第二十二話 温泉旅館と、隠しイベント
楽しく海水浴をして、親切なおじさんと出会って陶芸体験をして。
充実した一日の締めくくりは、温泉旅館だ!
「みなさん、ここが今日宿泊する温泉旅館です」
「おっきなおうちです~!」
「こんなところに、とまっちゃうの?」
「やべええええ!」
旅館の玄関前で、キャーキャーと建物を見上げるみなさんだ。
奮発して、ちょっと良い旅館を予約した。
鉄筋コンクリート七階建て、高台にある見晴らしの良い旅館だね。
全室海側だから、部屋からの眺めも抜群だ。
しかしこの繁忙期にこんな良いところが予約できたのは、なぜだか分からない。
電話しまくったのが良かったのかな?
……まあ、予約できちゃったらこっちのもの。
思いっきり温泉旅館を堪能しましょう!
――しかし、一つ問題が。
「ギニャ」
動物、連れて行けないんだよな……。
どうしよう。
「フクロイヌ、どうしようね……」
「ギニャ?」
「困りましたね……」
しっぽふりふりのフクロイヌだけど、外に放置もできない。
バスの中で過ごしてもらうのも不安がある。
ユキちゃんも良い手が見つからないようで、二人でうんうん唸る。
ほんとどうしよう。
「タイシ、どうしたです?」
ユキちゃんと唸っていると、ハナちゃんがぽてぽてやってきた。
マリンピアで買った、イルカのぬいぐるみを抱えているね。
今日はぬいぐるみと一緒におねむかな?
それはそれとして、フクロイヌをどうしようかハナちゃんにも相談してみるか。
「いやね、この旅館、動物は入れないんだ。フクロイヌを連れて行けなくて困っててね」
「あや! フクロイヌだめです?」
「そうなんだよ……」
「ギニャ~……」
ダメと言われたフクロイヌ、しんなりしちゃった。
いやいや、君がダメってわけじゃなくて、場所的にね。
なでなでして慰めておこうか。
「ギニャギニャ」
撫でられて嬉しそうなフクロイヌだけど、問題は解決してない。
さてどうするか……。
……あ、そうだ。
「ねえ君、じっとしてぬいぐるみみたいに出来るかな?」
「ギニャ?」
「そうそう、ハナちゃんの持ってるふわふわみたいに、じっとできる?」
「ギニャ~」
フクロイヌに問いかけると、ぴたっと動かなくなった。
持ち上げてみよう。
「……」
すごい、ほんとにぬいぐるみみたい。
なんという演技のうまさ!
「タイシ、なにしてるです?」
「フクロイヌをぬいぐるみのフリさせて、ごまかそうかと」
「……こっちにはいない生きものですから、確かに動かないとぬいぐるみみたいですね」
ぴたっと動かないフクロイヌは、たしかにこっちにはいない生きものだけあって、ぬいぐるみと言われても違和感ないね。
よし、これで行こう。
「くすぐってみるです」
「ギ、ギニャ……」
こらこら、せっかく演技してるんだから。
フクロイヌ、ぷるぷるしちゃってるよ。
というかそれ以上くすぐると、フクロの中身でてきちゃうから!
◇
無事ごまかせて、チェックイン完了しました。
ヤナさんにイルカのぬいぐるみと、フクロイヌを抱えてもらったら違和感無しだった。
その見た目はお土産のぬいぐるみを抱えた、家族サービス中のおとうさんそのもの。
ヤナさんの地味さに助けられたね。
さて、無事潜入を果たせたので、早速お部屋に行きましょう!
「部屋は五階に固まってますので、エレベーターにのって行きます」
「えれべーたーです?」
「階段を上らなくて良いように、上の階まで運んでくれる乗り物があるんだ。ほらあれ」
「……のりものです?」
上に登るための乗り物、というイメージがわかないようだ。
まあ、乗ってもらえば良いよね。
使い方も簡単だから、実演して見せよう。
「とりあえず乗ってみようね」
「あい~」
トコトコとみんなでエレベータの前に移動し、上昇ボタンを押す。
「この上の方を押すと、上に行きたいってお願いを機械に出します」
「とすると、したのぽちぽちをおすと、したってことですか?」
「そうです」
ヤナさんがふむふむと、光るボタンを見ている。
やがて、エレベータがやってきた。
「この扉が開きますので、何人か乗ります。全員は無理なので、分けて乗りましょう」
「あや! ひらいたです~!」
「なかはせまいんですね」
きょろきょろしながらも、とりあえずハナちゃん一家がエレベータに乗り込んだ。
他の方々は、ユキちゃんや親父、そして高橋さんがガイドする。
さて、五階に移動しよう。
「ここに数字が書いてあるので、行きたいところの数字を押します」
「わたしたちは、ごかいだから……これですか」
「そうです。おしてみてください」
「ハナがおすです~」
ハナちゃんも数字が読めるので、難なく目的階のボタンをぽちっとできた。
機械を操作できて、どきどきわくわくの、エルフ耳がぴっこぴこだ。
そして、ボタンを押すとドアが閉じる。
「あや! とじちゃったです~」
「これから上に登るよ。問題ないから安心してね」
「ほんとだ! なんかのぼってます!」
「あややややや!」
安心してとは言ったけど、やっぱりエレベーターの中はワーキャー大騒ぎだ。
しかし、すぐさま五階に到着する。
「あややや! とびら、ひらいたです~」
「上の『5』という数字が光っているよね。ここが五階って合図だよ」
「なるほどです~」
「こんなべんりなきかい、あるんですね」
「あるかなくていいのは、らくちんです」
五階に到着したので、みんなキャッキャしながらエレベーターを降りる。
ここでちょっと、他のみなさんが登ってくるのを待とう。
待っている間、エレベータの使用方法について色々説明もしておく。
途中の階で人が乗ってくることもあるので、慌てて降りないこと。
今どこの階にいるかは、数字を確認しておくこと等。
挟まれないために、無理して乗らないことも。
そうして説明している間に、第二陣、第三陣と五階に到着する。
「全員揃いましたね。それでは、部屋を割り当てます。基本はご家族ごとですね」
「わかりました」
そうして世帯ごとに部屋を割り振っていく。
ユキちゃんは本人の希望もあって、一人部屋ではなく腕グキさんちと同じ部屋だ。
俺と親父と高橋さん、そして海竜ちゃんは、ハナちゃん一家と同じ部屋だ。
これはヤナさんたっての希望で、十人部屋で雑魚寝となる。
神様も俺たちの部屋にご招待で定員オーバーだけど、小さいので問題ないよね。
ハナちゃんちの他のご家族もそれが良いと言ってくれたので、大勢で賑やかに行こう。
それと、部屋に入るに当たって気をつけることが。
「このドアは自動でカギがかかりますので、カギをもって外に出ないと――閉め出されます」
「ぐあああああ!」
「いやなおもいで、よみがえる」
「おっふ……」
「ヤナ、ほんときをつけてね」
「き、きをつけます……」
インキーエルフが旅館を徘徊する、というのはちょっとアレなので気をつけてもらおう。
まあ、インキーしてもフロントに言えば開けてもらえるけど、めっちゃ恥ずかしいからね。
さて、注意事項を説明したので、さっそく部屋でキャッキャしましょう!
それぞれカギを渡して、部屋に入ってもらう。
俺たちも、十人部屋に突入だ。
「ひろいです~! うみがみえるです~!」
「うわあ! ながめがいいですね!」
「しゃしん! しゃしんとります!」
「なんちゅうごうかさ……」
「ふが~!」
「あらあら!」
(きれいなおへや~!)
「……」
部屋に入った途端、ハナちゃん一家は大騒ぎだ。
和室十畳、窓際にはテーブルと椅子があって、海が一望できる。
部屋は広く、大画面テレビも置いてあり豪華だね。
神輿はさっそく部屋のなかを飛び回って、ミラーボールになっている。
「タイシタイシ! きょうはここでねるです?」
「おねむしちゃうよ。みんなで仲良く寝るんだ」
「たのしみです~!」
「……」
ハナちゃんはこの部屋で雑魚寝するのが楽しみなようで、大はしゃぎだね。
ほかのご家族も、ねっころがったり窓に張り付いたりとキャッキャしている。
これから温泉に入ったり、館内を見て回ったりと旅館を堪能してもらおう。
「ここには海を見ながら入れる温泉もありますので、夕食前にゆっくり入りますか」
「おんせん! いいかもです~」
「たのしみですね」
(おんせん、あったまろ~!)
温泉もあると伝えると、にっこりのみなさんだ。
さて、荷物を置いて一休みしたあと、ちょっと館内を見回ろうかな?
フクロイヌは連れて行けないから、部屋でゆっくりしていてもらおう。
「部屋でゆっくりしていてね。誰かと遊んでも良いよ」
「……」
あれ? フクロイヌが動かないぞ?
もう部屋の中だから、演技しなくても良いんだけど……。
「もう演技しなくても大丈夫だよ、ほら」
「……ZZZ」
演技じゃ無くて――ただ寝てただけ!?
◇
そうして館内を探検したあと、温泉に入って。
海が見える露天風呂は、みなさん大感激していた。
女湯からもキャーキャー声が聞こえてきたので、女性陣も大満足だったみたいだ。
そしてみなさんお楽しみの夕食となる。
メニューは海の幸あり山の幸あり、追加メニューでカニもまるまる一杯ついている。
今回の旅で一番豪華な夕食だね。
「タイシタイシ! これぜんぶ、たべていいです!?」
「これで一人前だよ。みんな食べていいからね」
「うふ~」
「おどろくほど、ごうか……」
「ちっちゃなおなべが、ぐつぐつ……」
ハナちゃんは目の前に並んだ豪華料理に、おめめまん丸、お耳ぴこぴこで大はしゃぎだ。
ヤナさんも写真では知っていたとは言え、実際に目にする料理に唖然としている。
カナさんは、小鍋が煮えているのにうっとりだ。
一人分の鍋料理、エルフ達にはあまりなじみがないだろうからね。
「これたべちゃっていいんだ……」
「いろんなおりょうりたくさんとか、すてき」
「これはやべえ。なにからたべようかな~」
他のみなさんも、いろんな料理がならんでいるのにキャッキャしている。
なまじ品目が沢山あるだけに、どれから食べようか迷っているね。
「あれ? でもこれ……なまじゃね? このおなべでにるの?」
「おっと! それは生のままお魚を食べる料理で、お刺身っていいます」
「え? おさかな、なまでたべちゃうの?」
マイスターが刺身を鍋に入れようとしたので慌てて止める。
そういや、エルフたちはお刺身に縁が無かったな。
川魚は生じゃ危険だから、まあ当然とも言えるけど。
「タイシ、なまのおさかな、あぶないです?」
「海のお魚は、生でも工夫すれば食べられるのが多いんだ。食べられないのは出さないよ」
「あえ? たべられるです?」
「これはね。この黒いタレ、醤油につけて食べるんだよ」
「あや~」
やっぱり生魚を食べる文化が無いと抵抗あるよね。
ハナちゃん、お刺身を口の前に持って行っては躊躇うを繰り返す。
お耳ぺたんこで、怖がっているのがわかるね。
……まあ、無理して食べなくても――。
「――お、いけるじゃん。なかなかうまいぞこれ」
「まじで」
「ゆうきあるな~」
そして真っ先に食べ始めたのは、やはりマイスター。
醤油を沢山つけて、もぐもぐ食べている。
他のみなさん、それをみて若干引きながらも、お刺身に興味がわいたようだ。
「この緑色の薬味、ワサビをちょっとつけて食べると、臭みが消えて食べやすいですね」
「ワサビというと……ワサビちゃんとなにかかんけいあります?」
「生ワサビちゃんと同じで、辛いですね」
「なるほど、からみでくさみをけすのですね」
「そうです」
次はヤナさんがチャレンジだ。ワサビをつけて、ぱくりと一口。
「あ、おいしい」
「おとうさん、ほんとです?」
「ほんとだよハナ」
ヤナさんがおいしいと言ったので、ハナちゃんのお耳はだんだんと角度を取り戻してきたね。
おいしいと言われたら、食べたくなるのが人のサガというもの。
食べさせてあげようか。
「ほらハナちゃん、食べさせてあげるよ。はい、あ~ん」
「あ~ん」
マグロをお醤油につけてハナちゃんの前に差し出すと、かわいいお口をあーんと開けてぱくりと一口。
そしてもぎゅもぎゅ。
お、だんだんと、おめめがまん丸になってきて、耳もぴこんと上向いた。
そしてごきゅんと飲み込む。
「――タイシ! これおいしいです~!」
「おれもたべてみよう……あ、いける」
「からいわ~」
「ワサビつけすぎよ」
ハナちゃんがキャッキャしたのをみて、他のみなさんも次々に食べ始める。
一部の人はワサビの分量を間違えて、鼻つーん状態だけど……。
まあ、何でも生で食べられると思われると困るから、注意はしておくか。
「これは生で食べられるように工夫したものです。普通は火を通して下さいね」
「それはもう。きをつけます」
「わかったです~」
「まあ、ふつうはむりだよな~」
大体分かって貰えたようで、まあだいじょうぶだろう。
それじゃ、他のお料理も食べましょうか。
「タイシ~。これはおにくです?」
「牛さんっていう動物のお肉で、おいしいよ」
「おいしいですか~」
ハナちゃん次は牛肉の陶板焼きに興味を持ったようなので、また食べさせてあげよう。
「ほらハナちゃん、あーんして」
「あい~! あ~ん」
食べさせて貰ってにっこにこのハナちゃん、もぎゅもぎゅとおいしそうに料理を食べていく。
沢山食べてね。
(ごうかなおりょうり~)
隣を見ると、お料理がちょっとずつ光って消えていく。
神様も豪華お料理を堪能しているようで、ぴかぴか光ってご機嫌だ。
ちょっとまぶしい。
「……」
「…………」
そして腕グキさんとステキさんが静かだなと思ったら、カニを無言で食べている。
その手つきはすでに熟練の腕前で、するするとカニの身が取り出されていく。
いつのまにそんな技術を……。
「ぎゃうぎゃう」
「お、これ食いたいのか?」
「ぎゃう~」
そして高橋さんと海竜ちゃんは、仲良く焼き魚を食べているね。
海竜ちゃんが箸をつかっているけど。
あの前ひれで、一体どうやって……。
◇
楽しく夕食を食べた後は、みんなに内緒のサプライズだ。
旅館にお願いして、場所取りをしてある。
これからその場所に向かって、思い出にしてもらおう。
「それではみなさん、これからちょっとした所に行こうと思います」
「あえ? どこにいくです?」
「それは行ってからのお楽しみだよ」
「あい~!」
「ギニャ~」
フクロイヌを抱えたハナちゃん、何が起こるか楽しみなようだ。
エルフ耳をぴこぴこさせて、ぽてぽて後を付いてくる。
「おたのしみだって」
「なんだろな~」
「とりあえず、カメラもってこう」
他のみなさんもワクワクしながら、トコトコと後を付いてくる。
これからバスに乗って、十分ほど移動だ。
そして十数分後、大勢の人がいる場所に到着。
屋台があったり、浴衣の人が歩いていたりと賑やかだね。
「大志さん、そこの立て看板に――」
「そうそう、このために場所取りしてもらったんだ」
ユキちゃんはいち早く、どんな催しか分かったみたいだね。
「大志、これを狙ってたのか」
「出発時期をずらしたの、これが理由だったんだな」
漢字が読める地球側は、みんなわかったようだ。
思いっきり書いてあるからね。
そう、これを狙って出発時期を決めたり旅館を決めたり、色々調整したわけだ。
「タイシタイシ、ひとがいっぱいです~」
「なにかあるんですか?」
「みんな、なんだかワクワクしたかおしてますね」
(なんだろ~。なんだろ~)
ハナちゃんたちもなにがあるのか気になる様子で、そわそわした様子で聞いてきた。
にぎやかな周囲の雰囲気につられて、気分が高揚してきたようだ。
神輿も回りをくるくると飛んで、そわそわしているね。
それじゃ、どんな催しか教えましょう。
「これから、花火大会が始まるんだよ」
「あえ? はなびたいかいです?」
「なんですか? それ」
「たのしいことっぽいのは、わかりますね」
花火大会と聞いて、こてんと首を傾げるハナちゃんだ。
火薬を扱っていないエルフたちだから、なじみは無いかもだね。
何をするかを、もうちょっと詳しく説明しよう。
「こっちには花火という、花を咲かせたように燃える綺麗な炎があってね。それを空で燃やして、綺麗な光景を楽しむ催しなんだ」
「あえ? きれいなほのおです?」
「綺麗でびっくりするよ。まあ、音はどーん! って大きくてびっくりするかもだけど」
「きれいで、おとがおっきいですか~」
(たのしみ~)
まあ、百聞は一見にしかずだ。実際に見てもらって、楽しんでもらおう。
さて、もうすぐ始まる。みんな喜んでくれるかな?
◇
「あやー! そらがひかってるです~!」
「きれいですね!」
「おはながさくみたいって、こういうことなのね!」
花火が空に輝き、遅れて音がやってくる。
ドン、ドドンという音が耳や体に響き、彼方の空で火の花が開くのを体でも実感できた。
天空に輝く刹那の花々、それら一瞬のきらめきが演出する……時間の芸術がそこにある。
「おとがすげええ~」
「そらにほのおをつけちゃうとか、すてき!」
「いろんなひかりがきらめいて、きれいだな~!」
他のみなさんも、目をキラキラさせて花火を見上げている。
たまに上手に写真が撮れたりしたときは、もう大はしゃぎになったり。
それぞれ花火を楽しんでくれている。
(きゃー!)
神輿は、たまに音にびっくりして俺の服の中に飛び込んでくる。
でも、花火を見たくてしょうがないみたいで、もぞもぞと顔をだしては引っ込め、顔をだしては引っ込め。
ものすごいくすぐったい。
「大志さん、こっそりこんな企画してたんですね」
「夏と言えば花火でしょ? みんなに花火大会は、どうしても見てもらいたかったんだ」
「やるじゃんか」
「そういや、盆と言ったら花火大会だったよな。大志が大きくなってからは、家族で花火に行くことも無くなったよなあ……」
地球人側も、しみじみと花火を見ている。
メンバーはみんな大人だから、花火とは縁が遠くなっていたんだよね。
でも、こうして大人だから分かる、花火の良さってのもあるはずだ。
ただ綺麗なだけじゃなくて、その一瞬のはかなさは日本人の心に訴える物がある。
むしろ、輝きの綺麗さよりも……消えゆくはかなさを想う。
大人になると、そんな花火の楽しみ方を知るのかも知れない。
「タイシ~! はなび、すっごくきれいです~!」
「楽しんでもらえてる?」
「あい~! すっごくたのしいです~」
(なれてくると、たのしー!)
「それは良かった」
花火を見てしんみりしていると、ハナちゃんがよじよじと登ってきて、肩車になった。
そしてキャッキャと大はしゃぎだ。
高いところから見る花火は、また綺麗かもね。
神輿も音になれてきたようで、服の中に潜り込むことはなくなった。
まあ、シャツから顔というか本体を覗かせる体勢のままだけど……。
ハナちゃんと神輿、両方俺にしがみついてキャッキャしているね。
わりと暑いです。
「りょこうの、いいおもいでになった~」
「こんなのがあるのね~」
「おもしろいもよおし~」
他のみなさんも満足して頂けたようで、興奮冷めやらぬ様子だ。
さて、そろそろ最後の大玉だ。
大玉が上がったら、この催しも終わり。
旅館に帰って、ひとっ風呂浴びよう。
「ほらハナちゃん、もうすぐ終わりのおっきな花火があがるよ」
「あや! おっきなはなびです!?」
そうしているうちに、しばしの間花火が途切れる。
いよいよ来るぞ。
――間もなく、ひゅーんと言う上昇音と共に、炎が空を登っていく。
そして一瞬炎が消えて――直後にぱあっと、夜空に大輪の花がいくつも開いた。
「あやややー! おっきいですー!」
「でけえええええ!」
「だいはくりょくー!」
(きれいー!)
みなさん大玉の迫力に大騒ぎ、やがて遅れて音が届く。
ズシンと体に響く、締めくくりの音。
この音と光が消えたら、花火大会は終わり。
そして旅も間もなく終わる。
さあ、明日は最終日。
村に帰り、日常に戻る頃合いだ。
それまで思いっきり、旅を楽しまなきゃな。