第八話 説明はちゃんとしておきましょう
水着の発注と一緒に神輿も発注して、翌日すぐ届いた。
これぞ現代物流の利便性よ。
物流業者のみなさん、ありがとう!
というわけで、早速村に訪れて配布をする。
「念のため試着してください。違う大きさに交換してもらえますので」
「わかりました」
「これがみずぎか~」
「みたこともない、きじだな~」
「きてみるべ」
男性陣だけを集会場に集めて、もそもそと着替えてもらう。
脱いで履くだけなのであっという間だ。
「もんだいはないですね」
「たしかに、およぐにはいいかも」
「おんせんそうじのとき、つかえるんじゃね?」
みんな水着を着て、ワイワイと感想を言い合っている。
サイズ的には問題なかったようで、キツイとかゆるいとかの話は出て来なかった。
まあ、男物はこんなもんだな。
サイズ的にアバウトでもなんとかなる作りだから、問題も出ない。
男性陣の水着配布は、これで終了だ。
一つのタスクが完了できてほっとする。
女性陣の方も、もう直ぐ発注したものが揃うらしい。
これで試着も大丈夫なら、水着の問題はほぼクリアになるね。
着々と準備が進んでいくので、ワクワク感も高まる。
それじゃあ、俺は次のタスクに移るかな。神輿制作だ。
神様から催促来なかったら、忘れたままだったね。危ない危ない。
◇
「これから神様用の乗り物を作るので、お手伝いよろしくね」
「まかせるです~」
(がんばって~)
水着配布で集まったみなさんが解散した後、ハナちゃんと一緒に集会場で神輿制作にとりかかる。
せっかくだからと見た目が良いものを選んだら、制作時間三十時間とか書いてあった。
まあ、これくらいなら何とかなるだろう。
「そんなに難しい作りじゃないから、のんびり作ろうね」
「あい~」
(たのしみ~)
みんみんとセミの鳴き声を聞きながら、ハナちゃんとのんびり組み上げていく。
ときおり聞こえる謎の声をはげみにして、コツコツと。
制作中の楽しみとしてかき氷も用意してあり、好きなだけ食べ放題だ。
「タイシ~。これでどうです?」
「ハナちゃん上手だね。なでなでしちゃおう」
「うふ~」
けっこうな戦力になっているハナちゃん、んしょんしょと模型を組み上げていく。
一人じゃ無理でも、ハナちゃんと一緒なら早く作れそうだ。
「ちょっと休憩して、かき氷でも食べよう」
「ハナ、いちごミルクがたべたいです~」
「いま作るね」
「あい~」
そうしてかき氷を食べたりしながら、模型を組み上げる。
これがまた夏休みの工作をしている感があって、結構楽しい。
仕事かと思いきや、意外や意外、これが息抜きになる。
ハナちゃんも楽しそうに、耳をぴこぴこさせながらお手伝いをしてくれる。
楽しいひと時だ。
「お、それがのりものですか」
「おれもてつだうよ」
「もっこうざいくなら、まかせとけ」
(みんなありがと~)
製作途中では、村のみなさんがちょいちょいと手伝ってもくれた。
「みなさん結構お上手ですね」
「たすかるです~」
「おうちのもけい、けっこうつくってるから」
「ぶっちゃけあっちのほうがむずかしい」
みなさん趣味で模型も作っているので、結構良い感じにくみ上げてくれる。
お礼に、手伝ってくれた人たちにはかき氷を進呈だ。
「あついときにたべると、おいしいな~」
「つかれがとれるきがする」
「あますぎないのが、いいよね」
という感じで、ニコニコしながらかき氷を食べるみなさんだ。
たまにピカっと光ってかき氷が消えるのも、もはやご愛嬌。
神様も存分にかき氷を楽しんでください。
そうしてお手伝いのたびにかき氷を配る、ということをしていたら――。
「かきごおり、もらえるってきいたー」
「もらえるの? もらえるの?」
「たべたいー!」
どこかでうわさを聞きつけたのか、子供たちが押し寄せてきた。
キラキラした目で、おやつが貰えるのを期待している。
俺はこういうのに弱いので、作業を中断してかき氷を削りまくった。
大サービスで、てんこ盛りのシロップかけまくりだ。
「ちべたいー!」
「おいしいね! おいしいねっ!」
「おいちー!」
おっちゃんエルフ作成の自慢のベンチに座って、子供達がにぎやかにかき氷を食べる。
楽しそうに足をぱたぱたさせながら。
そんな微笑ましい光景を見ながら、神輿制作の作業を再開する。
セミがみんみんと鳴き、子供達のキャッキャする声が聞こえる。
夏の日差しに青い空、そして入道雲が空にそびえたつ風景は、まさに夏休み。
小学生の頃、こんな夏の日々を過ごしたことを思い出す。
あの頃、夏休みは毎日がワクワクだった。
山に昆虫を採りに行き、市民プールに泳ぎに行き、涼しい神社で駄菓子を食べた。
友達とちょっとした冒険に出かけて、道に迷ってあせったり。
遊んでいる最中に、にわか雨に遭遇してずぶ濡れになったりもした。
だけど、それさえも楽しかった。
毎日そんな感じで遊び回って、クタクタになるまで走り回って。
一日遊んでいたな。
でも、沢山ある宿題の存在は……考えないようにしてたかも?
そんな夏の思い出が、なんだかよみがえる。
子供の頃は、夏が来るのが楽しみだったな。
まあ、今でも楽しみといえば楽しみだけど。
でも、あの頃ほど夏が来ることに……ワクワクはしているだろうか?
「タイシ、どうしたです?」
おっと、手が止まっていたかな?
ハナちゃんは「どうしたの?」という顔で俺を見上げている。
……そういえば、ハナちゃん達の世界は常春っぽいんだよな。
こっちの世界の日本の夏は、ハナちゃんにとってはどうなんだろうか。
慣れない暑さで大変なのか、季節の変化を楽しんでもらえているのか。
俺としては、この日本の夏も好きになってもらいたい。もちろん春も秋も、そして冬もだけど。
「……ハナちゃん、こっちには季節があって今は暑いけど、楽しく過ごせてる?」
「あい~! あついですけど、それはそれでたのしいです~!」
「楽しいかな?」
「なんだか、にぎやかです~」
ハナちゃんは耳をぴこぴこさせて、夏が楽しいと言ってくれた。
可愛らしいエルフ耳は、まるで周囲にあるいろんな音を楽しむように、動いている。
まあ、暑いけど楽しんでくれているようで、何よりだ。
「佐渡に行ったら、もっと楽しくなるからね。楽しみにしていてね」
「あい~!」
そうして、ハナちゃんとのんびり神輿を作っていった。
夏の、のんびりとしたひと時。大事に過ごそう。
◇
――そして翌日。
「それじゃ、屋根を乗せるよ」
「てつだうです~」
(いよいよ!)
ハナちゃんやみんなとコツコツ作った神輿制作は、いよいよクライマックス。
屋根を乗せれば完成だ。
二人で屋根を持って、これから乗っけようとしたところ――。
「お、そろそろかんせい?」
「けっこうはやいな」
「みまもるべ」
いつのまにか他のみなさんも集まってきていて、完成を見守ってくれるようだ。
それじゃ、みんなが見守るなか、屋根を乗っけて完成させちゃいましょう!
「ハナちゃん、のっけようか」
「あい~!」
(のっけるよ~)
やっぱり屋根がほよほよ光っているけど、神様も参加かな?
まあそれはそれとして。
ハナちゃんと一緒に、光る屋根を乗せて……と。
本体が上手く組み上がっていたようで、すとんと綺麗にはめ込まれた。
屋根には鳳凰が乗せられ、蕨手からは赤い飾紐が伸ばされ台座に結びつけられている。
胴は黒と金で装飾され、とてもきらびやかだ。
けっこう凄いの、出来ちゃった!
「――神輿、出来ました!」
「やったです~!」
(のりものー!)
ハナちゃんやみんなとコツコツ作ったミニチュア神輿、良い出来映えだ。
造りもがっしりしているので、激しく動かしてもビクともしない。
これで、神様も安心して旅に参加できるね。
「おめでとー!」
「のりものできた~」
「えがったえがった」
他のみなさんも、ワイワイぱちぱちと完成を祝ってくれる。
わりと手伝ってもらったから、やっぱり完成は気になってたみたいだね。
さて、それじゃ早速神様に納品しましょうか。
「それじゃあ神様に納品するけど、良いかな?」
(まちかまえてます)
「あや! じんじゃひかってるです~」
……もう待ち構えているようで、神社はぴっかぴか光っていた。
即納して問題ないみたいだね。
「では、納品します」
(ありがとー!)
とりあえず神棚の前に移動して、神社の前に神輿を置く。
そして納品の宣言をすると――。
「あややや! じんじゃからひかり、でたです~!」
神社の正面扉がぱかっと開いて、ちっちゃな光の玉が出てくる。
七色に光って、とても綺麗だ。
……あ、きちんと扉を閉めたね。
開けっ放しにはしないんだ。えらいです神様。
そして、その光の玉は――神輿の前に。
神輿の扉が開く。
――あれ? この神輿に扉が開くなんて構造、なかったけど。
なんで扉が開くわけ?
神様、いきなり機能付け足してない?
「タイシ、ここってひらいたです?」
「開かないはずだけど……」
ハナちゃんも同様に疑問をもったようだけど、開いちゃう物は仕方ない。
本来無い機能が付け足されたっぽいけど、まあ神様だからね。
そういう事も出来ちゃうかもね。
そうこうしているうちに、光の玉は神輿の中へ。
神輿の扉がぱたりと閉まる。
「のったです?」
「乗ったね」
色々腑に落ちないことはあれど、神様は神輿に乗ったぽい。
さて、これで準備は出来た。
後は――わっしょいするだけだけだね。
小っちゃいから手に持っていく事になるかな? それとも脇にかかえて?
なんて考えていたら――。
(うごかすよ~)
――神輿が、ほよほよ~っと浮かび上がった。
「あや! みこしうかんだです~!?」
「ふわふわとんでるな」
「あ、うごきだした」
浮かんだと思ったら、すいーっと空中を移動し始めた。
(かいてき~)
――違う、そうじゃない。
「いいかんじに、とんでるです?」
「みこしって、こういうのりものなんだ~」
「とべるのりものとか、すてき」
――違う、そうじゃない。
神輿は、自力で空を飛びません。多分。
人が運ぶんです。多分。
「げんきにとびはじめたです~」
「ひかってて、きれいだな~」
「あんていしだしたわね~」
神輿が自走というか飛行を始めたことに困惑している間にも、どんどん操縦が上手くなっていく。
神様、運転上手ですね。
しかし何だろう。どうしてこうなった?
……。
……あれ? 俺、神輿ってどうやって使うか、説明してたっけ?
してなかったような……。
そういや、神輿はわっしょいする物と俺の中では常識だったので、特にはみんなに説明してなかったかも。
神様の乗り物だよ、としか言ってない気がする……。
(のりもの、ありがと~!)
そして、ほよっほよ光りながら元気に飛び回るミニチュア神輿。
謎の声も、とっても楽しそうだ。
ああ……この誤解、どうしよう……。
◇
誤解を解くのはあきらめました。
あれだ、自分で移動できるなら、それはそれで良いんじゃない?
抱えて運ぶ必要も無く、神様が自由に好きな所に行けるからね。
多分良いこと。……だといいな。
……どっか飛んでって、なにかやらかす可能性も無いとは言えないけど。
でもまあ神様だからね。しょうがないよね。
まあとにかく、そういう事で。考えるのは止めるでござる。
まだ神輿は元気に飛んでいるけど、運転は疲れるので適度に休憩をとって下さいね。
俺も新車が納車されたときは、嬉しくてちょっとドライブしすぎちゃうから気持ちは分かるけど。
その神輿にはクルーズコントロールとか付いてないから、あまり無理をせずに。
……付いてないよね? まさかね。
「タイシ、これであとはユキだけです?」
「そうだね。水着を揃えて、あとは術をかけてもらえば、ほぼ全ての問題は解決だね」
(もうすぐ~)
空飛ぶ神輿を楽しそうに見つめながら、ハナちゃんが確認してきた。
あと残すところは、ユキちゃんのタスクだけだ。
それが完了したら、いよいよ出発日が決められ、予約の電話をかけまくれる。
「もうすぐ、うみにいけるんだな~」
「たのしみね~」
「もうちょっとだな」
あとちょっと。もうちょっとで、準備完了だ。
◇
そうしてユキちゃんの準備完了を待つのみとなったのだけど、高橋さんから一つの提案があった。
「なあ、ライフセーバー役として、海竜つれて来ねえ?」
「あの子供海竜ちゃんのこと?」
「ああ。最近かまってやれてないし、いっちょ安全な地球の海で自由に泳がせてやりたいってのもある」
高橋さんの言う海竜とは、親とはぐれたのか、ひとりぼっちになっていた海竜の子供の事だ。
おととし海竜ウォッチングで高橋さんの世界に遊びに行ったとき、海岸で切なそうに鳴いていたところを発見して保護した。
第一発見者は俺。大型犬くらいの大きさで、くりくりっとした目が可愛らしい生き物だ。
保護した当時はあまりに寂しかったのか、しばらく俺や高橋さんのそばを離れようとはしなかった。
そしてその時かまいすぎたせいか、懐きすぎて高橋さんの島に居着いてしまった。
それ以来、高橋さんの家族が住んでいる集落で、のんびり暮らして居る海竜ちゃんだ。
そういえば、俺も最近かまってやれてないな……。
おもいっきり遊んであげても、良いかもしれない。
海竜ちゃんの存在をごまかす方法については、やっぱり例の石がある。
高橋さんはあの存在をぼかす石をいくつか持っているから、それを使えば問題ないかな。
去年野尻湖で泳がせたときは、石を付け忘れてノッシー騒ぎになったけど……。
付け忘れなければ、問題ないはず。
「……例の石があるなら、いけるかも」
「予備はあと二個あるから、ごまかせるぞ」
「よし決まりだ。海竜ちゃんもつれていこう」
という事で、ライフセーバーとして高橋さんの世界の生き物をつれてくることになった。
出発前日に村につれてきて、エルフたちと仲良くなってもらおう。
それに、三つの世界の生き物が互いに仲良く旅に出る。
これ、すごいロマンあるよね。普通ならありえないことだ。
きっと、楽しくなるぞ。