第十五話 佐渡、上陸
無事出航したので朝食をとることにする。
スナックコーナーは十五人くらいしか座れないため、イベントプラザを利用することになった。
「タイシタイシ~。どんなおりょうりあるです?」
「いろいろあるよ。ラーメンもカレーも、お魚料理もあるね」
「あや! ラーメンあるです!」
「もちろん。ほらこれだよ」
スナックコーナーに表示してあるメニューの写真を撮ってきたので、タブレットで表示して見せてあげる。
麺類はラーメンにそばがそれぞれ何種類か。
ご飯物はカレーと丼物があるね。あとは軽食系のいか浜焼きやたこ焼き、それとかにクリームコロッケバーガーとポテトだ。
意外と種類があるね。
「まようです~。むむむ……」
「ゆっくりと選んでね。あわてる必要はないから」
「あい~!」
ハナちゃんは「むむむ」となってメニューを選んでいる。
俺の場合は迷ったら全部食べるという荒技が使えるけど、体の小さなハナちゃんはそうもいかないよね。
……あれ? そういえばハナちゃん、俺より食べるときがたまにあるな……。
ハナちゃんも俺みたいな荒技、できるのでは……。
「タイシさん、なにをたのんだらいいとおもいます?」
「どんなおりょうりか、わからないわ~」
「ラーメンやカレーがいいかなっておもうけど、ほかのもきになるの」
ほかのみなさんも迷ってしまったのか、メニューの写真を見てあれこれ悩んでいる。
食べたことのない料理もあるので、写真だけでは味が想像できないものも多い。
ハナちゃんがむむむむとなっているのも、それが原因だよね。
いちおう言葉で説明はするけど、それだけでわかるものでもない。
……あれだ、片っ端から頼んで試食会でもやっちゃう?
お高い料理でもないから、出費も大したことは無い。
それに、単なる朝食を一つのイベントにできちゃうよね。
ちょっと提案してみるか。
「ここにあるお料理をとりあえず全部頼んで、試食会でもしましょうか?」
「あえ? ししょくするです?」
「そうだよ。それで気に入ったお料理があったら、それぞれ頼むんだ」
「たのしそうです~!」
色んなお料理を試食できるとあって、ハナちゃん嬉しそうだ。
その目はメニューに釘付けで、キラキラだね。
他のみんなはどうだろう?
「おもしろそう」
「いろんなおりょうりためせるとか、すてき」
「おれのじまんのとりざら、たくさんありますよ」
みなさん乗り気のようだから、問題ないな。
おっちゃんエルフはもう大量の木製取り皿を並べているけど、あとで洗うの大変じゃないかな?
……まあ、洗い物をするときになったら手伝おう。
では、メニューのはしからはしまで、頼んじゃいましょう!
◇
「ラーメンおいしいです~」
「こっちのカレーもたべていいからね」
「このフライドポテトってのもおいしいわ」
「うふ~」
試食会を開いて色んなメニューを食べてもらった結果、みなさん思い思いの料理を頼むことになった。
一番人気はタレカツ丼で、次はカツカレー。その次にラーメンとなっている。
ハナちゃん一家は皆で頼んだ料理を分け合っていて、いろんな料理を一度に食べられている。
ハナちゃんはもうご機嫌で、さっそくたれ耳ハナちゃんになっていた。
「このイカやきってやつ、いける」
「このバーガー、ふわふわサクサクのたべものとか、すてき」
「カツどんってやつも、おいしいぞ」
試食会をしたおかげで、村では食べたことのないメニューを選ぶ人達もいる。
イカ焼きは男性陣に人気で、食べ足りない人が追加で注文しているようだ。
船内限定販売のかにクリームコロッケバーガーとポテトのセットは女性陣に人気で、ステキさんがうっとりした顔で食べている。
おっちゃんエルフはがっつりとタレカツ丼だ。
「大志さん、このずわいがにこぼし丼、想像以上にカニが多いです……」
「ぎゃうぎゃう」
「カニが二百グラムもあるって、さすが値段が高いだけあるね」
ユキちゃんと海竜ちゃんは、一番値段の高いずわいがにこぼし丼を食べている。
味噌汁漬け物付きで、ご飯は酢飯ではなく白飯。
そしてずわいがにが二百グラムも乗せられていて、千五百円。
カニが好きなら、イチオシメニューかもしれない。
こんな感じで、みんなでもぐもぐと朝食を食べていると……。
(おそなえもの、いっぱい~)
隣のテーブルでは、神様が朝食を堪能していた。
神様にはめぼしいメニューを複数お供えして、朝から豪華にしてもらっている。
今回は神様自前の食器を出してもらったので、食器消失事件は起きない。
(つぎはこれにしよ~)
神様は沢山の料理にご機嫌なのか、神輿はミラーボール状に光っている。
そうしてご機嫌な様子で、料理が光って消えていくね。
まずはラーメンが消え、しばらくしてカレーが消え。
まだまだハンバーガーもかに丼も残っているので、どうぞごゆっくり。
でも、一つの料理をもっていった後、次の料理に移るまでそれなりに時間があるね。
神様、もしかして食べる速度は普通っぽい?
「ママー! カツカレーが! カツカレーが宇宙人にあぶだくしょんされたー!」
(およ?)
「あら、カツカレーが食べたいの?」
「ちがくて!」
(おすすめだよ?)
あれ? なんだか、どこかで見たような光景が……。
「カレーじゃないの? じゃあバーガーかな? 僕たちも食べてみようか」
「ポテト! ポテトもつけていい?」
さっきまで宇宙人と騒いでいたのに、あっさりバーガーに釣られるお子さんがそこにいる。
サイドメニューにポテトを熱望しているご様子だ。
「もちろんだよ。おまけにジュースもつけちゃうよ」
「わーい! パパ大好きー!」
「うほほ」
宇宙人よりバーガーポテトの方が大事なようで、お子さんはご家族と一緒にキャッキャと歩いて行った。
あのお子さん、かなりの食いしん坊さんだね。
◇
「おなかいっぱいです~」
「たくさんたべちゃいましたね」
「いろんなおりょうりがあって、べんきょうになりました」
朝食を無事? 食べ終え、まったりとした雰囲気に。
あとは全員自由行動にして、船旅を満喫してもらおう。
「みなさん、これから到着までは自由行動ですので、お好きに船内で過ごしてください」
「「「はーい」」」
船内は複雑な構造でもないので、自由に行動しても大丈夫だろう。
迷うところも無いので、それぞれ好きに過ごしてもらって船旅を満喫してもらいたい。
そうして自由行動を宣言すると、ハナちゃんがぽてぽてとこっちにやってきた。
「タイシタイシ、いっしょにあそぶです~」
ハナちゃんから、遊びのお誘いだね。
もちろん受けるとして、どうやって遊ぶかだな。
「じゃあハナちゃんと遊ぼうか。何して遊ぼうか」
「なにかおもしろいもの、あるです?」
ハナちゃんもノープランのようで、これといって目的は無いようだ。
俺もネタはないので、どうしようかな……。
「ハナちゃん、大志さん。カモメさんに餌やりしません?」
どうやって遊ぼうかと考えていたところ、ユキちゃんからカモメの餌やりの提案が。
もうすでに、エビのスナック菓子を手に持っているね。
……そういや、ガイドブックにこのスナック菓子で餌やりができるってあったな。
良いかも。
「ユキ、カモメさんのえさやりって、なんです?」
「海の鳥さんに食べ物をあげるの。楽しそうでしょ」
「あや! たのしそうです~」
ユキちゃんに説明されると、ハナちゃん興味が沸いたようだ。
わくわく顔で、エルフ耳をぴこぴこさせている。
「とりのえさやりだって」
「おれ、さんかしてみようかな」
「わたしも」
そして話を聞いていた他の方々も、参加したいようだ。
それじゃ、他の人達も一緒にカモメの餌やりをしてみよう。
「みんなでやってみようか。ハナちゃん良い?」
「あい~! みんなでいくです~」
「では、行きましょう」
「「「はーい」」」
というわけでデッキにでてみると、すでにほかの乗船客が餌やりをしていた。
カモメたちは空中でスナック菓子をキャッチしていて、なるほどこれは楽しそうだ。
「そえじゃこのお菓子を配ります。これを鳥さんに食べてもらいます」
「「「はーい!」」」
ユキちゃんはいくつかスナック菓子を用意していたので、それを配布する。
すると、さっそくカモメたちがにゃあにゃあと鳴きながら近くを飛行し始めた。
というか尾が黒いから実はウミネコだけど、まあカモメの仲間だから良いよね。
「あや! とりさん、たくさんきたです~」
「ハナちゃん、ほら餌やりしようか。はいこれが餌ね」
「あい~」
スナック菓子の封を切って、さっそく餌やり開始だ。
「とりさん、たべるです~」
まずはハナちゃんが、こわごわとエビのスナック菓子を掲げると……。
「タイシ、とりさんきたです!」
「そのままそのまま。じっとしてて」
「あい」
さっそくカモメが飛んできて、カプっとスナック菓子をくわえて飛んでいった。
「タイシ、これたのしいです~」
ハナちゃんもう大喜びで、ぴょんぴょんしている。
船と平行して飛ぶ鳥に餌をあげる、なんて機会はそうそう無いからね。
空中でキャッチしてもらうこともできるから、それもやってもらおう。
「ほら、こんどはあっちに投げてみて」
「なげるです~」
「かるーくね」
「あい~。あや! とびながらたべたです!」
こんどは、華麗に空中でスナック菓子をキャッチするカモメだ。
これはけっこう楽しいな。
「ああやるんだ」
「わたしもやってみよ」
「というかこのおかし、めちゃうめえ」
他の方々も同じように餌やりを始めたけど、餌やり半分、自分で食べるの半分だね。
マイスターは食べる方が多い感じだ。
「ママぁー! 宇宙人がカモメと飛んでるー!」
(ども~)
「めずらしいカモメね」
「光るカモメって初めてみたな」
――あ! 神輿がカモメと一緒になって飛んでる!
◇
(あまいおかし~)
「つめたくておいしいです~」
カモメと飛んでいた神様を、アイスクリームで釣って回収した。
一緒にハナちゃんにもごちそうしたら、たちまちとろけ顔で耳がでろーんだ。
そうしてアイスを食べながら、両津港から来た船とすれ違う様子を眺めたりする。
「あっちのフネも、おっきいです~」
「こんなのがたくさんあるとか、ふるえる」
「すげえなあ~」
他のみなさんも、すれ違う船に手を振ったりぷるぷるしたりと、思い思いに過ごしている。
これを見終わったら、また別の場所を見に行こうかな。
「宇宙人がアイス食べた……」
「あら? アイスが食べたいの?」
「え? う、うん」
「よーしパパが買ってあげよう」
「バニラ! バニラがいい!」
「じゃあ買いに行こう」
「わーい!」
例のお子さんはジト目で神輿を見ていたけど、お子さんもアイスに釣られてご機嫌だ。
そうしてアイスを買うために、家族で仲よく歩いていった。
そんなこんなで船旅を楽しんでいく。
「ここが展望コーナーで、記念写真とか撮れるよ」
「みんなでとるです~」
みんなで記念写真を撮って、思い出の一枚にしたり。
「タイシ、ここってなんです?」
「ここはキッズルームで、子供達が遊ぶところだよ」
「あそんでいいの!?」
「きゃー!」
「あそぶです~」
キッズルームがあったので、子供たちを遊ばせてみたり。
ちなみにここでは子供向けアニメがテレビで見られるけど、カナさんがべったり張り付いてしまったり。
「ここは売店で、お土産を買ったりできますよ」
「タイシタイシ、これってフネです?」
「今乗っている船の、紙でできた模型だよ」
「あや! ほしいです~」
「それじゃ、記念に一つ買おうか」
「あい~!」
売店でお土産を買ったり。お酒も売っていたので、大人の方々は記念にお酒を買っていたりもした。
これから海水浴なので、飲酒は遠慮してもらったけど。
「こちらの通路には、いろんな絵が飾ってあります」
「はわ……」
「おもしろいえが、たくさんあるです~」
船内にはいろんな絵が飾ってあって、カナさんがまたもやべったりと張り付いてしまったり。
そうして二時間半楽しく過ごして――。
「ほらハナちゃん、もう佐渡はすぐそこだよ」
「あや! いつのまにか、ちかくにきてたです~!」
「もうこんなにちかくに……」
「はやいな~」
船内で色々遊んでいると、気づけば佐渡島の近くにまで来ていた。
遠くに見えていた島は、もうすぐそこだ。
もうちょっとすれば、到着だね。
「みなさん、もうすぐ佐渡に到着します」
「いよいよです~!」
「ついにきたんですね」
「あっというまだな~」
もうすぐ到着と伝えると、みなさんとうとう目的地に到着とあって期待でいっぱいの表情になった。
ハナちゃんもお目々キラッキラにして、キャッキャしながら近づいてくる島を見ている。
さあ、もう直ぐ船旅は終わり。いよいよ佐渡に上陸だ。
◇
「みなさん、とうとう佐渡に――上陸しましたよ!」
「とうとうきたですー!」
「ここが……」
「やったどー!」
二時間半の楽しい船旅を経て、とうとう佐渡島に上陸した。
今は親父の運転するバスが降りてくるのを、駐車場で待っているところだ。
島に上陸してからは、エルフたちはキャーキャーと興奮しっぱなし。
今日はフェリーにのって佐渡に渡り、海水浴をする。
旅の主目的を一気に体験できるとあって、テンションうなぎのぼりだね。
「あや! バスがおりてきたです~!」
「なんかいみても、おどろきですね」
「かっこいいな~」
ハナちゃんがキャッキャしながら、うちのバスが上陸する様子を見ている。
それじゃ、バスに乗って海水浴場に向かおう。
「これからバスに乗って移動して、お昼過ぎくらいに海水浴場につきます。思いっきり泳ぎましょう!」
「およぐです~!」
「いよいよですね!」
「たのしみだな~」
――というわけで、両津港から三百五十号線を使い海水浴場を目指した。
途中、ドンデン山の山頂を超えたあたりの景色は素晴らしかった。
山頂から下を見下ろすと、山々の間から日本海が広がる風景が見える。
エルフ達も大はしゃぎで、その風景を楽しんだり、写真を撮ったりと楽しく過ごす。
山を下ってからはスーパーに寄って食材を買い出ししたり、ちょっと寄り道も。
そんなこんなで一時間程度の移動を経て――。
「――みなさん! ここが本日の拠点となります! 泳いで食べて、また泳いで。存分に楽しみましょう!」
「すなはま、みえるです~!」
「うみだ~!」
「とうとう、およぐのね!」
十二時半くらいに、海水浴場に隣接するキャンプ場に到着!
みなさんキャンプ場から見える海水浴場を見て、お目々キラキラだ。
海が見たい、大きな船に乗りたいという二つの目標はかなえた。
これからいよいよ、海で思いっきり遊ぶという目標をかなえる事になる。
「みなさん、テントを張ってその中で着替えたら、いよいよ泳ぎますよ!」
「「「わーい!」」」
それじゃ、海水浴の準備をしましょう!
◇
幕営を済ませて待つ事十数分。今は女性陣がお着替えをしている最中だ。
水着は見てのお楽しみということなので、俺たち男性陣は全員どんな水着かはまだ知らない。
ちなみに男性陣はタオルを巻いてその辺で着替えた。男は簡単なのだ。
俺たちの着替えの最中、神様が「(きゃー!)」とかいってどっかに飛んで行ったけど……。
そういや女神様だったの忘れてた。ごめんなさい。
まあ、そのうち戻ってくるだろう。
「みんな、どんなみずぎをかったんでしょうね?」
「ユキちゃんが付いているので、変なのは買ってないと思います」
そしてヤナさんは待ちきれない様子で、そわそわしている。
愛する妻と可愛いわが子の、晴れ姿だからね。気になるのも当然だ。
……そうだ、女性陣が出てくる前に、こういうシチュエーションでの注意点を教えておこう。
「男性陣のみなさん、ちょっとよろしいですか? 一つ注意点がありまして」
「ちゅういてんですか?」
「なんだろ」
「きをつけなきゃいけないことかな」
呼びかけると、男性陣が周りに集まってくる。それじゃ、伝えましょうか。
「お子さんや奥さんが水着を見せたら、とにかく褒めてあげてください」
「それはだいじですね」
「わすれるところだった。あぶねえ」
「おれらどくしんだから、しなくてもいいよね」
「だよなあ」
すぐに必要性に気づいた人が多い中、いまいち必要性をわかってない人が。
マイスターとマッチョさんは独身なので、あんまりピンときてないようだ。
ここはひとつ、とある人がどうなったか教えてあげよう。
「とある人が、奥さんの水着を見て褒めるのを怠ったときがありましてね」
「ほほう」
「それからしばらく、その人の食事だけおかずが微妙に減らされていました」
「よくあることですね」
「やべえ、たにんごとじゃねえ」
「やさいいためいがい、くえなくなるきけんせいが」
とある人とは親父のことだけど、危険性はわかってもらえたようだ。
マイスターとマッチョさん、ぷるぷるしている。
独身だからって、油断してはならないのだ。
ちなみにヤナさんは「よくあること」と言ってしみじみと頷いている。
これたぶん、過去にやらかしたな……。
というわけで気合の入った男性陣とともに、女性陣を待つことさらに数分――。
とうとうテントの入り口が開けられた。どうやら着替えが終わったようだ。
そうしてすぐさま、ハナちゃんがテントからぴょいっと出てくる。
「タイシタイシ~! きがえたです~!」
「ど、どうでしょうか?」
「ほかのみんなも、そろそろです」
まず先にハナちゃんがてててっと走ってきて、その後にユキちゃんが続く。
さらにそのあとにカナさんだね。
そして元気に走ってきたハナちゃんは、俺の前に来てくるりと一回まわってみせる。
おお、可愛らしい水着だ。
「タイシ、ハナのみずぎ、どうです?」
ハナちゃんの水着は、子供用のふりふりが付いた……タンキニってやつかな?
上下とも桃色で、とっても可愛らしい。
「ハナちゃん良く似合ってるよ~。可愛いね~」
「ぐふふ~。ぐふふふふふ~」
「おもったとおりですね」
「おんなのこだもの」
無事ハナちゃんがぐにゃったところで、次はユキちゃんだね。
これまたビキニなんだけど、黒を背景に南国の花が色とりどりに描かれていて、シックな中にも華やかさがちりばめられている。
そして長いパレオを腰に巻いていて、ドレスをまとっているように見える。
しかも体型はなんというか、結構グラマーだった。着やせするタイプなんだ。
「ど、どうです? けっこう頑張ってみました」
「いや、びっくりだよ。水着を着たモデルさんみたいで、綺麗だね。大人の雰囲気だね」
「お、大人……ふふふふふふふふ」
ユキちゃん、頬をひくひくさせながら、さらにもじもじしはじめた。
ニヤつくのを無理やりこらえているような感じだ。失敗しているけど。
……まあ、喜んでもらえているっぽいので、大丈夫だろう。
「ハナとカナ、かわいいじゃないか」
「でしょでしょ。いっしょうけんめいえらんだのよ」
「ぐふ~」
ヤナさんもちゃんと褒めているね。カナさんも嬉しそうで、何故か踊っている。
ちなみにカナさんは水色のワンピースだ。
「どうかしら~」
「けっこうだいたんなやつだな……よくにあってるぜ」
「あら~」
「わたしのは?」
「すげえ。このへんがとくにいい」
「でしょ? おきにいりなのよ」
マッチョさんとマイスターも無事ミッションコンプリートだ。
他の方々も同様に、家族とキャッキャしている。
これで夕食のおかずが減るという人は出ないね。一安心だ。
よし、これで後は準備体操をすれば、海水浴が出来るな。
(きがえ、おわった~?)
そうしているうちに、神輿も戻って来た。
ちょっともじもじしながらも、ほよほよとこっちに飛んで来る。
これで全員そろったので、準備体操でも始めましょうか。
「みなさん着替えられたようなので、準備体操をしたら泳ぎましょう」
「じゅんびたいそうです?」
「なにをすればいいんでしょうか」
準備体操をしようというと、ハナちゃんこてっと首をかしげる。
ほかのみなさんも良くわからないようなので、説明しておこう。
「いきなり泳ぐと体がびっくりしますので、あらかじめ体をうごかしたりほぐしたりしておくんです」
「あ、わたしたちもおよぐまえは、すじとかからだをのばしたりしますね」
「なら話は早いですね。それが準備体操ですよ」
「なるほど」
エルフ文化にも泳ぐ前は準備をするようで、すんなりと理解してもらえた。
準備体操という名前がなかっただけみたいだね。
では、みんなで準備体操をしましょ――。
「――そこのタイシさん、からだをほぐすなら」
「おれたちにおまかせ」
「あしつぼかんけいないけど、やっときます」
待って――。
油断するとこうなります