第二十三話 女子エルフ、お肌ぷるぷるへの道
花火大会が終わって、一行は旅館に帰還しました。
夜空に咲く不思議な炎をみて、エルフたちはもうおおはしゃぎ!
「花火、凄かったです~!」
「旅行、来てよかった~」
「素敵な思い出、できちゃった~」
キャッキャとはしゃぐエルフたち、トコトコうきうき歩きます。
そんなエルフたちに、大志が声をかけました。
「みなさん、これからはじゆうこうどうになります」
「あえ? 自由行動です?」
「うん、おんせんにはいったり、へやでくつろいだり。すきにすごしてね」
「あい~! ハナ、温泉はいるです~」
大志が自由行動を告げると、ハナちゃんは温泉に行くと言いました。
さっそくお部屋に戻って、浴衣に着替えます。
神輿もぴかぴか光っているので、一緒に温泉に行くのかな?
「温泉~あったまるです~」
「それでは、私もハナと温泉に行きますね」
「お母さんも温泉です~」
ご機嫌で浴衣に着替えて、準備完了です。
タオルを持って、いざ温泉へ。
「じぶんはフクロイヌとあそんでいるから、ゆっくりはいってきてね」
「ギニャ~」
「あい~!」
フクロイヌをなでなでする大志に見送られて、二人は温泉に向かいました。
神輿もほよほよと後をついて行っているので、一緒に入るのですね。
「あら二人とも、温泉に入るのね~」
「私たちも温泉に来たの」
「みんなで温泉、はいるです~」
脱衣場に行くと、腕グキさんとステキさんもおりました。
温泉仲間も増えて、ハナちゃんご機嫌です。
キャッキャとはしゃぎながら、手ぬぐいをもってぽてぽてと洗い場に向かいました。
「お母さん、背中流すです~」
「じゃあ、私も後でハナの背中を流すわね」
「あい~」
ハナちゃんとお母さん、仲良く背中を流しっこです。
お母さんとのんびりほのぼの、体を洗います。
一足先に神輿が体を洗い終え……サウナに直行していきました。
神様、割とシブい楽しみ方ですね。
「お母さん、あれ何です?」
「アレはね、熱いお部屋みたいね」
「ただ熱いお部屋に入って、なにするです?」
サウナに直行した神輿を見たハナちゃん、こてっと首を傾げます。
温泉も無いのに、なぜ? という感じですね。
「ユキさんから聞いた話では……熱いお部屋で汗をいっぱい出すと、お肌がぷるっぷるになるらしいの!」
「あや! そういうお部屋です?」
「そうらしいの。ねえ……一緒に入ってみる?」
「行ってみるです~」
カナさん、雪恵からサウナについて聞いていたようです。
というか、お肌がぷるっぷるという辺りでうずうずしていますね。
サウナとは、初心者が一人で入るのは若干ハードルが高い施設です。
ハナちゃんを口実に、自分で入りたいだけではないでしょうか?
「ほら、髪をこれで巻いて、上げなさいね」
「あい~」
体を洗い終わって、タオルを巻いて髪をあげたら準備完了です。
さあ、サウナに入りましょう!
「あや! 熱いです~!」
「うわ、こんなお部屋なのね……」
そうしてハナちゃんとカナさんがサウナに入ると、その熱気にあわあわ。
ちょっとたじろいでしまいました。
「あ、おふたりもきたんですね」
果たしてサウナには、先客として雪恵がいました。
神輿を膝の上にのせて、汗だっくだくです。
神輿もなんだか、ぐんにゃりしていますね。
「ユキさん、これでお肌がぷるっぷるになるんですか?」
「ええ。ふきでものがでにくくなったり、けっこうおはだにこうかがありますよ」
「……頑張ります!」
「あや! お母さん気合いみなぎったです~」
お肌ぷるっぷると改めて聞いたので、カナさん気合いが入ってしまいました。
そして雪恵の隣に座ります。
「ハナも座るです~」
お母さんの隣に、ハナちゃんもぽてっと座りました。
そうしてしばらく、じりじりと蒸されます。
「そういえばユキさん、髪が短いのにタオルを巻いているのね」
「ええ。サウナはあついので、かみがいたまないようにですね」
「ユキ、気をつかってるですね~」
「こういう、こまかいところがだいじなの」
「なるほどです~」
そうして女三人雑談しながら、サウナで過ごします。
五分くらい経ったでしょうか、サウナになれていないハナちゃんとカナさん、そして神輿がギブアップします。
「あえ~。もうダメです~」
「私も、限界……」
ふらふらと立ち上がるハナちゃんとカナさんです。
神輿もふらふら上昇し、外に出るみたいですね。
そんな蒸されエルフと蒸され神輿に、雪恵が声をかけます。
「からだをさましてから、またサウナにはいるをくりかえすといいですよ」
「わかりました」
「冷ますです~」
「そのよこにみずぶろがありますので、あせをながしてからはいるといいですね」
雪恵が指さす先には、水風呂がありました。
「あの水のお風呂って、そういう物だったんですね」
「ええ。みずあびするときもちいいですよ」
「水浴びするです~」
雪恵がお勧めするまま、ふらふらと水風呂に向かうハナちゃんと神輿ですね。
汗を流して、さあ冷ましましょう!
「あややややや……ちべたいです~」
水風呂に浸かってぷるぷるハナちゃん、神輿もぷかぷか浮かびます。
ぷかぷか浮かぶ神輿はぴっかぴか光って、なにやら快適そう。
「……あえ? なんだかすっきりです~」
ハナちゃんと神様、サウナと水風呂の良さをどうやら理解できたようです。
すっきりさっぱりした様子で、ちょこっと休憩。
「あら? そこのお部屋に入ってたのかしら~」
「どんな感じだった?」
ハナちゃんと神様がのんびり休憩していると、腕グキさんとステキさんがやってきました。
この謎の熱いお部屋、実は興味津々だったようですね。
「ユキの話しだと、お肌ぷるっぷるになるみたいです?」
「行くわよ~」
「ぷるっぷるが待ってるわ!」
そしてサウナに消えていく二人なのでした。
しばらくして……。
じりじり、じりじり。
「お肌……ぷるぷる……」
「美しくなるのよ……」
「美肌……美肌……」
「あ、あの。みなさん?」
他にも何名か温泉にやってきた女子エルフたちですが、みんなサウナで蒸されていました。
その必死――おっと美を追究する様子に、雪恵はタジタジです。
ぷるっぷるお肌のためなら、熱いのもがまんしちゃう女子エルフなのでした。
蒸された後は水風呂、汗を流して冷やします。
「あや~……これは良いですね~」
ハナちゃん、この歳にしてシブいお風呂の入り方を会得してしまいました。
中年くらいからハマり出すこの入り方、お子さんが会得するのはなかなか通ですね。
神輿もハナちゃんと一緒になって、サウナに入り水風呂に入り、ぴかぴか光ります。
「冷ますべし」
「お肌、引き締めるわ~」
「ぷるっぷるお肌~!」
ハナちゃんと違って、他の女子エルフたちは目的が別ですね。
あこがれのぷるぷるお肌を求めて、ちょっと目が据わっております。
彼女たちはそっとしておきましょうね。
「そろそろ、温泉入ってあったまるです~」
存分にサウナと水風呂を堪能したハナちゃん、今度は温泉を堪能するようです。
神輿もほよほよ飛んで、一緒にお風呂に入ります。
「良い温泉です~」
そうしてハナちゃんと神輿は、のんびりお風呂にはいりました。
ほんわかぐんにゃり、たれ耳ハナちゃんです。
こんな感じで、ハナちゃんと女性陣は温泉を楽しんでいったのでした。
◇
「お肌、ぷるっぷるになったわ!」
「やったわ~!」
「ぷるっぷる~!」
そして温泉を堪能した女性陣、ほかほかぷるぷるお肌でお部屋に帰ります。
カナさんはなんだか踊っていますが、周りの人の視線が集まってますよ。
それはさておき、今度はお部屋でのんびりしましょう。
「タイシ~、温泉入ってきたです~」
「お、ハナちゃんおはだぷるぷるで、きれいだね」
「うふ~」
お肌ぷるぷるハナちゃん、大志に褒められご機嫌です。
ちょっとだけ、お母さんの気持ちがわかったかな?
「ほらヤナ、お肌ぷるぷるよ!」
「う、うん。綺麗だよ」
「でしょでしょ!」
ヤナさんも無事ミッション達成です。
夫婦円満の秘訣ですね。
「それじゃハナちゃん、のんびりごろごろして、ねむくなったらねちゃおうね」
「すぴぴ」
「もうねてる!」
そしてほよほよと漂ってきて、ふとんに潜り込む神輿。
「かみさまも、もうねてる!?」
大志の隣のおふとんで、ハナちゃんもうおねむです。
イルカのぬいぐるみを抱えて、にこにこすやすや、かわいい寝顔ですね。
神輿も同じおふとんに潜り込んで、ぐっすりおねむなのでした。
「私たちももう少ししたら、寝ましょうか」
「そうですね。あしたはやおきして、ちょっとおよぎますか」
「良いですね。泳ぎましょう」
ハナちゃんたちが寝てしまったので、ヤナさんと大志もそんな話をしています。
今日は早く寝て、明日に備えましょう。
さて、ハナちゃんたちのお部屋はのんびり平和ですね。
他のお部屋はどうでしょうか?
腕グキさんたち、独身女三人のお部屋を見てみましょう。
「……てごたえはあるんですけどね」
「今一歩、あとちょっとな気はしてるのよ~」
「でもそこから先が……何ともなのよね」
女三人、なにやら顔を突き合わせて女子会です。
その目は獲物を狙う――狩人のよう。
何を狙っているかは、聞かないことにしましょうね。
「アレをつかうとき、かもしれないですね」
「前に言ってた、アレかしら~?」
「さりげなさが大事な、アレよね?」
「ええ――アレです」
……なにやら不穏な空気です。
これ以上は危険なので、他の部屋に移りましょう。
マイスターとマッチョさんのお部屋ですね。
「ガッハッハ! このお酒、うめえ~」
「こっちのお酒も、結構いけるじゃん?」
お部屋を散らかして、ガハハと酒盛りですね。
お土産で買ったお酒を、もう飲んでいます。
でもお土産ですよね? それ。今飲んで良いのかな?
「このお酒すげえぜ、一杯飲んでみ?」
「効くー!」
まあ、楽しそうだからそっとしておきましょう。
あと、お部屋は片付けておいて下さいね。
その他のお部屋は、家族でのんびりとしています。
今までの写真を見たり、デジカメで動画を見たり。家族でキャッキャと楽しそう。
……独身組のお部屋だけ、なんだかダメな感じでしたね。
とくに狩人――おっと独身女性三人組のお部屋が……。
まあ……そんなこんなで楽しく夜は更けていったのでした。
さて、もうおねむとなった大志たちのお部屋は、みんなもうおねむでしょうか?
最後にちょっと覗いてみましょう。
「う~ん、う~ん……」
「ぐふふ~、ぐふふ~」
「ギニャ……ギニャ……」
ハナちゃんは大志にガッシとしがみつき、神輿は大志の胸の上でもぞもぞぴかぴか。
そしてフクロイヌは大志の顔の上でぐっすりお休みです。
……大志はうなされているけど、大丈夫かな?
まあ、大丈夫と言うことにしておきましょう。
大志、頑張ってね。
◇
――そして翌日になりました。
とうとう旅行の最終日です。
起きてすぐ旅館近くの海でしこたま泳ぎ、その後チェックアウトまで温泉に浸かり。
朝から海と温泉旅館を堪能しました。
そしてついにチェックアウトとなり――。
「それではみなさん、これからフェリーにのってかえります」
「旅行、終わっちゃうです~」
「楽しかったな~」
「あっという間だったわね~」
とうとう帰る時間です。もうバスで港まで来てしまいました。
そして旅行が終わると言うことで、ハナちゃんちょっと残念そう。
ほかのエルフたちも、ハナちゃんと同様名残惜しそうに佐渡島を振り返ります。
「なごりおしいですが、かえりのフネもまたごうかですよ」
「あえ? 豪華な船です?」
「たぶんだけど、くるときにのったフネより、なかはひろいよ」
「まじで!」
「たのしみ~」
「どんなんだろ~」
名残惜しそうだったみなさんですが、もう次に乗る船の事で頭がいっぱいになりました。
行きの船はなかなか楽しかったので、帰りの船も楽しみなようですね。
途端にキャッキャし始めました。
「ほら、もうフネがきましたよ」
「あや! あれがそうです!?」
「そうそう、おっきなフネだから、びっくりしないようにね」
「だいじょぶです~」
「いっかいみたので、さすがにだいじょうぶでしょう」
大志はびっくりしないでねと念を押しますが、エルフたちだってすでに一回大型船を間近で見て、経験済みです。
さすがに、もう気絶はしないでしょう。
さすがにね。
「さすがに、また気絶とかはないよな~」
「一回見てるものね~」
「まさかね」
「また気絶するとか、それはちょっと」
余裕しゃくしゃくのみなさんですね。
さて、そうこうしているうちに、両津港に帰りのフェリーが近づいてきました。
どんどん近づいてきます。
ちなみに帰りのフェリーは、行きのフェリーより大きい奴です。
「お、ほんとにちょっとおおきいですね」
「……――」
「タイシさん、あんのじょうですよ」
「やっぱりか……」
タイシたちの後ろには、気絶したエルフたちがおりました。
お約束を忘れない方々ですね。
◇
「あやー! この船、中がなんだか豪華です~」
「ほんとに広いですね……」
「かっこいい……あがが」
気絶から立ち直って船に乗ったエルフたち、行きの船と違う内装にキャッキャと大はしゃぎ。
エントランスホールはきらびやかで、みんなのお目々もキラッキラです。
メカ好きの人は、魂的なアレが出たそばから大志が詰め込んでいます。
大志、だんだん手慣れてきてますね。
それはさておき、乗船してテンションが上がったエルフたち、さっそく船内を探検です。
デッキに出て外を眺めたり、食堂を発見してじゅるりとしたり。
あっちこっちを探検して、出航前から大はしゃぎです。
そしてこれから佐渡を離れて、本土に帰ります。
いよいよ、楽しい旅も終わりに近づいてきました。
「もう、旅も終わっちゃうですか~」
デッキで名残惜しそうに外を見るハナちゃん、ぽつりとつぶやきます。
写真で見た海、あこがれの海。
それからみんなで頑張って――夢を叶えました。
バスに乗って、船に乗って――そして海にたどり着いて。
海水浴をして、おいしいものを食べて、お料理もして。
「えへへ」
カヌーに乗って謎の世界でフクロイヌを助けて、戻ってきて。
海に潜ってお魚を見て、フクロイヌと海辺で遊んで。
「うふ~」
ひょんな事から陶芸体験になって、みんなでロクロを回して、良いこと思いついて。
そして旅館で大はしゃぎして、お刺身をたべて。
花火を見て――感動して。
「うきゃ~」
そして大志は、「お洋服似合ってて可愛いね」と毎回褒めてくれて。
「ぐふ~」
今日までの思い出が、浮かんでは消え浮かんでは消え。
大志やみんなとの楽しい思い出、よみがえります。
「……あえ?」
……でも、そんな夢の時間は――今日で終わり。
村に帰って、明日からはいつもの日常に戻ります。
「あや~……」
旅の終わり、祭りの終わり。
ハナちゃんは何とも言えない寂寥感、寂しさを感じました。
お耳もへにゃっと垂れ下がり、見るからに寂しそうです。
「ハナちゃんどうしたの?」
「タイシ~……」
そんな様子を見た大志は、ハナちゃんに話しかけました。
ちょっと心配そうですね。
「タイシ~。旅、もう終わっちゃうです?」
「そうだね。もうおわっちゃうね」
「あや~……」
「たびがおわるの、ざんねんかな?」
「あい~……」
あれほど楽しかった時間です。終わるのは寂しい物ですね。
でも、ハナちゃんには帰るおうちがあります。
おうちに帰って、いつもの生活に戻らないといけませんね。
「えっとね、こうかんがえたらいいよ、たびってのはね――」
大志は、ハナちゃんに語りかけました。
さあ大志、ハナちゃんを元気にしてあげましょう。
だって――元気なハナちゃんが、一番ですからね。