表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフのハナちゃん  作者: Wilco
第十章  えるふのなつやすみ
132/448

第八話 説明はちゃんとしておきましょう


 水着の発注と一緒に神輿も発注して、翌日すぐ届いた。

 これぞ現代物流の利便性よ。

 物流業者のみなさん、ありがとう!


 というわけで、早速村に訪れて配布をする。


「念のため試着してください。違う大きさに交換してもらえますので」

「わかりました」

「これがみずぎか~」

「みたこともない、きじだな~」

「きてみるべ」


 男性陣だけを集会場に集めて、もそもそと着替えてもらう。

 脱いで履くだけなのであっという間だ。


「もんだいはないですね」

「たしかに、およぐにはいいかも」

「おんせんそうじのとき、つかえるんじゃね?」


 みんな水着を着て、ワイワイと感想を言い合っている。

 サイズ的には問題なかったようで、キツイとかゆるいとかの話は出て来なかった。

 まあ、男物はこんなもんだな。

 サイズ的にアバウトでもなんとかなる作りだから、問題も出ない。

 男性陣の水着配布は、これで終了だ。

 一つのタスクが完了できてほっとする。


 女性陣の方も、もう直ぐ発注したものが揃うらしい。

 これで試着も大丈夫なら、水着の問題はほぼクリアになるね。

 着々と準備が進んでいくので、ワクワク感も高まる。


 それじゃあ、俺は次のタスクに移るかな。神輿制作だ。

 神様から催促来なかったら、忘れたままだったね。危ない危ない。



 ◇



「これから神様用の乗り物を作るので、お手伝いよろしくね」

「まかせるです~」

(がんばって~)


 水着配布で集まったみなさんが解散した後、ハナちゃんと一緒に集会場で神輿制作にとりかかる。

 せっかくだからと見た目が良いものを選んだら、制作時間三十時間とか書いてあった。

 まあ、これくらいなら何とかなるだろう。


「そんなに難しい作りじゃないから、のんびり作ろうね」

「あい~」

(たのしみ~)


 みんみんとセミの鳴き声を聞きながら、ハナちゃんとのんびり組み上げていく。

 ときおり聞こえる謎の声をはげみにして、コツコツと。

 制作中の楽しみとしてかき氷も用意してあり、好きなだけ食べ放題だ。


「タイシ~。これでどうです?」

「ハナちゃん上手だね。なでなでしちゃおう」

「うふ~」


 けっこうな戦力になっているハナちゃん、んしょんしょと模型を組み上げていく。

 一人じゃ無理でも、ハナちゃんと一緒なら早く作れそうだ。


「ちょっと休憩して、かき氷でも食べよう」

「ハナ、いちごミルクがたべたいです~」

「いま作るね」

「あい~」

 

 そうしてかき氷を食べたりしながら、模型を組み上げる。

 これがまた夏休みの工作をしている感があって、結構楽しい。

 仕事かと思いきや、意外や意外、これが息抜きになる。


 ハナちゃんも楽しそうに、耳をぴこぴこさせながらお手伝いをしてくれる。

 楽しいひと時だ。


「お、それがのりものですか」

「おれもてつだうよ」

「もっこうざいくなら、まかせとけ」

(みんなありがと~)


 製作途中では、村のみなさんがちょいちょいと手伝ってもくれた。


「みなさん結構お上手ですね」

「たすかるです~」

「おうちのもけい、けっこうつくってるから」

「ぶっちゃけあっちのほうがむずかしい」


 みなさん趣味で模型も作っているので、結構良い感じにくみ上げてくれる。

 お礼に、手伝ってくれた人たちにはかき氷を進呈だ。


「あついときにたべると、おいしいな~」

「つかれがとれるきがする」

「あますぎないのが、いいよね」


 という感じで、ニコニコしながらかき氷を食べるみなさんだ。

 たまにピカっと光ってかき氷が消えるのも、もはやご愛嬌。

 神様も存分にかき氷を楽しんでください。


 そうしてお手伝いのたびにかき氷を配る、ということをしていたら――。


「かきごおり、もらえるってきいたー」

「もらえるの? もらえるの?」

「たべたいー!」


 どこかでうわさを聞きつけたのか、子供たちが押し寄せてきた。

 キラキラした目で、おやつが貰えるのを期待している。


 俺はこういうのに弱いので、作業を中断してかき氷を削りまくった。

 大サービスで、てんこ盛りのシロップかけまくりだ。


「ちべたいー!」

「おいしいね! おいしいねっ!」

「おいちー!」


 おっちゃんエルフ作成の自慢のベンチに座って、子供達がにぎやかにかき氷を食べる。

 楽しそうに足をぱたぱたさせながら。


 そんな微笑ましい光景を見ながら、神輿制作の作業を再開する。


 セミがみんみんと鳴き、子供達のキャッキャする声が聞こえる。

 夏の日差しに青い空、そして入道雲が空にそびえたつ風景は、まさに夏休み。

 小学生の頃、こんな夏の日々を過ごしたことを思い出す。


 あの頃、夏休みは毎日がワクワクだった。

 山に昆虫を採りに行き、市民プールに泳ぎに行き、涼しい神社で駄菓子を食べた。

 友達とちょっとした冒険に出かけて、道に迷ってあせったり。

 遊んでいる最中に、にわか雨に遭遇してずぶ濡れになったりもした。

 だけど、それさえも楽しかった。


 毎日そんな感じで遊び回って、クタクタになるまで走り回って。

 一日遊んでいたな。

 でも、沢山ある宿題の存在は……考えないようにしてたかも?


 そんな夏の思い出が、なんだかよみがえる。

 子供の頃は、夏が来るのが楽しみだったな。

 まあ、今でも楽しみといえば楽しみだけど。

 でも、あの頃ほど夏が来ることに……ワクワクはしているだろうか?


「タイシ、どうしたです?」


 おっと、手が止まっていたかな?

 ハナちゃんは「どうしたの?」という顔で俺を見上げている。


 ……そういえば、ハナちゃん達の世界は常春っぽいんだよな。

 こっちの世界の日本の夏は、ハナちゃんにとってはどうなんだろうか。

 慣れない暑さで大変なのか、季節の変化を楽しんでもらえているのか。

 俺としては、この日本の夏も好きになってもらいたい。もちろん春も秋も、そして冬もだけど。


「……ハナちゃん、こっちには季節があって今は暑いけど、楽しく過ごせてる?」

「あい~! あついですけど、それはそれでたのしいです~!」

「楽しいかな?」

「なんだか、にぎやかです~」


 ハナちゃんは耳をぴこぴこさせて、夏が楽しいと言ってくれた。

 可愛らしいエルフ耳は、まるで周囲にあるいろんな音を楽しむように、動いている。

 まあ、暑いけど楽しんでくれているようで、何よりだ。


「佐渡に行ったら、もっと楽しくなるからね。楽しみにしていてね」

「あい~!」


 そうして、ハナちゃんとのんびり神輿を作っていった。

 夏の、のんびりとしたひと時。大事に過ごそう。



 ◇



 ――そして翌日。


「それじゃ、屋根を乗せるよ」

「てつだうです~」

(いよいよ!)


 ハナちゃんやみんなとコツコツ作った神輿制作は、いよいよクライマックス。

 屋根を乗せれば完成だ。

 二人で屋根を持って、これから乗っけようとしたところ――。


「お、そろそろかんせい?」

「けっこうはやいな」

「みまもるべ」


 いつのまにか他のみなさんも集まってきていて、完成を見守ってくれるようだ。

 それじゃ、みんなが見守るなか、屋根を乗っけて完成させちゃいましょう!


「ハナちゃん、のっけようか」

「あい~!」

(のっけるよ~)


 やっぱり屋根がほよほよ光っているけど、神様も参加かな?

 まあそれはそれとして。

 ハナちゃんと一緒に、光る屋根を乗せて……と。


 本体が上手く組み上がっていたようで、すとんと綺麗にはめ込まれた。

 

 屋根には鳳凰(ほうおう)が乗せられ、蕨手(わらびて)からは赤い飾紐(しょくちょ)が伸ばされ台座に結びつけられている。

 (どう)は黒と金で装飾され、とてもきらびやかだ。


 けっこう凄いの、出来ちゃった!


「――神輿、出来ました!」

「やったです~!」

(のりものー!)


 ハナちゃんやみんなとコツコツ作ったミニチュア神輿、良い出来映えだ。

 造りもがっしりしているので、激しく動かしてもビクともしない。

 これで、神様も安心して旅に参加できるね。


「おめでとー!」

「のりものできた~」

「えがったえがった」


 他のみなさんも、ワイワイぱちぱちと完成を祝ってくれる。

 わりと手伝ってもらったから、やっぱり完成は気になってたみたいだね。


 さて、それじゃ早速神様に納品しましょうか。


「それじゃあ神様に納品するけど、良いかな?」

(まちかまえてます)

「あや! じんじゃひかってるです~」


 ……もう待ち構えているようで、神社はぴっかぴか光っていた。

 即納して問題ないみたいだね。


「では、納品します」

(ありがとー!)


 とりあえず神棚の前に移動して、神社の前に神輿を置く。

 そして納品の宣言をすると――。


「あややや! じんじゃからひかり、でたです~!」


 神社の正面扉がぱかっと開いて、ちっちゃな光の玉が出てくる。

 七色に光って、とても綺麗だ。


 ……あ、きちんと扉を閉めたね。

 開けっ放しにはしないんだ。えらいです神様。


 そして、その光の玉は――神輿の前に。

 神輿の扉が開く。


 ――あれ? この神輿に扉が開くなんて構造、なかったけど。

 なんで扉が開くわけ?

 神様、いきなり機能付け足してない?


「タイシ、ここってひらいたです?」

「開かないはずだけど……」


 ハナちゃんも同様に疑問をもったようだけど、開いちゃう物は仕方ない。

 本来無い機能が付け足されたっぽいけど、まあ神様だからね。

 そういう事も出来ちゃうかもね。


 そうこうしているうちに、光の玉は神輿の中へ。

 神輿の扉がぱたりと閉まる。


「のったです?」

「乗ったね」


 色々腑に落ちないことはあれど、神様は神輿に乗ったぽい。

 さて、これで準備は出来た。

 後は――わっしょいするだけだけだね。


 小っちゃいから手に持っていく事になるかな? それとも脇にかかえて?

 なんて考えていたら――。


(うごかすよ~)


 ――神輿が、ほよほよ~っと浮かび上がった。


「あや! みこしうかんだです~!?」

「ふわふわとんでるな」

「あ、うごきだした」


 浮かんだと思ったら、すいーっと空中を移動し始めた。


(かいてき~)


 ――違う、そうじゃない。


「いいかんじに、とんでるです?」

「みこしって、こういうのりものなんだ~」

「とべるのりものとか、すてき」


 ――違う、そうじゃない。


 神輿は、自力で空を飛びません。多分。

 人が運ぶんです。多分。


「げんきにとびはじめたです~」

「ひかってて、きれいだな~」

「あんていしだしたわね~」


 神輿が自走というか飛行を始めたことに困惑している間にも、どんどん操縦が上手くなっていく。

 神様、運転上手ですね。


 しかし何だろう。どうしてこうなった?


 ……。


 ……あれ? 俺、神輿ってどうやって使うか、説明してたっけ?

 してなかったような……。


 そういや、神輿はわっしょいする物と俺の中では常識だったので、特にはみんなに説明してなかったかも。

 神様の乗り物だよ、としか言ってない気がする……。


(のりもの、ありがと~!)


 そして、ほよっほよ光りながら元気に飛び回るミニチュア神輿。

 謎の声も、とっても楽しそうだ。


 ああ……この誤解、どうしよう……。



 ◇



 誤解を解くのはあきらめました。

 あれだ、自分で移動できるなら、それはそれで良いんじゃない?

 抱えて運ぶ必要も無く、神様が自由に好きな所に行けるからね。

 多分良いこと。……だといいな。


 ……どっか飛んでって、なにかやらかす可能性も無いとは言えないけど。

 でもまあ神様だからね。しょうがないよね。


 まあとにかく、そういう事で。考えるのは止めるでござる。


 まだ神輿は元気に飛んでいるけど、運転は疲れるので適度に休憩をとって下さいね。

 俺も新車が納車されたときは、嬉しくてちょっとドライブしすぎちゃうから気持ちは分かるけど。


 その神輿にはクルーズコントロールとか付いてないから、あまり無理をせずに。

 ……付いてないよね? まさかね。


「タイシ、これであとはユキだけです?」

「そうだね。水着を揃えて、あとは術をかけてもらえば、ほぼ全ての問題は解決だね」

(もうすぐ~)


 空飛ぶ神輿を楽しそうに見つめながら、ハナちゃんが確認してきた。

 あと残すところは、ユキちゃんのタスクだけだ。

 それが完了したら、いよいよ出発日が決められ、予約の電話をかけまくれる。


「もうすぐ、うみにいけるんだな~」

「たのしみね~」

「もうちょっとだな」


 あとちょっと。もうちょっとで、準備完了だ。



 ◇



 そうしてユキちゃんの準備完了を待つのみとなったのだけど、高橋さんから一つの提案があった。


「なあ、ライフセーバー役として、海竜つれて来ねえ?」

「あの子供海竜ちゃんのこと?」

「ああ。最近かまってやれてないし、いっちょ安全な地球の海で自由に泳がせてやりたいってのもある」


 高橋さんの言う海竜とは、親とはぐれたのか、ひとりぼっちになっていた海竜の子供の事だ。

 おととし海竜ウォッチングで高橋さんの世界に遊びに行ったとき、海岸で切なそうに鳴いていたところを発見して保護した。

 第一発見者は俺。大型犬くらいの大きさで、くりくりっとした目が可愛らしい生き物だ。


 保護した当時はあまりに寂しかったのか、しばらく俺や高橋さんのそばを離れようとはしなかった。

 そしてその時かまいすぎたせいか、懐きすぎて高橋さんの島に居着いてしまった。

 それ以来、高橋さんの家族が住んでいる集落で、のんびり暮らして居る海竜ちゃんだ。


 そういえば、俺も最近かまってやれてないな……。

 おもいっきり遊んであげても、良いかもしれない。


 海竜ちゃんの存在をごまかす方法については、やっぱり例の石がある。

 高橋さんはあの存在をぼかす石をいくつか持っているから、それを使えば問題ないかな。

 去年野尻湖で泳がせたときは、石を付け忘れてノッシー騒ぎになったけど……。

 付け忘れなければ、問題ないはず。


「……例の石があるなら、いけるかも」

「予備はあと二個あるから、ごまかせるぞ」

「よし決まりだ。海竜ちゃんもつれていこう」


 という事で、ライフセーバーとして高橋さんの世界の生き物をつれてくることになった。

 出発前日に村につれてきて、エルフたちと仲良くなってもらおう。


 それに、三つの世界の生き物が互いに仲良く旅に出る。

 これ、すごいロマンあるよね。普通ならありえないことだ。

 きっと、楽しくなるぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すっげー最近のドローンは神輿形もあるんだなぁ……(と、思わせられればごまかせる……!)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ