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エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
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第十二話 ちょっと寄り道


「たのしかったです~」

「すなはまって、こうなんだ~」

「みずがつめたくて、きもちよかったわ~」


 ひとしきり波打ち際で遊んだあと、谷浜を後にする。

 みんな名残惜しそうだけど、まだ旅は始まったばかり。

 というかこれから海岸線を走るので、ほとんど海が見られる。

 エアコンの効いたバスの中で、新潟の海岸線を堪能してほしい。


 こんどは八十キロ程移動して、昼食だ。

 道の駅でも寄って美味しい物でも食べよう。


「みなさん、しばらく走ったらお昼にします。ラーメンとか色々食べられますから」

「ラーメンです~!」

「いくべし」

「おかわりできる?」


 ……ラーメンと聞いたとたん、みなさん素早く動き始める。

 そうだね。ラーメンおいしいからね。



 ◇



 そして道中相変わらずワーキャー大騒ぎで八十キロほど移動。

 途中の道の駅でお昼にしたけど、みんなラーメンを注文していた。


「ハナたちのたべてるラーメンと、ぜんぜんちがうです~」

「あれは即席で作れるラーメンだからね。このラーメンが実は基本なんだよ」

「あや~。ラーメンいろいろあるです~」


 みんなインスタントではないラーメンを食べて、驚いたりおかわりしたりと大はしゃぎだった。

 特にナルトのうずまき模様が気に入ったようで、最後までとっておいて大事に食べている人が多かった。


 ……エルフたちの民族衣装にもうずまきがあるし、彼らの大好き果物もうずまき模様がある。

 縄文というか唐草模様というか……なんというかうずまき模様は、彼らにとって大事な模様なのかもしれないな。


(いろんなラーメン~)


 そして神様もラーメンを堪能中で、ぴかぴかとどんぶりが消えていく。

 ……消えていく?


「大志さん、神様どんぶりもってっちゃいましたけど」

「――あ!」



 ◇



 神様の食器コレクションに、ラーメンどんぶりが追加されたでござる……。

 ちなみにどんぶりの代金は払いました。


 そうして色々あった昼食だけど、無事に済ませて移動を再開。

 のんびり沿岸を移動して、日本海側の風景を楽しむ。


「あや! なんかたくさんういてるです~」

「あれは船だよ。あの船にのって、お魚を捕まえに行くんだ」

「おれたちのフネと、ぜんぜんちがうな~」

「あれ、どうやってこぐの?」


 漁港を通り過ぎるとき、漁船に興味深々になったり。


「おやつ、おいしいです~」

「このケーキってやつ、あまくておいしいですね」

「チョコレートがたくさんとか、すてき」

「こんなおかしがあるのね~」


 途中美味しそうなケーキ屋さんを見つけたので、大量購入しておやつとして配ったり。


「タイシタイシ! あれはなんです?」

「あれはね……」


 見るもの触れるものみんな珍しくて、道中騒ぎっぱなしだった。

 美味しい物を食べて、珍しい物を見て、写真をたくさん撮って。

 ただの移動日程だけど、エルフたちはおもいっきり旅行を堪能している。


 お目々キラキラ、そしてぷるぷる。

 表情がころころ変わって、見ているこちらも楽しくなる。


 そして車内は大騒ぎだけど、移動は順調そのもの。

 のんびり海岸線を走ること二時間ちょっと、とうとう新潟市に突入した。

 ここで、新潟港付近の西海岸公園で一旦休憩を取ることになった。


「ハナちゃん、あれが明日行く佐渡だよ」

「あや! あれがそうだったです!?」

「実はそうなんだ」

「きづかなかったです~」


 実はお昼を食べた道の駅からここまで、佐渡島は見えっぱなしだったけど。

 ここいらでタネあかしだね。


「あの、とおくにみえるのがそうなんだ」

「あした、そこにいくのね~」

「じっかんでてきた」


 今回の旅、その明確な目標をその目にしたことで、みなさん気合いみなぎる様子だ。

 首を伸ばしたり、背伸びしたりして佐渡島を眺めているね。


 そうして変なかっこうで佐渡島を眺めるエルフたちと休憩していると、高橋さんが歩いて俺の所までやってきた。

 何か話しでもあるのかな?


「高橋さん、どうかした?」

「なあ大志、順調すぎて時間あまったぜ。どっか寄り道しねえ?」


 高橋さんがスマホの時刻表示を見せてくる。

 時間は二時ちょっと過ぎで、たしかに余裕がたっぷりだ。

 寄り道しても十分問題ないというか、ちょっと早く着きすぎた感があるね。


「時間的には寄り道しても問題ないね」

「だろ? どっかで時間潰そうぜ」

「早めにキャンプ場に行って海水浴って手もあるけど」


 今日は移動日程ということで海水浴はがまんしてもらっているけど、これなら多少は泳げるかも知れない。

 どっちが良いかだな。


「寄り道するか、海水浴をするか。どっちにしようかな」

「個人的には寄り道だな。今から泳いでも、二時間ちょっとくらいだろ?」

「まあ、あんまり泳ぐ時間はないね」


 確かに、夕方すぎてから泳ぐのはあまりよろしくない。

 そういう意味では、寄り道が一番かもしれないな。

 ただ、そうなると有意義に過ごせるような所に寄り道したいよね。

 どっかいいところあるかな……。


 ……あ、あるな。このすぐ近くに。しかも、海を存分に楽しめる施設だ。

 ――マリンピア日本海、水族館がある。


「みんなで水族館に行って、海の生き物を楽しむってのはどうだろう? この近くにマリンピア日本海あるよね」

「お! いいなそれ。そこペンギンいるよな確か。ペンギンすげえ見たくなってきた」

「今の時間から行けばイルカショーも見られますね!」


 高橋さんはもうペンギンで頭がいっぱいな様子だ。乗り気だね。

 ユキちゃんはさっそく調べているようで、水族館のWEBサイトを見せてくれた。

 確かに次のイルカショーに間に合う時間だな。余裕があるほどだ。


「水族館いこうぜ。俺すごい行きたい」

「私も良いかなって思います」


 高橋さんとユキちゃんはもう乗り気だ。

 あとは親父とエルフたちが賛成すれば、水族館へ寄り道で決定できるな。


「親父はどう思う?」

「海水浴は明日できる。でも水族館見学は今日しかできないと思う。むしろ水族館にいくべきかと思うぜ」


 お、そういえばそうだ。

 海水浴は明日できるけど、水族館に寄れるチャンスは今しかない。

 ……そういう考え方もあるんだ。参考になる。


「確かに今しか寄れないな。親父、参考になったよ。ありがとう」

「参考になったんなら良かったよ。俺としては、金はこっちで払ってでも、みんなを水族館につれていくべきだと思ってる」


 なるほど、俺も親父の意見に賛成だ。

 海に生きる生物を知れば、これから佐渡に行ってももっと海を楽しんだり、考えたりすることができる。

 自然学習と観光を兼ねられるので、是非とも水族館にエルフたちを招待したくなってきた。


 それじゃ、さっそくみんなに提案してみよう。


 みんなは……高いところから佐渡島を見たいのか、組み体操みたいなことやってるね……。

 あれ、人間円筒ってやつかな?


 その様子に、周りの一般人がエルフたちにすごい注目している。

 みなさん、すごく目立ってますよ……。


 ……。


 とりあえず、気にしないことにしよう。



 ◇



 気を取り直して、組み体操をしているエルフたちに提案をしてみることに。


「あー、ちょっとみなさんに相談ごとがあります」

「そうだんです? ハナ、ちからになるですよ~」

「なんでしょうか。もんだいでもおきました?」

「どしたの?」


 相談事があると声をかけると、みなさん組み体操を解除して集まってきた。

 一瞬で平常に戻れるあたり、運動神経は良いね。


 ……それはそれとして、話を続けよう。


「順調に移動できたおかげで、時間に余裕ができたんです。今日の目的地はすぐそこですよ」

「あえ? もうついちゃうです?」

「なんだか、あっというまでしたね」

「はやいな~」


 目的地まですぐそこだと告げると、みなさんちょっとびっくり顔だ。

 道中堪能いただけたようで、初めての長距離移動にしては疲れも無い様子だ。

 まだまだ旅を楽しむ気力と体力は十分あるかな?


 では、これからの予定について提案だ。


「ここで例の相談事です。時間に余裕があるので、海水浴か観光のどちらかをしようと思ってまして」

「あや! およげるです!?」

「夕方前までだけど、ちょっとは泳げるかな」

「いいかもです~」


 海水浴が出来ると聞いて、ハナちゃんが食いついてきた。

 今日は海水浴をしない日程だっただけに、泳ぎたいのを我慢してもらっているからね。

 泳げそうと聞いて、ワクワクしちゃうのも無理はない。


「かいすいよくはよさそうですけど、かんこう、というのは?」

「そっちもきになるです~」

「まだまだ、みどころあるの?」

「どんなんだろ」


 ヤナさんは観光について詳細を知りたいようだ。

 ほかのみなさんも、話を聞きたがっている。

 水族館について説明してから、提案してみよう。


「このすぐ近くに水族館といって、海の生き物を沢山見ることが出来る施設があるんです」

「あや! うみのいきもの、みられるです!?」

(ほんと?)


 ハナちゃんすごい食いつきようだ。お目々まんまるにして驚いている。

 謎の声も興味があるのか、ぴかぴか光った神輿が俺の周りをくるくると飛ぶ。

 ここはちょっと煽っておくかな。


「そこの水族館はお魚いっぱいで、可愛い生き物もいたりしてとっても楽しいんだ」

「いくです~! ハナ、うみのいきもの、みたいです~!」

「かわいいいきものですか。よさそうですね」

「みたい! いきものすげえみたい!」


 水族館の説明を聞いて、みなさん興味が出てきたようだ。

 特に、生き物大好きマイスターは目をキラキラさせて、すごい乗り気である。


 そしてハナちゃんは俺の足にしがみついて、うずうずしている。

 はやく水族館に行きたくて我慢できないようだね。

 それじゃ、海水浴ではなく水族館で良いか最終確認だ。


「それでは、海水浴ではなく水族館に行くという事でよろしいでしょうか?」

「あい~! すいぞくかんにいきたいです~」

「およぐのは、あしたのたのしみにとっておきます」

「わたしもそれでいいわ~」

「んだんだ」


 みんなも水族館で良いみたいだな。海水浴は明日のお楽しみってことで。


「ではみなさん、水族館に行きましょう!」

「いくです~!」

「どんないきものがいるか、たのしみ~」

「わくわくする~」


 それじゃ、みんなを連れて水族館に行きましょう!



 ◇



 マリンピアは西海岸公園のすぐそばにあるので、あっという間に到着した。

 したのだけど……。


「神様と海竜ちゃん、何料金のチケットを買えばいいんだろ」

「わかんねえ」


 エルフたちは見た目で大人料金、子供料金、乳幼児料金と分けられた。

 でも、神様と海竜ちゃんはどれを買えばいいのかわからない。

 高橋さんに相談したけど、高橋さんもわからない。

 これはあれだ、水族館側の人に判断してもらうしかないか。


「受付のお姉さんに判断してもらおう」

「そうすっか」


 ということで、チケット売り場に神様と海竜ちゃんを連れて行く。


「すみません。この二人、何料金にしたらよろしいでしょうか」

(ども~)

「ぎゃう~」

「えっ?」


 受付のお姉さん、固まる。

 普通、客の方から料金を聞いてくることなんてないだろうからね。


「う~ん……小学生料金?」

「じゃそれで」


 お姉さんは少し悩んだ後、小学生料金と判断したようだった。

 というわけですぐさまお金を払って、団体チケットを調達する。


「何とかなるもんだな」

「無事チケットが買えて良かった。聞いてみるもんだね」

(ありがと~)

「ぎゃうぎゃう」


 チケットが無事買えたのが嬉しいのか、神輿と海竜ちゃんが俺の周りをくるくる回る。

 さて、団体チケットも買えたし、いざ館内に参らん!


「それでは、私の後についてきてください」

「「「はーい」」」


 みんなを引き連れ順路を歩いていくと、まずは浜辺の生き物が展示されていた。


「おさかないるです~」

「とうめいなようきとか、すてき」

「なにこれすげえ」


 水槽で泳ぐ生き物を見て、さっそくみなさん足を止める。

 可愛くうごくちいさなカニや小魚たち。

 エルフたちは興味深そうに水槽をのぞいている。


 浅瀬を再現した水槽は、波の動きまで再現している。凝ってるなあ。


「タイシタイシ、このとうめいなやつってなんです?」

「それは水槽って言ってね、水が必要な生き物を飼うための設備なんだ」

「すごいです~」


 水槽そのものに興味を持つとは、なかなか面白い着眼点をしているね。

 そんなハナちゃんは、水辺の生き物をエルフ耳をぴこぴこさせて楽しんでいる。

 でもまだまだ、ここは入口。この先には、もっとすごいのがある。


「ハナちゃん、この先はすっごいおっきな水槽があって、たーくさんお魚が泳いでるんだよ」

「あえ? おっきなすいそうです?」

「みんなの家よりおっきな水槽があって、海のお魚が沢山いるんだ」

「すごそうです~!」


 この先にあるのは日本海大水槽で、文字通り日本海の魚が沢山泳いでいる。

 それをみたら、きっとびっくりするはずだ。


「このさきに、なんかすげえのあるらしいぞ」

「どんなのだろ~」

「いってみるべ」


 俺とハナちゃんの話を聞いていたのか、他のみなさんも興味が沸いて来たようだ。

 それじゃあ、日本海大水槽の所へ行きましょう。


「タイシタイシ、はやくいくです~」

「それじゃ、はぐれないように手をつないで行こうか」

「あい~!」


 ハナちゃんがちっちゃな手を差し出してきたので、手をつないで一緒に歩いていく。

 ぽてぽてと歩くハナちゃんの速さに合わせて、ゆっくりのんびりと。


 そして階段をおりていくと、お目当てのどでかい水槽が見えてくる。


「ハナちゃん、あれがおっきな水槽だよ」

「……」


 あれ? ハナちゃん水槽を見上げて、ぽかんとしている。


「なあ、ここってみずのなかじゃないよな」

「そうだとおもうけど」

「おさかな、うえのほうにいる……」


 他のみなさんも、ぽかんとしている。

 泳ぐ魚を下から見たことがないから、混乱しているようだ。

 軽く説明しておこうかな。


「これは大きな水槽でして、あっち側がお魚の世界、こっち側が私たちの世界になってる感じです」

「タイシ、タイシ。これ、ほんとにすいそうです?」

「水槽だよ。あっち側は、海の中を再現しているんだ」

「……」


 そしてまたもやぽかんとするハナちゃんだ。

 でも、その眼は水槽とそこで泳ぐ魚をとらえて離さない。

 あまりのスケールのでかさに、見入ってしまったようだ。


「すげえ……」

「きれい~」

「おいしそう」


 他のみなさんも、うっとりと日本海大水槽を見つめている。

 想像と理解を超えた物を見たので、キャーキャー言う余裕もないようだ。

 美味しそうって感想はどうかと思うけど。


「――タイシ! すっごいです~! おさかな、いっぱいです~!」

「あれ、あれぜんぶおさかなですか!?」


 そしていち早く現状を認識したのか、ハナちゃんはぴょんぴょん飛んで全身で喜びを表現だね。

 水槽を見上げながら、両手を広げてぴょんぴょんハナちゃんだ。

 ヤナさんも興奮をおさえきれない様子で、水槽を指さしている。


「もちろん、全部生きたお魚ですよ」

「よりみちしてよかったです~! すごいのみれたです~!」

「これ、これぜんぶいきたおさかな……」


 マイワシやスズメダイが群れをなして泳ぎ、サメも悠々と泳いでいる。

 他にもエイが泳いでいたりと、見た目でもう楽しい。


「こっちのしぜんをさいげんするぎじゅつ、やべえじゃん……」

「たんぼといいこれといい、こっちのひとってしぜんをさいげんするのがすきなのかしら」

「はんぱじゃねえ……」


 だんだんと理解が追いついてきたほかのみなさんも、水槽を泳ぐいろんな魚に見入っている。

 これだけでもう、ここに来た価値があるというものだね。


 でも、ここはまだ入り口近く。まだまだ、海の生き物沢山おりますよ。

 それじゃ、ひととおり回ってみましょうか!



 ◇



「あや~! へんなのがいるです~」

「あれはペンギンといってね、飛べないけど鳥さんなんだよ」

「とりさんです!? たしかに、くちばしあるです~」

「はねもあるな。ふしぎないきものじゃん」


 佐渡の深海生物展示、マリントンネルを抜けて、順路を一回りした。

 そして今は水生ほ乳類の展示を見ている最中だ。

 愛くるしい動物たちが思い思いに過ごしていて、楽しいね。


 そしてハナちゃんはペンギンが鳥だと聞いてびっくりな様子。

 マイスターも、飛べない鳥をふむふむと観察しながら、写真を撮っている。


「こっちにはでっかいおさかながいるぞ」

「かわいい~」


 あっちでエルフたちがキャッキャしているけど……イルカを見ているのか。

 たしかに可愛い。

 でもイルカを魚だと思っているようなので、魚じゃないよと教えておこう。


「それは魚じゃなくて動物ですよ。イルカと言います」

「さかなじゃないの!?」


 魚ではないと知って、飛び上がって驚くみなさんだ。

 息継ぎするということを教えたら、動物なんだってわかるかも。


「ほら、たまに息継ぎしてますよ。プシュって。あれが鼻なんです」

「あれ、いきつぎしてるんだ」

「おもしろいわ~」


 そうしてイルカをキラキラした目で見るみなさんだ。

 イルカに手を振って、イルカがそれに応えたりするさまを見て驚いたりも。

 とっても楽しそうで、何よりだね。


 そうしてひとしきりイルカにキャッキャした後は、水辺の小動物コーナーへ。

 ビーバーやアザラシ、ラッコなどの可愛らしい生き物のほかに、ある生き物がいた。


「タイシ~。このいきもの、むらにいたです?」

「おさかなつりをしていたとき、よってきましたね」

「おさかなをあげたら、けっこうえぐいかんじでたべてました」


 ハナちゃんがそのある生き物を指さして、村でみたと言っている。

 ヤナさんカナさんもその存在をしっているようで、魚をあげたりしてかわいがってくれていたようだ。


「……大志さん、これってカワウソですよね? あの村にいるんですか?」

「ニホンカワウソなら、川に棲んでるよ」

「ええ……?」


 どうやらユキちゃんは見たことなかったようだ。

 頻繁に釣りをしないと会えないから、まあ無理もないか。

 あの辺外界から隔離されているので、外ではいなくなってしまった生き物が残ってたりするんだよね。

 お袋も、嫁いできた当時普通にニホンカワウソがいるのを見て、卒倒(そっとう)しかけたとか言ってた。


「ハナちゃんたちが見た生き物は、ニホンカワウソっていうんだ。もうあの村のあたりにしかいない、貴重な生き物だよ」

「あえ? あのむらにしかいないです?」

「うん。もう他には、どこにもいないんだ」

「そんなにめずらしいどうぶつだったんですね」


 珍しい生き物だと知って、ハナちゃんたちはキャッキャしている。

 たまに人を怖がらない個体がいて、釣りをすると寄ってくるんだよね。

 あんまりかまいすぎると、懐きすぎて家までついてきちゃうから要注意だけど。


「……大志さん。川に行けば、ニホンカワウソに会えます?」

「魚をもって川で待っていれば、たまにならって程度かな」

「なかなか大変そうですね」

「運の要素が大きいね。根気がいると思う」


 村にカワウソがいると知って、ユキちゃんが期待を込めた目で聞いてきた。

 貴重な生き物を、実際に見てみたくなったようだ。

 多少の根気があれば、いずれ会えるかもね。


 ただ、カナダカワウソなら目の前にいるわけで。この子だって相当かわいい。


「村のカワウソちゃんはまた今度にして、今は目の前にいるカナダカワウソちゃんを楽しもう」

「そうですね。目の前の子もかわいいですから」


 ということでしばらくの間、カナダカワウソの愛くるしい姿を楽しむ。


「いしであそんでるです~」

「かわいい~」


 お気に入りの石をあおむけになって、ころころと体の上で転がすカワウソちゃん。

 その愛くるしい様子を、みんなでほんわか見守った。


 そうしてほんわかしていたとき、ふと、何かが足りないことに気づく。

 ……あれ、神輿が飛んでないな。どこいったんだろ。さっきまでは元気に飛んでたのに。


「……神様どこいったのかな」

「そういえば、みあたらないです?」

「ちょっと探してくるね」

「ハナもいくです~」


 まさかとは思うけど迷子になっていたらまずいので、探しに行くことに。

 今まで通ってきた順路を逆に進んで、ぽてぽて歩くハナちゃんと一緒に神様を探すと……。

 

「ママー! また宇宙人がゆらゆら飛んでるー!」

「あら、クラゲね。ほんと宇宙人みたいよね~」

「ちがくて!」


 なにやらどこかで見たお子さんが叫んでいるけど、どうしたんだろうね。

 宇宙人って何のことだろうね。知らんなあ。

 そしてそのお子さんが指さす先には、クラゲ水槽の前でゆらゆらただよう神輿が……。


「……森にもにたような植物がいるから、興味をもったのかな?」

「わりとにてるです~」


 クラゲがぴこぴこ泳ぐと、神輿もクラゲみたいにぴこぴこ動く。そしてたまにほよほよと光る。

 クラゲと一緒にただよう神輿……。なかなかシュールだ。


「……そっとしておくか」

「そうするです~」


 なんだかんだで水族館を堪能している神様は、そっとしておくことにした。

 なんというかクラゲがただよう姿は癒されるからね。ゆっくりご堪能ください。


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