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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
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第二十二話 温泉旅館と、隠しイベント


 楽しく海水浴をして、親切なおじさんと出会って陶芸体験をして。

 充実した一日の締めくくりは、温泉旅館だ!


「みなさん、ここが今日宿泊する温泉旅館です」

「おっきなおうちです~!」

「こんなところに、とまっちゃうの?」

「やべええええ!」


 旅館の玄関前で、キャーキャーと建物を見上げるみなさんだ。

 奮発して、ちょっと良い旅館を予約した。

 鉄筋コンクリート七階建て、高台にある見晴らしの良い旅館だね。

 全室海側だから、部屋からの眺めも抜群だ。


 しかしこの繁忙期にこんな良いところが予約できたのは、なぜだか分からない。

 電話しまくったのが良かったのかな?


 ……まあ、予約できちゃったらこっちのもの。

 思いっきり温泉旅館を堪能しましょう!


 ――しかし、一つ問題が。


「ギニャ」


 動物、連れて行けないんだよな……。

 どうしよう。


「フクロイヌ、どうしようね……」

「ギニャ?」

「困りましたね……」


 しっぽふりふりのフクロイヌだけど、外に放置もできない。

 バスの中で過ごしてもらうのも不安がある。

 ユキちゃんも良い手が見つからないようで、二人でうんうん唸る。

 ほんとどうしよう。


「タイシ、どうしたです?」


 ユキちゃんと唸っていると、ハナちゃんがぽてぽてやってきた。

 マリンピアで買った、イルカのぬいぐるみを抱えているね。

 今日はぬいぐるみと一緒におねむかな?

 それはそれとして、フクロイヌをどうしようかハナちゃんにも相談してみるか。


「いやね、この旅館、動物は入れないんだ。フクロイヌを連れて行けなくて困っててね」

「あや! フクロイヌだめです?」

「そうなんだよ……」

「ギニャ~……」


 ダメと言われたフクロイヌ、しんなりしちゃった。

 いやいや、君がダメってわけじゃなくて、場所的にね。

 なでなでして慰めておこうか。


「ギニャギニャ」


 撫でられて嬉しそうなフクロイヌだけど、問題は解決してない。

 さてどうするか……。


 ……あ、そうだ。


「ねえ君、じっとしてぬいぐるみみたいに出来るかな?」

「ギニャ?」

「そうそう、ハナちゃんの持ってるふわふわみたいに、じっとできる?」

「ギニャ~」


 フクロイヌに問いかけると、ぴたっと動かなくなった。

 持ち上げてみよう。


「……」


 すごい、ほんとにぬいぐるみみたい。

 なんという演技のうまさ!


「タイシ、なにしてるです?」

「フクロイヌをぬいぐるみのフリさせて、ごまかそうかと」

「……こっちにはいない生きものですから、確かに動かないとぬいぐるみみたいですね」


 ぴたっと動かないフクロイヌは、たしかにこっちにはいない生きものだけあって、ぬいぐるみと言われても違和感ないね。

 よし、これで行こう。


「くすぐってみるです」

「ギ、ギニャ……」


 こらこら、せっかく演技してるんだから。

 フクロイヌ、ぷるぷるしちゃってるよ。

 というかそれ以上くすぐると、フクロの中身でてきちゃうから!



 ◇



 無事ごまかせて、チェックイン完了しました。


 ヤナさんにイルカのぬいぐるみと、フクロイヌを抱えてもらったら違和感無しだった。

 その見た目はお土産のぬいぐるみを抱えた、家族サービス中のおとうさんそのもの。

 ヤナさんの地味さに助けられたね。


 さて、無事潜入を果たせたので、早速お部屋に行きましょう!


「部屋は五階に固まってますので、エレベーターにのって行きます」

「えれべーたーです?」

「階段を上らなくて良いように、上の階まで運んでくれる乗り物があるんだ。ほらあれ」

「……のりものです?」


 上に登るための乗り物、というイメージがわかないようだ。

 まあ、乗ってもらえば良いよね。

 使い方も簡単だから、実演して見せよう。


「とりあえず乗ってみようね」

「あい~」


 トコトコとみんなでエレベータの前に移動し、上昇ボタンを押す。


「この上の方を押すと、上に行きたいってお願いを機械に出します」

「とすると、したのぽちぽちをおすと、したってことですか?」

「そうです」


 ヤナさんがふむふむと、光るボタンを見ている。

 やがて、エレベータがやってきた。


「この扉が開きますので、何人か乗ります。全員は無理なので、分けて乗りましょう」

「あや! ひらいたです~!」

「なかはせまいんですね」


 きょろきょろしながらも、とりあえずハナちゃん一家がエレベータに乗り込んだ。

 他の方々は、ユキちゃんや親父、そして高橋さんがガイドする。

 さて、五階に移動しよう。


「ここに数字が書いてあるので、行きたいところの数字を押します」

「わたしたちは、ごかいだから……これですか」

「そうです。おしてみてください」

「ハナがおすです~」


 ハナちゃんも数字が読めるので、難なく目的階のボタンをぽちっとできた。

 機械を操作できて、どきどきわくわくの、エルフ耳がぴっこぴこだ。

 そして、ボタンを押すとドアが閉じる。


「あや! とじちゃったです~」

「これから上に登るよ。問題ないから安心してね」

「ほんとだ! なんかのぼってます!」

「あややややや!」


 安心してとは言ったけど、やっぱりエレベーターの中はワーキャー大騒ぎだ。

 しかし、すぐさま五階に到着する。


「あややや! とびら、ひらいたです~」

「上の『5』という数字が光っているよね。ここが五階って合図だよ」

「なるほどです~」

「こんなべんりなきかい、あるんですね」

「あるかなくていいのは、らくちんです」


 五階に到着したので、みんなキャッキャしながらエレベーターを降りる。

 ここでちょっと、他のみなさんが登ってくるのを待とう。


 待っている間、エレベータの使用方法について色々説明もしておく。

 途中の階で人が乗ってくることもあるので、慌てて降りないこと。

 今どこの階にいるかは、数字を確認しておくこと等。

 挟まれないために、無理して乗らないことも。


 そうして説明している間に、第二陣、第三陣と五階に到着する。


「全員揃いましたね。それでは、部屋を割り当てます。基本はご家族ごとですね」

「わかりました」


 そうして世帯ごとに部屋を割り振っていく。

 ユキちゃんは本人の希望もあって、一人部屋ではなく腕グキさんちと同じ部屋だ。


 俺と親父と高橋さん、そして海竜ちゃんは、ハナちゃん一家と同じ部屋だ。

 これはヤナさんたっての希望で、十人部屋で雑魚寝となる。

 神様も俺たちの部屋にご招待で定員オーバーだけど、小さいので問題ないよね。


 ハナちゃんちの他のご家族もそれが良いと言ってくれたので、大勢で賑やかに行こう。

 それと、部屋に入るに当たって気をつけることが。


「このドアは自動でカギがかかりますので、カギをもって外に出ないと――閉め出されます」

「ぐあああああ!」

「いやなおもいで、よみがえる」

「おっふ……」

「ヤナ、ほんときをつけてね」

「き、きをつけます……」


 インキーエルフが旅館を徘徊する、というのはちょっとアレなので気をつけてもらおう。

 まあ、インキーしてもフロントに言えば開けてもらえるけど、めっちゃ恥ずかしいからね。


 さて、注意事項を説明したので、さっそく部屋でキャッキャしましょう!


 それぞれカギを渡して、部屋に入ってもらう。

 俺たちも、十人部屋に突入だ。


「ひろいです~! うみがみえるです~!」

「うわあ! ながめがいいですね!」

「しゃしん! しゃしんとります!」

「なんちゅうごうかさ……」

「ふが~!」

「あらあら!」

(きれいなおへや~!)

「……」


 部屋に入った途端、ハナちゃん一家は大騒ぎだ。

 和室十畳、窓際にはテーブルと椅子があって、海が一望できる。

 部屋は広く、大画面テレビも置いてあり豪華だね。

 神輿はさっそく部屋のなかを飛び回って、ミラーボールになっている。


「タイシタイシ! きょうはここでねるです?」

「おねむしちゃうよ。みんなで仲良く寝るんだ」

「たのしみです~!」

「……」


 ハナちゃんはこの部屋で雑魚寝するのが楽しみなようで、大はしゃぎだね。

 ほかのご家族も、ねっころがったり窓に張り付いたりとキャッキャしている。

 これから温泉に入ったり、館内を見て回ったりと旅館を堪能してもらおう。


「ここには海を見ながら入れる温泉もありますので、夕食前にゆっくり入りますか」

「おんせん! いいかもです~」

「たのしみですね」

(おんせん、あったまろ~!)


 温泉もあると伝えると、にっこりのみなさんだ。

 さて、荷物を置いて一休みしたあと、ちょっと館内を見回ろうかな?

 フクロイヌは連れて行けないから、部屋でゆっくりしていてもらおう。


「部屋でゆっくりしていてね。誰かと遊んでも良いよ」

「……」


 あれ? フクロイヌが動かないぞ?

 もう部屋の中だから、演技しなくても良いんだけど……。


「もう演技しなくても大丈夫だよ、ほら」

「……ZZZ」


 演技じゃ無くて――ただ寝てただけ!?



 ◇



 そうして館内を探検したあと、温泉に入って。

 海が見える露天風呂は、みなさん大感激していた。

 女湯からもキャーキャー声が聞こえてきたので、女性陣も大満足だったみたいだ。


 そしてみなさんお楽しみの夕食となる。

 メニューは海の幸あり山の幸あり、追加メニューでカニもまるまる一杯ついている。

 今回の旅で一番豪華な夕食だね。


「タイシタイシ! これぜんぶ、たべていいです!?」

「これで一人前だよ。みんな食べていいからね」

「うふ~」

「おどろくほど、ごうか……」

「ちっちゃなおなべが、ぐつぐつ……」


 ハナちゃんは目の前に並んだ豪華料理に、おめめまん丸、お耳ぴこぴこで大はしゃぎだ。

 ヤナさんも写真では知っていたとは言え、実際に目にする料理に唖然としている。

 カナさんは、小鍋が煮えているのにうっとりだ。

 一人分の鍋料理、エルフ達にはあまりなじみがないだろうからね。


「これたべちゃっていいんだ……」

「いろんなおりょうりたくさんとか、すてき」

「これはやべえ。なにからたべようかな~」


 他のみなさんも、いろんな料理がならんでいるのにキャッキャしている。

 なまじ品目が沢山あるだけに、どれから食べようか迷っているね。


「あれ? でもこれ……なまじゃね? このおなべでにるの?」

「おっと! それは生のままお魚を食べる料理で、お刺身っていいます」

「え? おさかな、なまでたべちゃうの?」


 マイスターが刺身を鍋に入れようとしたので慌てて止める。

 そういや、エルフたちはお刺身に縁が無かったな。

 川魚は生じゃ危険だから、まあ当然とも言えるけど。


「タイシ、なまのおさかな、あぶないです?」

「海のお魚は、生でも工夫すれば食べられるのが多いんだ。食べられないのは出さないよ」

「あえ? たべられるです?」

「これはね。この黒いタレ、醤油につけて食べるんだよ」

「あや~」


 やっぱり生魚を食べる文化が無いと抵抗あるよね。

 ハナちゃん、お刺身を口の前に持って行っては躊躇うを繰り返す。

 お耳ぺたんこで、怖がっているのがわかるね。

 ……まあ、無理して食べなくても――。


「――お、いけるじゃん。なかなかうまいぞこれ」

「まじで」

「ゆうきあるな~」


 そして真っ先に食べ始めたのは、やはりマイスター。

 醤油を沢山つけて、もぐもぐ食べている。

 他のみなさん、それをみて若干引きながらも、お刺身に興味がわいたようだ。

 

「この緑色の薬味、ワサビをちょっとつけて食べると、臭みが消えて食べやすいですね」

「ワサビというと……ワサビちゃんとなにかかんけいあります?」

「生ワサビちゃんと同じで、辛いですね」

「なるほど、からみでくさみをけすのですね」

「そうです」


 次はヤナさんがチャレンジだ。ワサビをつけて、ぱくりと一口。


「あ、おいしい」

「おとうさん、ほんとです?」

「ほんとだよハナ」


 ヤナさんがおいしいと言ったので、ハナちゃんのお耳はだんだんと角度を取り戻してきたね。

 おいしいと言われたら、食べたくなるのが人のサガというもの。

 食べさせてあげようか。


「ほらハナちゃん、食べさせてあげるよ。はい、あ~ん」

「あ~ん」


 マグロをお醤油につけてハナちゃんの前に差し出すと、かわいいお口をあーんと開けてぱくりと一口。

 そしてもぎゅもぎゅ。

 お、だんだんと、おめめがまん丸になってきて、耳もぴこんと上向いた。

 そしてごきゅんと飲み込む。


「――タイシ! これおいしいです~!」

「おれもたべてみよう……あ、いける」

「からいわ~」

「ワサビつけすぎよ」


 ハナちゃんがキャッキャしたのをみて、他のみなさんも次々に食べ始める。

 一部の人はワサビの分量を間違えて、鼻つーん状態だけど……。

 まあ、何でも生で食べられると思われると困るから、注意はしておくか。


「これは生で食べられるように工夫したものです。普通は火を通して下さいね」

「それはもう。きをつけます」

「わかったです~」

「まあ、ふつうはむりだよな~」


 大体分かって貰えたようで、まあだいじょうぶだろう。

 それじゃ、他のお料理も食べましょうか。


「タイシ~。これはおにくです?」

「牛さんっていう動物のお肉で、おいしいよ」

「おいしいですか~」


 ハナちゃん次は牛肉の陶板焼きに興味を持ったようなので、また食べさせてあげよう。


「ほらハナちゃん、あーんして」

「あい~! あ~ん」


 食べさせて貰ってにっこにこのハナちゃん、もぎゅもぎゅとおいしそうに料理を食べていく。

 沢山食べてね。


(ごうかなおりょうり~)


 隣を見ると、お料理がちょっとずつ光って消えていく。

 神様も豪華お料理を堪能しているようで、ぴかぴか光ってご機嫌だ。

 ちょっとまぶしい。


「……」

「…………」


 そして腕グキさんとステキさんが静かだなと思ったら、カニを無言で食べている。

 その手つきはすでに熟練の腕前で、するするとカニの身が取り出されていく。

 いつのまにそんな技術を……。


「ぎゃうぎゃう」

「お、これ食いたいのか?」

「ぎゃう~」


 そして高橋さんと海竜ちゃんは、仲良く焼き魚を食べているね。

 海竜ちゃんが箸をつかっているけど。

 あの前ひれで、一体どうやって……。



 ◇



 楽しく夕食を食べた後は、みんなに内緒のサプライズだ。

 旅館にお願いして、場所取りをしてある。

 これからその場所に向かって、思い出にしてもらおう。


「それではみなさん、これからちょっとした所に行こうと思います」

「あえ? どこにいくです?」

「それは行ってからのお楽しみだよ」

「あい~!」

「ギニャ~」


 フクロイヌを抱えたハナちゃん、何が起こるか楽しみなようだ。

 エルフ耳をぴこぴこさせて、ぽてぽて後を付いてくる。


「おたのしみだって」

「なんだろな~」

「とりあえず、カメラもってこう」


 他のみなさんもワクワクしながら、トコトコと後を付いてくる。

 これからバスに乗って、十分ほど移動だ。


 そして十数分後、大勢の人がいる場所に到着。

 屋台があったり、浴衣の人が歩いていたりと賑やかだね。


「大志さん、そこの立て看板に――」

「そうそう、このために場所取りしてもらったんだ」


 ユキちゃんはいち早く、どんな催しか分かったみたいだね。


「大志、これを狙ってたのか」

「出発時期をずらしたの、これが理由だったんだな」


 漢字が読める地球側は、みんなわかったようだ。

 思いっきり書いてあるからね。

 そう、これを狙って出発時期を決めたり旅館を決めたり、色々調整したわけだ。


「タイシタイシ、ひとがいっぱいです~」

「なにかあるんですか?」

「みんな、なんだかワクワクしたかおしてますね」

(なんだろ~。なんだろ~)


 ハナちゃんたちもなにがあるのか気になる様子で、そわそわした様子で聞いてきた。

 にぎやかな周囲の雰囲気につられて、気分が高揚してきたようだ。

 神輿も回りをくるくると飛んで、そわそわしているね。


 それじゃ、どんな催しか教えましょう。


「これから、花火大会が始まるんだよ」

「あえ? はなびたいかいです?」

「なんですか? それ」

「たのしいことっぽいのは、わかりますね」


 花火大会と聞いて、こてんと首を傾げるハナちゃんだ。

 火薬を扱っていないエルフたちだから、なじみは無いかもだね。

 何をするかを、もうちょっと詳しく説明しよう。


「こっちには花火という、花を咲かせたように燃える綺麗な(ほのお)があってね。それを空で燃やして、綺麗な光景を楽しむ催しなんだ」

「あえ? きれいなほのおです?」

「綺麗でびっくりするよ。まあ、音はどーん! って大きくてびっくりするかもだけど」

「きれいで、おとがおっきいですか~」

(たのしみ~)


 まあ、百聞は一見にしかずだ。実際に見てもらって、楽しんでもらおう。


 さて、もうすぐ始まる。みんな喜んでくれるかな?



 ◇



「あやー! そらがひかってるです~!」

「きれいですね!」

「おはながさくみたいって、こういうことなのね!」


 花火が空に輝き、遅れて音がやってくる。

 ドン、ドドンという音が耳や体に響き、彼方の空で火の花が開くのを体でも実感できた。

 天空に輝く刹那の花々、それら一瞬のきらめきが演出する……時間の芸術がそこにある。


「おとがすげええ~」

「そらにほのおをつけちゃうとか、すてき!」

「いろんなひかりがきらめいて、きれいだな~!」


 他のみなさんも、目をキラキラさせて花火を見上げている。

 たまに上手に写真が撮れたりしたときは、もう大はしゃぎになったり。

 それぞれ花火を楽しんでくれている。


(きゃー!)


 神輿は、たまに音にびっくりして俺の服の中に飛び込んでくる。

 でも、花火を見たくてしょうがないみたいで、もぞもぞと顔をだしては引っ込め、顔をだしては引っ込め。

 ものすごいくすぐったい。


「大志さん、こっそりこんな企画してたんですね」

「夏と言えば花火でしょ? みんなに花火大会は、どうしても見てもらいたかったんだ」

「やるじゃんか」

「そういや、盆と言ったら花火大会だったよな。大志が大きくなってからは、家族で花火に行くことも無くなったよなあ……」


 地球人側も、しみじみと花火を見ている。

 メンバーはみんな大人だから、花火とは縁が遠くなっていたんだよね。

 でも、こうして大人だから分かる、花火の良さってのもあるはずだ。


 ただ綺麗なだけじゃなくて、その一瞬のはかなさは日本人の心に訴える物がある。

 むしろ、輝きの綺麗さよりも……消えゆくはかなさを想う。

 大人になると、そんな花火の楽しみ方を知るのかも知れない。


「タイシ~! はなび、すっごくきれいです~!」

「楽しんでもらえてる?」

「あい~! すっごくたのしいです~」

(なれてくると、たのしー!)

「それは良かった」


 花火を見てしんみりしていると、ハナちゃんがよじよじと登ってきて、肩車になった。

 そしてキャッキャと大はしゃぎだ。

 高いところから見る花火は、また綺麗かもね。


 神輿も音になれてきたようで、服の中に潜り込むことはなくなった。

 まあ、シャツから顔というか本体を覗かせる体勢のままだけど……。

 ハナちゃんと神輿、両方俺にしがみついてキャッキャしているね。

 わりと暑いです。


「りょこうの、いいおもいでになった~」

「こんなのがあるのね~」

「おもしろいもよおし~」


 他のみなさんも満足して頂けたようで、興奮冷めやらぬ様子だ。

 さて、そろそろ最後の大玉だ。

 大玉が上がったら、この催しも終わり。

 旅館に帰って、ひとっ風呂浴びよう。


「ほらハナちゃん、もうすぐ終わりのおっきな花火があがるよ」

「あや! おっきなはなびです!?」


 そうしているうちに、しばしの間花火が途切れる。

 いよいよ来るぞ。


 ――間もなく、ひゅーんと言う上昇音と共に、炎が空を登っていく。

 そして一瞬炎が消えて――直後にぱあっと、夜空に大輪の花がいくつも開いた。


「あやややー! おっきいですー!」

「でけえええええ!」

「だいはくりょくー!」

(きれいー!)


 みなさん大玉の迫力に大騒ぎ、やがて遅れて音が届く。

 ズシンと体に響く、締めくくりの音。

 この音と光が消えたら、花火大会は終わり。

 そして旅も間もなく終わる。


 さあ、明日は最終日。

 村に帰り、日常に戻る頃合いだ。


 それまで思いっきり、旅を楽しまなきゃな。


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