちの神様がよその子になってしまう。

 それはまずい。


「他の人に取られると困るから、キャッチしますよっと」

(きゃー!)

「あや! みこしにげたです~!」


 慌ててお金を投入し、神輿をあぶだくしょんする。

 ケース内で逃げ回るので、これがなかなか難しい。


「よし! キャッチしたぞ!」

(さらわれる~)

「あややや! ぬいぐるみにしがみついてるです~」


 二千円投入して、ようやくキャッチ。神輿のあぶだくしょんに成功。

 その際、神輿はお気に入りっぽいぬいぐるみにしがみ付いていたので、同時にぬいぐるみもあぶだくしょんだ。

 そしてゴトリと取り口に落ちてくる神輿とぬいぐるみ。

 ひしっとぬいぐるみにしがみ付いたままの神輿を、ピックアップする。


「よし、神様ゲットだぜ」

(ども~)

「かみさま、けっこうたのしんでるです?」


 ぬいぐるみを抱えた神輿は、ぴかぴか光ってキャッキャしているね……。

 なんだかんだ言って、神様も楽しんでいたようで。

 それじゃこのぬいぐるみは、お供えしちゃいましょう。だってしがみ付いて離れないし。


「このぬいぐるみは、神様にお供えしますね」

(わーい!)


 ぬいぐるみを抱えたまま、くるくる回って喜ぶ神輿だ。

 でも、筐体の中に入ったらだめですよ?


「すいません、この子って……イヌじゃないですよね?」

「ギニャ?」

「――イヌです」

「ギニャとか言ってますけど……」

「――そういうイヌなんです。かわいいですよね」

「ええ……?」


 ペットコーナーでは、他の一般客さんに質問を受けたり。

 フクロ「イヌ」というんだから――イヌだよね。

 そう、イヌである。イヌに違いない。


 ――そんな風にドタバタしているうちに、あっというまに新潟港に到着した。

 船内では、まるでゆっくりしている暇はなかったね……。


 さて、これからいよいよ、村に帰るときだ。

 もうすぐ、もう間もなく、旅は終わる。

 ラストスパートだ。



 ◇



「ようやく新潟に到着です。みなさん、これから村へと一直線に帰りますよ!」

「もうすぐです~!」

「かえるぞ~!」

「うおおおおお」


 新潟港に到着してバスに乗り込んでから、村へ帰ると告げた。

 そしたらエルフたち、妙なテンションになっていた。

 そんな気合いを入れなくても、高速走って二時間半ですから。

 あっという間ですから。


「帰りは俺が運転するぜ」

「高橋さん、おねがい」

「おうよ」


 帰りの運転は高橋さんだ。結局、俺は引率をしていてほとんど運転しなかったな。

 親父と高橋さん、ありがとうだ。いずれお礼をしよう。

 さて、帰りは北陸自動車道と上信越自動車道で一気に帰る。

 バスでの長距離移動と、海竜ちゃんとの海遊びでスピードには慣れているはずだ。

 高速道路で帰っても、もう大丈夫だろう。


「ギニャ~」

「ちゃんとシートベルトするですよ?」

(こうするの~)

「ギニャン」


 フクロイヌも着座して、ちゃっかりシートベルトをしている。

 この動物も、器用だね……。


 あと、神輿がシートベルトをする衝撃的瞬間もようやく見られた。

 なんというか、器用ですね……。


 なにはともあれ、帰ろう。

 高速使って、一気に村まで行っちゃいましょう!


「みなさん、これから行きとは違う道を通って帰ります。高速道路と言います」

「あえ? こうそくどうろです?」


 正確には自動車道だけど、まあ意味合いが伝わればそれでいいからね。

 凄い速さで走れる道、と言っとけば大体問題ないよね。


「すっごい速さで車が走れる、すっごい道だよ」

「すっごいみちですか~」

「そうだよ。すっごい速さで走るから、すぐに移動できちゃうんだ」

「すごそうです~」


 既にスピードの向こう側を体験したハナちゃんなので、すっごい速さと聞いても怖がってはいないね。

 にこにこ笑顔でおててをあげて、「凄そう!」を表現している。


「すっごいはやさだって」

「ふつうにはしっててもすごいのに、もっとはやいの?」

「らしい」


 そしてほかのみなさんも、良くわからないなりにドキドキワクワクした様子だね。

 今のところ問題なさそうだから、さっそく乗ってしまいましょう。


「では、これから高速道路に入ります」

「いよいよです~」

「あ、いまなんか……へんなわくのところをくぐりましたね!」

「あ、あれ? すごいかそくしてないですか……?」


 インターチェンジに入ってETCゲートをくぐって、すぐさま合流だ。

 一気に加速する。

 ……とはいえ、時速八十キロメートルしか出さないけど。


「あや~! ものすごいはやさで、じどうしゃはしってくです~」

「おおおお! バイクが、バイクがいっしゅんでみえなく……」

「やべええええ! けしきがすごいはやさでながれてく~」

(きゃー!)


 そして走行車線を走っていると、ガンガン追い越されていく。

 百キロ以上でている車もあったりで、そこはご愛敬だね。


 ちなみに神輿は、合流した時点で俺の服の中に飛び込んできた。

 いや、そこよりシートベルトしてたほうが安全ですから……。


「これが高速道路というもので、下にある道の倍くらいの速さで移動できる道です」

「これなら、むらまであっというまです~!」

「こんなすごいみちが、あったなんて……」

「むらのそと、おもってたよりやばかったんですね……」


 ハナちゃん一家も、窓に張り付いて高速で流れる光景を眺めている。

 ハナちゃんはおめめまん丸で、すっごくはしゃいでいるね。


「か……かっこいい――……」

「あれ、おまえなんか、ふたりになってね?」

『え? なにそれ? でも、なんかからだがかるくなったような……』

「おい、こっちのほう、いきしてないぞ……」

『またまた~』


 ああああ! メカ好きさん――完全になんかが離脱してる!

 早く戻さないと!


『お? これけっこうたのしいかも』

「たのしんでるとこわるいけどさ。おまえ、なんかすけてるんだけど……まずくねえ?」

『またまた~』


 ちょっと! 離脱した方のメカ好きさん!

 キャッキャしてないで戻って戻って!



 ◇



「あ、危なかった……」

「おてすうおかけしました……」

「おまえ、もうちょっとこしをおちつけたほうがいいんじゃね?」

「そういう問題ですかね……?」


 ユキちゃんや隣の人と協力して、急いで詰め込み直して事なきを得た。

 この人、油断できないぞほんと。

 離脱しないように訓練しといてもらおう。


「あとで、なんかが出ちゃわないような訓練を教えますので」

「お、そういうのあるんですか?」

「いちおう、有るには有りますね」


 会得するまでは、木工用ボンドで止めとけば良いか。

 わりと木工用ボンド、なんかの接着に使えるんだよね。

 障子用のノリも結構使える。

 天然素材を接着する用途だからかな?


「大志、騒いでいるうちにもう上信越道入ったぞ」

「え? もう?」


 メカ好きさんのアレを戻しているうちに、ずいぶん進んだようだ。

 確かに上信越自動車道に入っているね。

 もうしばらく走ったら、対面通行区間か。

 ここでガクっと速度が落ちるから、多少は落ち着くかな。


「みなさん、あと半分くらいで村に着きますよ」

「え? もうついちゃうです?」

「なんだか、あっというまですね……」

「ふしぎね。いきはあんなにじかんがかかったのに……」


 しみじみしているところ悪いですが、高速を使っているので速いのは当然ですよ。

 実際に、半分以下の時間で移動できてますから。


 ……まあそれは置いといて、あとちょっとで到着だ。

 もう、旅が終わっちゃうんだな……。

 楽しい時間は流れるのが早――。


『――それでタイシさん、またでちゃったんですけど……』

「はいはい戻します」

「お、こんどはするっともどった」


 いやね、もうちょっと浸らせて下さいよ。

 今結構良いところだったんですよ。



 ◇



 そうしてメカ好きさんのたまし――アレを戻したり色々しているうちに、村の入り口に到着だ。

 あれだね。忙しくて帰路を堪能する暇が無かったね。

 俺が運転しなくて、ほんと良かった……。


 まあ、賑やかで良かったというところか。

 退屈する暇もないほどだったから、ある意味充実した帰路と言っても良いかも。

 その忙しさの原因は……とりあえず木工用ボンド、あれで接着しとこう。

 どこにあったかな……。


『はいみなさん、もうすぐ村に入ります。やっぱり面白い光景が見られるので、お見逃し無く』


 木工用ボンドを仕舞った場所を思い出そうとしていると、高橋さんからアナウンスが入った。

 いよいよ領域に突入だ。


「ほらハナちゃん、今度は行きとは違った光景が見られるよ」

「あや~。たのしみです~」

「どんなこうけいか、わくわくしますね」

「こんどは、どうなるんでしょうか」


 そうして、俺の指さした方をみなさん見つめる。

 指さす先には――道が無い。

 ただ、木々が生い茂って壁を作っているのが見えるだけ。


「あえ? なにもないです?」

「みちがないですけど……て、えええ!? つっこんでく!?」

「ええええ!? ぶつかるー!」

(きゃー!)


 バスはそのまま、木々の壁につっこんで――すり抜ける。

 その瞬間、みなさん大騒ぎだ。

 神輿もまたもや、俺の服の中に飛び込んでぷるぷるだ。


 まあ、この障壁というか入り口は、かなり巧妙に隠蔽されている。

 神様でも、知らないと見破れないんじゃないかな?

 だから、怖くても無理は無いかも。

 怖がらせちゃったお詫びに、なでなでしとくか。


(およ? いいかんじ~)


 なでなですると、怖さが和らいだのか、首元から本体をぴょこっと出してきた。

 これもう、拾ってきた子猫と同じ反応だね。


「あやややや! とおりぬけちゃったです~!」

「い、いまのはいったい……」

「ゆめでも、みていたんでしょうか……」


 そしてエルフたちも落ち着き始めた。

 さて、軽く説明しておこう。


「今のは『門』でして、資格のある人だけすり抜けられます」

「ないひとはどうなるです?」

「木にぶつかるね。かったーい木に」

「あや~。よくわからないけど、すごいです~!」


 村に入れる資格のある人だけ、何も無いようにすり抜けられる。

 資格が無い人は……木に阻まれてそれ以上進めない。


 これが初代の作った……強固で巧妙な、「門」だ。

 どんな原理か、どんな術か……まったくわからない。


 そして「門」をくぐり抜けると、すぐさまワープだ。


「あや! またあのふうけいです~」

「これは、いつものこうけいですね」

「すごいですね……」


 もう一度経験しているとは言え、みんなはまたもや見とれる。

 初代が作った「仕舞った」空間が展開される瞬間だ。

 いや、俺たちが「仕舞われている」という方が正しいかな?


 何はともあれ、とうとう村に到着だ。

 これで旅は終わり。


 日常への、帰還だ。



 ◇



「はい、村に到着しました。長旅はこれで終わり……みなさん、お疲れ様です!」

「ついたです~!」

「とうとう、おわったんですね……」

「あっというま、でしたね」

(おうち、かえってきた~)


 平地についてバスを降りて、みんなに旅の終了を宣言する。

 とうとう旅が終わったと言うことで、みんなもじーんとしている。

 達成感、というものを感じているのかもな。


「大志、お疲れ」

「良くやったな。大仕事終えたぞ」

「お疲れ様でした。大志さんやみなさんとの旅行……とっても楽しかったです!」

「ぎゃう!」


 色々付き合わせちゃった地球側のみんなも、俺の肩をたたいたりげんこつを合わせたりして、ねぎらってくれる。

 ユキちゃんは、俺の両手を握ってにっこり笑顔だね。

 そしてその手の温かさが、じんわりと心にしみこんでくる。

 海竜ちゃんも、ひれをぱたぱたさせて喜んでいる。


「俺だけじゃ何にも出来なかったよ。みんなが手伝ってくれたおかげだ。みんなありがとう」

「良いって事よ。後で酒でもおごってくれ」

「俺はお前の親だからな。手伝うのなんて当たり前さ」

「私も、大志さんのお手伝いならがんばっちゃいますから!」

「ぎゃうぎゃう」


 ほんと、みんなありがたいね。

 それに、エルフたちもだ。


「みなさんの頑張りも、この旅を達成するのに欠かせないものでした。みなさんありがとうございます」

「タイシ、ありがとです~!」

「タイシさんがうごいてくれなかったら、ゆめはかないませんでした」

「わたしからも、おれいもうしあげます」

「ギニャ~」

(ありがと~)


 みんなにもお礼を言うと、口々にねぎらってくれる。

 ハナちゃんはよじよじ登ってきて、肩車のいつものポジションだ。


 こうしてみんなに囲まれて、今回の旅は終わった。


 旅を終えてみんなが手にしたのは、協力することで成し遂げられた、大きな達成感と……沢山の思い出。

 それと、夢を叶えるため――旅立つ勇気。


 みんな、かけがえの無い物を手にした。

 そう思う。



 ◇



 という風に綺麗に終わらせられたら良かったのだけど、まだ終わってないんだよね。

 後回しにした最大の懸案事項があるわけだ。


「ギニャ?」


 水没した謎世界で救出したフクロイヌ。

 長い付き合いなので、村にいる個体だということはすぐに分かった。

 本来は村にいたはずのフクロイヌが、なぜか謎世界にいたわけで。

 その原因と思われる、どんな動物がフクロで眠っているか――確かめなくては。


「では、準備は良いかな?」

「だいじょぶです」

「ええ。準備はできてます」

「わたしも、さんかしますよ」

「せっかくだから、わたしも」


 ゾロゾロとみんなが集まり、フクロイヌを囲む。

 みんな、手をワキワキさせて準備万端だ。


「ギニャ~ン」


 フクロイヌも受け入れ体勢は万全だ。

 仰向けになり、お腹を見せて期待のまなざしだ。


 では――くすぐりましょう!


「みなさん、行きますよ!」

「あい~! くすぐるです~!」

「そーれっ!」


 みんなで一斉に、フクロイヌのお腹をこちょこちょこちょこちょ!

 右から左から――くすぐりまくる!


「ギニャニャニャ~ン! ギニャニャニャ!」


 フクロイヌはもう、くすぐられて超ご機嫌だ。

 前足後ろ足、そしてしっぽをぱたぱた動かし喜ぶ。


 そしていよいよ――なんか出てきた!


「やっぱりだ!」

「タイシ! でてきたです~!」

「動物さん、こんにちわ!」

「ようこそ~!」

「なかまがふえるわ~!」

「ギニャ~」


 ぽろぽろとフクロから、丸まった何かがこぼれ出てくる。

 握り拳大の何かが沢山……すごい、沢山。

 ――数え切れないくらい。


 さて、一体どんな動物かな……て。

 ――え? なにこれ。


「あえ?」

「何だ――これ?」


 何だこれ?


 透明な……羽根?

 虫? それとも――。


 そして、その「何か」は、ぴろっと体を広げた。

 その姿は……。


「あやややや! かわいいです~!」

「キャー! ちっちゃかわいい~!」

「?」


 それは、きょとんとした様子でこちらを見ている。

 何これ、かわいい~!


これにて夏休み特別企画は終了となります。

同時に、今章も終了となりました。お付きあい頂き、ありがとうございます。

次章も引き続き、お付きあい頂ければと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『えるふのなつやすみ』と言う章題を最初に見た時、『ふるえるなつやすみ』と空目しました なんだろう、このお話でホラーは無いだろうし、と一瞬、考えたモノの見間違いに気づき、話が進むにつれてやっ…
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